説明

プロバイオティクス増殖促進剤

【課題】 種々の生物学的に有益な効果を有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を高い選択性で増殖させ、より高い難消化性度を持つ、ガラクトオリゴ糖あるいはその誘導体を提供すること。
【解決手段】 下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするラクトバチルス・カゼイYIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の生物学的に有益な効果を有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029およびこれを含むプロバイオティクスの増殖促進剤、増殖促進用組成物ならびに増殖促進用培地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌はヒトの腸内に生息し、乳酸や酢酸を生成することにより、腸内のpHを酸性に維持し、大腸菌等の腐敗菌や病原菌が腸内で生育および増殖するのを抑制することにより、腸内環境改善効果を示す。この乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌は、乳児期では腸内における優勢菌であるが、ヒトの成長につれて大腸菌等の有害菌が優勢になり、有害菌が生成する様々な有害物質が人体に悪影響を及ぼすとされている。また乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌は、これらの腸内環境改善効果だけでなく、便性改善、感染防御、免疫力の上昇作用、抗アレルギー効果、がん予防効果等の有益な生理的効果を示す。そこで、プロバイオティクスといわれるこれらの有用細菌を腸内に供給して、健康を増進させるため、これらの菌の生菌を含有する乳酸菌飲料、発酵乳、菌製剤等の摂取が行われている。
【0003】
しかしながら、単にプロバイオティクスの生菌製剤等を摂取しただけでは腸内菌叢の改善にはつながらない場合があるとも言われており、摂取菌を腸内で旺盛に増殖させるためには、人腸内で消化吸収されにくく、その菌が優先的に資化しうる糖源、いわゆるプレバイオティクスを増殖促進剤として同時摂取するのが望ましいとされている。これらのプレバイオティクスは、有害菌に対する資化性が低いだけでなく、飲用者に対して好ましい効果を示すことが明らかにされている乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌を増殖させることが望まれている。
【0004】
生理的に有益な効果が様々な動物実験やヒト試験により明らかにされている乳酸菌として、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)が知られている。このラクトバチルス・カゼイ YIT 9029は、胃液や胆汁等の強い消化液に耐えて生きたまま腸内に到達し、腸内に常在性のビフィドバクテリウム属細菌を増加させ、大腸菌群を減少させて腸内環境を改善させる。また、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029は、腸内の有害菌が産生する有害物質の生成を抑制する。更に、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の飲用効果としては、便性改善、病原性大腸菌O−157の増殖抑制効果、ベロ毒素産生抑制効果、尿路感染症予防効果等の感染防御、NK細胞活性化作用等の免疫力の上昇作用、抗アレルギー効果、大腸がんや表在性膀胱がん等のがん抑制効果等が報告されている。
【0005】
従来、乳酸菌の増殖促進因子としては、酵母エキス、クロレラエキス、ある種のペプチド、果実や野菜のジュース、メバロン酸、コ−ンスティ−プリカ−因子、オロチン酸、パンテチン、アデニル酸等のアデニン塩基を有する物質、およびイノシン酸等のヒポキサンチン塩基を有する物質が知られている。しかしこれらは、発酵乳等の製造工程における乳酸菌の増殖を促進するために使われることがあるにすぎず、人腸内での乳酸菌の増殖促進に有効であるとは考えられていない。また、風味に及ぼす影響、コスト、製品の安定性といった点から、食品への利用が制限されているものもある。さらに、これらの物質は、非選択的に乳酸菌を増殖させるものであり、前述の様々な有用な効果が知られているラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を選択的に増殖させるものではない。
【0006】
ビフィドバクテリウム属細菌については、乳糖にβ−ガラクトシダーゼを作用させたときβ−ガラクトシル基転移反応によって生成する下記一般式
Gal−(Gal)n−Glc
(但しGalはガラクトース残基、Glcはグルコース残基、nは1〜4の整数を表す)のガラクトオリゴ糖が、人腸内においても有効な増殖促進剤として使用されている(非特許文献1、2)。
【0007】
しかしながら、このガラクトオリゴ糖は、ビフィドバクテリウム属細菌の選択的糖源であり、乳酸菌のなかでも、ラクトバチルス属細菌の多くは資化性を持たず、特にラクトバチルス・カゼイ種細菌には利用されない。
【0008】
一方、グルコースの代わりにグルコースの糖アルコールであるソルビトールを含有するオリゴ糖であって、下記式
Gal−Gal−Sor
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表わされる還元ガラクトオリゴ糖については、ビフィドバクテリウム属細菌の増殖促進作用が知られているが、乳酸菌の一種であるラクトバシルス・アシドフィルスには資化されないことが知られている(特許文献1)。
【0009】
また、下記式
Gal−(Gal−)Sor
(式中、GalおよびSorは前記と同じ意味を示す)
を主成分とする3糖オリゴ糖についても、ビフィドバクテリウム属細菌は資化性を持つものの、ラクトバチルス属細菌には利用されない事が知られている(非特許文献3)。
【0010】
他方、ラクトバチルス属細菌を含む乳酸菌およびビフィドバクテリウム属細菌の増殖促進剤として、同じく乳糖にβ−ガラクトシダーゼを作用して得られるガラクトシル2糖が知られている(特許文献2)。しかしながら、これらガラクトシル2糖は難消化性糖類であり消化管内で浸透圧上昇による下痢を誘発しやすいため、2糖に比べ分子量の大きい3糖が望ましく、ラクトバチルス属細菌を特異的に増殖させるガラクトオリゴ糖あるいはその誘導体の3糖以上の高分子体が待ち望まれていた。また、ガラクトシル2糖は難消化性糖質ではあるものの、3糖以上のガラクトオリゴ糖よりも若干消化されやすいことが分かっているため(非特許文献4)、より高い難消化性度を持ち、特定のラクトバチルス属細菌を高い選択性で増殖させるガラクトオリゴ糖あるいはその誘導体が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−246391号公報
【特許文献2】特許第2722110号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本食品新素材研究会誌,vol. 6,p55-66(2003)
【非特許文献2】腸内細菌学会誌,vol. 18,p25-35(2004)
【非特許文献3】J Nutr Sci Vitaminol, vol.41, p83-94, (1995)
【非特許文献4】日本食品科学工学会誌,vol. 51,p28-33(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、種々の生物学的に有益な効果を有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を高い選択性で増殖させ、より高い難消化性度を持つ、ガラクトオリゴ糖あるいはその誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の組成の還元ガラクトオリゴ糖が、乳酸菌の中でも種々の生物学的に有益な効果を有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を選択的に増殖させることを見出し、本発明を完成するに至った。また、前記還元ガラクトオリゴ糖は、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029だけでなくプロバイオティクスに用いられるその他の細菌についても選択的に増殖させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進剤である。
【0016】
また、本発明は上記還元ガラクトオリゴ糖と固体または液体の医薬用無毒性担体もしくは飲食品成分を含有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029増殖促進用組成物および上記還元ガラクトオリゴ糖を炭素源として含有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029増殖促進用培地である。
【0017】
更に、本発明は下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするプロバイオティクス増殖促進剤である。
【0018】
また更に、本発明は上記還元ガラクトオリゴ糖と固体または液体の医薬用無毒性担体もしくは飲食品成分を含有するプロバイオティクス増殖促進用組成物および上記還元ガラクトオリゴ糖を炭素源として含有するプロバイオティクス増殖促進用培地である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の増殖促進剤の有効成分である式(I)で示される還元ガラクトオリゴ糖は、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029をヒトや動物の腸内で、選択的に発育・増殖させることにより、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029に由来する種々の有益な生理活性作用を体内で持続して発揮させることができる。
【0020】
また、上記還元ガラクトオリゴ糖は、上記作用を有する飲食品やラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の選択培地の成分として好適に利用することができる。
【0021】
更に、上記還元ガラクトオリゴ糖は、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029だけでなくプロバイオティクスの代表的な菌であるビフィドバクテリウム属細菌についても増殖させることができるので、プロバイオティクスに由来する種々の有益な生理活性作用を体内で持続して発揮させることができる。
【0022】
また更に、上記還元ガラクトオリゴ糖は、上記作用を有する飲食品やプロバイオティクスの選択培地の成分として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進剤(以下、単に「増殖促進剤」という)は、下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするものである。
【0024】
前記式(I)で示される還元ガラクトオリゴ糖(以下、単に「還元ガラクトオリゴ糖」という)における結合様式については、特に限定されるものではなく、例えば、β1−4、β1−6、β1−3、β1−2、α1−3、α1−6結合等が挙げられ、調製が容易な点でβ1−4、β1−6、β1−3、β1−2結合が好ましい。具体的な還元ガラクトオリゴ糖としてはGalβ1−4Galβ1−4Sor、Galβ1−4Galβ1−3Sor、Galβ1−6Galβ1−4Sor等が挙げられる。
【0025】
上記還元ガラクトオリゴ糖の製造方法は特に限定はされないが、例えば、3糖画分として下記式(II)
Gal−Gal−Glc (II)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Glcはグルコース残基をそれぞれ示す)
で表されるガラクトオリゴ糖を原料とし、これを水素添加で還元する方法(以下、「還元法」という)、ラクチトール(Gal−Sor)にβ−ガラクトシダーゼ等の糖転移活性を持つ酵素を作用させ、ガラクトースを付加する方法(以下、「付加法1」という)、乳糖やガラクタン等のガラクトースを含有する物質からガラクトースを酵素または酸で、加水分解して調製し、酵素法あるいは化学合成法によってラクチトールにガラクトースを付加する方法(以下、「付加法2」という)によって得られる。以下これらの方法について説明する。
【0026】
<還元法>
還元法で原料となる式(II)で示されるガラクトオリゴ糖における結合様式については、特に限定されるものではなく、例えば、β1−6、β1−3、β1−4、β1−2、α1−3、α1−6結合等が挙げられる。また、上記ガラクトオリゴ糖は、如何なる方法で得られたものでもよく、例えば、ガラクトオリゴ糖を含む天然物から単離・精製する方法や、乳糖を原料に酵素あるいは酵素を産生する微生物を作用させる方法により得られたものが挙げられる。
【0027】
ここで、ガラクトオリゴ糖製造用の酵素を産生する微生物としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・ブルガリクス、クリベロマイセス・フラギリス、クリベロマイセス・ラクチス、アスペルギルス・オリゼ、ペニシリウム・ムルチカラ、リゾプス・オリゼ、バチルス・サーキュランス、クリプトコッカス・ローレンティ、スポロボロマイセス・シンギュラリス、サッカロミセス・フラギリス、リポマイセス・リポファ、ステリグマトマイセス・エリビエアエ、ロドトルラ・ミヌタおよびシロバシディウム・マグナム等が挙げられ、特に、スポロボロマイセス・シンギュラリスおよびクリベロマイセス・ラクチスが好ましい。これらの微生物から酵素を製造するには、用いる微生物に適した条件で培養を行い、目的に応じて、得られる菌体またはその培養上清から常法に従って、酵素を単離・生成すればよい。例えば、培養により得た菌体を超音波または界面活性剤により破砕し、不溶物を除去する方法、若しくは、クロマトグラフィーを用いて精製する方法を挙げることができる。これら酵素でガラクトオリゴ糖を製造するためには、酵素が完全に失活しない条件で反応させればよく、一般的には原料濃度は10〜70質量%(以下、単に「%」という)、pHは3〜8、温度は20〜80℃、反応時間は2時間〜3日間が適当である。
【0028】
また、前記した酵素を産生する微生物は、原料を含む培地中で直接培養することもできる。この場合の培養条件は、特に制限されるものではなく、用いる微生物の培養に適した条件で行えばよいが、一般的には、原料濃度は10〜40%、pHは3〜8、温度は20〜45℃、培養時間は2時間〜7日間が適当である。
【0029】
更に、上記ガラクトオリゴ糖としては、市販のガラクトオリゴ糖、例えば、ヤクルト薬品工業株式会社製のオリゴメイト(登録商標)55N、日新製糖株式会社製のカップオリゴ(登録商標)等を使用することもできる。
【0030】
上記のようにして得られるガラクトオリゴ糖は、スポンジニッケル触媒を用いる高圧接触還元法や水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いる公知の還元方法で還元することにより還元ガラクトオリゴ糖が得られる。
【0031】
<付加法1>
付加法1で原料となるラクチトールとしては各社試薬のほか、三菱商事フードテック株式会社や物産フードサイエンス株式会社製の食品用のもの等が挙げられる。また、このラクチトールに付加されるガラクトース源としては、ラクチトールそのものだけでなく、乳糖や乳糖を含む食品例えば、牛乳、脱脂粉乳、全粉乳等を原料とするものが挙げられる。
【0032】
そして、ラクチトールにβ−ガラクトシダーゼ等の糖転移活性を持つ酵素を作用させてガラクトースを付加させるには、上記還元法で用いられるガラクトオリゴ糖製造用の酵素を産生する微生物を使用し、ガラクトオリゴ糖の製造と同様に酵素が完全に失活しない条件で反応させればよい。
【0033】
<付加法2>
付加法2で使用するガラクトースは、市販のガラクトースはもちろん、ガラクトースを含有する物質として、上記の乳糖や天然物から抽出したガラクタン等を酵素または酸で、加水分解によりガラクトースを調製して使用することも出来る。
【0034】
そして、得られたガラクトースを酵素法あるいは化学合成法によって、ラクチトールへ付加するには、例えば、酵素法であればβ−ガラクトシダーゼ等の糖転移反応を利用するか、あるいは化学合成法であれば常法の糖付加反応により還元ガラクトオリゴ糖が得られる。
【0035】
上記方法等で得られる還元ガラクトオリゴ糖は、未反応のガラクトオリゴ糖や4糖以上の還元ガラクトオリゴ糖等を含有したままでも本発明の増殖促進剤に用いることができるが、更に、分離精製したものを用いてもよい。
【0036】
上記還元ガラクトオリゴ糖を分離精製する方法としては、活性炭カラムやゲルろ過カラムクロマト分離装置、さらに好ましくはイオン交換樹脂を用いた擬似移動床方式クロマト分離装置等を用いて行うことができる。調製した還元ガラクトオリゴ糖は適宜濃縮あるいは希釈し、好適な濃度の液糖として使用することができる。また、調製した液糖は、スプレードライ機や凍結乾燥機を用いて乾燥させた後、粉末の形態で用いることもできる。
【0037】
このように調製した還元ガラクトオリゴ糖は、乳酸菌のうちラクトバチルス・カゼイ YIT 9029に対して選択的に増殖促進作用を示す。なお、本発明でいうラクトバチルス・カゼイ YIT 9029増殖促進作用とは、平板培地等を用いた菌数の計数における細菌数の増加や維持、菌特異的なDNAあるいはRNAを指標とする細菌数の増加や維持、代謝産物である乳酸の増加、生育環境である培地等のpH低下や酸度上昇を意味する。また、本発明においてLactobacillus casei(ラクトバチルス・カゼイ)YIT 9029は、FERM BP−1366として、昭和56年5月1日付で通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター:〒305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に国際寄託されたものだけでなく、例えば、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を親株とし、これに変異剤処理等の公知の方法により変異処理されたものであって、本願発明の還元ガラクトオリゴ糖資化能等を保持する変異株も含む。
【0038】
本発明の増殖促進剤は上記作用を有しているので、例えば、腸内にラクトバチルス・カゼイ YIT 9029が存在しているヒトや動物に摂取または投与したり、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を培養中の培地等に添加することにより、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の増殖を促進することができる。
【0039】
本発明の増殖促進剤を、腸内にラクトバチルス・カゼイ YIT 9029が存在しているヒトや動物に摂取または投与する場合には、その摂取量または投与量は対象の年齢や性別、体重、投与方法に応じて適宜決定することができる。例えば、ヒトの成人であえば、その1日当たりの摂取または投与量は、体重1kg当たり還元ガラクトオリゴ糖として1〜1000mg好ましくは10〜500mgの範囲である。また、本発明の増殖促進剤は、一度に1日の必要量の全量を摂取してもよいし、数回に分けて摂取してもよい。
【0040】
上記の本発明の還元ガラクトオリゴ糖を、ヒトや動物に容易に摂取または投与するには、本発明の還元ガラクトオリゴ糖を、固体または液体の医薬用無毒性担体と混合して慣用の医薬品製剤としたり、飲食品成分と混合して慣用の飲食品としたりすることで、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の増殖促進用組成物を調製し、これを利用すればよい。
【0041】
上記医薬品製剤の形態としては、錠剤、顆粒剤、散在、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの形態の医薬品製剤は、本発明の増殖促進剤の有効成分である還元ガラクトオリゴ糖を上記必要量で含有する以外は、製剤上の常套手段により調製することができる。また、医薬品製剤に用いられる医薬用無毒性担体としては、例えば、澱粉、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチンアルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。更に、これら医薬品製剤には必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0042】
また、上記飲食品の形態としては、本発明の増殖促進剤の有効成分である還元ガラクトオリゴ糖をそのまま、あるいは種々の栄養成分と共に、飲食品成分中に含有せしめ、飲食品とすればよい。飲食品形態の増殖促進用組成物における還元ガラクトオリゴ糖の配合量は、その増殖促進作用が発揮できる量であればよく、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性およびコスト等を考慮して適宜設定すればよい。例えば、固形状食品の場合には還元ガラクトオリゴ糖含量が0.01〜100%、好ましくは0.1%〜100%であり、飲料等の液状食品の場合には還元ガラクトオリゴ糖含量が0.001〜50%、好ましくは0.01〜20%になるように調製する。
【0043】
具体的に本発明の還元ガラクトオリゴ糖を配合しうる飲食品成分としては、次のようなものが挙げられる。すなわち、乳飲料(生乳、普通牛乳、濃厚乳、低脂肪乳等の加工乳、脱脂乳、コーヒー乳飲料、フルーツ乳飲料)、清涼飲料、茶飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液および調整用粉末を含む)、全粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳等の粉乳類、ヨーグルト(ソフトヨーグルト、ハードヨーグルト、プレーンヨーグルト、ドリンクタイプヨーグルト、フローズンヨーグルト、果肉入りヨーグルト等)、バター、チーズ、練乳等の乳製品、アイスクリーム、アイスキャンディー、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓、そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、中華麺、即席麺等の麺類、飴、チューインガム、キャンディー、グミ、ガム、キャラメル、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット等の焼き菓子、ゼリー、ジャム、クリーム等の菓子類、かまぼこ、ちくわ、ハンバーグ、コロッケ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品、シロップ、しょうゆ、ソース、酢、みりん等の調味料、食パン、菓子パン等のパン類等の飲食品成分が挙げられるが、これらに限定はされるものではない。
【0044】
上記飲食品形態の増殖促進用組成物には、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。このような添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、砂糖、果糖、異性化液糖、ブドウ糖、アスパルテーム、スクラロース、ステビア等の甘味料、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料、デキストリン、澱粉等の賦形剤、ポリフェノール類、β−カロテン、アスコルビン酸誘導体等の抗酸化剤、結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0045】
また、上記飲食品形態の増殖促進用組成物にはミネラル類を適宜配合してもよい。このようなミネラル類としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、グルクロン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、クエン酸鉄等、また、配合するビタミン類として、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、葉酸、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、塩化コリン等が挙げられる。
【0046】
更に、上記飲食品形態の増殖促進用組成物に、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を含有する発酵乳を添加すれば、これら飲食品がラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の腸内における増殖性のよい、保健効果の高い製品とすることができる。
【0047】
なお、上記飲食品には動物の飼料も含まれ、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の増殖促進効果のある飼料やそれに由来する保健効果を持つ飼料とすることもできる。
【0048】
また、本発明の増殖促進剤は、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を培養中の培地(好気条件下)に炭素源として添加することにより、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を選択的に培養することができる増殖促進用培地となる。
当該培地への本発明の増殖促進剤の添加量は、還元ガラクトオリゴ糖含量として0.1〜5%、好ましくは0.5〜3%とすればよい。
【0049】
上記増殖促進用培地を利用すれば、種々の乳酸菌を含む培地からラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を特異的に選択することができる。例えば、還元ガラクトオリゴ糖を含む平板培地を用いて好気条件下で培養すれば、増殖速度の違いと各種細菌のコロニーの大きさや色の違いにより、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の生菌数測定や分離を容易にすることができる。
【0050】
これまで記載した本発明のラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の増殖促進剤の有効成分である還元ガラクトオリゴ糖は、様々な特有の生理効果を持つラクトバチルス・カゼイ YIT 9029と共に、プロバイオティクスの有用菌の代表であるビフィドバクテリウム属細菌、特にビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム等についても、ヒトや動物の腸管内、あるいは生体外で培養あるいは分離されたものを増殖させることができる。そのため、還元ガラクトオリゴ糖は、プロバイオティクスの増殖促進剤およびこれを含有するプロバイオティクス増殖促進用組成物やプロバイオティクス増殖促進用培地にも利用することができ、特にプレバイオティクスとしての効果が極めて高い。
【0051】
なお、本発明でいうプロバイオティクス増殖促進作用とは、上記したラクトバチルス・カゼイ YIT 9029増殖促進作用と同様に、プロバイオティクスの有用菌の平板培地等を用いた菌数の計数における細菌数の増加や維持、菌特異的なDNAあるいはRNAを指標とする細菌数の増加や維持、代謝産物である乳酸の増加、生育環境である培地等のpH低下や酸度上昇を意味する。
【0052】
また、上記のような腸内のプロバイオティクスを上昇させる目的、あるいは整腸作用をはじめとするプロバイオティクスの有効性を増大させることを目的とする保健用食品または食品素材として利用でき、これらの飲食品またはその容器には前記の効果を有する旨の表示を付してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0054】
実 施 例 1
還元ガラクトオリゴ糖(Gal−Gal−Sor)の調製:
(1)β−ガラクトシダーゼの調製
(a)菌体懸濁液の製造
300mL容三角フラスコに、50g/Lの乳糖、6g/Lの酵母エキス、1g/Lのリン酸1カリウムおよび0.5g/Lの硫酸マグネシウムを含む培地(pH5.0)を100mL取り、オートクレーブ処理(121℃、15分)を行った。この培地にスポロボロマイセス・シンギュラリス(FERM P−18818)を1白金耳接種し、28℃、120rpmの条件で6日間の振とう培養を行ない、培養終了液を得た。
【0055】
次いで、3L容発酵槽(丸菱バイオエンジ)に上記と同じ組成の培地を1.5L調製し、オートクレーブ処理(121℃、15分)を行った。これに先の培養終了液60mLを接種し、27℃、425rpm、1vvmの条件で5日間の通気撹拌培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(8000G、20分)して菌体を回収し、50mMリン酸水素2ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH4.0)に懸濁した。この菌体懸濁液の活性値の測定は、2−ニトロフェニル−β−ガラクトシドを基質とした以下の活性測定法によって行なった。
【0056】
(b)2−ニトロフェニル−β−ガラクトシドを基質とした活性測定法
2−ニトロフェニル−β−ガラクトシドを50mMリン酸水素2ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH4.0)に溶解し、12.5mMの基質溶液を調製した。この基質溶液0.8mLに、50mMリン酸水素2ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH4.0)で適宜希釈した菌体懸濁液0.2mLを添加し、30℃で10分間反応させた。これに0.25M炭酸ナトリウム溶液4mLを加えて反応を停止後、遠心分離(3000g、10分)して得られた上清について、分光光度計で420nmの吸光度を測定した(試験液)。一方、2−ニトロフェニル−β−ガラクトシド溶液には、炭酸ナトリウム溶液と希釈した菌体懸濁液を順次添加し、遠心分離して得られた上清について420nmの吸光度を測定した(盲検)。この方法で1分間に1マイクロモルの2−ニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位(U)とした。
【0057】
(2)ガラクトオリゴ糖液糖の調製
乳糖25kgを50mMリン酸水素2ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH6)25kgに加え、加熱溶解した後に60℃まで冷却した。これに、(1)(a)で得られた菌体懸濁液を1900U加えて60℃で45時間反応させ、加熱により反応を停止した。45℃まで冷却した後に、2N水酸化ナトリウム溶液でpH6.5に調整し、クリベロマイセス・ラクチス由来のβ−ガラクトシダーゼ(合同酒精製)を550,000U(メーカー測定法による)加えて18時間反応させ、加熱により反応を停止した。反応終了液に3倍容量のイオン交換水を加え、遠心分離(8000G、20分)して菌体を除き、常法に従って、活性炭、ケイソウ土ろ過、イオン交換樹脂による精製を行ない、濃縮してブリックス(Bx)70のガラクトオリゴ糖液糖を得た。得られたガラクトオリゴ糖組成は、4糖以上が7%、3糖が35%、2糖が29%、単糖が29%であった。
【0058】
(3a)還元ガラクトオリゴ糖の調製
上記(2)で調製したガラクトオリゴ糖液糖のBxを50に調整したもの27kgにスポンジニッケル触媒を2.5%添加し、撹拌しながら120〜130℃まで昇温し、水素圧を7〜8MPaまで上げて水素化を完了させた。スポンジニッケル触媒を除去した後に、常法に従って、活性炭、ケイソウ土ろ過、イオン交換樹脂による精製を行ない、Bx30の還元ガラクトオリゴ糖液糖(ラクチトール、ソルビトール、ガラクチトールを含む)を得た。なお、反応後の反応液の還元糖量(ベルトラント法、ガラクトース換算)は、反応前の30.3%から0.05%にまで低下していたことから、還元反応が十分に進行していることを確認した。また、糖組成は、4糖以上が7%、3糖が35%、2糖が29%、単糖が29%で、還元前と変化はなかった。
【0059】
(3b)還元ガラクトオリゴ糖の調製
上記(2)で調製したガラクトオリゴ糖液糖のBxを10に調整したもの180gに、10%(w/w)水素化ホウ素ナトリウム溶液を180g加え、緩やかに撹拌しながら3時間反応させた後に、酢酸を添加してpH7に調整して反応を停止した。次いで、強酸性イオン交換樹脂(PK−218、三菱化学製)を500mL充填したカラムに、この反応液を通液し、さらに純水を流して糖を回収した。これをロータリーエバポレーターで減圧乾固し、メタノール500mLに再度溶解して減圧乾固する操作を4回繰り返した後に純水で回収し、Bx34の還元ガラクトオリゴ糖液糖(ラクチトール、ソルビトール、ガラクチトールを含む)を得た。なお、この液糖のプロトンNMR分析において、還元末端グルコースのα−アノマー位のピークが検出されなかったことから、十分に還元されていることを確認した。また、糖組成は、4糖以上が7%、3糖が35%、2糖が29%、単糖が29%で、還元前と変化はなかった。
【0060】
(4)分画物の調製
クロマトグラフ用活性炭(和光純薬製)を430mL充填したカラムに、上記(3b)で得られた還元ガラクトオリゴ糖(固形分約20g)を通液し、純水で単糖・2糖を溶出した。次いで、50%エタノールを通液して3糖以上を溶出し、回収液に含まれるエタノールをロータリーエバポレーターで除去した。この回収液の固形分約1.5gを、ゲルろ過樹脂(バイオゲルP−2、バイオラッド製)を2L充填したカラムに注入し、さらに純水を流して3糖、4糖の分画物を回収し、50(w/v)%以上に減圧濃縮したものを還元ガラクトオリゴ糖、還元ガラクトオリゴ糖(4糖)とした。
【0061】
(5)分画物の組成
得られた還元ガラクトオリゴ糖および還元ガラクトオリゴ糖(4糖)の各含有率は、それぞれ98%以上であった。また、高速液体クロマトグラフィーによる分離精製とNMRによる解析を行った結果、還元ガラクトオリゴ糖の主成分は、Gal−Gal−Sorであり、その構造はGalβ1−4Galβ1−4Sor(約63%)の他、Galβ1−6Galβ1−4Sor(約11%)やGalβ1−4Galβ1−3Sor等であった。また、還元ガラクトオリゴ糖(4糖)の主成分はGalβ1−6Galβ1−4Galβ1−4Sorであった。
【0062】
実 施 例 2
資化性試験:
(試験物質)
試験物質として、実施例1で調製したGalβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖画分、ガラクトオリゴ糖3糖画分、還元ガラクトオリゴ糖4糖画分、ガラクトオリゴ糖4糖画分、ラクチトール、ソルビトール、ガラクトオリゴ糖(4’ガラクトシルラクトース)を用いた。
【0063】
(操 作)
試験物質を0.5%含むオートクレーブ滅菌後の培地(ILS、PYまたはVL培地)3mLに、あらかじめ0.5%グルコースを含むそれぞれの培地で嫌気培養した表1〜3に記載の菌株の供試菌液の30μLを加えて培養液を調製した。この培養液を嫌気条件下で37℃、48〜72時間培養後、pHを測定した。資化性の判定は、試験物質を含む培養液のpHと対照培養液(試験物質無添加)のpHとの差(ΔpH)で行ない、以下の基準で評価した。還元ガラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖(3糖)、還元ガラクトオリゴ糖(4糖)およびガラクトオリゴ糖(4糖)のラクトバチルス属の8菌株に対する資化性試験の結果を表1に示した。また、還元ガラクトオリゴ糖、ラクチトール、ソルビトール、ガラクトオリゴ糖(4’ガラクトシルラクトース)のラクトバチルス属の12菌株に対する資化性試験の結果を表2に示した。更に、還元ガラクトオリゴ糖のラクトバチルス属以外の細菌の資化性を表3に示した。
【0064】
<資化性評価基準>
評価 : 内容
++ 対照培養液に比べてpHが1.5以上低下した
+ 対照培養液に比べてpHが1.0以上1.5未満低下した
± 対照培養液に比べてpHが0.5以上1.0未満低下した
− 対照培養液に比べてpHが0.5未満低下した
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
(結果)
表1に記載の結果より、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029は、Galβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖を加えた時のみ増殖し、ガラクトオリゴ糖(3糖)ならびに還元ガラクトオリゴ糖(4糖)、ガラクトオリゴ糖(4糖)では増殖効果がみられないことがわかった。また、還元ガラクトオリゴ糖では、供試した8菌株のうち、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029のみが、顕著な増殖を示すことがわかった。
【0069】
また、表2に記載の結果より、Galβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖は、供試した12菌株のうち、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029のみを特異的かつ顕著に増殖させることがわかった。ラクチトール、ソルビトールは、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029に資化されたが、その他の幾つかのラクトバチルス属細菌にも資化され、特異性は低いこともわかった。
【0070】
更に、表3に記載の結果より、Galβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖は、ビフィドバクテリウム属細菌に資化される以外は、その他の腸内細菌に殆ど利用されないことがわかった。このように、Galβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖は、腸内で健康の維持に寄与すると考えられているプロバイオティクスに有用な菌株に選択的に利用されることが明らかとなった。
【0071】
以上より、Galβ1−4Galβ1−4Sorを主成分とする還元ガラクトオリゴ糖は、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)およびビフィドバクテリウム属細菌を選択的に増殖させることが明らかとなった。

【0072】
実 施 例 3
液糖の調製:
実施例1の(3a)で得られた還元ガラクトオリゴ糖液糖(Bx30)を容量18Lのアルミ缶に充填した。
【0073】
実 施 例 4
還元ガラクトオリゴ糖粉末の調製:
実施例1の(3a)で得られた還元ガラクトオリゴ糖液糖(Bx30)を3倍希釈して凍結乾燥機で乾燥させた後、粉砕機を用いて還元ガラクトオリゴ糖粉末を調製した。
【0074】
実 施 例 5
飲料の調製:
実施例1の(3a)で得られた還元ガラクトオリゴ糖液糖(Bx30)300kg、クエン酸0.5kg、香料3kgを3000Lの水に溶解した後、100mLずつ瓶詰めし、1本当たり還元ガラクトオリゴ糖を3g含有する飲料を調製した。
【0075】
実 施 例 6
ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の選択培地の調製:
1L中に、実施例1の(4)の方法で調製した還元ガラクトオリゴ糖を固形分として5g、トリプチケースペプトン(DIFCO)10g、酵母エキス(DIFCO)5g、トリプトース(DIFCO)3g、リン酸水素2カリウム3g、リン酸2水素カリウム3g、クエン酸水素2アンモニウム2g、硫酸マグネシウム7水和物0.55g、硫酸鉄7水和物34mg、硫酸マンガン7水和物0.12g、Tween80 1g、システイン塩酸塩0.2g、寒天15gをそれぞれ溶解し、オートクレーブ滅菌して、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029選択培地を調製した。また、本培地はラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の増殖促進用培地として利用することが出来る。さらに、本培地はプロバイオティクス増殖促進用培地としても利用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の増殖促進剤の有効成分である式(I)で示される還元ガラクトオリゴ糖は、より高い難消化性度を持つと共に、乳酸菌の中でも種々の生物学的に有益な効果を有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029を高い選択性で増殖させることができる。また、上記還元ガラクトオリゴ糖はラクトバチルス・カゼイ YIT 9029だけでなくプロバイオティクスに用いられるその他の細菌についても選択的に増殖させることができる。
【0077】
従って、本発明の増殖促進剤はプロバイオティクス等に利用することができ、健康の増進に役立つものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進剤。
【請求項2】
医薬用無毒性担体もしくは飲食品成分と、請求項第1項記載の還元ガラクトオリゴ糖を含有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進用組成物。
【請求項3】
請求項第1項記載の還元ガラクトオリゴ糖を炭素源として含有するラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)増殖促進用培地。
【請求項4】
下記式(I)
Gal−Gal−Sor (I)
(ただし、式中Galはガラクトース残基を、Sorはソルビトール残基をそれぞれ示す)
で表される還元ガラクトオリゴ糖を有効成分とするプロバイオティクス増殖促進剤。
【請求項5】
医薬用無毒性担体もしくは飲食品成分と、請求項第4項記載の還元ガラクトオリゴ糖を含有するプロバイオティクス増殖促進用組成物。
【請求項6】
請求項第4項記載の還元ガラクトオリゴ糖を炭素源として含有するプロバイオティクス増殖促進用培地。

【公開番号】特開2011−36203(P2011−36203A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187955(P2009−187955)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】