説明

ヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置および製造方法、およびそれに用いる可動ダイス

【課題】 押出成形によって簡単かつ大量に製造することができ、中空軸部分とフィン部分とが巧みに一体成形されることによって、接着部における破断のおそれがなく、強固な構造を実現することができるヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置等を提供すること。
【解決手段】 押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、複数枚のダイプレート21が積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在である可動ダイス2を具備して構成されており、
当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の位置のずれによってプレート間に生じる段差により、ダイ形状が変形して、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定できるとともに、
前記マンドレル12により回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用資材の製造技術の改良、更に詳しくは、押出成形によって簡単かつ大量に製造することができ、中空軸部分とフィン部分とが巧みに一体成形されることによって、接着部における破断のおそれがなく、強固な構造を実現することができるヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置および製造方法、およびそれに用いる可動ダイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、ヘリカルフィンを周縁に備えた中空軸部材は、工業用資材として様々な用途に使用されており、例えば、熱交換用のフィンチューブや搬送機に用いられるスクリューコンベア、射出成形機用スクリューなどがある。
【0003】
ところで、前記の熱交換装置などに用いるフィンチューブは、中空軸部分の外周に螺旋状のフィン部分を巻き付けて構成されており、従来、中空軸部分を予め作製してから、その周縁にフィン部分を付けることによって作製する方法が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
しかしながら、かかる従来の製造方法では、フィン部分をロウ付けや溶接などによって取り付けていたため、大規模な製造設備が必要であったり、あるいは、複雑な製造工程が必要であって、製造コストが嵩んでしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2005−7433号公報(第3−5頁、図1−6)
【特許文献2】特開平6−254642号公報(第2頁、図1−7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の製造方法に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、押出成形によって簡単かつ大量に製造することができ、中空軸部分とフィン部分とが巧みに一体成形されることによって、接着部における破断のおそれがなく、強固な構造を実現することができるヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置および製造方法、およびそれに用いる可動ダイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0007】
即ち、本発明は、可塑性成形材料mを加圧して圧送可能であって、押出ヘッド部11のダイ中心に回転自在なマンドレル12が配設される押出機1と;
この押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、複数枚のダイプレート21が積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在である可動ダイス2とを具備して構成されており、
当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の位置のずれによってプレート間に生じる段差により、ダイ形状が変形して、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定することができるとともに、
前記マンドレル12により回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめることができるようにするという技術的手段を採用したことにより、ヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置を完成させた。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、可動ダイス2が、押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、板体の略中央に円孔部21aが開設され、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bが設けられて作製される複数枚のダイプレート21が、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層されて、かつ、これらのダイプレート21をそれぞれ回転自在に構成するという技術的手段を採用した。
【0009】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1のマンドレル12を連結式に構成して、回転マンドレル12aの外側に固定マンドレル12b、追加マンドレル12cを順次連結可能にするという技術的手段を採用した。
【0010】
また、本発明は、可塑性成形材料mを加圧して圧送可能な押出機1の押出ヘッド部11において、回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめるとき、
前記押出機1の押出ヘッド部11には、可動ダイス2を配設して、この可動ダイス2の内部における可塑性成形材料mの流動を制御するための材料流動制御プレート22を前記ダイプレート21の前に積層し、この可動ダイス2をシフトさせて異なる螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出しできるようにするという技術的手段を採用することによって、ヘリカルフィン付中空軸部材の製造方法を完成させた。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、可動ダイス2は、板体の略中央に円孔部21aを開設して、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bを設けてダイプレート21を作製する一方、
このダイプレート21を複数枚用いて、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層して、かつ、これらのダイプレート21はそれぞれ回転自在に構成されており、
当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の扇型スリット21b同士の位置をずらすことによってプレート間に段差を生ぜしめ、ダイ形状を変形せしめることにより、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定するという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1の押出ヘッド部11のダイ中心にマンドレル12を配設し、このマンドレルが軸芯に挿通して、かつ、円孔部21との空間において、中空軸部Pを作出するとともに、前記マンドレル12を回転させることにより当該中空軸部Pに回転を加えながら押し出すという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1のコンテナ内に逃げ溝13を作製し、可塑性成形材料mの余剰分を流入させることにより、押出ヘッド部11からの押出速度を低減せしめて、単位長さ当たりの中空軸部Pにおけるフィン部Fの巻付数量を増加させるという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、
板体の略中央に円孔部21aが開設され、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bが設けられて作製される複数枚のダイプレート21が、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在に構成するという技術的手段を採用したことにより、ヘリカルフィン付中空軸部材製造用の可動ダイスを完成させた。
【0015】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、可動ダイス2の各ダイプレート21に、複数の扇型スリット21bを対称的に設けるという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、可塑性成形材料を加圧して圧送可能な押出機の押出ヘッド部において、回転を加えながら中空軸部をダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部の周縁に螺旋状のフィン部を傾斜押し出ししながら一体に付着せしめることにより、ヘリカルフィン付中空軸部材を合理的に製造することができる。
【0017】
したがって、本発明の製造装置および方法によれば、押出成形によって簡単かつ大量に製造することができ、中空軸部分とフィン部分とが巧みに一体成形されることによって、接着部における破断のおそれがなく、強固な構造を実現することができるとともに、かかるヘリカルフィン付中空軸部材は、熱交換用のフィンチューブや搬送機に用いられるスクリューコンベア、射出成形機用スクリューなどの様々な用途に仕様することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0019】
本発明の実施形態を図1から図6に基づいて説明する。まず、本発明におけるヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置について説明する。図中、符号1で指示するものは押出機であり、この押出機1は、可塑性成形材料mを加圧して圧送可能であって、押出ヘッド部11のダイ中心に回転自在なマンドレル12が配設されている。
【0020】
また、符号2で指示するものは可動ダイスであり、この可動ダイス2は、前記押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材である。具体的には、板体の略中央に円孔部21aが開設され、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bが設けられて作製される複数枚のダイプレート21が、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在に構成されている。
【0021】
この可動ダイス2のダイプレート21は、図2(a)(b)のような形状に作製されている。本実施形態では、各ダイプレート21に、複数の扇型スリット21bを対称的に設けることができ、複数のフィン部Fを同時に作成することができる。また、可動ダイス2の内部における可塑性成形材料mの流動を制御するための材料流動制御プレート22(図3(a)〜(c))を前記ダイプレート21の前に積層する。
【0022】
しかして、上記の如く構成された製造装置を用いて、本発明のヘリカルフィン付中空軸部材を製造する方法について以下に説明する。まず、可塑性成形材料mを押出機1のホッパーから充填する。この可塑性成形材料mとしては、熱可塑性プラスチック材料や、セメントなどの水硬性材料、セラミックス捏和材などの焼結性材料、あるいは金属材料などを採用することができる。
【0023】
次いで、前記可塑性成形材料mを加圧して圧送可能な押出機1の押出ヘッド部11において、回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめる。
【0024】
ここで、「傾斜押し出し」とは、成形機の押出口に、押出口正面からみて平行に2つのダイスを配置し、この2つのダイスを平面視において押出方向に対して前後にずらして取り付け、押出材料を出口から押し出すことにより、押し出される材料に曲がりを発生させるものであり、図4にその基本原理を示す。
【0025】
そして、押出機1の押出ヘッド部11には、可動ダイス2が配設されており、この可動ダイス2をシフトさせて異なる螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出しできる。
【0026】
なお、本実施形態では、前記可動ダイス2を構成するにあたり、まず、板体の略中央に円孔部21aを開設して、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bを設けて成るダイプレート21を作製する。
【0027】
そして、このダイプレート21を複数枚用いて、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層する。この際、これらのダイプレート21はそれぞれ回転自在に構成する。
【0028】
本実施形態では、当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の扇型スリット21b同士の位置をずらすことによってプレート間に段差を生ぜしめ、ダイ形状を変形せしめることにより、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定することができる。
【0029】
また、本実施形態では、押出機1の押出ヘッド部11のダイ中心にマンドレル12を配設して、このマンドレル12が軸芯に挿通して、かつ、円孔部21との空間において、中空軸部Pを作出することができる。また、前記マンドレル12を回転させることにより当該中空軸部Pに回転を加えながら押し出すことができる(図5参照)。
【0030】
更にまた、本実施形態では、押出機1のマンドレル12を連結式に構成することができ、具体的には、図6に示すように、回転マンドレル12aの外側に固定マンドレル12b、追加マンドレル12cを順次連結可能に構成し、成形品の作製条件に応じて適宜交換することができる。
【0031】
更にまた、本実施形態では、図7に示すように、押出機1のコンテナ内に逃げ溝13を作製し、可塑性成形材料mの余剰分を流入させることにより、押出ヘッド部11からの押出速度を低減せしめることができ、単位長さ当たりの中空軸部Pにおけるフィン部Fの巻付数量を増加させることができる。
【実施例】
【0032】
本発明における実施例を以下に説明する。本実施例においては、ダイプレート21(および材料流動制御プレート22)を積層して構成する可動ダイス2について複数のダイスパターンを用意し、それぞれの成形品、特に、フィン部Fの形状、性質について検討する。なお、本実施例に使用する押出機1は実験用の小型のものであり、連続的な押出成形能力はなく、コンテナ内の一定量の材料を押し出すものである。また、本実施例では、前記ダイプレート21の前に材料流動制御プレート22を適宜配置する。
【0033】
〔実験1〕
〔実験条件〕
ダイスからの押出速度を、50mm/minで押し出す。潤滑剤として石鹸水を使用し、素材とコンテナパイプ、ダイスの接触面に塗布した。また、室温は15〜25℃とした。実験素材として、外径32mm、内径16mm、長さ80〜100mmのカラークレイ製円管を用いた。この円管は、同じ断面寸法を有するコンテナから押し出して作製した。
【0034】
本実施例における成形品の性質を「比ねじれ角」および「フィン部の厚さ」により評価する。この比ねじれ角とは、図8に示すように、中空軸の中心軸線から同一距離のフィン上の任意の2点の横xと縦yとの長さを測定し、yと成形品の直径Dとからφ[°]を求め、更に比ねじれ角γ[°/mm]を次式から算出するものである。
【0035】
〔数式〕
φ=sin-1(y/D)×2 [°]
γ=φ/x [°/mm]
【0036】
また、フィン部の厚さの測定方法については、図9に示すように、成形品と中心軸線とフィン部の中心軸線とが交わる点を通るフィン部の厚さを測定する。本実施例では、ダイプレートの厚さが3mmであるため、理想フィン厚は3mmとなる。
【0037】
なお、本実施例では、よりフィン部へカラークレイが流動するように、材料流動制御プレート22を作製した。また、プレートの配置形状はピラミッド形にし、傾斜を45°とした。そして、固定マンドレル径16mm、追加マンドレル径16mm、追加マンドレル長10mm、ダミーブロック内径16mm、マンドレル回転速度14.9rpmにおいて作製した場合の素材の変形状態を調べる。本実施例では、以下の3通りのダイスパターンを用いて行った。
【0038】
〔ダイスパターン1(P1)〕
本実施例におけるダイスパターン1(P1)を図10に示す。本パターンでは、2枚のダイプレート21の前に3枚の材料流動制御プレート22を配置し、その組み合わせは、上から順に、
(配置:ピラミッド形)
118°(材料流動制御プレート22)
82.8°(材料流動制御プレート22)
47.6°(材料流動制御プレート22)
90°(ダイプレート21)
150°(ダイプレート21)
であり、当該ダイスパターンにより押出成形を行ったところ、図11のようなフィン厚および比ねじれ角を有する成形品を得た。
【0039】
〔ダイスパターン2(P2)〕
次に、本実施例におけるダイスパターン2(P2)を図12に示す。本パターンでは、2枚のダイプレート21の前に2枚の材料流動制御プレート22を配置し、その組み合わせは、上から順に、
(配置:ピラミッド形)
82.8°(材料流動制御プレート22)
47.6°(材料流動制御プレート22)
90°(ダイプレート21)
150°(ダイプレート21)
であり、当該ダイスパターンにより押出成形を行ったところ、図13のようなフィン厚および比ねじれ角を有する成形品を得た。
【0040】
〔ダイスパターン3(P3)〕
次に、本実施例におけるダイスパターン3(P3)を図14に示す。本パターンでは、2枚のダイプレート21の前に1枚の材料流動制御プレート22を配置し、その組み合わせは、上から順に、
(配置:ピラミッド形)
47.6°(材料流動制御プレート22)
90°(ダイプレート21)
150°(ダイプレート21)
であり、当該ダイスパターンにより押出成形を行ったところ、図15のようなフィン厚および比ねじれ角を有する成形品を得た。
【0041】
〔考察〕
上記各ダイスパターンにおいて、追加した材料流動制御プレート22の枚数と比ねじれ角およびフィン厚の関係を図16のグラフに示す。P1はP2、P3に比べてねじれ量が多いことがわかる。これは材料流動制御プレート22の枚数が多いほど、ダイス内側の抵抗が増え、中空軸部Pに対してフィン部Fへのカラークレイの流動が容易になったためだと考えられる。また、フィン厚も材料流動制御プレート22が多いと厚くなることがわかる。これにより材料流動制御プレート22によって比ねじれ角およびフィン厚を増加させることが確認できる。
【0042】
〔実験2〕
次に、材料流動制御プレート22の積層パターンを変え、前記P1を基準に左にそろえ階段状にしたダイスパターンと右にそろえて階段状にダイスパターンをそれぞれP4、P5とした。
【0043】
〔ダイスパターン4(P4)〕
本実施例におけるダイスパターン4(P4)を図17に示す。本パターンでは、2枚のダイプレート21の前に3枚の材料流動制御プレート22を配置し、その組み合わせは、上から順に、
(配置:左そろえ)
118°(材料流動制御プレート22)
82.8°(材料流動制御プレート22)
47.6°(材料流動制御プレート22)
90°(ダイプレート21)
150°(ダイプレート21)
であり、当該ダイスパターンにより押出成形を行ったところ、図18のようなフィン厚および比ねじれ角を有する成形品を得た。
【0044】
〔ダイスパターン5(P5)〕
次に、本実施例におけるダイスパターン5(P5)を図19に示す。本パターンでは、2枚のダイプレート21の前に3枚の材料流動制御プレート22を配置し、その組み合わせは、上から順に、
(配置:右そろえ)
118°(材料流動制御プレート22)
82.8°(材料流動制御プレート22)
47.6°(材料流動制御プレート22)
90°(ダイプレート21)
150°(ダイプレート21)
であり、当該ダイスパターンにより押出成形を行ったところ、図20のようなフィン厚および比ねじれ角を有する成形品を得た。
【0045】
〔考察〕
図11、18、20において、実験1と同条件におけるダイスパターンP1、P4、P5のフィンの成形状態を示す。P4、P5に比べP1がよくねじれているのがわかる。また、図21にダイスパターンと比ねじれ角およびフィン厚の関係を示す。P1に比べP4、P5は比ねじれ角が小さく、同様にフィン厚も薄くなっている事がわかる。これより材料流動制御プレート22の形状を片方にそろえ階段状にするよりもピラミッド型にし、ダイス下部に向かい谷の様にする方が材料の流動がフィン部Fに向かいやすくなり、比ねじれ角およびフィン厚も大きくなるという事がわかる。
【0046】
本実施例による成形品は、押出機1に配設されるマンドレル12による回転開始位置、押出速度、回転速度および追加マンドレルによっても成形品の形状に影響を与えるものである。以下、実験3〜6において、これらについての実験結果を示す。
【0047】
〔実験3〕
「マンドレルによる回転開始位置との関係」
ダイスパターンをP1に固定した場合において、マンドレル12の回転開始位置を変化させた場合における成形品について説明する。
【0048】
〔実験条件〕
まず、スペーサ(厚さ3mm)の枚数を決定し、このスペーサをダイプレート21の下に介装することによって、上段にずらすことができる。材料mは固定マンドレル12bにより回転せずに3枚の材料流動制御プレート22中を流動し、材料流動制御プレート22とダイプレート21と接する面において回転マンドレル12aにより回転を与えることで中空軸部Pおよびフィン部Pが成形される。この接する面を回転開始位置の原点とし厚さ3mmのスペーサを材料流動制御プレート22の上に1〜3枚乗せ、回転開始位置を材料流動制御プレート22上段にずらして実験をした。
【0049】
図22に示すように、ダイスパターンP1、押出し速度50mm/min、固定マンドレル径16mm、追加マンドレル径16mm、追加マンドレル長10mm、ダミーブロック内径16mm、マンドレル回転速度14.9rpmにおいて、回転開始位置z=0mm、3mm、6mm、9mm、の条件で実験をした。
【0050】
〔考察〕
図23に回転開始位置と比ねじれ角およびフィン厚の関係を示す。回転位置が上がるごとに比ねじれ角が大きくなることがわかる。これは回転開始位置を上げることによって、中空軸全体が回るため比ねじれ角が大きくなると考えられる。それに対してフィン厚は回転開始位置が上がるごとに薄くなっている。体積一定の条件のもと、一定の長さにおいて成形品の体積は変わらないので、中空軸部Pの肉厚が一定のため、比ねじれ角が上昇するにしたがってフィン部Fの厚さが薄くなったものだと考えられる。
【0051】
〔実験4〕
「マンドレルによる押出速度との関係」
次に、ダイスパターンをP1に固定した場合において、マンドレル12による押出速度を変化させた場合における成形品について説明する。
〔実験条件〕
ダイスパターンP1、マンドレル回転速度14.9rpm、固定マンドレル径16mm、追加マンドレル径16mm、追加マンドレル長10mm、ダミーブロック内径16mmにおいて押出し速度10〜50mm/min、の条件で実験をした。
【0052】
〔考察〕
素材の変形状態から、押出し速度を上げるとともにねじれ量が徐々に大きくなることがわかった。また、押出し速度10〜30mm/minにおいては、成形品の全体にうねりが出来ているのがわかった。これは回転速度に対して押出し速度が遅すぎるため材料が回転方向に出ようとし、押し出し方向に出辛くなってしまうためだと考えられる。材料は一定の速度で降下してくるため、圧力がある程度までかかると押し出され、また詰まるといったような一定のサイクルが出来る。これにより一定間隔でうねりが発生するものだと考えられる。
【0053】
図24に押出し速度と比ねじれ角およびフィン厚の関係を示す。押出し速度が上がるにつれ比ねじれ角が大きくなることがわかる。押し出し速度が上がることにより、押し出し方向と回転方向の材料流動のバランスがよくなったものと考えられる。同様にフィン厚も押出し速度が上がるにつれ徐々に厚くなることがわかる。これは速度が上がることにより、よりフィン部Fへの材料流動が多くなるためであり、より安定したフィン部Fが成形出来るようになると考えられる。
【0054】
〔実験5〕
「マンドレルによる回転速度との関係」
次に、ダイスパターンをP1に固定した場合において、マンドレル12による回転速度を変化させた場合における成形品について説明する。
〔実験条件〕
ダイスパターンP1において、押出し速度50mm/min、固定マンドレル径16mm、追加マンドレル径16mm、追加マンドレル長10mm、ダミーブロック内径16mmにおいてマンドレル回転速度7.5〜44.8rpmの条件で実験をした。
【0055】
〔考察〕
素材の変形状態から、マンドレル回転数29.8rpm以上になるとフィン部全体にうねりが見られた。これは、前記同様、押出し速度に対して回転数が速くなりすぎるためだと考えられる。
【0056】
図25にマンドレル回転速度と比ねじれ角およびフィン厚の関係を示す。回転速度を上げると共に徐々に比ねじれ角が大きくなるがフィン部にうねりの出始める29.8rpm以上になると上下する。これはフィン部全体にうねりが発生したためフィン成形が安定しないためだと考えられる。この場合、波状欠陥のため実際には使えないものとする。フィン厚に関しても同様に安定しないことがわかる。
【0057】
〔実験6〕
「追加マンドレルとの関係」
次に、ダイスパターンをP1に固定した場合において、マンドレル12の追加マンドレル12cを変更した場合における成形品について説明する。
〔実験条件〕
ダイスパターンP1、押出し速度50mm/min、固定マンドレル径16mm、ダミーブロック内径16mm、マンドレル回転速度14.9rpm、追加マンドレル長10mmにおいて追加マンドレル径16mm、17mm、の条件で実験をした。また、同じ条件において、これまでで最もねじれの大きかった回転開始位置6mmの条件でも同様の実験を行った。
【0058】
〔考察〕
図26に追加マンドレルと比ねじれ角およびフィン厚の関係を示す。追加マンドレル径16mmよりも17mmの方が比ねじれ角が飛躍的に大きくなっているのがわかる。これは追加マンドレル径を17mmにすることで中空軸内面への摩擦が大きくなり、下降速度が下がるためフィン部Fが押出し方向に対して大きく傾き、比ねじれ角が大きくなるからだと考えられる。フィン厚は追加マンドレル径が17mmになってもほぼ同等である。これも追加マンドレル径が回転マンドレル径よりも1mm大きいため中空軸内面に下からの力が大きく掛かったためだと考えられる。
【0059】
本発明は概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、押出機1の仕様は、可塑性成形材料mの性質によって適宜変更することができるし、また、押出機1から押し出される成形品に対する冷却機構や切断機構も適宜設けることができ、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態の押出機を表わす説明図である。
【図2(a)】本発明の実施形態に用いるダイプレートを表わす全体正面図である。
【図2(b)】本発明の実施形態に用いるダイプレートを表わす全体正面図である。
【図3(a)】本発明の実施形態に用いる材料流動制御プレートを表わす全体正面図である。
【図3(b)】本発明の実施形態に用いる材料流動制御プレートを表わす全体正面図である。
【図3(c)】本発明の実施形態に用いる材料流動制御プレートを表わす全体正面図である。
【図4】本発明の実施形態の基本原理を表わす説明正面図である。
【図5】本発明の実施形態の押出状況を表わす斜視図である。
【図6】本発明の実施形態のマンドレルを表わす斜視図である。
【図7】本発明の実施形態の押出状況を表わす説明断面図である。
【図8】本発明の実施例の比ねじれ角の概念を表わす説明図である。
【図9】本発明の実施例のフィン厚さの測定方法の概念を表わす説明図である。
【図10】本発明の実施形態のダイスパターン(P1)を表わす斜視図である。
【図11】本発明の実施例により作製された成形品(P1)を表わす写真である。
【図12】本発明の実施形態のダイスパターン(P2)を表わす斜視図である。
【図13】本発明の実施例により作製された成形品(P2)を表わす写真である。
【図14】本発明の実施形態のダイスパターン(P3)を表わす斜視図である。
【図15】本発明の実施例により作製された成形品(P3)を表わす写真である。
【図16】本発明の実施例により作製した成形品のダイスパターン(P1、P2、P3)と比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【図17】本発明の実施形態のダイスパターン(P4)を表わす斜視図である。
【図18】本発明の実施例により作製された成形品(P4)を表わす写真である。
【図19】本発明の実施形態のダイスパターン(P5)を表わす斜視図である。
【図20】本発明の実施例により作製された成形品(P5)を表わす写真である。
【図21】本発明の実施例により作製した成形品のダイスパターン(P1、P4、P5)と比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【図22】本発明の実施例に使用するマンドレルの回転開始位置を表わす説明斜視図である。
【図23】本発明の実施例により作製した成形品の回転開始位置と比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【図24】本発明の実施例により作製した成形品の押出速度と比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【図25】本発明の実施例により作製した成形品のマンドレル回転速度と比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【図26】本発明の実施例により作製した成形品の追加マンドレルと比ねじれ角およびフィン厚との関係を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 押出機
11 押出ヘッド部
12 マンドレル
12a 回転マンドレル
12b 固定マンドレル
12c 追加マンドレル
13 逃げ溝
2 可動ダイス
21 ダイプレート
21a 円孔部
21b 扇状スリット
22 材料流動制御プレート
m 可塑性成形材料
P 中空軸部
F フィン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性成形材料mを加圧して圧送可能であって、押出ヘッド部11のダイ中心に回転自在なマンドレル12が配設される押出機1と;
この押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、複数枚のダイプレート21が積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在である可動ダイス2とを具備して構成されており、
当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の位置のずれによってプレート間に生じる段差により、ダイ形状が変形して、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定することができるとともに、
前記マンドレル12により回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめることができることを特徴とするヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置。
【請求項2】
可動ダイス2が、押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、板体の略中央に円孔部21aが開設され、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bが設けられて作製される複数枚のダイプレート21が、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在に構成されていることを特徴とする請求項1記載のヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置。
【請求項3】
押出機1のマンドレル12が連結式に構成され、回転マンドレル12aの外側に固定マンドレル12b、追加マンドレル12cを順次連結可能であることを特徴とする請求項1または2記載のヘリカルフィン付中空軸部材の製造装置。
【請求項4】
可塑性成形材料mを加圧して圧送可能な押出機1の押出ヘッド部11において、回転を加えながら中空軸部Pをダイ中心から押し出すと同時に、この回転に連動しつつ当該中空軸部Pの周縁に螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出ししながら一体に付着せしめるとき、
前記押出機1の押出ヘッド部11には、可動ダイス2を配設して、この可動ダイス2の内部における可塑性成形材料mの流動を制御するための材料流動制御プレート22を前記ダイプレート21の前に積層し、この可動ダイス2をシフトさせて異なる螺旋状のフィン部Fを傾斜押し出しできることを特徴とするヘリカルフィン付中空軸部材の製造方法。
【請求項5】
可動ダイス2は、板体の略中央に円孔部21aを開設して、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bを設けてダイプレート21を作製する一方、
このダイプレート21を複数枚用いて、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層して、かつ、これらのダイプレート21はそれぞれ回転自在に構成されており、
当該ダイプレート21を回転させて、隣り合うダイプレート21の扇型スリット21b同士の位置をずらすことによってプレート間に段差を生ぜしめ、ダイ形状を変形せしめることにより、傾斜押し出しによるフィン部Fの形状を決定することを特徴とする請求項4記載のヘリカルフィン付中空軸部材の製造方法。
【請求項6】
押出機1の押出ヘッド部11のダイ中心にマンドレル12を配設し、このマンドレルが軸芯に挿通して、かつ、円孔部21との空間において、中空軸部Pを作出するとともに、前記マンドレル12を回転させることにより当該中空軸部Pに回転を加えながら押し出すことを特徴とする請求項4または5記載のヘリカルフィン付中空軸部材の製造方法。
【請求項7】
押出機1のコンテナ内に逃げ溝13を作製し、可塑性成形材料mの余剰分を流入させることにより、押出ヘッド部11からの押出速度を低減せしめて、単位長さ当たりの中空軸部Pにおけるフィン部Fの巻付数量を増加させることを特徴とする請求項4〜6の何れか一つに記載のヘリカルフィン付中空軸部材の製造方法。
【請求項8】
押出機1の押出ヘッド部11に装着される複合部材であって、
板体の略中央に円孔部21aが開設され、かつ、この円孔部21aの円周縁部の少なくとも一部に扇状スリット21bが設けられて作製される複数枚のダイプレート21が、各円孔部21aを連通合致させた状態で積層されて、かつ、これらのダイプレート21がそれぞれ回転自在に構成されていることを特徴とするヘリカルフィン付中空軸部材製造用の可動ダイス。
【請求項9】
各ダイプレート21に、複数の扇型スリット21bが対称的に設けられていることを特徴とする請求項8記載のヘリカルフィン付中空軸部材製造用の可動ダイス。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−105181(P2008−105181A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287196(P2006−287196)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】