説明

ベーカリー用上掛け生地およびそれを用いた複合ベーカリー製品

【課題】生地物性が良好であり、且つ、焼成後の内生地部分からの剥がれ落ちが防止されたベーカリー用上掛け生地、及び、該特徴を有する複合ベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で且つHLB5.5〜8.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を練りこんだことを特徴とするベーカリー用上掛け生地、及び、該ベーカリー用上掛け生地を使用した複合ベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メロンパンなどの複合ベーカリー製品に使用するベーカリー用上掛け生地に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケット生地やタルト生地などのショートペースト生地、あるいはシュー生地やバターケーキ生地などのバッター生地を、ベーカリー用上掛け生地として、菓子パン生地やデニッシュ生地などの内生地の上に載せて焼成したベーカリー製品はメロンパンと称されている。
このメロンパンは、内生地焼成部分とベーカリー用上掛け生地焼成部分から構成されるものであるが、焼成直後から、内生地焼成部分からベーカリー用上掛け生地焼成部分への水分移行が始まるため、ベーカリー用上掛け生地焼成部分の食感が経日的に変化してしまう。例えば、ベーカリー用上掛け生地としてショートペースト生地を使用したメロンパンは、焼成直後のカリカリとした食感が経日的に失われしっとりした食感に変化してしまうし、ベーカリー用上掛け生地としてバッター生地を使用したメロンパンは、焼成直後のしっとりとした食感が経日的に失われべたついた食感に変化してしまう。また、水分移行により水分含有量が増えたベーカリー用上掛け生地焼成部分は包装材料に付着してしまうという問題もある。
その問題を避けるためには、ベーカリー用上掛け生地の水分含量を下げ、焼成時間も延長するなどして、上掛け生地部分を硬く焼き上げる方法を採るが、生地水分含量の少ない上掛け生地は硬くて扱いにくく、また、焼成時に表面のひび割れが大きくなり、外観が安定しないという問題があった。
そのため、他の方法として、固体脂含量の高い油脂を使用する方法(たとえば特許文献1〜3参照)や、糊化澱粉や糊化小麦粉を配合する方法(たとえば特許文献4、5参照)が提案されている。
【0003】
しかし、固体脂含量の高い油脂を使用した上掛け生地部分はソフトな物性である内生地部分との接着性が悪いため、焼成後に上掛け生地部分が剥がれ落ちてしまうという問題があった。また糊化澱粉や糊化小麦粉を使用する方法では、上掛け生地がバッター生地の場合には水分移行防止効果が高いがベーカリー用上掛け生地がショートペースト生地である場合は生地物性、とくに伸展性が悪化する問題に加え、やはり、焼成後に上掛け生地部分が剥がれ落ちてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−149220号公報
【特許文献2】特開2008−86211号公報
【特許文献3】特開2009−39076号公報
【特許文献4】特開2001−340048号公報
【特許文献5】特開平7−99878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、生地物性が良好であり、且つ、焼成後の内生地部分からの剥がれ落ちが防止されたベーカリー用上掛け生地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ベーカリー用上掛け生地に練り込み使用する油脂として特定の乳化剤を含有する油脂組成物を使用した場合、上記問題を解決可能であることを見出した。
すなわち、本発明は、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で且つHLB5.5〜8.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を練りこんだことを特徴とするベーカリー用上掛け生地を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のベーカリー用上掛け生地は、成形時の生地物性が良好である。さらに本発明のベーカリー用上掛け生地を使用した複合ベーカリー製品は、焼成直後の食感が良好で、食感の経日的な変化が抑制され、また、上掛け生地部分の内生地部分からの剥がれ落ちが防止される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルについて詳細に説明する。
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、5.5〜8.5であるが、好ましくは6.0〜7.5である。上記HLBが5.5未満では、剥がれ落ち防止効果が見られず、上記HLBが8.5を超えると、親水性となってしまうことから油脂中に均質に溶解することができないため、やはり剥がれ落ち防止効果が得られない。またさらにベーカリー用上掛け生地上掛け生地がショートペースト生地の場合に、焼成直後にカリカリした食感が得られず、しっとりとした食感になってしまうという問題がある。
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリン残基としては、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等のグリセリン重合度が2〜10のポリグリセリン残基が好ましく、中でも、ジグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリンの残基が特に好ましい。
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する主要脂肪酸は、不飽和脂肪酸であり、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸等の残基が挙げられるが、不飽和脂肪酸であれば、特にこれらに限定されるものではない。上記の例示の中でも、特に、水分移行抑制効果が高い点でオレイン酸が好ましい。尚、ポリグリセリン脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸でないと、本発明の優れた効果は得られない。
【0009】
なお、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中の不飽和酸の含有量は好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%のものである。
また、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸以外の脂肪酸としては、特に限定されず、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
また、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるエステル結合の数も、HLBが5.5〜8.5の範囲内であれば、何ら限定されるものではないが、特に、該ポリグリセリン脂肪酸エステル1分子中のエステル結合の数が1〜7であるのが好ましい。
【0010】
本発明では、ベーカリー用上掛け生地に練込使用する油脂として、上記特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を使用する。
上記油脂組成物において、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂組成物中、好ましくは0.01〜20.0質量%、更に好ましくは0.1〜2.0質量%、最も好ましくは0.3〜0.5質量%である。上記使用量が0.01質量%未満では、剥がれ落ち防止効果が得られず、また、20.0質量%を超えると、生地物性、とくに伸展性が悪化してしまうことに加え、乳化剤臭が生じたり、得られた複合ベーカリー製品の上掛け生地部分の割れが不規則且つ微細化するため外観が悪化してしまう。
【0011】
上記油脂組成物に使用される油脂は、食用に使用することができる油脂であればよく、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油などの各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂に必要に応じてエステル交換、部分水素添加、完全水素添加(極度硬化)、異性化水素添加および分別の中から選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工油脂と、脂肪酸および/または脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油脂も使用することができる。
【0012】
本発明では、上記油脂組成物に使用される油脂の30〜100質量%がエステル交換油脂であることが好ましく、より好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは70〜90質量%であることが好ましい。
なお、本発明では、上記エステル交換油脂としてヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換した油脂を、エステル交換油脂の好ましくは30〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%使用することが好ましい。
【0013】
次に、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂について述べる。
先ず、上記油脂配合物について述べる。
上記油脂配合物は、ヨウ素価が52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含有する。該パーム分別軟部油の含有量が70質量%未満であると、良好な剥がれ落ち防止効果が得られないおそれがある。
上記パーム分別軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価52〜70のものである。本発明では、上記パーム分別軟部油として、ヨウ素価が52〜70のパームオレインを使用することが、特に高い剥がれ落ち防止効果が得られることから好ましく、ヨウ素価60以上のパームスーパーオレインを使用することがさらに好ましい。
また、上記エステル交換の反応は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよいが、ランダムエステル交換反応であることが好ましい。
本発明で用いる上記油脂組成物は、トランス脂肪酸の含有量は少ないほうが好ましい。具体的には、トランス脂肪酸の含有量は、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下である。
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂(極度硬化油脂)を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸がほとんど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、すなわち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
【0014】
ここで、本発明では、上記油脂組成物に使用する油脂として、このようなトランス脂肪酸を含有する部分硬化油脂や異性化水素添加油脂を使用せず、トランス脂肪酸を実質的に含有しない極度硬化油や分別油や天然油脂を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンステンシーを有し、トランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂組成物を簡単に得ることができる。
上記油脂組成物に使用する油脂は、ベーカリー用上掛け生地の生地物性、及び、複合ベーカリー製品の食感を良好なものとするために、その融点が30〜38℃となるように使用することが好ましく、より好ましくは32〜36℃となるように使用するのがよい。
上記油脂組成物における上記油脂の含有量は、好ましくは50〜99.99質量%、より好ましくは70〜99.99質量%、さらに好ましくは95〜99.8質量%である。
【0015】
上記油脂組成物には、本発明の目的の範囲内で所要により上記成分以外の成分、例えば水、上記ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の他の乳化剤、食塩、乳製品、糖類、多糖類、酵素、抗酸化剤、塩類、色素、香料等を配合することもできる。
上記油脂組成物は、液状油、ショートニング、マーガリン、油中水型乳化物、無水クリーム、バタークリーム等の実質的に油脂が連続相を成していることが好ましく、なかでも、ショートニングの形態であることが、剥がれ落ち効果がとくに高い点で好ましい。
【0016】
次に、本発明のベーカリー用上掛け生地について詳細に説明する。
本発明のベーカリー用上掛け生地は、上記油脂組成物を練り込んだベーカリー生地であって上掛け用に使用するものである。
また、本発明のベーカリー用上掛け生地はショートペースト生地であっても、バッター生地であってもよいが、常温でペースト状〜流動状であるバッター生地よりも、常温で固体であるショートペースト生地において、より焼成直後の上掛け生地焼成部分の食感、特に口溶けが良好であり、さらに、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行抑制効果が高いため、本発明のベーカリー用上掛け生地はショートペースト生地であることが好ましい。
なお、上記ショートペースト生地(なお、単に「ショートペースト」ということもある)とは、製菓用の焼菓子生地分類の1種であり、サクサクした食感をもつ焼菓子を得るための生地のことであり、でんぷん類と油脂と水分を必須成分とし、常温で流動性がない生地をさし、例えば、サブレ生地、ビスケット生地、クッキー生地、ガレット生地、練パイ生地、タルト生地などが挙げられる。
また、上記バッター生地(なお、単に「バッター」ということもある)とは、同様に、製菓用の焼菓子生地分類の1種であり、でんぷん類と水分を必須成分とし、必要に応じて油脂を使用し、ショートペースト生地に比べて水分含有量が高く、常温で流動性を有する生地であり、例えば、スポンジケーキ生地やバターケーキ生地、マフィン生地などの各種ケーキ生地、ソフトクッキー生地、シュー生地、ベイクドチーズケーキ生地、ガトーショコラ生地、メレンゲ生地、マカロン生地などが挙げられる。
ここで、本発明のベーカリー用上掛け生地における、上記油脂組成物の添加量は、ベーカリー用上掛け生地に使用するでんぷん類100質量部に対し30〜100質量部、好ましくは30〜60質量部である。30質量部未満である場合、上掛け生地部分が焼成当初からひきが出た食感となり、100質量部を超える場合は、ぽろついた食感となり、いずれの場合も焼成当初から良好な食感が得られない。
なお、上記でんぷん類とは、強力粉・準強力粉・中力粉・薄力粉・デュラム粉・全粒粉などの小麦粉類をはじめ、ライ麦粉・大麦粉・米粉などのその他の穀粉類、小麦澱粉・米澱粉・タピオカ澱粉・コーンスターチ・ワキシーコーンスターチ・サゴ澱粉・甘藷澱粉・馬鈴薯澱粉などの穀物澱粉類、さらには、これらに対し、α化処理・分解処理・エーテル処理・エステル処理・架橋処理・微細化・グラフト化処理などの中から選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工小麦粉類、加工穀粉類、加工澱粉類を含むものである。
【0017】
本発明のベーカリー用上掛け生地には、必要に応じて、一般のベーカリー生地製造材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、水、全卵・卵黄・卵白・加塩卵・加糖卵・乾燥卵・凍結卵・酵素処理卵、などの卵類、乳化剤、上白糖・グラニュー糖・粉糖・ブドウ糖・果糖・ショ糖・麦芽糖・乳糖・酵素糖化水飴・還元でんぷん糖化物・異性化液糖、ショ糖結合水飴・オリゴ糖・還元糖ポリデキストロース・還元乳糖・還元水飴・ソルビトール・トレハロース・キシロース・キシリトール・マルチトール・エリスリトール・マンニトール・フラクトオリゴ糖・大豆オリゴ糖・ガラクトオリゴ糖・乳果オリゴ糖・ラフィノース・ラクチュロース・パラチノースオリゴ糖・はちみつなど糖類、グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・アラビアガム・アルギン酸類・ペクチン・キサンタンガム・プルラン・タマリンドシードガム・サイリウムシードガム・結晶セルロース・カルボキシメチルセルロース・メチルセルロース・寒天・グルコマンナン・ゼラチンなどの増粘安定剤、イースト、ステビア・アスパルテーム・スクロース・アセスルファムカリウムなどの甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウォッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオおよびカカオ製品、コーヒーおよびコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、コンソメ・ブイヨンなどの植物および動物エキス、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材や食品添加物などを挙げることができる。
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくはベーカリー用上掛け生地中において、でんぷん類100質量部に対し、合計で300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下となる範囲で使用する。
【0018】
次に本発明のベーカリー用上掛け生地の製造方法について述べる。
本発明のベーカリー用上掛け生地の製造方法は特に制限されるものではなく、上記油脂組成物を練り込み使用する以外は一般的なショートペースト生地やバッター生地の製造法を適用することができる。例えば、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、後粉法、後油法、湯捏法など一般的な生地の製法を適宜選択し、必要により組み合わせて適用することが可能である。
【0019】
次に、本発明のベーカリー製品について説明する。
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー用上掛け生地を、パン生地、練パイ生地、折りパイ生地、デニッシュ生地、シュー生地、ドーナツ生地、ケーキ生地、クラッカー生地、ワッフル生地などの内生地に上掛けし、焼成することにより、得られるものである。上掛けする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、板状に成形した本発明のベーカリー用上掛け生地を内生地に積置する方法、板状に成形した後いったん冷凍した本発明のベーカリー用上掛け生地を内生地に積置する方法、手成形または自動包餡機により本発明のベーカリー用上掛け生地で内生地を包餡する方法などが挙げられる。本発明のベーカリー製品において、本発明のベーカリー用上掛け生地の使用量は、上記内生地100質量部に対して好ましくは25〜200質量部、より好ましくは25〜100質量部、さらに好ましくは50〜100質量部とする。
【実施例】
【0020】
以下に実施例と比較例と共に挙げて更に本発明の油脂組成物を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
<エステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕エステル交換油脂Aの製造
ヨウ素価65のパーム分別軟部油にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10Pa以下の減圧下)を行ない、パーム分別軟部油のランダムエステル交換油脂であるエステル交換油脂Aを得た。
【0022】
〔製造例2〕エステル交換油脂Bの製造
ヨウ素価55のパーム分別軟部油にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10Pa以下の減圧下)を行ない、パーム分別軟部油のランダムエステル交換油脂であるエステル交換油脂Bを得た。
【0023】
<油脂組成物の製造>
〔製造例3〕
エステル交換油脂A40質量%、エステル交換油脂B39.6質量%、パーム分別中部油脂20質量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB7.0のデカグリセリンペンタオレエート:構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量90%以上)0.4質量%からなる油脂混合物を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油脂組成物Aを作製した。
得られた油脂組成物に使用する油脂のうちエステル交換油脂の含有量は79.6質量%、エステル交換油脂中のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換した油脂の含有量は100質量%であった。
【0024】
〔製造例4〕
製造例3で使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを、HLB6.5のジグリセリンモノオレエート(構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量90%以上)に置換した以外は、製造例3の配合、製法と同様にして油脂組成物Bを得た。
【0025】
〔製造例5〕
製造例3で使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを、HLB7.0のヘキサグリセリントリリノレート(構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量90%以上)に置換した以外は、製造例3の配合、製法と同様にして油脂組成物Cを得た。
【0026】
〔製造例6〕
製造例3で使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを、HLB7.0のペンタグリセリントリオレエート(構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量90%以上)に置換した以外は、製造例3の配合、製法と同様にして油脂組成物Dを得た。
【0027】
〔製造例7〕
製造例3で使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを、HLB4.5のモノグリセリンモノオレエートに置換した以外は、製造例3の配合、製法と同様にして油脂組成物Eを得た。
【0028】
〔製造例8〕
製造例3で使用したポリグリセリン脂肪酸エステルを、HLB4.5のモノグリセリンモノステアレートに置換した以外は、製造例3の配合、製法と同様にして油脂組成物Fを得た。
【0029】
<ベーカリー用上掛け生地、及び、メロンパンの製造>
[実施例1]
(ベーカリー用上掛け生地1の製造)
油脂組成物Aを50質量部、上白糖50質量部、および、食塩0.4質量部をビーターを使用して混合し、そこに全卵(正味)28質量部を数回に分けて添加混合した。さらに薄力粉100質量部とベーキングパウダー1質量部を加えて軽く混合し、ショートペーストである本発明のベーカリー用上掛け生地1を得た。
【0030】
(メロンパン1の製造)
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部および水40質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で2分ミキシングして中種生地を得た。この中種生地を醗酵室で28℃にて2時間中種発酵させた。次いで、この生地に、さらに強力粉30質量部、上白糖20質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳2質量部、全卵(正味)12質量部、および水10質量部を添加し、低速で4分、中速で4分ミキシングした。ここで、練り込み用マーガリン(使用油脂の融点:32℃)10質量部を投入し、低速で3分、中速で3分ミキシングして菓子パン生地を得た(捏ね上げ温度:28℃)。
一方、上記ベーカリー用上掛け生地1を50gに分割し、これを麺棒を使用して直径100mm、厚さ5mmの円形になるように圧延成形した。上記菓子パン生地は、フロアタイム30分をとった後に65gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、これを内生地とし、その上面に、上記ベーカリー用上掛け生地を積置し、温度36℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、固定窯で180℃にて17分焼成し、本発明のベーカリー製品であるメロンパン1を得た。
【0031】
[実施例2]
油脂組成物Aの代わりに油脂組成物Bを用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地2およびメロンパン2を得た。
【0032】
[実施例3]
油脂組成物Aの代わりに油脂組成物Cを用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地3およびメロンパン3を得た。
【0033】
[実施例4]
油脂組成物Aの代わりに油脂組成物Dを用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地4およびメロンパン4を得た。
【0034】
[比較例1]
油脂組成物Aの代わりに油脂組成物Eを用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地5およびメロンパン5を得た。
【0035】
[比較例2]
油脂組成物Aの代わりに油脂組成物Fを用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地6およびメロンパン6を得た。
【0036】
<ベーカリー用上掛け生地の評価>
実施例1〜4および比較例1〜2で得たベーカリー用上掛け生地1〜6について、その圧延成形時の伸展性を下記評価基準に従って評価を行った。その評価結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
<メロンパンの評価1>
実施例1〜4、比較例1〜2で得られたメロンパン1〜6を包装した後、28℃の恒温器に保管し、ベーカリー用上掛け生地の食感(カリカリした食感)を、焼成から1時間後、12時間後、24時間後および48時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価した。その評価結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
<メロンパンの評価2>
同様に上掛け生地部分の剥がれやすさを、焼成から1時間後、12時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価した。その評価結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3の結果より、本発明のベーカリー用上掛け生地を使用すると、生地物性を良好に保ちながら、上掛け生地焼成部分の焼成直後の食感が良好であり、さらにその食感を長期間維持することができることに加え、上掛け生地部分の剥がれ落ちが防止できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で且つHLB5.5〜8.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を練りこんだことを特徴とするベーカリー用上掛け生地。
【請求項2】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、油脂組成物中0.01〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー用上掛け生地。
【請求項3】
上記油脂組成物がショートニングであることを特徴とする請求項1又は2に記載のベーカリー用上掛け生地。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー用上掛け生地を用いた複合ベーカリー製品。

【公開番号】特開2012−239397(P2012−239397A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110040(P2011−110040)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】