説明

ベーンポンプ

【課題】作動時に吐出圧室を流れる作動油に抵抗を付与するプレート部材を用いることがなく、ポンプ吐出圧が速やかに立ち上がるベーンポンプを提供する。
【解決手段】流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、吸込圧室5の作動流体を拡張するポンプ室7に作動流体を導く吸込圧室51と、収縮するポンプ室7から吐出される作動流体を流体圧供給先(油圧機器14)に導く吐出圧室18と、収縮するポンプ室7に生じる作動流体圧を吐出圧室18を短絡してベーン背圧室6に導く背圧通路20、25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプは、ロータの放射状のスリットに複数のベーンが収められる。各ベーンは、その基端部を押圧するベーン背圧室の圧力と、ロータの回転に伴って働く遠心力とによって、スリットから突出する方向に付勢され、その先端部がカムリングの内周カム面に摺接する。ロータが回転するのに伴って内周カム面に摺接するベーンが往復動してポンプ室が拡縮し、ポンプ室にて加圧された作動油がサイドプレートに開口する吐出ポートからベーンポンプ内の吐出圧室に吐出され、この吐出圧室から油圧機器へと供給される。
【0003】
このようなベーンポンプにあっては、停止状態が続くと、上部に配置されたベーンが重力によってスリットに落ち込むため、起動時にスリットに落ち込んでいたベーンがスリットから突出する動作が遅れると、ポンプ吐出圧の立ち上がりが遅れるという問題が生じる。
【0004】
この対策として、特許文献1に開示されたものは、吐出圧室(8)にサイドプレート側に付勢されたプレート部材(15)が介装され、このプレート部材(15)が吐出ポートとスリット内のベーン背圧室(33)を連通する密閉油室(17)を形成している。
【0005】
起動時に、吐出ポートから吐出圧室(8)に吐出される作動油の全量がベーン背圧室(33)に供給され、停止時に重力によってスリットに落ち込んだベーンがスリットから突出することが促される。
【0006】
起動後に、吐出圧室(8)の吐出圧も高くなるのに伴って、付勢されたプレート部材(15)が移動し、吐出圧室(8)と吐出通路(吐出油路9)を開通させ、吐出ポートから吐出圧室(8)に吐出される作動油が外部に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−196557号公報(特許3759659号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のベーンポンプは、作動時にも付勢されたプレート部材(15)が吐出圧室を流れる作動油に抵抗を付与するため、ベーンポンプの性能が損なわれるという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、作動時に吐出圧室を流れる作動油に抵抗を付与するプレート部材を用いることがなく、ポンプ吐出圧が速やかに立ち上がるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、回転駆動されるロータと、このロータに放射状に形成される複数のスリットと、このスリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、このベーンの基端部とスリットとの間に画成されるベーン背圧室と、ロータが回転するのに伴ってベーンの先端部が摺接する内周カム面と、この内周カム面とロータの外周面及び隣り合うベーンとの間に画成されるポンプ室と、ロータが回転するのに伴って拡張するポンプ室に作動流体を導く吸込圧室と、ロータが回転するのに伴って収縮するポンプ室から吐出される作動流体を流体圧供給先に導く吐出圧室と、ロータが回転するのに伴って収縮するポンプ室に生じる作動流体圧を吐出圧室を短絡してベーン背圧室に導く背圧通路と、を備える構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、起動時にポンプ室に生じる作動流体圧が背圧通路を介してベーン背圧室に導かれ、スリットに落ち込んでいたベーンがベーン背圧室の圧力によってスリットから突出することが促され、ポンプ吐出圧が速やかに立ち上がる。
【0012】
背圧通路は、吐出圧室を含むことなく、吐出圧室を短絡して、高圧ポートと背圧ポートとを連通する構成のため、作動時に吐出圧室を流れる作動流体に抵抗を付与することがなく、ベーンポンプの性能が損なわれない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示すベーンポンプの断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2のB−B線に沿う断面図である。
【図4】カバー側サイドプレートの正面図である。
【図5】他の実施形態を示すベーンポンプの断面図である。
【図6】他の実施形態を示すベーンポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜4に示すベーンポンプ1は、車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や変速機等の油圧供給源として用いられるものである。
【0016】
ベーンポンプ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0017】
ベーンポンプ1は、駆動シャフト9の端部にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動シャフト9に連結されたロータ2が回転する。ロータ2は、図2において矢印で示す方向に回転する。
【0018】
駆動シャフト9は、ポンプボディ10とポンプカバー50に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、ロータ2、カムリング4、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40等が収容されるポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10にはポンプカバー50が締結され、このポンプカバー50によってポンプ収容凹部10aが封止される。
【0019】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aの底部とボディ側サイドプレート30の間には吐出圧室18が画成される。この吐出圧室18に導かれるポンプ吐出圧によってボディ側サイドプレート30がカムリング4の後側の端面に押し付けられ、カムリング4の前側の端面がカバー側サイドプレート40に押し付けられるとともに、カバー側サイドプレート40の前側の端面が後述する仕切プレート55を介してポンプカバー50に押し付けられる。
【0020】
ベーンポンプ1は、ロータ2の回転径方向に往復動自在に設けられる複数のベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容すると共にロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部が摺動するカムリング4とを備える。
【0021】
ロータ2には、複数のスリット5が所定間隔をおいて放射状に形成される。スリット5は、ロータ2の外周面に開口部を有する。ベーン3は、矩形の板状をしており、スリット5に摺動自在に挿入される。
【0022】
カムリング4の内部には、ロータ2の外周面、カムリング4の内周カム面4a、とロータ2の外周面及び隣り合うベーン3によって複数のポンプ室7が画成される。
【0023】
カムリング4は、内周カム面4aが略長円形状をした環状の部材である。ロータ2が1回転するのに伴って、内周カム面4aに追従する各ベーン3が2回往復動する。
【0024】
図2に示すように、ベーンポンプ1は、ベーン3が1回目の往復動をする第一の吸込、吐出領域と、ベーン3が2回目の往復動をする第二の吸込、吐出領域とに分けられる。ポンプ室7は、第一の吸込領域にて拡張し、第一の吐出領域にて収縮し、第二の吸込領域にて拡張し、第二の吐出領域にて収縮する。
【0025】
このように、ベーンポンプ1は、2つの吸込領域及び2つの吐出領域を有するが、これに限らず、1つまたは3つ以上の吸込領域及び1つまたは3つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0026】
ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40におけるロータ2が摺接する各端面には、第一の吸込領域に第一の吸込ポート31、41がそれぞれ開口されるとともに、第二の吸込領域に第二の吸込ポート32、42がそれぞれ開口される。ポンプカバー50によって吸込圧室51が画成される。この吸込圧室51は、第一の吸込ポート31、41、第二の吸込ポート32、42に連通される。吸込圧室51は、吸込通路11を介してタンク12に連通される。
【0027】
ベーンポンプ1の作動時に、タンク12内の作動油が、図1に矢印で示すように、吸込通路11、吸込圧室51、第一の吸込ポート31、41及び第二の吸込ポート32、42を順に通ってポンプ室7に供給される。
【0028】
ボディ側サイドプレート30におけるロータ2が摺接する端面には、第一の吐出領域に第一の吐出ポート(図示せず)が開口されるとともに、第二の吐出領域に第二の吐出ポート(図示せず)がそれぞれ開口される。
【0029】
ポンプボディ10とボディ側サイドプレート30の間には、吐出圧室18が画成される。この吐出圧室18には、第一の吐出ポート及び第二の吐出ポートがそれぞれ開口している。吐出圧室18は、吐出通路13を介して油圧機器(流体圧供給先)14に連通される。
【0030】
ベーンポンプ1の作動時に、ポンプ室7から吐出される加圧作動油は、第一の吐出ポート及び第二の吐出ポート、吐出圧室18、吐出通路13を順に通って油圧機器14に供給される。油圧機器14から排出される作動油は、戻し通路15を通ってタンク12に戻される。
【0031】
スリット5の奥側には、ベーン3の基端部との間にベーン背圧室6が画成される。ベーン3は、その基端部を押圧するベーン背圧室6の圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット5から突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面4aに摺接する。
【0032】
ボディ側サイドプレート30におけるロータ2が摺接する端面には、4つの背圧ポート33が形成される。各背圧ポート33は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に並んで延び、第一の吸込領域、第一の吐出領域、第二の吸込領域、第二の吐出領域のベーン背圧室6にそれぞれ連通される。
【0033】
ボディ側サイドプレート30には、吐出圧室18と各背圧ポート33とを連通する複数の吐出圧導入通孔34が形成される。ベーンポンプ1の作動時に、吐出圧室18に生じるポンプ吐出圧が各吐出圧導入通孔34から各ベーン背圧室6に導かれ、このポンプ吐出圧によってベーン3がスリット5から突出する方向に付勢される。
【0034】
ベーンポンプ1は、第二の吸込領域と第二の吐出領域が上方(図2の矢印参照)に来て、第一の吸込領域と第一の吐出領域が下方に来るように搭載される。
【0035】
ベーンポンプ1の停止状態が続くと、図2に示すように、ベーンポンプ1の上部に位置する第二の吸込領域と第二の吐出領域にあるベーン3が重力によって各スリット5の内奥に落ち込む。一方、ベーンポンプ1の下部に位置する第一の吸込領域と第一の吐出領域にあるベーン3は、重力によって各スリット5から突出して内周カム面4aに当接した状態が維持される。
【0036】
ベーンポンプ1の起動時に、吐出圧室18に生じるポンプ吐出圧が吐出圧導入通孔34からベーン背圧室6に導かれ、このポンプ吐出圧によってベーン3がスリット5から突出しようとするが、所定容積を有する吐出圧室18のポンプ吐出圧が上昇するのに時間がかかるため、各スリット5に落ち込んでいた各ベーン3が各スリット5から突出する動作に時間がかかり、ポンプ吐出圧の立ち上がりが遅れるという問題が生じる。
【0037】
これに対処して、ベーンポンプ1には、ポンプカバー50及びカバー側サイドプレート40側にポンプ室7とベーン背圧室6とを連通する第一、第二の背圧通路20、25が設けられる。第一、第二の背圧通路20、25は、吐出圧室18を含むことなく、吐出圧室18を短絡して、ポンプ室7とベーン背圧室6とを連通する。換言すると、第一、第二の背圧通路20、25は、吐出圧室18を迂回してポンプ室7とベーン背圧室6とを連通する。
【0038】
これにより、ベーンポンプ1の起動時に、ポンプ室7に生じる高圧が、吐出圧室18を短絡する第一、第二の背圧通路20、25からベーン背圧室6に導かれることにより、ベーン背圧室6の圧力が速やかに上昇し、第二の吸込領域にて各スリット5に落ち込んでいた各ベーン3が速やかに突出する。
【0039】
以下、第一、第二の背圧通路20、25に関する具体的な構成について説明する。
【0040】
図4に示すように、カバー側サイドプレート40におけるロータ2が摺接する端面には、4つの背圧ポート45〜48が形成される。各背圧ポート45〜48は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に延びる溝状に形成され、第一の吸込領域、第一の吐出領域、第二の吸込領域、第二の吐出領域のベーン背圧室6にそれぞれ面して開口する。
【0041】
カバー側サイドプレート40におけるロータ2が摺接する端面には、2つの高圧ポート43、44が形成される。各高圧ポート43、44は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に延びる溝状に形成され、第一の吐出領域、第二の吐出領域のポンプ室7にそれぞれ面して開口する。
【0042】
第一の背圧通路20は、第一の吐出領域の高圧ポート43に開口する通孔21と、カバー側サイドプレート40におけるポンプカバー50側の端面49に開口する溝22と、第二の吸込領域の背圧ポート46に開口する通孔23とによって構成され、第一の吐出領域の高圧ポート43と第二の吸込領域の背圧ポート46とを連通する。
【0043】
第二の背圧通路25は、第二の吐出領域の高圧ポート44に開口する通孔26と、カバー側サイドプレート40におけるポンプカバー50側の端面49に開口する溝27と、第一の吸込領域の背圧ポート48に開口する通孔28とによって構成され、第二の吐出領域の高圧ポート44と第一の吸込領域の背圧ポート48とを連通する。
【0044】
図3に示すように、カバー側サイドプレート40とポンプカバー50の間に仕切りプレート55が介装される。仕切りプレート55によって第二の背圧通路25と吸込圧室51の間が仕切られる。
【0045】
吸込圧室51は、図2において逆V字状に延び、吸込通路11を介して導かれる作動油を第一の吸込ポート41と第二の吸込ポート42に分流して導くようになっている。このため、吸込圧室51は、図2において、第二の背圧通路25の一部と重合する位置に設けられている。しかし、仕切りプレート55によって第二の背圧通路25と吸込圧室51の間が仕切られることにより、第二の背圧通路25の作動油が吸込圧室51へ洩れ出すことが回避される。
【0046】
上述したように、第二の背圧通路25を設けるために、仕切りプレート55を設ける必要がある。
【0047】
ベーンポンプ1は、以上のように構成される。ベーンポンプ1の起動時に、第一の吐出領域において、各スリット5から突出していた各ベーン3が内周カム面4aに追従してスリット5に押し込まれ、ポンプ室7が収縮することによって、ポンプ室7の作動油圧が上昇する。こうして、ポンプ室7に生じる高圧が第一の背圧通路20から第二の吸込領域の背圧ポート46に導かれることにより、第二の吸込領域のベーン背圧室6の圧力が速やかに上昇し、第二の吸込領域において、各スリット5に落ち込んでいた各ベーン3が突出し、各ベーン3の先端部が内周カム面4aに摺接してポンプ室7が画成される動作が速やかに行われる。
【0048】
すなわち、第一の吐出領域のポンプ室7に生じる作動油圧によって、第二の吸込領域の各スリット5に落ち込んでいた各ベーン3が突出することが促され、吐出圧室18に導かれるポンプ吐出圧が立ち上がるのにかかる時間を短縮できる。
【0049】
上記ベーンポンプ1の起動時に、第二の吐出領域において、重力によって各ベーン3がスリット5に落ち込んでいる状態では、ポンプ室7が収縮する動作が得られない。したがって、ベーンポンプ1の起動性を高めるためには、第一の背圧通路20のみを設け、第二の背圧通路25を設けない構成としてもよい。
【0050】
上記のように、第一の背圧通路20のみを設け、第二の背圧通路25を設けない場合には、図5に示すように、カバー側サイドプレート40とポンプカバー50の間に仕切りプレートを設ける必要がない。上述したように、図1、4に示す仕切りプレート55は、第二の背圧通路25の作動油が吸込圧室51へ洩れ出すことを止めるものであるため、第二の背圧通路25が設けられない場合には、仕切りプレート55を廃止することが可能となる。図5に示すように、仕切りプレートが廃止された場合には、第一の背圧通路20は、カバー側サイドプレート40の端面49に開口する溝22等とポンプカバー50の端面によって画成される。これにより、第一の背圧通路20の作動油が吸込圧室51へ洩れ出すことが回避される。
【0051】
次に図6に示す他の実施形態を説明する。これは図1〜4の実施形態と基本的に同じ構成を有し、相違する部分のみを説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0052】
図6に示すベーンポンプ1は、ベーン背圧室6が第一、第二の背圧通路20、25のみを介して第一、第二の吐出領域のポンプ室7に連通し、ボディ側サイドプレート30側では吐出圧室18と連通しない構成とする。つまり、ボディ側サイドプレート30には、前記実施形態における吐出圧導入通孔34が形成されない。換言すると、ベーン背圧室6は、第一、第二の背圧通路20、25とポンプ室7と吐出ポート(図示せず)のみを介して吐出圧室18と連通している。
【0053】
この場合に、ベーンポンプ1の起動時に、各ベーン背圧室6の作動油が吐出圧室18に流出することが抑えられ、ベーン背圧室6の圧力が上昇するのにかかる時間をさらに短縮できる。
【0054】
作動時に各高圧ポート43、44から各背圧ポート45〜48に高圧が導かれる。各ベーン3は、各背圧ポート45〜48から各ベーン背圧室6に導かれる圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット5から突出する方向に付勢される。
【0055】
以下、本発明の要旨と作用、効果を説明する。
【0056】
(ア)本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、回転駆動されるロータ2と、このロータ2に放射状に形成される複数のスリット5と、このスリット5から摺動可能に突出する複数のベーン3と、このベーン3の基端部とスリット5との間に画成されるベーン背圧室6と、ロータ2が回転するのに伴ってベーン3の先端部が摺接する内周カム面4aと、この内周カム面4aとロータ2の外周面及び隣り合うベーン3との間に画成されるポンプ室7と、ロータ2が回転するのに伴って拡張するポンプ室7に作動流体を導く吸込圧室51と、ロータ2が回転するのに伴って収縮するポンプ室7から吐出される作動流体を流体圧供給先(油圧機器14)に導く吐出圧室18と、ロータ2が回転するのに伴って収縮するポンプ室7に生じる作動流体圧を吐出圧室18を短絡してベーン背圧室6に導く背圧通路20、25と、を備える構成とした。
【0057】
上記構成に基づき、起動時にポンプ室7に生じる作動流体圧が背圧通路20、25を介してベーン背圧室6に導かれ、スリット5に落ち込んでいたベーン3がベーン背圧室6の圧力によってスリット5から突出することが促され、ポンプ吐出圧が速やかに立ち上がり、起動性が改善される。
【0058】
背圧通路20、25は、吐出圧室18を含むことなく、吐出圧室18を短絡して高圧ポート43、44と背圧ポート46、48と連通する構成のため、作動時に吐出圧室18を流れる作動流体に抵抗を付与することがなく、ベーンポンプ1の性能が損なわれない。
【0059】
(イ)本発明は、ロータ2が回転するのに伴って収縮するポンプ室7に連通する高圧ポート43、44と、ベーン背圧室6に連通する背圧ポート46、48と、を備え、背圧通路20、25は高圧ポート43、44と背圧ポート46、48とを連通する構成とした。
【0060】
上記構成に基づき、ポンプ室7に生じる作動流体圧が高圧ポート43、44と背圧通路20、25と背圧ポート46、48を介してベーン背圧室6に導かれる。
【0061】
(ウ)本発明は、ロータ2及びベーン3を挟むように設けられる二つのサイドプレート30、40を備え、一方のサイドプレート30によって吐出圧室18が画成され、他方のサイドプレート40によって背圧通路20、25が画成される構成とした。
【0062】
上記構成に基づき、ベーンポンプ1内の限られたスペースにおいて、吐出圧室18と背圧通路20、25をロータ2、ベーン3を挟んで設けることが可能となり、背圧通路20、25の通路断面積が十分に確保されるとともに、ベーンポンプ1の大型化が避けられる。
【0063】
(エ)本発明は、ロータ2及びベーン3を挟むように設けられるボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40と、ロータ2、カムリング4、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40が収容されるポンプ収容凹部10aを有するポンプボディ10と、ポンプ収容凹部10aを封止するポンプカバー50と、を備え、ボディ側サイドプレート30とポンプボディ10との間に吐出圧室18が画成され、カバー側サイドプレート40によって背圧通路20、25が画成される構成とした。
【0064】
上記構成に基づき、ベーンポンプ1内の限られたスペースにおいて、吐出圧室18と背圧通路20、25をロータ2、ベーン3を挟んで設けることが可能となり、背圧通路20、25の通路断面積が十分に確保されるとともに、ベーンポンプ1の大型化が避けられる。
【0065】
(オ)本発明は、カバー側サイドプレート40とポンプカバー50との間に吸込圧室51が画成され、カバー側サイドプレート40とポンプカバー50との間に介装される仕切りプレート55を備え、この仕切りプレート55によって背圧通路20、25と吸込圧室51とが仕切られる構成とした。
【0066】
上記構成に基づき、ベーンポンプ1内の限られたスペースにおいて、背圧通路20、25と吸込圧室51を互いに連通することなく設けることが可能となり、背圧通路20、25と吸込圧室51の通路断面積がそれぞれ十分に確保されるとともに、ベーンポンプ1の大型化が避けられる。
【0067】
(カ)本発明は、背圧通路20は、ベーンポンプ1の下部に位置してポンプ室7が収縮する吐出領域のベーン背圧室6と、ベーンポンプ1の上部に位置してポンプ室7が拡張する吸込領域のベーン背圧室6とを連通する構成とした。
【0068】
上記構成に基づき、ベーンポンプ1の下部に位置して各スリット5から突出していた各ベーン3を介して収縮するポンプ室7に生じる作動油圧によって、ベーンポンプ1の上部に位置して各スリット5に落ち込んでいた各ベーン3が突出することが促され、ポンプ吐出圧が速やかに立ち上がり、起動性が改善される。
【0069】
(キ)本発明は、ベーン背圧室6が背圧通路20、25のみを介してポンプ室7と連通する構成とした。
【0070】
上記構成に基づき、起動時に、ベーン背圧室6の作動流体が吐出圧室18に流出することを抑えられ、ベーン背圧室6の圧力が上昇するのにかかる時間をさらに短縮できる。
【0071】
本発明は、上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0072】
前記本実施形態では、背圧通路20の一部が、カバー側サイドプレート40の溝22と仕切りプレート55またはポンプカバー50の端面によって画成される構成としたが、これに限らず、カバー側サイドプレート40内に形成される通孔のみによって背圧通路20が画成される構成としてもよい。
【0073】
前記実施形態では、背圧ポート46、48、高圧ポート43、44、背圧通路20が、それぞれカバー側サイドプレート40に形成される構成としたが、これに限らず、カバー側サイドプレート40を廃止し、これらがポンプカバー50に形成される構成としてもよい。
【0074】
前記実施形態では、吐出ポート(図示せず)がボディ側サイドプレート30に形成され、背圧ポート46、48、高圧ポート43、44、背圧通路20がカバー側サイドプレート40に形成される構成としたが、これに限らず、背圧ポート46、48、高圧ポート43、44、背圧通路20が吐出ポート(図示せず)と共にボディ側サイドプレート30に形成される構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のベーンポンプは、車両に搭載される油圧機器に限らず、例えば建設機械、作業機械、他の機械、設備等の負荷を駆動する流体圧供給源として利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 ベーンポンプ
2 ロータ
3 ベーン
4a 内周カム面
5 スリット
6 ベーン背圧室
7 ポンプ室
10 ポンプボディ
10a ポンプ収容凹部
11 吸込通路
12 タンク
13 吐出通路
14 油圧機器(流体圧供給先)
18 吐出圧室
20、25 背圧通路
30 ボディ側サイドプレート
33 背圧ポート
34 吐出圧導入通孔
40 カバー側サイドプレート
41 吸込ポート
42 吸込ポート
43、44 高圧ポート
45〜48 背圧ポート
50 ポンプカバー
51 吸込圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、
回転駆動されるロータと、
前記ロータに放射状に形成される複数のスリットと、
前記スリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、
前記ベーンの基端部と前記スリットとの間に画成されるベーン背圧室と、
前記ロータが回転するのに伴って前記ベーンの先端部が摺接する内周カム面と、
前記内周カム面と前記ロータの外周面及び隣り合う前記ベーンとの間に画成されるポンプ室と、
前記ロータが回転するのに伴って拡張する前記ポンプ室に作動流体を導く吸込圧室と、
前記ロータが回転するのに伴って収縮する前記ポンプ室から吐出される作動流体を流体圧供給先に導く吐出圧室と、
前記ロータが回転するのに伴って収縮する前記ポンプ室に生じる作動流体圧を前記吐出圧室を短絡して前記ベーン背圧室に導く背圧通路と、を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ロータが回転するのに伴って収縮する前記ポンプ室に連通する高圧ポートと、
前記ベーン背圧室に連通する背圧ポートと、を備え、
前記背圧通路は前記高圧ポートと前記背圧ポートとを連通することを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ロータ及び前記ベーンを挟むように設けられる二つのサイドプレートを備え、
一方の前記サイドプレートによって前記吐出圧室が画成され、
他方の前記サイドプレートによって前記背圧通路が画成されることを特徴とする請求項1または2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ロータ及び前記ベーンを挟むように設けられるボディ側サイドプレート及びカバー側サイドプレートと、
前記ロータ、前記カムリング、前記ボディ側サイドプレート及び前記カバー側サイドプレートが収容されるポンプ収容凹部を有するポンプボディと、
前記ポンプ収容凹部を封止するポンプカバーと、を備え、
前記ボディ側サイドプレートと前記ポンプボディとの間に前記吐出圧室が画成され、
前記カバー側サイドプレートによって前記背圧通路が画成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記カバー側サイドプレートと前記ポンプカバーとの間に前記吸込圧室が画成され、
前記カバー側サイドプレートと前記ポンプカバーとの間に介装される仕切りプレートを備え、
前記仕切りプレートによって前記背圧通路と前記吸込圧室とが仕切られることを特徴とする請求項4に記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記背圧通路は、前記ベーンポンプの下部に位置して前記ポンプ室が収縮する吐出領域の前記ベーン背圧室と、前記ベーンポンプの上部に位置して前記ポンプ室が拡張する吸込領域の前記ベーン背圧室とを連通することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のベーンポンプ。
【請求項7】
前記ベーン背圧室が前記背圧通路のみを介し前記ポンプ室に連通することを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19374(P2013−19374A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154655(P2011−154655)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】