説明

ベーンポンプ

【課題】ロータのベーンリングが設けられる側と反対側とにそれぞれ生じる流体圧力分布を均等にするベーンポンプを提供する。
【解決手段】流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、ベーン3の基端部に対峙するベーンリング61と、スリット5の一端5aが開口してベーンリング61が収容されるベーンリング収容室60と、スリット5の他端5bが開口してロータ2をベーンリング61側に押す方向に流体圧力を作用させるベーンリング反対側圧力室20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプは、ロータの放射状のスリットに複数のベーンが収められる。各ベーンは、その基端部を押圧するベーン背圧室の油圧力と、ロータの回転に伴って働く遠心力とによって、スリットから突出する方向に付勢され、その先端部がカムリングの内周カム面に摺接する。ロータが回転するのに伴って内周カム面に摺接するベーンが往復動してポンプ室が拡縮し、ポンプ室にて加圧された作動油がサイドプレートに開口する吐出ポートからベーンポンプ内の吐出圧室に吐出され、この吐出圧室から油圧機器へと供給される。
【0003】
このようなベーンポンプにあっては、ロータの回転停止状態が続くと、ロータの上部にあるベーンが重力によってスリットの奥に下降するため、起動時にベーンがスリットから突出する動作が遅れて、ポンプ吐出圧の立ち上がりが遅れる可能性があった。
【0004】
この対策として、特許文献1に開示されたベーンポンプは、サイドプレートから突出するベーンリング(ベーンガイド)を備える。このベーンリングは、ロータの回転停止時にベーンの基端部を係止してベーンをスリット(ベーン溝)から強制的に突出させるものである。
【0005】
上記のベーンポンプは、ロータの一方の端面(側面)に開口してベーンリングが収容されるベーンリング収容溝と、ロータの他方の端面に開口にしてポンプ吐出圧が間欠的に導かれる複数の油溜め用凹部とを備えている。ベーンリング収容溝と各油溜め用凹部にポンプ吐出油がそれぞれ供給され、ロータとサイドプレートの隙間に油膜が形成され、摺動接触による焼き付きが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−360473号公報(特許4286065号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のベーンポンプは、ロータの端面において、スリットの開口部と油溜め用凹部が互いに仕切られているため、ベーンが往復動してベーン背圧室を拡縮する動作によって生じる各油溜め用凹部とベーンリング収容溝の圧力分布が異なり、ロータがサイドプレートに押し付けられ、ロータの摺動抵抗が増え、油膜が切れて焼き付きが生じる可能性があった。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ロータのベーンリングが設けられる側と反対側とにそれぞれ生じる流体圧力分布を均等にするベーンポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、回転駆動されるロータと、このロータに放射状に形成される複数のスリットと、このスリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、このベーンの基端部とスリットとの間に画成されるベーン背圧室と、ロータが回転するのに伴ってベーンの先端部が摺接するカムリングと、このカムリングとロータと隣り合うベーンとの間に画成されるポンプ室と、ベーンの基端部に対峙するベーンリングと、スリットの一端が開口してベーンリングが収容されるベーンリング収容室と、スリットの他端が開口してロータをベーンリング側に押す方向に流体圧力を作用させるベーンリング反対側圧力室と、を備える構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベーンリング収容室とベーンリング反対側圧力室がスリットを介して互いに連通されるため、ロータの両側に生じる流体圧力分布が均等になり、ロータの摺動抵抗が小さく抑えられるとともに、ロータの摺動部に焼き付き等が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態を示すベーンポンプの断面図である。
【図2】ベーンポンプの通路構成を示す背面図である。
【図3】ロータを前方から見た斜視図である。
【図4】ロータ等の断面図である。
【図5】ロータを後方から見た斜視図である。
【図6】ベーンポンプの内部構成を示す背面図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示すロータを後方から見た斜視図である。
【図8】ロータの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1、2に示すベーンポンプ1は、車両に搭載される油圧機器14として、例えば、パワーステアリング装置や変速機等の油圧供給源として用いられるものである。
【0014】
ベーンポンプ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0015】
ベーンポンプ1は、駆動シャフト9の端部にエンジンまたは電動モータ(図示せず)の動力が伝達され、駆動シャフト9に連結されたロータ2が図2において矢印で示す方向に回転する。
【0016】
駆動シャフト9は、ポンプボディ10とポンプカバー50に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、ポンプ収容凹部10aが形成される。このポンプ収容凹部10aに、ロータ2、カムリング4、ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40等が収容される。ポンプボディ10には、ポンプカバー50が締結され、このポンプカバー50によってポンプ収容凹部10aが封止される。
【0017】
ポンプ収容凹部10aの底部とボディ側サイドプレート30の間には、吐出圧室(高圧室)18が画成される。この吐出圧室18に導かれるポンプ吐出圧によってボディ側サイドプレート30がカムリング4の後側(図1にて左側)の端面に押し付けられ、カムリング4の前側(図1にて右側)の端面がカバー側サイドプレート40に押し付けられるとともに、カバー側サイドプレート40の前側の端面がポンプカバー50に押し付けられる。
【0018】
ベーンポンプ1は、ロータ2の回転径方向に往復動自在に設けられる複数のベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容するカムリング4とを備える。ロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部がカムリング4の内周カム面4aに摺接するる。
【0019】
ロータ2には、複数のスリット5が一定の間隔をもって放射状に形成される。スリット5は、ロータ2の外周面2aに開口部を有する。ベーン3は、略矩形の平板状をしており、スリット5に摺動自在に挿入される。
【0020】
カムリング4の内部には、ロータ2の外周面、カムリング4の内周カム面4a、とロータ2の外周部及び隣り合うベーン3によって複数のポンプ室7が画成される。
【0021】
カムリング4は、内周カム面4aが略長円形状をした環状の部材である。ロータ2が1回転するのに伴って、内周カム面4aに追従する各ベーン3が2回往復動する。
【0022】
図2に示すように、ベーンポンプ1には、ベーン3が1回目の往復動をする第一の吸込、吐出領域と、ベーン3が2回目の往復動をする第二の吸込、吐出領域とが設けられる。ポンプ室7は、第一の吸込領域にて拡張し、第一の吐出領域にて収縮し、第二の吸込領域にて拡張し、第二の吐出領域にて収縮する。
【0023】
このように、ベーンポンプ1は、2つの吸込領域及び2つの吐出領域を有するが、これに限らず、1つまたは3つ以上の吸込領域及び1つまたは3つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0024】
ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40におけるロータ2が摺接する各端面39、49(図4参照)には、第一の吸込領域に第一の吸込ポート31、41がそれぞれ開口されるとともに、第二の吸込領域に第二の吸込ポート32、42がそれぞれ開口される。
【0025】
ポンプカバー50によって吸込圧室51が画成される。この吸込圧室51は、吸込通路11を介してタンク12に連通されるとともに、第一の吸込ポート31、41、第二の吸込ポート32、42に連通される。
【0026】
ベーンポンプ1の作動時に、タンク12内の作動流体が、図1に矢印で示すように、吸込通路11、吸込圧室51、第一の吸込ポート31、41及び第二の吸込ポート32、42を順に通ってポンプ室7に供給される。
【0027】
ボディ側サイドプレート30におけるロータ2が摺接する端面には、第一の吐出領域に第一の吐出ポート43が開口されるとともに、第二の吐出領域に第二の吐出ポート44がそれぞれ開口される。
【0028】
一方、ポンプボディ10とボディ側サイドプレート30の間に画成される吐出圧室18は、第一の吐出ポート43及び第二の吐出ポート44がそれぞれ開口されるとともに、吐出通路13を介して油圧機器(流体圧供給先)14に連通される。
【0029】
ベーンポンプ1の作動時に、ポンプ室7から吐出される加圧作動流体は、第一の吐出ポート43及び第二の吐出ポート44、吐出圧室18、吐出通路13を順に通って油圧機器14に供給される。油圧機器14から排出される作動流体は、戻し通路15を通ってタンク12に戻される。
【0030】
スリット5の奥側には、ベーン3の基端部との間にベーン背圧室6が画成される。
【0031】
ボディ側サイドプレート30におけるロータ2が摺接する端面39には、2つの背圧ポート33が形成される。各背圧ポート33は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に並んで延び、第一の吸込領域、第二の吸込領域のベーン背圧室6にそれぞれ連通される。第一の吐出領域、第二の吐出領域には、背圧ポートが設けられない。
【0032】
ボディ側サイドプレート30には、吐出圧室18と各背圧ポート33とを連通する複数の吐出圧導入通孔34が形成される。ベーンポンプ1の作動時に、ロータ2の回転に伴って各ベーン背圧室6が背圧ポート33に間欠的に連通して、吐出圧室18に生じるポンプ吐出圧が各吐出圧導入通孔34から背圧ポート33を通って各ベーン背圧室6に導かれ、このポンプ吐出圧によってベーン3がスリット5から突出する方向に付勢される。
【0033】
ベーンポンプ1の作動時に、ベーン3は、その基端部を押圧するベーン背圧室6の流体圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット5から突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面4aに摺接する。ロータ2が回転するのに伴って内周カム面4aに摺接するベーン3が往復動してポンプ室7が拡縮し、ポンプ室7にて加圧された作動流体が吐出ポート43、44から吐出圧室18に吐出される。
【0034】
ベーンポンプ1は、カバー側サイドプレート40からロータ2の内側に突出するベーンリング61を備える。このベーンリング61は、その外周面61aがベーン3の基端部に対峙し、ロータ2の回転停止時にベーン3の下降を係止するものである。ロータ2の回転停止時に、ロータ2の上部に位置するベーン3が重力によってスリット5の奥に下降しようとするが、ベーン3の基端部がベーンリング61の外周面61aに当接することによって、ベーン3の下降が係止される。
【0035】
ベーンリング61の外周面61aは、カムリング4の内周カム面4aと略相似形状(略長円形状)をして、内周カム面4aに対するロータ2の回転径方向の距離が略一定になっている。ロータ2の回転を始めるときに、ベーン3の基端部がベーンリング61の外周面61aに摺接することによって、ベーン3がスリット5から強制的に突出する。
【0036】
ベーンリング61は、カバー側サイドプレート40とは別部材によって形成され、カバー側サイドプレート40に締結される。なお、これに限らず、ベーンリング61は、カバー側サイドプレート40に一体形成される構成としてもよい。
【0037】
また、ベーンリング61は、リング状(環状)に限らず、複数のガイド部材またはカバー側サイドプレート40に一体形成される複数の凸部によって構成してもよい。
【0038】
図3の(A)は、ロータ2の前側(図1にて右側)を示す斜視図であり、(B)は、ロータ2にベーンリング61が介在した状態を示す斜視図である。ロータ2のカバー側端面21には、ベーンリング61が収容されるベーンリング収容溝22が形成される。円環状のベーンリング収容溝22は、ロータ2の回転中心軸と同心上に形成される。
【0039】
ベーンリング収容溝22には、スリット5の奥部が開口する。スリット5に収容されるベーン3は、その基端部がベーンリング61の外周面61aに当接可能に対峙する。
【0040】
ロータ2の回転停止状態が続くと、ロータ2の上部に位置する第二の吸込領域と第二の吐出領域にあるベーン3が、重力によってわずかに下降して、その基端部がベーンリング61の外周面61aに当接する。こうして、ベーン3の下降が係止されることにより、ベーン3の先端部が内周カム面4aに接近して対峙する状態が維持される。
【0041】
ベーンポンプ1の起動時に、予めベーン3の先端部が内周カム面4aに接近してポンプ室7が画成されているため、ロータ2の回転に伴ってポンプ室7が収縮する動作が速やかに行われ、ポンプ吐出圧の立ち上がりを早められる。
【0042】
図4に示すように、ベーンリング収容溝22とカバー側サイドプレート40の端面49とロータ2との間には、ベーンリング収容室60が画成される。このベーンリング収容室60には、吐出圧室18に生じるポンプ吐出圧が各吐出圧導入通孔34、各ベーン背圧室6を通って導かれる。
【0043】
ベーンリング収容溝22の底部22aは、ベーンリング収容室60に導かれる流体圧力を受けてロータ2をその回転軸方向について後方向(図1にて左方向)に押す受圧面となる。
【0044】
図5は、ロータ2の後側(図1にて左側)を示す斜視図である。ロータ2のボディ側端面23には、ベーン3と同数(12個)のスリット開口凹部24が形成される。このスリット開口凹部24とボディ側サイドプレート30及びベーン3との間にベーンリング反対側圧力室20が画成される。
【0045】
スリット開口凹部24は、ロータ2のボディ側端面23に対して凹状に窪む。ロータ2は、スリット開口凹部24を囲む部位として、ロータ2の回転中心軸と同心上に延びる円環状の内周壁部25及び外周壁部26と、ロータ2の回転中心軸を中心とする放射状に延びる隔壁部27とを有する。
【0046】
図6は、ロータ2、ベーン3、カムリング4の背面図である。各隔壁部27は、周方向について一定の間隔をもち、各スリット開口凹部24の開口面積が互いに均等になるように形成される。各スリット5と各スリット開口凹部24は、ロータ2の周方向に一定の間隔をもって放射状に並ぶ。
【0047】
スリット5は、スリット開口凹部24の底部24aと、外周壁部26と、ロータ2の外周面2aに渡って開口している。
【0048】
スリット開口凹部24とボディ側サイドプレート30との間には、ベーンリング反対側圧力室20が画成される。このベーンリング反対側圧力室20は、ロータ2の端面23に対してスリット5が開口する部位毎に凹状に窪むスリット開口凹部24によって画成され、スリット5と同数(12)が設けられる。
【0049】
スリット開口凹部24の底部24aは、ベーンリング反対側圧力室20に導かれる流体圧力を受けてロータ2をその回転軸方向について前方向(図1にて右方向)に押す受圧面となる。
【0050】
上記各スリット開口凹部24の受圧面の面積(開口面積)の総和は、ベーンリング収容溝22の受圧面の面積(開口面積)と同等になるように設定される。ロータ2の両端面21、23の面積が互いに同等になるように設定される。
【0051】
ロータ2の製造時にロータ2の両端面21、23が同時に研磨されるが、ロータ2の両端面21、23の研磨面積が互いに同等であるため、ロータ2の両頭平研時にロータ2の両端面21、23を均等に研磨することができる。
【0052】
ベーンポンプ1の作動時に、第一、第二の吐出領域において、ベーン3がスリット5に入り、第一、第二の吸込領域において、ベーン3がスリット5から突出する動作が繰り返され、ベーン背圧室6が拡縮される。
【0053】
第一、第二の吸込領域において、拡張するベーン背圧室6は、ボディ側サイドプレート30に開口する背圧ポート33に間欠的に連通して、吐出圧室18からポンプ吐出圧が導かれる。このポンプ吐出圧によってスリット5からベーン3が突出し、ベーン3の先端部が内周カム面4aに摺接してポンプ室7が画成される。
【0054】
第一、第二の吐出領域において、収縮するベーン背圧室6で加圧される作動流体が、ボディ側サイドプレート30側でベーンリング反対側圧力室20に流出する一方、カバー側サイドプレート40側でベーンリング収容室60に流出する
第一、第二の吐出領域において、ボディ側サイドプレート30に開口する背圧ポート33が設けられていないため、ベーン背圧室6で加圧される作動流体がベーンリング反対側圧力室20を通って背圧ポート33に流出することを抑えられる。これにより、ベーン背圧室6の流体圧力が適度に高められ、ベーン3がカムリング4に円滑に追従する。
【0055】
第一、第二の吐出領域において、スリット5の開口部の広い範囲にベーンリング61が対峙しているため、ベーン背圧室6で加圧される作動流体がベーンリング収容室60に流出することを抑えられる。これにより、ベーン背圧室6の流体圧力が適度に高められ、ベーン3がカムリング4に円滑に追従する。
【0056】
各スリット開口凹部24の受圧面の面積の総和が、ベーンリング収容溝22の受圧面の面積と同等になるように設定されているため、ロータ2の両受圧面に作用する流体圧力によってロータ2がその回転軸方向に押される力が相殺される。
【0057】
スリット5は、その両端5a、5bがベーンリング収容溝22とスリット開口凹部24にそれぞれ開口し、ベーンリング収容室60とベーンリング反対側圧力室20とを連通するため、ベーンリング収容室60の流体圧力とベーンリング反対側圧力室20の流体圧力分布が均等になり、ロータ2がその回転軸方向についてベーンリング収容溝22に受ける流体圧力により後方向(図1にて左方向)に押される力と、スリット開口凹部24に受ける流体圧力により前方向(図1にて右方向)に押される力とが釣り合う。これにより、ロータ2の端面21、23が、カバー側、ボディ側サイドプレート40、30の端面39、49に強く押し付けられることが抑えられ、ロータ2の摺動抵抗が小さく抑えられるとともに、摺動部に焼き付き等が生じることを防止できる。
【0058】
(第2実施形態)
次に図7、8に示す第2実施形態を説明する。図7は、ロータ2の斜視図、図8はロータ2の背面図である。これは第1実施形態と基本的に同じ構成を有し、相違する部分のみを説明する。なお第1実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0059】
スリット開口凹部24を画成する隔壁部27に連通溝28を形成し、この連通溝28とボディ側サイドプレート30との間に絞り通路70が画成される。この絞り通路70によって隣り合うスリット開口凹部24どうしが互いに連通される。
【0060】
なお、これに限らず、隔壁部27を貫通する連通孔(図示せず)を形成し、この連通孔によって隣り合うスリット開口凹部24どうしを連通する絞り通路70が画成される構成としてもよい。
【0061】
上記構成に基づき、吐出領域において収縮するベーン背圧室6の作動流体が、スリット5からベーンリング反対側圧力室20に流出し、このベーンリング反対側圧力室20から絞り通路70を通って隣り合うベーンリング反対側圧力室20に流出する。絞り通路70が隣り合うベーンリング反対側圧力室20の間を流れる作動流体の流れを適度に絞ることによって、ベーン背圧室6の流体圧力が適度に高められ、ベーン3がカムリング4に円滑に追従する。これにより、各ベーンリング反対側圧力室20に面するロータ2の端面23の圧力分布がロータ2の周方向についてより均等化され、ロータ2に付与される圧力バランスがよくなるため、ロータ2が円滑に回転する。
【0062】
各スリット開口凹部24及び各連通溝28の受圧面の面積の総和が、ベーンリング収容溝22の受圧面の面積と同等になるように設定される。これにより、ロータ2の両受圧面に作用する流体圧力によってロータ2がその回転軸方向に押される力が相殺される。
【0063】
さらに他の実施形態として、ボディ側サイドプレート30の端面39に凹状に窪むスリット開口凹部(図示せず)を形成し、このスリット開口凹部とロータ2の端面23の間にベーンリング反対側圧力室20を画成する構成としてもよい。
【0064】
また、カムリング4がポンプボディ10に一体形成される構成としてもよい。また、ボディ側サイドプレート30がポンプボディ10に一体形成される構成としてもよい。また、カバー側サイドプレート40がポンプカバー50に一体形成される構成としてもよい。
【0065】
以下、本発明の要旨と作用、効果を説明する。
【0066】
(ア)本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、回転駆動されるロータ2と、このロータ2に放射状に形成される複数のスリット5と、このスリット5から摺動可能に突出する複数のベーン3と、このベーン3の基端部とスリット5との間に画成されるベーン背圧室6と、ロータ2が回転するのに伴ってベーン3の先端部が摺接するカムリング4と、このカムリング4とロータ2と隣り合うベーン3との間に画成されるポンプ室7と、ロータ2が回転するのに伴って拡張するポンプ室7に作動流体を導く吸込圧室51と、ロータ2が回転するのに伴って収縮するポンプ室7から吐出される作動流体を導く吐出圧室18と、ベーン3の基端部に対峙するベーンリング61と、スリット5の一端5aが開口してベーンリング61が収容されるベーンリング収容室60と、スリット5の他端5bが開口してロータ2をベーンリング61側に押す方向に流体圧力を作用させるベーンリング反対側圧力室20と、を備える構成とした(図1〜8参照)。
【0067】
上記構成に基づき、ベーンリング収容室60とベーンリング反対側圧力室20がスリット5を介して互いに連通されるため、ロータ2の両側に生じる流体圧力分布が均等になり、ロータ2の摺動抵抗が小さく抑えられるとともに、ロータ2の摺動部に焼き付き等が生じることを防止できる。
【0068】
(イ)ロータ2の端面23に対してスリット5が開口する部位毎に凹状に窪むスリット開口凹部24が形成され、このスリット開口凹部24とロータ2が摺接するサイドプレート30との間にベーンリング反対側圧力室20が画成される構成とした(図1〜8参照)。
【0069】
上記構成に基づき、吐出領域においてベーン3によって収縮されるベーン背圧室6の作動流体がベーンリング反対側圧力室20に流出することが抑えられ、ベーン背圧室6の流体圧力が高く保たれ、ポンプ性能の向上がはかられる。
【0070】
(ウ)ベーンリング反対側圧力室20は、隣り合うスリット開口凹部24どうしを連通する絞り通路70を備える構成とした(図7、8参照)。
【0071】
上記構成に基づき、吐出領域において収縮するベーン背圧室6の作動流体がベーンリング反対側圧力室20を介して流出する流量が絞り通路70によって調整され、ベーン背圧室6の流体圧力が適度に保たれ、ポンプ性能の向上がはかられる。これにより、各ベーンリング反対側圧力室20に面するロータ2の端面23の圧力分布がロータ2の周方向についてより均等化され、ロータ2に付与される圧力バランスがよくなるため、ロータ2が円滑に回転する。
【0072】
(エ)ベーンリング反対側圧力室20を画成する受圧面の面積の総和と、ベーンリング収容溝22の受圧面の面積とが同等である構成とした(図1〜8参照)。
【0073】
上記構成に基づき、ロータ2の両受圧面に作用する流体圧力によってロータ2がその回転軸方向に押される力が相殺され、ロータ2の摺動抵抗が小さく抑えられるとともに、ロータ2の摺動部に焼き付き等が生じることを防止できる。
【0074】
(オ)ロータ2が摺接するサイドプレート30に開口してポンプ吐出圧をベーンリング反対側圧力室20を介してベーン背圧室6に導く背圧ポート33を備え、この背圧ポート33は、ポンプ室7が拡張する吸込領域のみに設けられて、ポンプ室7が収縮する吐出領域に設けられない構成とする(図2参照)。
【0075】
吐出領域において、ボディ側サイドプレート30に開口する背圧ポート33が設けられていないため、ベーン背圧室6で加圧される作動流体がベーンリング反対側圧力室20を通って背圧ポート33に流出することを抑えられることにより、ベーン背圧室6の流体圧力が高く保たれ、ポンプ性能の向上がはかられる。
【0076】
本発明は、上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のベーンポンプは、車両に搭載される流体圧機器に限らず、例えば建設機械、作業機械、他の機械、設備等の負荷を駆動する流体圧供給源として利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 ベーンポンプ
2 ロータ
3 ベーン
4 カムリング
5 スリット
5a スリットの一端
5b スリットの他端
6 ベーン背圧室
7 ポンプ室
18 吐出圧室
20 ベーンリング反対側圧力室
22 ベーンリング収容溝
22a 底部
24 スリット開口凹部
28 連通溝
33 背圧ポート
51 吸込圧室
60 ベーンリング収容室
61 ベーンリング
70 絞り通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、
回転駆動されるロータと、
前記ロータに放射状に形成される複数のスリットと、
前記スリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、
前記ベーンの基端部と前記スリットとの間に画成されるベーン背圧室と、
前記ロータが回転するのに伴って前記ベーンの先端部が摺接するカムリングと、
前記カムリングと前記ロータと隣り合う前記ベーンとの間に画成されるポンプ室と、
前記ベーンの基端部に対峙するベーンリングと、
前記スリットの一端が開口して前記ベーンリングが収容されるベーンリング収容室と、
前記スリットの他端が開口して前記ロータを前記ベーンリング側に押す方向に流体圧力を作用させるベーンリング反対側圧力室と、を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ロータの端面に対して前記スリットが開口する部位毎に凹状に窪むスリット開口凹部が形成され、
前記スリット開口凹部と前記ロータが摺接するサイドプレートとの間に前記ベーンリング反対側圧力室が画成されることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ベーンリング反対側圧力室は、隣り合う前記スリット開口凹部どうしを連通する絞り通路を備えることを特徴とする請求項2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ベーンリング反対側圧力室を画成する受圧面の面積の総和と、前記ベーンリング収容溝の受圧面の面積とが同等であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ロータが摺接するサイドプレートに開口してポンプ吐出圧を前記ベーンリング反対側圧力室を介して前記ベーン背圧室に導く背圧ポートを備え、
前記背圧ポートは、前記ポンプ室が拡張する吸込領域のみに設けられて、前記ポンプ室が収縮する吐出領域に設けられないことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79592(P2013−79592A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219301(P2011−219301)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】