説明

ペロブスカイト型化合物粉末の製造方法

【構成】Ba、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物と、比表面積が50m2 /g以上の、Ti、Zr、HfおよびSnをから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物とからなる水性懸濁液を水熱処理して得られたペロブスカイト型化合物を圧密粉砕機で粉砕する。
【効果】不純物の含有量が少なく、バインダに対する分散性のよい微粒子のペロブスカイト型化合物粉末が得られる。このペロブスカイト型化合物粉末は低温焼結性に優れ、焼結体としたときの充填率を高めることができ、誘電性や圧電性などの特性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ペロブスカイト型化合物粉末の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ペロブスカイト型化合物とは、化学式RMX3 で示される複酸化物に見られるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物のことであり、たとえば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、スズ酸カルシウムなどが挙げられる。ペロブスカイト型化合物を焼結させて得られる焼結体は、優れた誘電性、圧電性さらには半導性を有することから、コンデンサ、電波フィルター、着火素子、サーミスターなどの電気・電子工業用材料として有用な物質である。
【0003】ペロブスカイト型化合物を製造するには、各元素の酸化物や炭酸塩を混合し、焼成するいわゆる固相合成法、各元素のシュウ酸塩を水系で合成したり、各元素のシュウ酸塩を固相で混合したりした後、焼成するいわゆるシュウ酸塩法、各元素の水溶液とアルカリ水溶液とを混合し、水熱処理した後、濾過し、洗浄し、乾燥するいわゆる水熱合成法などの方法がある。このようにして得られたペロブスカイト型化合物を、通常は、解砕あるいは粉砕して粉末とし、該粉末をバインダと混合した後、シート成形法や印刷法などの方法を用いて基板上に粉末層を形成させ、次いで、焼結させて焼結体としている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年の電気機器・電子機器の小型化、軽量化、高性能化、多機能化に伴い、それを構成する部品や原材料に対する性能要求はさらに厳しくなっている。たとえば、コンピュータなどの集積回路に用いられる積層コンデンサは、ペロブスカイト型化合物の焼結体の薄層と内部電極が交互に多数積み重ねられ、電気的に並列接続された構造をとっている。この積層コンデンサの小型化、高容量化などの要求に伴い、焼結体の薄層化、高誘電率化が一段と望まれており、このため、焼結体の原材料であるペロブスカイト型化合物粉末の微粒子化、均質化、高分散化などの傾向は益々顕著になっている。また、部品や原材料に対する価格の値下げ要請も強く、たとえば、前記の積層コンデンサの内部電極には白金、パラジウム、銀などの貴金属材料が用いられていたが、銅、ニッケルなどの廉価な卑金属材料への転換が図られている。これに伴い、ペロブスカイト型化合物粉末に対し、一層低温で焼結でき、さらに、低酸素分圧の雰囲気下で焼結させても半導体化しない非還元性を有するものが嘱望されている。
【0005】このような要求に対して、焼結体の原材料であるペロブスカイト型化合物粉末の改良製法も提案されている。たとえばチタン酸バリウム粉末を例に挙げると、バリウムの水和酸化物とチタンの水和酸化物とを原料として使用し、両者を所定のBa/Tiモル比に混合させた後、所定のアルカリ濃度下、常圧または加圧下で水熱処理し、得られた生成物を濾過し、洗浄し、乾燥し、解砕するいわゆる水熱法がよく知られている。このようにして得られたチタン酸バリウム粉末は前記従来技術のものに比べ微粒子であり、均質な成分組成のものである。しかながら、ペロブスカイト型化合物粉末を微粒子にすると吸油量が高く、バインダに対する分散性が悪くなるため、使用するバインダの量を増やす必要がある。この結果、得られる焼結体中のペロブスカイト型化合物の充填率が低くなり、誘電性や圧電性などの特性が低下してしまう。また、前記の水熱法などの水系で製造したペロブスカイト型化合物粉末は特に、ペロブスカイト型結晶構造内に多量の水分を含んでいるため、焼結体としたときの誘電性や圧電性などの特性が充分でない。如上のごとく、いずれの方法においても、所望のペロブスカイト型化合物粉末は得られ難いのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記問題を解決すべく種々検討した結果、(1)ペロブスカイト型化合物を粉砕する際に、特定の粉砕機を用いることによりバインダに対する分散性を改善できること、(2)このようにして得られたペロブスカイト型化合物粉末は、焼結体としたときの誘電性や圧電性などの特性が優れていること、(3)前記従来技術の水熱法において、特定の比表面積を有する微細な水和酸化物を用いて得られたペロブスカイト型化合物を、前記(1)の特定の粉砕機を用いて粉砕することにより、分散性のよい微粒子のペロブスカイト型化合物粉末が得られること、さらに、(4)ペロブスカイト型化合物の粉砕の前または後に、該ペロブスカイト型化合物を焼成すると、ペロブスカイト型結晶構造内の水分を除去でき、焼結体としたときの誘電性や圧電性などの特性をより一層改善することができることなどを見出し、本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明は特にバインダに対する分散性の優れたペロブスカイト型化合物粉末を提供することにある。
【0008】本発明は、ペロブスカイト型化合物を粉砕する際に、粉砕機として圧密粉砕機を用いる方法である。圧密粉砕機とは、圧縮作用と摩砕作用とを兼ね備えた粉砕機のことであり、ペロブスカイト型化合物を該圧密粉砕機に入れて粉砕すると、圧縮作用によりフレーク状に圧密されると同時に、摩砕作用により細かく粉砕される。圧密粉砕機としては、たとえば、擂潰機、エッジランナー、ローラーミル、フレットミルを用いることができる。
【0009】本発明において、ペロブスカイト型化合物としては種々のものを用いることができるが、たとえば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、スズ酸カルシウムが用いられる。これらのペロブスカイト型化合物は、一般に前記のいわゆる固相合成法、シュウ酸塩法、水熱合成法、水熱法などの従来の方法で製造される。本発明においては、特に、水熱法において、原料として特定の比表面積を有する微細な水和酸化物を用いる下記の方法で得られたペロブスカイト型化合物を用いるのが好ましい。
【0010】次に、本発明において使用するペロブスカイト型化合物の好ましい製造方法について詳述する。いわゆる水熱法においては、各種の水和酸化物からなる水性懸濁液を水熱処理してペロブスカイト型化合物が得られるが、本発明では、Ba、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物と、比表面積が50m2 /g以上、好ましくは80m2 /g以上の、Ti、Zr、HfおよびSnから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物とからなる水性懸濁液を水熱処理する。
【0011】本発明において、水和酸化物はいわゆる水和酸化物のほか、酸化物、含水酸化物、水酸化物を含む。Ba、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物は市販品を用いることもできるが、たとえば、該元素の塩化物、硝酸塩、酢酸塩などの水可溶性塩の水溶液にアルカリを添加し、中和して得られるものを用いるのが好ましい。。他方の原料である、比表面積が50m2 /g以上の、Ti、Zr、HfおよびSnから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物は、たとえば、該元素の塩化物、硝酸塩、酢酸塩などの水可溶性塩の水溶液にアルカリを添加して中和したり、該水可溶性塩を70℃以上の温度で加水分解して得られる。前記の水和酸化物の比表面積が50m2 /gより小さい場合には、微粒子のペロブスカイト型化合物が得られにくく、また、不純物が多く均質の成分組成のものが得られにくくなるほか、反応速度が遅いため、水熱処理の温度を高くしたり、処理時間を長くしたりする必要があるなど、工業的見地からも好ましくない。前記の中和や加水分解で得られた水和酸化物は、不純物を除去するために濾過し、洗浄するのが好ましい。
【0012】次いで、前記のBa、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物と、Ti、Zr、HfおよびSnから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物とを水に懸濁させて水性懸濁液を調製する。Ba、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物は、Ti、Zr、HfおよびSnから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物に対してモル比で表して好ましくは1以上、特に好ましくは1.1〜2.0となるように混合する。前記のモル比が1より小さいと所望の組成のペロブスカイト型化合物が得られなかったり、余剰の成分がペロブスカイト型化合物中に残存しやすくなり、誘電性や圧電性などの特性を損ないやすいため好ましくない。次いで、前記の水性懸濁液を好ましくは80℃以上、特に好ましくは100〜250℃の温度で水熱処理する。水熱処理の温度が80℃より低いと反応速度が遅く、水熱処理に長時間を要したり、未反応物がペロブスカイト型化合物中に残存しやすくなり好ましくない。水熱処理時の圧力は通常飽和蒸気圧程度で行うのが好ましいが、飽和蒸気圧以上に加圧したり、大気圧程度で行ってもよい。前記の水熱処理は、通常、工業的に用いられる耐熱耐圧装置で行なうことができる。
【0013】このようにして得られた生成物を通常の方法により分別し、必要に応じて洗浄し、乾燥してペロブスカイト型化合物を得る。乾燥は任意の温度で行うことができるが、80〜150℃の温度が適当である。このようにして得られたペロブスカイト型化合物を前記の圧密粉砕機で粉砕して本発明のペロブスカイト型化合物粉末とする。
【0014】本発明においては、ペロブスカイト型化合物、特に水熱法などの水系で製造したペロブスカイト型化合物を圧密粉砕機で粉砕する前または粉砕した後に、該ペロブスカイト型化合物を100〜700℃の温度で焼成するのが望ましい。
【0015】
【実施例】
実施例1TiO2 に換算して2.5mol/lの四塩化チタン水溶液1リットルとイオン交換水1リットルとを氷で冷やしながら5リットルの四つ口フラスコに入れた。攪拌下、この液のpHが7になるまで28%のアンモニア水溶液を滴下した。得られた水和酸化チタンの沈殿を吸引濾過器で濾過し、濾液の導電率が20μS/cmになるまで洗浄して濾過ケーキを得た。この濾過ケーキの一部を105℃の温度で乾燥して比表面積(BET法)を測定したところ300m2 /gであった。次に、前記の濾過ケーキからTiO2 に換算して100gの量を分取し、この濾過ケーキとイオン交換水1リットルとをビーカーに入れ、水性懸濁液とした。次いで、この水性懸濁液と市販の水酸化バリウム(Ba(OH)2 ・8H2 O)592g(Ba/Tiモル比=1.5)を3リットルのオートクレーブに入れた後、加熱し、150℃の温度で1時間保持して飽和水蒸気圧下で水熱処理を行った。次いで、得られた生成物を吸引濾過器で濾過し、洗浄し、105℃の温度で乾燥した。得られた乾燥物10gを擂潰機で30分間粉砕して、本発明のチタン酸バリウム粉末(試料A)を得た。
【0016】実施例2実施例1で得た乾燥物10gを550℃の温度で1時間焼成し、次いで、擂潰機で30分間粉砕して、本発明のチタン酸バリウム粉末(試料B)を得た。
【0017】比較例1実施例1で得た乾燥物10gを手粉砕して、比較試料Cとした。
【0018】前記実施例および比較例で得られた試料A〜Cについて吸油量と1200℃の焼結体の比誘電率、誘電損失を常法により測定した結果を表1に示す。比誘電率、誘電損失は、室温において、LCRメーターを用いて1KHzで計測した。比較試料Cを化学分析した結果、Ba含有量は55.3重量%、Ti含有量は20.3重量%、Na含有量は0.002重量%であり、Ba/Tiのモル比は0.950であった。また、この比較試料Cの比表面積(BET法)は11.0m2 /gであり、粒径は0.15μmであった。X線回折の結果、比較試料Cは立方晶系のチタン酸バリウムであった。なお、試料A、Bの比表面積(BET法)と粒径は、比較試料Cのそれらの値と同程度であり、また、試料A、Bは比較試料Cと同じ立方晶系のチタン酸バリウムであった。
【0019】
【表1】


【0020】実施例3TiO2 に換算して2.5mol/lの四塩化チタン水溶液20mlと1mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液52mlとイオン交換水300mlとを5リットルの四つ口フラスコに入れた。この液のpHが7になるまで、10Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。なお、得られた沈殿物を一部採取し、吸引濾過器で濾過し、洗浄し、105℃の温度で乾燥して比表面積(BET法)を測定したところ200m2 /gであった。次いで、前記の沈殿生成液に攪拌下、1mol/lの硝酸鉛水溶液105mlを添加し、該液のpHが7になるまで10Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した後、さらに、10Nの水酸化ナトリウム水溶液25mlとイオン交換水を滴下して全液量を1リットルとした水性懸濁液を得た。Pb:Zr:Tiのモル比(添加量)は1.05:0.52:0.50であった。次いで、前記の水性懸濁液を3リットルのオートクレーブに入れた後、加熱し、200℃の温度で0.5時間保持して飽和水蒸気圧下で水熱処理を行った。得られた生成物を吸引濾過器で濾過し、洗浄し、105℃の温度で乾燥した。次いで、得られた乾燥物10gを擂潰機で30分間粉砕して、本発明のチタン酸ジルコン酸鉛粉末(試料D)を得た。
【0021】実施例4実施例3で得た乾燥物10gを350℃の温度で1時間焼成し、次いで、擂潰機で30分間粉砕して、本発明のチタン酸ジルコン酸鉛粉末(試料E)を得た。
【0022】比較例2実施例3で得た乾燥物10gを手粉砕して、比較試料Fとした。
【0023】比較試料Fを化学分析した結果、Pb含有量は64.5重量%、Zr含有量は14.0重量%、Ti含有量は7.5重量%、Na含有量は0.008重量%であり、Pb:Zr:Tiのモル比は1.00:0.49:0.50であった。また、この比較試料Fの比表面積は8.9m2 /gであり、粒径は0.5μmであった。X線回折の結果、比較試料Fは立方晶系のチタン酸ジルコン酸鉛であった。なお、試料D、Eの比表面積(BET法)と粒径は、比較試料Fのそれらの値と同程度であり、また、試料D、Eは比較試料Fと同じ立方晶系のチタン酸ジルコン酸鉛であった。前記実施例および比較例で得られた試料D〜Fの吸油量、試料D〜Fおよび市販品のチタン酸ジルコン酸鉛粉末の焼結温度とそれらの焼結温度での粒径を常法により測定した結果を表2に示す。
【0024】
【表2】


【0025】
【発明の効果】本発明は、ペロブスカイト型化合物を粉砕する際において、圧密粉砕機を用いて粉砕するペロブスカイト型化合物粉末の製造方法であって、バインダに対する分散性を改善し、焼結体としたときの充填率を高めることができ、誘電性や圧電性などの特性を簡便、かつ、容易に改善することができるなど工業的に有用な方法である。本発明の望ましい方法は、前記従来技術の水熱法において、特定の比表面積を有する微細な水和酸化物を用いて得られたペロブスカイト型化合物を、圧密粉砕機を用いて粉砕する方法、あるいは、ペロブスカイト型化合物の圧密粉砕の前または後に、ペロブスカイト型化合物を100〜700℃の温度で焼成する方法であり、これらの方法により、不純物の含有量が少なく、バインダに対する分散性のよい微粒子のペロブスカイト型化合物粉末が得られ、低温焼結性に優れ、焼結体としたときの誘電性や圧電性などの特性を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ペロブスカイト型化合物を圧密粉砕機で粉砕することを特徴とするペロブスカイト型化合物粉末の製造方法。
【請求項2】Ba、Pb、Sr、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物と、比表面積が50m2 /g以上の、Ti、Zr、HfおよびSnから選ばれる少なくとも一種の元素の水和酸化物とからなる水性懸濁液を水熱処理して得られたペロブスカイト型化合物を圧密粉砕機で粉砕することを特徴とするペロブスカイト型化合物粉末の製造方法。
【請求項3】請求項1または2記載の粉砕の前または後に、ペロブスカイト型化合物を100〜700℃の温度で焼成することを特徴とするペロブスカイト型化合物粉末の製造方法。