説明

ホウ素吸着剤及びその製造方法

【課題】吸着性能が高く安価に製造できる、新規のホウ素吸着剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ酸塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩を溶解させた水溶液と活性炭とを混合して混合溶液を調製する混合工程と、この混合工程で調製された混合溶液のpHを調整するpH調整工程と、このpH調製工程でpHが調整された混合溶液から固形分を分離する分離工程と、この分離工程で分離された固形分を乾燥させる乾燥工程とを備えた。好ましくは、前記pH調整工程において、混合溶液のpHを10〜11に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホウ素吸着剤としては、スチレン−ジビニルベンゼンからなる架橋型共重合体にN−メチル−D−グルカミノ基を導入したグルカミン型樹脂や、水酸化セリウムを主原料とするものが知られている。
【0003】
しかし、グルカミン型樹脂は、疎水性である上に吸着速度が遅く、実用的なホウ素吸着性能を有するものではなかった。一方、水酸化セリウムは吸着容量が大きいものの、セリウムが希土類であるため、製造コストが高く、安定供給が困難であるという問題があった。このため、いずれも普及するには至らなかった。
【0004】
このほか、活性炭へ陰イオン吸着剤を担持させた陰イオン吸着剤(特許文献1、2)などが開示されているが、ホウ素イオンの吸着性能を向上させたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−91276号公報
【特許文献2】特開平7−743号公報
【特許文献3】特開2008−29985号公報
【特許文献4】特開2009−178682号公報
【特許文献5】特開2009−173535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、吸着性能が高く安価に製造できる、新規のホウ素吸着剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記発明を解決するために、ハイドロタルサイトに着目した。ハイドロタルサイト微粒子は、イオン交換反応により、無機アニオン及び有機アニオンを素早く吸着することが知られている。しかし、ハイドロタルサイトのイオン交換容量は、水酸化セリウムを主原料としたホウ素吸着剤には及ばないという問題があった。そこで、鋭意検討した結果、活性炭の微細孔内にAl,Si,Mgからなるハイドロタルサイト様物質を担持させることにより、ホウ素イオンの吸着性能が飛躍的に向上した吸着剤が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1記載のホウ素吸着剤の製造方法は、ケイ酸塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩を溶解させた水溶液と活性炭とを混合して混合溶液を調製する混合工程と、この混合工程で調製された混合溶液のpHを調整するpH調整工程と、このpH調製工程でpHが調整された混合溶液から固形分を分離する分離工程と、この分離工程で分離された固形分を乾燥させる乾燥工程とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2記載のホウ素吸着剤の製造方法は、請求項1において、前記pH調整工程において、混合溶液のpHを10〜11に調整することを特徴とする。
【0010】
本発明のホウ素吸着剤は、請求項1又は2記載のホウ素吸着剤の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のホウ素吸着剤及びその製造方法によれば、ホウ素イオンの吸着容量の大きいホウ素吸着剤を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたホウ素吸着剤のSEM写真である。
【図2】活性炭のSEM写真である。
【図3】実施例2のホウ素吸着実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のホウ素吸着剤の製造方法は、ケイ酸塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩を溶解させた水溶液と活性炭とを混合して混合溶液を調製する混合工程と、この混合工程で調製された混合溶液のpHを調整するpH調整工程と、このpH調製工程でpHが調整された混合溶液から固形分を分離する分離工程と、この分離工程で分離された固形分を乾燥させる乾燥工程とを備えたものである。
【0014】
はじめに、混合工程において、ケイ酸塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩を溶解させた水溶液と活性炭とを混合して混合溶液を調製する。ここで、ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウムなどを用いることができ、ケイ酸ナトリウムとしては、水ガラスなどを用いることができる。また、アルミニウム塩としては塩化アルミニウムなど、マグネシウム塩としては塩化マグネシウムなどを用いることができる。
【0015】
つぎに、pH調整工程において、混合工程で調製された混合溶液のpHを調整する。pHの調整は、アルカリ性水溶液を添加することにより行なわれ、アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。アルカリ性水溶液を添加していくと、混合溶液のpHが10〜11の範囲内で安定するので、そこで添加を終了する。また、アルカリ性水溶液を添加すると、混合溶液に沈殿物による懸濁が生じる。その後、好ましくは、40〜60℃において10〜20時間の熟成を行なう。
【0016】
そして、分離工程において、pH調製工程でpHが調整された混合溶液から固形分、すなわち、活性炭と、pH調整工程において生じた沈殿物を分離する。なお、活性炭は濾過分離後に水で洗浄し、沈殿物は遠心分離後に水で洗浄する。沈殿物の洗浄は、上澄みを除いた後に水を加えて攪拌し、遠心分離を行うことにより行うことができる。沈殿物の洗浄は複数回行うのが好ましい。
【0017】
最後に、乾燥工程において、分離工程で分離された固形分を乾燥させる。乾燥時の温度は、好ましくは40〜60℃とする。
【0018】
以上の工程により、本発明のホウ素吸着剤が得られる。
【0019】
本発明のホウ素吸着剤は、活性炭の孔内に、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素を構成元素として含むハイドロタルサイト様物質が担持された構造を有し、ホウ素イオンの吸着容量が極めて大きい。本発明のホウ素吸着剤は、ハイドロタルサイト様物質にケイ素を含んでいることにより、ハイドロタルサイト様物質のアモルファス化が促進され、その結果、イオン移動度が増加してホウ素の吸着効果が向上しているものと考えられ、さらに、このハイドロタルサイト様物質が活性炭に担持されることにより、吸着効果がさらに向上している。
【0020】
また、本発明のホウ素吸着剤は、安価な材料を用いて、安価に製造することができる。また、有害な材料を用いていないので人体に対する安全性が高い。さらに、本発明のホウ素吸着剤は、熱処理によりイオンの脱着を行うだけで再生可能である。
【0021】
なお、本発明のホウ素吸着剤において、活性炭に担持されるハイドロタルサイト様物質は、Si2xMg1−xAl(OH)・(An−x−ny・(Bz−・mHOの組成式を有する。ここで、式中xは0.1<x<0.4の正数であり、An−、Bz−はそれぞれ異なった価数の陰イオンであり、yは正数であり、mは0.1<m<1の正数である。
【0022】
以下、本発明のホウ素吸着剤とその製造方法について、具体的な実施例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0023】
[ホウ素吸着剤の調製]
蒸留水 100mLに3号水ガラス 3.42gを溶解させ、活性炭 5.0gを加えて30分間攪拌した。つぎに、AlCl(無水物) 1.333gとMgCl 6.664gを加えて溶解させ、2時間攪拌した。そして、5.0MのNaOH溶液を加えると懸濁を生じた。pHメーターでpHを確認しながらNaOH溶液の添加を続け、pHが10.5で安定するようになったところで添加を終了した。さらに、マグネチックスターラーで30分間攪拌を続け、攪拌を終えた後、50℃の恒温槽に入れて15時間の熟成を行った。
【0024】
その後、蒸留水で固形分の洗浄を4回繰り返した。なお、洗浄は、上澄みを除いた後、蒸留水を加えて攪拌し、遠心分離を行うことにより行った。洗浄後、固形分を50℃で24時間乾燥させた。乾燥した固形分を乳鉢・乳棒により粉砕し、ホウ素吸着剤を得た。
【0025】
得られたホウ素吸着剤のSEM写真を図1に示す。また、比較のために活性炭のSEM写真を図2に示す。得られたホウ素吸着剤では、活性炭の孔内にハイドロタルサイト様物質が詰まっていることが確認された。
【実施例2】
【0026】
[ホウ素吸着実験]
実施例1で調製したホウ素吸着剤 1gを50ppm−Bのホウ素溶液 25mLに添加し、24時間攪拌した。その後、溶液を5種C濾紙によって濾過し、濾液のホウ素イオン濃度をアゾメチンH法によって測定した。処理後の残存ホウ素イオン濃度とホウ素吸着剤の添加量から、吸着剤単位量あたりの吸着容量を求めた。
【0027】
また、比較例として、実施例1のホウ素吸着剤と組成が同じになるように活性炭とハイドロタルサイト様物質を単に混合したもの、市販品の水酸化セリウムを用いて、上記と同様に吸着容量を求めた。
【0028】
その結果を表1及び図3に示す。実施例1のホウ素吸着剤は、活性炭とハイドロタルサイト様物質を単に混合したものよりも吸着容量が大きく、市販の水酸化セリウムと同等以上のホウ素吸着性能を有することが確認された。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩を溶解させた水溶液と活性炭とを混合して混合溶液を調製する混合工程と、この混合工程で調製された混合溶液のpHを調整するpH調整工程と、このpH調製工程でpHが調整された混合溶液から固形分を分離する分離工程と、この分離工程で分離された固形分を乾燥させる乾燥工程とを備えたことを特徴とするホウ素吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整工程において、混合溶液のpHを10〜11に調整することを特徴とする請求項1記載のホウ素吸着剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のホウ素吸着剤の製造方法により製造されたことを特徴とするホウ素吸着剤。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−624(P2013−624A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131777(P2011−131777)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(503162265)株式会社カサイ (3)
【Fターム(参考)】