説明

ホウ素吸着装置、ホウ素除去システム、及びホウ素除去方法

【課題】吸着材から溶離したホウ素を含む溶離液のホウ素濃度を高め、溶離液を濃縮せずとも効率良くホウ素含有水からホウ素を除去してホウ酸結晶の形態で回収する。
【解決手段】吸着塔20は、その容器21内に、高分子材料の不織布に官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成され帯状に形成された吸着材素材を巻いて円柱形状に形成し、かつ通液経路を変化させる経路変化手段を備えた吸着材モジュール26が、当該吸着材モジュール26の軸心が容器21の軸心と同軸になるように、1つ以上嵌入されて構成される。吸着塔20は、その再生時にホウ酸の溶解度に到達する高濃度のホウ酸を含有する溶離液を流出し得る。ホウ素除去システムは、吸着塔20で吸着したホウ素を吸着モジュール26から溶離する際、流出する高濃度にホウ素を含む溶離液を分取して冷却晶析法によりホウ酸結晶としてホウ素を回収した後、更に当該溶離液を再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有水からホウ素を除去するための、ホウ素吸着装置、ホウ素除去システム、及びホウ素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素は、メッキ、ガラス、医薬、染料、合成繊維等の分野において広く利用されており、これらの分野の製造あるいは処理の工程からは、ホウ素含有水が排出される。また、発電所における排煙脱硫排水や、ゴミ焼却炉排水としても、ホウ素含有水が排出される。一方、ホウ素は、ある濃度以上存在すると動植物の成育を阻害する虞があることが知られており、現在我国では、ホウ素の環境基準は1mg/L以下、排水基準は10mg/L以下と規定されている。したがって、ホウ素含有水からホウ素を除去し、回収する技術が求められている。
【0003】
従来のホウ素除去方法としては、ホウ素含有水にアルミニウム化合物、カルシウム化合物等の凝集剤を用いてホウ素を取り込んだ凝集沈殿物を生成させて分離除去する凝集沈殿法(特許文献1参照)、ホウ素含有水に含まれるホウ素を有機溶媒の混合物で抽出して除去する有機溶媒抽出法(特許文献2参照)、逆浸透膜により処理する逆浸透膜法(特許文献3参照)、ホウ素含有水を陰イオン交換樹脂(ホウ素選択吸着樹脂)により吸着処理するホウ素選択吸着樹脂法(特許文献4参照)等が知られている。
【0004】
しかし、前記したホウ素除去方法は以下のような課題を有している。
すなわち、凝集沈殿法では、ホウ素を不溶化させるために多量の薬剤を使用する必要があり、発生する汚泥も多くその処理が困難である。更に、凝集沈殿物にはアルミニウム化合物、カルシウム化合物等が大量に含まれているため、ホウ素を回収して再利用することができない。また、有機溶媒抽出法では、有機溶媒は消防法による規制を受けるものであり、火気を避ける必要があること、有機溶媒自体の漏出の虞にも注意しなければならないこと等、取扱いが困難である。また、逆浸透膜法では、ホウ素を分離して高濃度に濃縮することが困難である。
【0005】
また、ホウ素選択吸着樹脂法では、ホウ素の回収・再利用を考慮した場合には、ホウ素含有水をホウ素選択吸着樹脂に通液させて吸着処理した後に、当該ホウ素選択吸着樹脂からホウ素を溶離させてホウ素選択吸着樹脂を再生するために酸溶液が使用される。このため、溶離液の酸根を処理する必要がある。また、溶離液のホウ素濃度が低いため、冷却晶析法によりホウ酸結晶を得るには濃縮工程が必要となる。ここで、鉱酸によりホウ素が溶離された溶離液を蒸発濃縮することで作り出された高温のホウ素飽和酸性水溶液を冷却晶析法により結晶化する方法が知られているが(特許文献5参照)、装置あるいは工程が複雑化すると共に大きな設備が必要となり、また、イニシャルコストが高く、蒸発濃縮にかかるランニングコストも高くなるという課題があった。
【0006】
溶離液の酸根を処理することに関しては、中和する方法や、陰イオン交換樹脂による酸根の吸着処理(特許文献6参照)によって解決が図られてきている。
濃縮工程に関しては、容器内の残留液を脱液した後に再生剤を投入することによりホウ素含有量の多い溶離液を採取する方法(特許文献7参照)、鉱酸の温度を40〜90℃に上げて吸着樹脂の再生を行ってホウ素の含有量を増やす方法(特許文献8参照)等が提案されている。しかし、これらのいずれの方法においても、溶離液のホウ素濃度はホウ素化合物の溶解度をかなり下回った低い値であるため、そのままでは冷却晶析法によりホウ酸結晶を得ることはできなかった。
【0007】
一方、ホウ素含有水を吸着剤に接触させて吸着剤にホウ素を吸着させた後、吸着剤の再生時に、ホウ素飽和された酸性水溶液を加熱して吸着剤に接触させて吸着剤からホウ素を溶離させた溶離液を形成し、この溶離液を、濃縮せずに後工程の冷却晶析工程で冷却してホウ酸を晶析分離させる試みがなされている(特許文献9参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献9に記載の技術は、吸着剤からホウ素を溶離させた溶離液のホウ素濃度をホウ素化合物の溶解度近くまで上げる手段を提示しておらず、したがって、効率良くホウ酸を晶析分離させて回収することが難しいという課題を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭58−15193号公報
【特許文献2】特開平10−249330号公報
【特許文献3】特開平9−290275号公報
【特許文献4】特公平2−32952号公報
【特許文献5】特開昭59−173182号公報
【特許文献6】特開2001−104807号公報
【特許文献7】特開2005−87825号公報
【特許文献8】特開2001−247305号公報
【特許文献9】特開2004−298738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、吸着材から溶離したホウ素を含む溶離液のホウ素濃度を高めることができ、溶離液を濃縮せずとも効率良くホウ素含有水からホウ素を除去してホウ酸結晶の形態で回収することを可能ならしめる、ホウ素吸着装置、ホウ素除去システム、及びホウ素除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のホウ素吸着装置は、鉛直方向の軸心を有する筒形状の容器と、当該容器内に充填されホウ素を吸着する吸着材と、を備え、前記容器は、当該容器内に流入される液体を下向きに通液させるための上部に設けられた入口と、前記容器内から前記液体を流出させるための下部に設けられた出口とを有し、前記吸着材は、高分子材料の不織布に官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成され帯状に形成された吸着材素材を巻いて柱形状に形成した吸着材モジュールが、当該吸着材モジュールの軸心が前記容器の前記軸心と同軸になるように、前記容器内に1つ以上嵌入されて構成されており、前記吸着材モジュールは、前記入口から流入される液体の通液経路を変化させる経路変化手段を備えており、前記容器内にホウ素含有水を通液することにより、前記ホウ素含有水中のホウ素を前記吸着材に吸着させると共に、前記ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する一方で、前記容器内に再生用の鉱酸を通液することにより、ホウ素が吸着された前記吸着材からホウ素を前記鉱酸中に溶離させると共に、前記鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成することを特徴とする。
【0012】
また、前記目的を達成するために、本発明のホウ素除去システムは、前記ホウ素吸着装置と、前記ホウ素吸着装置において生成された溶離液を、生成順に第1の溶離液と第2の溶離液とに分けて採取する分取装置と、前記分取装置において採取された前記第1の溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する冷却晶析装置と、前記冷却晶析装置において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶とホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離する固液分離装置と、前記ホウ素吸着装置において使用される前記再生用の鉱酸を30〜45℃に加温する加温装置と、を有し、前記固液分離装置においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が前記再生用の鉱酸として前記加温装置を経て前記ホウ素吸着装置に戻された後に、前記分取装置において採取された前記第2の溶離液が前記ホウ素吸着装置に戻され、再利用されることを特徴とする。
【0013】
また、前記目的を達成するために、本発明のホウ素除去方法は、前記ホウ素吸着装置を用いて、前記容器内にホウ素含有水を通液することにより、前記ホウ素含有水中のホウ素を前記吸着材に吸着させると共に、前記ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する吸着工程と、前記ホウ素吸着装置を用いて、前記容器内に前記再生用の鉱酸を通液することにより、ホウ素が吸着された前記吸着材からホウ素を前記鉱酸中に溶離させると共に、前記鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成する溶離工程と、前記溶離工程において生成された溶離液を、生成順に第1の溶離液と第2の溶離液とに分けて採取する分取工程と、前記分取工程において採取された前記第1の溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する冷却晶析工程と、前記冷却晶析工程において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶とホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離する固液分離工程と、前記ホウ素吸着装置において使用される前記再生用の鉱酸を30〜45℃に加温する加温工程と、を有し、前記固液分離工程においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が前記再生用の鉱酸として加温されて前記ホウ素吸着装置に戻された後に、前記分取工程において採取された前記第2の溶離液が前記ホウ素吸着装置に戻され、再利用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸着材から溶離したホウ素を含む溶離液のホウ素濃度を高めることができ、溶離液を濃縮せずとも効率良くホウ素含有水からホウ素を除去してホウ酸結晶の形態で回収することが可能となる。
この結果、これまで濃縮の工程で通常使用されていた蒸散エネルギーを節減でき、なおかつ、本発明のホウ素除去方法では、溶離液の加温も溶離液を30〜45℃という低温で行うことができ、冷却晶析の際のエネルギー使用量も節減できるという効果を奏する。また、溶離液を再利用することにより、薬品(鉱酸)使用量も従来よりも節約されるという効果も生じる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るホウ素除去システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示される吸着塔の構成を模式的に示す概略縦断面図である。
【図3】図2に示される吸着材モジュールを示す図であり、(a)は概略拡大斜視図、(b)は概略拡大正面図である。
【図4】BV値と処理水のホウ素濃度との関係を示す図である。
【図5】溶離液のホウ酸濃度の推移を示すグラフである。
【図6】3種類の吸着塔についての溶離液のホウ酸濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るホウ素除去システムの全体構成を示す図である。図2は、図1に示される吸着塔の構成を模式的に示す概略縦断面図である。図3は、図2に示される吸着材モジュールを模式的に示す図であり、(a)は概略拡大斜視図、(b)は概略拡大正面図である。
【0017】
図1に示すように、ホウ素除去システム100は、原水(ホウ素含有水)からホウ素を除去してホウ酸結晶の形態で回収するシステムであり、ホウ素吸着装置としての吸着塔20、分取装置30、冷却晶析装置40、固液分離装置50、及び加温装置60を有している。
【0018】
図2に示すように、吸着塔20は、鉛直方向の軸心を有する円筒形状の容器21と、当該容器21内に充填されホウ素を吸着する吸着材25とを備えている。
【0019】
吸着材25の素材である吸着材素材27(図3参照)は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子材料の不織布に、官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成されたものである。グルカミン基は、1.5〜2.5mmol/gの割合で不織布に導入されることが好ましい。グルカミン基の導入割合が1.5mmol/gよりも小さいと、吸着性能が十分でないからであり、一方、2.5mmol/gよりも大きいと、吸着材素材27の物理的強度が低くなるからである。
【0020】
吸着材25は、例えば幅300〜500mm程度の長尺の帯状に形成された吸着材素材27(図3参照)を巻いて円柱形状に形成した吸着材モジュール26が、当該吸着材モジュール26の軸心が容器21の軸心と同軸になるように、容器21内に1つ以上嵌入されて構成される。
【0021】
容器21は、当該容器21内に流入されるホウ素含有水や再生用の鉱酸等の液体を下向きに通液させるための上部に設けられた入口22と、容器21内から前記液体を流出させるための下部に設けられた出口23とを有している。入口22は、容器21の上方開口を開閉可能な蓋体21aに形成されており、出口23は、容器21の下方開口を閉塞する底板21bに形成されている。なお、入口22や出口23は、複数設けられていてもよい。
【0022】
図3に示すように、吸着材モジュール26は、吸着材素材27を複数層(例えば2〜8層)緊密に巻いた後に一旦切断してその外周面に複数の軸心方向位置において周方向に糸状部材28を巻回してきつく括ることを、外径が増す方向に複数回繰り返すことにより円柱形状に形成される。糸状部材28の軸心方向位置は、少なくとも一つ内側の糸状部材28と異なる位置に設定される。糸状部材28には紐状の部材が含まれ、例えばポリオレフィン製の結束用バンドが使用され得る。
【0023】
なお、図3の吸着材モジュール26は、理解を容易にするため模式的に示されており、厚さや外径等の寸法は実際とは異なって描かれている。また、吸着材素材27を複数層巻いた後の外周面に糸状部材28を巻回して括ることは、図3では説明を簡単にするために2回繰り返される構成となっているが、実際には、吸着材モジュール26の外径に応じて、3回以上適宜の回数だけ、多数回繰り返される。
【0024】
ここで、糸状部材28による括り部分は、吸着材モジュール26内を流下する液体の通液経路を変化させる経路変化手段として機能するものである。なお、この括り部分は、糸状部材28と、糸状部材28により括られて圧縮された吸着材素材27の部分とを含む。但し、経路変化手段は、このような構成に限定されるものではなく、例えば、吸着材素材27の内部や表面に糸状部材や片状部材を混入させたり、吸着材素材27に糸状部材を格子状に織り込んだりして、経路変化手段を構成することも可能である。
【0025】
吸着材モジュール26の上記構造は、ホウ素の吸着除去のみならず、吸着素材27の不織布に導入するイオン交換能又はキレート交換能を有する機能性官能基をグラフト重合法により入れ替えることにより、陽イオン、陰イオン、有害重金属イオン、フッ素・ヒ素などの特定なイオン類、更には有機物をも吸着除去可能となると同時に、再生溶離することにより濃縮することが可能となる。
【0026】
吸着材25の充填密度は、170〜250g/Lであることが好ましい。充填密度が170g/Lよりも小さいと、吸着性能が十分でないからであり、一方、250g/Lよりも大きいと、吸着材素材27を緊密に巻回いたとしても製造することが困難だからである。
【0027】
また、容器21に充填された吸着材25の高さである充填高さは、1200〜6000mmであることが好ましい。充填高さが1200mmよりも低いと、鉱酸による再生時に吸着材25からホウ素が溶離された溶離液のホウ素濃度が十分高くならないからであり、一方、6000mmよりも高いと、設備が大型化すると共にコスト高となるからである。
【0028】
図1に示すように、吸着塔20の上方には、原水槽70からの原水(ホウ素含有水)を流入させるための配管1と、再生用の鉱酸を流入させるための配管2とが接続されている。原水槽70には、各種の施設や工場等において排出される原水が、粗濾しフィルタ71により不純物が除去された後に、配管4を経て貯留されている。
【0029】
また、吸着塔20の下方には、ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を流出させるための配管3と、鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を流出させるための配管5〜7とが接続されている。すなわち、ホウ素含有水、及び再生用の鉱酸が、下向流で吸着塔20に通液されるように構成されている。なお、吸着塔20からの処理水は、配管3を経て、処理水槽75に貯留されるようになっている。
【0030】
吸着塔20は、配管1を経て送られるホウ素含有水中のホウ素を吸着材25に吸着させると共に、ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する機能を有する。また、吸着塔20は、ホウ素が吸着された吸着材25からホウ素を、配管2を経て送られる鉱酸中に溶離させると共に、鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成する機能を有する。
【0031】
分取装置30は、吸着塔20において生成された溶離液を、生成順に、第1の溶離液としての高濃度溶離液と、第2の溶離液としての低濃度溶離液とに分けて採取(分取)する。本実施形態では、低濃度溶離液は、更に生成順に複数(ここでは2つ)に分けられて、第1低濃度溶離液、及び第2低濃度溶離液として採取される。具体的には、分取装置30は、配管5を経て送られる高濃度溶離液を貯留する高濃度溶離液槽31と、配管6を経て送られる第1低濃度溶離液を貯留する第1低濃度溶離液槽32と、配管7を経て送られる第2低濃度溶離液を貯留する第2低濃度溶離液槽33とを有している。
【0032】
冷却晶析装置40は、分取装置30において採取された高濃度溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する。冷却温度は、例えば0〜6℃であり、通常の冷却手段により容易に実現できる。冷却方法としては、例えば、冷却晶析装置40の外壁を冷媒で冷却する方法、冷却晶析装置40の内部に熱交換器を設置して冷却する方法、冷却晶析装置40の外部に内容物の一部を抜き出して冷却し循環する方法等が使用され得る。
【0033】
冷却晶析装置40には、分取装置30の高濃度溶離液槽31から延びる配管8が接続されており、配管8を介して高濃度溶離液が冷却晶析装置40に供給される。また、冷却晶析装置40には、当該冷却晶析装置40において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を流出させるための配管11が接続されている。
【0034】
固液分離装置50は、冷却晶析装置40から送られるホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶と、ホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液(溶離排水)とに分離する。固液分離には、例えば、濾過器や、遠心分離器等の各種の固液分離手段が単独又は組み合わせて使用され得る。
【0035】
固液分離装置50には、配管11を介してホウ酸結晶を含む溶離液が冷却晶析装置40から供給される。また、固液分離装置50には、当該固液分離装置50においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液を流出させるための配管12が接続されている。
【0036】
加温装置60は、配管2を経て吸着塔20に流入する再生用の鉱酸を加温する。これにより、鉱酸に溶けるホウ素(ホウ酸)の溶解度が上がる。加温される鉱酸の温度は、好ましくは25〜55℃、より好ましくは30〜45℃、さらに好ましくは30〜40℃である。上限値よりも大きいと、加温のためのコストが増大すると共に加温装置60の設備が大型化すること、高温による吸着材25のダメージが大きくなること、ガス化した鉱酸の処理が必要になること等の問題が生じるからであり、一方、下限値よりも小さいと、冷却晶析工程における温度との溶解度差が十分得られないことと再生の際に溶離が不十分になる虞が生じるからである。加温方法としては、例えば電熱器が使用され得る。なお、加温装置は、高濃度溶離液槽31の槽内に設置することも可能である。
【0037】
本実施形態のホウ素除去システム100では、固液分離装置50においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が流出する配管12が、高濃度溶離液槽31に接続されており、高濃度溶離液槽31に戻された残余溶離液が流出する配管13が、加温装置60に接続されている。また、分取装置30の第1低濃度溶離液槽32から延びる配管9と、第2低濃度溶離液槽33から延びる配管10とが、それぞれ吸着塔20の上方に接続されている。
【0038】
更に、吸着塔20の上方には、洗浄水槽80からの洗浄水を流入させるための配管14が接続されており、吸着塔20の下方には、吸着塔20を洗浄した後の洗浄排水を流出させるための配管15が接続されている。洗浄水には、再生の際酸性になった吸着材をアルカリ性に戻すために苛性ソーダ(NaOH)が適宜追加される。配管15は原水槽70に接続されており、洗浄排水は、原水槽70に戻されるように構成されている。
【0039】
配管1,2,9,10,14は、それぞれ、例えば図示しない開閉弁を介して入口22(図2参照)に接続されており、配管3、5〜7,15は、それぞれ、例えば図示しない開閉弁を介して出口23(図2参照)に接続されている。
【0040】
次に、前記したように構成されたホウ素除去システム100を用いたホウ素除去方法について説明する。
本実施形態に係るホウ素除去方法は、吸着塔20を用いて、容器21内にホウ素含有水を通液することにより、ホウ素含有水中のホウ素を吸着材25に吸着させると共に、ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する吸着工程を有している。また、ホウ素除去方法は、吸着塔20を用いて、容器21内に再生用の鉱酸を通液することにより、ホウ素が吸着された吸着材25からホウ素を鉱酸中に溶離させると共に、鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成する溶離工程を有している。
【0041】
更に、ホウ素除去方法は、溶離工程において生成された溶離液を、生成順に高濃度溶離液と低濃度溶離液とに分けて採取する分取工程と、分取工程において採取された高濃度溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する冷却晶析工程と、冷却晶析工程において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶とホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離する固液分離工程と、を有している。また、ホウ素除去方法は、吸着塔20において使用される再生用の鉱酸を加温する加温工程を有している。
【0042】
そして、次の吸着工程が終了した後、すなわち次回の吸着塔20の再生時には、固液分離工程においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が再生用の鉱酸として加温されて吸着塔20に戻された後に、分取工程において採取された低濃度溶離液が吸着塔20に戻される。
【0043】
次に、ホウ素除去方法の各工程について更に詳しく説明する。
吸着工程で浄化(ホウ素除去)対象となるホウ素含有水は、各種の施設や工場等において排出される原水であり、ホウ素を含む原水であれば特に限定されない。ホウ素含有水としては、例えば、メッキ、ガラス、医薬、染料、合成繊維等の分野の製造あるいは処理の工程からの排水、発電所における排煙脱硫排水、ゴミ焼却炉排水等が挙げられる。ホウ素含有水のホウ素濃度は、例えば10mg/L以上である。なお、ホウ素含有水は、粗濾しフィルタ71を通過することにより不純物が除去されて、原水槽70に貯留されている。
【0044】
吸着工程では、原水槽70からのホウ素含有水が配管1から吸着塔20に流入し、吸着塔20の上方から下方に流れる間に、当該ホウ素含有水中のホウ素が吸着材25に吸着される。そして、ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水が生成され、配管3から流出されて、処理水槽75に貯留される。浄化された処理水のホウ素濃度は、例えば1mg/L以下とされ得る。
【0045】
ここで、ホウ素含有水は、容器21内を下向きに流れる際に、吸着材素材27を巻いて円柱形状に形成した吸着材モジュール26(図3参照)内を流下することになる。このとき、糸状部材28による括り部分は、吸着材モジュール26内を流下する液体の通液経路を変化させる経路変化手段として機能し、ホウ素含有水は、吸着材モジュール26内において強制的に吸着材素材27の不織布内部で通液経路を変えながら、吸着材モジュール26内部を流下する。これにより、ホウ素含有水中のホウ素は、吸着材25内部のホウ素吸着機能を有する官能基(グルカミン基)へ接する機会が増加することを通じて、吸着材25へのホウ素吸着量が増えると考えられる。
【0046】
通常時においては、ホウ素含有水を吸着塔20に通液して吸着材25にホウ素を吸着させる吸着工程が継続して行われる。そして、吸着材25へのホウ素の吸着能力が限界近くになって、浄化後の処理水のホウ素濃度が予め決められた閾値(例えば1mg/L)よりも大きくなった場合、配管1から吸着塔20へのホウ素含有水の供給が停止されて、吸着工程が一旦終了する。
【0047】
次に、吸着塔20の吸着材25の吸着能力を再生するために、配管2から吸着塔20への再生用の鉱酸の供給が行われて、溶離工程が開始される。
溶離工程では、再生用の鉱酸が配管2から吸着塔20に流入し、吸着塔20の上方から下方に流れる間に、吸着材25からホウ素が鉱酸中に溶離すると共に、鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液が生成されて、配管5〜7から流出される。ここで、再生用の鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液が使用される。
【0048】
ここで、再生用の鉱酸は、容器21内を下向きに流れる際に、糸状部材28による括り部分の機能により、吸着材モジュール26内において強制的に吸着材素材27の不織布内部で通液経路を変えながら、吸着材モジュール26内を流下する。これにより、吸着材25から鉱酸へのホウ素の溶離量が増えると考えられる。
【0049】
吸着塔20において生成された溶離液は、例えば図示しない開閉弁を制御することにより、生成順に、分取装置30の高濃度溶離液槽31、第1低濃度溶離液槽32、第2低濃度溶離液槽33にそれぞれ分けて送られる。
【0050】
次に、高濃度溶離液槽31から配管8を経て冷却晶析装置40へ溶離液が送られて、冷却晶析工程が開始される。冷却晶析工程では、溶離工程で生成した溶離液が例えば約5℃に冷却される。これにより、鉱酸へのホウ素化合物(ホウ酸)の溶解度が下がり、過飽和分のホウ酸が晶析する。ホウ酸結晶を含む溶離液は、配管11から流出される。
【0051】
冷却晶析装置40から配管11を経て固液分離装置50へホウ酸結晶を含む溶離液が送られると、固液分離工程が開始される。固液分離工程では、ホウ酸結晶を含む溶離液が、ホウ酸結晶と、ホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離される。ホウ酸結晶は、固体として回収され、各種分野において資源として再利用可能である。固液分離工程で生じる残余溶離液は、配管12を経て一旦高濃度溶離液槽31に戻される。
【0052】
そして、次の吸着工程が終了した後、すなわち次回の吸着塔20の再生時において、固液分離装置50においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が、高濃度溶離液槽31から再生用の鉱酸として加温装置60を経て吸着塔20に戻された後に、分取装置30において採取された第1低濃度溶離液及び第2低濃度溶離液が、第1低濃度溶離液槽32及び第2低濃度溶離液槽33から、それぞれ順次吸着塔20に戻される。
【0053】
なお、残余溶離液が加温されて吸着塔20に戻される前に、加温装置60における加温温度と同温程度に加温されたホウ素を含まない浄水が吸着塔20に通液されることが好ましい。これにより、溶離液の温度が低下してしまうことを防止でき、ひいては、ホウ素の溶離を促してホウ素(ホウ酸)の回収率を安定化させることができる。
【0054】
再利用される残余溶離液には、晶析しなかったホウ素が高濃度で残存している。したがって、次回の吸着塔20の再生時には、吸着材25に吸着されたホウ素が溶離して残余溶離液に上乗せされ、残余溶離液に上乗せされたホウ素と同量に近いホウ素が、冷却晶析工程においてホウ酸結晶として析出することになり、ホウ素の回収率が向上する。
【0055】
再利用時に、配管2を通って送られる残余溶離液は、途中で鉱酸が付加されて鉱酸の濃度が調整される。残余溶離液である薄まった鉱酸に新たな鉱酸を付加することにより、吸着塔20から排出される溶離液は、何度でも繰返し使用することができる。なぜならば、ホウ素を捕捉する官能基はキレートであり、中性・アルカリ性域でホウ素を捕捉する一方で、酸性域でホウ素を脱離する機能を有するからである。
【0056】
なお、吸着塔20に洗浄水を流す際に濃度が低下することを見越して、配管10を通って送られる第2低濃度溶離液は、途中で鉱酸が付加されて鉱酸の濃度が調整される。
【0057】
前記したように本実施形態では、吸着塔20の容器21内に充填される吸着材25は、高分子材料の不織布に官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成され帯状に形成された吸着材素材27を巻いて円柱形状に形成した吸着材モジュール26が、当該吸着材モジュール26の軸心が容器21の軸心と同軸になるように、容器21内に1つ以上嵌入されて構成されている。吸着材モジュール26は、吸着材モジュール26内を流下する液体の通液経路を変化させる経路変化手段を備えており、例えば糸状部材28による括り部分は、この経路変化手段の構成をなしている。
【0058】
このような本実施形態によれば、吸着材25は、段落[0045]で述べた吸着工程時と同様に、溶離工程においても、溶離液が吸着材25内部に捕捉されているホウ素を効率的に溶離し、溶離液内のホウ素濃度を高めることができ、溶離液を濃縮せずとも効率良くホウ素含有水からホウ素を除去してホウ酸の固形物としてホウ素回収することが可能となる。
この結果、これまで濃縮の工程で通常使用されていた蒸散エネルギーを節減でき、なおかつ、本実施形態のホウ素除去方法では、溶離液の加温も溶離液を30〜45℃という低温で行うことができ、冷却晶析の際のエネルギー使用量も節減できるという効果を奏する。また、溶離液を再利用することにより、薬品(鉱酸)使用量も従来の1/3〜1/2に節約されるという効果も生じる。
【0059】
また本実施形態では、次回の吸着塔20の再生時には、ホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が再生用の鉱酸として加温されて吸着塔20に戻された後に、分取工程において採取された低濃度溶離液が吸着塔20に戻される。このような構成によれば、ホウ素の回収率が向上すると共に、溶離液を廃棄処理することなく繰返し使用することが可能となる。
【0060】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
例えば前記実施形態では、容器21を円筒形状とし、容器21内に挿入される吸着材モジュール26を円柱形状としたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、容器21を横断面が略四角形等の他の形の筒形状とし、容器21内に挿入される吸着材モジュール26を横断面が略四角形等の他の形の柱形状としてもよい。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の効果を、以下の実施例を用いて説明する。但し、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実験1)吸着塔の吸着・再生(ホウ素溶離)実験
(1)吸着実験
(a)吸着材
不活性ガス雰囲気中で低照射線量(10kGy)の放射線を高分子材料の基材に照射した後、その基材をブチルアルコール溶媒により濃度30〜50%に調整された溶液に0.5〜1分間浸漬し、引き上げた基材を用いて不活性ガス雰囲気の反応器中でグラフト重合を2〜3時間行わせて作成したポリエチレン、ポリプロピレン製の不織布に、70℃の条件でメチルグルカミン基を1.5〜2.2mmol/gの密度で導入した吸着材素材を作成した。
【0063】
このように作成した吸着材素材を幅300mm×長さ5000mmの帯状に切断して、数層ごとにポリオレフィン製の結束用バンドで括って固定しながら、隙間無く緊密に巻き、直径100mmの円柱形状の吸着材モジュールを作成した。なお、幅300mmが円柱形状の吸着材モジュールの高さに相当する。
【0064】
(b)吸着塔
前記のように作成した吸着材モジュールを、ポリ塩化ビニル製の内径100mmの円筒状の容器の中に複数挿入して吸着材を形成し、吸着塔を作成した。吸着塔内に充填された吸着材の充填高さは2400mm(吸着材モジュール8個を直列に連結した高さ)とした。
【0065】
(c)実験方法
産業廃棄物処分場の浸出水生物処理後の中間処理水を原水とした。この原水に対して、濃度25%のNaOHを添加して、pH9.5〜11.5に上げ、凝集フロックを沈殿させた上澄み水をpH8付近に調整すると同時に、ホウ素濃度が100mg/Lになるようにした。但し、実際には、ホウ素濃度は90.6mg/Lであった。そして、調整後の原水540Lを、約1.9時間、SV(Space Velocity)値約5.5(1/hr)で、吸着塔に通液した。ここで、SV値(1/hr)=流量(L/hr)/吸着材体積(L)である。
【0066】
(d)実験結果
図4は、BV値と処理水のホウ素濃度との関係を示す図である。
吸着塔から流出する浄化後の処理水に、ホウ素が1mg/Lの濃度で漏れ出したのは、通液量445Lのときであった。この時点を破過とすれば、吸着塔の破過時点のBV(Bed Volume)値は23.3であった。ここで、BV値=通液量(L)/吸着材体積(L)である。破過時の吸着ホウ素量は39.9gであった。また、吸着実験における総吸着ホウ素量は44.8gであった。表1に、吸着塔のホウ素吸着性能の結果を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(2)再生(ホウ素溶離)実験
前記した吸着実験でホウ素を吸着した吸着塔を再生したのが、この再生実験である。
【0069】
(a)実験方法
まず、吸着塔を約30℃に加温した約40Lの脱塩水で洗浄・置換した。置換は下向流で行った。その後、約30℃に加温した1NのHCl(1mol/LのHCl水溶液)を吸着塔に下向流で通液した。そのときの通液量は約40Lであり、SV値は約5(1/hr)であった。
【0070】
HClが吸着塔から出て来るのをpH計で確認してから、サンプリングを開始した。サンプリングは原則として500cc毎に行った。サンプリングされた試料のホウ素含有量をICP(Inductively coupled plasma)発光分光分析装置により分析した。
【0071】
(b)実験結果
図5は、溶離液(再生廃液)のホウ酸濃度の推移を示すグラフである。
ここで、ホウ素含有量をホウ酸含有量に換算した。なお、ホウ素含有量の5.725倍をホウ酸含有量とした。
【0072】
ホウ素濃度が一番高い溶離液(再生廃液)は、pHが急激に下がった直後に採取された試料であった。このときのホウ素の含有量は10900mg/Lであり、ホウ酸の含有量に換算すると6.24g/100mlであった。更にこれを重量換算すると5.67(g/100g)に相当する。この値は、30℃でのホウ酸の溶解度6.23(g/100g)付近に達しているものと言える。
【0073】
更に、図5に示した5℃でのホウ酸の溶解度2.98(g/100g)以上のホウ酸濃度を示す6つの試料を5℃以下の冷蔵庫内に保管した状態に置くと、板状の白色透明のホウ酸結晶が生じていた。他方、2.98(g/100g)以下のホウ酸濃度を示す他の試料を5℃以下の冷蔵庫内に保管した状態に置いても、ホウ酸結晶は生じていなかった。
【0074】
(c)結論
本再生実験によれば、前記吸着実験でホウ素を吸着した吸着塔に、加温した鉱酸(1NのHCl)を通液すると、流出する溶離液の初期段階のものは、5℃以下の冷蔵によって、簡便にホウ酸結晶の固形物を得ることができると結論された。
【0075】
(実験2)吸着塔の吸着材の充填高さを変化させた場合の吸着・再生(ホウ素溶離)実験
(1)吸着実験
(a)吸着材
吸着材素材、吸着材モジュールは、前記実験1と同じである。
【0076】
(b)吸着塔
吸着塔は、吸着材の充填高さを除き、前記実験1と概ね同じである。吸着材の充填高さは、600mm(吸着材モジュールを2個直列連結)、1200mm(吸着材モジュールを4個直列連結)、2400mm(吸着材モジュールを8個直列連結)の3種類を設定した。なお、充填高さ2400mmについては、前記実験1のデータを使用している。
【0077】
(c)実験結果
吸着塔から流出する浄化後の処理水に、ホウ素が1mg/Lの濃度で漏れ出したのは、吸着材の充填高さが2400mm、1200mm、600mmの3種類の吸着塔において、通液量がそれぞれ445L、200L、80Lのときであった。この時点を破過とすれば、吸着塔の破過時点のBV値は、前記3種類の吸着塔において、それぞれ23.3、22.3、17.0であった。破過時の吸着ホウ素量は、前記3種類の吸着塔において、それぞれ39.9g、18.5g、7.8gであった。また、吸着実験における総吸着ホウ素量は、前記3種類の吸着塔において、それぞれ44.8g、22.4g、12.8gであった。表2に、充填高さが異なる3種類の吸着塔のホウ素吸着性能の結果を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
(2)再生(ホウ素溶離)実験
前記した吸着実験でホウ素を吸着した3種類の吸着塔の吸着材を再生したのが、この再生実験である。
【0080】
(a)実験方法
前記した吸着材の充填高さが2400mm、1200mm、600mmの3種類の吸着塔を、約30℃に加温した約40L、30L、20Lの脱塩水でそれぞれ洗浄・置換した。置換は下向流で行った。その後、約30℃に加温した1NのHCl(1mol/LのHCl水溶液)を吸着塔に下向流で通液した。3種類の吸着塔における通液量は、それぞれ約40L、30L、20Lであり、SV値は、3種類の吸着塔ともに約5(1/hr)であった。
【0081】
3種類の吸着塔とも、HClが吸着塔から出て来るのをpH計で確認してから、サンプリングを開始した。サンプリングは原則として500cc毎に行った。サンプリングされた試料のホウ素含有量をICP発光分光分析装置により分析した。
【0082】
(b)実験結果
図6は、3種類の吸着塔についての溶離液(再生廃液)のホウ酸濃度の推移を示すグラフである。ここで、ホウ素含有量をホウ酸含有量に換算した。なお、前記と同じくホウ素含有量の5.725倍をホウ酸含有量とした。
【0083】
図6からわかるように、吸着材の充填高さが低くなるに従い、ホウ酸濃度のピーク値(最大値)が低くなる傾向を示している。吸着材の充填高さが1200mmの吸着塔では、ホウ酸濃度のピーク値が5℃でのホウ酸の溶解度2.98(g/100g)に届いたものの、吸着材の充填高さが600mmの吸着塔では、ホウ酸濃度のピーク値が5℃でのホウ酸の溶解度2.98(g/100g)に届かなかった。
【0084】
(c)結論
本再生実験によれば、吸着材の充填高さ1200mmが、流出する溶離液(再生廃液)中のホウ酸を、5℃以下の冷蔵によって、簡便にホウ酸結晶の固形物を得ることができる限界付近であると結論され得る。
【0085】
(実験3)溶離液を分取して冷却晶析・固液分離する実験
(1)実験の狙い
実験1では、30℃の溶離液温度において最高10900mg/Lのホウ素濃度の溶離液を得ることができた。この値は、ホウ酸の含有量に換算すると6.24g/100mlであり、更にこれを重量換算すると5.67(g/100g)に相当し、30℃でのホウ酸の溶解度6.23(g/100g)に迫るものであった。
しかし、5℃におけるホウ酸の溶解度2.98(g/100g)以上の溶離液の液量は、BV値に換算すると0.2であり、溶離液全体の20%程であった(図5参照)。つまり、図5に示すように、溶離液が流出しだす直後のものほどホウ素含有量が多く、その後急激に減少する傾向がある。このため、溶離液を集めて平準化すると、全体としてはホウ酸の溶解度よりも低いホウ酸濃度となってしまう。なお、ホウ素は酸性水溶液ではホウ酸の形態で存在する。したがって、このまま溶離液を一括して処理すると、ホウ酸の結晶を得ることはできない。
そのため、吸着塔で生成される溶離液のうち、生成時期が早くホウ素濃度の高い高濃度溶離液のみを分取し、この分取した高濃度溶離液を冷却晶析・固液分離し、ホウ酸結晶を取り出す方法を試みた。
【0086】
(2)実験方法
吸着塔内に充填された吸着材の充填高さを2400mmとし、吸着塔にホウ素含有水を、処理水のホウ素が1mg/L以上となる時点まで通液した。ホウ素含有水の吸着塔への通液終了後に、再生用の鉱酸を30℃に調整して、吸着塔に通液した。吸着塔から流出してくる溶離液を所定の時点で分けて採取した。すなわち、前半に分取したホウ素濃度の高い高濃度溶離液と、後半に分取したホウ素濃度の低い低濃度溶離液とに分け、高濃度溶離液を冷却晶析・固液分離した。ここでは、分取する時点は、冷却晶析時の温度におけるホウ酸の溶解度に溶離液のホウ酸濃度が達した時点とした。
【0087】
(3)実験結果
高濃度溶離液を5℃で冷却晶析した後、固液分離(濾過)すると、41.2gの固形物を得ることができた。この固形物は、すべてホウ酸結晶であると仮定すると、吸着塔が吸着したホウ素(約39.9g、実験1参照)に相当するホウ酸(39.9g×5.725)の約20%に相当する。
【0088】
(実験4)ホウ素の回収率を高める実験
(1)実験の狙い
実験3によれば、ホウ酸結晶を得ることができるものの、吸着塔が吸着したホウ素のうち、約80%が溶離液中に残存することになる。そこで、ホウ素(ホウ酸)の回収率を高める以下の方法を試みた。
【0089】
(a)溶離液を分取して冷却晶析・固液分離した後、再利用する方法
ホウ素含有水を吸着塔に通液して吸着工程が終了した後に、再生用の鉱酸を30〜45℃に加温調整して、吸着塔に通液する。吸着塔から流出する溶離液がpH3以下に達したときに高濃度溶離液の分取を開始し、吸着塔への予め決められた流入量が吸着塔から流出した時点で打ち切ると同時に、低濃度溶離液の分取を開始する。低濃度溶離液の分取を、吸着塔への予め決められた流入量が吸着塔から流出した時点で打ち切り、洗浄水を吸着塔に通液する。洗浄水は、吸着塔に残った酸を押し出すためのものである。分取した溶離液のうち高濃度溶離液のみを冷却晶析・固液分離工程に送り、ホウ酸結晶と残余溶離液とに分ける。
そして、次の吸着工程が終了した後、すなわち次回の吸着塔の再生時に、まず、残余溶離液を30〜45℃に加温調整して吸着塔に戻し、続いて、分取した低濃度溶離液を常温のままで吸着塔に戻して、再利用する。最後に、洗浄水を吸着塔に通液する。
このようなサイクルを繰り返すことにより、連続的にホウ素の結晶化を実施する。
【0090】
(b)溶離液の分取における分割数を増やす方法
更にホウ素の回収率を高めるためには、溶離液を、高濃度溶離液と低濃度溶離液との2分割ではなく、より多数に分割することが有効となる。これは、溶離液を細かく分割することにより、生成順で隣同士の分割された溶離液の濃度差が小さくなるため、この隣同士の分割された溶離液が吸着塔内で互いに影響し合って濃度変化する量を少なくできるからである。しかし、分割数をあまり多くしても、ホウ素の回収率自体は逓減していく一方で、システムの複雑化につながる。したがって、溶離液の分割数は3〜6分割が好ましく、システムの効率的運転を考えると3〜4分割がより好ましい。
【0091】
(c)溶離工程で最初に流入する残余溶離液に鉱酸を追加する方法
ホウ素の溶離に使用される鉱酸は、吸着塔内の吸着材によって中和されて暫時消費される。鉱酸が消費されるとpHが上がり、ホウ素の溶離は行われなくなる。したがって、pHが上がった部分には、溶離したホウ素が加わらない一方、吸着材が保有する水分によりホウ素を含む溶離液が薄まる。このため、よりpHが上がり、残余溶離液中に元々含まれる高濃度のホウ素が水溶液中に残存することになり、pHが例えば3以下になった時点で開始される分取対象から外れてしまう。このため、洗浄水によって流出するホウ素が増えることになる。そこで、溶離工程で最初に流入する残余溶離液に鉱酸を追加することにより、水溶液のpHを下げ、分取対象から外れる高濃度の残余溶離液を少なくして、洗浄水によって流出するホウ素を低減する。
【0092】
(d)洗浄水を加温する方法
残余溶離液が加温されて吸着塔に戻される前に、加温されたホウ素を含まない浄水を吸着塔に通液する。これにより、溶離液の温度が低下してしまうことを防止でき、ひいては、ホウ素の溶離を促してホウ素(ホウ酸)の回収率を安定化させる。
【0093】
(2)実験方法
前記(a)〜(d)の方法をすべて組み入れた方式で、吸着塔によるホウ素の吸着と、吸着塔の再生(ホウ素溶離)とを複数回繰り返し行い、ホウ素(ホウ酸)の回収率と、その再現性とを観察した。更に、再生用の鉱酸(残余溶離液)の加温温度の変化によるホウ素の回収率の変化について観察した。その結果を表3に示す。
【0094】
ホウ素の吸着を行う際、前回のRUN(吸着及び再生)において溶離の際に排出された洗浄水に含まれる回収しきれなかったホウ素を原水とともに吸着塔に流入させている。吸着塔は実験3で用いたものを使用した。
溶離液の分取及び再利用を行い、溶離液の分取は3分割で行った。3分割した各溶離液の割合は9:6:6で、計21Lとした。また、吸着塔の再生前に、再生用の鉱酸(残余溶離液)の温度と同温度の浄水を吸着塔に通液した。そして、高濃度の残余溶離液のうち再生開始直後に使用される約1/3の容量に対して、鉱酸濃度が約2倍になるように、鉱酸を追加した。
【0095】
【表3】

【0096】
(3)実験結果
吸着及び再生を1回のセットとして10回繰り返し行った結果、原水(ホウ素含有水)から吸着塔に吸着されたホウ酸量と、結晶として回収されたホウ酸量とは、それぞれ、146.5g(1回平均)、136.9g(1回平均)であり、両者の誤差は10%以内であった。ここで、再利用される残余溶離液には晶析しなかったホウ素が高濃度で残存しており、次回の吸着塔の再生時に、吸着塔に吸着されたホウ素が溶離して残余溶離液に上乗せされ、残余溶離液に上乗せされたホウ素と同量に近いホウ素が、ホウ酸結晶として析出したものと考えられる。一方、洗浄排水として流出するホウ酸量は、30.7g(1回平均)であった。したがって、ホウ素(ホウ酸)の回収率は、136.9/(136.9+30.7)×100=約82%となり、実用化に十分堪えうる値に達した。
なお、再生用の鉱酸(残余溶離液)の加温温度を25〜50℃の間で変化させると、ホウ酸の回収量において30℃よりも低い溶離温度での回収量は30℃以上の溶離温度でのものと比べて明らかに少ない傾向が示された。従って、加温温度は30℃以上であることがより好ましいと考えられた。
【符号の説明】
【0097】
20 吸着塔(ホウ素吸着装置)
21 容器
22 入口
23 出口
25 吸着材
26 吸着材モジュール
28 糸状部材(経路変化手段)
30 分取装置
40 冷却晶析装置
50 固液分離装置
60 加温装置
100 ホウ素除去システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の軸心を有する筒形状の容器と、
当該容器内に充填されホウ素を吸着する吸着材と、を備え、
前記容器は、当該容器内に流入される液体を下向きに通液させるための上部に設けられた入口と、前記容器内から前記液体を流出させるための下部に設けられた出口とを有し、
前記吸着材は、高分子材料の不織布に官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成され帯状に形成された吸着材素材を巻いて柱形状に形成した吸着材モジュールが、当該吸着材モジュールの軸心が前記容器の前記軸心と同軸になるように、前記容器内に1つ以上嵌入されて構成されており、
前記吸着材モジュールは、当該吸着材モジュール内を流下する液体の通液経路を変化させる経路変化手段を備えており、
前記容器内にホウ素含有水を通液することにより、前記ホウ素含有水中のホウ素を前記吸着材に吸着させると共に、前記ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する一方で、前記容器内に再生用の鉱酸を通液することにより、ホウ素が吸着された前記吸着材からホウ素を前記鉱酸中に溶離させると共に、前記鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成することを特徴とするホウ素吸着装置。
【請求項2】
前記吸着材モジュールは、前記吸着材素材を複数層巻いた後の外周面に複数の軸心方向位置において周方向に糸状部材を巻回して括ることを、外径が増す方向に複数回繰り返すことにより円柱形状に形成され、
前記糸状部材の軸心方向位置は、少なくとも一つ内側の糸状部材と異なる位置に設定されており、前記糸状部材による括り部分は、前記経路変化手段の構成をなしていることを特徴とする請求項1に記載のホウ素吸着装置。
【請求項3】
前記容器に充填された吸着材の高さは、1200〜6000mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のホウ素吸着装置。
【請求項4】
前記容器に充填された吸着材の密度は、170〜250g/Lであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のホウ素吸着装置。
【請求項5】
前記吸着材素材における前記不織布へのグルカミン基の導入割合は、1.5〜2.5mmol/gであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のホウ素吸着装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のホウ素吸着装置と、
前記ホウ素吸着装置において生成された溶離液を、生成順に第1の溶離液と第2の溶離液とに分けて採取する分取装置と、
前記分取装置において採取された前記第1の溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する冷却晶析装置と、
前記冷却晶析装置において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶とホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離する固液分離装置と、
前記ホウ素吸着装置において使用される前記再生用の鉱酸を加温する加温装置と、を有し、
前記固液分離装置においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が前記再生用の鉱酸として前記加温装置を経て前記ホウ素吸着装置に戻された後に、前記分取装置において採取された前記第2の溶離液が前記ホウ素吸着装置に戻されることを特徴とするホウ素除去システム。
【請求項7】
前記分取装置は、前記第2の溶離液を生成順に複数に分けて採取し、
複数に分けられた前記第2の溶離液は、生成順に前記ホウ素吸着装置に戻されることを特徴とする請求項6に記載のホウ素除去システム。
【請求項8】
前記固液分離装置においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液は、前記ホウ素吸着装置に戻される途中で鉱酸が付加されて鉱酸の濃度が調整されることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のホウ素除去システム。
【請求項9】
前記固液分離装置においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が前記加温装置を経て前記ホウ素吸着装置に戻される前に、加温された浄水が前記ホウ素吸着装置に通液されることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載のホウ素除去システム。
【請求項10】
前記加温装置は、前記ホウ素吸着装置において使用される前記再生用の鉱酸を30〜45℃に加温することを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載のホウ素除去システム。
【請求項11】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のホウ素吸着装置を用いて、前記容器内にホウ素含有水を通液することにより、前記ホウ素含有水中のホウ素を前記吸着材に吸着させると共に、前記ホウ素含有水からホウ素を除去した処理水を生成する吸着工程と、
前記ホウ素吸着装置を用いて、前記容器内に前記再生用の鉱酸を通液することにより、ホウ素が吸着された前記吸着材からホウ素を前記鉱酸中に溶離させると共に、前記鉱酸に溶離したホウ素を含んだ溶離液を生成する溶離工程と、
前記溶離工程において生成された溶離液を、生成順に第1の溶離液と第2の溶離液とに分けて採取する分取工程と、
前記分取工程において採取された前記第1の溶離液を冷却することにより、過飽和分のホウ酸を晶析する冷却晶析工程と、
前記冷却晶析工程において析出されたホウ酸結晶を含む溶離液を、ホウ酸結晶とホウ酸結晶を除いた溶離液である残余溶離液とに分離する固液分離工程と、
前記ホウ素吸着装置において使用される前記再生用の鉱酸を加温する加温工程と、を有し、
前記固液分離工程においてホウ酸結晶が分離除去された後の残余溶離液が前記再生用の鉱酸として加温されて前記ホウ素吸着装置に戻された後に、前記分取工程において採取された前記第2の溶離液が前記ホウ素吸着装置に戻されることを特徴とするホウ素除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−63414(P2013−63414A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204901(P2011−204901)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(503357388)株式会社クリーンテック (2)
【Fターム(参考)】