説明

ホウ素拡散用塗布液

【課題】本発明の課題は、ホウ素化合物の溶解性に劣るプロピレングリコール系溶剤を用いながら、高濃度にホウ素を拡散させることができるホウ素拡散用塗布液を提供することである。
【解決手段】(a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール、及び(e)水を含有し、前記(a)ホウ素化合物の含有量が、酸化ホウ素(B)とした場合に5質量%以上20質量%以下であることを特徴とするホウ素拡散用塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホウ素拡散用塗布液、さらに詳しくはシリコン半導体の表面にホウ素を拡散するための新規なホウ素拡散用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、ダイオード、IC等の製造には、ホウ素が拡散したP型領域を有するシリコン半導体デバイスが使用されている。前記シリコン半導体デバイスにホウ素を拡散する方法としては熱分解法、対向NB法、ドーパントホスト法、塗布法等が検討されたが、中でも、塗布法が、高価な装置を必要とせずに、均一な拡散ができ、量産性に優れているという点から好適に使用されている。特にホウ素を含有する塗布液をスピンコーター等を用いて塗布する場合が多い。
【0003】
従来の塗布液は、溶媒としてホウ素の溶解性に優れたエチレングリコールエーテル系溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル等を使用している。しかしながら、前記エチレングリコールエーテル系の溶剤は環境毒性が高く、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)法第一種指定化学物質にも指定されており、昨今使用が困難になって来ている。
【0004】
そこで、ホウ素拡散用塗布液の溶剤としてプロピレングリコール系溶剤を用いるとともに非イオン界面活性剤をさらに添加した塗布液(特許文献1の請求項1又は請求項2参照)が提案された。
【0005】
しかしながら、プロピレングリコールエーテル系溶剤を使用した塗布液は、ホウ素化合物の溶解性に劣り、ホウ素化合物を高濃度に溶解することができないため、エチレングリコールエーテル系溶剤を使用した塗布液に代わるホウ素化合物の濃度が高濃度でかつ再現性良くホウ素を拡散する塗布液を提供することができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−181009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、本発明者等は、上記現状に鑑み、ホウ素拡散用塗布液の溶剤として、ホウ素化合物の溶解性に劣るプロピレングリコール系溶剤を用いながら、ホウ素化合物を高濃度に溶解させることができるホウ素拡散用塗布液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ホウ素拡散用塗布液に、(a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール及び(e)水を含有させ、前記(a)ホウ素化合物の含有量を、酸化ホウ素(B)とした場合に5質量%以上、20質量%以下とすることによって、前記した課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1](a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール及び(e)水を含有し、前記(a)ホウ素化合物の含有量が、酸化ホウ素(B)とした場合に5質量%以上20質量%以下であることを特徴とするホウ素拡散用塗布液。
[2](a)ホウ素化合物が、ホウ酸、酸化ホウ素(無水ホウ酸)、ホウ酸アンモニウム及び塩化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする前記[1]記載の高濃度ホウ素拡散用塗布液。
[3](b)アルコール性水酸基含有高分子化合物が、ナトリウムの含有量が10ppm未満のポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする前記[1]又は[2]記載のホウ素拡散用塗布液。
[4](c)プロピレングリコール誘導体が、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル及びプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布液。
[5](d)エチレングリコールの含有量が15質量%以上であり、(e)水の含有量が25質量%未満であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布液。
[6](b)アルコール性水酸基含有高分子化合物及び(e)水を含有する水溶液を作製する工程、(2)得られた水溶液に、(a)ホウ素化合物、(c)プロピレングリコール誘導体及び(d)エチレングリコールを混合する工程を含むことを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載されたホウ素拡散用塗布液の製造方法。
[7](2)工程において、40℃以上に加熱することを特徴とする前記[6]記載のホウ素拡散用塗布液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、環境毒性の懸念の少なく、ホウ素化合物の溶解性に劣るプロピレングリコール誘導体を用いながら、従来の方法では製造できなかったホウ素系化合物を高濃度に含有するホウ素拡散用塗布液を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のホウ素拡散用塗布液を詳細に説明する。
【0012】
本発明のホウ素拡散用塗布液は、(a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール、及び(e)水を含有し、前記(a)ホウ素化合物の含有量が、酸化ホウ素(B)とした場合に5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
前記(a)ホウ素化合物(以下、(a)成分ともいう。)としては、(c)プロピレングリコールエーテル系溶剤、(d)エチレングリコール及び(e)水の混合溶媒に溶解できる物であれば特に制限はないが、ホウ酸、無水ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、塩化ホウ素(三塩化ホウ素等)、多価アルコール−ホウ素錯体化合物(例えば、特開昭63−37130号の請求項1記載の化合物、すなわち、下記一般式(I)
【化1】

〔(式中、qは0又は1であり、q=1のとき、Aは下記一般式(I’)
−(X)−(Y)−(Z)− (I’)
(式中、X及びZは、1個の末端エーテル残基をもつ炭素数合計100以下の含酸素炭化水素基であり、Yは、
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜34の炭化水素基を表す。)若しくは
【化3】

(式中、R’は、炭素数2〜13の炭化水素基を表す。)
であり、l、m及びnは、0又は1である。)
で表される基であり、pは10〜1000の整数である。〕
で表される有機ホウ素高分子化合物)等が人体に対する安全性の面で好ましい。前記炭化水素基としては、アルキル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。前記多価アルコール−ホウ素錯体化合物の市販品としては、例えば、ハイボロンDBPG−3(商品名、ボロンインターナショナル社製)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
(a)ホウ素化合物の含有量は、塗布方法、半導体デバイスに求められる抵抗値により決められるが、酸化ホウ素(B)として含有させた場合に5〜20質量%、好ましくは6〜15質量%である。(a)ホウ素化合物の含有量が5質量%未満の場合、ホウ素供給量が少なくなり、期待する半導体デバイスの抵抗値が得られない。(a)ホウ素化合物の含有量が20質量%を超える場合、塗布液の安定性が損なわれたり、ホウ素供給過剰により半導体デバイスに求められる性能を損なったり場合があるため、好ましくない。上記のような高濃度のホウ素化合物を含むホウ素拡散用塗布液に求められる半導体デバイスの抵抗値としては、特に限定されないが、0.50〜0.75Ω/□が一般的である。
【0015】
前記(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物(以下、(b)成分ともいう。)としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(以下、PVAともいう。)、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう。)、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール誘導体、ポリエチレンオキシドポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシプロピルアクリレート等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましく、ナトリウムによる半導体デバイスの汚染を回避できる点から、ナトリウムの含有量が減少されたPVA系樹脂がさらに好ましく、ナトリウムの含有量が10ppm未満のPVA系樹脂が特に好ましい。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、「PVA系樹脂のナトリウム含有量が10ppm以下である」とはPVA系樹脂中の質量規準のナトリウム含有量が0.001質量%以下であることを意味する。以下、アルコール性水酸基含有高分子化合物のうち、PVA系樹脂を例に挙げて説明する。前記PVA系樹脂の平均重合度としては、特に限定されないが、150〜5000が好ましい。平均重合度が150未満の場合、塗布液の皮膜形成性が悪く、乾燥時に塗膜のひび割れ等が発生し均一な塗膜を得ることができない。平均重合度が5000を超える場合、塗布液の粘度が高くなりすぎてスピンコートすることができない場合があるので好ましくない。前記PVA系樹脂のケン化度としては、特に限定されないが、50モル%以上99モル%未満が好ましく、60〜99モル%がより好ましい。本発明において、前記した平均重合度(粘度平均重合度)及びケン化度は、いずれもJIS K 6726:1994に従って測定した値であり、ケン化度は逆滴定法によって測定した値である。
【0016】
(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物の含有量は、特に限定されず、塗布液に求められる粘度により決定されるが、通常0.01〜10質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%である。(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物の含有量が0.01%未満の場合、スピンコートした際に十分な膜厚が得られずせっかくホウ素化合物の濃度を高めたにもかかわらず目標の抵抗値まで下がらない場合があるため、好ましくない。(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物の含有量が10%を超える場合、塗布液の粘度が高くなりすぎてスピンコートすることができなかったり、加熱の際に樹脂が炭化したりしてホウ素の拡散に影響を与えるため好ましくない。
【0017】
本発明の(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。以下、アルコール性水酸基含有高分子化合物の製造方法のうち、PVA系樹脂の製造方法を例に挙げて説明する。前記PVA系樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、工業的には、脂肪族ビニルエステルを、従来から公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種の重合方法により重合し、得られた重合体を従来公知のアルカリケン化及び酸ケン化によってケン化する方法が挙げられる。前記重合方法のうち、脂肪族ビニルエステルをメタノール溶媒中で溶液重合する方法が特に好ましい。
【0018】
前記酸ケン化処理に用いられる酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、亜リン酸、硝酸、ハロゲン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、α−又はβ−ナフタレンスルホン酸、3,4−ジメチルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。ナトリウムによる半導体デバイスの汚染を回避できる点から、ナトリウムを含有しない酸ケン化触媒が好ましい。前記ナトリウムを含有しないアルカリケン化触媒としては、特に限定されないが、例えば、パラトルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、塩酸及び硝酸等が挙げられるが、触媒中に硫黄又はリン酸が含まれる場合、硫黄又はリン酸がシリコン結晶中に再結合中心となる準位を作り、半導体デバイスに悪影響を及ぼす点から、ギ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、塩酸及び硝酸が好ましい。これらの酸ケン化触媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
酸ケン化触媒の使用量としては、用いる化合物の種類、ケン化する際の溶媒組成及び含水率にもよるが、メタノール溶媒中でケン化反応を行なう場合には、脂肪族ビニルエステル系重合体に対して、通常約0.5〜500ミリ等量とすることが好ましく、約1〜100ミリ等量とすることがより好ましい。
【0020】
前記アルカリケン化処理に用いられるアルカリとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコラート、水酸化テトラアルキルアンモニウム、シクロアミジン類(特開昭62−225504号公報参照)、ホスファゼン化合物(特開2001−81130号公報参照)、グアニジン化合物(特開平8−12721号公報参照)、アミジン化合物(特開平8−27218号公報参照)等が挙げられる。ナトリウムによる半導体デバイスの汚染を回避できる点から、ナトリウムを含有しないアルカリケン化触媒が好ましい。前記ナトリウムを含有しないアルカリケン化触媒としては、特に限定されないが、例えば、ホスファゼン化合物、下記一般式(II)
OH (II)
(式中R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜16のアルキル基、ベンジル基又はフェニル基である。)
で表される水酸化4級アンモニウム、グアニジン化合物、又はアミジン化合物等が挙げられる。
【0021】
ホスファゼン化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−tert−ブチルイミノ−2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチル−ペルハロイド−1,3,2−ジアザホスホリン、tert−ブチルイミノ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホラン、tert−ブチルイミノ−トリ(ピロリジノ)ホスホラン、1−エチル−2,2,4,4,4−ペンタキス(ジメチルアミノ)−2λ5,4λ5−カテナジ(ホスファゼン)、1−tert−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスファラニリデンアミノ]−2λ5,4λ5−カテナジ(ホスファゼン)等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(II)で表される水酸化4級アンモニウムにおいて、炭素数1〜16のアルキル基は、分岐アルキル基であっても直鎖アルキル基であってもよい。また、ベンジル基及びフェニル基は、1〜5個の置換基によって置換されていてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜6の低級アルキル基等が挙げられる。
【0023】
一般式(II)で表される水酸化4級アンモニウムとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化テトラベンジルアンモニウム、水酸化ジエチルジメチルアンモニウム、水酸化メチルトリエチルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、水酸化フェニルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0024】
グアニジン化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,1,3,3,−トリメチルグアニジン、1−シアノエチル−1,3,3−トリメチルグアニジン、1−ベンジル−1,3,3−トリメチルグアニジン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デセン−5等が挙げられる。
【0025】
アミジン化合物としては、特に限定されないが、例えば、6−ジメチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、6−ジエチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、6−ジプロピルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等が挙げられる。
【0026】
これらナトリウムを含有しないアルカリケン化触媒の中でも、ホスファゼン化合物、水酸化4級アンモニウムがより好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラベンジルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムが特に好ましい。
【0027】
本明細書中、ケン化触媒が「ナトリウムを含有しない」とは、水酸化ナトリウム(NaOH)のように構成分子中にナトリウム(Na)原子を含まず、かつその組成物中にもナトリウム原子を含んでいないものである。ケン化触媒がその組成物中にナトリウム原子を含まないとは、該触媒に不純物等として含まれるナトリウムが約500ppm以下であることを意味する。このようなケン化触媒としては、不純物等として含まれるナトリウムが約100ppm以下のものが好ましく、約50ppm以下のものがより好ましく、実質的にナトリウムを含有しないものが最も好ましい。これらのアルカリケン化触媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
ナトリウムを含有しないアルカリケン化触媒の使用量としては、用いる化合物の種類、ケン化する際の溶媒組成及び含水率にもよるが、メタノール溶媒中でケン化反応を行なう場合には、脂肪族ビニルエステル系重合体に対して、通常約0.5〜500ミリ等量とすることが好ましく、約1〜100ミリ等量とすることがより好ましい。
【0029】
前記脂肪酸ビニルエステルとしては、特に限定されないが、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。
【0030】
脂肪族ビニルエステルを重合する際に、本発明の効果を損なわない範囲で前記脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体1種以上と脂肪族ビニルエステルとの共重合を行っても良い。脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン又はα−オクタデセン等のオレフィン類、ビニレンカーボネート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩又はモノあるいはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、ラウリルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等のアリルアルコール類、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有単量体、スチレン等の芳香族系単量体、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、アセト酢酸等が挙げられるがこれに限らない。また、脂肪族ビニルエステルと脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体との共重合の割合は任意で良く、通常共重合樹脂中で変性モノマーの割合が0.1モル%〜10モル%の範囲で共重合されるのが一般的である。
【0031】
さらに、(i)前記PVA系樹脂とアクリル酸、メタクリル酸等をグラフト重合させて側鎖に官能基を付加した後変性PVA系樹脂又は(ii)PVA系樹脂とジケテンとを反応させる方法又はPVAとアセト酢酸エステルを反応させエステル交換する方法等により得られるアセトアセチル化PVA等の後変性PVA系樹脂も用いられる。
【0032】
通常工業的に得られるPVA系樹脂中には、ケン化反応時の副生成物である酢酸ナトリウムが不純物として0.1質量%以上含まれている。これらPVA系樹脂中のナトリウム含有量を減少させる方法としては、(1)脂肪族ビニルエステル系重合体を酸又はアルカリケン化触媒でケン化してPVA系樹脂にした後、メタノール、エタノール等のアルコール類又はそれらアルコール類と水、酢酸メチル等の混合溶媒で洗浄する方法、(2)PVA系樹脂を水等の溶媒に溶かしてPVA系樹脂溶液とした後、酸型イオン交換樹脂層を通過させてナトリウムイオンを除去する方法、(3)脂肪族ビニルエステル系重合体をケン化する際に使用するケン化触媒にナトリウムを含まない物を使用する方法等が挙げられる。前記のいずれかの方法でナトリウムを減少させたPVA系樹脂を使用することが好ましい。
【0033】
前記(c)プロピレングリコールエーテル系溶剤(以下、(c)成分ともいう。)としては、特に限定されないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等が挙げられ、中でもプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明において、(d)エチレングリコールはホウ素化合物の溶解性改良剤として働く。前記(d)エチレングリコール(以下、(d)成分ともいう。)の含有量は、エチレングリコールの量は通常15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上が良い。エチレングリコールの量が15質量%未満である場合、高濃度のホウ素化合物が溶けきらず、不均一な塗布液となるため、好ましくない。
【0035】
前記(e)水(以下、(e)成分ともいう。)としては、特に限定されないが、例えば、超純水、イオン交換水又は蒸留水等が用いられ、特に超純水が好ましい。中でも、水中のアルカリ金属、重金属元素等の不純物元素及び異物は少ないほど好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記(e)水の含有量は、ホウ素拡散用塗布液全体に対して20質量%未満が好ましい。水の量が20質量%を越える場合、塗布液の保存安定性が悪く、常温で放置した場合に高濃度のホウ素化合物が析出したり、塗布液の粘度が変化したりする場合があるため、好ましくない。(d)エチレングリコールの含有量が15質量%以上であり、かつ(e)水の含有量が25質量%未満であることが、高濃度のホウ素化合物の溶解性改善の点から、特に好ましい。
【0036】
さらに、本発明のホウ素拡散用塗布液は、前記(a)〜(e)成分に加えて、(f)界面活性剤を含有していてもよい。(f)界面活性剤を含有することで塗布液の消泡性、セルフレベリング性を改善することもできる。
【0037】
前記(f)界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、プルロニック型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、ポリエチレングリコール型界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のいわゆる非イオン界面活性剤が好適に挙げられる。ナトリウム塩型又はスルホン酸塩型のイオン系界面活性剤は、ナトリウム、硫黄分が含まれるため、好ましくない。前記(f)界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0038】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(III)
【化4】

(式中、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ炭素数1〜20のアルキル基又はアリル基を示し、m及びnはそれぞれ0〜30を満たす。)
で示されるアセチレングリコール化合物が好ましい。
【0039】
一般式(III)で表されるアセチレングリコール化合物中のエチレンオキサイド単位の付加モル数は、0≦m+n≦30[モル]が好ましい。エチレンオキサイドの付加モル総数が30モルを超えた場合、水への溶解性がアップし、さらには起泡性がアップするため、消泡効果が低下する傾向がある。
【0040】
一般式(III)で表されるアセチレングリコール化合物としては、例えば、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、5,8−ジメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,3,6,7−テトラメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール等が挙げられる。
【0041】
また、一般式(III)のアセチレングリコール化合物のエトキシル化体としては、例えば2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:6)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:10)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エテレンオキサイド付加モル総数:4)、3,6−ジメチル−4−オクチル−3,6−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:4)等のアセチレングリコールのエチレンオキサイド誘導体を挙げることができ、特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:1.3、一般式(III)においてR及びRがiso−ブチル基、R及びRがメチル基、m+n=1.3)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:3.5、一般式(III)においてR及びRがiso−ブチル基、R及びRがメチル基、m+n=3.5)が挙げられる。
【0042】
前記(f)界面活性剤としては、市販製品を使用してもよく、市販製品としては、例えば、日信化学工業(株)製のサーフィノールシリーズ、オルフィンシリーズ等が挙げられる。これらの海面活性剤は単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。これらの(f)界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記(f)界面活性剤の含有量は、ホウ素拡散用塗布液全体に対して0.01〜5質量%程度で十分である。0.01質量%未満の場合にはその効果が発揮されず、逆に5質量%を超える場合には界面活性剤の水に対する溶解度等の関係から塗布液が分離したりする場合があるので好ましくない。
【0043】
さらに、本発明のホウ素拡散用塗布液は、前記(a)〜(e)成分に加えて、(g)無機充填材を含有していてもよい。(g)無機充填材を含有して流動特性を変化させることにより、スピン塗布性やスクリーン印刷に適した印刷特性にすることができる。
【0044】
前記(g)無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ(非晶質合成シリカ、コロイダルシリカ)、アルミナ、アルミナ水和物、タルク、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、塩化アルミニウム等が挙げられる。これらの(g)無機充填材は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。無機充填材の含有量としては、ホウ素拡散用塗布液全体に対して1〜35質量%、好ましくは5〜20質量%である。1質量%未満であれば流動特性が変化せず、逆に35質量%を超える場合には流動性が大きく損なわれシリコンウェーハに塗布できなくなる場合があるため、好ましくない。非晶質合成シリカとしては、湿式合成シリカ、気相法シリカ等が挙げられる。
【0045】
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独又は四塩化ケイ素と混合した状態で用いることができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。
【0046】
湿式合成シリカは、さらに製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップシール(Nipsil、商品名)シリーズとして、(株)トクヤマからトクシール、ファインシール(商品名)シリーズとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ(株)からニップジェル(商品名)として、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェット(商品名)として市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、ケイ酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業(株)からスノーテックス(商品名)として市販されている。
【0047】
本発明では、さらに、必要に応じ、塗布液の基本物性を損なわない範囲で種々の添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、例えば、粘性改良剤としてのポリビニルイミダゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム等のビニル系高分子化合物、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドの交互又はブロック共重合体等のポリアルキレンオキシド化合物、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシプロピルアクリレート又はこれらに相当するメタクリレート等のポリヒドロキシアルキルアクリレート又はメタクリレート類、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物、各種pH調整剤、防腐剤、難燃化剤、ウェーハへの拡散濃度調整を目的としてN型領域を形成しうる化合物、例えば、無水リン酸、リン酸、リン酸ニ水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸メラミン、アッシドホスホオキシエチルメタクリレート及びそのアミン塩等のリン化合物、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類等が挙げられる。
【0048】
本発明の本発明のホウ素拡散用塗布液は、スピンコート法で塗布する場合には20℃でのB型回転粘度計での粘度が5〜100mPa・sの範囲で使用するのが好適である。また、本発明の本発明のホウ素拡散用塗布液は、スクリーン印刷法で塗布する場合には20℃でのB型回転粘度計での粘度が500〜250000mPa・sの範囲で使用するのが好適である。
【0049】
以下、本発明のホウ素拡散用塗布液の製造方法を詳細に説明する。
【0050】
本発明のホウ素拡散用塗布液は、前記(a)〜(e)成分を混合する工程を含む製造方法により製造でき、以下に例を挙げて説明するが、これに限らない。例えば、前記製造方法の一態様として、(1)(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物及び(e)水を含有する水溶液を作製する工程、(2)得られた水溶液に、(a)ホウ素化合物、(c)プロピレングリコール誘導体及び(d)エチレングリコールを混合する工程を含む方法が挙げられる。なお、前記製造方法において、工程(1)に先立って又は工程(1)と同時並行して、(a)、(c)及び(d)成分を混合し、得られた混合物に、工程(1)で得られる水溶液を混合してもよい。
【0051】
また、前記製造方法の他の態様としては、(1)予め(a)ホウ素化合物と(d)エチレングリコールとを反応させて錯体を形成させる工程、(2)得られた錯体と(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体及び(e)水を混合する工程を含む方法が挙げられるが、これらに限らない。なお、前記製造方法の他の態様において、工程(1)に先立って又は工程(1)と同時並行して、(b)、(c)及び(e)成分を混合し、得られた混合物に、工程(1)で得られる錯体を混合してもよい。
【0052】
さらに、前記いずれの製造方法においても、必要に応じて、(f)界面活性剤及び(g)無機充填材からなる群から選ばれる1種以上を混合してもよい。これらの成分の混合時期は、特に限定されず、工程(2)において行ってもよく、工程(2)の後に行ってもよく、工程(1)に先立って工程(2)において使用する他の成分の混合を行う場合、これらと一緒に混合してもよい。
【0053】
前記したいずれの製造方法においても、混合に際しては、工業的に有利であるため、加熱することが好ましく、特に(2)工程において加熱することが好ましい。前記加熱温度としては、特に限定されないが、通常40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、本発明の製造方法における混合及び攪拌に関しては、市販の各種混合機、攪拌機等を用いることができ、特殊な設備は必要ない。
【0054】
本発明のホウ素拡散用塗布液は、シリコンウェーハ上に塗布して使用される。シリコンウェーハへの塗布方法としては、スピンコーター法、スクリーン印刷法が一般的であるが、グラビア印刷法、凸版印刷法、平版印刷法、インクジェット印刷法、コンマコーター法、ダイへッドコーター法、ダイリップコーター法及びグラビア印刷法も用いることができる。
【0055】
本発明は、上記製造方法によって得られた前記(a)〜(e)成分を含有する塗布液又は(a)〜(e)成分に(f)界面活性剤及び(g)無機充填材のうち1種以上を含有する塗布液をシリコンウェーハに塗布する工程を含むホウ素拡散方法も包含する。このような塗布液及びその好ましい態様は、前記した通りである。このような塗布液を塗布する工程を含むことにより、該シリコンウェーハにホウ素を良好に拡散させることができる。
【0056】
前記塗布方法において、塗布する際の塗布液の温度としては、約5〜40℃が好ましく、約10〜30℃がより好ましい。
【0057】
本発明において塗布液をシリコンウェーハに塗布する際の塗布量としては、塗布液を塗布するシリコンウェーハの種類、用途等により異なるが、例えば、半導体デバイスを製造する場合には、塗布量を約1〜500g/mとすることが好ましく、約1〜300g/mとすることがより好ましく、約1〜100g/mとすることがさらに好ましく、約1〜50g/mとすることが特に好ましい。
【0058】
本発明の方法は、さらに、シリコンウェーハに塗布した塗布液を乾燥させて塗膜を形成させる乾燥工程、塗膜中の有機化合物を分解させる脱脂工程、及び脱脂工程で得られた塗膜においてホウ素を拡散させる拡散工程を含むことが好ましい。このような工程を含むことにより、例えば半導体デバイス中等にホウ素を高濃度で均一に拡散浸透させることができる。
【0059】
乾燥工程における乾燥温度としては、約60〜200℃が好ましく、約100〜180℃がより好ましい。乾燥時間は、乾燥温度等により適宜設定すればよいが、例えば、約1〜60分とすることが好ましく、約3〜30分とすることがより好ましい。乾燥方法としては特に限定されず、例えば、送風乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させることができる。
【0060】
脱脂工程においては、塗膜中の有機化合物(有機成分を)を約90%以上除去することが好ましい。脱脂工程においては塗膜を通常約250〜600℃の温度、好ましくは約300〜550℃で、好ましくは約1〜120分、より好ましくは約5〜60分脱脂して有機成分を分解燃焼除去することが好ましい。
【0061】
拡散工程においては、例えば半導体デバイスを製造する場合であれば、脱脂工程を行なった後のウェーハを枚葉又は複数枚を重ねた状態にて、好ましくは約700〜2000℃、より好ましくは約700〜1500℃で約10分〜10日間、好ましくは約30分〜7日間保持することが好ましい。なお、例えば半導体デバイスの製造において、上記脱脂工程により所望する抵抗値が得られる場合、拡散工程は行わなくてもよい。
本発明の拡散方法により、シリコンウェーハに上記組成物を塗布して製造される半導体デバイスも、本発明の1つである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中、特にことわりのない限り「%」及び「部」は重量基準を示す。また、各実施例及び比較例における物性測定方法、製造方法、使用方法について、以下に示す。
【0063】
PVA系樹脂の物性測定方法
本発明に用いるPVA系樹脂の重合度、ケン化度、酢酸ナトリウムはJIS K 6726:1994に従って測定した。ケン化度は逆滴定法によって測定し、PVA系樹脂の微量ナトリウム量は、PVA系樹脂を700℃の電気炉にて灰化後、灰化物にギ酸を適当量添加した後に加熱還元させ。さらに塩酸を適当量添加して水に溶解させた水溶液を原子吸光法にて測定した。
【0064】
ホウ素拡散用塗布液の調整方法
(A)(a)ホウ素化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール混合物に、(B)(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物を(e)水に加えて加熱溶解した水溶液を加えて60℃まで攪拌加熱した後、室温まで冷却する方法を採用した。
【0065】
ホウ素拡散用塗布液のシリコンウェーハへの塗布方法
シリコンウェーハは直径4インチ、厚さ200μm、比抵抗値が10〜20Ω・cmのP型シリコンウェーハを用いた。ホウ素拡散用塗布液のシリコンウェーハへの塗布は、スピンコーター(ミカサ社製 MS−A100)を用いて回転速度3500rpm、塗布時間10秒で塗布した。塗布液の滴下量は塗布液の粘度に応じて均一に広がる量を1〜10mlから選択した。
【0066】
ホウ素拡散用塗布液塗布後の乾燥・脱脂・ホウ素拡散方法
ホウ素拡散用塗布液が塗布されたシリコンウェーハは、以下の工程(I)〜(III)によって、ウェーハに拡散させた。
工程(I):150℃の電気炉で5分間乾燥した。
工程(II):次いで、塗膜中の有機化合物を脱脂することを目的として500℃の電気炉で20分間脱脂を行った。
工程(III):前工程(II)で得られたウェーハを枚葉、又は複数枚を重ね合わせた状態にて電気炉において1300℃で60分間熱処理することによりホウ素をウェーハに拡散させた。
【0067】
ウェーハの電気抵抗の測定方法
抵抗測定器(ナプソン社製、本体:RT−8A、測定器:RG−7A)を用い、拡散後のウェーハ1枚を任意に選択し、該拡散膜の表面抵抗率を求めた。
【0068】
PVA系樹脂の製造例を以下に示す。
[製造例1]
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器内を窒素で置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー2800質量部、脱酸素したメタノール800質量部を仕込み攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途脱酸素したメタノール50質量部に開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1重量部を溶解させた開始剤溶液を添加して重合を開始した。60℃で5時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は55.1%(重合収率で71.8%)、また、得られたポリ酢酸ビニル樹脂をケン化度100モル%のPVAとし、測定した平均重合度は1710であった。得られた重合溶液を塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー等に供給して塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで重合溶液と接触させ未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。ポリ酢酸ビニル−メタノール溶液の固形分濃度は42%であった。このポリ酢酸ビニル−メタノール溶液の温度を40℃に保ち、tert−ブチルイミノ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホランを添加してケン化反応を行った。ケン化反応終了時の形態は、溶媒のメタノール及び副生成物の酢酸メチルを含有したゲルになっており、ケン化度は88モル%、揮発分は58%、副生成物のナトリウムはPVAに対して10ppm(ここで言うppmとはPVA系樹脂中の質量規準のナトリウム含有量0.001質量%を示す。)未満であった。このゲル状PVAを3mm角の大きさに粉砕後、乾燥して揮発分を4%にまで下げたものを試験に供した。
【0069】
以下の実施例及び比較例において平均重合度の異なるPVA系樹脂は、酢酸ビニルを溶液重合する際の酢酸ビニルと溶媒であるメタノールとの比率及び重合収率を調整することで変化させた。また、PVA系樹脂のケン化度はケン化反応を行う際のケン化触媒の量及びケン化時間を調整して変化させた。
【0070】
[実施例1]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテル446質量部、エチレングリコール352質量部、酸化ホウ素72質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で81mPa・sであった。本拡散用塗布液を、上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.5Ω/□で目的とする値であった。
【0071】
[実施例2]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度280、ケン化度76モル%、ナトリウムの含有量1ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテル635質量部、エチレングリコール180質量部、酸化ホウ素55質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で28mPa・sであった。本拡散用塗布液を上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.6Ω/□で目的とする値であった。
【0072】
[実施例3]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテル446質量部、エチレングリコール310質量部、酸化ホウ素160質量部の混合液中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で81mPa・sであった。本拡散用塗布液を上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.5Ω/□で目的とする値であった。
【0073】
[実施例4]
超純水180質量部に、水酸化テトラベンジルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度2000,ケン化度60モル%、ナトリウムの含有量10ppm未満のPVA系樹脂18質量部をガラス製容器に入れ、次いで攪拌しながら加熱溶解させて、水溶液を作製した。この水溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテル472質量部、エチレングリコール220質量部、酸化ホウ素70質量部の混合液中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で81mPa・sであった。本拡散用塗布液を上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.6Ω/□で目的とする値であった。
【0074】
[実施例5]
超純水240質量部に、水酸化テトラベンジルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度160、ケン化度60モル%、ナトリウムの含有量10ppm未満のPVA系樹脂98質量部をガラス製容器に入れ、次いで攪拌しながら加熱溶解させて、水溶液を作製した。この水溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテル406質量部、エチレングリコール250質量部、酸化ホウ素60質量部の混合液中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で81mPa・sであった。本拡散用塗布液を上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.5Ω/□で目的とする値であった。
【0075】
[比較例1]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル798質量部及び酸化ホウ素72質量部の混合液中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。室温において白色の析出物が発生し、不均一な塗布液となり、均一に塗布できなかった。
【0076】
[比較例2]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度280、ケン化度76モル%、ナトリウムの含有量1ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル705質量部、エチレングリコール110質量部及び酸化ホウ素55質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。室温において白色の析出物が発生し、不均一な塗布液となり、均一に塗布できなかった。
【0077】
[比較例3]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル446質量部、ポリエチレングリコール200を352質量部及び酸化ホウ素72質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。室温において白色の析出物が発生し、不均一な塗布液となり、均一に塗布できなかった。
【0078】
[比較例4]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル446質量部、マンニトール352質量部及び酸化ホウ素72質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製しようとしたが酸化ホウ素が完全に溶解せず不均一な塗布液となり、均一に塗布できなかった。
【0079】
[比較例5]
超純水280質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル458質量部、エチレングリコール160質量部及び酸化ホウ素72質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。室温で5時間放置すると、白色の析出物が発生し、不均一な塗布液となり、均一に塗布できなかった。
【0080】
[比較例6]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル483質量部、エチレングリコール352質量部及び酸化ホウ素35質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。本塗布液の20℃における粘度はブルックフィールド回転粘度計、60回転/分で67mPa・sであった。本拡散用塗布液を上記の方法でシリコンウェーハに塗布し、乾燥、脱脂、拡散を行った後、抵抗値を測定したところ0.9Ω/□で、目的とする実施例1〜5に記載の抵抗値0.5〜0.6Ω/□よりも高い値となった。
【0081】
[比較例7]
超純水100質量部に、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてケン化した平均重合度560、ケン化度88モル%、ナトリウムの含有量6ppmのPVA系樹脂30質量部を入れ、次いで攪拌しながら分散/溶解させて、PVA水溶液を作製した。この水溶液を、プロピレングリコールモノメチルエーテル446質量部、エチレングリコール352質量部及び酸化ホウ素320質量部の混合物中に滴下し、60℃まで攪拌下で加熱した。加熱後攪拌を継続しながら室温まで冷却して塗布液を作製した。エチレングリコールを加えているにもかかわらず、酸化ホウ素が溶け残った。
【0082】
以上のことから、本発明では、ホウ素化合物の溶解性に劣るプロピレングリコール誘導体を用いながら、ホウ素系化合物を高濃度に含有するホウ素拡散用塗布液が得られることが確認された(実施例1〜5)。一方、比較例1〜7では、ホウ素系化合物を高濃度に含有するホウ素拡散用塗布液が得られない(比較例1〜5及び7)、又はホウ素拡散用塗布液が得られたとしても、実用的な物性ではないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のホウ素拡散用塗布液は、環境毒性の懸念の少なく、ホウ素化合物の溶解性に劣るプロピレングリコール誘導体を用いながら、従来の方法では製造できなかったホウ素系化合物を高濃度に含有することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)プロピレングリコール誘導体、(d)エチレングリコール、及び(e)水を含有し、前記(a)ホウ素化合物の含有量が、酸化ホウ素(B)とした場合に5質量%以上20質量%以下であることを特徴とするホウ素拡散用塗布液。
【請求項2】
(a)ホウ素化合物が、ホウ酸、酸化ホウ素(無水ホウ酸)、ホウ酸アンモニウム及び塩化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1記載の高濃度ホウ素拡散用塗布液。
【請求項3】
(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物が、ナトリウムの含有量が10ppm未満のポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のホウ素拡散用塗布液。
【請求項4】
(c)プロピレングリコール誘導体が、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル及びプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布液。
【請求項5】
(d)エチレングリコールの含有量が15質量%以上であり、(e)水の含有量が25質量%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布液。
【請求項6】
(1)(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物及び(e)水を含有する水溶液を作製する工程、(2)得られた水溶液に、(a)ホウ素化合物、(c)プロピレングリコール誘導体及び(d)エチレングリコールを混合する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載されたホウ素拡散用塗布液の製造方法。
【請求項7】
(2)工程において、40℃以上に加熱することを特徴とする請求項6記載のホウ素拡散用塗布液の製造方法。