説明

ホスホリル基を有する共重合体およびその成形品

少なくとも二つのポリマーセグメントを含む共重合体であって、少なくとも一つのポリマーセグメントが下記一般式(1)で示されるホスホリル誘導体を含み、少なくとも一つのポリマーセグメントが下記一般式(1)で示されるホスホリル誘導体を含まないことを特徴とする共重合体を用いることにより、安価で化学的安定性に優れ、機械的強度が高く、さらにハロゲン元素を含まず、廃棄時おける環境付加の低い高分子および組成物、成形体を提供する。
【化1】


(Rは、各々独立に、炭化水素,芳香環,水素,金属イオン,オニウムイオンを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを有することを特徴とする共重合体および該共重合体を含む組成物およびそれらの成形品に関する。また本発明は,該共重合体およびそれを含む組成物からなるイオン交換体および高分子電解質に関する。詳しくは,電気脱塩式純水製造装置,製塩装置,海水や廃液からの金属回収装置,電解合成,二次電池,燃料電池,イオンセンサー,ガスセンサー等のデバイスに好適に用いられる安価なイオン吸着剤,高分子電解質,イオン交換体,イオン伝導体,およびプロトン伝導体に応用できる共重合体およびその組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
電気脱塩式純水製造装置,海水からの製塩装置,海水や廃液からの金属の回収装置,電解合成,二次電池,燃料電池,イオンセンサー,ガスセンサー等のデバイスにおいては,イオン吸着剤,高分子電解質,イオン交換体,イオン伝導体あるいはプロトン伝導体が種々の形状で用いられる。これら部材はそれらデバイスにおいて最も重要な構成要素であり,デバイスの性能に最も大きな影響を及ぼす。
【0003】
従来,これら部材にはダイヤイオン(三菱化学,登録商標)に代表されるポリスチレンスルホン酸系の高分子イオン交換体が用いられてきた。ポリスチレンスルホン酸系高分子はスチレンスルホン酸のラジカル重合やポリスチレンのスルホン化により安価に合成できる。しかしながら,この高分子は親水性が高いため,水に溶けるあるいは水中で膨潤して機械的強度が低下するという欠点がある。この問題を克服するために,一般的にはジビニルベンゼンのような二官能性のコモノマーを用いて化学的に架橋して三次元網目構造を導入することが行われている。しかしながら,架橋した高分子はいかなる溶媒に対しても不溶かつ不融であり,任意の形状のイオン交換体の成形品を溶媒キャスト法,スピンコート法,溶融プレス法,溶融押出し法または射出成形法等の一般的な成形加工法により得ることは容易ではない。また,芳香族スルホン酸を酸性溶液中で100 °C以上に加熱すると,脱スルホン酸が起こる。これはこの条件下ではスルホン化反応の化学平衡が逆方向(すなわち脱スルホン化の方向)に移動するためである。従って,これら部材が使用される酸性環境下においては,芳香族スルホン酸は化学的な安定性が低く,短時間で材料が劣化するという問題がある。
【0004】
ポリスチレンスルホン酸系以外の材料としては,ナフィオン(DuPont,登録商標)に代表されるフッ素系樹脂が用いられる。この材料は全フッ素化高分子の側鎖にスルホン酸が導入された構造をもち,化学的安定性が極めて高いという特徴がある。またこのポリマーは,疎水性の全フッ素化高分子と親水性の側鎖スルホン酸が相分離構造を示し,親水性部分が膨潤しても疎水部は膨潤しないため水中で十分な機械的強度を保持できる。このような特徴があるため,耐腐食性を要求される食塩電解用隔膜や燃料電池用プロトン伝導体として応用されている。しかしながら,これらフッ素系樹脂は非常に高価である。またフッ素を含むため廃棄過程における燃焼処理によりフッ化水素,フッ素およびフルオロカーボン等の有害ガスを発生する可能性があり,これら有害ガスを大気中に放出しない特別な配慮を行う必要がある。このため,ハロゲンフリーで同様な化学的安定性を示す材料が求められている。
【0005】
その他にも,二次電池のイオン伝導体においてはポリエチレンオキシドに代表されるポリエーテル系高分子が用いられている。これらの材料に各種金属塩をドープすることにより発現するイオン伝導性を応用して,高分子電池,各種センサーに利用されている。しかし,これらの材料はゲル状であり,自立膜として機械的強度が求められる分野で使用することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,電気脱塩式純水製造装置,海水からの製塩装置,海水や廃液からの金属回収装置,電解合成,二次電池,燃料電池,イオンセンサー,ガスセンサー等のデバイスに好適に用いられるイオン吸着剤,高分子電解質,イオン交換体,イオン伝導体,およびプロトン伝導体の製造において,安価で化学的安定性に優れ,機械的強度が高く,さらにハロゲン元素を含まず廃棄時における環境負荷の低い高分子および組成物,成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,上記の諸問題を解決すべく鋭意検討した結果,スルホニル基に比して酸性条件下でも化学的に安定なホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを有するブロック共重合体あるいはグラフト共重合体が上記諸特性を満足することを見いだした。異種ポリマーが化学的に共有結合されたブロック共重合体あるいはグラフト共重合体は,自発的にミクロ相分離構造を示すことが報告されている(Hashimoto, T. et al., macromolecules 1998, 31, 3815)。このため,このような共重合体はハロゲン元素を一切含まなくとも前述のフッ素系樹脂と同様にミクロ相分離構造を示す。疎水性のポリマーセグメントとホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを組み合わせた共重合体は,疎水性のポリマー相により形状を保持できるため,ホスホリル誘導体を含むポリマーが膨潤するような条件下でも化学的に架橋することなく十分な機械的強度を示すことを本発明者らは見いだした。このような共重合体は架橋していないため熱可塑性があり,一般的な成型加工法により容易に任意の形状の成形品を得ることができる。さらに,ハロゲンフリーであるため安価でかつ廃棄時の環境負荷も小さいという特徴を有する。本発明はこれらの知見をもとに完成されたものである。
【0008】
すなわち,本発明の趣旨はブロック共重合体あるいはグラフト共重合体において,下記一般式(1)で示されるホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを有することを特徴とする共重合体に存する。
【化3】

(式中,Rは各々独立に炭化水素,芳香環,水素,金属イオン,またはオニウムイオンを示す。)
【0009】
本発明の第二の趣旨はホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントが下記に示す一般式(2),(3)から選ばれる少なくとも一つ以上の重合単位を含むことを特徴とするブロック共重合体あるいはグラフト共重合体に存する。
【化4】

【0010】
本発明の第三の趣旨は,前記の共重合体において,ブロック共重合体であることを特徴とする共重合体に存する。
【0011】
本発明の第四の趣旨は,前記のブロック共重合体において,少なくとも一つのポリマーセグメントがポリスチレン誘導体であることを特徴とする共重合体に存する。本発明の第五の趣旨は,前記の共重合体において,ホスホリル誘導体がホスホン酸ないしその塩であることを特徴とする共重合体に存し,本発明の第六の趣旨は,ラジカル重合法により合成されることを特徴とする前記の共重合体に存する。本発明の第七の趣旨は,該共重合体および該共重合体を含む組成物からなるイオン交換体,イオン吸着剤,高分子電解質,イオン伝導体およびプロトン伝導体に存する。本発明の第八の趣旨は,該共重合体および該共重合体を含む組成物を成形加工して得られる成形体に存する。本発明の別の趣旨は,該共重合体における各々のポリマーセグメントがミクロ相分離することを特徴とする前記高分子成形体に存する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、例示化合物2の薄膜のプロトン伝導性を示す図である。(a):RH = 90 %において10 kHzで測定,(b):RH = 90 %において1 kHzで測定,(c):RH = 100 %において10 kHzで測定,(d):RH = 100 %において1 kHzで測定。
【0013】
本発明において,共重合体は少なくとも二つ以上のポリマーセグメントが化学的に結合された高分子化合物であり,ホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを少なくとも一つ有する。共重合体は,ポリマーセグメントが同一主鎖中にあるブロック共重合体でもよく,幹となる主鎖からポリマーセグメントが枝分かれして結合したグラフト共重合体でもよい。
【0014】
本発明の共重合体は,ホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントを高分子全体に対してモノマー単位当たり5 mol% 〜 95 mol%,好ましくは10 mol% 〜 70 mol%含有する。
【0015】
ホスホリル誘導体は前述のごとく一般式(1)で表される構造をもち,主鎖に直接結合していてもよくまたは炭化水素や芳香環を挟んで主鎖と結合してもよい。具体的には下記一般式群(4)で例示される構造をもつ。
【化5】

【0016】
また,式(4)中のRは各々独立に炭化水素,芳香環,水素,金属イオン,またはオニウムイオンを示し、それぞれのRは同一であっても異なっていてもよいが,合成が容易であるという観点からは同一である方が好ましい。Rが炭化水素である例としては,炭素数が1以上18以下である鎖状炭化水素であり,飽和であっても不飽和であってもよく、炭化水素鎖の末端あるいは鎖中に置換基あるいは分枝構造を有していてもよい。あるいは,置換基を有していてもよい5〜7員環の炭化水素環または複素環でもよい。Rが芳香環としては,たとえば,単環のベンゼン環でもよく,ナフタレン環,アントラセン環のような縮合環でもよい。また,ピリジン環やピリミジン環,チオフェン環などの複素環でもよい。これらは置換基を有していてもよい。Rが金属イオンである場合には,価数に応じて配位数が変わるものとする。これらは共有結合していてもよく,イオン結合していてもよく,また配位結合していてもよい。Rがオニウムイオンである例としては,アンモニウム,ホスホニウム,オキソニウム,スルホニウムなどが挙げられる。Rが水素である共重合体は,Rが炭化水素,芳香環,金属イオン,オニウムイオンである共重合体の加水分解やイオン交換により得ることができる。また,対応するRが水素であるモノマーから直接重合して得てもよい。
【0017】
本発明の共重合体において,ホスホリル誘導体を有さないポリマーセグメントについては特に制限はないが,化学的に安定であり加工性のよい熱可塑性高分子が好ましい。具体的には一般式群(5)で例示される構造を挙げることができる。本発明の共重合体はここに示されるようなホスホリル誘導体を含まないポリマーセグメントを少なくとも一つ有する。
【化6】

【0018】
本発明の共重合体の分子量については特に制限はないが,数平均分子量が好ましくは5,000以上,さらに好ましくは10,000以上である。また,分子量分布についてもその広狭には特に制限はなく,様々なものを充当することが可能である。
【0019】
本発明の共重合体の具体例を下記[表1]に示すが,これに限定されるものではない。なお[表1]に示す共重合体は本発明の実施例に記載の方法やC.J. Hawker et al., Chem. Rev. 2001, 101, 3661やM. Kamigaito et al., Chem. Rev. 2001, 101, 3689に記載のリビングラジカル重合法,N. Hadjichristidis et al., Chem. Rev. 2001, 101, 3747に記載のリビングアニオン重合法,WO00/09797などに記載の放射線グラフト法またはこれらに準ずる公知の方法にて製造できる。
【0020】
本発明の共重合体を含む組成物は,各種高分子化合物を含有していてもよく,各種低分子添加剤を含んでいてもよい。各種添加剤には,可塑剤,安定剤,離型剤,各種溶剤,イオン伝導性を向上させることを目的とした各種塩,重合性官能基を有するモノマーなどが例として挙げられる。
【0021】
このようにして得られた本発明の共重合体は化学的安定性,イオン交換能,金属に対する配位能,電気化学特性などの各種特性を有し,ホスホリル誘導体を含むポリマーセグメントが膨潤するような条件下においても相分離構造により高い機械的強度を保持することが可能となり,各種イオン交換体,イオン吸着剤,高分子電解質,イオン伝導体,プロトン伝導体に応用できる。
【0022】
【表1−1】

【0023】
【表1−2】

【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが,本発明の要旨を超えない限り以下の実施例に制限されるものではない。
【0025】
(実施例1)
例示化合物1の製造方法
例示化合物1は下記の合成ルートで製造される。
【化7】

【0026】
ポリ(4-クロロメチルスチレン)(1-1)の合成
【化8】

三方コックを備えた50 mLのナス型フラスコに4-クロロメチルスチレン(CMS)15 g (98 mmol),2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 32 mg (0.20 mmol),2,2,6,6,-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)61 mg (0.39 mmol) を入れ,Freeze-thawサイクルにより脱気した後アルゴン置換を行った。反応器を125 °Cのオイルバスに入れ4.5時間撹拌した。反応液を室温に冷却し,テトラヒドロフラン(THF)で希釈後メタノール中に滴下してポリマーを沈澱させた。メタノールを交換しながら1日撹拌して生成ポリマーを洗浄し,ろ過によりポリマーを回収した。減圧下室温で12時間乾燥し,4.1 g(転化率:27 %)のポリマー(1-1)を得た。THF/メタノールで再沈澱を繰り返し精製した後,減圧下室温で乾燥した。
Mn = 1.63 x 104, Mw/Mn = 1.65
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.2-7.2 (br, 4H, CH in aromatic), 4.5 (br, 2H, CH2Cl), 2.5-1.2 (br, 3H, -CH2-CH-).
【0027】
ポリ(4-クロロメチルスチレン)−b−ポリスチレン(1-2)の合成
【化9】

三方コックを備えた50 mLのナス型フラスコにスチレン(St) 10 g (96 mmol)とポリ(4-クロロメチルスチレン)(1-1)3.0 gを入れ,Freeze-thawサイクルにより脱気した後アルゴン置換を行った。反応器を125 °Cのオイルバスに入れ25 時間撹拌した。反応液を室温に戻し,THFで希釈後メタノール中に滴下してポリマーを沈澱させた。メタノールを交換しながら1日撹拌して生成ポリマーを洗浄し,ろ過によりポリマーを回収した。減圧下室温で24 時間乾燥し,13 g(転化率:100 %)のポリマー(1-2)を得た。THF/メタノールで再沈澱を繰り返し精製した後,減圧下室温で乾燥した。NMRよりCMSの導入量を19 mol%と決定した。
Mn = 3.44 x 104, Mw/Mn = 1.71
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.8-7.2 (br, 2.4H, CH in aromatic), 6.2-6.8 (br, 2H, CH in aromatic), 4.5 (br, 1.1H, CH2Cl), 2.5-1.2 (br, 3H, -CH2-CH-)
【0028】
ポリ(4-ビニルベンジルホスホン酸ジエチル)−b−ポリスチレン(例示化合物1)の合成
【化10】

還流冷却器を備えた100 mLのナス型フラスコに亜リン酸トリエチル 20 g (120 mmol)およびポリ(4-クロロメチルスチレン)−b−ポリスチレン(1-2)8.0 gを入れ,100 °Cで一週間撹拌した。反応液を室温に戻し未反応の亜リン酸トリエチルを減圧留去した後,メタノール中に滴下してポリマーを沈澱させた。THF/n-ヘキサンにより再沈澱を繰り返し行いデカンテーションによりポリマーを回収した。減圧下室温で12時間乾燥し,3.6 gの表題ポリマーを得た。NMRにおいて4.5 ppmのクロロメチル基に起因するシグナルが完全に消失したことから反応が完結したことを確認した。また,NMR よりP含有モノマー単位の導入率を全モノマー単位に対して10 mol%と決定した。
Mn = 3.85 x 104, Mw/Mn = 1.41
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.8-7.2 (br, 2.4H, CH in aromatic), 6.2-6.8 (br, 2H, CH in aromatic), 3.8-4.0 (br, 2.4H, P(OCH2CH3)2), 2.8-3.2 (br, 1.2H, -CH2P), 2.5-1.2 (br, 3H, -CH2-CH-), 0.9-1.2 (br, 4.4H, P(OCH2CH3)2)
31P-NMR(DMSO-d6): δ 27.4 ppm
【0029】
例示化合物1はポリ(4-クロロメチルスチレン)−b−ポリスチレンに水素化ナトリウムと亜リン酸ジエチルを作用させることでも合成できる(下記式)。以下に実験方法をまた表2に反応条件および結果を示す。
【化11】

【0030】
Ar置換した200 mLの三口フラスコに水素化ナトリウム(55〜65 %,油性)、無水THFを入れた。このサスペンジョンに0 °Cで亜リン酸ジエチルを加え,撹拌した後反応液を室温に戻した。別の500 mLの三口フラスコにアルゴン雰囲気下室温でヨウ化ナトリウム,ポリ(4-クロロメチルスチレン)−b−ポリスチレン,無水THFを入れ撹拌し,先に調整したサスペンジョンを室温でゆっくりと滴下してこのまま室温で24時間撹拌した。反応液をメタノール中へ滴下してポリマーを沈殿させ回収した。メタノールを交換しながら1日撹拌し、メタノールを減圧留去した。THF/n-ヘキサンにより再沈澱を繰り返し行いデカンテーションによりポリマーを回収した。減圧下室温で乾燥し目的ポリマーを得た。NMRにおいて4.5 ppmのクロロメチル基に起因するシグナルが完全に消失したことから反応が完結したことを確認した。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例2)
ポリ(4-ビニルベンジルホスホン酸)−b−ポリスチレン(例示化合物2)の製造方法
【化12】

アルゴン雰囲気下で,50 mLのナス型フラスコにジメチルスルフィド 1.8 mL (25 mmol)を入れ氷浴で冷却した。これに4.6 mL (70 mmol) のメタンスルホン酸をゆっくりと滴下した。ついで,例示化合物1 (2.0 g) のトルエン溶液 (5 mL) をゆっくりと滴下した。反応液を室温に戻し,4 日間撹拌した。スルフィドとトルエンを減圧留去した後,スラリー状の反応物に水を加えポリマーを沈澱させた。水中で撹拌しポリマーを洗浄した後,ろ過により回収し,室温・常圧で2 日間乾燥した。NMR測定(溶媒:DMSO-d6)より加水分解の進行を確認した。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 6.8-7.2 (br, 2.4H, CH in aromatic), 6.2-6.8 (br, 2H, CH in aromatic), 2.8-3.2 (br, 1.2H, -CH2P), 2.5-1.2 (br, 3H, -CH2-CH-)
31P-NMR(DMSO-d6): δ 22.2 ppm
【0033】
例示化合物2は、例示化合物1にヨードトリメチルシランを作用させることでも製造できる(下記式)。以下に実験方法をまた表3に反応条件および結果を示す。
【化13】

【0034】
Ar雰囲気下で,二口ナスフラスコに例示化合物1の無水ジクロロメタン溶液を入れ,氷浴中で冷却しながらヨードトリメチルシランを加えた。反応液を室温に戻し,そのまま室温で24時間撹拌した。反応液に亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を加えて撹拌し,反応液の色が無色へ変化したら30 mLの濃塩酸を加えた300 mLのメタノール中へ滴下しポリマーを沈殿させた。そのまま24時間撹拌した後デカンテーションによりポリマーを回収した後,純水で洗浄し減圧下室温で20時間乾燥させた。生成物の構造は赤外(IR)吸収スペクトル法により確認した。
【0035】
【表3】

【0036】
(実施例3)
例示化合物1および例示化合物2の合成
例示化合物1および例示化合物2は、先にホスホリル基をもつモノマーを合成し,該モノマーを重合して得ることも可能である。以下にモノマーの合成法とマクロイニシエーターの合成法について述べる。
【化14】

【0037】
4-ビニルベンジルホスホン酸ジエチルの合成
【化15】

50 mLの三口ナス型フラスコに亜リン酸トリエチル 15 g (90 mmol),4-クロロメチルスチレン 11 g (75 mmol)およびヒドロキノン (100 mg) を入れ,100 °Cで44 h撹拌した。反応液を室温に冷却し,未反応の亜リン酸トリエチルとCMSを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/アセトン = 10/1)により精製した。無水硫酸ナトリウムにより乾燥した後,エバポレーションにより溶媒を留去して目的物である無色のオイル12 g (61 %)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.35 (d, J = 8.0 Hz, 2H, CH in aromatic), 7.24 (d, J = 8.0 Hz, 2H, CH in aromatic), 6.67 (dd, J = 17.6 Hz, J = 10.8 Hz, 1H, CH2=CH-), 5.73 (dd, J = 17.6 Hz, J = 0.8 Hz, 1H, trans-CH2=CH-), 5.23 (d, J = 10.8 Hz, 1H, cis-CH2=CH-), 4.00 (m, 4H, OCH2), 3.13 (d, J = 22 Hz, 2H, PCH2), 1.26 (t, J = 2.0 Hz, 6H, CH3).
GC/MS: 254 (M+)
【0038】
ポリ(4-ビニルベンジルホスホン酸ジエチル)の合成
【化16】

三方コックを備えた50 mLのナス型フラスコに4-ビニルベンジルホスホン酸ジエチル5.0 g (20 mmol),過酸化ベンゾイル(BPO) 48 mg (0.20 mmol),2,2,6,6,-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)41 mg (0.26 mmol) を入れ,Freeze-thawサイクルにより脱気した後アルゴン置換を行った。反応器を125 °Cのオイルバスに入れ24時間撹拌した。反応液を室温に冷却し,テトラヒドロフラン(THF)で希釈後ヘキサン中に滴下してポリマーを沈澱させた。ヘキサンを交換しながら1日撹拌して生成ポリマーを洗浄し,デカンテーションによりアメ状ポリマーを回収した。減圧下室温で12時間乾燥し,3.0 g(転化率:60 %)のポリマーを得た。沸騰エーテル中で撹拌し精製した後,減圧下室温で乾燥した。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.2-7.0 (br, 4H, CH in aromatic), 4.0 (br, 4H, OCH2), 3.1 (br, 2H, CH2P), 2.0-1.2 (br, 3H, -CH2-CH-), 1.1 (br, 6H, CH3)
【0039】
このマクロイニシエーターを用いて,実施例1と同様に共重合することで,例示化合物1が得られた。また,実施例2と同様に加水分解を行うことで,例示共重合体2が得られた。得られた共重合体はどちらも実施例1あるいは実施例2で得られた共重合体とほぼ同じ物性を示し,合成ルートの違いによる影響は認められなかった。
【0040】
(実施例4)
例示化合物1の薄膜作製
1.0 gの例示化合物1を3 mLのトルエンに加え,室温で12時間撹拌して均一溶液とした。この溶液を5 cm x 5 cm x 1 mmのフッ素樹脂製の容器に流し込み,水平を厳密に保持しながら常圧下室温にて24時間風乾しトルエンを留去した。60 °Cで8時間減圧乾燥し溶媒を完全に留去した後,120 °Cで12時間アニーリングを行った。この試料を室温まで徐冷し容器より剥離すると,透明で均一な膜を得た。得られた膜の厚さをマイクロメータで測定し,膜厚が160 μmであることを確認した。
【0041】
(実施例5)
例示化合物2の薄膜作製
500 mgの例示化合物2を3 mLのN-メチルピロリドンに加え,室温で12時間撹拌して均一溶液とした。この溶液を5 cm x 5 cm x 1 mmのフッ素樹脂製の容器に流し込み,水平を厳密に保持しながら常圧下室温にて24時間風乾した。60 °Cで12時間減圧乾燥し溶媒を完全に留去した後,120 °Cで12時間アニーリングを行った。この試料を室温まで徐冷し容器より剥離すると,透明なで均一な膜を得た。得られた膜の厚さをマイクロメータで測定し,膜厚が95μmであることを確認した。
【0042】
また,ジメチルホルムアミドを溶媒として用いた場合について種々の条件(キャスト基板の材質,乾燥条件)を変えて例示化合物2の薄膜作成を行った。結果を表4にまとめた。
【0043】
【表4】

【0044】
(実施例6)
例示化合物2の薄膜作製
例示化合物2の薄膜は,実施例4で述べた例示化合物1の薄膜を加水分解することでも得ることができる。例示化合物1の有機溶媒に対する溶解性や薄膜の性状等が良好であるため,本方法は例示化合物2の効果的な薄膜作成方である。以下に比較として例示化合物1の薄膜を加水分解して例示化合物2の薄膜を作製する方法について述べる。
【0045】
セパラブルフラスコに例示化合物1の薄膜を入れ,1M-硫酸中で24時間煮沸した。純水中で1時間 煮沸した後,純水中室温で1日撹拌・洗浄した。常圧下室温で2日間乾燥し例示化合物2の薄膜を得た。得られた薄膜は白濁しており,脆い膜であった。この膜の一部を重クロロホルムに溶解しNMRを測定し,全ホススニル基の25 % 〜 32 %が加水分解したことを確認した。
【0046】
加水分解は1M-硫酸以外にもいろいろな反応剤を用いて行うことが可能である。表5に反応剤と反応温度を変えて薄膜の加水分解を行った結果を示す。
【0047】
【表5】

【0048】
(実施例7)
共重合体の熱物性
例示化合物1および例示化合物2のDSC(示差走査熱量分析)測定およびTG(熱重量分析)測定を行った。結果を表6に示す。DSCは10 °C/minの昇温および降温速度で測定し,昇温測定,降温測定それぞれ三回測定を行ってデータの再現性を確認した。DSC測定の結果,例示化合物1には二つの明瞭なガラス転移点が観察され,相分離構造を示すことが確認された。また,TG測定を昇温速度10 °C/minで行った結果,両共重合体とも分解温度(10 %重量減時の温度)は300 ℃以上であり,非常に高い熱安定性を示すことが確認された。
【0049】
【表6】

【0050】
(実施例8)
例示化合物2のイオン交換容量,含水率,耐酸化性
例示化合物2のイオン交換容量,含水率,耐酸化性を測定した結果を表7に示す。イオン交換容量,含水率および耐酸化性は以下に述べる方法により評価した。
【0051】
イオン交換容量(IEC)
膜を1 M塩酸中で緩やかに12時間撹拌してプロトン型とした後,0.1 Mの塩化ナトリウム水溶液に6日間浸漬して膜中のプロトンを完全に抽出し,これを1 / 50 Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定を行い膜中の荷電基量を求めた。
【0052】
含水率
膜を1 M塩酸中で緩やかに12時間撹拌してプロトン型とした後,膜の湿潤重量(wwet)した。この膜を減圧下室温で一週間乾燥したものの重量を秤量し乾燥重量(wdry)とした。含水率は以下の式により算出した。
含水率 =(wwet - wdry) / wdry x 100
【0053】
耐酸化性試験(Fenton試験)
膜を1 M塩酸中で緩やかに12時間撹拌してプロトン型とした後,減圧下室温で20時間乾燥し重量を秤量した。この膜を4 ppmの塩化鉄(II)を含む3 %の過酸化水素水へ70 °Cで24時間浸漬した。膜を純水で洗浄後、再び膜を1 M塩酸中で緩やかに12時間撹拌してプロトン型とし,室温で40時間真空乾燥させ重量を秤量した。過酸化水素水処理前後での重量変化から膜の耐酸化性を評価した。
【0054】
【表7】

【0055】
(実施例9)
例示化合物2の薄膜のプロトン伝導性
例示化合物2薄膜(膜厚80 μm)のプロトン伝導性を交流インピーダンス法により測定した。結果を図1に示す。プロトン伝導度は種々の温度,相対湿度(RH)で膜厚方向のインピーダンスを測定することで算出した。測定の結果,本薄膜はどの温度でも10-5 S/cm以上のプロトン伝導性を有することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、例示化合物2の薄膜のプロトン伝導性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つ以上のポリマーセグメントを有する共重合体であって,少なくとも一つのポリマーセグメントが下記一般式(1)で示されるホスホリル誘導体を含み,少なくとも一つのポリマーセグメントが下記一般式(1)で示されるホスホリル誘導体を含まないことを特徴とする共重合体。
【化1】

Rは、各々独立に、炭化水素,芳香環,水素,金属イオン,またはオニウムイオンを示す。
【請求項2】
ホルホリル誘導体を含むポリマーセグメントが下記に示す一般式(2)および(3)から選ばれる少なくとも一つの重合単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の共重合体。
【化2】

Rは、各々独立に、炭化水素,芳香環,水素,金属イオン,またはオニウムイオンを示す。
【請求項3】
ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
ホスホリル誘導体を含まないポリマーセグメントの少なくとも一つがポリスチレン誘導体であることを特徴とする請求項3に記載の共重合体。
【請求項5】
グラフト共重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共重合体。
【請求項6】
ホスホリル誘導体がホスホン酸ないしその塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の共重合体。
【請求項7】
ラジカル重合法により合成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体を含む組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなるイオン交換体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなるイオン吸着剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなる高分子電解質。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなるイオン伝導体。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなるプロトン伝導体。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物からなる燃料電池用イオン交換膜。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物または請求項14に記載のイオン交換膜をもちいた燃料電池。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物または請求項14に記載のイオン交換膜をもちいた電気化学デバイス。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれかに記載の共重合体または請求項8に記載の組成物を成形加工して得られる成形品。
【請求項18】
共重合体における各々のポリマーセグメントがミクロ相分離することを特徴とする請求項17に記載の成形品。
【請求項19】
イオン交換体,イオン吸着剤,高分子電解質,イオン伝導体およびプロトン伝導体であることを特徴とする請求項17または18に記載の成形品。



【図1】
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【公表番号】特表2007−525563(P2007−525563A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525967(P2006−525967)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003426
【国際公開番号】WO2005/082964
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】