説明

ホンシメジ新菌株

【課題】ホンシメジの新菌株及びそれを用いたホンシメジの生産法を提供する。
【解決手段】
ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)新菌株である新生85株に関する。この新菌株は、菌さんの色が著しい淡灰色を呈し、また「菌柄の最大径÷菌さん下部の菌柄直径」の値が従来菌株に比べてきわめて大きくホンシメジ本来の極太感をより良く示すなど、消費者に好まれるやすい良好な形態を有する。さらに栽培期間、収量等の栽培特性については、従来の優良菌株と同等の優れた形質を有している。
また、菌床を用いた人工栽培法でホンシメジを生産する方法であって、種菌として上記新菌株を用いるホンシメジの生産法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)の新菌株及び当該菌株を用いたホンシメジの生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ホンシメジは菌根菌に属するため、人工栽培は極めて困難と考えられてきた。しかし、滋賀県森林センターの太田氏により、大麦とおが屑を用いたホンジメジの実用的な培養法が開発され、また、人工栽培に用いることのできる優良菌株としてホンシメジYG6Lが報告された(特許文献1,2および非特許文献1参照)。
【0003】
また、発明者らはYG6Lを親株として、より人工栽培に適した菌株108株(FERM P−20907)を作出し、報告している(特許文献3)。
【0004】
しかしながら公知の優良株とされてきたホンシメジYG6Lや108株は、人工栽培が可能であるものの、菌さんの色が暗色を帯びる、菌柄が十分に太くならずホンシメジ本来の極太感がないなど、消費者に好まれる形態を呈さないという複数の問題点を有していることから、商品化を念頭に考慮すると必ずしも最適の菌株とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−4427号公報
【特許文献2】特開2002−247917号公報
【特許文献3】特開2007−312708号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本菌学会会報、39巻、13−20頁(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、従来優良菌株として知られてきた108株等の菌株の問題点を克服した、新規なホンシメジ菌株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、公知のホンシメジ菌株であるYG6Lと広島県産野生株との交配種を親株とし、これと石川県産野生株とを交配させることで、108株の長所を維持しつつも欠点を克服した新規なホンシメジ菌株を提供できることを見出し、本発明を完成した。したがって、本発明は以下の通りである。
【0009】
(1)ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)新生85株(FERM AP−22070)。
(2)菌床を用いた人工栽培法でホンシメジを生産する方法であって、種菌として(1)記載の菌株、又は菌さんの色が淡灰色を呈し、かつ太い菌柄を有する(1)記載の株の変異株を用いることを特徴とする、ホンシメジの生産法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のホンシメジ新菌株は、従来の優良菌株と同様のすぐれた栽培形質を保持している上に、(1)菌さんの色が淡灰色を呈し、(2)「菌柄の最大径÷菌さん下部の菌柄直径」の値が平均2.0以上であってホンシメジ特有の極太感を有するなど、消費者の嗜好によく合致した、商品化に適した形質を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)本発明菌株
本発明の新菌株は、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)新生85株である。この菌株は、平成23年2月18日に(独)産業技術総合研究所・特許生物寄託センターに寄託され、受領番号として「FERM AP−22070」が付与されている。
【0012】
本発明のホンシメジ新生85株は、以下のような栽培特性、商品特性を有することから、産業的に有用な優良菌株である。
【0013】
(1)菌さんの色が淡灰色を呈する。
(2)「菌柄の最大径÷菌さん下部の菌柄直径」の値が平均2.0以上である。
(3)栽培期間、1ビン当たりの収量等において、108株、YG6Lなどの従来の優良品種と同程度か、またはそれ以上の優れた栽培特性を有する。
【0014】
なお、「菌床を用いた人工栽培」とは、以下の(A)〜(D)工程からなるホンシメジの栽培に通常採用されている栽培方法を意味し、詳細な栽培条件等は、以下に説明したとおりである。
(A)おが屑と栄養材を混合後、殺菌し、培養容器に充填する工程
(B)種菌接種後、18〜28℃の温度条件下、暗室にて培養する工程
(C)菌廻り完了後、覆土を行い、追加培養する工程、及び
(D)(B)工程より3℃以上低い12〜18℃の温度条件下、明室にて子実体を発生させる工程
【0015】
本発明の菌株は、一方の親株として、公知の優良菌株であるYG6L(NBRC100325)と広島県産野生株の交配種を用い、他方の親株として石川県産の野生株を用い、公知の人工交配法にて作出した菌株の中から、上記特徴・形質を有するものを選抜することにより取得できる。
【0016】
本発明の菌株又はその変異株を種菌として使用する本発明のホンシメジの生産法は、菌床を用いたホンシメジの公知の人工栽培法に準じて実施することができる。
【0017】
すなわち、培養基としては、栄養材(きのこ栽培に常用されている穀物粉(麦類、トウモロコシ類、米類など)、ふすま、糠、サトウキビの搾り粕、乾燥おから等)とおが屑(広葉樹単独、または針葉樹との混合おが屑)を混合したものを用いることができる。
【0018】
このような培養基に水を含ませて水湿潤状態とし、これを常圧又は高圧加熱により滅菌したものを培地として使用する。なお、培養基の含水率としては、50〜70重量%、好ましくは55〜65重量%が適当である。
【0019】
このような培養基をナメコビンなどのキノコ栽培用の容器に充填後、上記本発明のホンシメジ菌株を接種後、18〜28℃の暗所にて第一段の培養を行ったのち、土(鹿沼土など)で培地表面を被覆し、追加培養後、子実体の発生を促すため、第一段の温度より3℃以上低い12〜18℃の温度の明所にて第二段の培養を行なうことで、ホンシメジを生産することができる。
【0020】
なお、変異株とは、本発明のホンシメジ新生85株の胞子を変異処理あるいは交配処理して得られる株で、上記説明したように、108株に比べて菌さんの色が著しい淡灰色を呈し、かつきわめて太い菌柄を有する等の栽培特性や商品特性を実質的に有しているものを意味する。このような変異株は、当業者であれば常法により取得可能である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき、詳細に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。
【0022】
(1)本発明菌株の作出・選抜
広島県産のホンシメジ野生株と公知の優良菌株YG6L株の交配種、および石川県産のホンシメジ野生株から胞子を分離し、対峙培養により交配株を作出・選抜を行った。その中で栽培的特性及び形態的特性の優れた菌株新生85株を選抜し、諸性質が安定していることを確認して、育成を完了した。
【0023】
(2)遺伝的特性
グルコース・イーストエキス(GY)培地(1000mlあたりの組成:グルコース20g、酵母エキス2g、寒天15g、塩酸でpH5.4に調整)を使用し、25℃で21日間培養して、帯線形成及び嫌色反応の有無を観察した。なお、培地の作製には直径9cmのシャーレを使用した。
【0024】
その結果、下記表に示すように、新生85株とYG6L株とを対峙培養した場合、帯線は形成されず、嫌色反応はコロニー間に隙間や隆起した境界を生じた。なお、判断基準は以下に示すとおりである。
【0025】
【表1】

【0026】
帯線形成:
コロニー間に、着色した線を形成する。 +
コロニー間に、薄く着色した線を形成する。 ±
コロニー間に、着色した線を形成しない。 −
【0027】
嫌色反応:
コロニー間に、明瞭な隙間や隆起した境界を生じる。 +
コロニー間に、隙間や隆起した境界を生じる。 ±
コロニー間に、隙間や隆起した境界を生じない。 −
【0028】
(3)生理的特性
GY培地を使用し、10℃,15℃,20℃,22.5℃,25℃,30℃の各温度帯で菌糸成長速度を測定した。なお寒天培地のpHは5.6±0.2とした。その結果、新生85株の最適成長温度は25℃前後であることが確認された。
【0029】
次に、GY培地における新生85株の菌叢の密度、性状、周縁部の性状、色を観察した。その結果、菌糸密度は普通で、気中菌糸は発達せず、菌叢の色は白色であった。
【0030】
(4)栽培特性
(試験方法)
栽培特性試験は、広葉樹おがくずまたは針葉樹おがくずとの混合物に、麦、トウモロコシ、米などの穀物粉を容量比2:1程度の割合で混合し、含水率を60%程度に調整した培地で行った。栽培容器は口径75mm、容量800ccのナメコワイドPPビンを用いた。培地充填量は1ビンあたり350±20gとし、ビンの肩まで詰めて高圧滅菌した。滅菌放冷後、約20mlのおがくず種菌を接種し、22±2℃で培養を行った。
【0031】
菌廻り完了まで培養し、湿らせた鹿沼土を覆土してさらに同条件で7日間の追培養を行った。追加培養後、子実体の発生・生育は、15〜16℃の温度条件下、湿度90%以上、明るさ300〜500ルクス(Lux)下で行った。
【0032】
発生した子実体が十分に成長し、傘が4〜6分程度開いた状態の時にホンシメジを収穫した。なお、本栽培試験は、最低1区32本を3回繰り返し行った。
【0033】
(結果)
栽培試験より得られた新生85株と、従来優良品種として知られてきたYG6Lおよび108株の栽培特性とを以下表に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
なお、ホンシメジ各部位の計測は、各栽培ビンから、(菌さんの直径15mm以上、菌柄の長さ25mm以上)のものを選抜して行った。
【0036】
試験の結果、従来優良とされていた108株と本発明の新生85株では、収穫までの栽培日数等の各種栽培特性はほぼ同等であった。また上記表に示したように、本発明にて新たに得られたホンシメジ新生85株は、従来の優良菌株と比較して、菌さんの色が著しい淡灰色を呈し、かつホンシメジ特有のきわめて太い菌柄を有するなど、消費者の嗜好性が高い性質を有していることが明らかになった。
【0037】
[公知菌株 YG6L(NBRC100325)菌株情報]

【0038】
[受領書]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)新生85株(FERM AP−22070)。
【請求項2】
菌床を用いた人工栽培法でホンシメジを生産する方法であって、種菌として請求項1記載の菌株、又は菌さんの色が淡灰色を呈し、かつ太い菌柄を有する請求項1記載の株の変異株を用いることを特徴とする、ホンシメジの生産法。

【公開番号】特開2012−175915(P2012−175915A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40218(P2011−40218)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】