説明

ボーリングホルダ

【課題】従来とは異なる新たな調整機構を備えるボーリングホルダを提供する。
【解決手段】ハウジング51と、ハウジング51の内部に流体を供給する流体供給装置81と、ハウジング51に対して回転軸線方向に交差する方向へスライド可能となるようにハウジング51に支持される移動体52と、移動体52に取り付けられる刃具70と、ハウジング51に支持され、流体供給装置81から供給される流体の作用により移動体52を押圧してクランプすることと移動体52への押圧を解除してアンクランプすることを切り替え、移動体52のスライド動作とは独立した動作を行うクランプ部57とを備える。クランプ部57は、弾性変形により縮径可能な筒状に形成され、移動体52の外周に配置され、流体供給装置81から供給される流体により弾性変形して縮径することで移動体52をクランプし、弾性復帰により移動体52をアンクランプする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具径を調整可能なボーリングホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工具径を調整可能なボーリングホルダとして、例えば、特許文献1〜4に記載されたものがある。これらのボーリングホルダは、刃具が取り付けられた移動体をハウジングに対して移動する機構そのものにより、ハウジングに対する移動体の位置決めを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−283469号公報
【特許文献2】特開2004−148481号公報
【特許文献3】特開2003−311517号公報
【特許文献4】特開2001−62613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来とは異なる新たな調整機構を備えるボーリングホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に流体を供給する流体供給装置と、
前記ハウジングに対して回転軸線方向に交差する方向へスライド可能となるように前記ハウジングに支持される移動体と、
前記移動体に取り付けられる刃具と、
前記ハウジングに支持され、前記流体供給装置から供給される第一流体の作用により前記移動体を押圧してクランプすることと前記移動体への押圧を解除してアンクランプすることを切り替え、前記移動体のスライド動作とは独立した動作を行うクランプ部と、
を備え、
前記クランプ部は、弾性変形により縮径可能な筒状に形成され、前記移動体の外周に配置され、前記流体供給装置から供給される前記第一流体により弾性変形して縮径することで前記移動体をクランプし、弾性復帰により前記移動体をアンクランプすることである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、前記クランプ部は、外周に前記流体供給装置からの前記第一流体を供給されると共に、前記第一流体の圧力に応じて弾性変形して縮径する溝部が形成され、前記流体供給装置から供給される前記第一流体により前記溝部が弾性変形して縮径することにより前記移動体をクランプし、前記溝部が弾性復帰することにより前記移動体をアンクランプすることである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、前記クランプ部には、径方向に沿って縮径可能とするためのすり割りが形成され、前記クランプ部の外周面は、テーパ状に形成され、前記ボーリングホルダは、前記ハウジングに支持されるスプリングと、テーパ状内周面を有する筒状に形成され、前記クランプ部の外周面に対してテーパ係合するようにかつ前記クランプ部の外周側に前記クランプ部の軸方向に摺動可能に設けられ、前記スプリングの付勢力と前記流体供給装置から供給される前記第一流体の圧力とが前記摺動方向に対抗するように設けられ、摺動位置に応じた力であって前記クランプ部を縮径させる力を発生する付勢部材と、をさらに備えることである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、前記ボーリングホルダは、前記ハウジングに設けられ前記移動体の偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収するカウンタウエイトと、前記移動体と前記カウンタウエイトを前記ハウジングに対して連動させる連動機構と、をさらに備え、前記クランプ部は、前記移動体をクランプすることにより、前記連動機構を介して前記カウンタウエイトをクランプすることである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、前記移動体は、前記流体供給装置から供給される第二流体により、前記クランプ部の動作とは独立して、前記刃具の位置が前記回転軸線から遠ざかる方向へ前記ハウジングに対してスライドすることである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、クランプ部のクランプ/アンクランプの動作と移動体のスライド動作とが、それぞれ独立した動作としている。つまり、移動体をスライドさせる手段として、種々の移動手段を適用することができる。例えば、移動体を一方方向にスライドさせるための駆動手段と、移動体を他方方向にスライドさせるための駆動手段を別々の手段とすることができる。
【0011】
そして、クランプ部により移動体のクランプ/アンクランプの切り替え動作を、流体供給装置により供給される第一流体の作用により行うこととしている。特に、クランプ部が移動体を押圧することによりクランプし、クランプが移動体に対する押圧を解除することによりアンクランプすることとしている。さらには、クランプ部を弾性変形により縮径可能な筒状に形成し、第一流体により弾性変形して縮径することで移動体をクランプしている。これにより、非常に簡易な手段によりクランプ部を構成することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、溝部が弾性変形して縮径することにより移動体をクランプしている。従って、確実に移動体を位置決めすることができる。
請求項3に係る発明によれば、いわゆるコレットチャックに相当する構成をなしている。これにより、容易な構成により、確実に移動体を位置決めすることができる。
請求項4に係る発明によれば、カウンタウエイトをクランプするための専用の機構を有することなく、移動体をクランプすることによりカウンタウエイトを同時にクランプすることができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、移動体をスライドさせるための手段として、流体供給装置から供給される第二流体を用いている。つまり、流体供給装置から供給される流体を第一流体と第二流体とに使い分けて、第一流体をクランプ部の動作に用い、第二流体を移動体のスライド動作に用いることとしている。このように、一つの流体供給装置を用いて、二種類の動作を行わせることで、全体として小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態:ボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図2】粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】微動調整機構を調整した状態を示すボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図5】粗動調整機構の動作:連結工程を示す図である。
【図6】粗動調整機構の動作:アンクランプ工程を示す図である。
【図7】粗動調整機構の動作:当接工程を示す図である。
【図8】粗動調整機構の動作:調整工程を示す図である。
【図9】粗動調整機構の動作:クランプ工程を示す図である。
【図10】図9のB−B断面図である。
【図11】第二実施形態:粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図12】図11のC−C断面図である。
【図13】粗動調整機構の動作:アンクランプ工程を示す図である。
【図14】粗動調整機構の動作:クランプ工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のボーリングホルダを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<第一実施形態>
(ボーリングホルダの構成)
第一実施形態のボーリングホルダ1の構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、ボーリングホルダ1は、軸線周りに回転可能な主軸2に保持されて工作物に穴などを加工する工具であって、工具径を調整可能とされている。ここで、各図において、ボーリングホルダ1のうち主軸2側を基端側といい、ボーリングホルダ1のうち刃具70が設けられる側を先端側という。
【0017】
ボーリングホルダ1は、被保持部10と、微動調整機構20と、粗動調整機構50と、刃具70とを備えている。なお、被保持部10、微動調整機構20および粗動調整機構50が、ボーリングホルダ本体に相当する。
【0018】
被保持部10は、基端側に向かって細くなるようなテーパ状に形成されたテーパシャンク部11と、テーパシャンク部11の最基端に設けられたプルスタッド12とを備えている。テーパシャンク部11は、主軸2のテーパ穴に挿入され、プルスタッド12は、主軸2のコレット(図示せず)により把持される。このようにして、被保持部10は、主軸2に保持されている。また、テーパシャンク部11の中心には、軸線方向に延びる空気流路13が形成されている。この空気流路13には、主軸2側から空気が供給される。主軸2側から供給される空気は、制御装置(図示せず)によって圧力を制御される。
【0019】
微動調整機構20は、被保持部10の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を微調整することができる装置である。この微動調整機構20は、基端ボディ部21(本発明の「基部」に相当する)と、弾性変形部41とを備えている。
【0020】
基端ボディ部21は、被保持部10の先端側に一体的に結合されており、内部に空油圧変換部22が形成されている。空油圧変換部22は、次のように構成されている。被保持部10の空気流路13の先端側に連通する第一シリンダ23が形成されている。この第一シリンダ23内に第一ピストン24が、摺動シール25を介して、軸線方向(図1の上下方向に)に往復スライド可能に収容されている。また、第一ピストン24のうち先端側には、連結ロッド26を介して第二ピストン27が連結されている。この第二ピストン27は、第一シリンダ23の先端側に連通する小径の第二シリンダ28内に、摺動シール29を介して、軸線方向に往復スライド可能に収容されている。
【0021】
第二ピストン27の先端側は、作動油が充填される作動油空間30を形成しており、被保持部10の空気流路13を通して空気圧が第一ピストン24に作用することで、第一ピストン24が先端側に移動し、これに伴い第二ピストン27が先端側に移動することで、作動油空間30内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部22は、被保持部10の空気流路13から供給される空気圧を、油圧に変換させると共に増圧している。作動油空間30の先端側には、連通路31が連通して形成されている。
【0022】
弾性変形部41は、基端ボディ部21の先端側に、次のように構成されている。弾性変形部41の内部には、パワーユニット42が設けられている。パワーユニット42は、凸ブロック43と凹ブロック44との間に油圧空間45が形成され、この油圧空間45と基端ボディ部21の連通路31とが、弾性変形部41の本体および凹ブロック44に形成してある油通路46を通して連通している。さらに、弾性変形部41にはS字状のスリット47が形成されており、油圧空間45に油圧が作用すると、弾性変形部41における先端側の微動部48は、弾性変形することにより、弾性変形部41のうち基端ボディ部21側に対して、図1の左方向にシフトする。
【0023】
粗動調整機構50は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構50による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構50は、粗動ハウジング51と、粗動移動体52と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部57とを備えている。
【0024】
粗動ハウジング51は、微動調整機構20の弾性変形部41の微動部48に取り付けられている。つまり、粗動ハウジング51は、弾性変形部41の微動部48が径方向にシフトした場合には、その動作に伴って径方向にシフトする。
【0025】
粗動移動体52は、主として円柱状に形成されている。なお、粗動移動体52は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。この粗動移動体52の先端側(ボーリングホルダ1の径方向外側)に刃具70が設けられている。このように形成された粗動移動体52は、粗動ハウジング51の先端側であって径方向に向かって貫通形成されている円形孔51aのうち一方開口側(図1の右側)に、後述する筒状のクランプ部57を介して、往復スライド可能に嵌挿されている。この粗動移動体52の粗動ハウジング51に対する径方向の移動量(粗動調整量)は、微動調整機構20の弾性変形部41における微動部48の微動調整量より大きい。
【0026】
そして、粗動移動体52がその円柱軸周りに回転しないように回り止めされている。さらに、粗動移動体52の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるように移動体側ラック部52bが一体的に形成されている。この移動体側ラック部52bは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52は図1の左右方向に移動する。
【0027】
さらに、粗動移動体52の先端側には、基端側に向かって突出する基準部52cが設けられている。この基準部52cのうちボーリングホルダ1の径方向外側面は、ボーリングホルダ1の径方向を法線方向とする平面状に形成されている。そして、基準部52cは、常に粗動ハウジング51の外部に露出する位置に位置している。この基準部52cは、粗動調整を行う際に用いるものであって、後述する粗動調整ユニット80に設けられる位置調整用基準部材83に当接させるための部材である。
【0028】
カウンタウエイト53は、粗動移動体52の偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収するためのものである。つまり、カウンタウエイト53の形状や位置は、粗動移動体52および刃具70による慣性モーメントと等価な慣性モーメントを有するように設定される。本実施形態においては、カウンタウエイト53は、全体としてほぼ円柱状に形成されており、粗動移動体52の質量とほぼ同程度の質量を有している。
【0029】
ここで、このカウンタウエイト53は、慣性モーメントを調整することができるような機構を有している。具体的には、カウンタウエイト53は、ウエイト本体53aと、調整用ウエイト53bとを備えている。調整用ウエイト53bは、例えば、ねじなどにより、ウエイト本体53aに対してカウンタウエイト53のスライド方向に相対移動可能に設けられている。つまり、調整用ウエイト53bのウエイト本体53aに対する位置を調整することで、例えば、刃具70の交換などにより、粗動移動体52および刃具70の慣性モーメントが変更された場合に、カウンタウエイト53全体としてこれに等価な慣性モーメントを有するようにできる。また、カウンタウエイト53は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。
【0030】
このカウンタウエイト53は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのうち他方開口側(図1の左側)に、往復スライド可能に嵌挿されている。そして、カウンタウエイト53は、その円柱軸周りに回転しないように粗動ハウジング51に回り止めされている。カウンタウエイト53の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるようにウエイト側ラック部53aが一体的に形成されている。このウエイト側ラック部53aは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、カウンタウエイト53は図1の左右方向に移動する。
【0031】
ピニオン軸54は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのほぼ中央に、粗動ハウジング51の回転軸線回りに回転可能に支持されている。そして、ピニオン軸54は、移動体側ラック部52bとウエイト側ラック部53aに噛合している。そして、図3において、ピニオン軸54が左回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の右側、すなわち粗動移動体52が径方向外側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の左側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向外側に移動する。一方、ピニオン軸54が右回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の左側、すなわち粗動移動体52が径方向内側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の右側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向内側に移動する。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52とカウンタウエイト53は、同期して、両者が反対方向に連動する。
【0032】
流体受給ポート55は、粗動ハウジング51の基端側の外周面に設けられている。この流体受給ポート55は、外部の粗動調整ユニット80に連結され、粗動調整ユニット80から供給される空気圧を供給される。さらに、流体受給ポート55は、第一ポートと第二ポートを有している。第一ポートは、後述する空気滞留空間51b側へ空気(本発明の「第二流体」に相当する)を供給するポートであって、第二ポートは、後述する空油圧変換部56側へ空気(本発明の「第一流体」に相当する)を供給するポートである。そして、第二ポートには、逆流防止弁が収容されており、後述する粗動調整ユニット80が連結されていない場合には、粗動ハウジング51の内部から外部へ向かう方向に逆流しないように構成されている。
【0033】
ここで、粗動ハウジング51には、粗動移動体52の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)とカウンタウエイト53の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)との間には、空気滞留空間51bが形成されている。この空気滞留空間51bと流体受給ポート55の第一ポートとの間には、両者を連通する空気流路51cが形成されている。つまり、空気滞留空間51bには、粗動調整ユニット80から供給される空気圧によって粗動移動体52とカウンタウエイト53が動作する。具体的には、粗動調整ユニット80から空気圧が供給されて空気滞留空間51bの空気圧が高まると、粗動移動体52は、径方向外側、すなわち刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へスライドする。粗動移動体52の動作と同時にかつ連動して、カウンタウエイト53が径方向外側へスライドする。また、空気滞留空間51bに供給された空気は、粗動ハウジング51の円形孔51aとカウンタウエイト53との間に形成されている僅かな隙間から外部へ排出される。
【0034】
空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に形成され、後述する粗動調整ユニット80から流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧を油圧に変換している。この空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に径方向に向かって形成された段付きシリンダ56aと、この段付きシリンダ56a内に径方向に往復スライド可能に収容されているピストン56bとを備えている。ピストン56bは、大径円盤部と小径ロッド部とを有している。段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部より図2の右側空間には、流体受給ポート55から空気圧が供給される。また、段付きシリンダ56aのうちピストン56bの小径ロッド部の図2の左側空間は、作動油空間を形成している。つまり、流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧がピストン56bの大径円盤部に作用することで、ピストン56bが図2の左側へ移動し、これに伴い作動油空間内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部56は、空気圧を油圧に変換させると共に増圧している。
【0035】
クランプ部57は、筒状に形成されている。このクランプ部57の貫通孔には、上述した粗動移動体52がスライド可能に嵌挿されている。このクランプ部57の外周面には、軸方向に離れた2カ所の溝部57aが形成されている。つまり、クランプ部57のうち溝部57aが形成されている部分の径方向厚みは、溝部57aが形成されていない部分の径方向厚みに比べて薄肉となっている。
【0036】
この溝部57aの外周側には、粗動ハウジング51の円形孔51aとの間に作動油空間57bが形成されている。この作動油空間57bは、空油圧変換部56の作動油空間(段付きシリンダ56aのピストン56bの小径ロッド部より図2の左側空間)から、連通路51dを介して供給される作動油が収容される。
【0037】
つまり、空油圧変換部56から作動油が供給されるとクランプ部57の作動油空間57bの油圧が高まり、溝部57aの溝底が縮径するように弾性変形する。ここで、溝部57aが弾性変形すると、溝部57aの溝底の内周面が、粗動移動体52の外周面を押圧して、粗動ハウジング51に対する粗動移動体52をクランプする。一方、空油圧変換部56から供給される作動油の圧力が低下すると、クランプ部57の作動油空間57bの油圧が低下し、溝部57aの溝底が弾性復帰する。つまり、この弾性復帰により、クランプ部57は粗動移動体52の外周面への押圧を解除して、粗動ハウジング51に対して粗動移動体52をアンクランプする。
【0038】
つまり、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えレバーの役割を有する。なお、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えを行うのみであって、粗動移動体のスライド動作を行うものではない。つまり、クランプ部57によるクランプ/アンクランプの切り替え動作は、粗動移動体52のスライド動作とは独立して行われる。
【0039】
(微動調整機構による工具径の微調整方法)
次に、微動調整機構による工具径の微調整方法について、図1および図4を参照してより詳細に説明する。主軸2側から制御された所定の圧力の空気が供給されるとする。そうすると、この空気圧に応じて空油圧変換部22の第一ピストン24が、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。第一ピストン24の移動に伴って、第二ピストン27も、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。この第二ピストン27の移動によって、作動油空間30に充填される作動油の圧力が高まる。作動油の圧力が高まることで、連通路31および油通路46を介して、弾性変形部41の油圧空間45の油圧が高くなる。その結果、弾性変形部41における先端側の微動部48が、図4に示すように、左側へシフトする。
【0040】
このようにして弾性変形部41の微動部48が基端ボディ部21に対して径方向に微動することにより、弾性変形部41の微動部48側に取り付けられている粗動調整機構50全体が、基端ボディ部21に対して径方向に微動する。つまり、粗動移動体52に取り付けられている刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、微動調整機構20の動作によって微動調整される。
【0041】
微動調整量を変更する場合には、主軸2側から供給される空気の圧力を調整することにより行う。ここで、微動調整機構20は、空油圧変換部22により主軸2側から供給する空気圧を増幅している。従って、小さな空気圧によって、弾性変形部41の弾性変形を可能とする。また、微動調整量をゼロに戻す場合には、主軸2側から供給する空気圧をゼロにすればよい。この微動調整機構20による微動調整は、弾性変形部41の弾性変形によるものであるため、この微動調整量はそれほど大きなものではない。逆に言うと、微動調整機構20は、非常に微小な調整を高精度に行うことができる。
【0042】
(粗動調整機構による工具径の粗調整方法)
次に、粗動調整機構50の動作について、図5〜図10を参照して説明する。粗動調整機構50の動作に際して、粗動調整ユニット80を用いるため、まずは、粗動調整ユニット80について説明する。
【0043】
粗動調整ユニット80は、図5に示すように、流体供給装置81と、流体供給スライドポート82と、位置調整用基準部材83とを備える。流体供給装置81は、空気を供給することができ、かつ、供給する空気圧を制御可能な装置である。この流体供給装置81は、例えば、マシニングセンタのベッド(図示せず)に固定されている。ここで、本実施形態においては、例えば、主軸2がベッドに対して移動可能に構成されるマシニングセンタを適用する場合には、粗動調整ユニット80の流体供給装置81は、主軸2に対して相対的に移動可能に設けられていることになる。
【0044】
流体供給スライドポート82は、粗動調整機構50の流体受給ポート55に連結することができ、流体供給装置81から供給される空気を流体受給ポート55へ供給するポートである。この流体供給スライドポート82は、流体供給装置81に対して、図5の左右方向にスライド可能に設けられている。さらに、流体供給スライドポート82は、流体受給ポート55の第一ポートに対応した第一連結ポートと、流体受給ポート55の第二ポートに対応した第二連結ポートとを備えている。そして、流体供給装置81は、流体供給スライドポート82の第一連結ポートから空気圧を供給するか、第二連結ポートから空気圧を供給するかの切り替えを行うことができる。位置調整用基準部材83は、流体供給装置81に固定されており、粗動移動体52に設けられた基準部52cに当接可能に設けられている。
【0045】
次に、粗動調整機構50による工具径の調整方法について説明する。まず、図5に示すように、主軸2と粗動調整ユニット80とを相対的に移動させて、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82と、粗動調整機構50の流体受給ポート55とを連結させる(連結工程)。具体的には、流体供給スライドポート82の第一連結ポートを流体受給ポート55の第一ポートに連結し、流体供給スライドポート82の第二連結ポートを流体受給ポート55の第二ポートに連結する。このとき、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82は、図5の左側に最もスライドした状態としている。さらに、この状態において、粗動移動体52の基準部52cは、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に対向するように位置している。なお、図5においては、クランプ部57の作動油空間57bに供給されている作動油の圧力が高い状態としており、クランプ部57の溝部57aの溝底が弾性変形により縮径している状態を示している。
【0046】
続いて、図6に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、既に供給されていた空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間の空気圧を低下させる。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図6の右側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図6の左側空間の油圧が低下する。この作動油の圧力の低下により、クランプ部57の作動油空間57bの作動油の油圧が低下する。そうすると、弾性変形していたクランプ部57の溝部57aが弾性復帰して、溝部57aが粗動移動体52の外周面を押圧している状態が解除される。このようにして、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してアンクランプされる(アンクランプ工程)。
【0047】
続いて、図7に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第一連結ポートおよび流体受給ポート55の第一ポートを介して、空気流路51cに空気圧を供給する。そうすると、空気滞留空間51bの空気圧が高まり、空気滞留空間51bの体積を拡大するような力を発生する。つまり、空気滞留空間51bの空気圧の高騰により、粗動移動体52およびカウンタウエイト53が離れる方向、すなわち、径方向外側へスライドする。このとき、粗動移動体52、カウンタウエイト53およびピニオン軸54は、ラック&ピニオン機構を構成している。従って、粗動移動体52の径方向外側へのスライド動作と、カウンタウエイト53の径方向外側へのスライド動作とは、同期しかつ連動している。さらに、粗動移動体52のスライド量とカウンタウエイト53のスライド量とは同一である。
【0048】
このように、粗動移動体52が径方向外側へスライドすることに伴って、粗動移動体52の基準部52cが、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に当接する(当接工程)。このとき、刃具70の位置は、ボーリングホルダの回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)に移動している。つまり、流体供給スライドポート82が流体供給装置81に対して図7の最も左側に位置する状態であって、流体供給スライドポート82が流体受給ポート55に連結された状態であって、粗動移動体52の基準部52cが位置調整用基準部材83に当接した状態において、刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、既知である。この状態を基準状態とする。
【0049】
続いて、図8に示すように、基準状態から、主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更する。例えば、主軸2を移動させる駆動軸があるマシニングセンタにおいては、その駆動軸を用いて主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向に移動する。ここで、基準状態における工具径は既知であって、目標工具径は把握できている。そこで、目標工具径と基準状態における工具径との差分だけ、主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向へ移動させる。このようにして、回転軸線に対する刃具70の位置、すなわち工具径を粗調整する(調整工程)。
【0050】
この調整工程において、回転軸線に対する刃具70の位置を調整する際に、刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へ粗動移動体52を粗動ハウジング51に対してスライドさせるために供給された空気は、カウンタウエイト53と粗動ハウジング51に形成された円形孔51aとの僅かな隙間から外部へ排出している。
【0051】
続いて、図9および図10に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間に空気圧を供給する。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図9の左側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図9の左側空間の油圧が高騰する。この作動油の圧力の高騰により、クランプ部57の作動油空間57bの作動油の油圧が高騰する。そうすると、クランプ部57の溝部57aの溝底が弾性変形により縮径して、粗動移動体52の外周面を押圧する。このようにして、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してクランプされる(クランプ工程)。この状態において、粗動調整ユニット80の連結が解除された場合に、逆流防止弁に効果により、粗動移動体52の粗動ハウジング51に対するクランプ状態が維持される。
【0052】
(本実施形態の効果)
以上説明したボーリングホルダ1によれば、主軸2側から先端に向かって、被保持部10、微動調整機構20、粗動調整機構50、刃具70の順に取り付けられている。つまり、粗動調整機構50によって粗動移動体52が径方向に移動したとしても、微動調整機構20は何ら移動しない。つまり、粗動調整機構50によって径方向に移動する部分には、粗動移動体52および刃具70となり、微動調整機構20が含まれない。そして、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含まれる構成としている。従って、このカウンタウエイト53は、粗動移動体52および刃具70の質量を考慮すれば良く、微動調整機構20の質量は考慮する必要がなくなる。このように、本実施形態のボーリングホルダ1によれば、カウンタウエイト53の質量を小さくすることができる。その結果、回転体としてのボーリングホルダ1全体の質量を小さくすることができる。
【0053】
また、カウンタウエイト53を粗動ハウジング51に対して位置調整可能とする構成としているため、粗動移動体52の移動量に応じてカウンタウエイト53の位置を調整することで、より偏心運動が生じることを抑制できる。さらに、カウンタウエイト53の移動を粗動移動体52に同期して、かつ、粗動移動体52の移動量と同じ移動量だけ移動する構成とすることで、カウンタウエイト53の位置調整を自動的に行うことができる。さらに、カウンタウエイト53をクランプするための専用の機構を有することなく、粗動移動体52をクランプすることによりカウンタウエイト53を同時にクランプすることができる。
【0054】
また、微動調整機構20を弾性変形によって微動調整を行うことで、より高精度に微動調整が可能となる。また、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含む構成としている。つまり、上述したカウンタウエイト53は、微動調整機構20による調整に伴う偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収することはできない。しかし、微動調整機構20の調整量は弾性変形範囲内であるため、非常に微小である。つまり、粗動調整機構50にカウンタウエイト53を設けることで、ボーリングホルダ1全体において偏心運動によって生じる不均一な荷重を十分に吸収することができる。
【0055】
また、クランプ部57のクランプ/アンクランプの動作と粗動移動体52のスライド動作とが、それぞれ独立した動作としている。つまり、粗動移動体52をスライドさせる手段として、クランプ部57の動作とは別の手段、本実施形態においては、流体供給装置81から供給される流体と主軸2の移動のための駆動部を適用している。このように、粗動移動体52をスライドさせる手段として選択の自由度が高まる。
【0056】
また、本実施形態においては、クランプ部57により粗動移動体52のクランプ/アンクランプの切り替え動作を、流体供給装置81から供給される空気圧の作用により行うこととしている。特に、クランプ部57が粗動移動体52を押圧することによりクランプし、クランプ部57が粗動移動体52に対する押圧を解除することによりアンクランプすることとしている。これにより、非常に簡易な手段によりクランプ部57を構成することができる。さらには、クランプ部57の溝部57aが弾性変形により縮径することで、粗動移動体52の外周面を押圧してクランプすることとしている。これにより、確実に粗動移動体52を位置決めすることができる。
【0057】
また、粗動移動体52をスライドさせるためと、クランプ部57をクランプ/アンクランプさせるためとに、流体供給装置81から供給される空気圧を用いている。つまり、流体供給装置81から供給される空気圧を二種類に使い分けて、クランプ部57の動作と、粗動移動体52のスライド動作に用いることとしている。このように、一つの流体供給装置81を用いて、二種類の動作を行わせることで、全体として小型化を図ることができる。
【0058】
また、粗動調整機構による工具径の調整において、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させた状態で、かつ、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させた状態を基準状態として、この基準状態から主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更している。その結果として、回転軸線に対する刃具70の位置を基準状態から近づけることにより、回転軸線に対する刃具70の位置を調整している。このように、基準状態とするために、粗動移動体52に基準部52cを設け、かつ、位置調整用基準部材83を新たに設けることとにより、自動的に工具径を調整することができる。
【0059】
また、流体供給装置81から供給される空気圧を用いて、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)にしている。これにより、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させる当接工程を容易に実現できる。ここで、このように当接工程において、刃具を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させるために流体を用いた場合には、当接工程および調整工程において、供給した空気を粗動移動体52およびカウンタウエイト53と粗動ハウジング51との間に形成した僅かな隙間から排出している。これにより、当該隙間から切削粉などの侵入を防止するエアパージ機能を有することになる。
【0060】
また、粗動調整ユニット80をボーリングホルダ1とは別体として設けることにより、ボーリングホルダ1自体の質量を小さくすることができる。この場合であっても、両者が連結できるような構成とすることで、確実に工具径を調整できる。
【0061】
<第二実施形態>
第二実施形態のボーリングホルダについて、図11〜図14を参照して説明する。第二実施形態のボーリングホルダは、第一実施形態のボーリングホルダ1に対して、粗動調整機構のみ相違する。そこで、以下に、第二実施形態における粗動調整機構90のみについて説明する。また、粗動調整機構90の構成部品においても、第一実施形態の粗動調整機構50の構成部品と同一のものがあり、これらについては同一符号を付して説明を省略する。
【0062】
第二実施形態の粗動調整機構90は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構90による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構90は、粗動ハウジング51と、粗動移動体52と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部97と、付勢力発生部98と、スプリング99とを備えている。つまり、第二実施形態の粗動調整機構90において、第一実施形態の粗動調整機構50に対して、クランプ部97、付勢力発生部98およびスプリング99のみ相違する。
【0063】
クランプ部97は、筒状に形成されており、粗動移動体52の外周側に配置されている。このクランプ部97は、一端側に、径方向外側に広がるフランジ部97aを備えている。クランプ部97は、他端側に、テーパ状外周面を有すると共に、径方向に沿って弾性変形により縮径可能とするためのすり割りが形成された縮径部97bを備えている。このクランプ部97の貫通孔には、粗動移動体52が嵌挿されている。つまり、クランプ部97の縮径部97bが弾性変形により縮径すると、粗動移動体52の外周面を押圧し、クランプ部97の縮径部97bが弾性復帰すると粗動移動体52への押圧が解除される。
【0064】
付勢力発生部98は、テーパ状内周面を有する筒状に形成され、クランプ部97の外周側に配置されている。また、付勢力発生部98は、粗動ハウジング51に対して、図11の左右方向にスライド可能に設けられている。付勢力発生部98のテーパ状内周面は、クランプ部97の外周面に対してテーパ係合するように、かつ、クランプ部97の外周側にクランプ部97の軸方向に摺動可能に設けられている。そして、この付勢力発生部98の基端側(図11の左端)には、粗動ハウジング51との間に作動油空間98aが形成されている。この作動油空間98aは、空油圧変換部56の作動油空間(段付きシリンダ56aのピストン56bの小径ロッド部より図2の左側空間)から、連通路51dを介して供給される作動油が収容される。
【0065】
そして、スプリング99が、クランプ部97のフランジ部97aと付勢力発生部98の先端面との間に配置されている。つまり、スプリング99は、クランプ部97のフランジ部97aに対して、付勢力発生部98を図11の左側へ付勢している。一方、付勢力発生部98の基端側の作動油空間98aには油圧が供給される。つまり、スプリング99の付勢力と空油圧変換部56から供給される作動油の圧力とが、付勢力発生部98の粗動ハウジング51に対する摺動方向に対抗するように設けられていることになる。
【0066】
そして、付勢力発生部98の摺動位置が変化すると、クランプ部97の縮径部97bのテーパ状外周面への押圧力が変化する。つまり、付勢力発生部98は、その摺動位置に応じた力によりクランプ部97を縮径させる力を発生する。
【0067】
次に、粗動調整機構90におけるアンクランプ工程の動作について図13を参照して説明する。図13に示すように、アンクランプ工程においては、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間に空気圧を供給する。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図13の左側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図13の左側空間の油圧が高騰する。この作動油の圧力の高騰により、付勢力発生部98の基端側の作動油空間98aの作動油の油圧が高騰する。そうすると、付勢力発生部98は、スプリング99の付勢力に抗して、粗動ハウジング51に対して図13の右側へ摺動する。そして、付勢力発生部98のテーパ状内周面とクランプ部97の縮径部97bのテーパ状外周面とのテーパ係合力が小さくなり、クランプ部97の縮径部97bは弾性復帰により縮径状態が解除される。その結果、クランプ部97の縮径部97bは、粗動移動体52の外周面への押圧を解除して、粗動ハウジング51に対して粗動移動体52をアンクランプする。
【0068】
次に、粗動調整機構90におけるクランプ工程の動作について図14を参照して説明する。図14に示すように、クランプ工程においては、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、既に供給されていた空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間の空気圧を低下させる。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図14の右側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図14の左側空間の油圧が低下する。この作動油の圧力の低下により、付勢力発生部98の基端側の作動油空間98aの作動油の油圧が低下する。そうすると、付勢力発生部98は、スプリング99の付勢力により、粗動ハウジング51に対して図13の左側へ摺動する。そして、付勢力発生部98のテーパ状内周面とクランプ部97の縮径部97bのテーパ状外周面とのテーパ係合力が大きくなり、クランプ部97の縮径部97bは弾性変形により縮径する。その結果、クランプ部97の縮径部97bは、粗動移動体52の外周面を押圧して、粗動ハウジング51に対して粗動移動体52をクランプする。
【符号の説明】
【0069】
1:ボーリングホルダ、 2:主軸
10:被保持部、 11:テーパシャンク部、 12:プルスタッド、 13:空気流路
20:微動調整機構
21:基端ボディ部、 22:空油圧変換部、 23:第一シリンダ
24:第一ピストン、 25:摺動シール、 26:連結ロッド、 27:第二ピストン
28:第二シリンダ、 29:摺動シール、 30:作動油空間、 31:連通路
41:弾性変形部
42:パワーユニット、 43:凸ブロック、 44:凹ブロック、 45:油圧空間
46:油通路、 47:スリット、 48:微動部
50:粗動調整機構
51:粗動ハウジング、 51a:円形孔、 51b:空気滞留空間
51c:空気流路、 51d:連通路
52:粗動移動体、 52b:移動体側ラック部、 52c:基準部
53:カウンタウエイト、 53a:ウエイト側ラック部
54:ピニオン軸、 55:流体受給ポート
56:空油圧変換部、 56a:段付きシリンダ、 56b:ピストン
57:クランプ部、 57a:溝部、 57b:作動油空間
70:刃具
80:粗動調整ユニット
81:流体供給装置、 82:流体供給スライドポート、 83:位置調整用基準部材
90:粗動調整機構
97:クランプ部、 97a:フランジ部、 97b:縮径部、 98:付勢力発生部
98a:作動油空間
99:スプリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に流体を供給する流体供給装置と、
前記ハウジングに対して回転軸線方向に交差する方向へスライド可能となるように前記ハウジングに支持される移動体と、
前記移動体に取り付けられる刃具と、
前記ハウジングに支持され、前記流体供給装置から供給される第一流体の作用により前記移動体を押圧してクランプすることと前記移動体への押圧を解除してアンクランプすることを切り替え、前記移動体のスライド動作とは独立した動作を行うクランプ部と、
を備え、
前記クランプ部は、弾性変形により縮径可能な筒状に形成され、前記移動体の外周に配置され、前記流体供給装置から供給される前記第一流体により弾性変形して縮径することで前記移動体をクランプし、弾性復帰により前記移動体をアンクランプすることを特徴とするボーリングホルダ。
【請求項2】
請求項1において、
前記クランプ部は、
外周に前記流体供給装置からの前記第一流体を供給されると共に、前記第一流体の圧力に応じて弾性変形して縮径する溝部が形成され、
前記流体供給装置から供給される前記第一流体により前記溝部が弾性変形して縮径することにより前記移動体をクランプし、前記溝部が弾性復帰することにより前記移動体をアンクランプすることを特徴とするボーリングホルダ。
【請求項3】
請求項1において、
前記クランプ部には、径方向に沿って縮径可能とするためのすり割りが形成され、前記クランプ部の外周面は、テーパ状に形成され、
前記ボーリングホルダは、
前記ハウジングに支持されるスプリングと、
テーパ状内周面を有する筒状に形成され、前記クランプ部の外周面に対してテーパ係合するようにかつ前記クランプ部の外周側に前記クランプ部の軸方向に摺動可能に設けられ、前記スプリングの付勢力と前記流体供給装置から供給される前記第一流体の圧力とが前記摺動方向に対抗するように設けられ、摺動位置に応じた力であって前記クランプ部を縮径させる力を発生する付勢部材と、
をさらに備えることを特徴とするボーリングホルダ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記ボーリングホルダは、
前記ハウジングに設けられ前記移動体の偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収するカウンタウエイトと、
前記移動体と前記カウンタウエイトを前記ハウジングに対して連動させる連動機構と、
をさらに備え、
前記クランプ部は、前記移動体をクランプすることにより、前記連動機構を介して前記カウンタウエイトをクランプすることを特徴とするボーリングホルダ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記移動体は、前記流体供給装置から供給される第二流体により、前記クランプ部の動作とは独立して、前記刃具の位置が前記回転軸線から遠ざかる方向へ前記ハウジングに対してスライドすることを特徴とするボーリングホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−104703(P2011−104703A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261400(P2009−261400)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】