説明

ポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤

【課題】本発明の目的は、高い耐熱性を有するカーボンナノチューブ分散剤を提供すること、及び、樹脂へのカーボンナノチューブの分散を可能にし、樹脂−カーボンナノチューブ複合体を得ることが可能な新しい技術を提供する事にある。
【解決手段】ジアミン成分の少なくとも一部が、ベンゾイミダゾール構造を含むユニットであることを特徴とするポリアミック酸からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散剤、及び前記カーボンナノチューブ分散剤を用いたカーボンナノチューブ分散組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾイミダゾール構造を含むポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤、及び前記カーボンナノチューブ分散剤を用いたカーボンナノチューブ分散組成物に関する。さらに、前記カーボンナノチューブ分散組成物より得られる樹脂−カーボンナノチューブ複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、直径1μm以下の太さのチューブ状のカーボンであり、その特異な構造に基づく高い導電性、引張り強度、耐熱性などを有する。前記の特性を利用した機能性材料として、エレクトロニクス、エネルギー分野等の幅広い分野への利用が期待されている。
【0003】
前記のカーボンナノチューブの特異で有用な特性を有効に活用するためには、カーボンナノチューブが互いに絡まり合うことなく、分散していることが好ましい。
しかしながら、通常、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ同士が絡まり合った凝集物(バンドルとも言う)として得られる。一般に、カーボンナノチューブは、相互の凝集力(ファンデルワールス力)によって、束状及び縄状になってしまうため、また、原子レベルでの滑らかな表面が溶媒に対する親和性を低下させるため、極性溶媒にも非極性溶媒にも分散させることが困難である。
したがって、カーボンナノチューブを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、カーボンナノチューブの各種用途への応用を困難にしている。カーボンナノチューブのバンドルをほどき溶媒に分散させることができればカーボンナノチューブの応用は飛躍的に発展するものと考えられる。
【0004】
これまでに、カーボンナノチューブの溶媒に対する分散性を改善するために様々な試みがなされている。まず、超音波をかけながらカーボンナノチューブをアセトン中に分散させる方法(特許文献1)が提案されている。しかし、超音波を照射している間は分散できても照射が終了するとカーボンナノチューブの凝集が始まり、カーボンナノチューブの濃度が高くなると凝集してしまう。
【0005】
次に、界面活性剤を用いることも提案されている。陰イオン性界面活性剤であるドデシルスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液中で超音波処理する事により、カーボンナノチューブ表面の疎水性と界面活性剤の疎水部を吸着させ、外側に親水部を形成して水溶液中に分散することも報告されている(非特許文献1、2)。また、非イオン系界面活性剤であるTriton(商標)−X−100を用いてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で超音波処理することが提案されている(特許文献2)。また、界面活性剤の替わりに水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)を用いたNMPへの分散が提案されている(特許文献3)。しかしながら、界面活性剤中に、金属塩等のイオン性不純物が混入している事で、電気的特性に悪影響を及ぼす可能性があるといった問題や、界面活性剤及びポリマー分散剤自体の耐熱性が低く、高温での使用においては分散剤の熱分解が懸念されるといった問題があった。また、溶液中におけるカーボンナノチューブの分散安定化能が不十分の為、カーボンナノチューブの濃度を上げた場合に構造粘性に由来する粘度上昇の抑制が難しいといった問題もあった。
【0006】
一方、耐熱性が高いと考えられる例として、ポリイミドやその前駆体であるポリアミック酸へカーボンナノチューブを分散させる試みがなされているが、一般的なポリイミドやポリアミック酸はカーボンナノチューブ分散能が低いため、分散剤として非イオン性界面活性剤やポリビニルピロリドン(PVP)を用いており(特許文献4、5)、上記と同様に分散剤自体の耐熱性は低いものであった。
【0007】
一般的な分散剤を用いない系として、特定の構造を有するポリイミドを利用したカーボンナノチューブの可溶化が提案されている(特許文献6)。しかし、このポリイミドは、溶媒への溶解性を付与する為に側鎖にスルホン酸やスルホン酸塩といった官能基を導入している為に高い耐熱性は期待出来ない。
【0008】
また、特定の構造を有するポリベンゾイミダゾール又はその誘導体を用いたカーボンナノチューブ分散液が提案されているが(特許文献7)、ポリベンゾイミダゾールとの複合化としての応用に留まっており、その応用分野は限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−86219号公報
【特許文献2】特開2005−75661号公報
【特許文献3】特開2005−162877号公報
【特許文献4】特開2005−290292号公報
【特許文献5】特開2006−124613号公報
【特許文献6】WO2007/052739号公報
【特許文献7】特開2009−13374号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Science vol.297 593−596(2002)
【非特許文献2】Nano.Lett. vol.3 269−273(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高い耐熱性を有するカーボンナノチューブ分散剤を提供すること、及び、樹脂へのカーボンナノチューブの分散を可能にし、高い耐熱性を有する樹脂−カーボンナノチューブ複合体を容易に得ることが可能な新しい技術を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、研究を重ねた結果、ベンゾイミダゾール構造を含むポリアミック酸が非常に優れたカーボンナノチューブ分散能を有する事を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤に関する。
【0013】
【化1】

〔式中、Bは、芳香族環を含む4価のユニットであり、
式中、Aは、芳香族環を含む2価のユニットであり、
その10〜100モル%が、下記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットである。〕
【0014】
【化2】

【0015】
また、本発明は、前記のカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および、極性有機溶媒からなるカーボンナノチューブ分散組成物に関し、好ましくは、前記極性有機溶媒がアミド系有機溶媒であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物に関し、さらに好ましくは、前記アミド系有機溶媒がN−メチル−2−ピロリドン及び/又は、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物に関する。
【0016】
さらに本発明は、カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWNT)であることを特徴とする前記のカーボンナノチューブ分散組成物に関する。
また、カーボンナノチューブが複層カーボンナノチューブ(MWNT)であることを特徴とする前記のカーボンナノチューブ分散組成物に関する。
【0017】
さらに本発明は、カーボンナノチューブ分散剤と、アミド系極性有機溶媒とからなる混合溶液に、超音波処理を行いながらカーボンナノチューブを混合分散することを特徴とする前記のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法及びカーボンナノチューブ分散剤と、アミド系極性有機溶媒とからなる混合溶液に、カーボンナノチューブを添加し、メディアミルを用いて分散混合することを特徴とする前記のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法に関する。
【0018】
さらに本発明は保留粒子径0.1〜5.0μmのフィルター処理することによって微細なカーボンナノチューブのみを含む溶液とすることを特徴とする前記のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法に関する。
【0019】
さらに本発明は、前記のカーボンナノチューブ分散組成物の溶媒を除去する事により得られるポリアミック酸−カーボンナノチューブ複合体および、前記のカーボンナノチューブ分散組成物をイミド化することにより得られるポリイミド−カーボンナノチューブ複合体に関する。
【0020】
さらに本発明は、前記のカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および樹脂からなる樹脂−カーボンナノチューブ複合体に関し、前記のカーボンナノチューブ分散組成物を用いることを特徴とする前記の樹脂−カーボンナノチューブ複合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、高い耐熱性、耐溶剤性を有するカーボンナノチューブ分散剤を得ることができた。さらに、従来分散が困難であったカーボンナノチューブを、極性有機溶媒中に好適に分散させることが可能となった。
本発明のカーボンナノチューブ分散剤は、イミド化することにより高い耐熱性を有するポリイミドに転化させることが可能であり、高い耐熱性を有する分散剤である。本発明のカーボンナノチューブ分散剤は、カーボンナノチューブを凝集させずに均一に分散させることができる。また、溶液中におけるカーボンナノチューブの分散安定化能に非常に優れる為、高濃度で分散した場合にも構造粘性に由来する粘度上昇を抑制する事が可能である。また、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸自体が分散剤である為、他の分散剤を利用せずにイミド化により簡便にポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のベンゾイミダゾール構造を含むポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤は、前記一般式(1)の反復単位で示される。
【0023】
式中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。また、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットであり、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA’を必須成分として含む。芳香族ポリアミック酸を構成するユニットについて以下に詳述する。
【0024】
ユニットBは、テトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。テトラカルボン酸成分は特に限定されないが、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2‐ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。
【0025】
ユニットAは、ジアミン成分に起因する2価のユニットであり、10〜100モル%、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%の前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含む2価のユニットA’を含む。
ユニットA’は、例えば、下記化学式(A1)で示される2価のユニットA1である。
【0026】
【化3】

(ただし、式中の−R1−、−R2−は、それぞれ、直接結合もしくは2価の基)
【0027】
前記化学式(1)のポリイミドのユニットAを構成する基になるジアミン成分に起因する2価のユニットは、少なくとも一部が前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットA’で構成される。ユニットA’は、例えば、前記化学式(A1)で示される構造であるユニットA1である。ユニットA1は、例えば、ジアミン成分として下記化学式(A1−M)で示されるジアミノベンゾイミダゾール類を用いることによって得ることができる。
【0028】
【化4】

(ただし、式中の−R1−、−R2−は、それぞれ、直接結合もしくは2価の基)
【0029】
前記化学式(A1−M)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むジアミンとしては特に限定されないが、例えば、下記化学式(A11−M)で示されるジアミノベンゾイミダゾール類が挙げられる。
【0030】
【化5】

(ただし、式中の−Ar1−は、直接結合または芳香族環を含む2価の基)
【0031】
前記のジアミノベンゾイミダゾール類(化学式(A11−M))としては、例えば、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール(DAPBI)、5(6)−アミノ−2−(3−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(2−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(3−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、4(7)−アミノ−2−(2−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(4−アミノナフチル)−ベンゾイミダゾール、5(6)−アミノ−2−(5−アミノナフチル)−ベンゾイミダゾールなどをあげることができる。その中でも、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾールが特に好ましい。
前記化学式(A1−M)で示されるジアミンとして、前記化学式(A11−M)で示されるジアミンの外に、例えば、下記化学式(A12−M)で示されるジアミノベンゾイミダゾール類を挙げることができる。
【0032】
【化6】

(ただし、式中の−Ar2−は、直接結合もしくは芳香族環を含む2価の基)
【0033】
前記のジアミノベンゾイミダゾール類(化学式(A12−M))としては、例えば、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン](5BAIB)、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン] 、2,2’−(1,2−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン]、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン] 、2,2’−(1,2−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−4(7)−アミン]などをあげることができる。
【0034】
ジアミン成分として、化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含む前記化学式(A1−M)で示されるジアミン以外に、ポリイミド及びその前駆体であるポリアミック酸のジアミン成分として通常用いられるジアミンをカーボンナノチューブの分散性及び分散剤の溶媒への溶解性を低下させない範囲で好適に用いることができる。ジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂環族ジアミン、脂肪族ジアミンなどがあげられるが、芳香族ジアミンが耐熱性、耐久性等の物理的、化学的特性に優れていることから、好ましい。
【0035】
芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン(PPD)、m−フェニレンジアミン(MPD)などのフェニレンジアミン類、3,5−ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノビフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニルメタン、2,2’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3,4'−ジアミノジフェニル)プロパンなどのジアミノジフェニルプロパン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジベンゾチオフェン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチル−ジベンゾチオフェンなどのジアミノジベンゾチオフェン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシ−ジフェニレンスルフォン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジフェニレンスルフォンなどのジアミノジフェニレンスルフォン類(後述のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類に同じ)、4,4’−ジアミノビベンジル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビベンジルなどのジアミノビベンジル類、0−ジアニシジン、0−トリジン、m−トリジンなどのジアミノビフェニル類、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノンなどのジアミノベンゾフェノン類、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン、2,2',5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジンなどのジアミノベンジジン類、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)などのビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼンなどのジ(アミノフェニル)ベンゼン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンなどのジ〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ビフェニルなどのジ(アミノフェニル)ビフェニル類を挙げることができる。その中でも、ジアミノジフェニレンスルフォン類、ジアミノジフェニルエーテル類が好ましい。脂環族ジアミンとしては、イソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミンなどを挙げることができる。
【0036】
本発明のポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤は、既知のポリアミック酸の合成方法を用いて製造することが出来る。合成方法の一例としては、略等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、極性有機溶媒中で混合し、不活性ガス雰囲気下、常温常圧で反応させる方法がある。
【0037】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物は、本発明のポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および、極性有機溶媒からなる。
【0038】
前記極性有機溶媒としては、本発明のカーボンナノチューブ分散剤を好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。本発明において、NMP、NEP及びその混合物が特に好ましい。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物に用いられるカーボンナノチューブには特に限定は無く、多層のもの(マルチウォール・カーボンナノチューブ、以下「MWNT」と記載することもある)、単層のもの(シングルウォール・カーボンナノチューブ、以下「SWNT」と記載することもある)まで、それぞれ目的に応じて使うことができる。カーボンナノチューブの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法、アーク放電法、レーザー蒸発法、及びHiPco法など、従来公知のいずれの製造方法を採用しても構わない。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法は、極性有機溶媒中にカーボンナノチューブが均一に分散していれば特に限定される物ではないが、極性有機溶媒に本発明のカーボンナノチューブ分散剤を溶解させたカーボンナノチューブ分散剤溶液を作成し、前記カーボンナノチューブ分散剤溶液にカーボンナノチューブを分散させる方法が好ましい。
【0041】
極性有機溶媒中に本発明のカーボンナノチューブ分散剤が溶解させたカーボンナノチューブ分散剤溶液は、特に限定される物ではないが、極性有機溶媒中でカーボンナノチューブ分散剤であるポリアミック酸を重合した溶液を、そのまま用いてもよい。溶媒中でポリアミック酸からなるカーボンナノチューブを重合した後、溶媒から乾燥単離した後、改めて極性有機溶媒に溶解させてもよい。
【0042】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物などを加えてもよい。イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。本発明で得られたポリアミック酸系カーボンナノチューブ分散組成物を加熱イミド化してポリイミド−カーボンナノチューブ複合体として用いる場合、イミド化触媒を使用することによって、加熱イミド化時の結晶化によるフィルムの白化抑制に効果がある場合がある。また、得られるポリイミド−カーボンナノチューブ複合体の物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0043】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。有機リン含有化合物は、フィルム状複合体を得る場合の基材からの離剥剤としての効果や、上記イミド化時の可塑剤として働く事で結果として力学特性の改善に効果がある場合がある。
なお、重合時の温度条件や、イミド化触媒、有機リン含有化合物等を加える事で、カーボンナノチューブ分散剤の一部がイミド化したり、アミック酸塩等の塩を形成したりする事があるが、用いる極性有機溶媒への溶解性を損なわない範囲でイミド化していても構わない。
【0044】
本発明のカーボンナノチューブ分散剤が溶解した極性有機溶媒中にカーボンナノチューブを分散させる方法は、特に限定されないが、超音波処理や、攪拌方法を用いることができる。超音波処理としてはバス型やプローブ型のソニケータを用いることができる。攪拌方法としては、ホモミキサー、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディアミルやジェットミル等を使用することができる。カーボンナノチューブとしてSWNTを用いる場合は、特に分散方法として超音波処理が好適である。超音波処理の処理時間は、処理方法、カーボンナノチューブの種類及び添加量、分散剤の種類及び添加量によって適宜決められるが、概ね10分〜5時間の処理が好ましく、10分〜3時間の処理がより好ましい。
また、カーボンナノチューブとしてMWNTを用いる場合は、特にアトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディアミルによる処理が特に好適である。メディアミルによる処理時間は処理方法、カーボンナノチューブの種類及び添加量、分散剤の種類及び添加量によって適宜決められるが、概ね30分〜50時間の処理が好ましい。
【0045】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物は、カーボンナノチューブの分散処理後に部分的に分散せずに残存した粗大物を除く事が好ましい。残存した粗大物を除く方法としては、特に限定されないが、例えば遠心分離やフィルター処理が上げられる。本発明では特にフィルター処理を行うことが好ましい。フィルター処理で使用されるフィルターは、特に限定される物ではないが、ガラス繊維フィルター、メンブレンフィルターなどを用いることができる。その際、フィルターの保留粒子径は、目的に応じて適宜定めることができる。フィルターの保留粒子径とは、JIS 3801で規定された硫酸バリウムなどを自然濾過したときの漏洩粒子径により求めることができる。例えば、透明性を求められる用途に応用する場合、フィルターの保留粒子径は小さいほどよいが、一般には保留粒子径0.1〜5.0μmのものを用いることができる。
【0046】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物において、カーボンナノチューブの配合量は、カーボンナノチューブが分散している限り特に限定されるものではない。カーボンナノチューブとしてSWNTを用いて、NMP中に分散させる場合においては、NMPの重量に対して0.005%〜1%までの範囲で分散性や用途に応じて適宜選択される。また、カーボンナノチューブとしてMWNTを用いる場合は0.005%〜20%までの範囲で分散性や用途に応じて適宜選択される。
【0047】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物において、カーボンナノチューブ分散剤の添加量は、カーボンナノチューブの種類、配合量、配合する有機溶媒の種類によって適宜定めることができるが、一般にはカーボンナノチューブの重量に対して20%以上、溶媒の重量に対して20%以下であれば、カーボンナノチューブを十分に分散させることができる。カーボンナノチューブの重量に対して20%以下であると、カーボンナノチューブに対する分散剤の量が不足するために、一部のナノチューブは凝集して沈殿物が生じてしまう危険性がある。また、溶媒の重量に対して20%以上であると、分散剤の溶媒中での分子運動が困難になるために、カーボンナノチューブ表面に十分な量の分散剤が吸着することが困難となる。導電性を付与する為に分散液として塗膜、導電助剤、他のポリマーに添加する場合は分散性を保つ範囲で分散剤の添加量を少なくする事が好ましい。また、得られたカーボンナノチューブ分散組成物から直接ポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を作成する場合は、ポリアミック酸の濃度を高濃度にすることも可能である。
【0048】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物の溶液粘度は特に限定されるものではないが、樹脂への分散に利用する場合、なるべく低い方が好ましい。溶液粘度が高い場合、樹脂へ混合する時に分散が不十分になる可能性や、樹脂−カーボンナノチューブ複合体の粘度が高く、成形時に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0049】
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物から、極性有機溶媒を除去することにより、ポリアミック酸−カーボンナノチューブ複合体を得ることができる。極性有機溶媒を除去する方法は特に限定されるものではないが、例えば、カーボンナノチューブ分散組成物を支持体上に流延後、乾燥させる方法などが挙げられる。
【0050】
本発明で得られるポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤は、それ自体がポリイミドの前駆体であり、別途マトリクスとなる樹脂を必要とせずに、カーボンナノチューブ分散組成物をイミド化することで極めて簡便にポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得る事ができる。イミド化する方法としては特に限定されないが、既知の熱イミド化法、化学イミド化法を用いる事が出来る。複合体の形状は特に限定されるものではないが、例えばフィルム、繊維、成型体、ゲル等に成型する事が可能である。
【0051】
例えば熱イミド化法を用いてフィルム状複合体を製造する場合、本発明のカーボンナノチューブ分散組成物を支持体上に流延後、加熱により溶媒の乾燥及びイミド化を行い、最終的に300℃〜550℃の間でイミド化を完結させることにより、フィルム状のポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得ることができる。加熱温度は最終的に得られるポリイミドの組成によって適宜決める事が出来る。
【0052】
また、化学イミド化法を用いてフィルム状複合体を製造する場合、例えば、本発明のカーボンナノチューブ分散組成物に脱水剤および触媒を加え、支持体上に流延後、加熱により溶媒の乾燥及びイミド化の完結を行うことにより、フィルム状のポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得ることができる。さらに、分散組成物に直接脱水剤及び触媒を加えるのでなく、脱水剤と触媒からなる溶液に、本発明のカーボンナノチューブ分散組成物を流延したフィルムを浸漬する方法により、フィルム状のポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得ることも可能である。
【0053】
脱水剤としては、有機酸無水物、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、脂環式酸無水物、複素環式酸無水物、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機酸無水物の具体例としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、ギ酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、無水ピコリン酸等が挙げられ、無水酢酸が好ましい。脱水剤の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.5モル以上であることが好ましい。
【0054】
触媒としては、有機第三級アミン、例えば、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機第三級アミンの具体例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、β−ピコリン、イソキノリン、キノリン等が挙げられ、イソキノリンが好ましい。触媒の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.1モル以上であることが好ましい。
【0055】
本発明の樹脂−カーボンナノチューブ複合体は、本発明のカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および樹脂からなる。樹脂としては、本発明のカーボンナノチューブ分散剤以外の樹脂であれば、特に限定される物ではないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどの熱可塑性樹脂、及びその複合材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂、及びその複合材料が挙げられる。樹脂−カーボンナノチューブ複合体の製造方法は、特に限定される物ではないが、例えば、本発明のカーボンナノチューブ分散組成物を樹脂に混練し、その後、溶媒を除去することにより、樹脂中にカーボンナノチューブが均一に分散した樹脂−カーボンナノチューブ複合体を得ることができる。樹脂−カーボンナノチューブ複合体において、本発明のカーボンナノチューブ分散剤は、一部または全てがイミド化していても構わない。
【0056】
カーボンナノチューブ分散組成物を樹脂に混練する方法としては、特に限定されないが、通常、ミキサー型混合機、例えばスーパーミキサー、ヘンシェルミキサーなどに、カーボンナノチューブ分散組成物及び樹脂を所定の割合で混合し、加熱しながら減圧下で溶剤を除去する。こうして得られたカーボンナノチューブ含有樹脂を溶融押し出し機やブラストミルなどで混練し、プレス機、ロール機、射出成形機、又はペレダイザーなどで成形することにより、カーボンナノチューブ含有樹脂成形品を作成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の例で用いた酸二無水物およびジアミンは以下のとおりである。
6FDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
NTDA:1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物
DAPBI:5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール
5BAIB:2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[1H−ベンゾイミダゾール−5(6)−アミン]
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
【0058】
〔分散液の粒径測定〕
得られた分散液中のカーボンナノチューブの粒径をレーザー回折法により測定した。測定は堀場製作所製LA−950V2を用いて、メジアン径(D50)を評価の指標とした。
【0059】
〔分散液の粘度測定〕
得られた分散液の濃度をE型粘度計を用いて測定した。測定にはBROOKFIELD社製のコーンプレート型粘度計を用い、コーンはCPE−52を用いて、室温で回転数10rpmで測定した。
【0060】
〔実施例1〕
撹拌機と窒素導入管を備えた反応容器中に1.01g(4.49mmol)のDAPBIと27.00gのNMPを投入し、1時間攪拌した。さらに1.99g(4.49mmol)の6FDAを投入し、一昼夜攪拌して固形分10wt%のポリアミック酸系分散剤を合成した。得られたポリアミック酸にNMPを加えて希釈した1wt%の溶液5gにSWNT(ALDRICH社製SWeNT(登録商標) GC−100)を5mg投入し、超音波洗浄器(BRANSON 1510:42kHz・90W)を用いて溶液の温度が30℃以下になるように冷却しながら2時間超音波処理を行った。得られた溶液は若干の凝集物が見られるものの、チキソ性を示すゲル状であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、分散液を平均孔径2.7μmのシリンジフィルター(Whatman社製 GF/D)を用いてろ過したところ、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0061】
〔実施例2、3〕
表1に示した濃度に分散剤を希釈した以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、チキソ性を示すゲル状であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0062】
〔実施例4〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、チキソ性を示すゲル状であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0063】
〔実施例5〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、1日放置後も黒色の溶液であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0064】
〔実施例6〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、チキソ性を示すゲル状であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0065】
〔実施例7〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、1日放置後も黒色の溶液であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0066】
〔実施例8〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は若干の凝集物が見られるものの、1日放置後も黒色の溶液であり、カーボンナノチューブの高い分散性が示唆された。また、ろ過後の溶液は黒色透明であり、カーボンナノチューブは均一に分散していた。
【0067】
〔比較例1〕
ポリアミック酸系分散剤を添加しない以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は1日放置後に殆どのカーボンナノチューブが底部に沈殿しており、分散剤を添加しない場合はカーボンナノチューブの分散は困難であった。また、ろ過後の溶液は無色透明であり、カーボンナノチューブの分散が不十分な為にフィルターを通過する事が出来ず、カーボンナノチューブが均一に分散した溶液を得る事は出来なかった。
【0068】
〔比較例2〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを記載のモル比で用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は1日放置後に殆どのカーボンナノチューブが底部に沈殿しており、前記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含まないポリアミック酸を用いた場合はカーボンナノチューブの分散は困難であった。また、ろ過後の溶液はポリアミック酸由来の着色が見られるものの透明であり、カーボンナノチューブの分散が不十分な為にフィルターを通過する事が出来ず、カーボンナノチューブが均一に分散した溶液を得る事は出来なかった。
【0069】
〔比較例3〕
表1に示した酸二無水物及びジアミンを用いて可溶性ポリイミドを重合した。撹拌機と窒素導入管を備えた反応容器中に1.50g(5.11mmol)のTPE−Rと27.00gのNMPを投入し、120℃で1時間攪拌した。続いて1.50g(5.11mmol)のa−BPDAを投入し、分水器で水を系外に除去しながら180℃で8時間加熱攪拌し、約10wt%のポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液にNMPを加えて希釈した1wt%の溶液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。超音波処理後の溶液は1日放置後に殆どのカーボンナノチューブが底部に沈殿しており、一般的な可溶性ポリイミドを分散剤として用いた場合はカーボンナノチューブの分散は困難であった。また、ろ過後の溶液はポリイミド由来の着色が見られるものの透明であり、カーボンナノチューブの分散が不十分な為にフィルターを通過する事が出来ず、カーボンナノチューブが均一に分散した溶液を得る事は出来なかった。
【0070】
【表1】

【0071】
〔実施例9〕
表2に示した酸二無水物及びジアミンを用いて実施例1と同様の方法でポリアミック酸系分散剤を合成した。得られたポリアミック酸系分散剤を2.5wt%に希釈した分散剤溶液30gに溶液に対して5wt%のMWNT(平均直径15nm)を添加し、粒径1mmのジルコニア(ZrO)ビーズ50gと共に遊星ミル(フリッチュ社製P−5)のジルコニア容器に投入し、室温、ポット回転数350rpmで24時間分散処理し、分散液を得た。分散液中のカーボンナノチューブの粒径(メジアン径)は、1.00μmであり、良好な分散を示した。得られた分散液をPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、光沢を示しており、良好な塗膜を得ることができた。
【0072】
〔比較例4〕
ポリアミック酸系分散剤を用いない以外は実施例9と同様の方法で分散液を得た。分散液中のカーボンナノチューブの粒径(メジアン径)は、27.33μmと大きく、分散性が不良であった。得られた分散液をPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、ザラザラとなり、均一な塗膜を形成することはできなかった。
【0073】
〔比較例5〕
表2に示した酸二無水物及びジアミンを用いた以外は実施例9と同様の方法で分散液を得た。得られた分散液の分散性は不良であった。分散液をPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、ザラザラで均一に塗布出来ず、均一な塗膜を形成することはできなかった。
【0074】
〔比較例6〕
分散剤としてポリビニルピロリドン(BASF社製Luvitec K30)を用いた以外は実施例9と同様の方法で分散液を得た。分散液中のカーボンナノチューブの粒径(メジアン径)は、2.47μmと比較的大きく、分散性が不良であった。得られた分散液をPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、若干ザラザラ感が残っており、均一に塗布出来なかった。
【0075】
【表2】

【0076】
〔実施例10〕
実施例9で合成したポリアミック酸系分散剤をNMPで1.25wt%に希釈し、5wt%のMWNT(平均直径15nm)を加えて混合した後、ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製ラボスターミニ、ジルコニア0.3mmビーズ)を用いて所定時間処理し、分散液を得た。得られた分散液をPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、光沢を示しており、分散後の粒度も小さく分散性が良好である事がわかった。また、分散液の室温での粘度は59.2mPa・sと非常に低く、粘度の上昇を抑制できている事がわかった。
【0077】
〔比較例7〕
分散剤としてポリビニルピロリドン(BASF社製Luvitec K30)を用いた以外は実施例10と同様の方法で分散液を得た。分散液中のカーボンナノチューブの粒径(メジアン径)は、1.44μmと比較的小さく分散性は良好であったが、分散液の室温での粘度は1151mPa・sと非常に高くなった。PETフィルム上に塗布、80℃で1時間乾燥させた塗膜は光沢を示しており、良好な塗膜が得られた。
【0078】
【表3】

【0079】
〔実施例11〕
s−BPDAとDAPBIからなる20wt%のポリアミック酸のNMP溶液1gに、実施例4で得られたろ過後のカーボンナノチューブ分散液1gを加えて室温で攪拌した。得られた黒色透明な溶液をガラス支持体上に流延し、70℃で30分加熱後、100℃〜350℃まで1時間かけて加熱して黒色透明なポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得た。得られた複合体を光学顕微鏡で観察したところ、5μm以上の大きさの凝集体は観察されず、カーボンナノチューブが均一に分散していることが確認された。
【0080】
〔比較例8〕
s−BPDAとDAPBIからなる20wt%のポリアミック酸のNMP溶液1gに、比較例1で得られた超音波処理後のカーボンナノチューブ分散液1gを加えて室温で攪拌した。得られた黒色透明な溶液をガラス支持体上に流延し、70℃で30分加熱後、100℃〜350℃まで1時間かけて加熱してポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得た。得られた複合体を光学顕微鏡で観察したところ、5μm以上の大きさの凝集体が多く観察され、カーボンナノチューブが均一に分散されていない事が確認された。
【0081】
〔比較例9〕
s−BPDAとODAからなる20wt%のポリアミック酸のNMP溶液1gに、比較例2で得られた超音波処理後のカーボンナノチューブ分散液1gを加えて室温で攪拌した。得られた黒色透明な溶液をガラス支持体上に流延し、70℃で30分加熱後、100℃〜350℃まで1時間かけて加熱してポリイミド−カーボンナノチューブ複合体を得た。得られた複合体を光学顕微鏡で観察したところ、5μm以上の大きさの凝集体が多く観察され、カーボンナノチューブが均一に分散されていない事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のカーボンナノチューブ分散剤は、高いカーボンナノチューブ分散能を有するため、均一なカーボンナノチューブ分散組成物を形成することができる。本発明のカーボンナノチューブ分散組成物から形成された、樹脂−カーボンナノチューブ複合体は、本発明のカーボンナノチューブ分散剤が、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するため、ポリマー系カーボンナノチューブ複合体用途等、カーボンナノチューブ材料の様々な分野への応用が可能となる。特に界面活性剤系分散剤やポリビニルピロリドン等の分散剤と比較して高い耐熱性、耐溶剤性を有する為、高温での使用及び耐溶剤性が求められる分野への利用が好適である。特にトランジスタ、燃料電池、水素吸蔵材料、LSI配線、太陽電池やリチウムイオン電池、キャパシタ等の電極用導電助剤、透明導電膜、導電ペースト、機械的強度向上用途、熱伝導性向上用途等に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤。
【化1】

〔式中、Bは、芳香族環を含む4価のユニットであり、
式中、Aは、芳香族環を含む2価のユニットであり、
Aの10〜100モル%が、下記化学式(2)で示されるベンゾイミダゾール構造を含むユニットである。〕
【化2】

【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および、極性有機溶媒からなるカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項3】
極性有機溶媒がアミド系有機溶媒であることを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項4】
アミド系有機溶媒がN−メチル−2−ピロリドン及び/又は、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項5】
カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項6】
カーボンナノチューブが複層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項7】
カーボンナノチューブ分散剤と、アミド系極性有機溶媒とからなる混合溶液に、超音波処理を行いながらカーボンナノチューブを混合分散することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブ分散剤と、アミド系極性有機溶媒とからなる混合溶液に、カーボンナノチューブを添加し、メディアミルを用いて分散混合することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法。
【請求項9】
保留粒子径0.1〜5.0μmのフィルター処理をすることによって微細なカーボンナノチューブのみを含む溶液とすることを特徴とする請求項7〜8に記載のカーボンナノチューブ分散組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項2〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物の溶媒を除去する事により得られるポリアミック酸−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項11】
請求項2〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物をイミド化することにより得られるポリイミド−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項12】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散剤、カーボンナノチューブ、および樹脂からなる樹脂−カーボンナノチューブ複合体。
【請求項13】
請求項2〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散組成物を用いることを特徴とする請求項12に記載の樹脂−カーボンナノチューブ複合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−36021(P2013−36021A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19515(P2012−19515)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】