説明

ポリアミック酸溶液組成物、及びポリイミド膜

【課題】高濃度且つ低粘度でも保存安定性が優れ、基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理する方法で膜のひび割れなしに機械的特性が優れたポリイミド膜を得ることができるポリアミック酸溶液組成物を提供すること。
【解決手段】3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(テトラカルボン酸成分)と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミン(ジアミン成分)とを溶媒中で反応させるポリアミック酸溶液の製造方法であって、ジアミン成分と過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを、前記テトラカルボン酸成分の1/3モル倍を越える水を含有する溶媒中で反応し、次いで前記ポリアミック酸溶液へジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが実質的に等モル量になるようにジアミン成分、又はジアミン成分及びテトラカルボン酸成分を加えて更に反応するポリアミック酸溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学構造を有する高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液組成物、及び前記ポリアミック酸溶液組成物から得られるポリイミド膜に関する。このポリアミック酸溶液組成物は、高濃度且つ低粘度にもかかわらず、保存安定性が優れ、ポリイミド膜を容易に得ることができ、且つ得られたポリイミド膜は優れた機械的特性を有する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド膜は、優れた耐熱性や機械的特性を有しており、フィルム形状に加工されたものはフレキシブル絶縁基板や耐熱性テープ基材として、また管状形状に加工されたものは加熱物品の搬送用ベルト、電子写真方式の定着ベルト或いは中間転写ベルトなどとして好適に用いられている。ポリイミド膜はポリアミック酸溶液組成物を用いることによって好適に得ることができる。
【0003】
ポリアミック酸溶液組成物は、通常ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との略等モルを溶媒中低温でイミド化反応を抑制しながら反応させることによって調製できる。しかし、この方法ではポリアミック酸が容易に高分子量化するので、溶液の高粘度化を抑制することができず、高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液を得ることは困難であった。
特許文献1には、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを実質的に等モル量使用して、その酸無水物1モルに対して約0.5〜40モル倍の水を含有する有機極性溶媒中で、100℃以下の反応温度で反応させ、その反応液が均一な溶液となった後、その反応溶液から遊離の水を除去して、その反応溶液中の遊離の水の含有率を、核磁気共鳴スペクトル法で測定して0.5質量%以下にすることを特徴とするポリアミック酸溶液組成物の調製方法が記載されている。しかしながら、この方法では、酸二無水物基とアミノ基との反応と酸無水物基と水との反応を競争的に行わせるために反応制御が難しく、得られるポリアミック酸の分子量調節を再現性よく且つ安定的に制御するのは容易ではなかった。しかも、低分子量化はポリアミック酸の対数粘度が0.43まで(実施例13)、高濃度化はポリマー濃度が26.0wt%まで(実施例9)、実施例で達成されたけれども、さらに高濃度化且つ低分子量化したポリアミック酸溶液の調製においては限界があった。加えて、この方法では、反応終了後にその反応液から水を除去する必要があり、煩雑な工程を必要とするものであった。
特許文献2には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られたポリアミック酸溶液組成物を用いて中間転写ベルトを好適に製造することができることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−131248号公報
【特許文献2】特開2000−231270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリイミドフィルムを製造する際、低濃度のポリアミック酸溶液組成物では厚いポリイミド膜を成形するのは困難であり、また溶液組成物に含まれる多量の溶媒を蒸発除去するために多くの時間とエネルギーを必要とする問題があった。
さらに、中間転写ベルトとして好適な特性を有する3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られる高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得ようとしても、加熱処理する際に、膜にひび割れが発生して良好なポリイミド膜を得ることができないとうい問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高濃度且つ低粘度にもかかわらず、保存安定性が優れ、基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理する方法によって、膜がひび割れることなく、良好なポリイミド膜を容易に得ることができ、且つ得られたポリイミド膜は優れた機械的特性を有する、ポリアミック酸溶液組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の次項に関する。
1. 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸成分と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミンからなるジアミン成分とを溶媒中で反応させるポリアミック酸溶液の製造方法であって、
ジアミン成分と前記ジアミン成分に対して過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを、前記テトラカルボン酸成分に対して1/3モル倍を越える量の水を含有する溶媒中で反応してポリアミック酸溶液を調製する前工程と、次いで、前記ポリアミック酸溶液へジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが実質的に等モル量になるようにジアミン成分、又はジアミン成分及びテトラカルボン酸成分を加えて更に反応する後工程とを含むことを特徴とするポリアミック酸溶液の製造方法。
2. 前工程において、テトラカルボン酸成分がジアミン成分に対してモル比(テトラカルボン酸成分/ジアミン成分)で1.2以上、好ましくは1.5以上であることを特徴とする前記項1に記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
3. 前工程において、0.05〜2質量%、好ましくは0.05〜1質量%の水を含有する溶媒を用いることを特徴とする前記項1〜2のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
4. 後工程において、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下、好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.25以下であるポリアミック酸溶液を調製することを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
5. 溶液中に1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下の水を含有するポリアミック酸溶液を得ることを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
6. ポリイミド換算の固形分濃度が20〜60質量%、好ましくは25〜60質量%、より好ましくは27〜50質量%、特に好ましくは30〜45質量%であって、且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下、好ましくは30Pa・sec以下、より好ましくは20Pa・sec以下の、高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液組成物を得ることを特徴とする前記項1〜5のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
7. 前工程において反応させるテトラカルボン酸二無水物が、前工程及び後工程において反応させるテトラカルボン酸二無水物の全量に対して10〜70モル%であることを特徴とする前記項1〜6のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
【0008】
8. 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸成分と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミンからなるジアミン成分とを溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸を含有してなり、
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とは実質的に等モルであり、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下であることを特徴とするポリアミック酸溶液組成物。
9. 溶液中に1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下の水を含有することを特徴とする前記項8に記載のポリアミック酸溶液組成物。
10. ポリイミド換算の固形分濃度が20〜60質量%、好ましくは25〜60質量%、より好ましくは30〜60質量%であって、且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下、好ましくは30Pa・sec以下、より好ましくは20Pa・sec以下の、高濃度且つ低粘度であることを特徴とする前記項8〜9のいずれかに記載のポリアミック酸溶液組成物。
【0009】
11. 前記項8〜10のいずれかに記載のポリアミック酸溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が250〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
12. 前記項8〜10のいずれかに記載のポリアミック酸溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が250〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【0010】
13. 前記項11〜12のいずれかに記載のポリイミド膜の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
14. 前記項11〜12のいずれかに記載のポリイミド膜の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。
【0011】
15. 下記一般式(1)の繰返し単位を有するポリアミック酸からなり、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下であり、ポリイミド換算で固形分濃度が20〜60質量%、好ましくは25〜60質量%、より好ましくは30〜60質量%であって、且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下、好ましくは30Pa・sec以下、より好ましくは20Pa・sec以下の、高濃度且つ低粘度であることを特徴とするポリアミック酸溶液組成物。
【0012】
【化1】

ここで、Bは下記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの20〜95モル%が下記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの80〜5モル%が下記一般式(4)で示される2価の基である。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
16. 前記項15に記載のポリアミック酸溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
17. 前記項15に記載のポリアミック酸溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【0017】
18. 前記項16〜17のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
19. 前記項16〜17のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、高濃度且つ低粘度にもかかわらず、保存安定性が優れ、基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理する方法によって、膜がひび割れることなく、良好なポリイミド膜を容易に得ることができ、且つ得られたポリイミド膜は優れた機械的特性を有する、ポリアミック酸溶液組成物を提供することができる。この高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液組成物を用いれば、多量の溶媒を蒸発除去するために多くの時間とエネルギーを必要とすることなしに、優れた機械的特性を有するポリイミド膜や無端管状ポリイミド膜を好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において、「ポリ」アミック酸は極めて低分子量であり、必ずしもポリマーを意味しない。アミック酸オリゴマー、1分子のジアミンに1分子又は2分子のテトラカルボン酸二無水物が反応した程度の低分子量アミック酸化合物、さらにテトラカルボン酸二無水物が加水分解したテトラカルボン酸などの原料成分からなる、アミック酸構造を持った成分を含むポリイミド前駆体を意味する。
【0020】
本発明のポリアミック酸の製造方法は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸成分と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミンからなるジアミン成分とを溶媒中で反応させるポリアミック酸溶液の製造方法であって、
ジアミン成分と前記ジアミン成分に対して過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを、前記テトラカルボン酸成分に対して1/3モル倍を越える量の水を含有する溶媒中で反応してポリアミック酸溶液を調製する前工程と、次いで、前記ポリアミック酸溶液へジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが実質的に等モル量になるようにジアミン成分、又はジアミン成分及びテトラカルボン酸成分を加えて更に反応する後工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明において、ポリアミック酸を形成するテトラカルボン酸成分は、実質的に100モル%が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、すなわち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その無水化物、或いはそのエステル化物であり、特に好ましくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。他のテトラカルボン酸成分を、この発明の効果の範囲内で用いることもできるが、その際でも10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0022】
また、ジアミン成分は、20〜95モル%、好ましくは50〜95モル%、より好ましくは60〜90モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、80〜5モル%、好ましくは50〜5モル%、より好ましくは40〜10モル%の2,4−トルエンジアミンである。ジアミン成分中の2,4−トルエンジアミンの割合がこの範囲外では、ポリイミド膜を容易に得ることができなくなったり、得られたポリイミド膜の機械的特性が低下したりするので好適ではない。
【0023】
溶媒はポリアミック酸を溶解し得るものであって、常圧での沸点が300℃以下の有機極性溶媒が好ましく、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタムなどの窒素原子を分子内に含有する溶媒、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ヘキサメチルスルホルアミドなどの硫黄原子を分子内に含有する溶媒、例えばクレゾール、フェノール、キシレノールなどフェノール類からなる溶媒、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライムなどの酸素原子を分子内に含有する溶媒、その他、アセトン、ジメチルイミダゾリン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン、テトラメチル尿素などを挙げることができる。
【0024】
本発明のポリアミック酸溶液を製造する方法の前工程では、ジアミン成分と前記ジアミン成分に対して過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを、前記テトラカルボン酸成分に対して1/3モル倍を越える量の水を含有する溶媒中で反応してポリアミック酸溶液を調製する。ここでは主にジアミン成分とテトラカルボン酸成分とのモル比に依存した分子量(低分子量)のポリアミック酸が形成される。そして、このポリアミック酸は概ね両末端にテトラカルボン酸二無水物成分が配置し、この末端に配置したテトラカルボン酸二無水物由来の無水物基のうちでアミック酸結合の形成に関与しなかった無水物基は、溶媒中に存在する水によって加水分解されて2つのカルボキシル基になる。ここで、水の量が少な過ぎると、無水物基の多くがそのまま残り、後工程で追加されたジアミンと反応して高分子量のポリアミック酸を形成することになるので、低分子量のポリアミック酸を得るのが難しくなる。また、ポリアミック酸が高分子量化して溶液が高粘度化し、後工程で追加されたテトラカルボン酸二無水物成分の一部が溶解せず、均一なポリアミック酸溶液を得ることができないこともある。
前工程においては、0.05〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%の水を含有する溶媒を用いるのが好適である。2質量%を越える水を含有する溶媒中では、酸無水物基とアミノ基との反応と酸無水物基と水との反応がより競争的になるので、所定の低分子量のポリアミック酸を再現性よく調製することが難しくなる。しかも、得られたポリアミック酸溶液中に多量の水が存在すると溶液安定性が悪くなることがある。また、反応後に過剰の水を除去するのは、イミド化反応を抑制するために低温且つ減圧下に行う必要があり、工程が複雑になるので好ましくない。
【0025】
この前工程では、ジアミン成分とジアミン成分量に対して過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを反応するが、テトラカルボン酸成分量のジアミン成分量に対するモル比(テトラカルボン酸成分モル量/ジアミン成分モル量)は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.5以上であり、通常は1.5〜5.0程度である。モル比が2以上の場合には、反応後のポリアミック酸溶液内にジアミン成分と反応しなかったテトラカルボン酸成分の酸無水物基が溶媒中の水によって加水分解されて主としてテトラカルボン酸になって共存するが、均一に溶解しているのであれば特に問題はない。
また、この前工程でポリアミック酸溶液を調製するのに用いるテトラカルボン酸成分の全量を溶媒に加えて反応し、後工程ではテトラカルボン酸成分を加えないようにすることもできるが、通常、前工程で反応させるテトラカルボン酸成分の量は、前工程及び後工程において反応させるテトラカルボン酸成分の全量に対して10〜70モル%であることが好ましく、20〜50モル%であることがより好ましい。前工程で用いるテトラカルボン酸成分がこの範囲外になると、得られるアミック酸溶液の溶液安定性(粘度安定性)が悪くなることがある。
【0026】
この前工程の反応条件は、イミド化を抑制し付加反応によってポリアミック酸を生成する反応条件であれば特に限定はない。常圧下で行うのが好適であるが、加圧又は減圧条件下でも構わない。温度条件は好ましくは100℃以下、より好ましくは20〜80℃の温度範囲であり、通常の前工程では、前記温度条件下で1〜100時間程度反応させる。また、反応は窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気中で好適に行うことができる。
【0027】
この前工程で得られるポリアミック酸の対数粘度は好ましくは0.4以下、より好ましくは0.01〜0.4、特に0.01〜0.3、更に0.05〜0.2である。前工程で得られたポリアミック酸の対数粘度が0.4を越える時は、前工程のジアミン成分とテトラカルボン酸成分とのモル比が比較的等モルに近い場合であり、後工程でもジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが等モルに近いモル比で反応するから、得られるポリアミック酸は当然高分子量化したものである。特に高濃度溶液で反応する場合には、前工程のポリアミック酸が高分子量化すると、得られた溶液が著しく高粘度化し、その結果、後工程で追加したジアミン成分やテトラカルボン酸成分の反応が妨げられ、ポリアミック酸溶液中に未反応で溶解せずに残留するなどの問題を生じることがある。
【0028】
本発明のポリアミック酸溶液を製造する方法の後工程では、前記前工程で得られたポリアミック酸溶液へ、ジアミン成分の合計量とテトラカルボン酸成分の合計量とが実質的に等モル量になるように、好ましくはモル比(テトラカルボン酸成分/ジアミン成分)が1.05〜0.95程度になるように、ジアミン成分、又はジアミン成分及びテトラカルボン酸成分を加えて更に反応する。この後工程は、前記前工程の反応条件と同様の反応条件下で好適に行うことができる。なお、後工程で加えるテトラカルボン酸成分は、その一部をテトラカルボン酸或いはテトラカルボン酸の低級アルコールエステルで置き換えることもできる。
【0029】
この後工程の結果、対数粘度が0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下のアミック酸からなるアミック酸溶液を再現性よく好適に得ることができる。なお、ポリアミック酸の対数粘度の下限値は0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。このアミック酸溶液では、アミノ基と反応してアミック酸結合を形成していないテトラカルボン酸二無水物由来の無水物基の実質的にすべて(90%以上、好ましくは95%以上)が加水分解されて2つのカルボキシル基になっている。また、極めて低分子量のアミック酸であるから溶液粘度の増大を抑制できるので、高濃度化が容易である。その結果、ポリイミド換算の固形分濃度が20質量%以上、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは25〜60質量%、更に好ましくは27〜50質量%、特に30〜45質量%の高濃度ポリアミック酸溶液を好適に得ることができる。この高濃度ポリアミック酸溶液は、30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下、好ましくは30Pa・sec以下、より好ましくは20Pa・sec以下低粘度溶液であるから、実用上極めて有用である。なお、溶液粘度の下限値は好ましくは0.5Pa・sec以上、通常は1Pa・sec以上である。
【0030】
さらに、このポリアミック酸溶液は、前工程において0.05〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%の水を含有する溶媒を用いているが、この水はテトラカルボン酸成分の無水物基を加水分解するために消費され、残りが溶液中に残るが、もともと少量しか用いていないので、反応終了後特に水の量を調節(除去)しなくても構わない。水を除去しなくても、例えば水の含有量が1質量%以下であるポリアミック酸溶液を得ることができる。このアミック酸溶液中の水の量は前述のとおり十分少量であることに加えて、更に、アミノ基と反応してアミック酸結合を形成した無水物基以外のテトラカルボン酸二無水物由来の無水物基が実質的にほとんど全て加水分解されて2つのカルボキシル基になっているから、このポリアミック酸溶液中の各成分は少なくとも低温下の保存中に何らかの反応を起こす可能性が少なく、その結果、溶液安定性が極めて良好である。
【0031】
本発明のポリアミック酸溶液は、高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液として極めて有用であるが、高濃度溶液にのみ限定されるものではない。ポリアミック酸溶液として種々の用途に種々の濃度で好適に用いることが可能である。そして、溶媒除去を伴う加熱処理による熱重合イミド化法や、同様に溶媒除去を伴う無水酢酸などによる化学イミド化法などの既に公知の方法で重合・イミド化反応することによって容易にポリイミドにすることができる。
【0032】
すなわち、本発明のポリアミック酸溶液組成物は、基材に塗布して膜状物を形成し、最高加熱温度が250〜600℃の温度範囲、好ましくは280〜390℃の温度範囲で加熱処理して膜厚が0.1〜200μm、好ましくは3〜150μm、より好ましくは5〜130μmのポリイミド膜を好適に得ることができる。
本発明において、基材とは、表面にポリアミック酸溶液組成物を塗布して膜状物(塗膜)が形成できるものであり、液体や気体を実質的に透過させない程度の緻密構造を有していれば、形状や材質で特に限定されるものではない。通常のフィルムを製造する際に用いられるそれ自体公知のベルト、金型、ロールなどのフィルム形成用基材、その表面にポリイミド膜を絶縁保護膜として形成する回路基板などの電子部品や電線、表面に皮膜が形成される摺動部品や製品、ポリイミド膜を形成して多層化フィルムや銅張積層基板を形成する際の一方のフィルムや銅箔などを好適に挙げることができる。
【0033】
基材に塗布する方法としては、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などのそれ自体公知の方法を適宜採用することができる。
【0034】
この基材に塗布されて形成された膜状物は、例えば減圧下又は常圧下に比較的低温で加熱する方法で脱泡しても構わない。
基材上に形成されたポリアミック酸溶液組成物からなる膜状物は、加熱処理することによって溶媒を除去し且つイミド化されてポリイミド膜が形成される。加熱処理は、いきなり高温で加熱処理するよりも最初に140℃以下の比較的低温で溶媒を除去し、次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてイミド化する段階的な加熱処理が好適である。また、140℃以上で0.01〜30時間好ましくは0.01〜10時間より好ましくは0.01〜6時間の加熱処理を行って実質的にアミド酸基が残らないようにイミド化することが好適である。最高加熱処理温度は250〜600℃の温度範囲が採用できるが、より好ましくは280〜390℃の温度範囲である。この温度範囲で0.01〜20時間好ましくは0.01〜6時間より好ましくは0.01〜5時間加熱処理することが好適である。このように段階的に温度を上げる加熱処理条件としては、例えば80℃で30分間、130℃で10分間、200℃で10分間、そして最後に最高加熱温度の範囲内で10分間加熱処理する(但し、次の段階へは10分間で昇温する)加熱処理条件を例示することができる。
【0035】
また、本発明のポリアミック酸溶液組成物は、回転成形法にて管状物に成形し、この管状物を前記と同じように脱泡したり加熱処理したりすることで容易に無端管状ポリイミド膜を得ることができる。例えば、回転成形法は基材の役割を有する円筒状の金型を回転させながら、金型(内側乃至外側)表面にポリアミック酸溶液組成物からなる塗膜を形成し、200℃以下の比較的低温で加熱処理して溶媒を揮発させて自己支持性膜(溶媒が除去され被膜の流動が発生しない状態、完全ではないが重合及びイミド化反応が進んでいる)を形成し、次いで前記自己支持性膜をそのまま或いは必要に応じて基材から剥がしたり、裏返したり、適度の張力を掛けたりしながら、最高熱処理温度まで直接乃至段階的に昇温する手順で加熱処理することによって無端管状ポリイミド膜を好適に得ることができる。本発明においては、最高加熱処理温度は250〜600℃の温度範囲が採用できるが、好ましくは280〜390℃、より好ましくは300〜390℃、更に好ましくは340〜380℃の温度範囲である。250℃以下では十分な重合イミド化反応が達成できなくなって良好な機械的強度が得られなくなることがある。また、390℃を越えた温度まで加熱すると脆くなって機械的な特性が低下する。
【0036】
本発明のポリアミック酸溶液組成物を用いれば、高濃度且つ低溶液粘度の溶液組成物であるにも拘わらず、すなわちポリアミック酸の対数粘度(ηinh)が0.4以下、特に0.3以下、更に0.2以下であるにも拘わらず、好適にポリイミド膜を得ることができる。しかも、得られたポリイミド膜は、引張強度が150MPa以上、好ましくは170MPa以上、より好ましくは190MPa以上であり、引張弾性率が2.9GPa以上。好ましくは3.0GPa以上であり、引張伸度が40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であるので、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られたポリアミック酸溶液組成物を用いたポリイミド膜と同等乃至それ以上の機械的特性を有している。
【0037】
すなわち、本発明のポリアミック酸溶液組成物を用いれば容易に優れた中間転写ベルトを得ることができる。
本発明のポリアミック酸溶液組成物を用いて中間転写ベルトを形成するときには、中間転写ベルトとして要求される半導電性などの特性を付与するために、組成物中にカーボンブラックなどの導電性材料を添加して用いる。このような用途での配合は、例えば特許文献2に記載されたような公知の配合を好適に採用することができる。
具体的に云えば、中間転写ベルトの転写面の表面抵抗率は、1×1010Ω/m2〜1×1014Ω/mの範囲、好ましくは1×1011Ω/m〜1×1012Ω/mの半導電性の範囲である。このような半導電性の表面抵抗率を有する中間転写ベルトは、電子導電性を付与するための導電材を均一に分散したポリアミック酸溶液組成物を用い、例えば基材の役割を有する円筒状の金型を回転させながら、金型(内側乃至外側)表面に前記ポリアミック酸溶液組成物からなる塗膜を形成して加熱処理する方法によって好適に得ることができる。
【0038】
電子導電性を付与するための導電材としては、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム、銅合金等の金属もしくは合金、酸化錫、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化錫−酸化インジウムもしくは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物等の導電性或いは半導電性の微粉末が好適に用いられる。これらの導電材は単独でも複数種を併用して用いることもできる。これらの中では、分散性、分散安定性、半導電性ポリイミド無端管状ベルトの抵抗バラツキ、電界依存性、電気抵抗の経時での安定性などを考慮すると、カーボンブラック、特に表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して製造したpH5以下の酸化処理カーボンブラックを好適に用いることができる。またカーボンブラックとしては、その揮発成分が1〜25質量%、好ましくは3〜15質量%程度のものが好適である。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
具体的には、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0質量%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2質量%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2質量%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0質量%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0質量%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0質量%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0質量%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5質量%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0質量%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0質量%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5質量%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0質量%)、同「MOGUL−L」(pH2.5、揮発分5.0質量%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5質量%)などを好適に挙げることができる。
分散方法としては公知の方法が適用でき、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、超音波分散などを好適に挙げることができる。添加量は、限定するものではないが、ポイミドに換算した固形分に対して10〜17質量%程度が好適である。
【0039】
本発明のポリアミック酸溶液組成物は、前記導電材以外の種々の添加剤や充填材を好適に含有することができる。それらの例としては、消泡剤、界面活性剤、顔料や染料などの着色剤、反応触媒、アルミナなどの無機や有機の充填材、補強繊維などを好適に挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の例で用いた測定方法について説明する。水の含有量については、前工程の反応については、用いた溶媒(NMP)に不純物として含まれる水の含有量は無視できるので、加えた水の量を基に算出した「水の含有率」で示した。一方、得られたポリアミック酸溶液の水の量は、ポリアミック酸溶液の水の量を以下の測定方法で測定した「含水率」で示した。
【0042】
〔固形分濃度〕
試料溶液(その質量をw1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw2とする)を測定する。ポリイミド換算の固形分濃度[質量%]は次式によって算出した。
固形分濃度=(w2/w1)×100
【0043】
〔対数粘度〕
試料溶液を、固形分濃度に基づいて濃度が0.5g/dl(溶媒はNMP)になるように希釈した。この希釈液を、30℃にて、キャノンフェンスケNo.100を用いて流下時間(T)を測定した。対数粘度は、ブランクのNMPの流下時間(T)を用いて、次式から算出した。
対数粘度={ln(T/T)}/0.5
【0044】
〔溶液粘度(回転粘度)〕
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0045】
〔含水率〕
シグマアルドリッチ社製カールフィッシャー試薬(ハイドラナールコンポジット5K)を用いて平沼産業社製水分測定装置(AQV−2000)によって測定した。
【0046】
〔溶液安定性〕
試料を、5℃の温度に調整された雰囲気中に保管し、1ケ月後の試料溶液を目視によって観察し、濁りや相分離・析出の有無を確認した。濁りや相分離・析出があるものは×、変化がないものを○とした。
【0047】
〔製膜性(ポリイミド膜の状態)〕
ガラス基板上に、得られるポリイミド膜を所定の厚みとなるように試料溶液を塗布し、熱風乾燥機中で120℃で30分間、150℃で10分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで最高加熱温度で10分間加熱処理して、溶媒の除去及び重合イミド化反応を行わせてポリイミド膜を製造した。得られたポリイミド膜の状態を次のとおり目視観察した。すなわち、目視によってフクレ、割れ、粉化等の不具合の有無を確認し、フクレ、割れ、粉化等の不具合がないものを○、フクレ、割れ、粉化等の不具合が生じたものを×とした。
【0048】
〔引張破断強度〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0049】
〔引張破断伸度〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0050】
〔引張弾性率〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0051】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:オキシジアニリン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)
2,4−TDA:2,4−トルエンジアミン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0052】
〔実施例1〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.67g、s−BPDA79.80g、及びODA24.44g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.47質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA97.77gと2,4−TDA8.28gとを溶解させ、さらにs−BPDA119.70gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.24、溶液粘度が8.5Pa・sec、固形分濃度が30.8質量%、含水率が0.33質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0053】
〔実施例2〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.73g、s−BPDA81.10g、及びODA22.08g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.48質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA88.32gと2,4−TDA16.84gとを溶解させ、さらにs−BPDA121.65gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.22、溶液粘度が9.4Pa・sec、固形分濃度が31.2質量%、含水率が0.44質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0054】
〔実施例3〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.79g、s−BPDA82.45g、及びODA19.64g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.49質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA78.56gと2,4−TDA25.68gとを溶解させ、さらにs−BPDA123.67gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.22、溶液粘度が7.6Pa・sec、固形分濃度が31.3質量%、含水率が0.35質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0055】
〔実施例4〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP600.00g、水6.12g、s−BPDA124.92g、及びODA23.81g(水のモル比[水/酸成分]が4/5、水の含有率が0.74質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が5/2)を秤取り、70℃の反応温度で5時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA95.23gと2,4−TDA31.12gとを溶解させ、さらにs−BPDA124.92gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.17、溶液粘度が50.0Pa・sec、固形分濃度が38.4質量%、含水率が0.36質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0056】
〔実施例5〕
実施例4で得られたポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが80μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0057】
〔実施例6〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.92g、s−BPDA85.27g、及びODA14.51g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.51質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA58.04gと2,4−TDA44.26gとを溶解させ、さらにs−BPDA127.91gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.21、溶液粘度が7.8Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.26質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0058】
〔実施例7〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水4.06g、s−BPDA88.30g、及びODA9.02g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.53質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA36.06gと2,4−TDA64.17gとを溶解させ、さらにs−BPDA132.45gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.20、溶液粘度が7.1Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.32質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0059】
〔参考例1〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP800gを加え、これにODAの81.00gとs−BPDAの119.00gとを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.3質量%、溶液粘度5.1Pa・s、対数粘度0.73のポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0060】
〔参考例2〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.61g、s−BPDA78.54g、及びODA26.73g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.46質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA106.92gを溶解させ、さらにs−BPDA117.81gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.24、溶液粘度が8.9Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.32質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成しようとしたが、ポリイミド膜の表面に割れが生じた。
このポリアミック酸溶液組成物の特性等について結果を表1に示した。
【0061】
〔参考例3〕
実施例3で得られたポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで400℃で10分間加熱処理して、厚さが80μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0062】
〔参考例4〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水4.28g、s−BPDA93.27g、及び2,4−TDA19.36g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.54質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へ2,4−TDA77.46gを溶解させ、さらにs−BPDA139.91gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.15、溶液粘度が4.5Pa・sec、固形分濃度が31.5質量%、含水率が0.34質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によって、高濃度且つ低粘度にもかかわらず、保存安定性が優れ、基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理する方法によって、膜がひび割れることなく、良好なポリイミド膜を容易に得ることができ、且つ得られたポリイミド膜は優れた機械的特性を有する、ポリアミック酸溶液組成物を提供することができる。この高濃度且つ低粘度のポリアミック酸溶液組成物を用いれば、多量の溶媒を蒸発除去するために多くの時間とエネルギーを必要とすることなしに、優れた機械的特性を有するポリイミド膜や無端管状ポリイミド膜を好適に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸成分と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミンからなるジアミン成分とを溶媒中で反応させてポリアミック酸溶液を製造する方法であって、
ジアミン成分と前記ジアミン成分に対して過剰モル量のテトラカルボン酸成分とを、前記テトラカルボン酸成分に対して1/3モル倍を越える量の水を含有する溶媒中で反応してポリアミック酸溶液を調製する前工程と、次いで、前記ポリアミック酸溶液へジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが実質的に等モル量になるようにジアミン成分、又はジアミン成分及びテトラカルボン酸成分を加えて更に反応する後工程とを含むことを特徴とするポリアミック酸溶液の製造方法。
【請求項2】
後工程において、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下であるポリアミック酸溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
【請求項3】
ポリイミド換算の固形分濃度が20〜60質量%であって且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下であるポリアミック酸溶液を得ることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
【請求項4】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸成分と、20〜95モル%のジアミノジフェニルエーテルと80〜5モル%の2,4−トルエンジアミンからなるジアミン成分とを溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸を含有してなり、
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とは実質的に等モルであり、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下であることを特徴とするポリアミック酸溶液組成物。
【請求項5】
ポリイミド換算の固形分濃度が20〜60質量%であって且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリアミック酸溶液組成物。
【請求項6】
請求項4〜5のいずれかに記載のポリアミック酸溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜5のいずれかに記載のポリアミック酸溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項8】
請求項6〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
【請求項9】
請求項6〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。
【請求項10】
下記一般式(1)の繰返し単位を有するポリアミック酸からなり、ポリアミック酸の対数粘度が0.4以下であり、ポリイミド換算で固形分濃度が20〜60質量%であって且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下であることを特徴とするポリアミック酸溶液組成物。
【化1】

ここで、Bは下記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの20〜95モル%が下記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの80〜5モル%が下記一般式(4)で示される2価の基である。
【化2】

【化3】

【化4】

【請求項11】
請求項10に記載のポリアミック酸溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載のポリアミック酸溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項13】
請求項11〜12のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
【請求項14】
請求項11〜12のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。

【公開番号】特開2009−221398(P2009−221398A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69189(P2008−69189)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】