説明

ポリアミン化合物を固定化したキレート樹脂吸着剤の製造方法

【目的】 水処理技術において、微量に溶存するコバルト、ニッケル、水銀、銅などの重金属イオンを選択的に吸脱着する吸着剤であって、その後の使用済み吸着剤の処分が容易に行われることのできる吸着剤を製造する方法。
【構成】 この吸着剤は、オレフィン又はハロゲン化オレフィンの重合体又は共重合体よりなる高分子成型体に紫外線又は電離性放射線を作用させ、エポキシ基を含有する重合性単量体をグラフト重合した後、そのグラフト重合体の側鎖にポリアミン化合物を固定化することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は精密電子工業、医療、製薬、原子力発電などの各分野における用水や排水中に含まれる金属イオンの除去に応用可能な新規吸着剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の水処理技術においては、コバルト、ニッケル、水銀および銅などの有害重金属類を除去するのに、ビーズ状のキレート樹脂が広く用いられているが、低濃度の溶存金属イオンを効率的に吸着分離することは困難であり、多量の樹脂を必要とする。また、形状が約0.2〜0.8mm直径の真球であるため、充填塔方式による使用形態に限られる。
【0003】また、ビーズ状のキレート樹脂は通常のイオン交換樹脂と同様にジビニルベンゼンなどの架橋剤によって剛直な三次元構造を有しており、樹脂内部への金属イオンおよび再生剤の拡散速度が十分ではない。さらに、非再生で使用する場合にも、燃焼処分が困難なため、例えば、原子力発電所の放射性廃棄物である使用済みイオン交換樹脂をいかに減容化するかが大問題となっている。原子力発電所でなくとも、使用済みのキレート樹脂の処理処分を誤ると。既に吸着済みの重金属イオン(例えば、水銀やカドミウムなど)が他の場所へと拡散し、深刻な二次汚染が発生する危険性がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は水処理技術において、微量に溶存するコバルト、ニッケル、水銀、銅などの重金属イオンを選択的に吸脱着し、容易に処分可能な吸着剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は前記目的を達成する手段を鋭意研究した結果以下の手段によって達成できることを見いだした。
【0006】基材がオレフィンまたはハロゲン化ポリオレフィンの重合体または共重合体からなる高分子成型品に電離性放射線を作用させ、エポキシ基を含有する重合性単量体をグラフト重合した後、そのグラフト重合体の側鎖にポリアミン化合物を固定化することにより、水溶液中の微量の重金属成分を効率よく分離、除去することが可能であり、化学的、物理的に安定な吸着剤が得られることを見いだした。
【0007】以下、本発明においてグラフト重合させる基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、またはエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンの単独または共重合体から選択される。ただし、使用済みの樹脂を燃焼させることを考慮すると、ハロゲンや硫黄を含有しないものの方が好ましい。
【0008】基材として用いられる高分子成型体の形状は、繊維やその集合体である織布や不織布、粒子、粉末、シートあるいはそれらの加工品など各種の形状から選択することができる。特に、本発明の方法は、形状に限定されることがなく、ポリアミン化合物を固定化できることが特徴である。
【0009】基材にグラフト重合される重合性単量体は、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルマレアート、グリシジルビニルスルホナートなどが用いられ、エポキシ基を含有すれば特に限定されるものではないが、グリシジルメタクリレートおよびグリシジルアクリレートなどが適している。
【0010】本発明のグラフト重合に際して用いる電離性放射線は、α線、β線、γ線、加速電子線、X線、紫外線などであるが、実用的には加速電子線またはγ線が好ましい。
【0011】本発明にしたがって、基材と重合性単量体をグラフト重合させる方法としては、基材と重合性単量体とを共存下放射線を照射する同時照射法と、基材のみに予め放射線を照射した後、重合性単量体と基材とを接触させる前照射法のいずれでも可能であるが、前照射法がグラフト重合以外の副反応を生成しにくい特徴を有する。
【0012】グラフト重合の際に、基材と単量体とを接触させる方法は液状の単量体あるいは単量体溶液と直接接触させる液相重合法と、重合性単量体の蒸気あるいは気化状態で接触させる気相グラフト重合法とがあるが、いずれの方法も目的にあった選択が可能である。
【0013】ポリアミン化合物として、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、フェニレンジアミン、ペンタメチレンヘキサミン、ヘキサメチレンヘプタミン、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、ポリエチレンイミンなどが用いられる。
【0014】
【実施例】以下、実施例により、本発明の構成および効果を具体的に述べるが、いずれも本発明を限定するものではない。
【0015】(実施例1)ポリエチレン製極細繊維に電子線加速器(加速電圧2MeV、電子線電流1mA)を用いて、窒素雰囲気下で200KGyを照射した後、減圧下でグリシジルメタクリレートの蒸気と40℃で6時間接触させ、気相グラフト重合反応を行った。このときの重量増加率は130%であった。エチレンジアミンの液中にグラフト樹脂を浸して、60℃で3時間反応させた。その結果、エチレンジアミンが反応生成物1gあたり2.9mmolのキレート樹脂を得た。この樹脂を10mmφのガラスカラムに1gを充填し、Co濃度が1ppm asCoの塩化コバルト水溶液をSV10の速度で通液した。カラムの流出液を50mlずつ分画した結果、50分画においても流出液中のコバルト濃度は5ppb以下であった。エチレンジアミンを固定化したキレート樹脂がコバルトイオンに対して明らかに優れた結果を得た。
【0016】(実施例2)粉末ポリエチレンを基材にして、実施例1と同様な方法でグリシジルメタクリレートをグラフトした結果、グラフト率100%のグラフト樹脂粉末を得た。ヘキサメチレンジアミンの液中にグラフト樹脂を浸して、60℃で3時間反応させた。その結果、ヘキサメチレンジアミンが反応生成物1g当たり2.35mmolのキレート樹脂を得た。コバルト濃度が1ppm asCoに調整した塩化コバルト水溶液500mlを500mlビーカにいれ、さらにキレート樹脂0.1gを加えて、10時間撹拌した。この液をNo.5A瀘紙にて瀘過し、瀘液のコバルト濃度を測定した結果7ppbであり、ヘキサメチレンジアミンを固定化したキレート樹脂がコバルトイオンに対し明らかに優れた結果を得た。
【0017】(実施例3)ポリプロピレン製ろ布を基材として実施例1と同様な方法でグラフト重合反応およびエチレンジアミンの固定化を行った結果、グラフト率110%、エチレンジアミンの固定化量が反応生成物1gあたり2.4mmolのキレート樹脂を得た。これを直径30mmの円形に打ち抜き、10枚重ねて内径30mmのガラスカラムに充填した。このカラムにニッケル濃度が1ppm asNiの塩化コバルト水溶液をSV10で通液したところ、充填体積の100倍量を通液した時点でカラム出口のニッケル濃度が18ppbであり、未だブレークの徴候は認められなかった。ろ布状のキレート樹脂においてもニッケルイオンに対し優れた吸着性能を得た。
【0018】
【発明の効果】本発明により、水溶液中の重金属イオンに対して高い吸着性能を示すキレート樹脂吸着剤を提供することが可能となった。原子力発電、精密電子工業などにおける用水や排水中からの重金属イオンを効率良く除去でき、取り扱いや処分も容易なため、環境保護など産業界への社会的な要請が大きい昨今、極めて有用な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高分子成型体を基体としてグラフト重合体の側鎖にポリアミン化合物を固定化することを特徴とする吸着剤の製造方法
【請求項2】 高分子成型体がオレフィンまたはハロゲン化オレフィンの重合体または共重合体よりなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の吸着剤の製造方法
【請求項3】 グラフト重合方法が紫外線および電離性放射線を用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項記載の吸着剤の製造方法
【請求項4】 グラフト重合における重合性単量体がエポキシ基を含有することを特徴とする特許請求の範囲第1、第2または第3項記載の吸着剤の製造方法。