説明

ポリイミド前駆体、ポリイミド前駆体溶液組成物、ポリイミド、ポリイミド溶液組成物、ポリイミドフィルム、基板、及び成形品

【課題】優れた透明性、高耐熱性等を有するポリイミドを提供する。
【解決手段】下記化学式(1)中のXが下記化学式(2)で表される群から選択される下記化学式(1)の単位構造を有するポリイミド前駆体であって、このポリイミド前駆体から得られるポリイミドが、厚さ10μmのフィルムでの波長400nmの光透過率が75%以上であることを特徴とするポリイミド前駆体。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い透明性、高耐熱性を有するポリイミド、もしくはそれらの前駆体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。特に表示装置分野で、ガラス基板代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討が行なわれたり、曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が盛んに行われているおり、その様な用途に用いることができる、より高性能の光学材料が求められている。
【0003】
一般に、ポリイミドは分子内共役や電荷移動錯体の形成により本質的に黄褐色に着色する。その解決策として、例えばフッ素を導入したり、主鎖に屈曲性を与えたり、嵩高い側鎖を導入するなどして電荷移動錯体の形成阻害し透明性を発現させる方法が提案されている(非特許文献1)。また、原理的に電荷移動錯体を形成しない半脂環式または全脂環式ポリイミド樹脂を用いることにより透明性を発現させる方法も提案されている(特許文献1〜3、非特許文献2)。
【0004】
特に、ジアミン成分として、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン類、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いた半脂環式ポリイミドは、透明性を維持しつつ、高耐熱性、低熱線膨張係数を兼ね備えることが知られている(特許文献3)。この半脂環式ポリイミドから得られる膜の透明性は比較的高いものの、光学材料としての用途を考えた場合には複屈折率が大きいため、画像が二重に見えたり、色がぼやけたりしてしまうということもあった(非特許文献2)。
【0005】
また、酸二無水物に4,4’−(ジメチルシランジイル)ジフタル酸二無水物、ジアミンにオキシジアニリンを用いたポリイミドの報告がなされている(非特許文献3)。このポリイミドから得られる膜は比較的透明で耐熱性も高い。しかしながら、十分な透明性を有しているとは言いがたい。
【0006】
以上のように、ポリイミドにおいて優れた透明性、高耐熱性を有することが強く求められ、低複屈折率等を求められることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−348374号公報
【特許文献2】特開2005−15629号公報
【特許文献3】特開2002−161136号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer,47,2337(2006)
【非特許文献2】High Perform.Polym,13,S93(2001)
【非特許文献3】JOURNAL of Applied Polymer Science, Vol. 94, 2363-2367 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた透明性、高耐熱性等を有するポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の各項に関する。
【0011】
1. 下記化学式(1)中のXが下記化学式(2)で表される群から選択される下記化学式(1)の単位構造を有するポリイミド前駆体であって、
このポリイミド前駆体から得られるポリイミドが、厚さ10μmのフィルムでの波長400nmの光透過率が75%以上であることを特徴とするポリイミド前駆体。
【0012】
【化1】

〔式(1)中、R、Rはいずれも独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数3〜9のアルキルシリル基を表す。〕
【0013】
【化2】


〔式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される1種以上を示す。〕
【0014】
2. 前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を2種以上有することを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体。
【0015】
3. 前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を50モル%以上有することを特徴とする前記項1又は2に記載のポリイミド前駆体。
【0016】
4. 前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される前記化学式(1)の単位構造を70モル%以上、下記化学式(3)で表される単位構造を30モル%以下有することを特徴とする前記項3に記載のポリイミド前駆体。
【0017】
【化3】


〔式(3)中、Zは2価の基を表し、R10、R11はいずれも独立に、水素原子又は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜9のアルキルシリル基であり、Yは下記化学式(4)の構造の4価の基を表す。〕
【0018】
【化4】

【0019】
5. 30℃、0.5g/dLのN,N−ジメチルアセトアミド溶液における対数粘度が0.2dL/g以上であることを特徴とする前記項1〜4いずれかに記載のポリイミド前駆体。
【0020】
6. 得られたポリイミドの複屈折率が0.01以下であることを特徴とする前記項1〜5いずれかに記載のポリイミド前駆体。
【0021】
7. 前記項1〜6いずれかに記載のポリイミド前駆体を用いたポリイミド前駆体溶液組成物。
【0022】
8. 下記化学式(5)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を有するポリイミドであって、
このポリイミドが、厚さ10μmのフィルムでの波長400nmの光透過率が75%以上であることを特徴とするポリイミド。
【0023】
【化5】

【0024】
9. 複屈折率が0.01以下であることを特徴とする前記項8に記載のポリイミド。
【0025】
10. 前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体から得られるポリイミド、前記項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド、及び前記項8又は9に記載のポリイミドのいずれかのポリイミドを用いたポリイミド溶液組成物。
【0026】
11. 前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、前記項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、前記項8又は9に記載のポリイミド、及び前記項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて得られたポリイミドフィルム。
【0027】
12. 前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、前記項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、前記項8又は9に記載のポリイミド、及び前記項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて形成させたことを特徴とするディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板。
【0028】
13. 前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、前記項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、前記項8又は9に記載のポリイミド、及び前記項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて得られた成形品。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、優れた透明性、高耐熱性等を有するポリイミド、及びその前駆体を提供することができる。本発明のポリイミドは、特にフレキシブルなディスプレイやタッチパネルなどの表示装置において透明性基板、太陽電池用基板として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)で表される単位構造を有する。
【0031】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(1)中のXは、前記化学式(2)で表される2価の基の群から選択される2種類以上からなる。
【0032】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(2)中の左に記載の構造のRは、水素原子又は、メチル基、トリフルオロメチル基の群から選択された1種である。得られるポリイミドの熱線膨張係数が低いことから、Rは水素原子であることがより好ましい。
【0033】
特にその限りではないが、本発明のポリイミド前駆体において、前記化学式(2)中のシクロヘキサンとアミノ基の置換位置は、好ましくは50%〜100%、より好ましくは80%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%、特に好ましくは100%の1,4位置換体であることが好ましい。さらに1,4−シクロヘキサン置換体の異性体構造は、好ましくは50%〜100%、より好ましくは80%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%、特に好ましくは100%のトランス異性体からなることが好適である。1,4−シクロヘキサン置換体や、トランス配置の異性体の含有率が低下すると、ポリイミド前駆体の分子量が上がりにくく、また得られるポリイミドの熱線膨張係数が大きくなったり、着色しやすくなることがある。
【0034】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(2)中の中央に記載の構造のR、R、R、及びRは、水素原子又は、メチル基、トリフルオロメチル基の群から選択される1種である。得られるポリイミドの熱線膨張係数が低いことから、R、R、R、及びRは水素原子であることがより好ましい。
【0035】
特にその限りではないが、本発明のポリイミド前駆体において、前記化学式(2)中のベンゼンに結合しているフルオレンとアミノ基の置換位置は、好ましくは50%〜100%、より好ましくは80%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%、特に好ましくは100%の1,4位置換体であることが好ましい。1,4位置換体の含有率が低下すると、ポリイミド前駆体の分子量が上がりにくくなることがある。
【0036】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(2)中の右に記載の構造のR、及びRは、水素原子又は、メチル基、トリフルオロメチル基の群から選択された1種である。得られるポリイミドの熱線膨張係数が低いこと、また、透過率が高いことから、R、及びRはトリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0037】
特にその限りではないが、本発明のポリイミド前駆体において、前記化学式(2)中のビフェニルに結合している2つのアミノ基の置換位置は、好ましくは50%〜100%、より好ましくは80%〜100%、さらに好ましくは90%〜100%、特に好ましくは100%の4,4’位置換体であることが好ましい。4,4’位置換体の含有率が低下すると、ポリイミド前駆体の分子量が上がりにくくなることがある。
【0038】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(1)中のXは前記化学式(2)で表される2価の基であれば特に限定はなく、例えば、1,4−ジアミノシクロへキサン、1,4−ジアミノ−2−メチルシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロへキサン、1,3−ジアミノ−2−メチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロへキサン、ベンジジン、o − トリジン、m − トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3 , 3 '− ジアミノ− ビフェニル、オクタフルオロベンジジン、3 , 3 '− ジメチル− 4 , 4 '− ジアミノビフェニル、4, 4’‐(9‐ フルオレンジイル)ジアミン、3, 3’‐(9‐ フルオレンジイル)ジアミン、3, 4’‐(9‐ フルオレンジイル)ジアミン等のジアミン部分を除いた2価の基が挙げられる。これらのうち、得られるポリイミドフィルムの透明性が高く、複屈折率が低いことから、1,4−ジアミノシクロヘキサン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4, 4’‐(9‐ フルオレンジイル)ジアミンが特に好ましい。また、上記の1,4−シクロヘキサン構造を有するジアミンの1,4位の立体構造は、特に限定されないが、トランス構造であることが好ましい。シス構造では着色しやすくなるなどの不具合が生じることがある。
【0039】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上有する。前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造の含有量が減少すると得られるポリイミドの透過率が低下したり、複屈折率が大きくなることがある。
【0040】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)と前記化学式(3)で表される単位構造を有する。但し、前記化学式(1)と前記化学式(3)とは、同一ではない。
【0041】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(3)のZであるジアミン成分としては、特に限定はなく 例えば、1,4−ジアミノ−2−エチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−n−プロピルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−イソプロピルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−n−ブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−イソブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2―sec―ブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2―tert―ブチルシクロヘキサン、オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−メチレンビス(フェニレンジアミン)、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス((アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス((アミノフェニル)ヘキサフルオロ)プロパン、ビス(アミノフェニル)スルホン、ビス((アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(アミノヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス((アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、3 , 3 '− ジメトキシ− 4 , 4 '− ジアミノビフェニル、3 , 3 '− ジクロロ− 4 , 4 '− ジアミノビフェニル、3 , 3 '−ジフルオロ− 4 , 4 '− ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、4,4’−ジアミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ビス(4−アミノフェニル)エステル、p−フェニレンビス(p−アミノベンゾエート)、ビス(4−アミノフェニル)-[1,1'-ビフェニル]-4, 4'-ジカルボキシレート、[1,1'-ビフェニル]-4, 4'-ジイル ビス(4-アミノベンゾエート)等やこれらの誘導体が挙げられる。
【0042】
本発明のポリイミド前駆体のテトラカルボン酸成分としては、前記化学式(1)のテトラカルボン酸成分を構成する4,4’−(ジメチルシランジイル)ジフタル酸類が用いられる。
さらにポリイミド前駆体のテトラカルボン酸成分としては、前記化学式(1)のテトラカルボン酸成分を構成する4,4’−(ジメチルシランジイル)ジフタル酸類と、前記化学式(3)のテトラカルボン酸成分である、Yから構成される。
前記化学式(3)のテトラカルボン酸成分としては、前記化学式(4)に記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類、ピロメリット酸類、オキシジフタル酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸類、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン類などが挙げられ、より好ましくは2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類を好適に挙げることができる。
【0043】
本発明のポリイミド前駆体の前記化学式(1)、前記化学式(3)中のR、R、R10、R11は、特に限定されないが、水素原子あるいは、炭素数1〜6のアルキル基の場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基等、炭素数3〜9のアルキルシリル基の場合、トリメチルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基が挙げられる。経済性からアルキルシリル基の場合はトリメチルシリル基がより好ましい。
【0044】
さらに、前記化学式(1)のR,Rの少なくともどちらか一方が、炭素数1〜6のアルキル基もしくは、炭素数3〜9のアルキルシリル基であり、前記化学式(3)のR10、R11の少なくともどちらか一方が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜9のアルキルシリル基であることが好ましい。R、R、R10、R11の一部がアルキル基、アルキルシリル基である場合、ポリアミック酸製造時に析出などの不具合が改善されるとともに、イミド化の過程で生じる分子量低下を防ぐことができ、ポリイミドの靭性(破断伸度)が向上する。
【0045】
本発明のポリイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されないが、30℃での0.5g/dL N,N−ジメチルアセトアミド溶液における対数粘度が0.2dL/g以上、好ましくは0.5dL/g、より好ましくは1.0dL/g以上である。0.2dL/g以下では、ポリイミド前駆体の分子量が低く、得られるポリイミド膜の機械強度や耐熱性が低下する。
【0046】
本発明のポリイミド前駆体は、R、R、R10、及びR11が取る化学構造に従って、1)ポリアミド酸(R、R、R10、及びR11が水素)、2)ポリアミド酸エステル(R、Rの少なくとも一部、もしくはR10、R11の少なくとも一部がアルキル基)、3)4)ポリアミド酸シリルエステル(R、Rの少なくとも一部、もしくはR10、R11の少なくとも一部がアルキルシリル基)に化学構造として分類することができる。そして前記分類ごとに、以下の製造方法により容易に製造することができる。ただし、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、以下の製造方法に限定されるわけではない。
【0047】
1)ポリアミド酸
本発明のポリイミド前駆体は、溶媒中でテトラカルボン酸成分としてのテトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを略等モル、好ましくはテトラカルボン酸成分に対するジアミン成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05の割合で、例えば120℃以下の比較的低温度でイミド化を抑制しながら反応することによって、ポリイミド前駆体溶液組成物として好適に得ることができる。
【0048】
限定するものではないが、より具体的には、有機溶剤にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃、好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。上記製造方法でのジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序は、ポリイミド前駆体の分子量が上がりやすいため、好ましい。また、上記製造方法のジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序を逆にすることも可能であり、析出物が低減することから、好ましい。
【0049】
また、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比がジアミン成分過剰である場合、必要に応じて、ジアミン成分の過剰モル数に略相当する量のカルボン酸誘導体を添加し、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を略当量に近づけることができる。ここでのカルボン酸誘導体としては、実質的にポリイミド前駆体溶液の粘度を増加させない、つまり実質的に分子鎖延長に関与しないテトラカルボン酸、もしくは末端停止剤として機能するトリカルボン酸とその無水物、ジカルボン酸とその無水物などが好適である。
【0050】
2)ポリアミド酸エステル
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールと反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを−20〜120℃、好ましくは−5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。
【0051】
この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加えて再沈殿などの精製を行うこともできる。
【0052】
3)ポリアミド酸シリルエステル(間接法)
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る。必要に応じて、蒸留等により、シリル化されたジアミンの精製を行う。そして、脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃、好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0053】
ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0054】
また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0055】
4)ポリアミド酸シリルエステル(直接法)
1)の方法で得られたポリアミド酸溶液とシリル化剤を混合し、0〜120℃、好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0056】
ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0057】
5)部分イミド化ポリイミド前駆体
あらかじめテトラカルボン酸誘導体とジアミン誘導体を反応、イミド化させ、末端基がテトラカルボン酸誘導体、もしくはジアミン誘導体としたイミド基含有モノマーもしくはオリゴマーを用いて、上記1)〜4)の前駆体をそれぞれの方法で得ることができる。
【0058】
また、前記製造方法は、いずれも低温で有機溶媒中にて好適に行なうことができるので、その結果として、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を容易に得ることができる。
【0059】
これらの製造方法においては、いずれも、テトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比は、必要とするポリイミド前駆体の粘度により任意に設定できるが、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05である。
含み、前記製造方法の原料として好適な化学構造の化合物として用いられる。
【0060】
前記製造方法で使用する有機溶媒は、具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0061】
本発明の製造方法において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比がジアミン成分過剰である場合、必要に応じて、過剰ジアミン分のモル数に概略相当する量のカルボン酸誘導体を添加し、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を当量に近づけることができる。ここでのカルボン酸誘導体としては、実質的にポリイミド前駆体溶液の粘度を増加させない(つまり実質的に分子鎖延長に関与しない)テトラカルボン酸もしくは、末端停止剤として機能するトリカルボン酸とその無水物、ジカルボン酸とその無水物である。
【0062】
テトラカルボン酸誘導体としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、トリカルボン酸としては、トリメリット酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸と、これらの酸無水物、ジカルボン酸としては、フタル酸、テトラハイドロフタル酸、シス−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、マレイン酸と、これらの酸無水物を挙げることができる。これらのカルボン酸誘導体を用いることで、加熱時の熱着色、熱劣化を防止できることがある。特に、ビフェニルテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸誘導体や、反応性官能基を有するカルボン酸誘導体は、イミド化する際反応し、耐熱性を向上させることができるため、好ましい。
【0063】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも本発明のポリイミド前駆体と溶媒とからなり、溶媒とテトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量に対して、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量が5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上の割合であることが好適である。なお、通常は60質量%以下、好ましくは50質量%以下であることが好適である。5質量%以下であると得られるポリイミドフィルムの膜厚の制御が難しくなることがある。
【0064】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物に用いる溶媒としては、ポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造には限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。また、これらを複数組み合わせて使用することもできる。
【0065】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、無機顔料、シランカップリング剤、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などを添加することができる。
【0066】
本発明のポリイミドは、本発明のポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、化学イミド化方法を適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミド積層体、粉末、ビーズ、成型体、発泡体およびワニスなどを好適に挙げることができる。
【0067】
以下では、本発明のポリイミドフィルム、及びそれを基板に積層した基板積層体の製造方法について述べる。ただし、以下の方法に限定されるものではない。
例えばセラミック(ガラス、シリコン、アルミナ)、金属(銅、アルミニウム、ステンレス)、耐熱プラスチックフィルム(ポリイミド)などの基板に、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を流延し、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、20〜180℃、好ましくは20〜150℃で乾燥する。次に得られたポリイミド前駆体を基板上で、もしくはポリイミド前駆体(フィルム)を剥離し、そのフィルム端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200〜500℃、より好ましくは250〜450℃で加熱することでポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。得られるポリイミドが酸化劣化するのを防ぐため、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましい。イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なっても差し支えない。
【0068】
またイミド化反応は、前記のような熱処理に代えて、ポリイミド前駆体をピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめ、ポリイミド前駆体溶液組成物中に投入・攪拌し、それを基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体を作製することもでき、これを更に前記のようにして熱処理することでもポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを得ることができる。
【0069】
ここで、前記ポリイミド/基板積層体を用いた積層体の製造方法の一例を説明すると、ポリイミド前駆体溶液組成物を、ガラス基板、セラミック基板、金属基板、或いは耐熱性プラスチック基板へ塗布し、真空中、窒素もしくは空気中で、200〜500℃まで加熱してイミド化し、ポリイミド/基板積層体を製造する工程と、基板よりポリイミドを剥離せずに、得られた積層体のポリイミド表面にセラミック薄膜もしくは金属薄膜を形成させ、薄膜/ポリイミド/基板積層体を製造する工程と、その後必要に応じて、基板よりポリイミドを剥離する工程を具備してなる。基板よりポリイミドを剥離せずに、ポリイミド/基板積層体の状態で、スパッタ蒸着などによって前記薄膜を形成するなどの、その後の加工に用いることで、経済的であり、搬送性が良好であり、寸法安定性や加工時の高い寸法精度を得ることができる。
【0070】
本発明のポリイミドは、膜厚10μmのフィルムにしたとき、400nmにおける光透過率が75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0071】
本発明のポリイミドは特に限定されないが、フィルム厚み方向の複屈折率が好ましくは0.01以下、より好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.003以下である。複屈折率が低いことで画像のぼやけがなくなり、高精細な画像を表示することができる。
【0072】
本発明のポリイミドからなるフィルムは、用途にもよるが、フィルムの厚みとしては1μm〜200μm程度が好ましく、さらには1μm〜100μm程度が好ましい。
【0073】
本発明のポリイミドは、特に限定されないが、優れた透明性を有する、またさらに低複屈折率を有する特性から、このポリイミドを主たる基材としたディスプレイ用透明基板、又はタッチパネル用透明基板、太陽電池用基板として好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0076】
ポリイミド前駆体の評価
[固形分濃度]
アルミシャーレにポリイミド前駆体組成物1gを量り取り、200℃の熱風循環オーブン中で2時間加熱して固形分以外を除去し、その残分の質量より固形分濃度(質量%)を求めた。
[対数粘度]
0.5g/dL ポリイミド前駆体のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定し、対数粘度を求めた。
【0077】
ポリイミドフィルムの評価
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚約10μmのポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率を測定した。
[弾性率、破断伸度、破断強度]
ポリイミドフィルムをIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度、破断強度を測定した。
[屈折率]
ATAGO製DR−M2を用いて、D線(589nm)でポリイミドフィルムの屈折率を測定した。なお、測定は、23℃、50%RHで行った。
[複屈折率]
王子計測機器製KOBRA−WRを用いて、波長590nmにおけるポリイミドフィルムの面内屈折率(nTE)、面外屈折率(nTM)を測定し、nTE − nTM
を複屈折率とした。なお、測定は、23℃、50%RHで行った。
【0078】
表1に実施例、比較例で使用したテトラカルボン酸成分、ジアミン成分の構造式を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
〔実施例1〕
反応容器中にトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(以下、t−DACHと略記することもある)1.20g(0.0105モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略記することもある)27.8gに溶解した。この溶液に4,4’−(ジメチルシランジイル)ジフタル酸二無水物(以下、DPSDAと略記することもある)3.70g(0.0105モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0081】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0082】
〔実施例2〕
反応容器中にt−DACH 1.00g(0.009モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 30.5gに溶解した。この溶液にDPSDA 2.86g(0.0081モル)と2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、i−BPDAと略記することもある)0.27g(0.0009モル)とを徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0083】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0084】
〔実施例3〕
ジアミン成分、カルボン酸成分を表1に記載したモル量、以外は、実施例3と同様にして、ポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムを得た。このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0085】
〔実施例4〕
反応容器中にt−DACH 1.05g(0.0092モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 30.70gに溶解した。この溶液に DPSDA 2.93g(0.0083モル)を徐々に加え、25℃で72時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。この溶液にピロメリット酸二無水物(以下、PMDAと略記することもある)0.20g(0.0009モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0086】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0087】
〔実施例5〕
反応容器中に、4,4‘−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBと略記することもある)3.20g (0.01モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 26.9gに溶解した。この溶液にDPSDA 3.52g(0.01モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0088】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0089】
〔実施例6〕
反応容器中に、t−DACH 0.57g(0.005モル)と TFMB 1.60g(0.005モル) を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 22.8gに溶解した。この溶液にDPSDA 3.52g(0.01モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0090】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0091】
〔実施例7〕
反応容器中に、4, 4’‐(9‐ フルオレンジイル)ジアミン(以下、FDAと略記することもある) 1.74g(0.005モル)と TFMB 1.60g(0.005モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 20.6gに溶解した。この溶液にDPSDA 3.52g(0.01モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0092】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0093】
〔実施例8〕
反応容器中に、FDA 1.05g(0.005モル)と TFMB 2.24g(0.007モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 27.2gに溶解した。この溶液にDPSDA 3.52g(0.01モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0094】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0095】
〔比較例1〕
反応容器中にt−DACH 7.00g(0.0613モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 183.57gに溶解した後、この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある) 18.03g(0.0613モル)を徐々に加え、120℃まで加熱し、5分程度で塩が溶解し始めたのを確認した後、25℃まで急冷し、そのまま25℃で8時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0096】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0097】
〔比較例2〕
反応容器中に4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと略記することもある)1.20g(0.0060モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したDMAc 18.77gに溶解した後、この溶液にDPSDA 2.11g(0.0060モル)を徐々に加え、25℃で24時間撹拌した。均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0098】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで最終的に350℃まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明な膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示した結果から分かるとおり、本発明のポリイミドは比較例1、2に比べて優れた光透過性を有している。また、実施例1、5〜8については高い透明性だけでなく、低い複屈折率をも有している。
【0101】
本発明によって、優れた透明性、高耐熱性を有するポリイミド、またさらに低複屈折率を有するポリイミドを提供することができる。本発明のポリイミドは、特にフレキシブルなディスプレイやタッチパネルなどの表示装置において透明性基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)中のXが下記化学式(2)で表される群から選択される下記化学式(1)の単位構造を有するポリイミド前駆体であって、
このポリイミド前駆体から得られるポリイミドが、厚さ10μmのフィルムでの波長400nmの光透過率が75%以上であることを特徴とするポリイミド前駆体。
【化1】

〔式(1)中、R、Rはいずれも独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数3〜9のアルキルシリル基を表す。〕
【化2】


〔式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される1種以上を示す。〕
【請求項2】
前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を2種以上有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を50モル%以上有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
前記化学式(1)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される前記化学式(1)中の単位構造を70モル%以上、下記化学式(3)で表される単位構造を30モル%以下有することを特徴とする請求項3に記載のポリイミド前駆体。
【化3】


〔式(3)中、Zは2価の基を表し、R10、R11はいずれも独立に、水素原子又は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜9のアルキルシリル基であり、Yは下記化学式(4)の構造の4価の基を表す。〕
【化4】

【請求項5】
30℃、0.5g/dLのN,N−ジメチルアセトアミド溶液における対数粘度が0.2dL/g以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項6】
得られたポリイミドの複屈折率が0.01以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のポリイミド前駆体。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載のポリイミド前駆体を用いたポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項8】
下記化学式(5)中のXが前記化学式(2)で表される群から選択される単位構造を有するポリイミドであって、
このポリイミドが、厚さ10μmのフィルムでの波長400nmの光透過率が75%以上であることを特徴とするポリイミド。
【化5】

【請求項9】
複屈折率が0.01以下であることを特徴とする請求項8に記載のポリイミド。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体から得られるポリイミド、請求項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド、及び請求項8又は9に記載のポリイミドのいずれかのポリイミドを用いたポリイミド溶液組成物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、請求項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、請求項8又は9に記載のポリイミド、及び請求項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて得られたポリイミドフィルム。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、請求項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、請求項8又は9に記載のポリイミド、及び請求項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて形成させたことを特徴とするディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体、請求項7に記載のポリイミド前駆体溶液組成物、請求項8又は9に記載のポリイミド、及び請求項10に記載のポリイミド溶液組成物のいずれかを用いて得られた成形品。

【公開番号】特開2013−28796(P2013−28796A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135645(P2012−135645)
【出願日】平成24年6月15日(2012.6.15)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】