説明

ポリエステル系樹脂と有機短繊維との熱可塑性樹脂組成物・成形体

【課題】 芳香族ポリエステル系樹脂において、弾性率の低下を起こしやすいゴム系の耐衝撃改良材を用いることなく、軽量と耐衝撃性を両立できる材料を提供すること。
【解決手段】 本発明は、ポリエステル系樹脂(1)、及び有機短繊維(2)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、上記ポリエステル系樹脂(1)が、芳香族ポリエステル系樹脂(A)を50〜100重量%含有するものであり、上記芳香族ポリエステル系樹脂(A)が、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールなどを構成成分とするものであり、上記ポリエステル系樹脂(1)が、DSC測定した場合の融点のうち最も高温側のピークトップが220℃以下のものであり、熱可塑性加工で製造されることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂と有機短繊維との熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂とガラス短繊維との組成物・成形体が、樹脂をガラス繊維で補強することで機械物性などを向上させられるため、各種用途に多用されている。このようなガラス繊維補強熱可塑性樹脂成形体を成形する方法としては、通常、ガラス繊維を集束剤で集束後カットして集束糸とし、さらに該集束糸と熱可塑性樹脂とをコンパウンドし、加熱加圧して成形する方法(特許文献1)、ガラス繊維を熱可塑性樹脂で被覆する方法(特許文献2)、ガラス繊維糸で形成された織物と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に積層し、加熱加圧して成形する方法等が行われている。しかしながら、これらガラス繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体は、ガラスの比重が樹脂のそれよりも高いために、ガラス繊維の配合量に応じて成形体の比重が高くなってしまうことが問題となり、また、無機物であるガラス繊維が樹脂のマテリアルリサイクル性に影響を及ぼすこと、廃棄・焼却する際に残存するガラス繊維が影響を及ぼすことなどが懸念される。
【0003】
上記したような問題意識から、ガラス繊維の代替として、有機繊維の短繊維を用いる方法が提案されている。有機繊維を集束剤で集束し、これをカットして集束短繊維として、熱可塑性樹脂とコンパウンドして、繊維補強熱可塑性樹脂成形体を製造する方法が用いられているが、この手法では、ポリプロピレン樹脂と有機繊維の組み合わせでは可能なものの、ポリエステル樹脂を考えた場合には不十分であった。すなわち、ポリエステル樹脂の加工温度が、有機繊維の融点・熱劣化温度を超えている・超えていなくても極めて隣接しているなどの理由で、短繊維をポリエステル樹脂に分散させることは困難であった。
【0004】
また、プルトルージョンプロセスを用いて、多数本の補強用連続繊維に、溶融した樹脂を含浸させ、ペレット化することで、繊維が連続して一方向に配列した長繊維ペレットを作成し、それを成形する方法が提案されている。この場合、汎用の押出機がそのままでは使えず、専用の設備が必要となるなど、プロセスが煩雑となり、それがコストアップにつながること、また繊維が徐々に切断されることによるロングラン性が問題となるなど、トータルで見たバランスは不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7 − 2 5 1 4 3 7 号公報
【特許文献2】特開平9 − 2 6 7 3 2 7 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するため、すなわち、汎用の押出機を用いて、生産性良く製造可能であり、なおかつ射出成形可能な繊維補強樹脂組成物(ペレット)、それを射出成形して得られる熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、補強繊維としてポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアミド繊維などからなるフィラメントを用い、特定のポリエステル樹脂を用いることで、汎用の押出機でも繊維の特性を失わずにコンパウンドできること、およびそれにより射出成形材料として優れた特性を備えていることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の通りである。
【0008】
1)ポリエステル系樹脂(1)、及び有機短繊維(2)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記ポリエステル系樹脂(1)が、
芳香族ポリエステル系樹脂(A)を50〜100重量%含有するものであり、上記芳香族ポリエステル系樹脂(A)が、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とし、かつ、ポリエーテルおよびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなる群より選択される少なくともひとつを構成成分とし、
さらに上記ポリエステル系樹脂(1)が、DSC測定した場合の融点のうち最も高温側のピークトップが220℃以下のものであり、
上記有機短繊維(2)が、ポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、ポリアリーレンスルフィド系繊維、ポリアミド系繊維、からなる群より選択される少なくとも1種類の繊維であり、
(1)と(2)との重量比が、(1):(2)=99重量部:1重量部〜50重量部:50重量部の範囲であり、
熱可塑性加工で製造されることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
2)有機短繊維(2)が、15mm以下の短繊維であることを特徴とする、上記1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
3)熱可塑性加工が、単軸もしくは二軸押出機によるものであることを特徴とする、上記1)または2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
4)上記1)〜3)のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、樹脂(1)と繊維(2)を押出機に投入して溶融混練させ、押出機から排出されたストランドを、ペレタイザーで10mm未満の長さにカットすることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0012】
5)上記4)に記載の組成物の製造方法であって、
樹脂(1)を、押出機の主フィーダーから投入し、繊維(2)の一部および全部を押出機の途中に設けたサイドフィーダーから投入して溶融混練させることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリエステル系樹脂(1)、及び有機短繊維(2)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記ポリエステル系樹脂(1)が、
芳香族ポリエステル系樹脂(A)を50〜100重量%含有するものであり、上記芳香族ポリエステル系樹脂(A)が、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とし、かつ、ポリエーテルおよびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなる群より選択される少なくともひとつを構成成分とし、
さらに上記ポリエステル系樹脂(1)が、DSC測定した場合の融点のうち最も高温側のピークトップが220℃以下のものであり、
上記有機短繊維(2)が、ポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、ポリアリーレンスルフィド系繊維、ポリアミド系繊維、からなる群より選択される少なくとも1種類の繊維であり、
(1)と(2)との重量比が、(1):(2)=99重量部:1重量部〜50重量部:50重量部の範囲であり、
熱可塑性加工で製造されることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物である。
【0014】
ここで本発明におけるポリエステル系樹脂(1)とは、一般的には主鎖中にエステル結合を有する繰り返し単位を持つ重合体を言うが、本発明においては、後述の芳香族ポリエステル系樹脂、を主成分とする樹脂をいう。また本発明における芳香族ポリエステル系樹脂とは、一般的には、主鎖中に、芳香族基を含むエステル結合を有する繰り返し単位を持つ重合体をいうが、本発明においては、特定の芳香族ポリエステル樹脂、および特定の物理的性質改善成分を必須成分とする樹脂をいう。また本発明における熱可塑性加工とは、組成物としたい樹脂およびその他の成分を、その成分である樹脂の融点もしくはガラス転移点以上に加熱し、溶融混練もしくは混練を伴わない溶融のみにて組み合わせるプロセスを言う。
【0015】
本発明において融点を測定する際のDSC測定の条件は、以下の通りである。
示差走査熱量計を用いて、開始温度30℃、終了温度295℃もしくは325℃、加熱速度10℃/min、窒素雰囲気30mL/min、サンプル重量3〜4mg、アルミパンの条件で実施した。
【0016】
(ポリエステル系樹脂(1))
本発明に係るポリエステル系樹脂(1)は、DSC測定した場合の融点のうち最も高温側のピークトップが220℃以下であることを要する。繊維複合とするための加工性・適切な加工温度領域、樹脂と繊維との密着性と、それらによる優れた衝撃強度を得る観点から、その全体量を100重量として、芳香族ポリエステル系樹脂(A)50〜100重量部、及びそれ以外の樹脂など(B)50〜0重量部を含む。
【0017】
(DSC)
チャートに出力された吸熱ピークのうち、樹脂に相当するピークが1つである場合にはその温度が、2つ以上のピークを認める場合には最も高温側のピークの温度が、220℃以下であることを要する。このピーク温度は、静的な状態での結晶融解のひとつの指標ではあるが、想定される加工温度と密接に関連していることが判っている。このピーク温度が240℃以上である場合には、一般的な有機繊維であるポリエチレンテレフタレート系繊維の形状と性質を維持しながら(1)との組成物とすることが事実上不可能であり、ピーク温度が230℃以上である場合には、(1)との組成物とすることが不可能とまでは言えないまでも、困難である。
【0018】
(芳香族ポリエステル系樹脂(A))
本発明に係る芳香族ポリエステル系樹脂(A)は、所定の加工性・加工温度領域などを得る観点から、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールを第一の必須構成成分(A1)とし、かつ、ポリエーテルおよびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなる群より選択される少なくともひとつの成分とを第二の必須構成成分(A2)として、共重合されてなることを要する。
【0019】
前記A1:A2の重量比は、前述した加工性と、樹脂の本来有する剛性・結晶性とのバランスから、以下のように定められる。
【0020】
A2がポリエーテルの場合には、A1:A2の重量比が99:1〜40:60であり、90:10〜50:50が好ましく、80:20〜60:40がより好ましい。A2が1重量%未満の場合には、所定の加工性・加工温度領域などを得ることが著しく困難となる。A2が60重量%を超える場合は、芳香族ポリエステル樹脂が本来有する剛性が著しく損なわれる。
【0021】
A2がテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の場合には、A1:A2の重量比が99:1〜60:40であり、95:5〜70:30が好ましく、90:10〜75:25がより好ましい。A2が1重量%未満の場合には、所定の加工性・加工温度領域などを得ることが著しく困難となる。A2が40重量%を超える場合は、芳香族ポリエステル樹脂が本来有する結晶性が著しく損なわれる。
【0022】
共重合の形式としては、所定の目的を達成できるのであるならば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合を問わないが、製造上などの観点から、以下のように好ましく例示される。
【0023】
A2がポリエーテルの場合には、前記ポリエーテルのブロックと、テレフタル酸とエチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とするポリエステルのブロックがブロック共重合であること。
【0024】
A2がテレフタル酸以外のジカルボン酸の場合には、前記ジカルボン酸とエチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とするポリエステルと、テレフタル酸とエチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とするポリエステルが、ランダム共重合もしくはブロック共重合であること。
【0025】
A2としては、前出の構成成分のうち、1つの成分でもよく、2つ以上の成分を併用しても良い。前者の場合、この1つの成分が異なった種類のポリエステルに含有されたものをブレンドしてあってもよい。後者の場合、A2のそれぞれの成分は、同一のポリマーに含まれていてもよく、別々のポリマーに含まれていてもよい。
【0026】
たとえば、前者の場合、ポリエーテルとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体と、ポリエーテルとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体をブレンドしても良いし、異種酸共重合ポリエチレンテレフタレートと異種酸共重合ポリブチレンテレフタレートをブレンドしても良い。また、後者の場合のうち、A2のそれぞれの成分が同一のポリマーに含まれている場合をあげると、ポリエーテルブロックと、異種酸が共重合されているポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体であっても良いし、ポリエーテルブロックと、異種酸が共重合されているポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体であっても良い。さらに、後者の場合のうち、A2のそれぞれの成分が別々のポリマーに含まれている場合をあげると、ポリエーテルとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体と、異種酸共重合ポリエチレンテレフタレートをブレンドしても良いし、ポリエーテルとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体と、異種酸共重合ポリブチレンテレフタレートをブレンドしても良いし、ポリエーテルとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体と、異種酸共重合ポリエチレンテレフタレートをブレンドしても良いし、ポリエーテルとポリブチレンテレフタレートのブロック共重合体と、異種酸共重合ポリエチレンテレフタレートをブレンドしても良い。
【0027】
(第一の必須構成成分(A1))
芳香族ポリエステル系樹脂(A)における第一の必須構成成分(A1)は、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールである。これは、以下の全てのいずれであっても良く、組み合わせであっても良い。
A1−1:ポリエチレンテレフタレート、すなわち、酸成分としてのテレフタル酸またはエステル形成能を有するその誘導体と、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とからなる、芳香族飽和ポリエステル。
A1−2:ポリブチレンテレフタレート、すなわち、酸成分としてのテレフタル酸またはエステル形成能を有するその誘導体と、テトラメチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とからなる、芳香族飽和ポリエステル。
A1−3:前記ポリエチレンテレフタレートと前記ポリブチレンテレフタレートの共重合体、すなわち、酸成分としてのテレフタル酸またはエステル形成能を有するその誘導体と、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体と、テトラメチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とからなる、芳香族飽和ポリエステル。この共重合の形式は、ブロック共重合、ランダム共重合、その他の共重合を問わない。
A1−4:前記ポリエチレンテレフタレートと前記ポリブチレンテレフタレートの混合物。
【0028】
(第二の必須構成成分(A2))
芳香族ポリエステル系樹脂(A)における第二の必須構成成分(A2)は、ポリエーテル、テレフタル酸以外のジカルボン酸である。
(ポリエーテル(A2−1))
ポリエーテルとは、下記一般式で表わされるポリアルキレングリコールを指す。
HO(RO)−OH
(式中、RはC2〜C4のアルキレン基、kは4〜100の整数である。)
このポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラメチレンオキシド等が挙げられる。
【0029】
このポリアルキレングリコールの連鎖数は、4〜100であるが、A1とA2−1が均一になってしまうことを避けるために、6以上であることが好ましく、8以上であることがさらに好ましく、10以上であることがよりさらに好ましく、12以上であることが最も好ましい。また、入手性やコストの観点から、80以下であることが好ましく、60以下であることがさらに好ましく、40以下であることがよりさらに好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0030】
このポリアルキレングリコールは、鎖の剛直性を高めるため、下記一般式で表わされるように、特定の炭化水素基を含んでいても良い。
HO(RO)−X−(OROH
(式中、Xは芳香族を主鎖に含有する2価の結合基を表わし、R1、R2は同一または異なって、それぞれC2〜C4のアルキレン基、m、nは、それらの合計として4〜100の整数である。)
このポリアルキレングリコールの連鎖数は、4〜100であるが、同様の理由により、6以上であることが好ましく、8以上であることがさらに好ましく、10以上であることがよりさらに好ましく、12以上であることが最も好ましい。また、80以下であることが好ましく、60以下であることがさらに好ましく、40以下であることがよりさらに好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0031】
さらに具体的には、下記一般式で表わされるポリアルキレングリコールであることが好ましい。
HO(RO)−Ar−X−Ar−(OROH
(式中、Arは芳香族基、Xは−C(CH3)2−基、−SO2−基、−CO−基、−S−基、および−O−基からなる群より選択される2価の結合基を表わし、R3、R4は同一または異なって、それぞれC2〜C4のアルキレン基、p、qは、それらの合計として4〜100の整数である。)
このポリアルキレングリコールの連鎖数は、4〜100であるが、同様の理由により、6以上であることが好ましく、8以上であることがさらに好ましく、10以上であることがよりさらに好ましく、12以上であることが最も好ましい。また、80以下であることが好ましく、60以下であることがさらに好ましく、40以下であることがよりさらに好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0032】
このポリアルキレングリコールの具体例としては、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのテトラメチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールSのテトラメチレンオキシド付加物、その他のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0033】
すでに述べたように、前記ポリエステル(A1)と、前記ポリエーテル(A2−1)は、ブロック共重合体であることが例示される。このブロック共重合体は、公知の方法で得ることができる。例えば、前記ポリエステルのオリゴマーと前記ポリエーテルとを、1Torr以下の真空下、260℃で共重合して得ることができる。
【0034】
(テレフタル酸以外のジカルボン酸(A2−2))
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、たとえば、フタル酸、イソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸;脂肪族ジカルボン酸、たとえば、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等がある。
【0035】
すでに述べたように、前記ポリエステル(A1)と、前記ジカルボン酸(A2−2)は、ランダム共重合体もしくはブロック共重合体であることが例示される。このランダム共重合体は、公知の方法で得ることができる。例えば、前記ポリエステルの製造時に、所定量の前記ジカルボン酸を投入して共重合させることで得ることができる。
【0036】
(それ以外の成分)
Aには、A1およびA2以外の成分として、20%以下の他の成分を含んでいてもよい。たとえば、グリコール成分を含んでもよく、その具体例としては、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール等がある。
【0037】
(芳香族ポリエステル系樹脂以外の樹脂など(B))
本発明に係る芳香族ポリエステル系樹脂以外の樹脂など(B)は、芳香族ポリエステル系樹脂(A)単独では所望の性質、たとえば、所定の加工性・適切な加工温度領域、樹脂と繊維との密着性と、それらによる優れた衝撃強度などが不足する場合に、それらを補助する目的で使用される。
【0038】
所定の加工性が不足する場合、および加工温度領域が高すぎる場合には、(A)の融点温度を基準として、それよりも低融点の結晶性樹脂またはゴム、低ガラス転移点の非晶性樹脂またはゴム、が好ましく例示される。前者の場合は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの結晶性ポリオレフィン、ナイロン11、ナイロン12などの結晶性ポリアミド、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマーなどの結晶性ゴム、が例示される。後者の場合は、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル−スチレンなどの非晶性スチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン−メタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル−スチレンなどの非晶性アクリル系樹脂、ポリエチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレン−酢酸ビニルなどの非結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエンなどのポリオレフィン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー系ゴム、などが例示される。
【0039】
(有機短繊維(2))
本発明に係る有機短繊維(2)は、ポリエステル系繊維(C)、ビニロン系繊維(D)、ポリアリーレンスルフィド系繊維(E)、ポリアミド系繊維(F)、からなる少なくとも1種類の繊維である。
【0040】
有機短繊維(2)には、その1種類が含まれていてもよく、2種類以上が任意の組み合わせ及び比率で含まれていてもよい。
【0041】
有機短繊維(2)の長さは、あらかじめ15mm以下にカットされていることが例示される。長さの下限は特に限定されないが、3〜15mmであることが好ましく、より好ましくは4〜12mmである。
【0042】
有機短繊維の繊維径は太すぎると衝撃強度が低下する傾向がある。また細すぎると成形品表面の凹凸が小さくなり外観が向上する一方で原料コストが割高になる傾向がある。したがって、有機短繊維の単糸繊度は1dtex以上が好ましく、また20dtex以下が好ましく、15dtex以下とすることがより好ましい。
【0043】
有機短繊維(2)は、形態的には連続繊維であれば、フィラメント糸を多数に集束して形成された繊維束、あるいは撚りを加えたヤーンであってもよい。補強繊維束を構成する補強繊維の繊維径、フィラメント本数は特に限定されないが、繊維径は3〜200μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μmであり、一方フィラメント本数は500〜10000本であることが好ましく、より好ましくは500〜4000本である。
【0044】
(ポリエステル系繊維(C))
PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維及びPEN(ポリエチレンナフタレート)繊維がより好ましい。代表的なPET繊維として、例えば融解温度267℃で、ガラス転移温度67℃のPET繊維等が挙げられ、同様に代表的なPEN繊維として、例えば融解温度283℃、ガラス転移温度113℃のPEN繊維等が挙げられる。
【0045】
(ビニロン系繊維(D))
ビニロン繊維の製法は特に限定されないが、ポリビニルアルコール系ポリマーを水または有機溶剤に溶解して調製した紡糸原液を用いて、ポリビニルアルコールに対して固化能を有する水または有機溶媒を含有する固化浴に湿式紡糸方法または乾湿式紡糸方法にて繊維を製造するのが好ましい。なお、湿式紡糸方法とは、紡糸口金から直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、一方乾湿式紡糸方法とは、紡糸口金から一旦空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法のことである。
【0046】
ビニロン繊維の構成は特に限定されないが、機械的特性、耐熱性等の点からは平均重合度1000以上さらに1200以上であるのが好ましく、5000以下、特に4000以下であるのが好ましい。また同理由からケン化度は99モル%以上、特に99.8モル%以上であるのが好ましい。繊維を構成するビニルアルコール系ポリマーは他の成分により変性されていたり、共重合されていてもよい。
【0047】
(滑剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、滑剤を用いることができる。本発明において用いられる滑剤は特に限定されず、例えば、脂肪族炭化水素、脂肪族系アルコール、脂肪酸、脂肪酸アミド、金属石けん、脂肪酸エステル(多価アルコールの脂肪酸部分エステルを含む)、シリコーンオイルがあげられる。
【0048】
脂肪族炭化水素の滑剤としては、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)、ポリエチレンワックス、およびこれらの部分酸化物、フッ化物、塩化物など等があげられる。
【0049】
脂肪族系アルコールの滑剤としては、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、混合脂肪族アルコール等があげられる。
脂肪酸の滑剤としては、ラウリン酸、ステアリン酸、混合脂肪酸(牛脂、魚油、ヤシ油、大豆油、ナタネ油、米ヌカ油などからの脂肪酸)などがあげられる。
【0050】
脂肪酸アミドの滑剤としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等があげられる。
脂肪酸エステル(多価アルコールの脂肪酸部分エステルを含む)の滑剤としては、モンタン酸エステル、オレイン酸ブチル、ブチルステアレート、硬化ヒマシ油、エチレングリコールモノステアレート、モノオレイン酸グリセリン、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート等があげられる。
【0051】
金属石鹸の滑剤としては、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等があげられる。
【0052】
シリコーンオイルの滑剤としては、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンオイルがあげられ、さらにそのシリコーンのオイルのうち、カルボン酸基を含有するシリコーンオイル、水酸基を含有するシリコーンオイル等の変性シリコーンオイルがあげられる。
【0053】
(紫外線吸収剤)
耐候性をさらに向上させる観点から、本発明の熱可塑性樹脂組成物に紫外線吸収剤を、その成形体の全光線透過率に影響を及ぼさない量、添加することが好ましい。
【0054】
前記紫外線吸収剤としては、その紫外線吸収能の観点から、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、及びベンゾフェノン系の紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0055】
前記ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤の例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−sec−ブチル−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕、2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられ、前記ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤の例としては、2−ヒドロキシ−4−フェニルメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドレイトベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−フェニルプロポキシベンゾフェノン等が挙げられ、トリアジン系の紫外線吸収剤としては、2−(4,6ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0056】
(光安定剤)
耐候性をさらに向上させる観点から、本発明の熱可塑性樹脂組成物に光安定剤を、添加するのが好ましい。
【0057】
前記光安定剤としては、特に限定されず公知の光安定剤が使用できるが、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ドデシルコハク酸イミド、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルベンゾエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリル酸エステル、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルメチル)マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1−[(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジメチル縮合物、2−tert−オクチルアミノ−4,6−ジクロロ−s−トリアジン/N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン縮合物、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン/ジブロモエタン縮合物、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−tert−オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物などを挙げることができる。
【0058】
(リン系安定剤)
加工時の熱劣化を防止させる観点から、本発明の熱可塑性樹脂組成物にリン系安定剤を添加するのが好ましい。
【0059】
前記リン系安定剤としては、特に限定されず公知の安定剤が使用できるが、例えば、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエテル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミンが好ましく用いられる。
【0060】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、各種の酸化防止剤、カーボンブラック以外の着色剤を添加することができる。
【0061】
(製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常、単軸もしくは二軸押出機により、熱可塑性加工をおこなう。
【0062】
例えば、樹脂(1)と繊維(2)を押出機に投入して溶融混練させ、押出機から排出されたストランドを、ペレタイザーで10mm未満の長さにカットする製造方法を挙げることができる。また、樹脂(1)およびその他の添加剤を、押出機の主フィーダーから投入し、繊維(2)の一部および全部を押出機の途中に設けたサイドフィーダーから投入して溶融混練させる製造方法を挙げることができる。
【実施例】
【0063】
つぎに具体的な実施例に基づいて本発明を説明するが、これらはいずれも例示的なものであり、本発明の内容を限定するものではない。
【0064】
(製造例:変性PBTの製造)
特開2010−254739に従って、樹脂としてPBT(ポリブチレンテレフタレート、ジュラネックス5009L、ポリプラスチックス(株))、ポリエーテルとして主鎖にビスフェノールA単位を含有するポリエチレングリコール(ビスオール18EN、東邦化学(株))、安定剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャリティーケミカルズ)、を用いて製造した。すなわち、攪拌機、ガス排出出口を備えた反応器に、上記のPBT、上記の安定剤、上記のポリエチレングリコールとを、それぞれ、69.4wt%、0.4wt%、30wt%の仕込み比で投入し、270℃で2時間保持した後、真空ポンプで減圧し、1torrで3時間保持した後、生成物を取り出し、更に、水槽で冷却したストランドを粉砕器に投入してペレット化する事で、標記の共重合体(変性PBT−X)を得た。
【0065】
(原材料)
樹脂
・変性PBT(変性PBT−X)〔ポリエーテル共重合ポリブチレンテレフタレート(上記製造例に従って製造)〕
DSCピーク=200℃・211℃、MFR値=0.2(210℃)・49(215℃)
・変性PET〔異種酸共重合ポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸以外のカルボン酸を意図的に共重合させることで融点を下げた変性PET、FGS−10、(株)ベルポリエステルプロダクツ)〕
DSCピーク=213℃、MFR値=2(220℃)・13(230℃)
繊維
・PET短繊維〔衣料用ポリエステル繊維(商品名「エステルセンイ」、サンヨー化成(株))1.5デニール相当(換算繊維径約15μm)〕
カット長さL=5mm
・ビニロン短繊維〔産業用ビニロン繊維(ユニチカ(株)) 2500T−AB−P100(換算繊維径約26μm)〕
カット長さL=6mm
・PPS短繊維〔産業用ポリフェニレンスルフィド繊維(東洋紡績(株))250dT/60(換算繊維径約20μm)〕
カット長さL=5mm
(複合材の押出加工、射出成形)
2軸押出機 日本製鋼所 TEX−44
射出成形機 日精樹脂工業 FN1000(型締力80トン)
【0066】
(測定)
以下のISO規格に準じて測定を実施した。
試験片形状:ISO3167A ダンベル形状。バー(L=80mm)はダンベルから切り出して作成した。
引張試験:ISO527−2、TS=5mm/min、チャック間115mm
曲げ試験:ISO178、TS=2mm/min
シャルピー衝撃強度:ISO179 Vノッチ有(切削) エッジワイズ
メルトフローインデックス:ISO1133 21.18MPa
【0067】
(熱分析)
DSC分析は、示差走査熱量計DSC220C(セイコーインスルツメンツ)を用いて、開始温度30℃、終了温度295℃もしくは325℃、加熱速度10℃/min、窒素雰囲気30mL/min、サンプル重量3〜4mg、アルミパン、の条件で実施した。
【0068】
実施例1〜4、比較例1〜3
表1に示す重量部数で、樹脂(1)と、旭電化工業製の「アデカスタブ2112」(登録商標)0.2重量部、及び酸化防止剤であるチバ・ジャパン製のヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1010」(登録商標)を0.5重量部添加した配合物を、44mmの2軸押出機のホッパーに投入し、同時に、繊維(2)を押出機のサイドフィーダーから投入することで、これらの材料を溶融混練させて、210℃でペレット化した。これを射出成形することでISOダンベルを得て、評価を実施した。なお、表1中のphrは重量部を意味する(以下同様)。
【0069】
比較のため、樹脂(1)のみから得られたペレット、および、有機繊維に代えてガラス繊維を用いて同様に押出加工を行ったペレットを、同様に射出成形することでISOダンベルを得て、評価を実施した。
【0070】
【表1】

【0071】
これらの結果より、PET短繊維を用いた場合においては、低い比重を保ちながら、低温での衝撃強度が改善されるとともに、室温での衝撃強度を損なうことがなく、かつ、曲げ強度に見られるように、剛性も向上した。また、ビニロン短繊維を用いた場合においては、低い比重を保ちながら、低温から室温に至るまでの衝撃強度が大幅に改善され、かつ、曲げ強度に見られるように、剛性も向上した。
【0072】
他方、ガラス短繊維を用いた場合においては、低い比重を保つことが不可能であり、室温での衝撃強度については繊維添加の効果を見出すことができなかった。
【0073】
実施例5、比較例4、5
同じく、樹脂の配合を変更し、表2に示す重量部数で、評価を実施した。比較例4においては、繊維を配合せずに、同様に押出加工を行った。
【0074】
【表2】

【0075】
これらの結果より、PPS短繊維を用いた場合においては、低い比重を保ちながら、低温から室温での衝撃強度が改善された。
他方、ガラス短繊維を用いた場合においては、低い比重を保つことが不可能であった。
【0076】
実施例6、比較例6
同じく、樹脂の配合を変更し、表3に示す重量部数で、評価を実施した。比較例4においては、繊維を配合せずに、同様に押出加工を行った。
【0077】
【表3】

【0078】
これらの結果より、PPS短繊維を用いた場合においては、低い比重を保ちながら、室温での衝撃強度が改善された。
【0079】
以上に見るように、有機短繊維を用いた場合には、樹脂の持つ低比重をできるだけ損なうことなく、室温や低温領域における耐衝撃性を改善することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(1)、及び有機短繊維(2)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記ポリエステル系樹脂(1)が、
芳香族ポリエステル系樹脂(A)を50〜100重量%含有するものであり、上記芳香族ポリエステル系樹脂(A)が、テレフタル酸と、エチレングリコールもしくはブチレングリコールを構成成分とし、かつ、ポリエーテルおよびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなる群より選択される少なくともひとつを構成成分とし、
さらに上記ポリエステル系樹脂(1)が、DSC測定した場合の融点のうち最も高温側のピークトップが220℃以下のものであり、
上記有機短繊維(2)が、ポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、ポリアリーレンスルフィド系繊維、ポリアミド系繊維、からなる群より選択される少なくとも1種類の繊維であり、
(1)と(2)との重量比が、(1):(2)=99重量部:1重量部〜50重量部:50重量部の範囲であり、
熱可塑性加工で製造されることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
有機短繊維(2)が、15mm以下の短繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性加工が、単軸もしくは二軸押出機によるものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、樹脂(1)と繊維(2)を押出機に投入して溶融混練させ、押出機から排出されたストランドを、ペレタイザーで10mm未満の長さにカットすることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物の製造方法であって、
樹脂(1)を、押出機の主フィーダーから投入し、繊維(2)の一部および全部を押出機の途中に設けたサイドフィーダーから投入して溶融混練させることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2013−87183(P2013−87183A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228274(P2011−228274)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】