説明

ポリビニルアルコール系繊維集合体

【課題】本発明は、より工業的有利な、耐水性に優れたポリビニルアルコール系繊維集合体を提供することを目的とする。
【解決手段】ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)を含有し、架橋剤(B)によって架橋されてなるポリビニルアルコール系繊維集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性に優れたポリビニルアルコール系繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは水溶性合成高分子として知られており、ビニロン繊維の原料、紙のコート・サイズ剤や繊維のサイジング剤、紙用接着剤、乳化重合用・懸濁重合用の分散安定剤、セラミック等の無機物質バインダー、水溶性フィルム、偏光膜等の光学フィルム用、医療材料等多くの用途に使用されており、環境への負荷も少なく生体にも優しいことが知られている。
【0003】
ポリビニルアルコールはまたその水溶性を利用し、有機溶媒ではなく水を溶媒として使用したポリビニルアルコール水溶液を紡糸原液として用い、静電紡糸法等により平均繊維径が小さいポリビニルアルコール繊維集合体を作製することができる。また、ポリビニルアルコール繊維集合体を耐水化した場合は親水性が保持され、耐水化されたポリビニルアルコール繊維集合体ができることが考案され、例えば特許文献1及び2のような方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、ポリビニルアルコールにα−ヒドロキシ酸を添加して静電紡糸法により紡糸後、熱処理することで耐水化する方法が記載されているが、熱処理条件が添加剤の融点以上で具体的には180℃の高温で10分間処理されている。このような熱処理を行うと製造コスト(加熱処理時間、高温加熱処理設備の設置)が高くなる一因であり、また高温の熱処理による変色及び変質が懸念される。
【0005】
特許文献2には、ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分として、静電紡糸法により紡糸後、熱処理することで耐水化する方法が記載されているが、熱処理条件は具体的には、140℃で25分間処理されている。この場合も熱処理を高温で一定時間必要なため製造コストが高くなる一因である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−316022号公報
【特許文献2】特開2008−144283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より工業的有利な、耐水性に優れたポリビニルアルコール系繊維集合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)を含有し、架橋剤(B)によって架橋されてなるポリビニルアルコール系繊維集合体を用いることで、前記した課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)を含有し、架橋剤(B)によって架橋されてなるポリビニルアルコール系繊維集合体。
[2]ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)のジアセトン単位含有量が、0.1モル%以上15モル%以下であることを特徴とする前記[1]に記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
[3]架橋剤(B)が、ヒドラジノ基、ヒドラジド基及びセミカルバジド基からなる群から選ばれる1種以上の、官能基を2個以上有する化合物であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
[4]繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が、1μm以下であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
[5]静電紡糸法により紡糸されてなることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)の、ジアセトン単位中のケトン基と架橋剤(B)とが高温で長時間の熱処理を行うことなく反応し、架橋構造を形成し耐水化できるため、安価で簡便に作ることができ、工業的に有利であり、耐水性に優れた平均繊維径の小さい繊維集合体となるため、空気清浄器、浄水器、マスク、産業用粉塵除去フィルター、医薬・医療用フィルター等の各種フィルター、電池等のセパレーターとして利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体を詳細に説明する。本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)を含有し、架橋剤(B)によって架橋されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明で使用されるジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)(以下、単に「ジアセトン変性PVA」とも略記する)は、脂肪族ビニルエステルと側鎖にジアセトン基を含有する不飽和単量体を共重合して得られる重合体を鹸化することにより製造することができる。
【0013】
上記の共重合に使用する脂肪族ビニルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。
【0014】
次に、側鎖にジアセトン基を含有する不飽和単量体としては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタアクリレート等が挙げられるが、工業的には、ジアセトンアクリルアミドが好ましい。
【0015】
脂肪族ビニルエステルと側鎖にジアセトン基を有する不飽和単量体の共重合方法としては、特に限定されず、従来から公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種の重合方法が可能であり、中でもメタノールを溶媒とする溶液重合が工業的に好ましい。
【0016】
共重合の際には、重合容器の形状、重合攪拌機の種類、さらには重合温度、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。
【0017】
また、脂肪族ビニルエステル、側鎖にジアセトン基を有する不飽和単量体とを共重合して得た重合体の鹸化方法は、特に限定されず、従来公知のアルカリ鹸化又は酸鹸化を適用することができる。前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物、アルコラート等のアルカリ触媒を用いることができる。前記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。前記した鹸化方法の中でも、重合体のメタノール溶液又はメタノール、水、酢酸メチル、ベンゼン等の混合溶液に水酸化アルカリ、中でも水酸化ナトリウムを添加して加アルコール分解する方法が工業的に好ましい。また、鹸化物の乾燥、粉砕方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0018】
本発明で使用されるジアセトン変性PVAは、本発明の効果を阻害しない範囲で脂肪族ビニルエステル、側鎖にジアセトン基を有する不飽和単量体と共重合可能な他の不飽和単量体、例えば、(メタ)アクリル酸;マレイン酸;無水マレイン酸;フマル酸;クロトン酸;イタコン酸;ウンデシレン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、マレイン酸モノメチル;イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、アクリルアミド;ジメチルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド;ジエチルアクリルアミド;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド;イソプロピルアクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド;N−ビニルアセトアミド等のアミド基含有不飽和単量体、塩化ビニル;フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類、アリルグリシジルエーテル;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を有する不飽和単量体、N−ビニル−2−ピロリドン;N−ビニル−3−プロピル−2−ピロリドン;N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン;N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン;N−ビニル−3,5−ジメチル−2−ピロリドン;N−アリル−2−ピロリドン等の2−ピロリドン環含有不飽和単量体、メチルビニルエーテル;n−プロピルビニルエーテル;i−プロピルビニルエーテル;n−ブチルビニルエーテル;i−ブチルビニルエーテル;t−ブチルビニルエーテル;ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル;ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、アクリロニトリル;メタアクリロニトリル等のニトリル類、アリルアルコール;ジメチルアリルアルコール;イソプロペニルアリルアルコール;ヒドロキシエチルビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有不飽和単量体、アリルアセテート;ジメチルアリルアセテート;イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸メチル;(メタ)アクリル酸エチル;アクリル酸−2−エチルヘキシル;アクリル酸−n−ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、トリメトキシビニルシラン;トリブチルビニルシラン;ジフェニルメチルビニルシラン等のビニルシラン類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類、ポリオキシエチレンビニルエーテル;ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルエーテル;ポリオキシプロピレンアリルエーテル;ポリオキシエチレンビチルビニルエーテル;ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類、エチレン;プロピレン;n−ブテン;1−ヘキセン等のα−オレフィン類、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン;3,4−ジアシロキシ−1−ブテン;3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン;4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン;3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等のブテン類、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン;4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン;4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン;4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン等のペンテン類、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン;5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等のヘキセン類、N,N−ジメチルアリルアミン;N−アリルプペラジン;3−ピペリジンアクリル酸エチルエステル;2−ビニルピリジン;4−ビニルピリジン;2−メチル−6−ビニルピリジン;5−エチル−2−ビニルピリジン;5−ブテニルピリジン;4−ペンテニルピリジン;2−(4−ピリジル)アリルアルコール等のアミン系不飽和単量体、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩;N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩;N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等の第四アンモニウム化合物を有する不飽和単量体、スチレン等の芳香族系不飽和単量体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2−アクリルアミド−1−メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩等のスルホン酸基を含有する不飽和単量体、グリセリンモノアリルエーテル;2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン;2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン;3−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン;3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン;グリセリンモノビニルエーテル;グリセリンモノイソプロペニルエーテル;アクリロイルモルホリン;ビニルエチレンカーボネート等から選ばれる1種以上と共重合したものであってもよい。この他、得られた変性PVAを本発明の効果を阻害しない範囲でアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性したものでもよい。
【0019】
本発明のジアセトン変性PVAのジアセトン単位含有量は、ジアセトン変性PVA全体に対して、0.1モル%以上15モル%以下であることが好ましく、付与される耐水性がより高くなることから0.5モル%以上10モル%以下であることがより好ましく、1.0モル%以上7モル%以下であることがさらに好ましい。ジアセトン単位含有量が0.1モル%より低い場合は、十分な耐水性が得られず、15モル%を超える場合には、水への溶解性が低下するため好ましくない。
【0020】
また、本発明で使用されるジアセトン変性PVAは水溶液として用いられ、その際の水溶液粘度は種々のものとすることができるが、4質量%水溶液粘度で、通常2mPa.s以上500mPa.s以下であり、より好ましくは3mPa.s以上300mPa.s以下であり、さらに好ましくは5mPa.s以上200mPa.s以下である。4%水溶液粘度が2mPa.sより低い場合は、繊維集合体の強度が不足し、500mPa.sを超える場合には、取扱いが難しくなるため好ましくない。
【0021】
本発明で使用されるジアセトン変性PVAの鹸化度については、80モル%以上であることが好ましく、付与される耐水性がより高くなることから85モル%以上であることがより好ましく、88モル%以上であることがさらに好ましい。なお、該ジアセトン変性PVAの4質量%水溶液粘度及び鹸化度は、JIS K−6726(1994)に準じて測定した値である。JIS K−6726(1994)に記載の粘度の測定には、B形回転粘度計を用いた。
【0022】
次に、本発明に使用される架橋剤(B)について説明する。本発明の架橋剤(B)は、ジアセトン変性PVAのジアセトン単位のケトン基と反応性を有する官能基であれば何ら限定されるものではない。中でも下記式(1)
−NH−NH (1)
で示されるヒドラジノ基、下記式(2)
−CO−NH−NH (2)
で示されるヒドラジド基、及び下記式(3)
−NH−CO−NH−NH (3)
で示されるセミカルバジド基からなる群から選ばれる一種以上の官能基を2個以上有する化合物等が好適に挙げられる。
【0023】
具体例としては、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ブタントリカルボヒドラジド、1,2,3−ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8,−ナフトエ酸テトラヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、N−アミノポリアクリルアミド等の多官能ヒドラジン及び多官能ヒドラジド化合物、N,N’−ヘキサメチレンビスセミカルバジド、ビューレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)等の多官能セミカルバジド化合物が例示されるほか、これらの化合物にアセトン、メチルエチルケトン等の低沸点ケトン類を反応させた多官能ヒドラジン誘導体、多官能ヒドラジド誘導体及び多官能セミカルバジド誘導体等も含まれる。
【0024】
上記架橋剤(B)は、1種又は2種以上組合わせて使用することができ、架橋剤の添加量はジアセトン変性PVA100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましく、3〜15質量部がさらに好ましい。架橋剤の添加量が少ないと、耐水性が低くなり、一方架橋剤の添加量が多すぎると、反応に寄与しない架橋剤が溶出するため耐水性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明のジアセトン変性PVAに架橋剤を添加する方法としては、通常はあらかじめ作製したジアセトン変性PVAの水溶液に架橋剤又はその水溶液を添加し混合する。ジアセトン変性PVA水溶液の調製方法としては、あらかじめジアセトン変性PVAを室温の水に分散し、撹拌しながら80℃以上に昇温し、完全に溶解した後冷却する従来公知のポリビニルアルコールの溶解方法で調製することができる。一方、架橋剤はジアセトン変性PVAの水溶液に固体で添加してもかまわないが、より均一に反応させるため、あらかじめ架橋剤の水溶液を作製し、該水溶液をジアセトン変性PVAに添加する方法が好ましい。
【0026】
また、本発明のジアセトン変性PVAの水溶液に架橋剤を添加した水溶液は経時的に増粘する。水溶液を使用するまでの時間が比較的短ければ問題ないが、時間がかかると増粘し過ぎて使用できなくなる、さらにはゲル化するというポットライフの問題が生じる場合がある。これを防ぐために水溶液に塩基性化合物を共存させることができる。前記の目的で添加する物質としては、水溶液のpHを高くする(pH7.5以上)ものであればよいが、中でも水溶性有機アミン又はアンモニアはジアセトン変性PVAと架橋剤との反応抑制効果が高いだけではなく、紡糸後に揮発してしまうので耐水性を阻害しないという特徴があるという点で好ましい。
【0027】
水溶性の塩基性化合物としては、水溶性有機アミン及びアンモニアの他には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。水溶性有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)−エチレンジアミン、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリス(ヒドロキシエチル)−アミノメタン等の第一級アルカノールアミン;ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、ブチルメタノールアミン、N−アセチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等の第二級アルカノールアミン;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の第一級アルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン等の第二級アルキルアミン;トリメチルアミン等の第三級アルキルアミン等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を使用することができる。
【0028】
水溶性の塩基化合物の添加方法としては特に制限はなく、ジアセトン変性PVA水溶液に塩基性化合物を添加し、混合した後架橋剤を添加するのが一般的であるが、ジアセトン変性PVA水溶液に架橋剤を添加した後、一定時間放置し、架橋反応を進め水溶液が所望の粘度まで調整できた時点で、水溶性の塩基化合物を添加する方法でもよい。水溶性の塩基性化合物を添加する際の添加量については特に制限はないが、ジアセトン変性PVA100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部がより好ましい。
【0029】
また本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の水溶性樹脂、水分散性樹脂、あるいは無機化合物、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等を併用して用いることもできる。
【0030】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体(以下、単に「繊維集合体」とも略記する)を構成する繊維の平均繊維径は、特に限定するものではないが、平均繊維径は1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。平均繊維径の下限値は特に限定はないが、小さくなると繊維の強度が弱くなる傾向にあり、取扱い性も考慮すると1nm程度が適当である。平均繊維径が1μmを超えると繊維集合体としての強度は高くなるが、柔軟性や加工性、各種フィルターとして使用した場合の分離性能が低下するおそれがある。本発明における「繊維径」は、繊維集合体の電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の短軸断面における直径を意味する。形状が非円形である場合には、その断面と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とし、いくつかの繊維径を平均化したものを平均繊維径とする。前記平均繊維径とは、繊維集合体の電子顕微鏡写真から測定して得られた繊維の横断面における直径を意味する。横断面形状が非円形である場合は、横断面と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみる。
【0031】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体の製造方法について説明する。本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体の製造方法は、(1)前記ジアセトン変性PVAと架橋剤とを含有する混合水溶液を調製する工程、(2)次いで、得られた混合水溶液を紡糸原液として、紡糸することにより繊維化し、繊維集合体を形成する工程を含む。紡糸方法としては、繊維化が可能で平均繊維径が1μm以下に調整できる方法であれば特に限定されず従来公知の紡糸方法を採用することができる。そのような紡糸方法としては、静電紡糸法、遠心紡糸法、フラッシュ紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも静電紡糸法を用いることで比較的容易に平均繊維径が1μm以下のものを得ることができるので好ましい。静電紡糸法は従来公知の方法を利用することができる。
【0032】
また、前記混合水溶液には、繊維形成性の補助剤等を添加してもよい。前記繊維形成性の補助剤としては、界面活性剤又はキレート剤等が挙げられる。
【0033】
紡糸したポリビニルアルコール系繊維集合体を捕集する際の基材には、捕集できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等)、ポリアミド(ナイロン等)、ポリ乳酸、PVA系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等の熱可塑性樹脂から得られる不織布、フィルム、織物、金属製又は炭素等からなる導電材等、用途、使用条件等に応じて使い分けることができる。
【0034】
また、紡糸後、繊維集合体の残存水分を除去するために、前記製造方法によって得られたポリビニルアルコール系繊維集合体を、常圧、減圧のいずれかの状態で乾燥させてもよい。乾燥条件は、特に限定されない。乾燥温度は、捕集する基材の耐熱温度を考慮し設定するとよく、例えば、40〜120℃程度であってもよい。乾燥時間は特に限定されないが、5〜30分程度である。
【0035】
さらに、耐水性の向上を目的として、前記製造方法によって得られたポリビニルアルコール系繊維集合体を熱処理してもよい。熱処理条件は、基材の耐熱温度を考慮し設定するとよく、特に限定されないが、熱処理温度としては、例えば、120℃以下、より好ましくは105℃以下である。熱処理時間は、例えば、5分以下、より好ましくは3分以下である。また、乾燥時の圧力は、常圧、減圧のいずれの状態でもよい。
【0036】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、本発明の効果を損なわない範囲でアセタール化等による処理を行ってもよい。
【0037】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、耐水性に優れており、加工が容易であるため各種フィルター材料や電池等に用いるセパレーター材料等に利用することができる。
【0038】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、下記の実施例において用いた繊維集合体の耐水性の測定方法によって測定された熱水不溶分率が、通常90%以上であり、好適には95%以上とすることができる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」及び「%」は、特に指定しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。また、例中の物性評価は以下の方法で行なった。
(1)4%水溶液粘度;JIS K 6726(1994)に準じて求めた。
(2)鹸化度;JIS K 6726(1994)に準じて求めた。
(3)ジアセトン変性単位含有量;DMSO−dを溶媒としてH−NMR測定を測定し、帰属したピークの積分値から算出した。
(4)平均繊維径;電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、型番:SU8010)により、5点の繊維径の平均値として求めた。前記5点とは、繊維中の5本の横断面直径を測定し、平均化した数値を意味する。
(5)繊維集合体の耐水性;2×2cm角の試験片を60℃の真空乾燥器で3時間乾燥後試料重量を測定(乾燥重量W1)し、試料を90℃の熱水に30分間浸漬した可溶成分を溶解させ、不溶残留物を105℃で乾燥し、その重量W2を測定して、下記の式により熱水不溶分率として算出した。
熱水不溶分率(%)=(W2/W1)×100
【0040】
ジアセトン変性PVAの合成例を以下に示す。
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル950部、メタノール350部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温が60℃になるまで昇温した。昇温後、2,2−アゾビスイソブチロニトリル1部をメタノール35部に溶解した溶液を添加し重合を開始した。内温を63℃に維持し、フラスコ内に窒素流通を続けながら、ジアセトンアクリルアミド77部をメタノール50部に溶解した溶液を、重合開始直後から4時間かけて一定速度で滴下し、重合を開始して5時間後に重合停止剤としてm−ジニトロベンゼンを添加し重合を停止した。重合収率は80%であった。
得られた反応混合物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルを留去し、ジアセトンアクリルアミド−酢酸ビニル共重合体の50%メタノール溶液を得た。この溶液500部にメタノール70部、イオン交換水2部及び水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液15部とを加えてよく混合し、40℃で2時間鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後に乾燥し、ジアセトン変性PVA(DA−PVA1)を得た。得られたDA−PVA1の4%水溶液粘度は22.5mPa.s、鹸化度は98.6モル%であった。また、DA−PVA1中のジアセトン単位含有量は5.0モル%であった。
【0041】
[合成例2〜6]
重合時の仕込組成や重合収率、鹸化時の仕込組成を変えた以外は合成例1と同様の方法で、下記表1のジアセトン変性PVA(DA−PVA2〜8)を合成した。
【0042】
【表1】

【0043】
[実施例1]
DA−PVA1を10部、イオン交換水90部をステンレス製ボトルに入れ、撹拌翼をセットし撹拌しながら90℃以上に昇温し、60分間撹拌を続け、完全に溶解し10%水溶液を作製し、ハードナーSC(旭化成ケミカルズ社製、ビューレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)50%水溶液)1部を添加し、撹拌して均一な溶液を得た。この溶液をカトーテック社製のナノファイバー作成ユニットに移し繊維集合体を作製した。この時の電極間電圧は20kVであった。得られた繊維集合体は80℃で30分乾燥し、平均繊維径を測定したところ0.18μmであった。
得られた繊維集合体について、次いで耐水性試験を行ったところ、熱水不溶分率は97.8%であり、耐水性に優れた繊維集合体が得られたことが確認された。
【0044】
[実施例2〜6]
ジアセトン変性PVA及び架橋剤の種類、使用量と電極間電圧を変えた以外は実施例1と同様に繊維集合体を作製し、平均繊維径測定及び耐水性試験を行った。下記表2に示す。
【0045】
[比較例1]
DA−PVA1の代わりに4%水溶液粘度28.5mPa.s、鹸化度98.5モル%のポリビニルアルコールを使用した以外は実施例1と同様に繊維集合体を作製し、平均繊維径を測定し、耐水性試験を行った。平均繊維径は0.26μmであったが、熱水不溶分率は0%で耐水性が全くなかった。
【0046】
[比較例2〜3]
下記表2に記載の組成、電極間電圧で実施例1と同様に繊維集合体を作製し、平均繊維径測定及び耐水性試験を行った。平均繊維径は1μm以下であったがいずれも熱水不溶分率が0%で耐水性が全くなかった。
【0047】
【表2】

(表中、A、B、C、Dはそれぞれ以下の意味を示す。
A:ビュレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)50%水溶液(商品名;ハードナーSC、旭化成ケミカルズ(株)製)、
B:1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン(商品名;アミキュアVDH、味の素ファインテクノ(株)製)の10%水溶液、
C:アジピン酸ジヒドラジド((株)日本ファインケム製)の10%水溶液、
D:コハク酸ジヒドラジド((株)日本ファインケム製)の10%水溶液)
【0048】
表2の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜6のポリビニルアルコール系繊維集合体は、平均繊維径が1μm以下であり、熱水不溶分率が非常に高いため耐水性に優れていた。
【0049】
一方、比較例1でジアセトン単位を含有しないポリビニルアルコールを使用した場合、平均繊維径が1μm以下の繊維集合体は得られるが、熱水不溶分率が0%であり、耐水性が全くなかった。
【0050】
比較例2では、架橋剤を使用せずに繊維集合体を作製し、平均繊維径1μm以下のものは得られたが、熱水不溶分率は0%であり耐水性が全くなかった。
【0051】
比較例3では、ジアセトン単位含有量が少ないため、平均繊維径が1μm以下の繊維集合体は得られるが、熱水不溶分率は0%であり、耐水性が全くなかった。
【0052】
比較例4では、ジアセトン単位含有量が多いため紡糸原液に使用する水溶液を作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリビニルアルコール系繊維集合体は、ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)の、ジアセトン単位中のケトン基と架橋剤(B)とが高温で長時間の熱処理を行うことなく反応し、架橋構造を形成し耐水化できるため、安価で簡便に作ることができ、工業的に有利であり、耐水性に優れた平均繊維径の小さい繊維集合体となるため、空気清浄器、浄水器、マスク、産業用粉塵除去フィルター、医薬・医療用フィルター等の各種フィルター、電池等のセパレーターとして利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)を含有し、架橋剤(B)によって架橋されてなるポリビニルアルコール系繊維集合体。
【請求項2】
ジアセトン変性ポリビニルアルコール(A)のジアセトン単位含有量が、0.1モル%以上15モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
【請求項3】
架橋剤(B)が、ヒドラジノ基、ヒドラジド基及びセミカルバジド基からなる群から選ばれる1種以上の、官能基を2個以上有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
【請求項4】
繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が、1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。
【請求項5】
静電紡糸法により紡糸されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維集合体。

【公開番号】特開2013−36144(P2013−36144A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174332(P2011−174332)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(594146788)日本酢ビ・ポバール株式会社 (18)
【Fターム(参考)】