説明

ポリプロピレン系多層フィルム、積層体及び容器包装袋

【課題】 蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、耐白化性、耐衝撃性、耐屈曲疲労性、ヒートシール強度のいずれもが優れたポリプロピレン系多層フィルム、積層体及び容器包装袋を提供する。
【解決手段】 本発明のポリプロピレン系多層フィルム10は、基材層11と、表面に凹凸が形成されたシーラント層12とを有し、基材層11は、ポリプロピレンブロック共重合体を主成分として含有し、筋状のエラストマー粒子11aが分散している樹脂組成物からなり、シーラント層12は、それと同一のシーラント層を接触させてJIS K 7125に準拠して測定した際の動摩擦係数が0.4以下であり、表面の凹凸の60%以上が、レーザー変位計により測定した際の表面凹凸深さが30〜60μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や薬剤を充填した容器を収納し包装する容器包装袋のシーラントフィルムなどに用いられるポリプロピレン系多層フィルムに関する。また、このポリプロピレン系多層フィルムを用いた積層体及び容器包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品あるいは薬剤等を充填した容器を容器包装袋に収納して包装することがある。その包装の目的は用途によって異なり、例えば、(i)容器表面への傷防止など容器本体の機械的損傷防止、(ii)酸素透過防止、紫外線透過防止等主に内容物の変質防止などの保護、(iii)印刷等による内容物、取り扱い基準の明示など容器内容物の説明などが挙げられる。
【0003】
容器包装袋で容器を包装した際には、包装された容器を倉庫等で保管する間に容器と容器包装袋の間、又は容器と接触していない容器包装袋の内面同士の間が互着(ブロッキング)して、使用する際に容器包装袋から容器を取り出しにくくなることがある。
近年、安全衛生面から容器包装袋に容器を包装した容器包装体を高圧蒸気滅菌後に使用する場合が増えてきており、しかも、生産性を上げるために容器包装体の高圧蒸気滅菌温度をより高くし、高圧蒸気滅菌時間を短くする傾向にある。しかし、ブロッキングは高温ほど発生しやすいため、耐ブロッキング性の高い容器包装袋が求められている。
また、容器が医療用容器の場合には、容器内容物の品質をより安定的に一定の品質に維持するために容器包装袋内を減圧にし、医療用容器と容器包装袋との空間の体積を減少させ、容器包装袋と医療用容器とを密着させた状態で高圧下にて蒸気滅菌を行う。したがって、ブロッキングがより発生しやすい条件下で使用されている。
【0004】
ブロッキングを防ぐための方法としては、従来、容器と容器包装袋との接触面の素材を選定するにあたって、異なる材質を用いる方法及びその材料の融点又はガラス転移温度が高く耐熱性の高い材質のものを用いる方法などがとられてきた。これらの方法はブロッキングに対して有効な方法である一方で、容器やフィルムの材質、構成等が限定されるため問題があった。例えば、容器包装用フィルムを袋状に成形し容器包装袋を得るには、一般的には、安価な熱融着(ヒートシール)法が広く利用され、ヒートシール用の素材として、プロピレン系又はエチレン系重合体等のポリオレフィンが広く用いられている。しかし、安価なポリオレフィンを使用できないことがあり、経済的に大きな問題があった。
【0005】
ブロッキングを防ぐ他の方法は、フィルムのシーラント層表面を物理的に荒らして、容器との接触面積を減らす方法がある。この方法の具体例としては、フィルムに凹凸加工を施し粗面化する方法(例えば、特許文献1参照)、フィルムにシボ加工やエンボス加工等により物理的変形を加える方法が挙げられる。また、容器包装袋の内面に、ポリブテン−1と、ポリプロピレン及び/又はポリ−4−メチルペンテン−1との樹脂組成物を用いる方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。さらに、シーラント層を構成するポリオレフィンに添加剤を添加する方法が知られている。その際に用いられる添加剤としては、シリカ、タルク等の無機充填剤、球状の架橋ポリメタクリル酸メチル等の有機系ブロッキング防止剤、ステアリン酸カルシウム等の金属石けん系滑剤、エルカ酸アミド等のフィルムのスリップ剤として多く使用されている脂肪酸アマイド系滑剤などが挙げられる。
【特許文献1】特開平5−309124号公報
【特許文献2】特開平5−31156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記方法によっても高圧蒸気滅菌後の耐ブロッキング性は十分であるとはいえず、特に、高圧蒸気滅菌の温度が121℃以上になると耐ブロッキング性が不十分になった。特に、近年では、容器包装袋で包装される医療用容器の材質として、ポリプロピレンにポリブテン−1、スチレン−ブタジエン水添熱可塑性エラストマー、非晶性ポリプロピレン等のエラストマー成分を配合して柔軟性を高めたものが使用されているため、ブロッキングが起きやすくなっている。
また、容器包装袋は、高圧蒸気滅菌時の蒸気滅菌処理によって結晶性が高くなって、折り曲げたり落下させたりした際に容易に白化することがあった。さらに、耐衝撃性が低下したり、耐屈曲疲労性が低くなって白化部分にピンホールが発生して内容物である容器を汚染したりすることもあった。
また、蒸気滅菌処理後のブロッキング防止のために、容器包装袋のシーラント層に架橋ポリメタクリル酸メチルなどのブロッキング防止剤を配合した場合には、蒸気滅菌処理後の容器包装袋のヒートシール強度が極端に低下するという問題があった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、耐白化性、耐衝撃性、耐屈曲疲労性、ヒートシール強度のいずれもが優れたポリプロピレン系多層フィルム、積層体及び容器包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)基材層と、表面に凹凸が形成されたシーラント層とを有するポリプロピレン系多層フィルムにおいて、
基材層は、ポリプロピレンブロック共重合体を主成分として含有し、筋状のエラストマー粒子が分散している樹脂組成物からなり、
シーラント層は、それと同一のシーラント層を接触させてJIS K 7125に準拠して測定した際の動摩擦係数が0.4以下であり、表面の凹凸の60%以上が、レーザー変位計により測定した際の表面凹凸深さが30〜60μmであるポリプロピレン系多層フィルムである。
(2)基材層を構成する樹脂組成物が、(a)ポリプロピレン成分50〜80質量%と、(b)プロピレン単位とエチレン単位及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィン単位とからなるエラストマー成分20〜50質量%とを含有し、
(i)メルトフローレートが0.1〜15.0g/10分の範囲であり、
(ii)(b)前記エラストマー成分におけるプロピレン単位が50〜80質量%、
(iii)キシレン可溶分の極限粘度[η]Xsが1.4〜4.0dl/g、
である(1)に記載のポリプロピレン系多層フィルムである。
(3)シーラント層が、ポリプロピレン70〜85質量%と高密度ポリエチレン30〜15質量%とを含有する(1)又は(2)に記載のポリプロピレン系多層フィルムである。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のポリプロピレン系多層フィルムと、ガスバリア層とを有し、ポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が表面側に配置されている積層体である。
(5)(4)に記載の積層体が成形され、ポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が最内側に配置されている容器包装袋である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリプロピレン系多層フィルム、積層体及び容器包装袋は、蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、耐白化性、耐衝撃性、耐屈曲疲労性、ヒートシール強度のいずれもが優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(ポリプロピレン系多層フィルム)
本発明のポリプロピレン系多層フィルムについて説明する。
図1に、本発明のポリプロピレン系多層フィルムの一例を示す。このポリプロピレン系多層フィルム10は、基材層11と、表面に凹凸が形成されたシーラント層12とを有するものである。このポリプロピレン系多層フィルム10を用いる際には、シーラント層12が表面側に配置される。
【0010】
なお、図1の断面図は、例えば、下記方法によりポリプロピレン系多層フィルムを観察したものである。まず、本発明のポリプロピレン系多層フィルムを液体窒素中で、フィルム製造時のフィルム引き取り方向に平行に切断して試料を作製する。そして、その試料を、キシレン中に浸漬し、超音波洗浄機中で50〜60℃に加熱することで破断面からエラストマー粒子を主とする成分をエッチングして溶解させ、それにより抜け落ちた痕跡を、走査型電子顕微鏡で観察する。
【0011】
[基材層]
基材層11は、ポリプロピレンブロック共重合体を主成分として含有し、筋状のエラストマー粒子が分散している樹脂組成物からなる。
ポリプロピレンブロック共重合体とは、ポリプロピレン成分とエラストマー成分とからなるものである。
ここで、ポリプロピレンブロック共重合体のポリプロピレン成分は、ホモポリプロピレン、又は、エチレン単位の含有量が5質量%未満のプロピレン−エチレン共重合体である。また、エラストマー成分は、ポリプロピレン成分より柔軟な成分であり、プロピレン単位とエチレン単位及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィン単位とからなり、エチレン単位及びα−オレフィン単位の含有量が5質量%以上の共重合体である。
エラストマー成分におけるα−オレフィンとしては、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは1種類でもよく2種類以上を混合して使用することもできる。
エラストマー成分において、プロピレン単位と共重合する好ましい単位はエチレン単位である。
【0012】
なお、ポリプロピレン成分とエラストマー成分は次の方法により分離することができる。オルトキシレン250mlにサンプル2.5gを入れ、加熱しながら攪拌して沸騰温度まで昇温し、30分以上かけて完全溶解させる。完全溶解を確認した後、攪拌を行いながら100℃以下になるまで放冷し、さらに25℃に保った恒温槽にて2時間保持する。その後析出した成分をろ紙によりろ別したキシレン不溶分がポリプロピレン成分である。また、ろ液を加熱しながら窒素気流下でキシレンを留去、乾燥して得たキシレン可溶分がエラストマー成分である。
【0013】
基材層11に筋状のエラストマー粒子11aを形成させるためには、エラストマー成分のポリプロピレン成分に対する相溶性を高くし、また、エラストマー成分とポリプロピレン成分の極限粘度を特定の関係にすればよい。エラストマー成分のポリプロピレン成分に対する相溶性を高くするためには、エラストマー成分中のプロピレン含有量を多くすればよい。また、極限粘度については、エラストマー成分の極限粘度をポリプロピレン成分の極限粘度と同程度かそれ以下にすればよい。すなわち、エラストマー成分中のプロピレン含有量を多くすること、エラストマー成分の極限粘度の値をポリプロピレン成分の極限粘度に0.5を加えた値以下にすることにより、基材層11成形時に筋状のエラストマー粒子11aを形成させることができる。
【0014】
本発明において、「筋状のエラストマー粒子が分散している」とは、後述する形態観察にて観察される粒子の形態が筋状であることをいう。フィルム中のエラストマー粒子はフィルム表面と平行に層状に分散していることが好ましい。すなわち、フィルム製造時の引き取り方向に細長く、図1の上下方向の幅に比べて、図1の奥行き方向の幅がより広くなっていることが好ましい。
【0015】
また、基材層11は、(a)ポリプロピレン成分50〜80質量%と、(b)プロピレン単位とエチレン単位及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィン単位とからなるエラストマー成分20〜50質量%とを含有する樹脂組成物からなることが好ましい。また、より好ましくは(a)ポリプロピレン成分65〜75質量%と、(b)エラストマー成分25〜35質量%である。
ポリプロピレンブロック共重合体中のエラストマー成分含有量が20質量%未満であると、耐衝撃性が低くなる傾向にある。一方、50質量%を超えると、耐熱性が低下し高圧蒸気滅菌処理後のヒートシール強度が低下することがある。
【0016】
また、樹脂組成物は、(i)メルトフローレート(以下、MFRという。)が0.1〜15.0g/10分の範囲である。MFRが0.1g/10分未満では、成形性が低下してフィルム状にすることが困難になり、15.0g/10分を超えると、ヒートシール強度が低下する。
ここでいうMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定した値である。
【0017】
(ii)(b)エラストマー成分におけるプロピレン単位が50〜80質量%であることが好ましく、55〜70質量%であることがより好ましい。(b)エラストマー成分におけるプロピレン単位が50質量%未満であると、エラストマー成分がポリプロピレン成分に相溶しにくいため、エラストマー成分が筋状になりにくく、耐衝撃性が低く、耐白化性が低くなる傾向にある。また、加熱収縮しやすいポリエチレン部分が多くなるため高圧蒸気滅菌処理後のヒートシール強度が低下する傾向にある。一方、80質量%を超えると、エラストマー成分の柔軟性が低下するため、耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0018】
(iii)キシレン可溶分の極限粘度[η]Xsが1.4〜4.0dl/g、好ましくは2.0〜4.0dl/g、より好ましくは3.1〜3.8dl/gである。キシレン可溶分の極限粘度[η]Xsが1.4未満であることは分子量が小さいことを意味しており、その結果、ヒートシール強度が低くなる。また、キシレン可溶分の極限粘度[η]Xsが4.0を超えると、溶融粘度が大きくなってエラストマー成分が筋状にならず、耐白化性、耐屈曲疲労性が低くなる。
ここでいう極限粘度[η]は、デカリン中、135℃において測定した値である。
【0019】
[シーラント層]
シーラント層12は、それと同一のシーラント層を接触させてJIS K 7125に準拠して測定した際の動摩擦係数が0.4以下であり、好ましくは0.35以下である。JIS K 7125に準拠して測定した際の動摩擦係数が0.4を超えると、耐ブロッキング性が低くなる。
【0020】
また、シーラント層12は、表面の凹凸の60%以上が、レーザー変位計により測定した表面凹凸深さが30〜60μmであり、好ましくは表面の凹凸の65%以上が、レーザー変位計により測定した表面凹凸深さが35〜55μmである。
表面の凹凸の60%以上が、レーザー変位計により測定した表面凹凸深さが30μm未満であると、表面がフラットになるので、耐ブロッキング性が低くなる。一方、表面の凹凸の60%以上が、表面凹凸深さが60μm超であると、表面外観に問題が生じたり、耐屈曲疲労性の低下や蒸気滅菌処理後のヒートシール強度の低下が起こったりする。また、表面の凹凸の60%未満が、レーザー変位計により測定した表面凹凸深さが30〜60μmである場合には、残りの凹凸の深さの傾向に応じて、耐ブロッキング性の低下、あるいは、表面外観の悪化、耐屈曲疲労性の低下、蒸気滅菌処理後のヒートシール強度の低下が生じる。
【0021】
レーザー変位計による表面凹凸深さ測定方法は、非接触式でCCDレーザー変位センサーを用いて表面の凹凸を測定する方法であり、レーザー発光素子から照射したレーザー光で対象物の表面の高さ変化を測定する方法である。レーザー変位計としては、例えば、株式会社コムスから高速3次元形状測定システムEMS98AD−3Dなどが市販されている。
【0022】
上記のような動摩擦係数及び表面凹凸形状を満足させるためには、ポリプロピレンに高密度ポリエチレンを配合すればよい。その際に使用されるポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体及びプロピレンと炭素数2〜12(但し、炭素数3は除く。)のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。プロピレンとα−オレフィンとの共重合体においては、α−オレフィンの含有量が5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。α−オレフィン含有量が5質量%を超えると、蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、ヒートシール強度が低くなる傾向にある。
また、ポリプロピレンは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFRが2〜15g/10分であることが好ましく、5〜12g/10分であることがより好ましい。MFRが2g/10分未満であると、成形性及びヒートシール性が低くなる傾向にあり、15g/10分を超えるとフィルムの異方性が発現して裂けやすくなったり、蒸気滅菌処理後のヒートシール強度や耐屈曲疲労性が低くなったりする傾向にある。
【0023】
高密度ポリエチレンとしては、JIS K 7210に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nで測定されるMFRが0.1〜1.0g/10分、JIS K 7112D法による密度が0.950〜0.965g/cmの範囲のものが好ましい。また、密度は0.955〜0.960g/cmであることがより好ましい。
MFRが0.1g/10分未満であると、蒸気滅菌処理後にヒートシール強度が低下しやすく、また、耐白化性が低くなり、外観不良となる傾向にある。また、MFRが1.0g/10分を超えると、耐ブロッキング性及び耐屈曲疲労性が低くなることがある。
【0024】
上記ポリプロピレン(PP)と高密度ポリエチレン(HDPE)との配合割合は、PP/HDPE=70〜85質量%/30〜15質量%であることが好ましく、75〜12質量%/25〜18質量%であることがより好ましい。HDPEの配合割合が15質量%未満であると蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性が低くなる傾向にあり、30質量%を超えると耐屈曲疲労性、蒸気滅菌処理後のヒートシール強度、耐白化性が低くなる傾向にある。
【0025】
ポリプロピレンのMFR〔MFR(PP)〕と高密度ポリエチレンのMFR〔MFR(HD)〕との比〔MFR(PP)/MFR(HD)〕は5〜150が好ましく、10〜100がより好ましく、15〜50がさらに好ましい。MFR(PP)/MFR(HD)が5未満だと、耐ブロッキング性が低くなる傾向にあり、また150を超えるとポリプロピレンと高密度ポリエチレンの混合分散の不均一性に起因する成形性の低下が生じやすくなる。
【0026】
また、上記のような動摩擦係数及び表面凹凸形状を満足させるためには、上記ポリプロピレンに無機フィラーを配合しても構わない。
無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、消石灰等のカルシウム塩化合物、タルク(含水珪酸マグネシウム)、マイカ及びセリサイト等のクレー類が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、上記無機フィラーの中でも炭酸カルシウム及びタルクが好ましい。
但し、ポリプロピレン系多層フィルムを医療用容器の容器包装袋の材料に用いる際には、衛生面から無機フィラーを配合しないことが好ましい。
【0027】
さらに、シーラント層12は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン以外の他の成分を含有しても構わない。他の成分としては、前述の無機フィラーの他、例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等の各種スチレン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体及びそのアイオノマー等が挙げられる。他の成分の配合量は、シーラント層中の40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
上記基材層11とシーラント層12とを有するポリプロピレン系多層フィルム10を得る方法としては特に限定されない。例えば、基材層11又はシーラント層12を構成する各成分をミキシングロール、バンバリミキサー、ヘンシェル、タンブラー及びリボンブレンダーなどの混合機で混合した後、押出機などを用いて一旦ペレットにし、各種フィルム成形法により基材層11及びシーラント層12をそれぞれ成形し、これらを積層する方法などが挙げられる。フィルム成形法としては、水冷式又は空冷式押出インフレーション成形法、Tダイ成形法などが挙げられる。
【0029】
このポリプロピレン系多層フィルム10においては、基材層11とシーラント層12の厚み比は、基材層11/シーラント層12=50〜95/50〜5であることが好ましい。基材層11の厚み比が50未満であると耐屈曲疲労性、耐白化性、耐衝撃性が低くなる傾向にあり、95を超えると耐ブロッキング性が不足する傾向にある。
また、ポリプロピレン系多層フィルム10の厚みは30〜300μmであることが好ましく、30〜200μmであることがより好ましい。
【0030】
このポリプロピレン系多層フィルム10には、必要に応じて、他の樹脂や添加剤が配合されていても構わない。添加剤としては、酸化防止剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、染料、顔料、オイル、ワックス等が例示される。
但し、滑剤、ブロッキング防止剤を実質的に含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、滑剤及びブロッキング防止剤がブリードしない程度には含んでいても構わないということである。具体的には、ブロッキング防止剤及び滑剤がそれぞれ4000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、全く含まないことが最も好ましい。
【0031】
以上説明したポリプロピレン系多層フィルム10は、特定の樹脂組成物からなる基材層11と、表面に凹凸が形成されたシーラント層12とを有し、基材層11中には(b)エラストマー成分が筋状になって分散している。その結果、このポリプロピレン系多層フィルム10は、蒸気滅菌後でも白化しにくく、耐衝撃性の低下、耐屈曲疲労性の低下が防止されている。また、シーラント層12には特定の範囲の凹凸が形成され、滑り性が改善され、耐ブロッキング性に優れる。さらに、特定の樹脂組成物からなる基材層11とシーラント層12とを組み合わせることにより、耐衝撃性を向上することができる。
したがって、本発明のポリプロピレン系多層フィルム10は、蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、耐白化性、耐衝撃性、耐屈曲疲労性、ヒートシール強度のいずれもが優れるものである。
【0032】
(積層体)
次に、本発明の積層体について説明する。
図2に、本発明の積層体の一例を示す。この積層体1は、上述したポリプロピレン系多層フィルム10と、ガスバリア層20と、支持体30を有するものであり、各層は接着剤40を介して積層されている。また、ポリプロピレン系多層フィルム10のシーラント層12が表面側に配置されている。
ガスバリア層20としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体のけん化物(EVOH)などからなるフィルム、アルミニウム箔、酸化アルミニウム蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルムなどが挙げられる。
また、支持体30としては、例えば、2軸延伸又は無延伸ポリアミドフィルム、2軸延伸又は無延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムもしくはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどが挙げられる。
【0033】
本発明の積層体1を製造する方法としては特に制限されず、例えば、水冷式又は空冷式共押出多層インフレーション法、共押出多層Tダイ法のように溶融成形で複数の層を同時に成形し、これらを積層する方法、ドライラミネート法のようにそれぞれ単層のフィルムあるいはシートを成形しておいて接着剤等を用いて積層する方法、押出ラミネート法のような一方のフィルムやシートを予め成形しておいて他方をその上に溶融積層する方法などが挙げられる。これらの中でも、水冷式共押出多層インフレーション成形法、共押出多層Tダイ成形法を用いることが好ましい。
【0034】
本発明の積層体1は、上記ポリプロピレン系多層フィルム10を有し、ポリプロピレン系多層フィルム10のシーラント層12が表面側に配置されているものであるから、蒸気滅菌処理後の耐ブロッキング性、耐白化性、耐衝撃性、耐屈曲疲労性、ヒートシール強度のいずれもが優れる。また、この積層体1はガスバリア層20を有するから、食品包装や薬剤包装に適している。
【0035】
(容器)
本発明の容器包装袋は、上述した積層体が成形され、ポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が最内側に配置されているものである。そのような容器としては、例えば、図3(c)に示すような、折り返し部L以外の三方向の端部15,15,15におけるポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層がヒートシールされた容器包装袋3などが挙げられる。
この容器包装袋が収納する容器としては、レトルト食品容器、高カロリー輸液、腹膜透析(CAPD)用輸液などに用いられる輸液バッグなどの医療用容器などが挙げられる。
【0036】
容器包装袋を製造する方法としては、積層体を折り曲げてポリプロピレン系多層フィルムを内側に配置させて重ねた後、端部を熱融着、高周波融着、超音波融着により融着する方法、上述した積層体を真空成形する方法などが挙げられる。成形後、容器包装袋の表面に凹凸加工を施しても構わない。
容器包装袋の製造方法の具体例として、上記容器包装袋3の製造方法を示す。まず、図3(a)に示すような一枚の積層体1を中央(2点鎖線M)にてポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が内側に配置されるように2つ折りする。次いで、図3(b)に示すように、折り返し部L以外の二方向の端部15,15におけるシーラント層同士をヒートシールして、開口部16を有する袋2を得る。次いで、袋2の開口部16から容器を収納した後、開口部16をヒートシールして、図3(c)に示すような容器包装袋3を得る。
【0037】
このような容器包装袋は、表面に凹凸が形成されたポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が最内層に配置されているため、121℃以上の蒸気滅菌処理後でも収納した容器とのブロッキングが発生しにくい。また、一般に蒸気滅菌処理によって結晶性が高くなっても、折り曲げたり落下させたりした際に白化しにくい。また、耐衝撃性の低下、耐屈曲疲労性の低下が防止されているので、白化部分にピンホールが発生して内容物である容器を汚染することも防止されている。さらに、121℃以上の蒸気滅菌処理後の容器包装袋のヒートシール強度低下が抑制されている。
【実施例】
【0038】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
ポリプロピレン(PP)及び高密度ポリエチレン(HD)を表1に示す組成で、ヘンシェルミキサーにて混合して混合物を得た。この混合物を、ポリプロピレンブロック共重合体と共に多層Tダイ成形機にて温度230℃で成形して、ポリプロピレン及び高密度ポリエチレンからなる基材層(厚み;40μm)と、ポリプロピレンブロック共重合体からなるシーラント層(厚み;10μm)とを有するポリプロピレン系多層フィルムを得た。
【0039】
用いた樹脂を下記に示す。
BPP1;JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFRが1.6g/10分、エチレン−プロピレン共重合体からなるエラストマー成分の割合が28質量%、エラストマー中のプロピレン含有量が68質量%、エラストマー成分の極限粘度が3.6dl/gであるサンアロマー株式会社製ポリプロピレンブロック共重合体
BPP2;JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFRが2.2g/10分、エチレン−プロピレン共重合体からなるエラストマー成分の割合が20質量%、エラストマー中のプロピレン含有量が45質量%、エラストマー成分の極限粘度が4.2dl/gであるサンアロマー株式会社製ポリプロピレンブロック共重合体
PP;JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFRが6.0g/10分のホモポリプロピレン
HD;JIS K 7210に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFR0.25g/10分、密度0.955/cmの高密度ポリエチレン
【0040】
【表1】

【0041】
下記方法によりポリプロピレン系多層フィルムを評価した。評価結果を表1に示す。
[シーラント層の表面凹凸の深さ及びその割合]
株式会社コムス製高速3次元形状測定システムEMS98AD−3Dにより、シーラント層表面の凹凸深さ及びその割合を測定した。
[動摩擦係数]
内寸30×30cmで3方熱融着した容器包装袋に1000mLの水を充填し、熱融着により封印して水入り容器包装袋を作製した。この水入り容器包装袋を、スプレー式高圧蒸気滅菌機により125℃で30分の滅菌処理を行った後、開袋して排水させた後、風乾させた。そして、乾燥後の容器包装袋の内面側同士の動摩擦係数を、JIS K 7125に準拠し、23℃×50%RHの環境下で測定装置(東洋精機製作所製、フリクションテスターTR型)を用いて測定した。
[耐ブロッキング性]
ポリプロピレン系多層フィルムを10cm×10cmの大きさに切り取り、シーラント層表面同士が接するように2枚目のフィルムを重ね合わせて試料とした。この試料上に10kgの荷重を載せ、温度50℃の雰囲気下に24時間放置した。次に、引っ張り試験機(ORIENTEC社製テンシロンUCT−500)を用い剥離速度500mm/分の速度でフィルム全面を剥離する際の強度を測定し、ブロッキング強度とした。ブロッキング強度が小さいほど耐ブロッキング性に優れることを示す。
[耐白化性]
ゲルボテスターによりポリプロピレン系多層フィルムを100回捻った後、該フィルムの折れ目部分の白化程度を目視により次の基準で評価した。
○;白化が見られない。
×;白化が見られる。
【0042】
特定の基材層及びシーラント層を有し、本願請求項1を満たす実施例1〜5のポリプロピレン系多層フィルムは、耐ブロッキング性及び耐白化性が共に優れていた。
これに対し、シーラント層の動摩擦係数が0.4を超えていた比較例1〜3のポリプロピレン系多層フィルムは耐ブロッキング性が低かった。
また、基材層にて筋状のエラストマー粒子が分散している樹脂組成物からなっていない比較例4のポリプロピレン系多層フィルムは耐白化性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のポリプロピレン系多層フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の積層体の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の容器包装袋の一例における製造工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0044】
1 積層体
3 容器包装袋
10 ポリプロピレン系多層フィルム
11 基材層
12 シーラント層
20 ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、表面に凹凸が形成されたシーラント層とを有するポリプロピレン系多層フィルムにおいて、
基材層は、ポリプロピレンブロック共重合体を主成分として含有し、筋状のエラストマー粒子が分散している樹脂組成物からなり、
シーラント層は、それと同一のシーラント層を接触させてJIS K 7125に準拠して測定した際の動摩擦係数が0.4以下であり、表面の凹凸の60%以上が、レーザー変位計により測定した際の表面凹凸深さが30〜60μmであることを特徴とするポリプロピレン系多層フィルム。
【請求項2】
基材層を構成する樹脂組成物が、(a)ポリプロピレン成分50〜80質量%と、(b)プロピレン単位とエチレン単位及び/又は炭素数4〜12のα−オレフィン単位とからなるエラストマー成分20〜50質量%とを含有し、
(i)メルトフローレートが0.1〜15.0g/10分の範囲であり、
(ii)(b)前記エラストマー成分におけるプロピレン単位が50〜80質量%、
(iii)キシレン可溶分の極限粘度[η]Xsが1.4〜4.0dl/g、
であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系多層フィルム。
【請求項3】
シーラント層が、ポリプロピレン70〜85質量%と高密度ポリエチレン30〜15質量%とを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系多層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系多層フィルムと、ガスバリア層とを有し、ポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が表面側に配置されていることを特徴とする積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体が成形され、ポリプロピレン系多層フィルムのシーラント層が最内側に配置されていることを特徴とする容器包装袋。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−326925(P2006−326925A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151291(P2005−151291)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】