説明

ポリマーフィルムの巻取方法及びその装置

【課題】フィルムロール中のフィルム層間の残存空気を効率よく排除し、フィルムをロール状に巻き取る。
【解決手段】巻取軸26にセットされた巻き芯27に、フィルム11を巻き取る。巻き取ったフィルム11に対し、エアプレス部23からエアを吹き出す。フィルム11をフィルムロール29側に押し付ける。エアプレス部23を第1ヘッド31と第2送風ヘッド32とから構成する。第1送風ヘッド31により、フィルム11の幅方向中央部に対してエアを吹き付ける。第2送風ヘッド32により、フィルムの幅方向両端部に対しエアを吹き付ける。第1送風ヘッド31に対し第2送風ヘッド32をフィルム巻取方向下流側に配置し、時間差を設けて、エアを吹き付ける。第2送風ヘッド32により、フィルム11の両端部付近に滞留した残存エアを効率よく排除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの巻取方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)用偏光板保護フィルムなどに用いられるポリマーフィルムは、一般に溶液製膜方法により製造されている。この溶液製膜方法を用いてポリマーフィルムを製膜するフィルム製造ラインでは、例えば、セルロースアセテート等のポリマーを可塑剤、UV吸収剤、滑り剤等の各種添加剤と共に溶媒に溶かしてドープにする。そして、このドープを支持体であるドラムもしくはバンドへ流延し、自己支持性をもったところで剥離する。次いで、剥離された軟膜をパスローラで搬送しながら熱風乾燥してポリマーフィルム(以下、フィルムという)を形成する。
【0003】
フィルムは、フィルム製造ラインの下流側に設けられるフィルム巻取装置に連続的に送られ、そこで樹脂、金属、木材、厚紙等で作られた円筒状の巻き芯に、用途や設備能力等に応じて数百mから数千mの長さに巻き取られる。そして、ロール状に巻き取られたフィルムロールの形態で適宜梱包されて製品形態となる。この際に、フィルム製造ラインの生産能力の向上に伴い、フィルム巻取装置においてフィルムの巻き取り速度を上げると、フィルムと一緒にエアが巻き込まれてしまう。フィルムロールにエアが巻き込まれると、フィルムの層間に不均一な空気厚みを持ったフィルムロールが形成される。これにより、局所的な黒筋状(以下、黒筋故障という)が発生する。
【0004】
この黒筋故障を回避するため、フィルムの巻取り速度や厚み、フィルムロールの巻径等に応じて、フィルムの巻き取り張力(テンション)を変更するとともに、フィルムロールの周面にレイオンロールを当てて、フィルム巻取り時に巻き込まれたエアを強制的に排除して、エアの巻き込みに起因する品質故障の発生を防止する方法が良く知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、フィルムロールの巻きズレの防止のために、フィルムの幅方向の両端部に微小な凸凹からなるナーリングを予め付与し、これを巻き芯に巻取る方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】2002−220143号公報
【特許文献2】2002−255409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2のように、両端部にナーリングが付与されたフィルムを、レイオンロールあるいはエア吹き付けによりフィルムをロール周面に押し付けながら巻き芯に巻き取り続けていくと、ナーリングが施された両端部(以下、耳部という)とナーリングが施されていない中央部(以下、製品エリアという)との間の微小な膜厚差が積み重なることによって、フィルムロールの外周面のフィルム上の幅方向の両側縁部の近傍に、略周方向に沿った段差が現れる。
【0007】
このような段差が現れたフィルムロールにフィルムを押し付けながら、フィルムロールに巻き取っていく場合には、耳部にナーリングが施されているので、耳部が製品エリアよりももりあがる。このため、まず、フィルムの耳部がフィルムロールに押し付けられる。次に、フィルム上の幅方向の製品エリアがフィルムロールに押し付けられる。
【0008】
このようにして、フィルム巻取り時に巻き込まれるエアを強制的に排除しているが、フィルム上の幅方向の製品エリアを押し付ける際には、耳部が既に押し付けられているので、フィルムを巻き取る際には、製品エリアに巻き込まれたエアを耳部の方向へ排除できず、製品エリアに残る可能性がある。その結果として、フィルムロール中のフィルム層間において、フィルムの製品エリアに空気厚みが発生し、これにより、黒筋故障が発生するおそれがある。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、フィルムロール中のフィルム層の間に、フィルムの製品エリアに空気厚みが発生することを防止するポリマーフィルムの巻取方法及びその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリマーフィルムの巻取装置は、巻き芯をポリマーフィルムの巻取り方向に回転して、前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取る巻取り機本体と、前記巻き芯に巻き取られる前記ポリマーフィルムに対し、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設された吹き出し口から前記ポリマーフィルムの幅方向の両端部を除く製品エリアに対しエアを吹き付ける第1送風部と、前記第1送風部に対し前記ポリマーフィルムの巻取り方向の下流側に配置され、前記ポリマーフィルムの幅方向の前記両端部に対してエアを吹き付ける第2送風部とを備えることを特徴とする。
【0011】
前記第1及び第2送風部は、前記巻取り方向とは反対側にエアを吹き付けることが好ましい。前記第2送風部は、前記エアの吹き出し方向を前記ポリマーフィルムの幅方向に交差させて、斜め外方向に向けてエアを吹き出すことが好ましい。
【0012】
前記第2送風部は、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設される吹き出し口を有する送風ダクトと、前記送風ダクトを回転変位させてエア吹き出し方向を変更するダクト向き変更部とを備えることが好ましい。前記ポリマーフィルムの巻き付け位置に、前記ポリマーフィルムを巻き芯方向に押圧するレイオンロールまたは第3送風部を備えることが好ましい。前記ポリマーフィルムは前記両端部にナーリング加工が施された耳部を有することが好ましい。
【0013】
本発明のポリマーフィルムの巻取り方法は、巻き芯をポリマーフィルムの巻取り方向に回転して、前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取るフィルム巻取り工程と、前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取り中に、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設された吹き出し口から前記ポリマーフィルムの幅方向の両端部を除く製品エリアに対しエアを吹き付ける第1送風工程と、前記ポリマーフィルムの幅方向の前記両端部に対しエアを吹き付ける第2送風工程とを有することを特徴とする。
【0014】
前記ポリマーフィルムは前記両端部にナーリング加工が施された耳部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィルムを巻き取り中に、製品エリアに対してフィルムを吹き付ける第1送風を行い、フィルムロールに対してエアプレスが行われる。これにより、フィルムロールの層間において、製品エリアに残存するエアを、フィルムの幅方向の外側にある耳部へ押し出す。次いで、第1送風後の製品エリアを除いた耳部に対してフィルムを吹き付ける第2送風を行い、フィルムロールとこのフィルムロールに巻き取られた最上層のフィルムとの間で、耳部に残存するエアが、フィルムロールの外側に確実に排出される。これにより、第1送風によるエアプレスで抜け切らなかった残存エアが確実にフィルムロール外に払いだされるため、残留エアに起因する黒スジ故障の発生を抑えることができる。特に、フィルム幅方向両端部にナーリング加工が施された耳部を有するフィルムでは、ナーリング加工部分でエアプレスのエアの排除が阻害されてフィルムロール内に残存することが多く、この残存エアを確実に排除してフィルムを巻き取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示すように、巻取装置10は、フィルム11が搬送される搬送方向においてフィルム製造ライン12の下流側に配される。フィルム製造ライン12と巻取装置10との間には、ナーリング付与ローラ14と、耳切装置15とが順次設けられる。フィルム製造ライン12は、ポリマーとしてトリアセチルセルロース(以下、TACという)と溶媒とを含むドープを支持体上に流延して、流延膜をつくり、この流延膜を剥ぎ取り、流延膜に含まれる溶媒を蒸発して、長尺状のフィルム11を製造する。そして、フィルム製造ライン12で製造されたフィルム11は、ナーリング付与ローラ14及び耳切装置15を通過して、巻取装置10に送られる。
【0017】
図2及び図3のように、ナーリング付与ローラ14は、長尺状のフィルム11の幅方向の耳部11aに、エンボス加工等により、微小の凸部16を複数設ける。この凸部16は、例えば、円錐台形状に設けられている。しかし、凸部16の形状として、円錐台形状に限らず、例えば角錐形、円球形、波形、格子形、不定形等の集合体等、各種の形状を採用することができる。
【0018】
図1のように、耳切装置15は、フィルム11の耳部の余分な部分を切断除去する。この耳切装置15には、図示しないクラッシャが接続される。耳切装置15により切断された耳部は、送風により、クラッシャに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。なお、耳切装置15とナーリング付与ローラ14とは同一装置内に設けてもよい。また、耳切り後にナーリングを付与してもよい。
【0019】
巻取装置10は、ターレットアーム方式であり、ターレットアーム21と保持台22とエアプレス部23と巻取り張力調節部24とコントローラ25とを有する。ターレットアーム21は、保持台22に回転自在に取り付けられている。ターレットアーム21の両端部には取付軸26が取り付けられており、この取付軸26に巻き芯27がセットされる。取付軸26はモータ28に連結されている。モータ28は、矢線Aで示されるフィルムの巻取り方向に巻き芯27を回転させ、巻き芯27にフィルム11を巻き取る。
【0020】
ターレットアーム21の右側のフィルム11の巻取り位置PRで、ターレットアーム21の一方の取付軸26にセットされた巻き芯27にフィルムを巻き取っている時に、他方の巻き芯交換位置にある取付軸26では、フィルムロール29の取り出しと新たな巻き芯30のセットが行われる。
【0021】
ターレットアーム21は、図示しないアーム回転機構により180度ずつ間欠回転する。そして、一方の巻き芯27にフィルム11が巻き取り長さ分だけ巻き取られて満巻になると、時計方向にターレットアーム21が180度回転し、空の巻き芯30を巻取り位置PRにセットし、フィルム11が空の巻き芯30に連続的に巻き取られるようになっている。なお、満巻のフィルムロール29からのフィルム切断と、切断したフィルムの新たな巻き芯30の巻き付けは、巻取装置10に別途設けられているフィルム巻き付け切断装置(図示省略)で行われる。
【0022】
取付軸26は巻き芯27を巻取り方向Aに回転させて、フィルム11をロール状に巻き芯27に巻き付ける。このとき、エアプレス部23によって、巻取り位置PRのフィルム11に対し、エアが吹付けられ、フィルム11の高速巻取りによる同伴エアの巻き込みが防止される。
【0023】
エアプレス部23は、第1送風ヘッド(第1送風部)31及び第2送風ヘッド(第2送風部)32を備えている。第1送風ヘッド31は、フィルム幅方向に延設されたスリット状の吹き出し口33を有し、送風機34に接続されている。図2に示すように、この第1ヘッド31により、フィルム幅方向の耳部11aを除く製品エリア11bに対しエアが吹付けられ、フィルムロール29の層間の製品エリア11bに滞留するエアが、製品エリア11bから耳部11aへ押し出される。
【0024】
図1に示すように、この第1送風ヘッド31は、巻き芯27を中心とする放射線L1に対して、エア吹き出し方向が、巻取り方向Aと反対方向へ向くように傾斜角θ1の角度を持って傾斜して取り付けられている。θ1は0度以上45度以下が好ましい。更に、θ1は15度以上30度以下がより好ましい。また、第1送風ヘッド31は、巻取り位置PRにエアが吹付けられるような位置関係で、巻き芯27の周囲に配置される。なお、エア吹き出し方向が、放射線L1に対して巻取り方向Aへ向くように傾斜してこの第1送風ヘッド31を取り付けてもよい。
【0025】
第2送風ヘッド32は、巻取り方向Aに沿って第1送風ヘッド31より下流に、例えば、巻き芯27を中心としてフィルム巻取り方向Aに30度程度ずれた位置に配置されている。なお、このずれ量は、本実施形態に限らず、適宜変更してもよく、20度程度ずれた位置に配置してもよい。
【0026】
図4に示すように、第2送風ヘッド32は、フィルム幅方向に延設されたスリット状の吹き出し口35を有し、フィルムの幅方向の両端部に配置されている。吹き出し口35の幅は、フィルムロール29の周面にあるフィルム11の耳部11aの幅と略一致している。また、第1送風ヘッド31の吹き出し口33の幅は、製品エリア11bの幅と略一致している。なお、耳部11aの幅は、フィルムロール29の幅の10%以上20%以下であり、製品エリア11bの幅は、フィルムロール29の幅の80%以上90%以下である。そして、図1に示すように、第2送風ヘッド32にも送風機34が接続されている。この第2送風ヘッド32により、耳部11aに対しエアが吹付けられる。これにより、フィルムロール29の層間の製品エリア11bから押し出され、耳部11aでせき止められて滞留していたエアが第2送風ヘッド32からのエアによって、確実にフィルムロール29の外へ排出される。したがって、従来のように、一つのエア吹き出し口からエアを吹き出すエアプレス部と異なり、耳部11aに滞留してしまうエアを確実にフィルムロール29の外へ排出することができる。
【0027】
この第2送風ヘッド32は、巻き芯27を中心とする放射線L1に対して、エア吹き出し方向が巻取り方向Aと反対方向へ向くように、傾斜角θ2の角度を持って傾斜して取り付けられている。θ2は、0度以上45度以下が好ましい。更には、θ2は15度以上30度以下であることがより好ましい。この傾斜角θ2は、第1送風ヘッド31の傾斜角θ1と同じかまたは大きく設定される。θ1よりも大きく設定することにより、耳部11aのエアが確実に排出される。なお、エア吹き出し方向が、巻取り方向Aへ向くように傾斜してこの第1送風ヘッド31を取り付けてもよい。
【0028】
また、コントローラ25は、第1,第2送風ヘッド31,32が送風する速度及び風向を制御する。エアの送風源である送風機34は、コントローラ25の制御の下、所定圧のエアを発生する。そして、この送風機34で発生させたエアは、図示しないエア配管を介して第1,第2送風ヘッド31,32のエア吹き出し口33,35から、所定のエア圧力(吹付け圧力)でエアがフィルムロール29の周面に吹き付けられる。
【0029】
第1,第2送風ヘッド31,32は、取り付けブラケット36に固定されている。取り付けブラケット36は、フィルムロール29の直径方向に変位可能とされており、シフト機構37によりフィルムの巻き径の増加に応じて移動させられ、吹き出し口33,35とフィルムロール29の最外周面の距離を一定に保持する。
【0030】
シフト機構37は、コントローラ25の制御の下、第1,第2送風ヘッド31,32とフィルム11の表面との距離を一定に保てるように、巻取り半径R1の増大に従って取り付けブラケット36を移動させる。このシフト機構37としては、取り付けブラケット36を移動可能であれば、任意の機構を用いてよい。
【0031】
巻き取り張力調節部24は、ダンサー機構41、張力測定用センサ42、パルスジェネレータ43を有する。ダンサー機構41は、ガイドローラ44,45及びダンサーローラ46を有し、ガイドローラ44,45の間でダンサーローラ46を昇降させる。張力測定用センサ42は、ガイドローラ44に取り付けられており、フィルム巻取り時の張力を測定する。この測定した張力信号は、コントローラ25に送られる。パルスジェネレータ43は、ガイドローラ47の回転変位に基づきパルスを発生させ、発生させたパルスをコントローラ25に送る。
【0032】
コントローラ25は巻取装置10を制御し、巻き芯27にフィルム11を巻き取る。先ず、コントローラ25は、パルスジェネレータ43によるパルスをカウントすることによりフィルム11の巻取り長さを検出する。そして、巻取り張力が所定の値になるように昇降機構を制御する。巻取り張力の調節は、張力測定用センサ42からの張力信号に基づきダンサーローラ46を変位させて行う。例えば、張力が高い場合にはダンサーローラ46を下降させ、張力が低い場合には、逆にダンサーローラ46を上昇させて、張力を一定範囲内に制御する。これにより、巻取り長さに応じて、最適の巻取り張力でフィルム11の巻取りが行われる。本実施形態では、巻取り長さが長くなって巻取り径R1が大きくなるに従い、巻取り張力を低減させるパターンとしているが、これに限らず、この巻取り長さと巻き取り張力のパターンについては、適宜公知のパターンを用いて変更してもよい。
【0033】
コントローラ25は、上記の巻取り張力の調節の他に、ターレットアーム21の回転制御や、図示しないフィルム巻付け切断装置にフィルムの切断や巻付け開始信号などを出力する。
【0034】
次に、本実施形態の作用について説明する。図1に示すように、フィルム製造ライン12は、溶液製膜方法によりフィルム11を製造し、ナーリング付与ローラ14にフィルム11を送る。ナーリング付与ローラ14は、フィルムの耳部11a(図2参照)に所定のナーリングを付与する。耳切装置15は、ナーリングが付与された耳部11aを残しながら、フィルム11の両縁の余分な耳部を切断除去する。この後、フィルム11は巻取装置10に送られる。
【0035】
巻取装置10において、巻き芯27がターレットアーム21の両端部にセットされる。図示しない巻付装置は、フィルム製造ライン12にて製造されたフィルム11の先端を巻き芯27に巻き付けた後、コントローラ25は、フィルム11の巻取りを開始する時の巻取り張力が所定値になるように、ダンサー機構41を駆動する。次いで、コントローラ25は、モータ28を駆動して、所定の巻取り速度でフィルム11の巻き取りを開始する。巻取り張力は、製造条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、フィルム11の巻取り速度が100m/分、フィルム11の厚みが80μm、フィルム11の幅が1340mm、フィルム11の巻全長が4000mの場合では、フィルム巻取り開始時の巻取り張力を410Nになるように設定し、フィルム巻取り終了時の巻取り張力を350Nになるように設定する。
【0036】
そして、コントローラ25は、フィルム11の巻き取りが開始した後、パルスジェネレータ43からのパルス信号に基づき、フィルムロール29の巻取り半径R1を算出する。そして、コントローラ25は、この巻取り半径R1に基づいて、第1,2送風ヘッド31,32の吹き出し口33,35におけるフィルムロール29の周面と最も近い端部とフィルムロール29の周面との間の距離が所定の範囲内で略一定の値を保つようにシフト機構37を駆動する。
【0037】
フィルムロール29の巻取り半径R1が所定の値に達し、フィルム11の巻取りが終了したら、送風機34の駆動を停止させるとともに、シフト機構37を駆動して第1,2送風ヘッド31,32を所定位置まで退避させる。次いで、フィルムカッタ(図示せず)等を用いてフィルム11を所定の位置で切断すると共に、切断されたフィルム11の先端を図示しない巻き付け装置により空の巻き芯に巻き付ける。そして、ターレットアーム21を所定の角度だけ回転して、この巻き芯を巻取り位置にセットするとともに、巻き取りが終了したフィルムロール29を取出し位置にセットする。取出し位置ではフィルムロール29が取り出された後に、空の巻き芯30がセットされる。
【0038】
フィルム11の巻き取りを開始する際、コントローラ25は、送風機34を駆動して、所定圧のエアを発生させて、フィルムロール29に巻き取られたフィルム11の巻取り位置PR近傍の表面に、エアを、例えば、圧力2kPa以上10kPa以下で吹き付ける。これにより、フィルム11は、巻き芯27またはフィルムロール29に押し付けながら巻き取られる。このエアの吹き付けはフィルム11の巻き取り開始と同時に行うことが好ましいが、この他に巻取りが安定した段階でエア吹付けを行ってもよい。エアの吹き付けにより、レイオンロールを用いることなくフィルムロール29に巻き込まれるエアを非接触で除去することができる。
【0039】
なお、風向を調整するために、図示しないフィンを第1,2送風ヘッド31,32の吹き出し口33,35に設けてもよい。フィンを設けることにより、フィルムロール29の周面へ、風向自在にエアを送ることができるので、フィルムロール29に重ねられたフィルムに効率的に力がかけられ、製品エリア11b及び耳部11aに巻き込まれたエアをより効率的に取り除くことができる。
【0040】
また、図5に示すように、吹き出し口35のエアの吹き出し方向が、フィルムの幅方向に交差する方向で、フィルムロール29の外側へ向くように、第2ヘッド32の姿勢を回転させる回転変位機構51を設けてもよい。この場合には、第2送風ヘッド32を回転軸52により回転自在に取り付けて、フィルム面と平行な面内で第2送風ヘッド32を回転自在とさせ、回転変位機構51で、1対の第2送風ヘッド32が左右対称の傾斜角度となるように、第1送風ヘッド31に対する第2送風ヘッド32の傾斜角度を変更可能とする。
【0041】
図6に示すように、第1,2送風ヘッド31,32に代えて、第2送風ヘッド32の吹き出し口に対応する吹き出し口53と、第1送風ヘッド31の吹き出し口に対応する吹き出し口54とが設けられている単一の送風ヘッド55を用いてもよい。複数の送風ヘッドを単一の送風ヘッドとすることにより、送風ヘッドを構成する部材を少なくすることができる。
【0042】
加えて、コントローラ25は、第1送風ヘッド31の中心から、フィルムロール29の幅方向の端に向かうに従い、第1送風ヘッド31が送る風の風圧を徐々に大きくするように制御することが好ましい。フィルムロールの中心位置において、フィルムロールの層間に残るエアを移動するための力を最小とし、中心位置から外側へ向かうにつれて、その力を徐々に強めることにより、中心位置に滞留するエアをより効果的に取り除くことができる。
【0043】
なお、送風部が送る風の風圧は、2kPa以上10kPa以下とすることが好ましい。2kPa未満の場合には、フィルムロールの層間に残るエアを移動する効果を奏しない。10kPaより大きい場合には、エア排出効果が飽和状態となり、過大な送風による運転ロスにつながり好ましくない。
【0044】
コントローラ25は、巻取り半径R1を算出し、その巻取り半径R1に基づいて、第1,第2送風ヘッド31,32の吹き出し口とフィルムロール29の周面との間の距離が所定の範囲内で略一定の値を保つようにシフト機構37を駆動する。この距離は3mm以上30mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。
【0045】
フィルムロール29の巻取り長さが一定の値に達し、フィルム11の巻取りが終了したら、送風機34の駆動を停止させるとともに、シフト機構37を駆動して第1,第2送風ヘッド31,32を所定位置まで退避させる。
【0046】
次に、図7を参照して、第2実施形態について説明する。この巻取装置60では、第1実施形態でのエアプレス部23(図1参照)に代えて、巻取り位置PR付近には、第1エアプレス部61を設ける。第1実施形態でのエアプレス部は、巻取り方向Aに沿って巻取り位置PRより下流方向に、具体的には、巻取り位置PRより270度以上330度以下の位置に配置されることが好ましい。このエアプレス部を第2エアプレス部62と称する。第1実施形態と同じ部材には同じ符号を付する。図7では、巻取り張力調節部は第1実施形態と同一であるため、図示及び説明を省略する。
【0047】
第1エアプレス部61は、第3送風ヘッド(第3送風部)62と、シフト機構63と、送風機64とを有する。第1実施形態のエアプレス部と同様に、第3送風ヘッド62は、フィルム幅方向に延設されたスリット状の吹き出し口65を有し、送風機64に接続されている。この第3送風ヘッド63により、フィルム幅方向に沿って全面にエアが吹付けられ、新たに巻き付けられるフィルムがフィルムロール29に押し付けられる。
【0048】
シフト機構63は、コントローラ25の制御の下、第3送風ヘッド62とフィルム11の表面との距離を一定に保たれるように、巻取り半径R1の増大に従って第3送風ヘッド62を、フィルムロール29の周面に対して第3送風ヘッド62の吹き出し口が平行となるように水平に移動させる。このシフト機構63としては、第3送風ヘッド63を移動可能であれば、任意の機構を用いてよい。
【0049】
第1エアプレス部61により排除し切れなかったフィルムロール29の層間に巻き込まれたエアを、第2エアプレス部62によりを確実に排除することができる。加えて、巻取り位置PRより巻取り方向Aに沿って、第1エアプレス部61が配置される位置より270度以上330度以下の範囲で下流方向にずれて、第2エアプレス部62が設けられる場合には、第2エアプレス部62は、第1エアプレス部61の近傍であり、巻取り方向Aの反対方向に沿って、巻取り位置PRより上流に配置されている。この配置により、巻取り位置PRに入る直前のフィルムロール29の周面に同伴されるエアを効率的に排除することできる。このようにして、第1エアプレス部61でフィルムロール29の層間に巻き込まれるエアを少なくすることができる。
【0050】
第2エアプレス部62が、巻取り位置PRより巻取り方向Aに沿って270度より小さい位置に配置される場合には、巻取り位置PRに入る直前のフィルムロール29の周面にエアを吹き付けることがないため、同伴風を排除する効果が小さくなる。また、第2エアプレス部62が、巻取り位置PRより巻取り方向Aに沿って330度より大きい位置に配置される場合には、第1エアプレス部61に近づきすぎるため、フィルム11に接触する可能性があり、好ましくない。
【0051】
なお、第1エアプレス部61に代えて、巻取り時にフィルムに接触するレイオンロールを用いてもよい。
【0052】
本実施形態では、2軸のターレット方式の巻取装置を例に説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものはなく、3軸以上のターレット方式のフィルム巻取装置にも適用してもよい。
【0053】
フィルム製造ライン12から製造されるフィルム11は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム11の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより大きい場合にも効果がある。フィルム11の厚みが40μm以上60μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0054】
上記実施形態では、溶液製膜方法から製造されたTACフィルムの巻き取り方法及びその装置について説明したが、本発明はこれに限られず、TACフィルム以外のポリマーフィルム等や、その他のポリマーフィルムの巻き取り方法及びその装置にも適用できる。また、これらのポリマーフィルムも、溶液製膜方法によって製造されたものに限られず、溶融製膜方法など公知の製造方法によって製造されたポリマーフィルムでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態の巻取装置を示す概略図である。
【図2】ナーリング加工が施されたフィルムの両側縁部の平面図である。
【図3】図2におけるIII−III線に沿う断面図である。
【図4】エアプレス部を示す平面図である。
【図5】エアプレス部の第1の変形例を示す平面図である。
【図6】エアプレス部の第2の変形例を示す平面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の巻取装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0056】
10 巻取装置
11 フィルム
11a 耳部
11b 製品エリア
23 エアプレス部
27 巻き芯
29 フィルムロール
31 第1送風ヘッド
32 第2送風ヘッド
51 回転変位機構
62 第3送風ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き芯をポリマーフィルムの巻取り方向に回転して、前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取る巻取り機本体と、
前記巻き芯に巻き取られる前記ポリマーフィルムに対し、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設された吹き出し口から前記ポリマーフィルムの幅方向の両端部を除く製品エリアに対しエアを吹き付ける第1送風部と、
前記第1送風部に対し前記ポリマーフィルムの巻取り方向の下流側に配置され、前記ポリマーフィルムの幅方向の前記両端部に対してエアを吹き付ける第2送風部と
を備えることを特徴とするポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項2】
前記第1及び第2送風部は、前記巻取り方向とは反対方向にエアを吹き付けることを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項3】
前記第2送風部は、前記エアの吹き出し方向を前記ポリマーフィルムの幅方向に交差させて、斜め外方向に向けてエアを吹き出すことを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項4】
前記第2送風部は、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設される吹き出し口を有する送風ダクトと、前記送風ダクトを回転変位させてエア吹き出し方向を変更するダクト向き変更部とを備えることを特徴とする請求項2または3記載のポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項5】
前記ポリマーフィルムの巻き付け位置に、前記ポリマーフィルムを巻き芯方向に押圧するレイオンロールまたは第3送風部を備えることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項6】
前記ポリマーフィルムは前記両端部にナーリング加工が施された耳部を有することを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のポリマーフィルムの巻取装置。
【請求項7】
巻き芯をポリマーフィルムの巻取り方向に回転して、前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取るフィルム巻取り工程と、
前記巻き芯に前記ポリマーフィルムを巻き取り中に、前記ポリマーフィルムの幅方向に延設された吹き出し口から前記ポリマーフィルムの幅方向の両端部を除く製品エリアに対しエアを吹き付ける第1送風工程と、
前記ポリマーフィルムの幅方向の前記両端部に対しエアを吹き付ける第2送風工程と
を有することを特徴とするポリマーフィルムの巻取方法。
【請求項8】
前記ポリマーフィルムは前記両端部にナーリング加工が施された耳部を有することを特徴とする請求項7のポリマーフィルムの巻取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−52863(P2010−52863A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217620(P2008−217620)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】