説明

ポリマー組成物および導電性材料

【課題】取扱い性を改善した造粒化カーボンナノチューブを使用し、ポリマー本来の物性の低下がなく、加工性にも優れ、低い配合量にて高い導電性が要求される各種用途に有用なポリマー組成物を提供すること。
【解決手段】所定の直径を有する単数または複数のカーボンナノチューブを混合し、所定の粒子径で、かつ、所定の粒硬度を有するように造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブを使用することを特徴とするポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単数または複数のカーボンナノチューブを造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブを含むポリマー組成物およびその組成物を含む導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
体積固有抵抗値がおおよそ1014〜1016Ω・cmと絶縁性の高いポリマーに導電性フィラーを配合し、導電性や帯電防止性などの特性を付与することは古くから行われてきた。一般的には、カーボンブラック・黒鉛・炭素繊維などに代表される炭素材料、金属繊維・金属粉末・金属箔などの金属材料、および金属酸化物、金属をコーティングした無機系フィラーなどが挙げられる。
【0003】
これら導電性フィラーの中では、導電性以外に環境安定性(耐腐食性など)、金属粉による電気障害および摺動性(成形加工時の成形機スクリューの摩耗など)などの問題が少ないとされる炭素系導電性フィラーを使用する試みが盛んになされている。特に、少量の導電性フィラーの配合で高い導電性を得るために、比表面積の非常に大きいカーボンブラックが採用されている。
【0004】
また、近年、ナノテクノロジーの新材料としてカーボンナノチューブが注目を集め、各種用途への展開が活発に検討されている。従来の炭素系導電性フィラーにはない高導電性を付与できるため、成形材料として電子部品材料、自動車部品材料などに応用され、各種ポリマーにカーボンナノチューブを数%配合した成形用樹脂コンパウンド、あるいは限界濃度までカーボンナノチューブを配合した樹脂マスターバッチが既に上市されている。一方、塗膜、被膜、印刷・塗工物としてリチウムイオン電池、導電被膜や導電塗料などに応用され実用化が始まりつつある。
【0005】
例えば、特許文献1には、直径が3.5〜75nm、直径の5倍以上の長さを持つフィブリル(カーボンナノチューブと同義語)が絡みあった導電性繊維状物の凝集体(最長径が0.25mm以下で、径が0.10〜0.25mm)を少ない添加量で樹脂に配合して、成形品に高い導電性を付与できるポリマー組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2862578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブは、強固に絡まりあった状態で存在し、かつ単位質量当りの凝集エネルギーが高いためポリマー中での凝集力が大きく、ポリマー中に均一に分散させるために高い剪断力が必要である。特に、繊維長の長いカーボンナノチューブの場合、配合・混合・混練などの加工中に破断が起こったり、凝集を伴った分散となったりするため、安定した導電性を発現させることが難しい。
【0008】
カーボンナノチューブは、嵩比重が1〜5g/100mlと非常に低く、多量の空気を巻き込んでいるために飛散性が高い。製造業者においては、飛散による取扱い危険性の高さ、貯蔵タンク内でのブリッジ現象の発生、嵩比重の低さゆえ工程内での輸送時間および梱包時の充填時間が長い等多くの課題を抱えている。一方、使用する顧客においては、運搬時および樹脂、エラストマーなどからなる固体もしくは液体ポリマーマトリックスへの配合・混合・混練時における取扱いにおいて定量性を確保することは困難である。さらに、カーボンナノチューブのポリマーマトリックスとの濡れ性が悪いために、分散不良が発生し、機械特性の低下、配合・混合・混練に要する動力の増大、成形特性の劣化、導電性のバラツキ不良などの問題が起こる。
【0009】
嵩密度の小さいカーボンブラックを樹脂、エラストマーなどからなる固体もしくは液体ポリマーマトリックスへ高配合する場合、減容化(de−gas)を目的にコンパクター(compactor)に掛けたり、固体マトリックスをパウダー状態にしたりと様々な工夫がなされている。一方、カーボンブラックを始めとする導電性フィラーの製造業者においては、導電性フィラーを造粒化し、粒子径を揃え、嵩密度を上げ、粒硬度を高める発明は古くから行われてきた。
【0010】
斯様な状況から、カーボンナノチューブの造粒化も考えられ得るものの、一次粒子が球状のカーボンブラックに比較して結晶構造が大きく発達しており、表面官能基が少なく、チューブ状かつ繊維状で大きなアスペクト比を持ち、弾力性が高く、嵩密度がカーボンブラックに比較してさらに低いため、造粒化技術には大きな問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、単数または複数のカーボンナノチューブを造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブを含むポリマー組成物およびその組成物を含む導電性材料において、カーボンナノチューブの飛散性、取扱い性、及びポリマーマトリックスとの濡れ性等を改善するとともに、カーボンナノチューブをポリマー中に分散させた際に安定した導電性を発現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、カーボンナノチューブを、
(1)水への浸漬と脱気をコントロールすることにより濡れ性を促進する方法。
(2)液−液の界面をコントロールして、界面にカーボンナノチューブを配向させることにより造粒する方法。
(3)異なる直径・アスペクト比を持つカーボンナノチューブもしくは直径・アスペクト比の分布の広いカーボンナノチューブを用い、カーボンナノチューブ同士の架橋構造をつくる方法。
の少なくとも一種の方法により、カーボンナノチューブの造粒化物が得られることを発見し、上記の課題を解決出来ることを見出した。さらに、造粒化したカーボンナノチューブは、ポリマーマトリックスとの濡れ性が著しく改善され、マトリックス中への分散速度が早まり、また高配合が可能となり、加えて繊維状チューブの破断を抑えることを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、カーボンナノチューブの表面に官能基を付与させた後、造粒化物を得ることにより、ポリマーマトリックスとの濡れ性およびマトリックス中への分散速度が飛躍的に改善されることを見出した。
【0014】
更に、本発明者らは、本発明で使用するポリマーマトリックスを使用して造粒化物を得ることにより、ポリマーマトリックスとの濡れ性およびマトリックス中への分散速度が飛躍的に改善されると同時に、最終製品に使用する分子量のマトリックス樹脂もしくはエラストマーを、カーボンナノチューブ100質量部に対し、10質量部以上含有させた、カーボンナノチューブを極限濃度まで含有するマスターバッチを製造出来ることを見出した。当該マスターバッチは、低分子量のマトリックス樹脂もしくはエラストマーを含まないため、最終製品の物性を低下させることはない。
【0015】
本発明は、これらカーボンナノチューブを主体とする造粒化物を使用するポリマー組成物およびその組成物の用途を提供するものである。
【0016】
〔1〕直径が0.5nm以上500nm以下の単数または複数のカーボンナノチューブを混合し、粒子径が0.3mm以上10mm以下で、粒硬度が0.2g重以上200g重以下に造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブが、ポリマーマトリックス中に分散されていることを特徴とする、ポリマー組成物。
〔2〕前記カーボンナノチューブの直径は、0.5nm以上200nm以下であることを特徴とする、〔1〕に記載のポリマー組成物。
〔3〕前記粒状カーボンナノチューブの粒子径は、0.5mm以上4mm以下であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のポリマー組成物。
〔4〕前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001質量部以上70質量部以下であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔5〕前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.05質量部以上40質量部以下であることを特徴とする、〔4〕に記載のポリマー組成物。
〔6〕前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることを特徴とする、〔5〕に記載のポリマー組成物。
〔7〕直径が0.5nm以上500nm以下の単数または複数のカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ以外の導電性フィラーとを混合し、粒子径が0.3mm以上10mm以下で、粒硬度が0.2g重以上200g重以下に造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブ混合物が、ポリマーマトリックス中に分散されていることを特徴とする、ポリマー組成物。
〔8〕前記カーボンナノチューブの直径は、0.5nm以上200nm以下であることを特徴とする、〔7〕に記載のポリマー組成物。
〔9〕前記粒状カーボンナノチューブの粒子径は、0.5mm以上4mm以下であることを特徴とする、〔7〕または〔8〕に記載のポリマー組成物。
〔10〕前記導電性フィラーは、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、金属箔、金属酸化物、及び、金属または金属酸化物が表面にコーティングされた無機系フィラーから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔11〕前記導電性フィラーの配合量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、0.1質量部以上100質量部以下であることを特徴とする、〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔12〕前記導電性フィラーの配合量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下であることを特徴とする、〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔13〕前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001質量部以上70質量部以下であることを特徴とする、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔14〕前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.05質量部以上40質量部以下であることを特徴とする、〔13〕に記載のポリマー組成物。
〔15〕前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることを特徴とする、〔14〕に記載のポリマー組成物。
〔16〕前記ポリマーマトリックスが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂およびエラストマーから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載のポリマー組成物。
〔17〕〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載のポリマー組成物を含む導電性材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カーボンナノチューブの飛散性、取扱い性、及びポリマーマトリックスとの濡れ性等を改善できるとともに、カーボンナノチューブをポリマー中に分散させた際に安定した導電性を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明のポリマー組成物は、単数または直径の異なる複数のカーボンナノチューブを混合した後に、造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブが、ポリマーマトリックス中に分散されているものである。
【0020】
本発明で使用するカーボンナノチューブは、グラファイトの一枚面を巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、二層以上で巻いた、直径が100nm以下の多層カーボンナノチューブもしくは直径100〜500nmのカーボンナノファイバーであり、長さが直径の10倍以上である円筒状の中空繊維状のものである。カーボンナノファイバーも本発明においてはカーボンナノチューブに含むものとし、炭化水素触媒分解法、レーザーアブレーション法、アーク放電法などにより得られるものである。本発明で用いるカーボンナノチューブは、外径が200nm以下の単層もしくは多層カーボンナノチューブが特に好ましい。外径が200nmを超えると、導電性を有するカーボンナノチューブとしての特性を付与するために、添加量を増加させることが必要となり経済的でないとともに、ポリマーマトリックスへの均一な添加が困難となるため、好ましくない。さらに、カーボンナノチューブの特性を活かすために、外径や長さの異なる複数種のカーボンナノチューブをあらかじめ混合した後、造粒化してもよい。
【0021】
また、本発明において、造粒化された粒状カーボンナノチューブの大きさは、採用する製造方法により、その粒度分布、粒子径や粒子形状が変わる可能性があるが、複数の製造方法を採用することにより、その粒度分布、粒子径や粒子形状を制御することも可能であり、その適正な粒子径の範囲は、0.3mm以上10mm以下、好ましくは、0.5mm以上4mm以下である。粒状カーボンナノチューブの粒子径が0.3mm未満では、カーボンナノチューブの造粒化の効果が得られず、10mmを超えると、タンクなどにおける流動性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0022】
本発明により製造された粒状カーボンナノチューブ(造粒物)の粒子径については、JIS Z−8801に記載の試験ふるいの目開きを参考に、その粒子径を測定することができる。ただし、JIS Z−8801では、目開き0.3mm、4mm、9.5mmのふるいがあり、これをゴム用カーボンブラック−造粒粒子特性−第4部:造粒粒子の大きさの分布の求め方 JIS K6219−4:2006に準拠し、目開き0.3mmのふるいを置き、続いて何種類かのふるいと目開き4mmのふるいを置き、上方に目開き9.5mmのふるいを用いて測定を行うことが望ましい。また、その測定は、手動でもよいが、可能であれば、JIS K6219−4:2006に準拠した方法を取りうる機械を用い、自動で行うことが望ましい。
【0023】
本発明のポリマー組成物中の粒状カーボンナノチューブの硬さは、0.2g重以上200g重以下であることが好ましい。粒状カーボンナノチューブをポリマーマトリックス中に添加する場合、短時間の間に解砕する必要がある。この解砕度合は、混練機の種類により異なるが、本発明においては、せん断力が大きく掛かるゴム用混練機から、せん断力の小さな液状樹脂用混合機まで幅広いせん断力が適用され、このような幅広いせん断力が適用される場合に、短時間で容易に解砕するためには、0.2g重以上200g重以下の硬度であることが好ましい。
【0024】
本発明により製造された粒状カーボンナノチューブ(造粒物)の硬さについては、ゴム用カーボンブラック−造粒粒子の特性−第3部:造粒粒子の硬さの求め方(JIS K6129−3:2006)を参考に、その硬さを測定することができる。ただし、JIS K6129−3:2006では、1.0mmもしくは1.4mmのふるいの網目に詰まったものを測定しているが、本発明によって造流された粒状カーボンナノチューブは、その粒子径を調整することもできるため、造粒物の全体像を反映する方法として、微粉末を除いた状態で測定することが望ましく、それ以外は、JIS K6129−3:2006に準拠することが望ましい。また、測定する機械については、自動のものと手動のものとがあるが、JIS K6129−3:2006に準拠して測定できる機械を選択することが望ましい。
【0025】
本発明のポリマー組成物中の粒状カーボンナノチューブは微分散しているため、その配合量は、非造粒化物に比較して低減できる。高価なカーボンナノチューブを低い配合量で所定の導電性を付与する目的では、造粒化した粒状カーボンナノチューブの配合量は、ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001〜70質量部であり、好ましくは0.05〜40質量部、さらに好ましくは0.1〜30質量部である。すなわち、本発明のポリマー組成物によれば、上記のように、カーボンナノチューブの配合量が極めて低い場合であっても、ポリマー組成物に十分な導電性を付与することができる。
【0026】
本発明においてはまた、前述したようなカーボンナノチューブと他の導電性フィラーとの混合物を造粒化して粒状カーボンナノチューブ(以下、「粒状カーボンナノチューブ混合物」という場合もある。)を製造しても良い。ここで、導電性フィラーとは、その成分が、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料、金属繊維、金属粉末、金属箔などの金属材料、および微粒子の酸化インジウムや酸化スズなどの金属酸化物、金属をコーティングした無機系フィラーから選ばれる少なくとも一種からなるものである。また、カーボンナノチューブと他の導電性フィラーとの混合比は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは0.5〜20質量部である。これらの混合物を造粒化した粒状カーボンナノチューブ混合物を、ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001〜70質量部、好ましくは0.05〜40質量部、さらに好ましくは0.1〜30質量部を配合すればよい。すなわち、本発明のポリマー組成物によれば、上記のように、カーボンナノチューブの配合量が極めて低い場合であっても、ポリマー組成物に十分な導電性を付与することができる。
【0027】
本発明で使用するポリマーマトリックスとは、複数のポリマーブレンドまたは補強材や充填材等を充填したものからなるポリマー組成物の構造において、所謂「海」構造に相当するものを意味する。としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂もしくはエラストマーの少なくとも一種を使用することができ、特に制限はない。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、ユリア・メラミン、レゾール型フェノール、エポキシ、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体の樹脂も含み、かつこれらの樹脂を二種類以上ブレンドしても使用することができる。また、耐衝撃性をさらに向上させるために、上記熱硬化性樹脂にエラストマーを添加してもよい。
【0029】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1(PB−1)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ノボラック型フェノール、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリイソプレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー等や、これらの共重合体、変性体の樹脂も含み、かつこれらの樹脂を二種類以上ブレンドしても使用することができる。また、耐衝撃性を更に向上させるために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマーを添加してもよい。
【0030】
エラストマーとしては、EPRやEPDMのようなオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体から成るSBR等のスチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、天然ゴムおよびそれらのエラストマーに反応部位(二重結合、無水カルボキシル基等)を導入した変性物などが挙げられる。さらに、これらのエラストマーを二種類以上ブレンドして使用することもできる。
【0031】
また、本発明のポリマー組成物には、その他の各種添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線防止剤、充填剤、滑剤、着色剤、難燃剤などを必要に応じて配合することができる。
【0032】
一般的な造粒方法として、粒径増大と粒径細分の2つの方法が挙げられるが、カーボンナノチューブを用いる場合、粒径増大の方法が選ばれる。ここで、粒径増大の代表的な例として、カーボンブラックの造粒が挙げられる。カーボンブラックの造流メカニズムとしては、各粒子間の隙間に、水、有機溶剤、界面活性剤、樹脂やその他、バインダーが浸透し、毛細管力などの効果とともに、粒子を凝集させているとの考え方がある。これは、カーボンブラックが、通常、(1)結晶子が10〜15Åと小さく、(2)表面官能基量が多く950℃での揮発分が0.5%以上あり、(3)毛細管力が発生するほどにストラクチャーが発達していることが要因として挙げられ、常圧中、水で造粒するのが一般的である。これに対し、カーボンブラックと比較して、カーボンナノチューブには以下の構造上の特徴がある。
(1)結晶子が大きく発達している。
(2)官能基量が少ない
(3)直線状の構造で大きなアスペクト比をもつ
(4)かさ密度が小さく、多量の空気を含んでいる
これらの特徴はいずれも水や溶剤との濡れを妨げる要因となっている。以下、詳細に説明する。
(1)結晶子が大きく発達している
(2)官能基量が少ない
以上2点のためにカーボンナノチューブの極性は極めて小さい。極性が小さいと、水や溶剤の吸着点となる電荷をもつ構造部分がないため、濡れにくくなる。
(3)直線状の構造で大きなアスペクト比をもつ
表面が凸凹であれば、その凹部分に水や溶剤を取り込み易くなる。しかし、カーボンナノチューブのような直線的な構造体では、表面に凸凹部分は存在しないため、水や溶剤が浸入しにくく、濡れにくい。
(4)かさ密度が小さく、多量の空気を含んでいる
濡らすためには、空気を水や溶剤で置き換えることが必要である。従って、カーボンナノチューブ中に空気量が多いことは、水や溶剤の濡れを妨げる要因となる。
【0033】
上記のため、カーボンナノチューブの造粒には、カーボンブラックとは異なるアプローチが必要であった。上記(1)〜(3)の解決のためにカーボンナノチューブそのものの構造を改質し、水や溶剤に対する濡れを改善することは可能である。しかし、結晶子を小さくしたり、官能基量を増やしたり、直線的な構造を変えることは、カーボンナノチューブの持つ、導電性や熱伝導性や強度などの特性を損なってしまう。随意検討の結果、カーボンナノチューブの持つ機能を損なわない造粒方法として、以下の(A)(B)(C)の方法を開発した。なお、(A)(B)(C)のうち、複数の方法を組み合わせることも可能である。
(A)水への浸漬と脱気をコントロールすることにより濡れ性を促進する方法
これは、前記(4)の濡れの阻害要因となっている空気を積極的に除去するという方法である。空気を除去することにより濡れを促進することができる。
(B)液−液界面をコントロールして、界面にカーボンナノチューブを配向させることにより造粒する方法
これは、極性の異なる複数の溶剤を用いることがポイントである。カーボンナノチューブは極性が極端に小さいため、非極性溶剤に対する親和性と極性溶剤に対する親和性の差が大きい。カーボンナノチューブの水や溶剤に対する濡れが小さくても、この溶媒間の極性の差を利用して、溶媒間の界面にカーボンナノチューブを配向させることができる。
(C)異なる直径・アスペクト比を持つカーボンナノチューブもしくは直径・アスペクト比の分布の広いカーボンナノチューブを用い、カーボンナノチューブ同士の架橋構造をつくる方法
この方法では、複数の大きさのカーボンナノチューブを用いることにより、幾何学的に絡ませ、凝集を生み、造粒させる。すなわち、通常のカーボンナノチューブでは、その直線性のために水や溶剤を取り込む構造がないが、形状の異なるカーボンナノチューブもしくは分布の広いカーボンナノチューブを用いることにより、水や溶剤の入り込むスペースをつくることができる。また、小さいカーボンナノチューブが架橋構造をつくるため、造粒物の強度を保つことができる。
以下に(A)(B)(C)の方法について、具体例を挙げて説明する。
【0034】
前記(A)の方法としては、タブレットマシーンなどを用いて粒状カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ集合体から、空気を減圧・脱気を行い成型する。この成型したカーボンナノチューブ集合体は、そのまま常圧に戻すと形状を維持できず、粉体状に戻ることが確認されている。従って、成型した形状を維持するために、水中に加えるなどの方法を行う必要がある。この減圧・脱気時のカーボンナノチューブ集合体のかさ比重は、粉体時の2〜8倍、好ましくは3〜7倍にすることが求められる。プレス圧などについても、この条件を可能にする方法で行う必要がある。また、この方法により製造できるカーボンナノチューブ集合体の造粒物のおおよそのかさ比重は、造粒前の2倍程度である。造粒物のかさ比重は、もとになるカーボンナノチューブのかさ比重の影響を受けやすい。
【0035】
前記(A)の別法としては、かさ高いカーボンナノチューブに、水及び/又は溶剤に浸漬し、塊状凝集体を形成し、乾燥する方法が挙げられる。具体的には、まず、カーボンナノチューブを希薄状態で水や溶剤に浸漬し、噴霧乾燥機や気流乾燥機にかけるなどして、造粒する方法がある。また、粉体として混合している状態で、溶剤を滴下し、その後乾燥して造粒する方法があり、造粒と乾燥を同時に行う場合もある。カーボンナノチューブは、カーボンブラックと比較して、水や溶剤に濡れにくいので、上記、いずれの方法でも、内包する空気を十分に取り除くことが重要である。脱気により内包する空気を除去することによって、はじめて、造粒に必要な水や溶剤への濡れ状態を形成することができる。さらに、攪拌速度と脱気条件を調整することにより、カーボンナノチューブの凝集体の形状や大きさをコントロールすることができる。
【0036】
前記(B)の方法としては、水と非水溶性溶剤を用いて、液−液界面を形成し、カーボンナノチューブを配向させて凝集体をつくり、乾燥させる方法がある。この方法では、水中に非水溶性溶剤を攪拌により、微小粒子として分散させ、液−液界面を作ることが重要である。水中に微小に分散させた非水溶性溶剤を核として、カーボンナノチューブを凝集させることができる。その攪拌力や攪拌時間なども、形成されるカーボンナノチューブの凝集体の形状や大きさに影響を与えうる。
【0037】
前記(C)の方法としては、異なる直径・アスペクト比をもつカーボンナノチューブもしくは、直径・アスペクト比の分布の広いカーボンナノチューブを混合し凝集体を作る方法がある。これは、カーボンナノチューブにより、それ自体のもつ凝集力の違いを利用する方法であり、より細く、より短いカーボンナノチューブほど凝集力が強いことを利用し、カーボンナノチューブによる架橋構造を利用し、凝集体を形成させるものである。
【0038】
以上の他に、転動造粒、流動層造粒、複合型流動層、攪拌造粒、圧縮造粒、押し出し造粒、噴霧造粒、気流乾燥装置を用いる造粒方法、真空圧縮造粒法やフラッシング法などの方法に、前記(A)(B)(C)の考え方を導入した造粒方法もある。
【0039】
本発明において可能な造粒方法としては、その条件から、乾式と湿式に分けられる。乾式方法としては、バインダーを使用する方法と使用しない方法に分けられ、バインダーとして主なものとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、界面活性剤、蜜蝋、セルロース系物質、リグニンスルホン酸や有機微粒子などが挙げられる。
【0040】
また、湿式造粒法としては、水や有機溶剤のみを用いた方法とバインダーを併用した方法がある。特に、水については、そのイオン濃度や添加剤などに特別な制限はない。イオン濃度については、水中に親水性の酸化性物質を含ませることにより、カーボンナノチューブの酸化処理や不純物除去と造粒処理を一連の工程として行うこともできる。また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、界面活性剤、蜜蝋、セルロース系物質、リグニンスルホン酸や有機微粒子など、種々のものをバインダーとして併用することもできる。また、製造時に使用される有機溶剤としては、水溶性・非水溶性の制限はないが、脂肪族系、芳香族系、エステル系、ケトン系、エーテル系、アルコール系、グリコール系、含窒素系、ハロゲン系などが挙げられる。また、有機溶剤中ではカーボンナノチューブのグラフト化処理なども可能であり、造粒処理と同時に行うこともできる。特に、製造後のカーボンナノチューブ集合体への残存を考慮すると、低沸点で環境影響の少ないものが好まれる。具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、ヘキサン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0041】
本発明において、造粒物を製造時に使用する設備・機械に、特に制限はないが、乾式では、造粒のみが行われ、湿式では、造粒と乾燥が行われるようになっているのが普通である。代表的なものとして、流動層造粒装置、攪拌造粒装置、転動造粒装置、噴霧乾燥造粒装置などが挙げられるが、これらの装置については、それぞれの複合型などもある。また、気流乾燥装置を用いる造粒方法や真空圧縮造粒法やフラッシング法などの方法も挙げられる。
【0042】
また、本発明において使用される造粒装置には、大きく分けて、横型のものと縦型のものがある。横型のものについては連続式のものが多く、1段または複数段のドラムで構成され攪拌ピンで造粒され、連続式にキルン式のドラム内で乾燥するものや、2軸で混錬しつつ圧縮や乾燥をするものなど、種々のものがある。これらについては、その連続作業性によるコストメリットが大きく、汎用的な用途として多く用いられているため有用である。また、縦型の場合、連続式のものとバッチ式のものに分けられる。連続式のものには、造粒工程と乾燥工程を同時に行うものもあり、大量生産に適したものである。また、バッチ式のものについては、造粒工程と乾燥工程を別々に行うものもあり、その途中において、造粒物を回収するためにろ過などを必要とするものもある。
【0043】
本発明において、複数のカーボンナノチューブの混合状態は非常に重要である。特に、カーボンナノチューブを湿式で造粒する場合には、その表面の濡れの状態に留意する必要がある。また、カーボンナノチューブを複数用いる場合、例えば、乾式で粉体として流動させながら造粒する場合や、湿式で溶液中に浸漬して造粒する場合において、その複数のカーボンナノチューブの混合状態の均一性が、造粒物の硬さや大きさに影響する可能性がある。また、複数のカーボンナノチューブの混合が不充分で、不均一な場合、製造された造粒物を用いた樹脂マスターバッチや樹脂コンパウンドの特性にバラつきが生じる可能性があり、求める品質特性を得られない可能性もある。こういった問題を考慮し、流動層や溶液中のカーボンナノチューブは、用いる機械に応じて、充分に混合できる量及び濃度で行う必要がある。
【0044】
本発明のポリマー組成物は、公知の方法で成形して成形品として用いることができる。成形方法としては、射出成形、押出成形、シート成形、プレス成形、回転成形、積層成形、トランスファー成形などが挙げられる。成形品には、射出成形品、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、丸棒や異型押出品などの押出成形品、繊維、フィラメントなどが挙げられる。発泡成形や多色成形、インサート成形、アウトサート成形、インモールド成形など公知の複合成形技術を適用することも可能である。
【0045】
また、本発明のポリマー組成物を溶液あるいは懸濁液として塗料、コーティング剤、インク、接着剤やペーストなどとして用いることも可能である。ここで使用する溶剤は、使用するポリマーマトリックスに対する溶解性、蒸発速度などの成膜条件、および安全性を考慮して、適宜選択することができる。カーボンナノチューブもしくはカーボンナノチューブとその他導電性フィラーとの混合物の造粒化物を予め溶剤に溶解させたポリマー中に混合し、必要に応じて分散剤を添加して、分散処理を行うことにより製造することができる。分散処理には、超音波処理、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ボールミル、ニーダーなど汎用の方法を用いることができ、時にはこれらの方法の併用も好ましい。塗布、塗工、印刷方法としては、ワイヤーバーコーティング法、ドクターブレードコーティング法、ロールコーティング法などの塗布方法、グラビア、オフセット、スクリーン、インクジェットなどの印刷方法など当該業者の一般的方法によって行われる。
【0046】
本発明のポリマー組成物の成形品もしくは塗膜、皮膜、印刷・塗工物の体積固有抵抗値は、1012〜10−3Ω・cm、好ましくは1010〜10−2Ω・cmである。
【0047】
以上説明したように、造粒化したカーボンナノチューブを使用することにより、カーボンナノチューブ自体の飛散度合が極端に低くなり、取扱い性が著しく向上する結果、カーボンナノチューブの製造業者およびこれを使用する顧客における、取扱い現場での作業環境が大幅に改善される。さらに、定量を要するさまざまな工程で著しい定量精度を確保できる。
【0048】
加えて、造粒化したカーボンナノチューブを使用することにより、ポリマーマトリックスとの濡れ性が飛躍的に改善され、マトリックスへの濡れ・分散時間が短縮でき、破断を抑えることができ、非造粒化物に比較して、成形品時には安定して高い導電性を得ることができる。さらに、ポリマーマトリックス中への高配合が可能となり、工業的利用価値は極めて高い。
【0049】
このポリマー組成物によれば、非造粒化物を使用したポリマー組成物に比較して、成形時、高い流動性、配合・混合・混練における動力の低減など成形特性の向上が得られ、成形品においては、フィラーの脱落が少なく、表面平滑性、ポリマー自体が有する衝撃特性を損なわず、高い導電性のほかに、優れた耐摺動性、熱伝導性を付与することができる。一方、塗布、印刷、塗工時、高い流動性が得られ、塗膜、被膜、印刷・塗工物においては、フィラーの脱落が少なく、表面平滑性を損なわず、高い導電性のほかに、優れた耐摺動性、熱伝導性を付与することができる。
【0050】
このポリマー組成物から得られる成形品は、電気・電子部品の搬送および包装用部品、OA機器用部品、静電塗装用の自動車部品など、多くの分野に適用できる。一方、塗料および被膜中に本発明に記載のカーボンナノチューブもしくは他の導電性フィラーとの混合物を用いる場合、当該業者に知られている全ての領域の用途、例えば、各種塗料、粉末被覆、各種印刷インクなど、多くの分野に適用できる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0052】
実施例および比較例の配合を表1〜表6に示した。配合表にしたがって、樹脂およびカーボンナノチューブを混合・混練した後、射出成形して体積固有抵抗測定用の平板を作成した。なお、実施例は造粒化したカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブと他の導電性フィラーとの混合物を使用し、比較例は造粒化していないカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブと他の導電性フィラーとの混合物を使用した。
【0053】
使用したポリマー、混練条件、成形条件、評価方法の詳細を以下に示した。また、各実施例および比較例を表1〜表6に示した。
【0054】
〔実施例1〜4に用いたカーボンナノチューブ〕
直径が約150nm、長さが約5μm、嵩比重が0.080g/mlのカーボンナノチューブ(昭和電工(株)製気相成長炭素繊維(VGCF−H))30質量部を、1L三口フラスコ中の水570質量部に浸漬し、タービン翼を用いて300rpmにて6時間、減圧・脱気しながら攪拌を行い、粒子径1.0〜1.4mm、嵩密度0.190g/ml、粒硬度1.7g重の造粒化物を得た。
【0055】
〔実施例5〜11に用いたカーボンナノチューブ〕
直径が約100nm、長さが約5μm、嵩比重が0.021g/mlのカーボンナノチューブ(昭和電工(株)製気相成長炭素繊維(VGCF−S))9質量部を、1L三口フラスコ中の水591質量部に浸漬し、タービン翼を用いて300rpmにて充分攪拌を行った後、脱気を行った。このカーボンナノチューブを含む水溶液を、気流乾燥機に投入し、粒子径0.5〜1.4mm、嵩密度0.056g/ml、粒硬度1.3g重の造粒化物を得た。
【0056】
〔実施例12〜17に用いたカーボンナノチューブ〕
直径が10〜30nm、長さが5〜10μm、嵩比重が0.045g/mlのカーボンナノチューブ(韓国CNT社製カーボンナノチューブ(CTube 100))30質量部を、2L三口フラスコ中の水970質量部に浸漬し、タービン翼を用いて600rpmにて充分攪拌した。続いて、トルエン300質量部を加え、カーボンナノチューブを充分に濡らし、攪拌を3時間行った後、ろ過にて造粒化物を採取し、70℃にて減圧乾燥を行い、トルエンを概略留去した後、100℃で7時間乾燥させ、粒子径0.5〜2.3mm、嵩比重0.093 g/ml、粒硬度19.5g重の造粒化物を得た。
【0057】
〔実施例18〜20に用いたカーボンナノチューブとカーボンブラックとの混合物〕
直径が10〜30nm、長さが5〜10μm、嵩比重が0.045g/mlのカーボンナノチューブ(韓国CNT社製カーボンナノチューブ(CTube 100))21質量部、および、他の導電性フィラーとしてDBP吸油量が495ml/100g、一次粒子径が34nm、BET比表面積が1270m2/gのケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル(株)製ECP600JD)9質量部を、2L三口フラスコ中の水970質量部に浸漬し、タービン翼を用いて600rpmにて充分攪拌した。続いて、トルエン300質量部を加え、カーボンナノチューブとカーボンブラックの混合物を充分に濡らし、攪拌を3時間行った後、ろ過にて造粒化物を採取し、70℃にて減圧乾燥を行い、トルエンを概略留去した後、100℃で7時間乾燥させ、粒子径0.5〜2.3mm、嵩比重0.098g/ml、粒硬度19.5g重の造粒化物を得た。
【0058】
〔混練方法〕
池貝製同方向二軸押出機(PCM30)を使用し、L/D:28.5、混練温度:300℃(ポリカーボネート樹脂(PC)の場合)、260℃(6ナイロン(PA6)の場合)にて、カーボンナノチューブを配合した。
【0059】
〔成形方法〕
日本製鋼所(株)製J28SA型締力28トン射出成形機を使用して、成形温度320℃、金型温度100℃(PCの場合)、成形温度240℃、金型温度70℃(PA6の場合)にて、平板(80mm×50mm×3mm厚)を成形した。
【0060】
〔使用したポリマー〕
非晶性ポリマーの代表例としてPCを、結晶性ポリマーの代表例として6ナイロン(PA6)を選び、以下の市販品を使用した。
PC:帝人化成(株)パンライトL−1225L
PA6:東レ(株)アミランCM1017
【0061】
〔評価物性の測定方法〕
(1)体積固有抵抗:導電性を評価するために、JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。
(2)カーボンナノチューブの凝集塊:カーボンナノチューブの樹脂マトリックスへの分散性を評価するために、同方向二軸押出機にて混練時のストランドの破断面を電子顕微鏡(SEM)にて2000倍以上の倍率にて観察することにより、カーボンナノチューブの凝集した塊のサイズについて以下の基準により評価した。
[凝集塊のサイズ(長径) 評価基準]
0.5μm未満 小
0.5〜5μm未満 中
5μm以上 大
(3)表面粗さ:(株)東京精密製表面粗さ計「サーフコム470A」を用いて、測定長さ:8mm、カットオフ値:0.8mmの条件にて測定し、JIS B0601の規定に従い、中心線平均粗さ(Ra)と最大高さ(Rmax)を求めた。
(4)耐摺動性:JIS K7204に準拠し、テーバー摩耗試験(500g、500回)を行い、重量減少率を求めた。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例4は、混練が不可能であった。極限配合質量部は、造粒化カーボンナノチューブの場合、40質量部であった。これに対して、造粒化していないカーボンナノチューブの場合、25質量部であった。嵩比重0.080g/mlのVGCF−Hを造粒化することにより、嵩比重は0.190g/mlとなり、ポリマー樹脂に対する配合特性が向上した。更に、混練機の単位回転当たりの充填率が2倍強になることから、生産量の倍増が期待出来る。
【0064】
【表2】

【0065】
比較例7および8は、混練が不可能であった。極限配合質量部は、造粒化カーボンナノチューブの場合、32質量部であった。これに対して、造粒化していないカーボンナノチューブの場合、9質量部であった。嵩比重0.021g/mlのVGCF−Sを造粒化することにより、嵩比重は0.056g/mlとなり、ポリマー樹脂に対する配合特性が向上した。更に、混練機の単位回転当たりの充填率が2.5倍強になることから、生産量の倍増が期待出来る。
【0066】
【表3】

【0067】
造粒化した粒状カーボンナノチューブを使用した場合、伸び率が高かった以外特に顕著な差異は認められなかった。
【0068】
【表4】

【0069】
比較例11は、混練が不可能であった。嵩比重0.021g/mlのVGCF−Sを造粒化することにより、嵩比重は0.056g/mlとなり、ポリマー樹脂に対する配合特性が向上した。更に、混練機の単位回転当たりの充填率が2.5倍強になることから、生産量の倍増が期待出来る。
【0070】
【表5】

【0071】
嵩比重0.045g/mlのCTube 100を造粒化することにより、嵩比重は0.093g/mlとなり、ポリマー樹脂に対する配合特性が向上した。更に、混練機の単位回転当たりの充填率が2倍強になることから、生産量の倍増が期待出来る。
【0072】
【表6】

【0073】
嵩比重0.045g/mlのCTube 100を造粒化することにより、嵩比重は0.093g/mlとなり、ポリマー樹脂に対する配合特性が向上した。更に、混練機の単位回転当たりの充填率が2倍強になることから、生産量の倍増が期待出来る。
【0074】

【0075】
カーボンナノチューブとカーボンナノチューブ以外の導電性フィラーの代表例であるケッチェンブラックとの混合物から成る系においても、造粒化することにより、低い体積抵抗が得られた。また、同時に測定した、表面粗さおよび摩耗量の結果から、粒状カーボンブラックにすることにより、成形品の表面平滑性および耐摺動性を更に改良・改善できることが分かった。
【0076】
なお、表1、2、4〜7に示すように、各実施例においては、体積固有抵抗値が小さく、本発明の実施例によるポリマー組成物は、十分な導電性を有していることがわかる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が0.5nm以上500nm以下の単数または複数のカーボンナノチューブを混合し、粒子径が0.3mm以上10mm以下で、粒硬度が0.2g重以上200g重以下に造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブが、ポリマーマトリックス中に分散されていることを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの直径は、0.5nm以上200nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記粒状カーボンナノチューブの粒子径は、0.5mm以上4mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001質量部以上70質量部以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.05質量部以上40質量部以下であることを特徴とする、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記粒状カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることを特徴とする、請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
直径が0.5nm以上500nm以下の単数または複数のカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ以外の導電性フィラーとを混合し、粒子径が0.3mm以上10mm以下で、粒硬度が0.2g重以上200g重以下に造粒化して得られる粒状カーボンナノチューブ混合物が、ポリマーマトリックス中に分散されていることを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの直径は、0.5nm以上200nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記粒状カーボンナノチューブの粒子径は、0.5mm以上4mm以下であることを特徴とする、請求項7または8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記導電性フィラーは、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、金属箔、金属酸化物、及び、金属または金属酸化物が表面にコーティングされた無機系フィラーから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記導電性フィラーの配合量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、0.1質量部以上100質量部以下であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記導電性フィラーの配合量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.001質量部以上70質量部以下であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.05質量部以上40質量部以下であることを特徴とする、請求項13に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記粒状カーボンナノチューブ混合物の配合量は、前記ポリマーマトリックス100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることを特徴とする、請求項14に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
前記ポリマーマトリックスが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂およびエラストマーから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のポリマー組成物を含む導電性材料。




【公開番号】特開2010−43169(P2010−43169A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207400(P2008−207400)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【出願人】(504333259)燕化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】