説明

ポリ乳酸多孔質粒子およびその製造方法

【課題】本発明は、乳酸を主成分とする重合体からなる粒子であって、微小な孔を有する多孔質体(ポリ乳酸多孔質粒子)、および当該ポリ乳酸多孔質粒子の製造方法に関する。
【解決手段】本発明のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は(i)ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱して溶融する溶融工程;および(ii)前記溶融工程によって得られた溶融液を、ポリ乳酸が結晶化する温度で冷却する冷却工程を含む。本発明のポリ乳酸多孔質粒子の多孔構造を構成する孔の平均孔径は0.27μm〜1.4μmの範囲であり、その平均粒子径は99〜700μmの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸を主成分とする重合体からなる粒子であって、微小な孔を有する多孔質体(ポリ乳酸多孔質粒子)、および当該ポリ乳酸多孔質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は生分解性プラスチックとして種々の分野での利用が期待されている。近年、ポリ乳酸を医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用すべく、ポリ乳酸の多孔質化が行われている。ポリ乳酸の多孔質体の製造方法としては、例えば、特許文献1、特許文献2、および非特許文献1に記載された方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、乳酸を主成分とする重合体(A)と、水溶性のポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体(B)とを溶媒に溶解させた溶液をキャストし乾燥してフィルム状固形物を調製し、当該フィルム状固形物を水やアルコール類などの液に浸漬して当該液にフィルム状固形物中の前記共重合体(B)を溶出させることによって、多孔質体を製造する方法が記載されている。上記方法によって製造された多孔質体は、乳酸を主成分とする重合体からなり、平均孔径1〜30μmの連通孔を有するフィルム状のポリ乳酸多孔質体である。
【0004】
また特許文献2には、生体吸収性高分子(ポリ乳酸等)が有機溶媒に溶解された溶液に粒子径が100〜2000μmの粒子状物質を略均一に混合し、凍結および乾燥して高分子体を調製し、当該高分子体を粉砕し、さらに生体吸収性高分子を溶解しない液で粒子状物質を溶解し取り除いて生体吸収性高分子の多孔質体、当該多孔質体からなるブロック状の細胞工学用支持体を製造する方法が記載されている。上記方法によって製造された生体吸収性高分子の多孔質体は、100〜3000μmの粒子径の顆粒状多孔質物質で、孔径が5〜50μmの不定形な連続孔が立体的な網目構造中に断面積中の20〜80%を占めるものである。
【0005】
また非特許文献1には、ポリ乳酸の1,4-Dioxane溶液の凍結過程で生じる1,4-Dioxaneの結晶をテンプレートとしてポリ乳酸の多孔構造体を作製する方法が開示されている。1,4-Dioxaneは0℃で昇華性を有するため、ポリ乳酸の1,4-Dioxane溶液を真空凍結乾燥することによって、1,4-Dioxaneが昇華し、1,4-Dioxaneが存在していた場所が空隙となって連続気孔構造が作製される。上記方法によって製造されたポリ乳酸の多孔構造体は、同一方向を向いた柱状の空間が並んだ様な構造をしており、その開口部の孔径は10〜60μm程度である。
【特許文献1】特開2006−306983号公報(公開日:平成18年(2006)11月9日)
【特許文献2】特開2006−136673号公報(公開日:平成18年(2006)6月1日)
【非特許文献1】化学工学会第39回秋季大会講演要旨集、K214、社団法人 化学工学会、(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている方法によって製造されたポリ乳酸多孔質体は、平均孔径1〜30μmの連通孔を有するフィルム状のポリ乳酸多孔質体である。しかし、上記ポリ乳酸多孔質体は、その孔径が1〜30μmであり、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用するためにはその孔径が大きすぎる。また上記ポリ乳酸多孔質体の形状がフィルム状であるため、その用途が限られる。
【0007】
また特許文献2に記載された方法によって製造された生体吸収性高分子の多孔質体は、100〜3000μmの粒子径の顆粒状多孔質物質で、孔径が5〜50μmの不定形な連続孔が立体的な網目構造中に断面積中の20〜80%を占めるものである。よって、特許文献1に記載されたポリ乳酸多孔質体と同様、医薬除放制御や組織再生用の足場として利用するためにはその孔径が大きすぎるという欠点を上記多孔質体は有している。また上記多孔質体は物理的に破砕して製造されるため、粒子径を均一にすることは困難であり、粒子径が均一な多孔質体を得るためには、篩などを利用する必要がある。また物理的な破砕では粒子を微小化するのには限界がある。さらに物理的破砕によって、多孔構造が破壊されてしまう恐れもある。
【0008】
また非特許文献1に記載された方法によって製造されたポリ乳酸の多孔構造体は、同一方向を向いた柱状の空間が並んだ様な構造をしており、その開口部の孔径は10〜60μm程度である。よって、特許文献1および2に記載されたポリ乳酸多孔質体と同様、医薬除放制御や組織再生用の足場として利用するためにはその孔径が大きすぎるという欠点を上記多孔質体は有している。
【0009】
したがって、従来公知のポリ乳酸の多孔質体は、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用するに際し、十分に満足できるものとはなっていなかった。そこで本発明は、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用する際に好適な数100ナノメートルから数マイクロメートルオーダーの微細孔を有するポリ乳酸多孔質粒子を提供するとともに、当該ポリ乳酸多孔質粒子の簡便な製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下に示す本発明にかかる方法によって、上記課題が解決し得ることを発見し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、ポリ乳酸多孔質粒子の製造方法であって、下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴としている。
(i)ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱して溶融する溶融工程。
(ii)前記溶融工程によって得られた溶融液を、ポリ乳酸が結晶化する温度で冷却する冷却工程。
【0012】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、下記(iii)の工程をさらに含む方法であってもよい。
(iii)上記冷却工程後の溶融液からポリ乳酸の結晶を分離する分離工程。
【0013】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、下記(iv)の工程をさらに含む方法であってもよい。
(iv)上記分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶と、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い第2溶媒とを接触させ、ポリ乳酸の結晶を洗浄する洗浄工程。
【0014】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、下記(v)の工程をさらに含む方法であってもよい。
(v)上記洗浄工程後のポリ乳酸の結晶を乾燥する乾燥工程。
【0015】
一方、本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は多孔構造を構成する孔の平均孔径が0.27μm〜1.4μmの範囲であることを特徴としている。
【0016】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は、球状であることが好ましい。
【0017】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は、平均粒子径が99〜700μmの範囲であることが好ましい。
【0018】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は、結晶化度が50%以上であることが好ましい。
【0019】
また本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は、ポリ乳酸多孔質粒子の粒子径の変動係数が25%以下であることが好ましい。
【0020】
なお本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子は、ポリ乳酸多孔質粒子の製造方法によって得られるポリ乳酸多孔質粒子であってもよい。
【0021】
また本発明は上記本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子からなる医療用基材をも包含する。
【0022】
従来のポリ乳酸の多孔質の製造方法では、上記のような微小な孔を有するポリ乳酸多孔質粒子を製造することができなかった。本発明者らは、ポリ乳酸の結晶化挙動に着目して研究を進めた結果、上記のごとく特異な構造を有するポリ乳酸多孔質粒子を製造し得ることを発見し、本発明を完成するに至った。これまで、ポリ乳酸の結晶化の過程を利用することによって上記のようなポリ乳酸多孔質粒子を製造し得るなどということは知られておらず、また当業者であっても容易に相当し得るものではない。また得られたポリ乳酸多孔質粒子は特異な構造を有し極めて有用である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用する際に好適な数100ナノメートルから数マイクロメートルオーダーの微細孔を有するポリ乳酸多孔質粒子を、極めて簡便な方法で作製することができるようになった。本発明にかかる製造方法は、微細な球状のポリ乳酸多孔質粒子が得られる点、並びに、冷却工程における温度、溶融液中のポリ乳酸の濃度、ポリ乳酸の溶媒等を制御することによって、ポリ乳酸多孔質体における粒子径や孔径を制御することができる点において特に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「〜」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「★〜☆」と記載されていれば「★以上、☆以下」を示す。
【0025】
<1.本発明のポリ乳酸多孔質粒子>
本発明はポリ乳酸多孔質粒子に関する。本発明の説明において「ポリ乳酸多孔質粒子」とは、ポリ乳酸からなる粒子状の多孔質を意味する。また「ポリ乳酸」とは乳酸を主成分とする重合体を意味し、「乳酸を主成分とする重合体」とはポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリD/L乳酸などのポリ乳酸ホモポリマー、およびそれらにエステル結合を形成し得る重合材料を共重合させた共重合体であって、共重合体中の乳酸由来の成分が90%以上のものを意味する。
【0026】
本発明のポリ乳酸多孔質粒子は、多孔構造を構成する孔の平均孔径が0.27μm〜1.4μmの範囲であることを特徴としている。発明のポリ乳酸多孔質粒子の開口形状は特に限定されるものではなく、円形状、楕円形状、正方形状、長方形状、六角形状などのいかなる形状であってもよい。ここで「孔径」は、孔の開口形状に対する最大内接円の直径が意図され、例えば、孔の開口形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。また「平均孔径」は、無作為に選択された複数の孔の孔径を顕微鏡で観察して計測し、その平均値を計算することによってもとめられる。測定する孔の数は特に限定されるものではないが、例えば10個以上が好ましく、20個以上がさらに好ましい。
【0027】
また本発明の一実施形態においては、ポリ乳酸多孔質粒子の多孔構造を構成する孔の孔径の変動係数〔=標準偏差÷平均値×100(%)〕は60%以下(50%以下であることが好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。)すなわち、本発明のポリ乳酸多孔粒子は、均一な孔径を有する孔によってその多孔構造が構成されていることがわかる。よって、本発明のポリ乳酸多孔質粒子は、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用する際に、安定した性能を発揮し得るものであるといえる。
【0028】
また本発明のポリ乳酸多孔質粒子の形状は特に限定されるものではないが、ドラッグデリバリーシステムへの応用を考慮した場合においては、本発明のポリ乳酸多孔質粒子の形状は、球状であることが好ましい。ここで「球状」とは、真の球状のみならず、略球状をも含む意味である。「略球状」とは、その断面が、扁平率90%以内の楕円となるように球が扁平した形状を意味する。
【0029】
また本発明のポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は特に限定されるものではないが、一実施形態においてはその平均粒子径が99〜700μmの範囲である。本発明のポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は、ポリ乳酸多孔質粒子を顕微鏡によって観察し、その二次元形状に対する最大内接円の直径を測定すればよい。例えば、ポリ乳酸多孔質粒子の二次元形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。また「平均粒子径」は、無作為に選択された複数の粒子の粒子径を顕微鏡で観察して計測し、その平均値を計算することによってもとめられる。測定する粒子の数は特に限定されるものではないが、例えば10個以上が好ましく、20以上がさらに好ましい。上記の他、動的光散乱法を用いて平均粒子径を求めることも可能である。
【0030】
上記のごとく本発明のポリ乳酸多孔質粒子は、微細な粒子からなっている。本発明のポリ乳酸多孔質が微細な粒子からなることで、それを医薬除放制御用の基材として用いた場合、医薬を担持した本発明のポリ乳酸多孔質を体内に注射等で注入しやすくなるというメリットを享受できる。
【0031】
また本発明の一実施形態においては、ポリ乳酸多孔質粒子の粒子径の変動係数〔=標準偏差÷平均値×100(%)〕は25%以下であることが好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることが最も好ましい。すなわち、本発明のポリ乳酸多孔質粒子は、均一な粒子径を有する粒子からなるものである。よって、本発明のポリ乳酸多孔質粒子は、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用する際に、一定の性能を発揮し得るものであるといえる。
【0032】
また本発明のポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は特に限定されるものではないが、一実施形態においては、本発明のポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は、50%以上である(好ましくは60%以上)であることが好ましい。本発明のポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度が上記のとおり、高い結晶化度を有するものであることによって、ポリ乳酸多孔質粒子の靭性などの機械的強度が高くなる。それゆえ、本発明のポリ乳酸多孔質粒子を利用する場合において、その取り扱いが容易となり、より幅広い用途に利用可能となる。ポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度の測定は、示差走査熱量測定法(DSC法)により行うことができる。DSC法を用いたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度の具体的な測定方法は、実施例における方法を適用することができる。
【0033】
上記本発明のポリ乳酸多孔質粒子の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、ドラッグデリバリーシステムにおける医薬の担体、再生医療等に用いられる生体組織培養用基材等の医療用基材として利用可能である。本発明のポリ乳酸多孔質粒子を医薬の担体として用いる場合には、所望の医薬を含む溶液に本発明のポリ乳酸多孔質粒子を浸漬し、ポリ乳酸多孔質粒子に医薬を担持させて使用すればよい。また本発明のポリ乳酸多孔質粒子を生体組織培養用基材として用いる場合には、生体組織培養液に本発明のポリ乳酸多孔質粒子を添加し、所定の条件で生体組織培養を行えばよい。
【0034】
本発明のポリ乳酸多孔質粒子のその他の用途としては、例えば、固定化酵素のマトリックスや、環境水中の有害物質吸着剤として利用可能である。
【0035】
上記した本発明のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次項において説明される本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法を用いて当該ポリ乳酸多孔質粒子を製造することができる。
【0036】
<2.本発明のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法>
本発明にかかるポリ乳酸多孔質粒子の製造方法(以下「本発明の製造方法」という)は、下記(i)および(ii)の工程を少なくとも含む製造方法である。
(i)ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱して溶融する溶融工程。
(ii)前記溶融工程によって得られた溶融液を、ポリ乳酸が結晶化する温度で冷却する冷却工程。
【0037】
本発明の製造方法には上記(i)および(ii)の工程の他に、下記(iii)の工程が含まれていてもよく、さらに下記(iv)の工程が含まれていてもよく、さらに下記(v)の工程が含まれていてもよい。
(iii)上記冷却工程後の溶融液からポリ乳酸の結晶を分離する分離工程。
(iv)上記分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶と、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い第2溶媒とを接触させ、ポリ乳酸の結晶を洗浄する洗浄工程。
(v)上記洗浄工程後のポリ乳酸の結晶を乾燥する乾燥工程。
以下に、各工程を説明する。
【0038】
(1)溶融工程
溶融工程は、ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱して溶融する工程である。既述のとおり「ポリ乳酸多孔質粒子」とは、ポリ乳酸からなる粒子状の多孔質を意味する。また「ポリ乳酸」とは乳酸を主成分とする重合体を意味し、「乳酸を主成分とする重合体」とはポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリD/L乳酸などのポリ乳酸ホモポリマー、およびそれらにエステル結合を形成し得る重合材料を共重合させた共重合体であって、共重合体中の乳酸由来の成分が90%以上のものを意味する。
【0039】
本工程で使用する第1溶媒はポリ乳酸の良溶媒であれば特に限定されるものではないが、160℃においてポリ乳酸を溶解度が高く、室温(25℃)において溶解度が低い溶媒であることが好ましい。後の冷却工程においてポリ乳酸の結晶が発生し易いからである。
【0040】
ここで第1溶媒としては、o−ジクロロベンゼン、フタル酸エステル、安息香酸エステル、塩化ベンジル、1−クロロナフタレン、シクロヘプタノン、デカリン(デヒドロナフタレン)、エトキシベンゼン、ベンズアルデヒド、メタクリル酸メチル、エチルベンゼン、酢酸ブチル、L−乳酸メチル、ジフェニルエーテル等が挙げられる。特に第1溶媒の好ましい条件としては、沸点が160℃以上であり、融点が0℃以下のポリ乳酸の良溶媒である。本発明者らが、第1溶媒として、安息香酸ベンジル(融点18℃、沸点323℃)、安息香酸メチル(融点−15℃、沸点198℃)、シクロヘプタノン(融点−21℃、沸点179℃)、o−ジクロロベンゼン(融点−17.03℃、沸点180.5)、デカリン(融点−40℃、沸点190℃)、フタル酸ジエチル(融点−3℃、沸点298.5℃)、m−キシレン(融点−47.4℃、沸点139.3℃)、ベンズアルデヒド(融点−26℃、沸点179℃)について、10質量%のL−ポリ乳酸(L体分率が99.8%)を用いて検討したところ、安息香酸ベンジル(融点18℃、沸点323℃)、m−キシレン(融点−47.4℃、沸点139.3℃)を除く溶媒が、良好な結果を示した。これらの中でもo−ジクロロベンゼン(融点−17.03℃、沸点180.5℃)、フタル酸ジエチル(融点−3℃、沸点298.5℃)が第1溶媒として特に好ましいということがわかった。
【0041】
第1溶媒とポリ乳酸との混合比率は特に限定されるものではないが、溶融温度における飽和濃度以下であることが好ましい。溶融温度における飽和濃度を超えた場合、融液中にポリ乳酸多孔質粒子と、原料のポリ乳酸固形物とが混在してしまい、目的とするポリ乳酸多孔質粒子とポリ乳酸固形物とを分離する必要性が生じるからである。特に好ましい第1溶媒とポリ乳酸との混合比率は10質量%以下である。第1溶媒とポリ乳酸との混合比率は10質量%以下であることで、結晶同士の衝突を避けることができ、球状のポリ乳酸多孔質粒子が得られ易くなる。
【0042】
またポリ乳酸と第1溶媒との混合物を加熱する温度(「溶融温度」)は、ポリ乳酸の種類、第1溶媒の種類によってそれぞれ異なるため、ポリ乳酸と第1溶媒の種々の組み合わせに応じて最適な溶融温度を決定の上、採用すればよい。特に限定されるものではないが、例えば、溶融温度は150〜170℃が好ましい。またポリ乳酸と第1溶媒との混合物を加熱する時間(「溶融時間」)についても、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。なお、溶融温度および時間は、ポリ乳酸が第1溶媒に完全に溶融する条件であることが好ましい。融液中にポリ乳酸多孔質粒子と、原料のポリ乳酸固形物とが混在してしまい、目的とするポリ乳酸多孔質粒子とポリ乳酸固形物とを分離する必要性が生じるからである。
【0043】
溶融工程の具体的実施方法は特に限定されるものではないが、高温でサンプルを加熱するため、ポリ乳酸の酸化等の化学反応を防止すべく、溶融工程の雰囲気中は、窒素または希ガス(アルゴン等)で置換されていることが好ましい。また溶媒の蒸発を回避すべく、密閉容器内で溶融工程が行われることが好ましい。例えばアンプル管にポリ乳酸と第1溶媒との混合物を仕込み、アンプル管内を窒素で置換後、アンプル管を封管して、溶融工程を実施すればよい。加熱は、上記アンプル管を所定の溶融温度に設定されたオイルバスまた炉の中に入れることによって実施され得る。
【0044】
(2)冷却工程
冷却工程は、前記溶融工程によって得られた溶融液を、ポリ乳酸が結晶化する温度(「結晶化温度」)に冷却する工程である。本冷却工程によって、ポリ乳酸の球晶が発生する。この球晶を構成するラメラの隙間には第1溶媒の分子が存在する。この第1溶媒の分子が球晶における多孔構造のテンプレートとなり、第1溶媒を蒸発させるなどして除去すれば、多孔構造を有する球晶(すなわち球状のポリ乳酸多孔質粒子)を得ることができる。従来のポリ乳酸の多孔質の製造方法においてポリ乳酸の結晶化に注目したものは全く存在しない。本発明の製造方法によって得られたポリ乳酸多孔質粒子は結晶化によって得られているため結晶化度が高い(50%以上、好ましくは60%以上)。よって本発明の製造方法によれば靭性などの機械的強度に優れたポリ乳酸多孔質粒子が得られる。これは本発明の製造方法の大きなメリットの一つである。
【0045】
また球晶のサイズが、本発明のポリ乳酸多孔質粒子のサイズに反映されることから、球晶のサイズを制御することによってポリ乳酸多孔質粒子の粒子径を制御することができる。球晶のサイズは結晶化温度(すなわち冷却工程における冷却温度)で制御することができ、より低い温度で冷却すれば結晶の成長速度が遅くなるために、小さなサイズの球晶が得られ、最終的により小さなポリ乳酸多孔質粒子が製造される。逆に高い温度で冷却すれば結晶の成長速度が速いためにより大きな球晶が得られ、最終的により大きなポリ乳酸多孔質粒子が製造される。また、冷却温度が低くなればなるほど、第1溶媒の分子がポリ乳酸の網目鎖の中で凝集が小さくなるためにポリ乳酸多孔質粒子における孔径が小さくなり、逆に冷却温度が高ければ高いほど、第1溶媒の溶媒分子が大きくなるために孔径は大きくなる。よって冷却温度によってポリ乳酸多孔質粒子のサイズのみならず孔径をも制御することができる。これは本発明の製造方法の大きなメリットの一つである。なお冷却温度は、ポリ乳酸の濃度、ポリ乳酸および第1溶媒の種類等によって異なるために、所望の粒子径や孔径に応じて、種々検討のうえ、好ましい冷却温度を決定すればよい。
【0046】
冷却工程は、溶融工程で得られた溶融液を所定の冷却温度雰囲気に曝すことによって実施すればよい。溶融液入りの容器(例えば、前出の封管されたアンプル管)を、所定の冷却温度に設定された液相中に漬けてもよいし、所定の冷却温度に設定された気相中に曝してもよい。ただし、熱の伝達速度が速いとの理由により、液相で冷却するほうが好ましいといえる。
【0047】
(3)分離工程
本発明の製造方法は上記冷却工程終了後にポリ乳酸多孔質粒子が製造されているため、溶融工程および冷却工程のみで完結するが、冷却工程後の溶融液からポリ乳酸の結晶(球晶)を分離するがさらに含まれていてもよい。かかる分離工程は、ろ過や乾燥によって、融液中に生成したポリ乳酸の結晶(球晶)を分離する。ろ過はポリ乳酸の結晶(球晶)の粒子径より小さなポアサイズを有するメンブレンを用いてろ過すればよい。なお、メンブレンは第1溶媒に対して溶解しないものであることは言うまでもない。本発明の分離工程において適用可能なメンブレンとしては、ろ紙、ニトロセルロース系、などが挙げられる。
【0048】
他方、乾燥は公知の真空乾燥機などを用いて第1溶媒を蒸発させればよい。また、本分離工程は、ろ過および乾燥を組み合わせて行われてもよい。すなわち、ろ過によって分離されたポリ乳酸の結晶(球晶)を、さらに真空乾燥機などで乾燥させてもよい。
【0049】
(4)洗浄工程
本発明の製造方法は、上記分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶と、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い第2溶媒とを接触させ、ポリ乳酸の結晶を洗浄する洗浄工程が含まれていてもよい。本洗浄工程によれば、残存する第1溶媒や、その他のきょう雑物を除去することができる。
【0050】
本洗浄工程で用いられる第2溶媒は、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い溶媒である。室温(25℃)におけるポリ乳酸の溶解度と、室温(25℃)における第1溶媒の溶解度とを測定し、後者が前者に比して高い溶媒を第2溶媒とすればよい。第2溶媒としては、上記の性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、乾燥により除去しやすいとの理由によりアルコール類などの揮発性溶媒が好ましい。第2溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどの室温で液体状態のアルコール類が挙げられる。上記の中でも特にメタノール、およびエタノールが好ましい。
【0051】
かかる洗浄工程は、分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶に第2溶媒を添加し、よく混合した後、ろ過やデカンテーション操作を行って、ポリ乳酸の結晶を取得すればよい。上記の操作によって、ポリ乳酸の結晶に残存する第1溶媒が第2溶媒に抽出され、当該第2溶媒とポリ乳酸の結晶とを再び分離することによって、残存する第1溶媒を除去することができる。なお、上記操作は複数回繰り返し行われてもよい。上記操作を複数回行うことによって、ポリ乳酸の結晶に残存する第1溶媒や、きょう雑物を確実に除去することができる。
【0052】
(5)乾燥工程
乾燥工程は、上記洗浄工程後のポリ乳酸の結晶を乾燥する工程である。乾燥は公知の真空乾燥機などを用いて第1溶媒を蒸発させてもよいし、自然乾燥によって第1溶媒を蒸発させてもよい。第2溶媒として上記例示したアルコール類を用いた場合、揮発性が高いために、本乾燥工程は容易に実施され得る。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0054】
〔実施例1〕
L体分率が99.8%のポリL−乳酸(入手先:Purac Biochem(オランダ))を用いた。o−ジクロロベンゼンを含むアンプル管に、濃度が10質量%となるようにポリL−乳酸を添加した。アンプル管内の空気を窒素で置換し、ガスバーナーを用いてアンプル管を封管した。封管されたアンプル管を160℃のオイルバス中に7分間浸し、ポリL−乳酸を溶融させた(溶融工程)。アンプル管を、0℃、30℃、45℃、または60℃に設定された水浴中に15分間浸漬した(冷却工程)。
【0055】
アンプル管内に生成した粒子状物質をろ過により集め(分離工程)、粒子状物質約0.2gに対して10mlのメタノールを添加して洗浄した後(洗浄工程)、ろ過により粒子状物質を集めた。集めた粒子状物質を真空乾燥することによってポリ乳酸多孔質粒子を調製した(乾燥工程)。
【0056】
調製された試料から10個のポリ乳酸多孔質粒子を無作為に選抜し、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という)観察を行ってその粒子径を測定した。
【0057】
SEM観察には、JSM−5200(JEOL)を使用した。ポリ乳酸多孔質粒子を24時間真空乾燥機で乾燥させた後、金スパッタリングを行うことによって、SEM用の試料を調製した。測定条件は、金スパッタリング300Å、加速電圧20kv、作動距離20mmであった。
【0058】
実施例1で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像を、図1および2に示した。図1(a)は冷却工程を0℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、図1(b)は冷却工程を30℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、図1(c)は冷却工程を45℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、図1(d)は冷却工程を60℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)である。また図2(a)は冷却工程を0℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、図2(b)は冷却工程を30℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、図2(c)は冷却工程を45℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、図2(d)は冷却工程を60℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)である。また図3に冷却工程における冷却温度とポリ乳酸多孔質粒子の粒子径との関係を示す。
【0059】
図1および2より、冷却温度が0℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径を測定した結果を表1に示す。表1中「測定値」は、ポリ乳酸多孔質粒子の粒子径の測定値を示し単位は(μm)である(以下表3、5、7、10および12において同じ)。表1中「A」は測定値を表し、「A」は平均値を表す(以下表3、5、7、10および12において同じ)。
【0060】
【表1】

【0061】
表1によれば、冷却温度が0℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は80〜120μmであり、平均粒子径は99μm、変動係数13.1%であることがわかった。
【0062】
図1および2より、冷却温度が0℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の孔径を測定した結果を表2に示す。表2中「測定値」は、ポリ乳酸多孔質粒子の孔径の測定値を示し単位は(μm)である(以下表2、4、6、8、11および13において同じ)。表1中「A」は測定値を表し、「A」は平均値を表す(以下表2、4、6、8、11および13において同じ)。
【0063】
【表2】

【0064】
表2によれば同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.13〜0.38μmであり、平均孔径は0.27μm、変動係数33%であることがわかった。
【0065】
また図1および2より、冷却温度が30℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径を測定した結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3によれば、冷却温度が30℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は240〜440μmであり、平均粒子径は343μm、変動係数17.5%であることがわかった。
【0068】
図1および2より、冷却温度が30℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の孔径を測定した結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4によれば、同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.18〜0.66μmであり、平均孔径は0.39μm、変動係数41%であることがわかった。
【0071】
また図1および2より、冷却温度が45℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径を測定した結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
表5によれば、冷却温度が45℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は460〜720μmであり、平均粒子径は581μm、変動係数12.9%であることがわかった。
【0074】
図1および2より、冷却温度が45℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の孔径を測定した結果を表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表6によれば、同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.18〜1.02μmであり、平均孔径は0.48μm、変動係数52%であることがわかった。
【0077】
また図1および2より、冷却温度が60℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径を測定した結果を表7に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
表7によれば、冷却温度が60℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は450〜1050μmであり、平均粒子径は700μm、変動係数25.3%であることがわかった。
【0080】
図1および2より、冷却温度が60℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の孔径を測定した結果を表8に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
表8によれば、同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.48〜2.65μmであり、平均孔径は1.4μm、変動係数56%であることがわかった。
【0083】
図1〜3によれば、冷却工程における冷却温度を0℃、30℃、45℃、または60℃に設定することで、種々の粒子径および孔径を有するポリ乳酸多孔質粒子が得られることがわかった。冷却温度が高くなるほど、粒子径、および孔径が大きくなることがわかり、冷却温度を所定の温度にすることで、ポリ乳酸粒子の粒子径および孔径を所望の範囲に制御することができるということがわかった。
【0084】
次に、各冷却温度によって得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度を示差走査熱測定法(DSC法)にて測定した。示差走査熱測定装置(DSC装置)としてRigaku社製 DSC8230Dを用いた。DSC法は、5〜10mgの試料をアルミパンに詰め、DSC装置内に窒素を微量流しながら5℃/分で室温から150℃まで5℃/分で昇温して行われた。結晶化度χは、次式で求められる。
(式) χ(%)=ΔH÷ΔHf×100
上式中ΔHはDSC装置で実測したサンプルの融解熱を示し、ΔHは100%結晶ポリ乳酸の平衡融解熱を示す。
【0085】
各冷却温度によって得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度を測定した結果を、表9および図6に示す。
【0086】
【表9】

【0087】
表9および図6によれば、冷却温度が0℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は51.6%で、冷却温度が30℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は61.7%で、冷却温度が45℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は62.3%で、冷却温度が60℃であった場合に得られたポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は63.2%であることが分かった。また冷却温度が高いほど結晶化度を高くすることができるということも確認された。
【0088】
〔実施例2〕
L体分率が99.8%のポリL−乳酸(入手先:Purac Biochem)を用いた。フタル酸ジエチルを含むアンプル管に、濃度が10質量%となるようにポリL−乳酸を添加した。アンプル管内の空気を窒素で置換し、ガスバーナーを用いてアンプル管を封管した。封管されたアンプル管を160℃のオイルバス中に7分間浸し、ポリL−乳酸を溶融させた。アンプル管を、0℃に設定された水浴中に15分間浸漬した。その後は、実施例1と同様にした。
【0089】
実施例2で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像を、図4に示した。図4(a)は倍率が1000倍のSEM像、図4(b)は倍率が10000倍のSEM像である。図4より、実施例2で得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は30〜50μmであり、平均粒子径は40μm、変動係数22.4%であることがわかった(表10を参照のこと)。
【0090】
【表10】

【0091】
また同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.18〜0.54μmであり、平均孔径は0.32μm、変動係数31%であることがわかった(表11を参照のこと)。
【0092】
【表11】

【0093】
〔実施例3〕
L体分率が83.0%のポリL/D−乳酸を用いた。o−ジクロロベンゼンを含むアンプル管に、濃度が10質量%となるようにポリL/D−乳酸を添加した。アンプル管内の空気を窒素で置換し、ガスバーナーを用いてアンプル管を封管した。封管されたアンプル管を160℃のオイルバス中に7分間浸し、ポリL−乳酸を溶融させた。アンプル管を、0℃に設定された水浴中に15分間浸漬した。その後は、実施例1と同様にした。
【0094】
実施例3で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像を、図5に示した。図5(a)は倍率が200倍のSEM像、図5(b)は倍率が10000倍のSEM像である。図5より、実施例3で得られたポリ乳酸多孔質粒子の粒子径は150〜220μmであり、平均粒子径は185μm、変動係数12.1%であることがわかった(表12を参照のこと)。
【0095】
【表12】

【0096】
また同ポリ乳酸多孔質粒子の孔径は0.18〜0.72μmであり、平均孔径は0.40μm、変動係数40%であることがわかった(表13を参照のこと)。
【0097】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、医薬除放制御や生体組織再生用の足場として利用する際に好適な数100ナノメートルから数マイクロメートルオーダーの微細孔を有するポリ乳酸多孔質粒子を、極めて簡便な方法で作製することができるようになった。よって本発明は、ドラッグデリバリーシステムや再生医療の最新医療の分野において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像であり、(a)は冷却工程を0℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、(b)は冷却工程を30℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、(c)は冷却工程を45℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)、(d)は冷却工程を60℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×1000)である。
【図2】実施例1で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像であり、(a)は冷却工程を0℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、(b)は冷却工程を30℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、(c)は冷却工程を45℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)、(d)は冷却工程を60℃で行ったポリ乳酸多孔質粒子のSEM像(倍率×10000)である。
【図3】実施例1において製造した各種ポリ乳酸多孔質粒子について、冷却工程における冷却温度とポリ乳酸多孔質粒子の粒子径との関係を示す図である。
【図4】実施例2で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像であり、(a)は倍率が1000倍のSEM像、(b)は倍率が10000倍のSEM像である。
【図5】実施例3で得られたポリ乳酸多孔質粒子のSEM像であり、(a)は倍率が200倍のSEM像、(b)は倍率が10000倍のSEM像である。
【図6】実施例1において、冷却温度とポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度との関係をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸多孔質粒子の製造方法であって、下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴とする製造方法:
(i)ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱して溶融する溶融工程;
(ii)前記溶融工程によって得られた溶融液を、ポリ乳酸が結晶化する温度で冷却する冷却工程。
【請求項2】
(iii)上記冷却工程後の溶融液からポリ乳酸の結晶を分離する分離工程をさらに含む、請求項1に記載のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法。
【請求項3】
(iv)上記分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶と、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い第2溶媒とを接触させ、ポリ乳酸の結晶を洗浄する洗浄工程をさらに含む、請求項2に記載のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法。
【請求項4】
(v)上記洗浄工程後のポリ乳酸の結晶を乾燥する乾燥工程をさらに含む、請求項3に記載のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリ乳酸多孔質粒子の製造方法によって得られるポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項6】
多孔構造を構成する孔の平均孔径が0.27μm〜1.4μmの範囲であることを特徴とするポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項7】
球状である請求項6に記載のポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項8】
平均粒子径が99〜700μmの範囲である請求項6または7に記載のポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項9】
結晶化度が50%以上である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項10】
ポリ乳酸多孔質粒子の粒子径の変動係数が25%以下である、請求項6ないし9のいずれか1項に記載のポリ乳酸多孔質粒子。
【請求項11】
請求項5ないし10のいずれか1項に記載のポリ乳酸多孔質粒子からなる、医療用基材。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242728(P2009−242728A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93877(P2008−93877)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月13日 龍谷大学大学院理工学研究科発行の「2007年度(平成19年度)修士論文要旨集」に発表
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】