説明

ポルトランドセメント

【課題】本発明は、全Cr量が多い場合であっても水溶性Cr(IV)量が少なく、製造が容易でかつ廃棄物の利用率を維持することができるポルトランドセメントを提供する。
【解決手段】本発明は、ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメントであって、SO(ただし、石膏由来のSOを除く。)の含有率が0.25〜1.5質量%、KOの含有率が0.3〜0.55質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり70〜150mgである、ポルトランドセメントを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の六価クロム(Cr(IV))の少ないポルトランドセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源リサイクルを主な目的として、産業廃棄物や一般廃棄物などの廃棄物が、セメント原料の一部代替に使われている。通常、これらの廃棄物はクロム(Cr)等を含むため、該廃棄物を原料の一部に用いて製造したセメントから、Cr等が溶出する虞がある。
セメント原料中のCrの多くは三価クロム(Cr(III))であるが、これがセメント原料の焼成工程において有害性がより高いCr(IV)に変化すること、そして、このCr(IV)の多くは、セメントクリンカ(以下「クリンカ」という。)中では、共存するアルカリ金属と結合して水溶性のアルカリ金属塩、特に、大部分はカリウム(K)塩の形態で存在すると考えられている。そのため、セメント業界ではガイドラインを設けて、セメント1kg中の水溶性Cr(IV)の含有量(以下「量」という。)を20mg以下と規定している。
【0003】
前記のように、クリンカ中の水溶性Cr(IV)がカリウム塩の形態で存在するのであれば、KO量は水溶性Cr(IV)量を反映すると予想され、クリンカ中のKが少ないほど水溶性Cr(IV)は少ないと考えられる。
かかる考察に基づき、クリンカ中のKO量等を用いて規定した水溶性Cr(IV)低減セメント組成物が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、クリンカー中のKO量と全Cr量が、全Cr量×10≦−222×KO量+225の関係を満たす、水溶性六価クロム低減セメント組成物等が提案されている。また、特許文献2では、セメントクリンカー中の全Cr量が50〜140mg/kgおよびKO/NaOと全アルカリ量との積が1.05以下である、水溶性六価クロム低減セメント組成物等が提案されている。
【0005】
前記文献1および2の水溶性六価クロム低減セメント組成物は、全Cr量が増えても水溶性Cr(IV)量が前記ガイドライン値を満足するものである。しかし、該組成物は、全Cr量が約100mg/kg以上になると、水溶性Cr(IV)量がガイドラインの上限値である20mg/kgに近い値になるため、より一層の水溶性Cr(IV)量の低減が求められている。
【0006】
また、前記文献1および2の水溶性六価クロム低減セメント組成物は、全Cr量が約80mg/kgと少ない場合でも、水溶性Cr(IV)量を少なくするためには、KOの含有率を約0.26%以下にすることが必要な場合がある。現在製造されているセメント中のKOの含有率は概ね0.3〜0.5%の範囲にあるから、KO量を約0.26%以下にするためには、セメント製造において、例えば、廃棄物の利用量を減らすなどのKO量を減らす手段を講じる必要がある。
しかし、廃棄物リサイクルの社会的要請などからセメント原料等として廃棄物の利用が進んだ現状では、廃棄物の利用率を低下させることは現実的ではない。また、強いてKO量を前記値以下にしようとすると、原料の調製に多大な手間がかかる。
以上のことから、KO等のアルカリ量の制限を規定した水溶性六価クロム低減セメント組成物では、廃棄物の利用率の低下や原料調製の難しさが、製造上問題になる可能性がある。
【0007】
したがって、KO量で規定する代わりに、廃棄物の利用率を低下させず、また原料の調製が容易な他の指標を用いて水溶性六価クロム低減セメント(組成物)を規定することができれば、廃棄物の利用率の維持や製造の容易さの点から極めて有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−179502号公報
【特許文献2】特開2008−179503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、廃棄物の利用率を維持でき製造が容易な、水溶性Cr(IV)の少ないポルトランドセメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、セメントに含まれる化学成分と水溶性Cr(IV)との関連について種々検討したところ、i)SOが水溶性Cr(IV)の生成を抑制する効果があること、そして、SOおよびKOの含有率と全Cr量が特定の範囲にあるポルトランドセメントは、ii)全Cr量が多い場合であっても水溶性Cr(IV)量が少ないこと、また、iii)該セメントの製造ではKO量を減らす必要がないこと、を見い出し本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[3]を提供する。なお、以下、「%」は特に示さない限り「質量%」である。
[1]ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメントであって、SO(ただし、石膏由来のSOを除く。)の含有率が0.25〜1.5%、KOの含有率が0.3〜0.55%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり70〜150mgである、ポルトランドセメント。
[2]前記KOの含有率および前記SOの含有率が下記式を満たす、前記[1]に記載のポルトランドセメント。
O<0.31×SO+0.19
(式中、KOおよびSOは、それぞれKOおよびSOの前記含有率(%)を表す。)
[3]石膏由来のSOの含有率が1.0〜4.0%である、前記[1]または[2]に記載のポルトランドセメント。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポルトランドセメントは、全Cr量が多い場合であっても水溶性Cr(IV)量が少なく、製造が容易でかつ廃棄物の利用率を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポルトランドセメントは、前記のように、SO(ただし、石膏由来のSOを除く。)の含有率が0.25〜1.5%、KOの含有率が0.3〜0.55%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり70〜150mg等である。
以下に、本発明のポルトランドセメントについて詳細に説明する。
【0014】
1.本発明のポルトランドセメントの含有成分
(1)石膏由来のSOを除くSOについて
前記SOは、クリンカの成分としてのSOや高炉スラグや石灰石等の少量混合成分に由来するSOを含むが、セメント製造の仕上工程において添加する石膏に由来するSOは含まない。
また、前記SOの含有率は0.25〜1.5%である。本発明において得られた知見によれば、SOはCr(IV)よりも優先してKと結合し硫酸カリウムが生じ、水溶性Cr(IV)の生成を阻害するものと推察される。したがって、SOの含有率が0.25%未満では、水溶性Cr(IV)の生成を阻害する効果が十分でなく、該含有率が1.5%を超えると、硫酸カリウムの生成量が多くなり、該硫酸カリウムによって、コンクリート等に対する減水剤の流動化効果が阻害され、コンクリート等の流動性が低下する場合がある。
【0015】
(2)KOについて
前記KOの含有率は0.3〜0.55%である。該含有率が0.3%未満では、原料の調製に手間がかかり、該セメントを製造するのが困難となる場合がある。該含有率が0.55質量%を越えると、水溶性Cr(IV)の生成を阻害する効果が十分でない場合がある。また、硫酸カリウムによりコンクリート等に対する減水剤の流動化効果が阻害され、コンクリート等の流動性が低下する場合がある。さらには、コンクリート等の耐久性が低下する場合もある。
【0016】
(3)全Crについて
前記全Cr量はポルトランドセメント1kgあたり70〜150mgである。該量が70mg/kg未満では、アルカリ量、特にKO量の調整のみで水溶性Cr(IV)量を減らせるので、SOの含有率を規定する必要はなく、したがってSOの含有率を規定する本発明の対象外である。また、該量が150mg/kgを越えると、水溶性Cr(IV)水量を減らすことは難しい。
また、全Cr量の範囲は、ポルトランドセメント1kgあたり、好ましくは80〜148mg/kgであり、より好ましくは90〜147mg/kgであり、さらに好ましくは100〜145mg/kgである。
【0017】
2.SOとKOの関係
本発明のポルトランドセメントは、好ましくは、前記KOの含有率および前記石膏由来のSOを除くSOの含有率が、下記式を満たすものである。
O<0.31×SO+0.19
(式中、KOおよびSOは、それぞれKOおよびSOの前記含有率(%)を表す。)
前記のように、SOはKと結合して水溶性Cr(IV)の生成を阻害すると考えられ、SOはKに比べ十分な量が必要なため、SOの含有率はKOの含有率に対し前記式を満たすことが好ましい。
【0018】
3.ポルトランドセメント
本発明のポルトランドセメントは、石膏由来のSOの含有率が1.0〜4.0%であるるものである。
石膏の含有率が前記範囲にあれば、ポルトランドセメントの強度発現性は高く流動性も良好である。
ここで石膏は、特に制限されず、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏および無水石膏等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。また、石膏のブレーン比表面積は、2000〜5000cm/gが好ましく、3000〜4500cm/gがより好ましい。該値が2000〜5000cm/gの範囲を外れると、強度発現性が低下したり、水和熱が大きくなるおそれがある。
【0019】
なお、ポルトランドセメントとは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントおよび白色ポルトランドセメントをいう。これらのセメント鉱物組成は、一般に、CSが29〜70%、CSが5〜60%、CAが2〜12%、および、CAFが1〜14%である。
【0020】
ここで、前記CS、CS、CAおよびCAFの含有率は、下記のボーグ式(i)〜(iv)を用いて算出する。
S(%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO(%)−6.72×Al(%)−1.43×Fe(%)−2.85×SO(%) ・・・(i)
S(%)=2.87×SiO(%)−0.754×CS(%) ・・・(ii)
A(%)=2.65×Al(%)−1.69×Fe(%) ・・・(iii)
AF(%)=3.04×Fe(%) ・・・(iv)
(式中の化学式は、クリンカの原料中またはクリンカ中における、化学式が表す化合物の含有率を表す。)
前記ポルトランドセメントは、さらに高炉スラグ、石灰石粉末、フライアッシュなどの少量混合成分を含むことができる。
【0021】
4.ポルトランドセメントの製造方法
該製造方法は、以下の(1)原料調合工程、(2)焼成工程、および、(3)仕上工程を含むものである。
(1)原料調合工程
該工程では、カルシウム原料、ケイ素原料、アルミニウム原料および鉄原料等のクリンカ原料を、前記(i)〜(iv)式のボーグ式を用いて、前記セメント鉱物等の組成の範囲になるように調合する。ここで、カルシウム原料として石灰石、生石灰、消石灰等が、ケイ素原料として珪石、粘土等が、アルミニウム原料として粘土等が、鉄原料として鉄滓、鉄ケーキ等が、イオウ原料として石膏等が挙げられる。
【0022】
また、前記クリンカ原料は、天然原料のほか、産業廃棄物、一般廃棄物および/または建設発生土等の廃棄物を、クリンカ原料の一部代替として用いることができる。
前記産業廃棄物として、例えば、石炭灰、生コンクリートスラッジ、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、高炉二次灰、建設廃材、およびコンクリート廃材等が挙げられる。
また、前記一般廃棄物として、例えば、浄水汚泥、下水汚泥、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻、および下水汚泥焼却灰等が挙げられる。
また、前記建設発生土として、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土などが挙げられる。
なお、調合原料の粉末度を調整する必要がある場合は、ボールミル等の原料粉砕機で所定の粉末度になるまで粉砕して調整する。
【0023】
(2)焼成工程
前記調合原料をロータリーキルン等の焼成炉で焼成した後、エアー・クエンチングクーラーなどで冷却することによりクリンカが得られる。
ここで、焼成温度は、1000〜1450℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。該温度が1000〜1450℃の範囲であれば、水硬性の高いセメント鉱物が生成する傾向がある。また、焼成時間は、30〜120分が好ましく、40〜60分がより好ましい。該時間が30分未満では焼成が十分でなく、120分を超えると生産性が低下する。
【0024】
(3)仕上工程
前記クリンカに石膏を添加し、ボールミルやロッドミル等の粉砕機を用いて粉砕することによりポルトランドセメントが得られる。該組成物の粉末度は、強度発現性、作業性およびコスト等の観点から、ブレーン比表面積で3000〜4600cm/gが好ましく、3100〜4500cm/gがより好ましい。なお、混合方法として、前記の混合粉砕のほかに、クリンカと石膏を別々に粉砕した後に両者を混合してもよい。
また、前記の粉砕の操作において、クリンカと石膏をそのまま粉砕してもよいが、好ましくは、粉砕効率を高めるために粉砕助剤を添加して粉砕する。該粉砕助剤として、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、トリイソプロパノールアミンは、ポルトランドセメントの強度発現性が向上するため、より好ましい。これらの粉砕助剤の添加比率は、クリンカ100質量部に対し0.01〜1質量部が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.クリンカの製造
クリンカ原料として、石灰石、粘土、鉄滓、石膏、化学組成とKO量がそれぞれ異なる2種類の建設発生土、および、化学組成とCr量がそれぞれ異なる2種類の下水汚泥を用いた。また、調合原料は、クリンカの鉱物組成が、CS;58.0±2.0%、CS;17.0±2.0%、CA;9.5±0.5%、およびCAF;9.5±0.5%になるように前記クリンカ原料を混合して調製した。
次に、得られた調合原料の焼成は、小型のロータリーキルンを用い、焼成温度が1450℃で、クリンカ中のフリーライム(f−CaO)量が0.2±0.2%になるように焼成時間を調整して行いクリンカを得た。
【0026】
2.ポルトランドセメントの製造
前記クリンカに対し、石膏の含有率がSO換算で3%になるように、二水石膏(関東化学社製 試薬1級)と半水石膏(関東化学社製 試薬1級)をSO3換算で同量添加した後、小型ミルで粉砕してブレーン比表面積が3200±200cm/gのポルトランドセメント1〜6を製造した。ポルトランドセメント1〜6のKOの含有率、SOの含有率、全Cr量および水溶性Cr(IV)量を表1に示す。
【0027】
【表1】

注)表中のSOは石膏由来のSOを除く。
【0028】
表1に示すように、実施例のポルトランドセメント1〜4は、水溶性Cr(IV)量が12mg/kg以下と少なく、すべて前記ガイドライン値(20mg/kg)を満たしている。これらの中でも、KO<0.31×SO+0.19の関係を満たすポルトランドセメント1〜3は水溶性Cr(IV)量が6〜10mg/kgとより少なくなっている。特に、ポルトランドセメント1および2は、全Cr量が136〜138mg/kgと非常に多いにもかかわらず、水溶性Cr(IV)量は10mg/kg以下と少なくなっている。
これに対し、比較例のポルトランドセメント5はKOの含有率が、またポルトランドセメント6はSOの含有率が、本発明において規定する範囲(それぞれ0.3〜0.55%および0.25〜1.5%)から外れ、水溶性Cr(IV)量は20mg/kgを越えており、前記ガイドライン値を満たしていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメントであって、SO(ただし、石膏由来のSOを除く。)の含有率が0.25〜1.5質量%、KOの含有率が0.3〜0.55質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり70〜150mgである、ポルトランドセメント。
【請求項2】
前記KOの含有率および前記SOの含有率が下記式を満たす、請求項1に記載のポルトランドセメント。
O<0.31×SO+0.19
(式中、KOおよびSOは、それぞれKOおよびSOの前記含有率(質量%)を表す。)
【請求項3】
石膏由来のSOの含有率が1.0〜4.0質量%である、請求項1または2に記載のポルトランドセメント。

【公開番号】特開2013−95654(P2013−95654A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242833(P2011−242833)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)