説明

ポンプ・モータの軸受構造

【課題】ハウジングに対して回転シャフトをそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造を提供する。
【解決手段】ハウジングに対して回転シャフト1をその中心軸まわりに回転可能に支持し、かつそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造であって、回転シャフト1を回転可能に両持ち支持する第一、第二インサイドプレート11、12と、第一インサイドプレート11を転接させる対の第一フラットローラベアリング21、22と、第二インサイドプレート12を転接させる対の第二フラットローラベアリング31、32とを備え、対の第二フラットローラベアリング31、32を回転シャフト1の中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して回転シャフトがそのラジアル方向に相対変位するポンプ・モータの軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のポンプ・モータとして、可変容量型油圧ベーンポンプが特許文献1に開示されている。
【0003】
この油圧ベーンポンプは、回転シャフトと共に図示しないロータが回転し、ロータに設けられるベーンを介して作動油が加圧されるようになっている。そして、ロータとベーンとの間でポンプ室を画成するカムリングがハウジングに対してスライドすることにより、ポンプ押しのけ容積が変化し、作動油の吐出流量が変えられる。
【0004】
また、特許文献2には、モータ軸をそのスラスト方向にスライド可能に支持する構造が開示されている。
【特許文献1】特開2000−104672号公報
【特許文献2】特開2006−112545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のポンプ・モータにあっては、ハウジングに対して回転シャフトをそのラジアル方向にスライド可能に支持する場合、回転シャフトの振れを抑えるために、回転シャフトのスライド支持構造が複雑化し、実用化が難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ハウジングに対して回転シャフトをそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ハウジングに対して回転シャフトをその中心軸まわりに回転可能に支持し、かつそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造であって、回転シャフトを回転可能に両持ち支持する第一、第二インサイドプレートと、第一インサイドプレートをこれに転接する対の第一フラットローラベアリングを介してスライド可能に支持する第一支持部と、第二インサイドプレートをこれに転接する対の第二フラットローラベアリングを介してスライド可能に支持する第二支持部とを備え、第一フラットローラベアリングと対の第二フラットローラベアリングとの少なくとも一方を回転シャフトの中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、回転シャフトの振れが十分に抑えられ、回転シャフトのスライド支持構造を簡素化し、製品の信頼性を高められるとともに、コストダウンがはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、ポンプ・モータとして可変容量型の油圧ベーンポンプに設けられる回転シャフト1の支持構造を示す。
【0011】
油圧ベーンポンプは、回転シャフト1と共に図示しないロータが回転し、ロータに設けられるベーンを介してポンプ室が拡縮し、吸込ポートからポンプ室に作動油を吸入し、ポンプ室から吐出ポートに加圧された作動油を吐出するようになっている。そして、回転シャフト1が図示しないハウジングに対してY軸方向にスライド(平行移動)することにより、ポンプ押しのけ容積が変化し、作動油の吐出流量が変えられる。
【0012】
ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平前後方向、Y軸が略垂直方向、Z軸が略水平横方向に延び、回転シャフト1の中心軸がZ軸方向に延びるように配置されるものとし、回転シャフト1の支持構造を説明する。
【0013】
油圧ベーンポンプは、ハウジングに対して回転シャフト1をその中心軸まわりに回転可能に支持する回転支持機構を備えるとともに、ハウジングに対して回転シャフト1をY軸ラジアル方向にスライド可能に支持するスライド支持機構を備える。
【0014】
回転シャフト1の回転支持機構は、回転シャフト1をベアリング2、3を介して回転可能に両持ち支持する第一、第二インサイドプレート11、12を備える。
【0015】
回転シャフト1にはベアリング2、3の間に挟まれる部位1aにロータが取り付けられ、ベアリング2より突出する部位1bによって動力伝達が行われる。
【0016】
ベアリング2、3は、環状のインナーレース2a、3aと環状のアウターレース2b、3bとの間に複数の転動体2c、3cがそれぞれ介装され、ラジアル荷重とスラスト荷重を受ける軸受である。
【0017】
回転シャフト1にはベアリング2、3のインナーレース2a、3aが嵌合して固定される。一方、第一、第二インサイドプレート11、12にはベアリング2、3のアウターレース2b、3bが嵌合して固定される。
【0018】
このように回転シャフト1の回転支持機構は、回転シャフト1を第一、第二インサイドプレート11、12にベアリング2、3を介して回転可能に支持する。
【0019】
回転シャフト1のスライド支持機構は、第一インサイドプレート11を対の第一フラットローラベアリング21、22を介してスライド可能に支持する第一固定プレート(第一支持部)23と、第二インサイドプレート12を対の第二フラットローラベアリング31、32を介してスライド可能に支持する第二固定プレート(第二支持部)33とを備える。
【0020】
第一フラットローラベアリング21、22、第二フラットローラベアリング31、32は、平板状の本体に複数の転動体(図示せず)が収められ、各転動体に転接する第一、第二インサイドプレート11、12をそれぞれスライド可能に支持する。
【0021】
対の第一フラットローラベアリング21、22は、回転シャフト1の中程を挟むように配置され、XY平面に沿って第一固定プレート23に固定される。
【0022】
対の第一フラットローラベアリング21、22は、回転シャフト1の中心軸と直交するように配置される。
【0023】
第一インサイドプレート11には第一フラットローラベアリング21、22の転動体に転接する対のレール面11aと対のストッパ面11bが形成される。
【0024】
対のレール面11aは、回転シャフト1の中心軸と直交するように配置され、第一フラットローラベアリング21、22に平行に対峙する。
【0025】
対のストッパ面11bは、レール面11aの内側端部からレール面11aと直交して延び、回転シャフト1の中心軸と平行に配置され、第一フラットローラベアリング21、22の内側端部に対峙する。各ストッパ面11bが第一フラットローラベアリング21、22の内側端部に摺接することにより、回転シャフト1のX軸方向のラジアル荷重が支持され、第一インサイドプレート11の第一固定プレート23に対してX軸方向について所定の中央位置に保持される。
【0026】
図5の(a)、(b)は、回転シャフト1と第一固定プレート23と第一インサイドプレート11を図1においてZ軸左側から見た正面図であり、(a)では回転シャフト1が中央位置にあり、(b)では回転シャフト1が最上位置にある。第一固定プレート23には、回転シャフト1を挿通させる長円形の開口部23aが形成されている。
【0027】
第二フラットローラベアリング31、32は、回転シャフト1の端部を挟むように配置され、XY平面に対して傾斜し、互いに対向するように第二固定プレート33に固定される。これにより、第二フラットローラベアリング31、32は、回転シャフト1の中心軸と直交する平面に対して傾斜し、互いに対向するように配置される。
【0028】
図2は、第二固定プレート33のXZ平面に沿った横断面図であり、図中に回転シャフト1の中心軸Sを示している。第二フラットローラベアリング31、32は、回転シャフト1の中心軸Sについて対称的に配置され、回転シャフト1の中心軸Sに対してそれぞれ45°の傾斜角度を持つ。
【0029】
第二フラットローラベアリング31、32がそれぞれ受ける荷重は、回転シャフト1の回転方向によって差が生じる。これに対処して、回転シャフト1の中心軸Sに対する第二フラットローラベアリング31、32の傾斜角度θ31、θ32は、回転シャフト1から荷重を受けない自由状態で所定の角度差(例えば0.05°)を持ち、回転シャフト1から荷重を受けた負荷状態で第二固定プレート33が変形するのに伴って互いに等しい角度45°になるように設定される。
【0030】
なお、回転シャフト1の中心軸Sに対する第二フラットローラベアリング31、32の傾斜角度θ31、θ32は、45°に限らず、任意に設定する。
【0031】
図3は、第二インサイドプレート12のXZ平面に沿った横断面図であり、第二インサイドプレート12には第二フラットローラベアリング31、32の転動体に転接する対のレール面12aが形成される。
【0032】
図3において、各レール面12aは、回転シャフト1の中心軸Sに対してそれぞれ45°の傾斜角度を持つ。各レール面12aを第二フラットローラベアリング31、32に平行に対峙する。
【0033】
なお、回転シャフト1の中心軸Sに対する各レール面12aの傾斜角度は45°に限らず、第二フラットローラベアリング31、32の傾斜角度と等しくなるように設定する。
【0034】
図4は第二インサイドプレート12を図1においてZ軸右側から見た正面図であり、各レール面12aはY軸方向に延び、各レール面12aのY軸方向両端部12c〜12fは、ハウジング内に設けられる図示しない部品に一定のクリアランスを持つように円弧状に形成される。
【0035】
第二インサイドプレート12の上下端部12g、12hも、各レール面12aのY軸方向両端部12c〜12fと同じく、ハウジング内に設けられる図示しない部品に一定のクリアランスを持つように円弧状に形成される。
【0036】
これにより、第二インサイドプレート12がハウジング内の部品に干渉することがなく、第二フラットローラベアリング31、32の転動体に転接する各レール面12aの有効受圧面積を最大限に確保することができる。
【0037】
油圧ベーンポンプは、以上のように構成され、回転シャフト1と共に図示しないロータが回転し、ロータに設けられるベーンを介して作動油を加圧し、回転シャフト1がハウジングに対してY軸方向にスライドすることにより、ポンプ押しのけ容積が変化し、作動油の吐出流量が変えられる。
【0038】
回転シャフト1がハウジングに対してY軸方向にスライドするとき、第一インサイドプレート11のレール面11a、11bが対の第一フラットローラベアリング21、22に転接して支持されるとともに、第二インサイドプレート12の各レール面12aが対の第二フラットローラベアリング31、32に転接して支持される。
【0039】
対の第二フラットローラベアリング31、32は、回転シャフト1の中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置されるため、対の第二フラットローラベアリング31、32に各レール面12aが転接することにより、回転シャフト1の中心軸方向のスラスト荷重が支持され、図1において第二インサイドプレート12がZ軸方向右側に移動することを止めるとともに、回転シャフト1のX軸方向のラジアル荷重が支持され、第二インサイドプレート12がX軸方向について所定の中央位置に保持される。これにより、回転シャフト1はY軸方向にのみスライド可能に支持され、回転シャフト1の振れが十分に抑えられる。
【0040】
本実施の形態では、ハウジングに対して回転シャフト1をその中心軸まわりに回転可能に支持し、かつそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造であって、回転シャフト1を回転可能に両持ち支持する第一、第二インサイドプレート11、12と、第一インサイドプレート11をこれに転接する対の第一フラットローラベアリング21、22を介してスライド可能に支持する第一支持部(第一固定プレート23)と、第二インサイドプレート12をこれに転接する対の第二フラットローラベアリング31、32を介してスライド可能に支持する第二支持部(第二固定プレート33)とを備え、、対の第二フラットローラベアリング31、32を回転シャフト1の中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置したため、回転シャフト1の振れが十分に抑えられ、回転シャフト1のスライド支持構造を簡素化し、製品の信頼性を高められるとともに、コストダウンがはかれる。
【0041】
他の実施の形態として、対の第一フラットローラベアリング21、22を、対の第二フラットローラベアリング31、32と同様に、回転シャフト1の中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置してもよい。
【0042】
本実施の形態では、対の第一フラットローラベアリング21、22を回転シャフト1の中心軸に対して直交するように配置し、対の第二フラットローラベアリング31、32を回転シャフト1の中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置したため、回転シャフト1の振れが十分に抑えられ、円滑な作動が得られる。
【0043】
本実施の形態では、第二インサイドプレート12に第二フラットローラベアリング31、32に転接する対のレール面12aを形成し、対のレール面12aを第二フラットローラベアリング31、32に平行に対峙するように回転シャフト1の中心軸に対して傾斜させたため、第二インサイドプレート12がX軸方向について所定の中央位置に保持され、回転シャフト1の振れが十分に抑えられる。
【0044】
本実施の形態では、第二インサイドプレート12に第二フラットローラベアリング31、32に転接する対のレール面12aを形成し、対のレール面12aの端部をハウジング内に設けられる部品に一定のクリアランスを持つように円弧状に形成したため、第二インサイドプレート12がハウジング内の部品に干渉することがなく、第二フラットローラベアリング31、32の転動体に転接する各レール面12aの有効受圧面積を十分に確保することができる。
【0045】
本実施の形態では、回転シャフト1の中心軸Sに対する第二フラットローラベアリング31、32の傾斜角度θ31、θ32は、回転シャフト1から荷重を受けない自由状態で角度差を持ち、回転シャフト1から荷重を受ける負荷状態で第二固定プレート33が変形するのに伴って互いに等しくなるように設定したため、負荷状態で第二フラットローラベアリング31、32が対称的に配置され、回転シャフト1の振れが十分に抑えられる。
【0046】
他の実施の形態として、図6に示すように、第一支持部(第一固定プレート23)の軸方向外側に第一インサイドプレート11を配置するとともに、第二支持部(第二固定プレート33)の軸方向外側に第二インサイドプレート12を配置してもよい。
【0047】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポンプ・モータの軸受構造は、ベーンポンプに限らず、例えばピストンが往復動するポンプ・モータ、あるいは電動モータ・ジェネレータ、あるいは他の回転機等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態を示す回転シャフトの支持構造の斜視図。
【図2】同じく第二固定プレートのXZ平面に沿った横断面図。
【図3】同じく第二インサイドプレートのXZ平面に沿った横断面図。
【図4】同じく第二インサイドプレートの正面図。
【図5】同じく回転シャフト等の動きを示す正面図。
【図6】他の実施の形態を示す回転シャフトの支持構造の斜視図。
【符号の説明】
【0050】
1 回転シャフト
11 第一インサイドプレート
12 第二インサイドプレート
21、22 第一フラットローラベアリング
31、32 第二フラットローラベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対して回転シャフトをその中心軸まわりに回転可能に支持し、かつそのラジアル方向にスライド可能に支持するポンプ・モータの軸受構造であって、
前記回転シャフトを回転可能に両持ち支持する第一、第二インサイドプレートと、
前記第一インサイドプレートをこれに転接する対の第一フラットローラベアリングを介してスライド可能に支持する第一支持部と、
前記第二インサイドプレートをこれに転接する対の第二フラットローラベアリングを介してスライド可能に支持する第二支持部とを備え、
前記第一フラットローラベアリングと前記対の第二フラットローラベアリングとの少なくとも一方を前記回転シャフトの中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置したことを特徴とするポンプ・モータの軸受構造。
【請求項2】
前記対の第一フラットローラベアリングを前記回転シャフトの中心軸に対して直交するように配置し、
前記対の第二フラットローラベアリングを前記回転シャフトの中心軸に対して傾斜し、かつ互いに対向するように配置したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ・モータの軸受構造。
【請求項3】
前記第二インサイドプレートに前記第二フラットローラベアリングに転接する対のレール面を形成し、
前記対のレール面を前記第二フラットローラベアリングに平行に対峙するように前記回転シャフトの中心軸に対して傾斜させたことを特徴とする請求項1または2に記載のポンプ・モータの軸受構造。
【請求項4】
前記第二インサイドプレートに前記第二フラットローラベアリングに転接する対のレール面を形成し、
前記対のレール面の端部を前記ハウジング内に設けられる部品に一定のクリアランスを持つように円弧状に形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のポンプ・モータの軸受構造。
【請求項5】
前記回転シャフトの中心軸に対する前記第二フラットローラベアリングの傾斜角度は、前記回転シャフトから荷重を受けない自由状態で角度差を持ち、前記回転シャフトから荷重を受ける負荷状態で前記第二固定プレートが変形するのに伴って互いに等しくなるように設定したことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のポンプ・モータの軸受構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−185876(P2009−185876A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25394(P2008−25394)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】