マイクロチップ電気泳動方法および装置
マイクロチップ電気泳動、例えば、マイクロチップDGGEに有用な温度制御工程を含む分離方法およびそれを実施するための装置を提供する。
本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域において二本鎖核酸を分離する時の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法に関する。
本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域において二本鎖核酸を分離する時の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、予め設定された温度下で、その設定温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法および装置に関する。
【0002】
キャピラリー又はマイクロチップを用いた分離技術に関して、下記の先行技術が知られている。特表2001-515204号公報(特許文献1)には、流体の温度を決定するためのチャ
ンネルに操作可能に連結されたセンサーおよび温度に応答性のエネルギー源を備えるマイクロ流体システムが開示されている。特開2003-117409号公報(特許文献2)には、耐熱
性プラスチックを用いて成形されると共に、温度調整手段が設けられてなることを特徴とする微小化学用デバイスが開示されている。特開2004-279340号公報(特許文献3)には
、複数の温度センサーを備えるマイクロチップが開示されている。国際公開WO2002/090912号(特許文献4)には、マイクロチップ微細流路内の液相温度を蛍光物質からの発光強
度の検知によって非接触で測定することを特徴とするマイクロチップ微細流路内液相の温度測定方法が開示されている。しかしながら、これら先行技術は、二本鎖核酸の塩基配列の違いによる分離技術に関するものではない。
【0003】
キャピラリー内で二本鎖核酸を分離する技術に関与するものとして、特表平10-502738
号公報(特許文献5)が知られている。これは、電気泳動分離媒体中で非ミセル電気泳動により二本鎖核酸を分離する方法に関し、DNA塩基配列の違いにより変性温度が違うこと
を利用する。すなわち、この分離技術は、二本鎖間の水素結合を弱くするための条件として、変性剤の濃度勾配ではなく、経時的温度勾配を利用している。
【特許文献1】特表2001-515204号公報
【特許文献2】特開2003-117409号公報
【特許文献3】特開2004-279340号公報
【特許文献4】国際公開WO2002/090912号
【特許文献5】特表平10-502738号公報 本願は、二本鎖核酸(以下「核酸試料」ともいう)の分離工程において、予め設定されたほぼ一定の温度下での変性剤の作用により二本鎖核酸を変性させ、分離するマイクロチップ電気泳動方法に関する。先ず本発明者は、このタイプの電気泳動を行う場合に、ゲル温度がその検出結果に如何なる影響を与えるか調べた。
【0004】
図11は、異なる設定温度で均一変性剤濃度ゲル電気泳動(CDGE)により二本鎖核酸を分離した結果を示す。レーン1、レーン2は塩基配列の異なる試料、レーン3はレーン1とレーン2の試料の混合物である。45℃、52.5℃、55℃では全く分離できていないが、47.5℃ではわずかに分離ができており、50℃では完全に分離されている。よって均一変性剤濃度ゲル電気泳動では、±1℃以下の精度で温度制御が必要であることが予測できる。今
回使用した試料より塩基配列の違いが少ない場合、さらに高精度な温度制御が必要である。
【0005】
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)の場合、変性剤の濃度勾配でCDGEよりも分解能がよくなるため、実際の温度制御の精度はCDGEほど厳しく要求されない。しかし、同様に温度依存性があるため、温度変化は、DGGEの検出結果の再現性および検出効率(塩基配列の違いを分離できる効率)に実質的な影響を与えると予期された。
【0006】
このように、分離に最適な温度として予め設定された任意の温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動においては、その設定温度を高精度に温度制御しなければ、高い再現性、高い検出効率が得られないことが分かった。
【0007】
一方、マイクロチップにおける温度制御に関しては別の問題も存在する。マイクロチップは熱容量が小さく、一般に温度制御が困難である。例えばヒーターの温度に敏感に応答しやすく、あるいはヒーターの温度分布がそのまま反映されやすい。その反面、熱放散が容易なので、温度の上げ下げをしようとする場合(例えばPCR反応)には、素早く温度変
化できるというマイクロチップの有利な面であるとも言える。しかし、この特性は、分離用マイクロチャンネル全体に均一であるべき設定温度の高精度な制御を実現するには不都合である。特にマイクロチップの素材として使用されるガラスやプラスチックは、金属に比べて熱伝導性が悪く、温度制御が困難である。例えば、局所的に温度が上昇しやすい。
【0008】
さらに、分離用マイクロチャンネル内に核酸試料を導入する工程(具体的には、試料導入用マイクロチャンネル内からの導入工程)では、試料分離(すなわち、DNA変性)が起
こらないことが好ましい。導入される核酸試料がDNA変性温度に曝されると、試料導入用
マイクロチャンネル内でDNA分離が始まってしまうので、均一な核酸試料の適正な導入が
妨げられる。また、核酸試料を検出する工程(または検出領域)においても、変性温度であるとDNAを染色する色素が脱落してしまうので検出感度が低下する。
【0009】
ところで、キャピラリーを用いる場合の温度制御法は、特表平10-502738号公報(特許
文献5)に記載されているように幾らか検討が進められている。同公報が主題とするのは、キャピラリー内の経時的温度勾配形成のために好適な制御方法である。一般にキャピラリー電気泳動は、分離用マイクロチャンネルとしての一本の独立したキャピラリーが用いられるため、そのような構成上、キャピラリー全体を対象とした外部操作等による温度制御を適用することは容易である。しかしながら、マイクロチップは、キャピラリーの場合と異なり、複数のマイクロチャンネルが一枚のプレート内に存在するのが通常である。例えば、典型的なDGGEマイクロチップでは、一枚のプレート内に目的の異なる試料導入用マイクロチャンネルと分離用マイクロチャンネルとが互いに交差する複雑な構成を有する。
【0010】
以上説明したように、マイクロチップ電気泳動、特にマイクロチップ変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(以下「マイクロチップDGGE」)の制御については、その素材上の制約や複雑なチャンネル構成等に起因する特有の課題が存在するため、キャピラリーの場合とは別の側面または異なる視点から、適切な温度制御方法を検討することが必要である。
【0011】
発明の概要
本発明の目的は、マイクロチップ電気泳動、例えば、マイクロチップDGGEに有用な温度制御工程を含む分離方法およびそれを実施するための装置を提供することにある。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、マイクロチップ電気泳動の実施には、意外なことに、設定温度をその±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下の範囲内に保つ高精度な温度制御が、高い再現性、高い検出効率をもたらすことを見出し、この新規な知見に基づいて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳
動方法を提供する。
【0014】
本法は、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内に導入する工程の間の温度、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内で分離する工程の間の温度、および分離された二本鎖核酸を検出する工程の間の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御するとしてもよい。
【0015】
本発明は、予め設定された温度を維持しながら分離用マイクロチャンネル内で二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動装置であって、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御できる温度制御装
置を備えていることを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置を提供する。
【0016】
また、本発明の装置は、分離用マイクロチャンネル内に二本鎖核酸を導入するための試料導入用マイクロチャンネルの領域の温度、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度、および分離された二本鎖核酸を検出するための領域の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御できる温度制御装置を備えてもよい。
【0017】
本発明の装置は、マイクロチップ本体に1または複数の温度センサーが設けられているとよい。さらに、複数のヒーターが設けられているとよい。
他の側面において本発明者は、所定のヒドロキシエチルセルロース(HEC)をマイクロ
チップ電気泳動のDNA分離媒体として使用すると、従来DGGEに使用される固形ゲルに匹敵
するかそれ以上の分離能を有することを見出した。本発明は、マイクロチップ電気泳動の分離媒体として有用なヒドロキシエチルセルロースの使用にも関する。
【0018】
図12の(a)〜(d)は濃度の異なるヒドロキシエチルセルロース溶液でのDNA分離
量分離の結果である。(e)は従来の固形ゲル(ポリアクリルアミド)でのDNA分子量分
離の結果である。また(f)は、(d)と(e)の結果について、選択度(Selectivity
)を比較した結果である。選択度はDNA分離媒体のDNA分離能力の指標である。選択度が大きいほどDNAを分離する能力がある。(f)の横軸はDNAの大きさであり、各大きさにおける選択度が示されている。この実験の結果から示されるように、DGGEが標的とする200bp
付近を含む、75〜300bpの範囲では1.5%HEC溶液の方が、従来固形ゲルよりも優れている
ことが分かる。HEC濃度が1%以下では、DGGEチップに必要な分解能が得られず、また分離時間が長くなり、HEC濃度が2%以上では、マイクロチャンネル内にHEC溶液を充填する操
作が困難であろう。
【0019】
ただし、HEC濃度の最適値は使用するHECの特性(平均分子量や分子量分布など)に大きく依存する。上記の実験に基づくと、HEC濃度は、数平均分子量90,000〜105,000のヒドロキシエチルセルロースでは1.5%が好適であるが、平均分子量や分子量分布に依存して0.1〜10%の範囲を変動し得ると考えられる。その後、更なる検討により、1.5%HEC溶液より1.75%HEC溶液の方がさらに好ましいことが明らかとなった。
【0020】
上記の見地から、本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度を少なくとも±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下に制御し、さらに分離媒体として数平均分子量90,000〜105,000のヒドロキシエチルセルロースを使
用することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法にも関する。前記ヒドロキシエチルセルロースの約1.5%溶液を使用することが好ましい。さらに好ましくはヒドロキシエチルセルロースの約1.75%溶液を使用することが好ましい。
【0021】
好ましい態様の説明
本願は、予め設定された温度下でDNA変性剤の作用により核酸試料を分離するマイクロ
チップ電気泳動方法に関する。以下では、本発明の一態様であるマイクロチップDGGEを例にとって説明する。
【0022】
DGGEの原理は、尿素やホルムアミドなどのDNA変性剤により核酸塩基の電荷を中和する
ためヌクレオチド間の水素結合が切断され、二本鎖核酸が一本鎖核酸に解離する現象を利用するものである。核酸試料は、その一端にDNA変性剤濃度が高くても一本鎖核酸に解離
しにくい人工的なDNA配列(GCクランプ)を付けてPCR増幅した二本鎖核酸を含む。DNA変
性剤の濃度勾配が形成されたゲル中でGCクランプを付けた二本鎖核酸を電気泳動すると、ある変性剤濃度において、GCクランプが付いていない側の二本鎖核酸が一本鎖に解離し、その核酸分子の移動速度は小さくなる。二本鎖核酸が一本鎖に解離する変性剤濃度はその塩基配列に依存するため、同じ濃度勾配領域上で異なる塩基配列を有する二本鎖核酸分子を泳動すると、移動距離に差が生じる。こうして二本鎖核酸を塩基配列の違いによって分離することができる。
【0023】
二本鎖核酸を塩基配列の違いによって分離する場合、核酸試料の分離の可否や泳動距離の再現性は分離温度に大きく依存する。このことは本発明者によるCDGEの実験から示唆された通りである(図11)。この点、従来の固形ゲルを用いたDGGEでは、泳動の間にゲル全体が泳動槽内の温度制御された緩衝液に完全に浸されているので、ゲル全体の温度分布を均一に保つことは容易であった。このため、従来はゲルの温度分布やそのための特別な制御方法を検討することは特段必要とされなかった。
【0024】
マイクロチップDGGEにおいても通常規模のDGGE等と同様に、二本鎖核酸の変性程度の違いを利用して分離を実現するので温度依存性がある。この温度依存性は、マイクロチップの温度応答性の高さと温度制御の困難性のため、マイクロチップDGGEでは無視できない問題を引き起こす。マイクロチップを温度制御する場合に5〜6℃の範囲の温度分布はしばしば生じるが、一般的な合成反応または試薬反応等では許容範囲であることが多い。しかしながら、マイクロチップ電気泳動における高い温度依存性は、そのような温度のばらつきを許容できない。
【0025】
本発明のマイクロチップ電気泳動方法では、二本鎖核酸をその移動距離に依存して変動する変性剤の作用頻度に応じて分離する工程において、核酸試料を分離するのに適切とされる温度下で、その設定温度を少なくとも±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下の範囲内に維持するように制御し、これにより二本鎖核酸の適正な分離を可能にする。マイクロチップDGGEでは、核酸試料を分離する時の温度を設定温度の±2.5℃以下の範囲内に制御しな
ければ、本来分離可能である核酸試料も分離できないということにもなる。つまり設定温度の±2.5℃以下の範囲内を維持するように制御することによって、核酸試料の適正な分
離結果を得ることの確実性が格段に向上する。さらに、設定温度を±1℃の範囲内で制御
することによって、分離の確実性の向上のみならず、核酸試料の検出時間の再現性が向上し、各検出時間から各二本鎖核酸を特定できる。特に塩基配列の違いが少ないDNA試料の
場合には、そのような高精度な温度制御が好ましい。設定温度を±1℃の範囲内で制御す
るためには、マイクロチップとヒーター間の熱伝導性を向上させることにより達成できる。例えば、マイクロチップとヒーターの間に熱伝導性の高い材料を挿入すればよい。使用される材料は熱伝導性が高いものであればいずれでもよく、好ましくは熱伝導率2×10-3cal/cm・sec・℃以上のもので、マイクロチップとヒーター間の空気層を無くし、密着性を高め、熱伝導性を向上させる材料であればよい。このような材料としては、アルミニウム、銅などの金属や熱伝導性グリース等が上げられる。
【0026】
本発明において「設定温度を所定の範囲内に制御すること」には、設定温度を基準に位置的な温度のばらつきを改善する制御(すなわち分離用マイクロチャンネルのある領域の長手方向の温度分布を小さくすること)、および/または設定温度を基準に経時的な温度のばらつきを改善する制御(すなわち分離工程の開始から終了まで一定の温度を維持すること)が含まれる。具体的には、分離用マイクロチャンネル全域の温度を設定温度の±2.
5℃以下、好ましくは±1℃以下に保つための制御、および/または分離用マイクロチャンネル内で核酸試料を分離する工程の間の温度を経時的に設定温度の±2.5℃以下、好まし
くは±1℃以下に保つための制御が含まれる。
【0027】
本発明において「設定温度」とは、核酸試料の適正な分離結果を得るために最適と考えられる温度であり、実際の使用にあたり設定すべき温度は、核酸の長さやGC含量のような分離対象の特性のほか、使用される分離媒体の特性等によって異なる。特定の分離対象および分離条件に関し、当業者は予備試験を行うことによって、最適な設定温度を知ることができる。本発明の「設定温度」は、基本的に、核酸が分離される工程の間に一定に維持されるべき温度である。
【0028】
本発明の好ましい方法では、核酸試料を分離用マイクロチャンネルに導入する工程(導入工程)の温度と、核酸試料を分離用マイクロチャンネルで分離する工程(分離工程)の温度と、核酸試料を検出する工程(検出工程)の温度を、それぞれ独立して制御する。
【0029】
導入工程と分離工程が同じ温度である場合、試料導入用マイクロチャンネルにおいても核酸の分離が起こるため、核酸試料を均一で偏りなく、つまり一定の濃度で分離用マイクロチャンネルに導入できない場合がある。分離し始めた核酸を導入しても、分離完了後に本来観察されるべき適正な核酸の濃度比(すなわち、分離バンド間の濃度比)にはならない。この問題を解決するため、本発明の一形態では、導入工程には分離が起こらない比較的低い温度を設定することにより、分離用マイクロチャンネル内に適正な濃度の核酸試料を導入することを可能にする。
【0030】
また検出工程と分離工程が同じ温度である場合、核酸の検出を、核酸が分離できるような高い温度で行うことになる。高い温度では核酸の蛍光染色剤の脱離が起こりやすく、検出される蛍光強度が減少するため、検出感度が低下する。この問題を解決するため、本発明の一形態では、検出工程の温度を分離工程の温度よりも低く制御し、検出感度を維持して微量な核酸試料を検出可能にする。
【0031】
本法を実施するためのマイクロチップは、マイクロチップの温度制御を行うための温度制御装置を備えている。温度制御装置は、マイクロチップ本体の適所、例えば、分離用マイクロチャンネルおよび試料導入用マイクロチャンネルに沿って設けられた温度センサーとヒーター、およびこれらが接続される制御装置本体により構成される。制御装置本体は、演算機能を有するCPU等を含む汎用コンピュータにより構成できる。制御装置本体は、
温度センサーからの入力信号を受け取ると、予め設定された目標温度と測定温度との間の誤差に基づいてヒーターを駆動するための信号を出力し、こうしてフィードバック制御等を実現する。好ましくは、マイクロチップ本体に複数の温度センサーおよび複数のヒーターが設けられる。好ましくは、温度センサーは、ヒーター本体とは別個にマイクロチップ本体に設けられる。
【0032】
一般的なマイクロチップの大きさは数cm×数cm程度、厚さ数mm程度である。このため極めて熱容量が小さく、ヒーターの温度変化あるいは温度分布に敏感に影響されるため、マイクロチップの温度制御は容易ではない。さらに、一般的なマイクロチップの素材としては、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などが使用され、いずれも金属に比べて熱伝導性が悪く、マイクロチップ内に局所的な温度上昇が起きるなどの温度分布が生じやすく、さらに温度制御が困難となる。このような熱容量が小さく、熱伝導性の悪いマイクロチップを温度制御する場合、従来のようなヒーター本体に温度センサーを備える温度制御装置では、マイクロチップの温度とヒーターの温度とは乖離しやすく、高精度な温度制御はできない。この問題を解決する手段の一つとして、本発明では、複数の温度センサーを各ヒーターから所定距離離れた位置でマイクロチップ本体に配置する。このようにすれ
ばマイクロチップ自体の温度を測定でき、設定温度の±1℃以下の極めて高精度な温度制
御が可能である。
【0033】
また、マイクロチップに複数の温度センサーを固定することによって、マイクロチップ内の対象とする領域の温度を測定でき、その対象領域の測定温度に合わせてヒーター制御が可能となる。こうして温度分布が生じやすいマイクロチップ内においても対象領域の温度を設定温度の±1℃以下の精度で確実に制御できる。
【0034】
また、マイクロチップに複数のヒーターを備えることによって、マイクロチップ内の特定の領域内の温度分布を均一に制御しやすい。これと同時に、マイクロチップ内の複数の領域を異なる温度に制御できる。この構成は、マイクロチップDGGEであれば、試料導入用マイクロチャンネル、分離用マイクロチャンネル、および分離した核酸試料の検出領域において各々温度を独立して制御しやすく、また工程毎に最適な温度を得られるので有利である。
【0035】
次に、図面を用いて本発明の一形態をさらに説明する。
上述したように本発明の好ましいDGGE用マイクロチップでは、核酸試料を分離用マイクロチャンネルに導入する工程(試料導入工程)での温度と、核酸試料を分離用マイクロチャンネルで分離する工程(分離工程)での温度、核酸試料を検出する工程(検出工程)での温度を各々独立して制御する。このように温度を独立して制御する方法としては、前記各工程が行われる領域の温度をそれぞれ別個に可変制御する方法(位置的制御)と、各工程の進行と共にマイクロチップ全体を時間的に制御する方法(時間的制御)とがある。
【0036】
図1および図2に、位置的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップの一例を示す。変性剤濃度勾配は、変性剤を異なる濃度で含有する溶液AおよびB(典型的には、変性剤を含有しない緩衝液Aおよび変性剤を一定濃度で含有する緩衝液Bであって、場合によりそれぞれ一定濃度の高分子分離媒体を含む)が変動する割合で混合されて形成され、分離用マイクロチャンネル内を含む分離領域に移動する。分離用マイクロチャンネル内に変性剤濃度勾配が形成されると、試料導入用マイクロチャンネルから核酸試料が分離用マイクロチャンネルとの交差部分に導入される。分離用マイクロチャンネルとの交差部分に導入された核酸試料は、分離用マイクロチャンネル内の変性剤濃度勾配上を電気泳動され、所定の方向へ移動、分離される。分離していく核酸試料は、分離用マイクロチャンネル上の所定の検出位置を通過することにより光学的に検出される。
【0037】
分離用マイクロチャンネル内での核酸試料の移動方向に依存して、分離領域の位置は異なる。図1のDGGE用マイクロチップにおいて、検出領域は試料導入用マイクロチャンネルの図中の右側に位置する。図2のDGGE用マイクロチップにおいて、検出位置が試料導入用マイクロチャンネルの図中の左側に位置する。
【0038】
試料導入用マイクロチャンネルを含む試料導入領域は、核酸試料が均一に導入されるように、核酸試料が分離される温度よりも低い温度に独立に制御する。また分離用マイクロチャンネル上の検出位置を含む検出領域も、核酸染色剤の脱離を抑制し検出感度の低下を抑えるため、核酸が分離される温度よりも低い温度に独立に制御する。一方、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域は、核酸試料が分離される設定温度から±2.5℃以下の範囲を維持するように制御する。
【0039】
各領域の設定温度は、典型的には、試料導入領域で20〜40℃、分離領域の設定温度で40〜70℃、検出領域で20〜40℃であり、核酸試料や変性剤の種類や濃度などの使用条件等により、適宜予備検討を行い、決めることができる。
【0040】
図3に時間的制御を実現するためのマイクロチップ温度制御方法のフローを示す。まず試料導入時には、核酸試料が均一に導入されるように、マイクロチップ全体を核酸が分離される温度よりも低い温度に制御する。次に分離時には、マイクロチップ全体を核酸が分離される設定温度から±2.5℃以下の範囲を維持するように制御する。最後に検出時には
、核酸染色剤の脱離を抑制し検出感度の低下を抑えるため、マイクロチップ全体を核酸が分離される温度よりも低い温度に制御する。各操作時の温度は、核酸試料や変性剤濃度などの実験条件に左右されるが、典型的には、試料導入時にはおよそ20〜40℃、分離時の設定温度でおよそ40〜70℃、検出時にはおよそ20〜40℃である。
【0041】
図4、図5および図6に、複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図を示す。図4のマイクロチップでは、マイクロチップの上面に温度センサーが固定され、図5のマイクロチップでは、マイクロチップの内部に温度センサーが組み込まれ、そして、図6のマイクロチップでは、マイクロチップの下面に温度センサーが組み込まれている。このように温度センサーは、マイクロチップの上面、内部、下面のいずれの位置に設けられてもよい。
【0042】
図7および図8に、複数個のヒーターおよび複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの一例を示す。図7は断面図であり、図8は上面図である。一組のマイクロチップは、その上面部に位置する温度センサーとその下面部に位置するヒーターにより各領域の温度制御が行われる。この配置によれば、マイクロチップ上の異なる領域の温度を独立して温度制御でき、かつ温度センサーは、反対側から加熱されたマイクロチップの温度を検出するので、マイクロチップの実際の温度分布を反映した制御が可能である。この制御は、マイクロチップ上に温度分布のばらつきが生じやすい場合に、温度分布を減少させるのに有利である。
【0043】
図9および図10に、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの一例を示す。図9は上面図であり、図10は断面図である。試料導入用マイクロチャンネルを含む試料導入領域、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域、検出位置を含む検出領域のそれぞれに温度センサーとヒーターを備えている。この構成によれば、試料導入領域の温度、分離領域の温度、および検出領域の温度を各々独立して制御できる。このマイクロチップでは、試料導入工程において核酸分離を抑制する低い温度での核酸試料の均一な導入、および検出領域において核酸の蛍光染色剤の脱離を抑制する低い温度で核酸試料の高感度な検出を可能にする。図9および図10のマイクロチップは、各々の領域に1個ずつの温度センサーおよびヒーターを備えているが、各々の領域に複数個の温度センサーおよび複数個のヒーターを備えてもよい。
【0044】
本発明に使用し得るマイクロチップ本体は、公知のフォトリソグラフィー技術により製造することができる。マイクロチップ内の液体を駆動する方法は、公知の方法に基づき、微少量の液体を送るのに適切なポンプまたは電気浸透流を使用できる。また電気泳動のやり方は、公知の方法に基づき、適切な電極および電源を使用する。
【0045】
本発明に使用し得る温度センサーは、熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどがある。またマイクロチップの寸法、材質などの条件により、温度センサーの固定が困難であれば、放射温度計も使用できる。またメッキ、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、貼付などにより、温度依存性のある金属の薄膜を直接マイクロチップ本体にパターニングし、温度センサーを設けてもよい。
【0046】
本発明に使用し得るヒーターには、一般的なヒーターのほかに、ペルチェ素子を使用できる。ペルチェ素子を使用すれば、加熱、冷却ができるので、より応答性がよく精密に広範囲な温度制御が可能となる。またメッキ、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、貼
付などにより、高い電気抵抗を持つ金属の薄膜を、直接マイクロチップ本体にパターニングし、ヒーターとして設けてもよい。また酸化インジウムスズなどの透明導電膜をヒーターとして設けてもよいし、熱交換器を使用してもよい。
【0047】
本発明のマイクロチップにおいては、外部に冷却用のファンを使用してもよい。冷却機能を有することによって、より高速な温度制御が可能となる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
アクリル樹脂製のマイクロチップ(大きさ8.5cm×5cm、厚さ1mm)を用いて、温度制御実験を行った。温度センサーにはK型熱電対を使用し、マイクロチップ上面中央に固定した。またヒーターには透明導電膜タイプを使用した。またPID制御方式の温度調節器を使用した。温度測定系はK型熱電対で測定し、ノートパソコン上で記録した。
【0049】
実験では、設定温度を48〜50℃まで1℃毎に昇温させたところ、いずれの温度において
もマイクロチップ内の温度分布が設定温度の±2.5℃以内であった。さらにマイクロチッ
プ内の温度分布を減少させるためマイクロチップと同じ大きさのアルミ箔(厚さ0.1mm)
をマイクロチップとヒーターの間に挿入し、同様の実験を行った。この結果、いずれの温度においてもマイクロチップ内の温度分布が設定温度の±1℃以内であった。
【0050】
(実施例2)
図3で示したフローを実施するDGGE用マイクロチップを用いて、塩基配列の異なる2種類の二本鎖DNAの分離を行った。
【0051】
DNA試料には2種類のSphingomonas属の微生物から得た16S rRNA遺伝子のV3領域のPCR産物を用いた。DNA試料の調製では、まず2種類の微生物をそれぞれ液体培地で培養後、遠
心分離により回収した。菌体を混合し、この混合菌体から塩化ベンジル法によりDNAを抽
出した。この抽出DNAに対して、16S rRNA遺伝子のV3領域を標的とした、ユニバーサルプ
ライマー(フォワード;5'-CGCCCGCCGC GCGCGGCGGG CGGGGCGGGG GCACGGGGGG CCTACGGGAG GCAGCAG-3'(配列番号1)、リバース5'-ATTACCGCGG CTGCTGG-3'(配列番号2))を用いてPCRを行い、生成したPCR産物を最終的なDNA試料とした。フォワードプライマーにはGC
クランプ領域が付与してある。
【0052】
実験では、パイレックス(登録商標)ガラス(7cm×3.5cm)にフォトリソグラフィー技術により、幅100μm、深さ25μmのマイクロチャンネルを形成したマイクロチップを用
いた。このマイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡に配置し、光電子増倍管で検出した。変性剤には尿素とホルムアミドを用い、変性剤濃度勾配は35〜65%とした。DNA分離媒体には
ヒドロキシエチルセルロース(数平均分子量:90,000〜105,000)を用い、泳動緩衝液に1.5%(w/v)の濃度で含ませた。DNA染色剤にはYOYO-1を使用した。
【0053】
DNA分離に際しては、まずマイクロチップ全体を試料導入温度(30℃)に制御し、DNA試料を分離用マイクロチャンネルに導入した。次に分離温度(60℃)に制御し、DNA分離を
開始した。一定時間後、検出温度(30℃)に制御し、ピークの検出を行った。温度制御システムは、実施例1で使用したものと同じであり、各設定温度の±1℃以下の精度で、温度制御した。
【0054】
実験の結果、2種類の微生物に対応する2つのピークが検出された。2つのピークは安定的に分離でき、検出時間の再現性を測定したところ、ほぼ同じ時間にピークが検出された。
【0055】
(実施例3)
試料導入工程、分離工程、検出工程が行われる領域の温度を位置的に制御するため、マイクロチップの一部分を独立して温度制御する系を構築した。マイクロチップ(大きさ8.5cm×5cm、厚さ1mm)、銅板(1cm×4cm厚さ0.3mm)とペルチェ素子(大きさ8mm×8mm)、銅板、ヒートシンクの順に貼り合せ、マイクロチップに接した銅板に温度センサーとしてサーミスタを接着した。ペルチェ素子は定電圧電源に接続され、温度コントローラにより出力を制御した。設定温度を変化させた時のマイクロチップに接着する銅板の温度の挙動を、K型熱電対を用いて測定した。その結果、設定温度が30℃、40℃、50℃、60℃の時に経時的な実測温度のばらつきは±0.6℃以内であった。
【0056】
(実施例4)
試料導入工程、分離工程、検出工程が行なわれる温度を時間的に制御した。
試料導入、分離工程は50℃に制御し、分離工程後に温度を30℃に変化させ、検出工程は30℃一定で行い、DNAを検出した。また、試料導入、分離、検出工程の全てを50℃一定にした実験も行い、検出感度の比較を行った。
【0057】
実験では、アクリル樹脂製のマイクロチップを用いた。このマイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡に配置し、光電子増倍管で検出した。変性剤には尿素とホルムアミドを用い、変性剤濃度は実験系全体を60%均一とした。DNA分離媒体にはヒドロキシエチルセルロース(数平均分子量:90,000〜105,000)を用い、泳動緩衝液に1.5%(w/v)の濃度で含ませた。DNA染色剤にはYOYO-1を使用した。DNA試料には1種類のSphingomonas属の微生物から得た16S rRNA遺伝子のV3領域のPCR産物を使用した。検出されたピークを比較した結果、検出工程を30℃にした場合のピーク面積が検出工程が50℃の場合と比べて100倍以上大きかった。これから、検出感度において、検出工程の温度を下げることが非常に重要であることがわかる。
【0058】
(比較例1)
実施例1の比較実験を行った。熱電対はマイクロチップには固定せず、透明薄膜タイプのヒーターに固定した。この方式で温度制御実験を行った。
【0059】
実験では実施例1と同様に設定温度を48〜50℃まで1℃毎に昇温させた。このときのマ
イクロチップ中央上面の温度を熱電対で測定したところ、設定温度とは5℃以上の差があ
った。さらにマイクロチップ右端上面の温度を熱電対で測定したところ、中央上面との温度差は2℃程度であった。
【0060】
(比較例2)
実施例2の比較実験を行った。DNA試料、マイクロチップ、検出装置、DNA分離媒体、泳動緩衝液は同じものを使用した。変性剤濃度も同じである。温度制御システムは比較例1で使用したものを用い、60℃の一定条件で実験を行った。
【0061】
実験の結果、2つのピークに分離されないか、分離されてもピークの検出時間にばらつきがあり、実施例2と比較して再現性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、温度の位置的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップを示す概略構成図である。
【図2】図2は、温度の位置的制御を実現するための他の形態のDGGE用マイクロチップを示す概略構成図である。
【図3】図3は、温度の時間的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップ温度制御方法のフロー図である。
【図4】図4は、上部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図5】図5は、内部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図6】図6は、下部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図7】図7は、複数の温度センサーと複数のヒーターを備えたマイクロチップの断面図である。
【図8】図8は、複数の温度センサーと複数のヒーターを備えたマイクロチップの上面図である。
【図9】図9は、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの上面図である。
【図10】図10は、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの断面である。
【図11】図11は、均一変性剤濃度ゲル電気泳動へ温度変化の影響を示す写真代用図である。
【図12a】図12aは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12b】図12bは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12c】図12cは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12d】図12dは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12e】図12eは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12f】図12fは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、予め設定された温度下で、その設定温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法および装置に関する。
【0002】
キャピラリー又はマイクロチップを用いた分離技術に関して、下記の先行技術が知られている。特表2001-515204号公報(特許文献1)には、流体の温度を決定するためのチャ
ンネルに操作可能に連結されたセンサーおよび温度に応答性のエネルギー源を備えるマイクロ流体システムが開示されている。特開2003-117409号公報(特許文献2)には、耐熱
性プラスチックを用いて成形されると共に、温度調整手段が設けられてなることを特徴とする微小化学用デバイスが開示されている。特開2004-279340号公報(特許文献3)には
、複数の温度センサーを備えるマイクロチップが開示されている。国際公開WO2002/090912号(特許文献4)には、マイクロチップ微細流路内の液相温度を蛍光物質からの発光強
度の検知によって非接触で測定することを特徴とするマイクロチップ微細流路内液相の温度測定方法が開示されている。しかしながら、これら先行技術は、二本鎖核酸の塩基配列の違いによる分離技術に関するものではない。
【0003】
キャピラリー内で二本鎖核酸を分離する技術に関与するものとして、特表平10-502738
号公報(特許文献5)が知られている。これは、電気泳動分離媒体中で非ミセル電気泳動により二本鎖核酸を分離する方法に関し、DNA塩基配列の違いにより変性温度が違うこと
を利用する。すなわち、この分離技術は、二本鎖間の水素結合を弱くするための条件として、変性剤の濃度勾配ではなく、経時的温度勾配を利用している。
【特許文献1】特表2001-515204号公報
【特許文献2】特開2003-117409号公報
【特許文献3】特開2004-279340号公報
【特許文献4】国際公開WO2002/090912号
【特許文献5】特表平10-502738号公報 本願は、二本鎖核酸(以下「核酸試料」ともいう)の分離工程において、予め設定されたほぼ一定の温度下での変性剤の作用により二本鎖核酸を変性させ、分離するマイクロチップ電気泳動方法に関する。先ず本発明者は、このタイプの電気泳動を行う場合に、ゲル温度がその検出結果に如何なる影響を与えるか調べた。
【0004】
図11は、異なる設定温度で均一変性剤濃度ゲル電気泳動(CDGE)により二本鎖核酸を分離した結果を示す。レーン1、レーン2は塩基配列の異なる試料、レーン3はレーン1とレーン2の試料の混合物である。45℃、52.5℃、55℃では全く分離できていないが、47.5℃ではわずかに分離ができており、50℃では完全に分離されている。よって均一変性剤濃度ゲル電気泳動では、±1℃以下の精度で温度制御が必要であることが予測できる。今
回使用した試料より塩基配列の違いが少ない場合、さらに高精度な温度制御が必要である。
【0005】
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)の場合、変性剤の濃度勾配でCDGEよりも分解能がよくなるため、実際の温度制御の精度はCDGEほど厳しく要求されない。しかし、同様に温度依存性があるため、温度変化は、DGGEの検出結果の再現性および検出効率(塩基配列の違いを分離できる効率)に実質的な影響を与えると予期された。
【0006】
このように、分離に最適な温度として予め設定された任意の温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動においては、その設定温度を高精度に温度制御しなければ、高い再現性、高い検出効率が得られないことが分かった。
【0007】
一方、マイクロチップにおける温度制御に関しては別の問題も存在する。マイクロチップは熱容量が小さく、一般に温度制御が困難である。例えばヒーターの温度に敏感に応答しやすく、あるいはヒーターの温度分布がそのまま反映されやすい。その反面、熱放散が容易なので、温度の上げ下げをしようとする場合(例えばPCR反応)には、素早く温度変
化できるというマイクロチップの有利な面であるとも言える。しかし、この特性は、分離用マイクロチャンネル全体に均一であるべき設定温度の高精度な制御を実現するには不都合である。特にマイクロチップの素材として使用されるガラスやプラスチックは、金属に比べて熱伝導性が悪く、温度制御が困難である。例えば、局所的に温度が上昇しやすい。
【0008】
さらに、分離用マイクロチャンネル内に核酸試料を導入する工程(具体的には、試料導入用マイクロチャンネル内からの導入工程)では、試料分離(すなわち、DNA変性)が起
こらないことが好ましい。導入される核酸試料がDNA変性温度に曝されると、試料導入用
マイクロチャンネル内でDNA分離が始まってしまうので、均一な核酸試料の適正な導入が
妨げられる。また、核酸試料を検出する工程(または検出領域)においても、変性温度であるとDNAを染色する色素が脱落してしまうので検出感度が低下する。
【0009】
ところで、キャピラリーを用いる場合の温度制御法は、特表平10-502738号公報(特許
文献5)に記載されているように幾らか検討が進められている。同公報が主題とするのは、キャピラリー内の経時的温度勾配形成のために好適な制御方法である。一般にキャピラリー電気泳動は、分離用マイクロチャンネルとしての一本の独立したキャピラリーが用いられるため、そのような構成上、キャピラリー全体を対象とした外部操作等による温度制御を適用することは容易である。しかしながら、マイクロチップは、キャピラリーの場合と異なり、複数のマイクロチャンネルが一枚のプレート内に存在するのが通常である。例えば、典型的なDGGEマイクロチップでは、一枚のプレート内に目的の異なる試料導入用マイクロチャンネルと分離用マイクロチャンネルとが互いに交差する複雑な構成を有する。
【0010】
以上説明したように、マイクロチップ電気泳動、特にマイクロチップ変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(以下「マイクロチップDGGE」)の制御については、その素材上の制約や複雑なチャンネル構成等に起因する特有の課題が存在するため、キャピラリーの場合とは別の側面または異なる視点から、適切な温度制御方法を検討することが必要である。
【0011】
発明の概要
本発明の目的は、マイクロチップ電気泳動、例えば、マイクロチップDGGEに有用な温度制御工程を含む分離方法およびそれを実施するための装置を提供することにある。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、マイクロチップ電気泳動の実施には、意外なことに、設定温度をその±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下の範囲内に保つ高精度な温度制御が、高い再現性、高い検出効率をもたらすことを見出し、この新規な知見に基づいて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳
動方法を提供する。
【0014】
本法は、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内に導入する工程の間の温度、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内で分離する工程の間の温度、および分離された二本鎖核酸を検出する工程の間の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御するとしてもよい。
【0015】
本発明は、予め設定された温度を維持しながら分離用マイクロチャンネル内で二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動装置であって、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御できる温度制御装
置を備えていることを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置を提供する。
【0016】
また、本発明の装置は、分離用マイクロチャンネル内に二本鎖核酸を導入するための試料導入用マイクロチャンネルの領域の温度、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度、および分離された二本鎖核酸を検出するための領域の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御できる温度制御装置を備えてもよい。
【0017】
本発明の装置は、マイクロチップ本体に1または複数の温度センサーが設けられているとよい。さらに、複数のヒーターが設けられているとよい。
他の側面において本発明者は、所定のヒドロキシエチルセルロース(HEC)をマイクロ
チップ電気泳動のDNA分離媒体として使用すると、従来DGGEに使用される固形ゲルに匹敵
するかそれ以上の分離能を有することを見出した。本発明は、マイクロチップ電気泳動の分離媒体として有用なヒドロキシエチルセルロースの使用にも関する。
【0018】
図12の(a)〜(d)は濃度の異なるヒドロキシエチルセルロース溶液でのDNA分離
量分離の結果である。(e)は従来の固形ゲル(ポリアクリルアミド)でのDNA分子量分
離の結果である。また(f)は、(d)と(e)の結果について、選択度(Selectivity
)を比較した結果である。選択度はDNA分離媒体のDNA分離能力の指標である。選択度が大きいほどDNAを分離する能力がある。(f)の横軸はDNAの大きさであり、各大きさにおける選択度が示されている。この実験の結果から示されるように、DGGEが標的とする200bp
付近を含む、75〜300bpの範囲では1.5%HEC溶液の方が、従来固形ゲルよりも優れている
ことが分かる。HEC濃度が1%以下では、DGGEチップに必要な分解能が得られず、また分離時間が長くなり、HEC濃度が2%以上では、マイクロチャンネル内にHEC溶液を充填する操
作が困難であろう。
【0019】
ただし、HEC濃度の最適値は使用するHECの特性(平均分子量や分子量分布など)に大きく依存する。上記の実験に基づくと、HEC濃度は、数平均分子量90,000〜105,000のヒドロキシエチルセルロースでは1.5%が好適であるが、平均分子量や分子量分布に依存して0.1〜10%の範囲を変動し得ると考えられる。その後、更なる検討により、1.5%HEC溶液より1.75%HEC溶液の方がさらに好ましいことが明らかとなった。
【0020】
上記の見地から、本発明は、予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度を少なくとも±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下に制御し、さらに分離媒体として数平均分子量90,000〜105,000のヒドロキシエチルセルロースを使
用することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法にも関する。前記ヒドロキシエチルセルロースの約1.5%溶液を使用することが好ましい。さらに好ましくはヒドロキシエチルセルロースの約1.75%溶液を使用することが好ましい。
【0021】
好ましい態様の説明
本願は、予め設定された温度下でDNA変性剤の作用により核酸試料を分離するマイクロ
チップ電気泳動方法に関する。以下では、本発明の一態様であるマイクロチップDGGEを例にとって説明する。
【0022】
DGGEの原理は、尿素やホルムアミドなどのDNA変性剤により核酸塩基の電荷を中和する
ためヌクレオチド間の水素結合が切断され、二本鎖核酸が一本鎖核酸に解離する現象を利用するものである。核酸試料は、その一端にDNA変性剤濃度が高くても一本鎖核酸に解離
しにくい人工的なDNA配列(GCクランプ)を付けてPCR増幅した二本鎖核酸を含む。DNA変
性剤の濃度勾配が形成されたゲル中でGCクランプを付けた二本鎖核酸を電気泳動すると、ある変性剤濃度において、GCクランプが付いていない側の二本鎖核酸が一本鎖に解離し、その核酸分子の移動速度は小さくなる。二本鎖核酸が一本鎖に解離する変性剤濃度はその塩基配列に依存するため、同じ濃度勾配領域上で異なる塩基配列を有する二本鎖核酸分子を泳動すると、移動距離に差が生じる。こうして二本鎖核酸を塩基配列の違いによって分離することができる。
【0023】
二本鎖核酸を塩基配列の違いによって分離する場合、核酸試料の分離の可否や泳動距離の再現性は分離温度に大きく依存する。このことは本発明者によるCDGEの実験から示唆された通りである(図11)。この点、従来の固形ゲルを用いたDGGEでは、泳動の間にゲル全体が泳動槽内の温度制御された緩衝液に完全に浸されているので、ゲル全体の温度分布を均一に保つことは容易であった。このため、従来はゲルの温度分布やそのための特別な制御方法を検討することは特段必要とされなかった。
【0024】
マイクロチップDGGEにおいても通常規模のDGGE等と同様に、二本鎖核酸の変性程度の違いを利用して分離を実現するので温度依存性がある。この温度依存性は、マイクロチップの温度応答性の高さと温度制御の困難性のため、マイクロチップDGGEでは無視できない問題を引き起こす。マイクロチップを温度制御する場合に5〜6℃の範囲の温度分布はしばしば生じるが、一般的な合成反応または試薬反応等では許容範囲であることが多い。しかしながら、マイクロチップ電気泳動における高い温度依存性は、そのような温度のばらつきを許容できない。
【0025】
本発明のマイクロチップ電気泳動方法では、二本鎖核酸をその移動距離に依存して変動する変性剤の作用頻度に応じて分離する工程において、核酸試料を分離するのに適切とされる温度下で、その設定温度を少なくとも±2.5℃以下、好ましくは±1℃以下の範囲内に維持するように制御し、これにより二本鎖核酸の適正な分離を可能にする。マイクロチップDGGEでは、核酸試料を分離する時の温度を設定温度の±2.5℃以下の範囲内に制御しな
ければ、本来分離可能である核酸試料も分離できないということにもなる。つまり設定温度の±2.5℃以下の範囲内を維持するように制御することによって、核酸試料の適正な分
離結果を得ることの確実性が格段に向上する。さらに、設定温度を±1℃の範囲内で制御
することによって、分離の確実性の向上のみならず、核酸試料の検出時間の再現性が向上し、各検出時間から各二本鎖核酸を特定できる。特に塩基配列の違いが少ないDNA試料の
場合には、そのような高精度な温度制御が好ましい。設定温度を±1℃の範囲内で制御す
るためには、マイクロチップとヒーター間の熱伝導性を向上させることにより達成できる。例えば、マイクロチップとヒーターの間に熱伝導性の高い材料を挿入すればよい。使用される材料は熱伝導性が高いものであればいずれでもよく、好ましくは熱伝導率2×10-3cal/cm・sec・℃以上のもので、マイクロチップとヒーター間の空気層を無くし、密着性を高め、熱伝導性を向上させる材料であればよい。このような材料としては、アルミニウム、銅などの金属や熱伝導性グリース等が上げられる。
【0026】
本発明において「設定温度を所定の範囲内に制御すること」には、設定温度を基準に位置的な温度のばらつきを改善する制御(すなわち分離用マイクロチャンネルのある領域の長手方向の温度分布を小さくすること)、および/または設定温度を基準に経時的な温度のばらつきを改善する制御(すなわち分離工程の開始から終了まで一定の温度を維持すること)が含まれる。具体的には、分離用マイクロチャンネル全域の温度を設定温度の±2.
5℃以下、好ましくは±1℃以下に保つための制御、および/または分離用マイクロチャンネル内で核酸試料を分離する工程の間の温度を経時的に設定温度の±2.5℃以下、好まし
くは±1℃以下に保つための制御が含まれる。
【0027】
本発明において「設定温度」とは、核酸試料の適正な分離結果を得るために最適と考えられる温度であり、実際の使用にあたり設定すべき温度は、核酸の長さやGC含量のような分離対象の特性のほか、使用される分離媒体の特性等によって異なる。特定の分離対象および分離条件に関し、当業者は予備試験を行うことによって、最適な設定温度を知ることができる。本発明の「設定温度」は、基本的に、核酸が分離される工程の間に一定に維持されるべき温度である。
【0028】
本発明の好ましい方法では、核酸試料を分離用マイクロチャンネルに導入する工程(導入工程)の温度と、核酸試料を分離用マイクロチャンネルで分離する工程(分離工程)の温度と、核酸試料を検出する工程(検出工程)の温度を、それぞれ独立して制御する。
【0029】
導入工程と分離工程が同じ温度である場合、試料導入用マイクロチャンネルにおいても核酸の分離が起こるため、核酸試料を均一で偏りなく、つまり一定の濃度で分離用マイクロチャンネルに導入できない場合がある。分離し始めた核酸を導入しても、分離完了後に本来観察されるべき適正な核酸の濃度比(すなわち、分離バンド間の濃度比)にはならない。この問題を解決するため、本発明の一形態では、導入工程には分離が起こらない比較的低い温度を設定することにより、分離用マイクロチャンネル内に適正な濃度の核酸試料を導入することを可能にする。
【0030】
また検出工程と分離工程が同じ温度である場合、核酸の検出を、核酸が分離できるような高い温度で行うことになる。高い温度では核酸の蛍光染色剤の脱離が起こりやすく、検出される蛍光強度が減少するため、検出感度が低下する。この問題を解決するため、本発明の一形態では、検出工程の温度を分離工程の温度よりも低く制御し、検出感度を維持して微量な核酸試料を検出可能にする。
【0031】
本法を実施するためのマイクロチップは、マイクロチップの温度制御を行うための温度制御装置を備えている。温度制御装置は、マイクロチップ本体の適所、例えば、分離用マイクロチャンネルおよび試料導入用マイクロチャンネルに沿って設けられた温度センサーとヒーター、およびこれらが接続される制御装置本体により構成される。制御装置本体は、演算機能を有するCPU等を含む汎用コンピュータにより構成できる。制御装置本体は、
温度センサーからの入力信号を受け取ると、予め設定された目標温度と測定温度との間の誤差に基づいてヒーターを駆動するための信号を出力し、こうしてフィードバック制御等を実現する。好ましくは、マイクロチップ本体に複数の温度センサーおよび複数のヒーターが設けられる。好ましくは、温度センサーは、ヒーター本体とは別個にマイクロチップ本体に設けられる。
【0032】
一般的なマイクロチップの大きさは数cm×数cm程度、厚さ数mm程度である。このため極めて熱容量が小さく、ヒーターの温度変化あるいは温度分布に敏感に影響されるため、マイクロチップの温度制御は容易ではない。さらに、一般的なマイクロチップの素材としては、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などが使用され、いずれも金属に比べて熱伝導性が悪く、マイクロチップ内に局所的な温度上昇が起きるなどの温度分布が生じやすく、さらに温度制御が困難となる。このような熱容量が小さく、熱伝導性の悪いマイクロチップを温度制御する場合、従来のようなヒーター本体に温度センサーを備える温度制御装置では、マイクロチップの温度とヒーターの温度とは乖離しやすく、高精度な温度制御はできない。この問題を解決する手段の一つとして、本発明では、複数の温度センサーを各ヒーターから所定距離離れた位置でマイクロチップ本体に配置する。このようにすれ
ばマイクロチップ自体の温度を測定でき、設定温度の±1℃以下の極めて高精度な温度制
御が可能である。
【0033】
また、マイクロチップに複数の温度センサーを固定することによって、マイクロチップ内の対象とする領域の温度を測定でき、その対象領域の測定温度に合わせてヒーター制御が可能となる。こうして温度分布が生じやすいマイクロチップ内においても対象領域の温度を設定温度の±1℃以下の精度で確実に制御できる。
【0034】
また、マイクロチップに複数のヒーターを備えることによって、マイクロチップ内の特定の領域内の温度分布を均一に制御しやすい。これと同時に、マイクロチップ内の複数の領域を異なる温度に制御できる。この構成は、マイクロチップDGGEであれば、試料導入用マイクロチャンネル、分離用マイクロチャンネル、および分離した核酸試料の検出領域において各々温度を独立して制御しやすく、また工程毎に最適な温度を得られるので有利である。
【0035】
次に、図面を用いて本発明の一形態をさらに説明する。
上述したように本発明の好ましいDGGE用マイクロチップでは、核酸試料を分離用マイクロチャンネルに導入する工程(試料導入工程)での温度と、核酸試料を分離用マイクロチャンネルで分離する工程(分離工程)での温度、核酸試料を検出する工程(検出工程)での温度を各々独立して制御する。このように温度を独立して制御する方法としては、前記各工程が行われる領域の温度をそれぞれ別個に可変制御する方法(位置的制御)と、各工程の進行と共にマイクロチップ全体を時間的に制御する方法(時間的制御)とがある。
【0036】
図1および図2に、位置的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップの一例を示す。変性剤濃度勾配は、変性剤を異なる濃度で含有する溶液AおよびB(典型的には、変性剤を含有しない緩衝液Aおよび変性剤を一定濃度で含有する緩衝液Bであって、場合によりそれぞれ一定濃度の高分子分離媒体を含む)が変動する割合で混合されて形成され、分離用マイクロチャンネル内を含む分離領域に移動する。分離用マイクロチャンネル内に変性剤濃度勾配が形成されると、試料導入用マイクロチャンネルから核酸試料が分離用マイクロチャンネルとの交差部分に導入される。分離用マイクロチャンネルとの交差部分に導入された核酸試料は、分離用マイクロチャンネル内の変性剤濃度勾配上を電気泳動され、所定の方向へ移動、分離される。分離していく核酸試料は、分離用マイクロチャンネル上の所定の検出位置を通過することにより光学的に検出される。
【0037】
分離用マイクロチャンネル内での核酸試料の移動方向に依存して、分離領域の位置は異なる。図1のDGGE用マイクロチップにおいて、検出領域は試料導入用マイクロチャンネルの図中の右側に位置する。図2のDGGE用マイクロチップにおいて、検出位置が試料導入用マイクロチャンネルの図中の左側に位置する。
【0038】
試料導入用マイクロチャンネルを含む試料導入領域は、核酸試料が均一に導入されるように、核酸試料が分離される温度よりも低い温度に独立に制御する。また分離用マイクロチャンネル上の検出位置を含む検出領域も、核酸染色剤の脱離を抑制し検出感度の低下を抑えるため、核酸が分離される温度よりも低い温度に独立に制御する。一方、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域は、核酸試料が分離される設定温度から±2.5℃以下の範囲を維持するように制御する。
【0039】
各領域の設定温度は、典型的には、試料導入領域で20〜40℃、分離領域の設定温度で40〜70℃、検出領域で20〜40℃であり、核酸試料や変性剤の種類や濃度などの使用条件等により、適宜予備検討を行い、決めることができる。
【0040】
図3に時間的制御を実現するためのマイクロチップ温度制御方法のフローを示す。まず試料導入時には、核酸試料が均一に導入されるように、マイクロチップ全体を核酸が分離される温度よりも低い温度に制御する。次に分離時には、マイクロチップ全体を核酸が分離される設定温度から±2.5℃以下の範囲を維持するように制御する。最後に検出時には
、核酸染色剤の脱離を抑制し検出感度の低下を抑えるため、マイクロチップ全体を核酸が分離される温度よりも低い温度に制御する。各操作時の温度は、核酸試料や変性剤濃度などの実験条件に左右されるが、典型的には、試料導入時にはおよそ20〜40℃、分離時の設定温度でおよそ40〜70℃、検出時にはおよそ20〜40℃である。
【0041】
図4、図5および図6に、複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図を示す。図4のマイクロチップでは、マイクロチップの上面に温度センサーが固定され、図5のマイクロチップでは、マイクロチップの内部に温度センサーが組み込まれ、そして、図6のマイクロチップでは、マイクロチップの下面に温度センサーが組み込まれている。このように温度センサーは、マイクロチップの上面、内部、下面のいずれの位置に設けられてもよい。
【0042】
図7および図8に、複数個のヒーターおよび複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの一例を示す。図7は断面図であり、図8は上面図である。一組のマイクロチップは、その上面部に位置する温度センサーとその下面部に位置するヒーターにより各領域の温度制御が行われる。この配置によれば、マイクロチップ上の異なる領域の温度を独立して温度制御でき、かつ温度センサーは、反対側から加熱されたマイクロチップの温度を検出するので、マイクロチップの実際の温度分布を反映した制御が可能である。この制御は、マイクロチップ上に温度分布のばらつきが生じやすい場合に、温度分布を減少させるのに有利である。
【0043】
図9および図10に、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの一例を示す。図9は上面図であり、図10は断面図である。試料導入用マイクロチャンネルを含む試料導入領域、分離用マイクロチャンネルを含む分離領域、検出位置を含む検出領域のそれぞれに温度センサーとヒーターを備えている。この構成によれば、試料導入領域の温度、分離領域の温度、および検出領域の温度を各々独立して制御できる。このマイクロチップでは、試料導入工程において核酸分離を抑制する低い温度での核酸試料の均一な導入、および検出領域において核酸の蛍光染色剤の脱離を抑制する低い温度で核酸試料の高感度な検出を可能にする。図9および図10のマイクロチップは、各々の領域に1個ずつの温度センサーおよびヒーターを備えているが、各々の領域に複数個の温度センサーおよび複数個のヒーターを備えてもよい。
【0044】
本発明に使用し得るマイクロチップ本体は、公知のフォトリソグラフィー技術により製造することができる。マイクロチップ内の液体を駆動する方法は、公知の方法に基づき、微少量の液体を送るのに適切なポンプまたは電気浸透流を使用できる。また電気泳動のやり方は、公知の方法に基づき、適切な電極および電源を使用する。
【0045】
本発明に使用し得る温度センサーは、熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどがある。またマイクロチップの寸法、材質などの条件により、温度センサーの固定が困難であれば、放射温度計も使用できる。またメッキ、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、貼付などにより、温度依存性のある金属の薄膜を直接マイクロチップ本体にパターニングし、温度センサーを設けてもよい。
【0046】
本発明に使用し得るヒーターには、一般的なヒーターのほかに、ペルチェ素子を使用できる。ペルチェ素子を使用すれば、加熱、冷却ができるので、より応答性がよく精密に広範囲な温度制御が可能となる。またメッキ、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、貼
付などにより、高い電気抵抗を持つ金属の薄膜を、直接マイクロチップ本体にパターニングし、ヒーターとして設けてもよい。また酸化インジウムスズなどの透明導電膜をヒーターとして設けてもよいし、熱交換器を使用してもよい。
【0047】
本発明のマイクロチップにおいては、外部に冷却用のファンを使用してもよい。冷却機能を有することによって、より高速な温度制御が可能となる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
アクリル樹脂製のマイクロチップ(大きさ8.5cm×5cm、厚さ1mm)を用いて、温度制御実験を行った。温度センサーにはK型熱電対を使用し、マイクロチップ上面中央に固定した。またヒーターには透明導電膜タイプを使用した。またPID制御方式の温度調節器を使用した。温度測定系はK型熱電対で測定し、ノートパソコン上で記録した。
【0049】
実験では、設定温度を48〜50℃まで1℃毎に昇温させたところ、いずれの温度において
もマイクロチップ内の温度分布が設定温度の±2.5℃以内であった。さらにマイクロチッ
プ内の温度分布を減少させるためマイクロチップと同じ大きさのアルミ箔(厚さ0.1mm)
をマイクロチップとヒーターの間に挿入し、同様の実験を行った。この結果、いずれの温度においてもマイクロチップ内の温度分布が設定温度の±1℃以内であった。
【0050】
(実施例2)
図3で示したフローを実施するDGGE用マイクロチップを用いて、塩基配列の異なる2種類の二本鎖DNAの分離を行った。
【0051】
DNA試料には2種類のSphingomonas属の微生物から得た16S rRNA遺伝子のV3領域のPCR産物を用いた。DNA試料の調製では、まず2種類の微生物をそれぞれ液体培地で培養後、遠
心分離により回収した。菌体を混合し、この混合菌体から塩化ベンジル法によりDNAを抽
出した。この抽出DNAに対して、16S rRNA遺伝子のV3領域を標的とした、ユニバーサルプ
ライマー(フォワード;5'-CGCCCGCCGC GCGCGGCGGG CGGGGCGGGG GCACGGGGGG CCTACGGGAG GCAGCAG-3'(配列番号1)、リバース5'-ATTACCGCGG CTGCTGG-3'(配列番号2))を用いてPCRを行い、生成したPCR産物を最終的なDNA試料とした。フォワードプライマーにはGC
クランプ領域が付与してある。
【0052】
実験では、パイレックス(登録商標)ガラス(7cm×3.5cm)にフォトリソグラフィー技術により、幅100μm、深さ25μmのマイクロチャンネルを形成したマイクロチップを用
いた。このマイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡に配置し、光電子増倍管で検出した。変性剤には尿素とホルムアミドを用い、変性剤濃度勾配は35〜65%とした。DNA分離媒体には
ヒドロキシエチルセルロース(数平均分子量:90,000〜105,000)を用い、泳動緩衝液に1.5%(w/v)の濃度で含ませた。DNA染色剤にはYOYO-1を使用した。
【0053】
DNA分離に際しては、まずマイクロチップ全体を試料導入温度(30℃)に制御し、DNA試料を分離用マイクロチャンネルに導入した。次に分離温度(60℃)に制御し、DNA分離を
開始した。一定時間後、検出温度(30℃)に制御し、ピークの検出を行った。温度制御システムは、実施例1で使用したものと同じであり、各設定温度の±1℃以下の精度で、温度制御した。
【0054】
実験の結果、2種類の微生物に対応する2つのピークが検出された。2つのピークは安定的に分離でき、検出時間の再現性を測定したところ、ほぼ同じ時間にピークが検出された。
【0055】
(実施例3)
試料導入工程、分離工程、検出工程が行われる領域の温度を位置的に制御するため、マイクロチップの一部分を独立して温度制御する系を構築した。マイクロチップ(大きさ8.5cm×5cm、厚さ1mm)、銅板(1cm×4cm厚さ0.3mm)とペルチェ素子(大きさ8mm×8mm)、銅板、ヒートシンクの順に貼り合せ、マイクロチップに接した銅板に温度センサーとしてサーミスタを接着した。ペルチェ素子は定電圧電源に接続され、温度コントローラにより出力を制御した。設定温度を変化させた時のマイクロチップに接着する銅板の温度の挙動を、K型熱電対を用いて測定した。その結果、設定温度が30℃、40℃、50℃、60℃の時に経時的な実測温度のばらつきは±0.6℃以内であった。
【0056】
(実施例4)
試料導入工程、分離工程、検出工程が行なわれる温度を時間的に制御した。
試料導入、分離工程は50℃に制御し、分離工程後に温度を30℃に変化させ、検出工程は30℃一定で行い、DNAを検出した。また、試料導入、分離、検出工程の全てを50℃一定にした実験も行い、検出感度の比較を行った。
【0057】
実験では、アクリル樹脂製のマイクロチップを用いた。このマイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡に配置し、光電子増倍管で検出した。変性剤には尿素とホルムアミドを用い、変性剤濃度は実験系全体を60%均一とした。DNA分離媒体にはヒドロキシエチルセルロース(数平均分子量:90,000〜105,000)を用い、泳動緩衝液に1.5%(w/v)の濃度で含ませた。DNA染色剤にはYOYO-1を使用した。DNA試料には1種類のSphingomonas属の微生物から得た16S rRNA遺伝子のV3領域のPCR産物を使用した。検出されたピークを比較した結果、検出工程を30℃にした場合のピーク面積が検出工程が50℃の場合と比べて100倍以上大きかった。これから、検出感度において、検出工程の温度を下げることが非常に重要であることがわかる。
【0058】
(比較例1)
実施例1の比較実験を行った。熱電対はマイクロチップには固定せず、透明薄膜タイプのヒーターに固定した。この方式で温度制御実験を行った。
【0059】
実験では実施例1と同様に設定温度を48〜50℃まで1℃毎に昇温させた。このときのマ
イクロチップ中央上面の温度を熱電対で測定したところ、設定温度とは5℃以上の差があ
った。さらにマイクロチップ右端上面の温度を熱電対で測定したところ、中央上面との温度差は2℃程度であった。
【0060】
(比較例2)
実施例2の比較実験を行った。DNA試料、マイクロチップ、検出装置、DNA分離媒体、泳動緩衝液は同じものを使用した。変性剤濃度も同じである。温度制御システムは比較例1で使用したものを用い、60℃の一定条件で実験を行った。
【0061】
実験の結果、2つのピークに分離されないか、分離されてもピークの検出時間にばらつきがあり、実施例2と比較して再現性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、温度の位置的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップを示す概略構成図である。
【図2】図2は、温度の位置的制御を実現するための他の形態のDGGE用マイクロチップを示す概略構成図である。
【図3】図3は、温度の時間的制御を実現するためのDGGE用マイクロチップ温度制御方法のフロー図である。
【図4】図4は、上部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図5】図5は、内部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図6】図6は、下部に複数個の温度センサーを備えたマイクロチップの断面図である。
【図7】図7は、複数の温度センサーと複数のヒーターを備えたマイクロチップの断面図である。
【図8】図8は、複数の温度センサーと複数のヒーターを備えたマイクロチップの上面図である。
【図9】図9は、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの上面図である。
【図10】図10は、領域毎に温度センサーとヒーターを備えたDGGE用マイクロチップの断面である。
【図11】図11は、均一変性剤濃度ゲル電気泳動へ温度変化の影響を示す写真代用図である。
【図12a】図12aは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12b】図12bは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12c】図12cは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12d】図12dは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12e】図12eは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【図12f】図12fは、異なる濃度のヒドロキシエチルセルロース溶液による核酸分子量分離の効果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項2】
二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内に導入する工程の間の温度、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内で分離する工程の間の温度、および分離された二本鎖核酸を検出する工程の間の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予め設定された温度を維持しながら分離用マイクロチャンネル内で二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動装置であって、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御できる温度制御装置を備えて
いることを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項4】
分離用マイクロチャンネル内に二本鎖核酸を導入するための試料導入用マイクロチャンネルの領域の温度、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度、および分離された二本鎖核酸を検出するための領域の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御できる温度制御装置を備えていることを特徴とする、請求項3に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項5】
マイクロチップ本体に1または複数の温度センサーが設けられていることを特徴とする、請求項3又は4に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項6】
さらに、複数のヒーターが設けられていることを特徴とする、請求項4に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項1】
予め設定された温度を維持しながら二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動方法であって、二本鎖核酸を分離する工程の間の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項2】
二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内に導入する工程の間の温度、二本鎖核酸を分離用マイクロチャンネル内で分離する工程の間の温度、および分離された二本鎖核酸を検出する工程の間の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予め設定された温度を維持しながら分離用マイクロチャンネル内で二本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離するマイクロチップ電気泳動装置であって、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度を、前記設定温度の±2.5℃以下に制御できる温度制御装置を備えて
いることを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項4】
分離用マイクロチャンネル内に二本鎖核酸を導入するための試料導入用マイクロチャンネルの領域の温度、前記分離用マイクロチャンネルの領域の温度、および分離された二本鎖核酸を検出するための領域の温度のうち、少なくとも一つ以上の温度を独立して制御できる温度制御装置を備えていることを特徴とする、請求項3に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項5】
マイクロチップ本体に1または複数の温度センサーが設けられていることを特徴とする、請求項3又は4に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項6】
さらに、複数のヒーターが設けられていることを特徴とする、請求項4に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12f】
【図11】
【図12e】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12f】
【図11】
【図12e】
【公表番号】特表2008−542683(P2008−542683A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552448(P2007−552448)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【国際出願番号】PCT/JP2006/309774
【国際公開番号】WO2006/126427
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【国際出願番号】PCT/JP2006/309774
【国際公開番号】WO2006/126427
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
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