説明

マイクロ波を用いた誘電加熱装置

【課題】エネルギー効率に優れ、加熱対象物に対して簡単な構造で効率よく加熱することができるうえ、装置の小型化が図れる。
【解決手段】誘電加熱装置1は、閉空間からなる上部空胴部S1を形成した上層部2と、この上層部2から下方に延びる下部周壁部31を有するとともに下側が開放された下層部3とを備えた上下二層構造をなし、さらに上層部2の上部空胴部S1に導波管4を介してマイクロ波Mを供給する発振器5を備え、上層部2と下層部3との間の仕切板6には、上部空胴部S1と下層部3の下部周壁部31によって囲まれる下部空胴部S2とを連通する開口穴7が設けられ、上部空胴部S1は、マイクロ波Mの電磁界分布が中央部に集中する共振領域が形成可能とされ、開口穴7が共振領域の位置となる構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波のエネルギーを与えることで加熱対象物を加熱するためのマイクロ波を用いた誘電加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルト舗装の補修工事等では、アスファルト混合物を溶解したり、アスファルト舗装表面に散布された溶剤を速く揮発させるために、アスファルト舗装表面を広い面積にわたって加熱することが行われている。
このような加熱方法として、重油等を燃焼させたバーナによる加熱方式が一般的であるが、間接加熱であることから、加熱効率が低く、且つ過熱によるアスファルトの劣化が問題となっている。
一方、加熱方式として骨材に含まれる水分を利用したマイクロ波加熱も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この場合、直接加熱であることから効率が高く、アスファルト自身がマイクロ波によってほとんど加熱されないことから、アスファルト加熱溶解におけるアスファルトの過熱劣化という問題も発生しないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−303408号公報
【特許文献2】特開平9−189008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のマイクロ波加熱による加熱方式では、以下のような問題があった。
すなわち、従来提案されているマイクロ波加熱では、マイクロ波をアスファルト舗装の表面に向けて放射する方式であるため、マイクロ波のアスファルト混合物表面からの反射が大きかったり、反射を低く抑えられた場合でもアスファルト舗装表層を透過して加熱の必要のない舗装深部へマイクロ波の供給するエネルギーが浸透してしまうといった欠点があった。つまり、マイクロ波をアスファルト舗装表面に照射しただけでは、効率よくマイクロ波のエネルギーをその加熱の必要な部分のみに吸収させることが困難であった。
【0005】
また、アスファルト舗装表面で反射したマイクロ波が装置周辺に施されるマイクロ波遮蔽器具とアスファルト舗装表面との間を直接伝搬し、容易に減衰しないため、総体として漏洩マイクロ波の遮蔽対策が大規模になるといった不具合があった。
さらに、マイクロ波のエネルギーをアスファルト舗装内部に効率よく浸透させる手段として、アスファルト舗装下部に金属板や金網などの電気伝導度の高いものを挿入しておくことにより一定の効果は得られるが、既設の通常アスファルト舗装にこの状態を実現することは橋梁などを除いて事実上不可能であるうえ、予め新設の舗装に対してこのような構造を採用することはコストの増大を招くとともに、舗装工事前に実施する舗装への影響(例えば、滑りなどの問題)等の事前調査を十分に行わなければならないといった問題があった。
このように、従来のマイクロ波加熱では、個々の利点のすべてを同時に満足するものは無く、マイクロ波を使用した誘電加熱の利点を十分に発揮されていない現状があり、その点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、エネルギー効率に優れ、加熱対象物に対して簡単な構造で効率よく加熱することができるうえ、装置の小型化が図れるマイクロ波を用いた誘電加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、閉空間からなる第1空胴部を形成した上層部と、上層部から下方に延びる周壁部を有するとともに下側が開放された下層部とを備えた上下二層構造をなし、上層部と下層部との間の仕切板には、第1空胴部と下層部の周壁部によって囲まれる第2空胴部とを連通する開口穴が設けられ、第1空胴部は、マイクロ波の電磁界分布が中央部に集中する共振領域が形成可能とされ、開口穴が共振領域の位置となる構成とされたことを特徴としている。
また、第1空胴部の平面形状は、楕円形であることが好ましい。
【0008】
本発明では、上層部内の第1空胴部にマイクロ波を供給し、第1空胴部内におけるマイクロ波の電界の向きFを第1空胴部の水平断面に対して直交方向となる上下方向に一致させ、第1空胴部内に電磁波を集中させることで、その電磁界分布が中央部に集中する好適な共振領域を形成することができる。とくに第1空胴部の断面を短軸長と長軸長との比率が1:√2となる楕円形断面とすることでファブリ・ペロ共振器を模擬することができ、第1空胴部の短軸付近に電磁界のエネルギーが集中し易くなるとともに、電磁界分布が安定しその崩れが抑えられることから、好適で且つ堅固な場をなす共振領域を形成することができる。
【0009】
そして、仕切板に形成される開口穴の位置が第1空胴部に形成された共振領域の位置となるので、その開口穴から下層部の第2空胴部へ向けてマイクロ波が放射され、さらにそのマイクロ波が下層部の開放縁端から放射されることになる。つまり、開口穴に対向する位置の被加熱領域に対して、開口穴から放射されるマイクロ波のエネルギーを与えて加熱することができる。
そのため、誘電加熱装置を横移動させることで、所定面積の加熱領域全体にわたって加熱することが可能となる。
しかも、加熱対象物がアスファルト舗装によるアスファルト混合物である場合には、マイクロ波によってアスファルト混合物内部の水分にマイクロ波Mが吸収され、その水分や骨材が直接加熱されることでその周囲のアスファルトも間接的に加熱して、アスファルト混合物を溶融することができる。そのため、アスファルト自体の過熱による熱劣化を防ぐことが可能となり、マイクロ波加熱の直接加熱方式という特性を効果的に発揮することができる。
【0010】
さらに、下層部における周壁部の開放縁端を加熱対象物上に接地することで、第2空胴部もまた下層部と加熱対象物とによって囲まれた閉空間となり、第1空胴と同様の共振特性を持つことから、開口穴から下方に向けて放射されるマイクロ波が下層部より外方の空気中に漏出することを抑制することができる。そのため、開口穴から放射されたマイクロ波供給の安定性が増し、加熱対象物に対して効率よく加熱することができる。
さらにまた、本誘電加熱装置を例えば既設のアスファルト舗装の補修工事に適用する場合、従来のようにアスファルト舗装体の表層下部に金属板や金網を敷設するといった困難な作業が不要となることから、現場での施工が容易になる。
【0011】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、周壁部は、上下方向の高さ寸法が調整可能であることが好ましい。
この場合、開口穴から放射されるマイクロ波のエネルギーの強さに応じて下層部における周壁部の上下方向の高さ寸法を変えることで、加熱対象物に対する加熱量を調整することができる。そのため、加熱対象物の表面からの加熱深さ寸法を薄くする場合には、周壁部の高さ寸法を大きくして開口穴から加熱対象物の表面までの距離を大きくすることで、加熱対象物の表面に達するマイクロ波のエネルギーが小さくなるため、加熱対象物が受ける加熱量を少なくすることができる。
【0012】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、第1空胴部には、マイクロ波を供給するための導波管が接続される。その位置は中央或いは電界強度の最も強い部分を避けた位置である。
本発明では、第1空胴部でマイクロ波によって形成される共振領域が安定して形成され、開口穴より放射させるマイクロ波の強度を制御することができる。
【0013】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、仕切板は着脱可能に設けられていてもよい。
本発明では、開口穴の形状、大きさ、位置の異なる仕切板を使用条件に合わせて適宜取り替えることが容易となる利点がある。
【0014】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、上層部又は下層部には、下層部の開放縁端を加熱対象物に接地させた状態で、その接地部を覆う遮蔽部材が設けられていることがより好ましい。
この場合、開口穴から放射されるマイクロ波は周壁部と遮蔽部材とによって二重に覆われることから、マイクロ波の空気中への漏出をより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロ波を用いた誘電加熱装置によれば、一旦、第1空胴部において電磁界分布を安定させるための空間を設け、その開口穴から必要な強度のマイクロ波を放射させ、エネルギーを加熱対象物に与えることで、その加熱対象物を効率よく加熱することができることから、エネルギー効率の向上を図ることができる。
また、第2空胴も共振特性を持ちマイクロ波のエネルギーを内部に閉じこめる構造になっていることから、誘電加熱装置の外側の空気中への漏出に対する遮蔽手段は簡易なもので済み、遮蔽対策にかかる装置の増大を抑えて、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による誘電加熱装置の構成を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1に示すA−A線断面図である。
【図3】図1に示すB−B線断面図である。
【図4】誘電加熱装置の仕切板の平面図である。
【図5】上層部の上部空胴部内に形成される共振領域を示す平面図である。
【図6】開口穴から放射されるマイクロ波によって加熱される被加熱領域を示す図である。
【図7】第1変形例による開口穴の形状を示す仕切板の平面図であって、図4に対応する図である。
【図8】第2変形例による開口穴の形状を示す仕切板の平面図であって、図4に対応する図である。
【図9】第3変形例による開口穴の形状を示す仕切板の平面図であって、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置について、図1乃至図6に基づいて説明する。
【0018】
図1に示す誘電加熱装置1は、マイクロ波のエネルギーを加熱対象物10(図2および図3参照)に与えて加熱溶融するためのものである。例えば既設のアスファルト舗装表層に含まれるアスファルト混合物が挙げられ、加熱対象物10を現場で再生処理する施工等が適用対象となる。つまり、加熱対象物10の要補修箇所に誘電加熱装置1を持ち込み、その現場において再生処理を行う際に用いられる。
【0019】
図1乃至図3に示すように、誘電加熱装置1は、閉空間からなる上部空胴部S1(第1空胴部)を形成した上層部2と、この上層部2から下方に延びる下部周壁部31を有するとともに下側が開放された下層部3とを備えた上下二層構造をなし、さらに上層部2の上部空胴部S1に導波管4を介してマイクロ波Mを供給するマイクロ波発振器(以下、単に「発振器5」という)を備えて概略構成されている。
【0020】
そして、上層部2と下層部3との間の仕切板6には、上部空胴部S1と下層部3の下部周壁部31によって囲まれる下部空胴部S2(第2空胴部)とを連通する開口穴7(図4参照)が設けられ、上部空胴部S1は、マイクロ波Mの電磁界分布が一様に揃う共振領域T(図3および図5参照)が形成可能とされ、開口穴7が共振領域Tの位置となる構成となっている。
ここで、後述する上層部2、下層部3それぞれの中心軸は共通軸上に位置している。以下、この共通軸を中心軸O(図5)といい、中心軸O方向に沿って上層部2側を上側、下層部3側を下側という。
【0021】
発振器5は、例えば1kWの電源により周波数2450MHzのマイクロ波を波長12.24cmで発振させ、そのエネルギーを導波管4の基本モード(TE10)によって上部空胴部S1に供給するためのものである。
【0022】
導波管4は、スリースタブ整合器を含むものが採用され、一端が発振器5に接続されていて他端が上部空胴部S1に連通している。そして、上部空胴部S1に対する導波管4の取り付け位置は、後述する楕円形断面をなす上部空胴部S1の短軸y(図5参照)に沿うようにしてマイクロ波のエネルギーが集中する状態において、中央(X=0)あるいは電界強度が強い部分(共振領域Tに相当する)を避けた位置に配置されている。
つまり、導波管4が共振領域Tを避けた位置に設けられた場合、空胴から導波管4を通して電源に向かう反射波を低く抑えることが容易になる。
設けられているので、その共振領域Tが導波管4によって供給されるマイクロ波の影響を受けることがなく安定した状態となり、開口穴7より放射されるマイクロ波の強度を一定にすることが可能となっている。
【0023】
上層部2は、薄板状の中空円盤形状で、上部空胴部S1の水平断面形状が楕円形をなし、その楕円形の外殻を形成する上部周壁部21と、上部周壁部21の上部を覆う上板22とを備え、下側を塞ぐようにして上部周壁部21の下端部には前記仕切板6が設けられている。
【0024】
上層部2は、図5に示す上部空胴部S1の高さ寸法D1(上板22の下面から仕切板6の上面6aまでの長さ寸法)がマイクロ波の1波長以下での寸法(例えば5cm)となる。上部空胴部S1に面する部位、すなわち上部周壁部21、上板22及び仕切板6の上面6aは、銅、アルミニウムなどの金属製の部材からなり例えば金属箔の部材で被覆されている。
【0025】
図5に示すように、上部空胴部S1は、短軸y長と長軸x長の比率(アスペクト比)が略1:√2となる楕円形状をなしている。さらに、上部空胴部S1は、内部に供給されるマイクロ波の電界の向きFが上部空胴部S1の水平断面方向に対して直交する方向(上下方向)に一致する構成となっており、上述したように断面形状を楕円形状とし、上部空胴部S1の空間内に発振されるマイクロ波のエネルギーが短軸y付近に集中した状態(図5に示す共振領域Tが形成される状態)を形成することで、電磁界を安定させることが可能となっている。
【0026】
図3に示すように、下層部3は、仕切板6の下側で下部周壁部31に囲まれた構成をなしている。下部周壁部31の高さ寸法(下部空胴部S2の高さ寸法D2)は、加熱対象物10となるアスファルト舗装体の厚さ寸法、開口穴7の形状、マイクロ波の強度等の条件に応じて適宜変更可能であるが、例えば1cm程度に設定することができる。つまり、下層部3の開放縁端3aを加熱対象物10に接地させたとき、開口穴7から放射されるマイクロ波Mが開口穴7に対向する領域(被加熱領域Rという)をマイクロ波Mの強度に応じた所定の加熱温度で加熱するようになっている。
【0027】
なお、下部周壁部31の高さ寸法を大きくすると、マイクロ波が開口穴7から放射されるエネルギーが加熱対象物10に達するまでに弱くなり、十分な照射ができず、所望の加熱ができなくなる。
【0028】
仕切板6に設けられる開口穴7は、図4に示すように、平面視で略中央に配置されるとともに、導波管4(図5参照)寄りに頂部を配置させた二等辺三角形状をなしている。この開口穴7は、上部空胴部S1内の電磁界の安定した状態(つまり、マイクロ波のエネルギーが短軸y付近に集中した状態)を保ちつつ、上部空胴部S1から下部空胴部S2へ向けてマイクロ波を所望の強度分布で放射させるためのものである。
【0029】
次に、誘電加熱装置1の作用について、図面に基づいてさらに具体的に説明する。
図1に示すように、誘電加熱装置1において、上層部2内の上部空胴部S1に発振器5から導波管4を通してマイクロ波Mを供給し、上部空胴部S1内におけるマイクロ波の電界の向きFを上部空胴部S1の水平断面に対して直交方向となる上下方向に一致させ、上部空胴部S1内に電磁波を集中させることで、その電磁界分布が中央部に集中する好適な共振領域Tを形成して蓄えた状態とする。
【0030】
図5に示すように、とくに上部空胴部S1を短軸長と長軸長の比率が1:√2となる楕円形断面とすることで、ファブリ・ペロ共振器を模擬することができ、上部空胴部S1の短軸y付近に電磁界のエネルギーが集中し易くなるとともに、電磁界分布が安定しその崩れが抑えられることから、好適で且つ堅固な場をなす共振領域Tを形成することができる。すなわち、導波管4と加熱対象物10との間にQ値(共振状態を示す周知の値)の高い上部空胴部S1を介挿させることで、加熱対象物10のコンディションに左右されない崩れ難い場の分布を実現することが可能となる。
【0031】
そして、図3に示すように、仕切板6に形成される開口穴7の位置が上部空胴部S1に形成された共振領域Tの位置となるので、その開口穴7から下層部3の下部空胴部S2へ向けてマイクロ波が放射され、開口穴7に対向する位置の被加熱領域Rに対して、開口穴7から放射されるマイクロ波Mのエネルギーを与えて加熱することができる。このときの被加熱領域Rは、図6に示すように開口穴7の形状とほぼ同形状の領域となる。
このような構成をなす誘電加熱装置1では、この装置自体を横移動させ、所定面積の加熱領域全体にわたって加熱することが可能となる。
【0032】
しかも、加熱対象物10がアスファルト舗装によるアスファルト混合物である場合には、マイクロ波によってアスファルト混合物内部の水分にマイクロ波Mが吸収され、その水分や骨材が直接加熱されることでその周囲のアスファルトも間接的に加熱し、アスファルト混合物を溶融することができる。そのため、アスファルト自体の過熱による熱劣化を防ぐことが可能となり、マイクロ波加熱の直接加熱方式という特性を効果的に発揮することができる。
【0033】
さらに、下層部3における下部周壁部31の開放縁端3aを加熱対象物10上に接地することで、下部空胴部S2もまた下層部3と加熱対象物10とによって囲まれた閉空間となることから、開口穴7から下方に向けて放射されるマイクロ波Mが下層部3より外方の空気中に漏出することを抑制することができる。
このように、開口穴7から放射されたマイクロ波供給の安定性が増し、加熱対象物10に対して効率よく加熱することができる。つまり、誘電加熱装置1では、導波管4から加熱対象物10に直接マイクロ波を供給する従来技術のように、加熱対象物10の形状、材質、状態等に応じて導波管4での導波モードが崩れ、加熱対象物10に供給されるマイクロ波の強度にばらつきが生じてしまい、安定した加熱が行えないといった不具合をなくすことができる。
【0034】
さらにまた、本誘電加熱装置1を例えば既設のアスファルト舗装の補修工事に適用する場合、従来のようにアスファルト舗装体の表層下部に金属板や金網を敷設するといった困難な作業が不要となることから、現場での施工が容易になる。
【0035】
次に、上述した誘電加熱装置1を用いた誘電加熱方法の一例について、図面を用いて具体的に説明する。ここでは、加熱対象物10を既設のアスファルト舗装体とし、このアスファルト舗装体の再生処理を現場で行うケースを対象とする。
先ず、加熱対象となるアスファルト舗装体の表面に対して下層部3の開放縁端3aを上から当てるようにして誘電加熱装置1を接地する。そして、このアスファルト舗装体の表面層をマイクロ波により例えば80℃程に加熱し、柔らかくする。これにより、加熱したアスファルト表層がほぐし易くなり、切削が容易になるとともに、切削音が小さくなるといった施工上の利点がある。
【0036】
本再生処理による作業は、標準的な作業手順とほぼ同様であり、従来の加熱装置である間接加熱方式の路面ヒータに代えて誘電加熱装置1を使用し、アスファルト舗装体の舗装表層を加熱し、掻きほぐし、新規アスファルト混合物との混合、敷き均し、締固めの手順で行われる。その機械編成としては、誘電加熱装置1を先頭にして、カッタ、ミキサ、スクリード、転圧ローラの順で配置する。
【0037】
このとき、図3に示す被加熱領域Rは、下部空胴部S2のうち開口穴7に対向する位置のみであるので、誘電加熱装置1を開口穴7からマイクロ波Mを放射させた状態で例えば横移動させながら加熱対象物の所定領域全体を加熱する。
つまり、発振器5から導波管4を介してマイクロ波を上部空胴部S1の内部に供給し、この上部空胴部S1に供給されたマイクロ波のエネルギーを加熱対象物10に与えることで加熱する。
【0038】
次に、誘電加熱装置1による加熱により溶解して柔らかい状態となった舗装表層を、誘電加熱装置1の後方に配置された前記カッタで掻きほぐし、それをミキサに投入して新規アスファルト混合物や再生用添加材料などと混合して舗装表層部に排出し、スクリードによって敷き均し、その後、転圧ローラによって締め固めるといった一連の作業手順により再生処理が行われる。このときの誘電加熱装置1での加熱より後方の作業については、従来の作業手順と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0039】
上述のように本実施の形態によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置1では、一旦、上部空胴部S1において電磁界分布を安定させるための空間を設け、その電磁界分布の安定状態が崩れない程度に開口穴7を設け、その開口穴7からエネルギー強度の安定したマイクロ波Mを放射させ、下層部3より放射されるマイクロ波Mのエネルギーを加熱対象物10に与えることで、その加熱対象物10を効率よく加熱することができることから、エネルギー効率の向上を図ることができる。
また、開口穴7から放射されるマイクロ波Mは、下層部3の下部周壁部31によって遮蔽されているので、誘電加熱装置1の外側の空気中への漏出に対する遮蔽手段は簡易なもので済み、遮蔽対策にかかる装置の増大を抑えて、装置の小型化を図ることができる。
【0040】
以上、本発明によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では開口穴7の形状を二等辺三角形としているが、これに限定されることはない。例えば、図7、図8、および図9に示すような形状の開口穴であってもかまわない。すなわち、図7に示す第1変形例による開口穴7Aは、楕円の短軸y方向に長辺方向を向けた長方形状となっている。図8に示す第2変形例による開口穴7Bは、台形状をなし、短軸方向の一方から他方に向けて幅寸法が大きくなる形状となっている。また、図9に示す第3変形例による開口穴7Cは、短軸方向に沿って幅が正弦波状に変化する形状となっている。ここで、その幅は第1空胴の電界の強い部分および弱い部分に対応して、それぞれ狭く、広くなっている。これによって第2空胴へ向かって放射されるマイクロ波のエネルギーは、短軸方向にほぼ均一な正弦波状の分布になる。周期性のない均一性を求める場合には加熱装置全体を短軸方向にその周期の半分だけ移動させる。さらに、面状の均一な加熱を行う場合には横方向移動を加える。
【0041】
また、下層部3の下部周壁部31は上下方向の高さ寸法が調整可能であってもかまわない。この場合、開口穴7から放射されるマイクロ波のエネルギーの強さに応じて下層部3における下部周壁部31の上下方向の高さ寸法を変えることで、加熱対象物10に対する加熱の深さ寸法を調整することができる。そのため、加熱対象物10の表面からの加熱深さ寸法を薄くする場合には、下部周壁部31の高さ寸法を大きくして開口穴7から加熱対象物10の表面までの距離を大きくすることで、加熱対象物10の表面に達するマイクロ波Mのエネルギーが小さくなるため、加熱対象物10が受ける加熱量を少なくすることができる。
【0042】
また、本実施の形態の仕切板6は着脱可能に設けられていてもよい。これにより、開口穴7の形状、大きさ、位置の異なる仕切板を使用条件に合わせて適宜取り替えることが容易となる利点がある。例えば、上層部2の上部周壁部21と下層部3の下部周壁部31との間に仕切板をその面方向にスライドさせて着脱できる構成とすることができる。
【0043】
上層部2又は下層部3には、下層部3の開放縁端3aを加熱対象物10に接地させた状態で、その接地部を覆う遮蔽部材(図示省略)が設けられていてもよい。この場合、開口穴7から放射されるマイクロ波は下部周壁部31と前記遮蔽部材とによって二重に覆われることから、マイクロ波Mの空気中への漏出をより確実に防ぐことができる。
【0044】
さらにまた、本実施の形態では上部空胴部S1の平面視形状を楕円形としているが、楕円形であることに限定されることはなく、円形、或いは楕円を僅かに外れるような形状であってもかまわない。但し、円の場合には短軸の向きを特定することができないので、共振領域Tの向きを固定することが難しく、上部空胴部S1の形状に僅かな変化が生じたときに、共振領域Tの向きが変わる可能性がある。そのため、略円形断面より略楕円形断面の方が確実に共振領域Tを安定させることができる。
【0045】
さらに、上部空胴部S1及び下部空胴部S2の高さ寸法、アスペクト比、開口穴7の形状などの構成は、本実施の形態に限定されることはなく、上述した上部空胴部S1内の電磁界を安定させることができ、加熱対象物10を所望温度で加熱させることができる範囲で任意に設定することができる。
【0046】
また、本実施の形態では既設のアスファルト舗装体の再生処理に誘電加熱装置1を採用しているが、このような適用対象に制限されることはなく、例えば公園の砂場等の砂にマイクロ波のエネルギーを与えて加熱することにより清浄化させる場合にも適用可能である。軽く均して転圧しなおすといった用途にも使用することができる。
他に、本発明による誘電加熱装置1は、既設舗装路面のひび割れ等を補修するときに当該路面を加熱する用途にも採用できる。また、この誘電加熱装置1は、再生アスファルト混合物の原材料となる再生骨材等を加熱する用途や、既設舗装の内部に溜まった水を加熱乾燥する用途等の各種用途にも採用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 誘電加熱装置
2 上層部
3 下層部
3a 開放縁端
4 導波管
5 発振器
6 仕切板
7 開口穴
10 加熱対象物
31 下部周壁部
S1 上部空胴部(第1空胴部)
S2 下部空胴部(第2空胴部)
T 共振領域
R 被加熱領域
y 上部空胴部の短軸
F 電界の向き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物にマイクロ波のエネルギーを与えて加熱するマイクロ波を用いた誘電加熱装置であって、
閉空間からなる第1空胴部を形成した上層部と、該上層部から下方に延びる周壁部を有するとともに下側が開放された下層部とを備えた上下二層構造をなし、
前記上層部と前記下層部との間の仕切板には、前記第1空胴部と前記下層部の周壁部によって囲まれる第2空胴部とを連通する開口穴が設けられ、
前記第1空胴部は、前記マイクロ波の電磁界分布が中央部に集中する共振領域が形成可能とされ、
前記開口穴が前記共振領域の位置となる構成とされたことを特徴とするマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項2】
前記第1空胴部の平面形状は、楕円形であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項3】
前記周壁部は、上下方向の高さ寸法が調整可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項4】
前記第1空胴部には、前記マイクロ波を供給するための導波管が前記共振領域を避けた位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項5】
前記仕切板は着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項6】
前記上層部又は前記下層部には、前記下層部の開放縁端を前記加熱対象物に接地させた状態で、その接地部を覆う遮蔽部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−28917(P2011−28917A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171509(P2009−171509)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPO (130)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】