説明

マクロライド系化合物の製造方法

本発明は、抗腫瘍活性を有する12員環マクロライド系化合物11107D物質の生物学的変換による新規な製造方法を提供する。出発原料である式(I)で示される12員環マクロライド系化合物11107B物質を、式(II)で示される11107D物質に変換する能力を有するモルティエレラ(Mortierella)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する菌株(例えばストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551))、またはその培養菌体調製物および酸素の存在下、出発原料をインキュベーション処理し、その処理液から目的物である11107D物質を採取する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗腫瘍活性を有する12員環マクロライド系化合物11107D物質の生物学的変換による製造方法およびそれに用いられる新規菌株に関する。
【背景技術】
12員環マクロライド系化合物11107D物質は、優れた抗腫瘍活性を有する12員環マクロライド系化合物であり、11107B物質とともにストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)Mer−11107株の培養物より見出されたものである(WO−A02/060890参照)。11107D物質は、11107B物質の16位水酸化体に相当するが、その生産性は11107B物質の生産性よりも少なく、効率的な製造方法の確立が望まれていた。
【発明の開示】
本発明の課題は、マクロライド系化合物11107B物質を出発原料とした、生物学的変換方法によるマクロライド系化合物11107D物質の新規な製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために広範な微生物群からマクロライド系化合物11107B物質の16位水素原子を水酸基に変換しうる微生物のスクリーニングを試みたところ、糸状菌に分類されるモルティエレラ(Mortierella)属に属する菌株、放線菌に分類されるストレプトミセス(Streptomyces)属に属する菌株および同じく放線菌に分類されるミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する菌株が前記変換能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下の(1)〜(3)に関する。
(1) 式(I)

で示されるマクロライド系化合物11107B物質の、式(II)

で示されるマクロライド系化合物11107D物質への生物学的変換方法による、式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質の製造方法であって、下記工程(A)及び(B)を含むことを特徴とする製造方法。
(A)前記生物学的変換方法を行いうるものであって、かつ、モルティエレラ(Mortierella)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質をインキュベーション処理する工程。
(B)工程(A)で得られるインキュベーション処理液から式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質を採取する工程。
(2)前記モルティエレラ属に属する菌株がモルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株(FERM BP−8547)またはF−1530株(FERM BP−8548)である前記(1)記載の製造方法。
(3) 前記ストレプトミセス属に属する菌株がストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551)、A−1544株(FERM BP−8446)またはA−1545株(FERM BP−8447)である前記(1)記載の製造方法。
(4)前記ミクロモノスポラセアエ科に属する菌株がAB−1896株(FERM BP−8550)である前記(1)記載の製造方法。
(5) 前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、ストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551)。
(6)前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株(FERM BP−8547)またはF−1530株(FERM BP−8548)。
(7)前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、AB−1896株(FERM BP−8550)。
発明の詳細な説明
本発明の生物学的変換方法では、モルティエレラ(Mortierella)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する微生物であって、前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質へ変換する能力を有する微生物であれば、種および株の種類を問うことなく使用できるが、好ましい微生物として、いずれも土壌から分離されたモルティエレラ属に属するモルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株およびF−1530株、ストレプトミセス属に属するストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株、A−1544株およびA−1545株、ミクロモノスポラセアエ科に属するAB−1896株等を挙げることができる。
Mer−11107株は、FERM P−18144として平成12年12月19日付で日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番3号在の工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託され、さらに平成13年11月27日付で日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)において、これを国際寄託FERM BP−7812に移管された。
モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株は、日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年11月12日付けでFERM BP−8547として国際寄託されている。また、モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1530株は、同じく日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年11月12日付けでFERM BP−8548として国際寄託されている。
ストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株は、日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成14年9月5日付で、FERM P−18999として寄託され、さらに平成15年11月12日付で日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)において、これを国際寄託FERM BP−8551に移管された。また、A−1544株、A−1545株は、同じく日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成14年7月23日付でそれぞれFERM P−18943およびFERM P−18944として寄託され、さらに平成15年7月30日付で日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)において、それぞれ国際寄託FERM BP−8446およびFERM BP−8447に移管された。
ミクロモノスポラセアエ科に属するAB−1896株は、日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成15年11月12日付けでFERM BP−8550として国際寄託されている。
なお、上記菌株の菌学的性状は次のとおりである。
[F−1529株の菌学的性状]
(1) 形態
オートミールアガー(Oatmeal Agar:以下OAと略称する場合がある),モルトアガー(Malt Agar:2% Malt extract + 1.5% Agar:以下MEAと略称する場合がある),ポテトデキストロースアガー(Potato Dextrose Agar:以下PDAと略称する場合がある)のプレートにおいて、コロニーは羊毛状(floccose)を示し、菌糸色は白色でwhite(1A−1)の色調を呈する。25℃、1週間培養における生育はOAプレートで75mm、MEAプレートで75〜80mm、PDAプレートで直径75〜80mmに達する。コロニーは花笠状の形状を示す。裏面着色及び可溶性色素の産生は認められない。色調に関する記述は「メチューン・ハンドブック・オブ・カラー[Methuen Handbook of Colour(Kornerup & Wanscher,1978)]に従った。
光学顕微鏡による観察の結果、栄養菌糸は無色、表面は平滑で、隔壁は無く、菌糸の幅は4〜5μmとなる。菌糸の一部に球状で26.5〜33μm位の厚壁胞子の様な膨らんだ構造が観察された。供試した培地においては最長3週間の培養でも生殖器官と思われる構造は形成しなかった。
(2)18S rRNA遺伝子解析
F−1529株の寒天平板培養菌体をFastPrep FP120(Q−BIOgene社製)及びFast DNA Kit(Q−BIOgene社製)を用いてDNA抽出を行った。PCRはpuReTaq Ready−To−Go PCR beads(Amersham Biosciences社製)と表1及び表2に示すPCRプライマーNS1及びNS8を用いて実施した。PCR産物はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、ABI Prism BigDye Terminator Kit(Applied Biosystems社製)に用いた。シークエンシングプライマーは表1及び表2に示すNS1,NS2,NS3,NS4,NS5,NS6,NS7及びNS8を用いた。反応生成物はDyeEx2.0 Spin Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)で配列解読を行い、AutoAssembler(Applied Biosystems社製)を用いて各シークエンス断片を結合し、目的塩基配列を得た。


得られた本菌株の18S rRNA遺伝子は、配列番号9に記載の塩基配列を有する。
日本DNAデータバンク(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)より公知菌株のDNA塩基配列を入手し、18S rRNA遺伝子の相同性を調べた。その結果、Mortierella hyalina(GenBank,accession no.AY157493)の18S rRNA遺伝子と99%(上流803塩基)、Mortierella chlamydospora(GenBank,accession no.AF157143)の18S rRNA遺伝子と98%(全長)、Mortierella multidivaricata(GenBank,accession no.AF157144)の18S rRNA遺伝子と98%(全長)の相同性を示した。
以上の菌学的性質から本発明者らは本菌株がモルティエレラ(Mortierella)属に属すると判断した。
[F−1530株の菌学的性状]
(1) 形態
オートミールアガー(Oatmeal Agar),モルトアガー(Malt Agar),ポテトデキストロースアガー(Potato Dextrose Agar)のプレートにおいて、コロニーは綿毛状(cottony)を示し、菌糸色は白色でwhite(1A−1)の色調を呈する。25℃、1週間培養における生育はOAプレートで80〜85mm、MEAプレートで85mm、PDAプレートで直径85mmに達する。コロニーは花笠状の形状を示す。裏面着色及び可溶性色素の産生は認められない。色調に関する記述は「メチューン・ハンドブック・オブ・カラー[Methuen Handbook of Colour(Kornerup & Wanscher,1978)]に従った。
光学顕微鏡による観察の結果、栄養菌糸は無色、表面は平滑で、隔壁は無く、菌糸の幅は2.5〜5μmとなる。菌糸の一部に球状で10μm位の厚壁胞子の様な膨らんだ構造が観察された。供試した培地においては最長3週間の培養でも生殖器官と思われる構造は形成しなかった。
(2)18S rRNA遺伝子解析
F−1529株と同様の手法でF−1530株の18S rRNA遺伝子を解析した。
得られたF−1530株の18S rRNA遺伝子は、配列番号10に記載の塩基配列を有する。
日本DNAデータバンク(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)より公知菌株のDNA塩基配列を入手し、18S rRNA遺伝子の相同性を調べた。その結果、Mortierella hyalina(GenBank,accession no.AY157493)の18S rRNA遺伝子と100%(上流803塩基)、Mortierella chlamydospora(GenBank,accession no.AF157143)の18S rRNA遺伝子と98%(全長)、Mortierella multidivaricata(GenBank,accession no.AF157144)の18S rRNA遺伝子と98%(全長)の相同性を示した。
以上の菌学的性質から本発明者らは本菌株がモルティエレラ(Mortierella)属に属すると判断した。
[AB−1704株の菌学的性状]
(1) 形態
基生菌糸より直状(Rectiflexibiles type)の気中菌糸を伸長する。成熟した気中菌糸の先に20〜50個程度の円筒形の胞子からなる胞子鎖を形成する。胞子の大きさは0.6〜0.8×1.0〜1.1μm位で、胞子の表面は平滑状(smooth)を示し、胞子のう、菌核、鞭毛などの特殊な器官は認められない。
(2) 各種培地における生育状態
各種培地上で28℃、約2週間培養後の培養性状を表3に示す。色調の記載はトレズナーのカラー・ホイールズ(TresnerのColor wheels)の色標名と括弧内に示す符号で表示する。


(3) 各種炭素源の同化性
プリードハム・ゴトリーブ寒天培地に各種の炭素源を加え、28℃、培養2週間後の生育状況を表4に示す。

(4) 生理学的諸性質
本菌の生理学的諸性質は以下の通りである。
(a)生育温度範囲(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):5℃〜33℃
(b)生育至適温度(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):15℃〜33℃
(c)ゼラチンの液化(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地):陽性
(d)ミルクの凝固(スキムミルク培地):陽性
(e)ミルクのペプトン化(スキムミルク培地):陽性
(f)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地):陽性
(g)メラニン様色素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陰性
(チロシン培地):陰性
(h)硫化水素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陰性
(i)硝酸塩の還元(0.1%硝酸カリ含有ブロス):陽性
(j)食塩の耐性(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):食塩含有量7%以下で生育
(5) 菌体成分
本菌の細胞壁からLL型のジアミノピメリン酸が検出された。
以上の菌学的性質から本発明者らは本菌株がストレプトミセス(Streptomyces)属に属すると判断した。
[A−1544株の菌学的性状]
(1) 形態
基生菌糸より螺旋状(Spira type)の気中菌糸を伸長する。成熟した気中菌糸の先に10〜20個程度の円筒形の胞子からなる胞子鎖を形成する。胞子の大きさは1.0×1.2〜1.4μm位で、胞子の表面はトゲ状(spiny)を示し、胞子のう、菌核、鞭毛などの特殊な器官は認められない。
(2) 各種培地における生育状態
各種培地上で28℃、約2週間培養後の培養性状を表5に示す。色調の記載はトレズナーのカラー・ホイールズ(TresnerのColor wheels)の色標名と括弧内に示す符号で表示する。


(3) 各種炭素源の同化性
プリードハム・ゴトリーブ寒天培地に各種の炭素源を加え、28℃、培養2週間後の生育状況を表6に示す。

(4) 生理学的諸性質
本菌の生理学的諸性質は以下の通りである。
(a)生育温度範囲(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):15℃〜41℃
(b)生育至適温度(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):20℃〜37℃
(c)ゼラチンの液化(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地):陽性
(d)ミルクの凝固(スキムミルク培地):陽性
(e)ミルクのペプトン化(スキムミルク培地):陽性
(f)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地):陽性
(g)メラニン様色素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陽性
(チロシン培地):陰性
(h)硫化水素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陽性
(i)硝酸塩の還元(0.1%硝酸カリ含有ブロス):陰性
(j)食塩の耐性(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):食塩含有量7%以下で生育
(5) 菌体成分
本菌の細胞壁からLL型のジアミノピメリン酸が検出された。
以上の菌学的性質から本発明者らは本菌株がストレプトミセス(Streptomyces)属に属すると判断した。
[A−1545株の菌学的性状]
(1) 形態
基生菌糸より直状(Rectiflexibiles type)の気中菌糸を伸長する。成熟した気中菌糸の先に50個以上の胞子からなる胞子鎖を形成する。胞子の大きさは0.8×1.0μm位で、胞子の表面は平滑状(smooth)を示し、胞子のう、菌核、鞭毛などの特殊な器官は認められない。
(2) 各種培地における生育状態
各種培地上で28℃、約2週間培養後の培養性状を表7に示す。色調の記載はトレズナーのカラー・ホイールズ(TresnerのColor wheels)の色標名と括弧内に示す符号で表示する。


(3) 各種炭素源の同化性
プリードハム・ゴトリーブ寒天培地に各種の炭素源を加え、28℃、培養2週間後の生育状況を表8に示す。

(4) 生理学的諸性質
本菌の生理学的諸性質は以下の通りである。
(a)生育温度範囲(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):10℃〜37℃
(b)生育至適温度(イースト麦芽寒天培地、2週間培養):20℃〜33℃
(c)ゼラチンの液化(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地):陰性
(d)ミルクの凝固(スキムミルク培地):陽性
(e)ミルクのペプトン化(スキムミルク培地):陽性
(f)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地):陽性
(g)メラニン様色素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陰性
(チロシン培地):陰性
(h)硫化水素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陽性
(i)硝酸塩の還元(0.1%硝酸カリ含有ブロス):陰性
(j)食塩の耐性(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):食塩含有量7%以下で生育
(5) 菌体成分
本菌の細胞壁からLL型のジアミノピメリン酸が検出された。
以上の菌学的性質から本発明者らは本菌株がストレプトミセス(Streptomyces)属に属すると判断した。
[AB−1896株の菌学的性状]
(1)形態
AB−1896株は菌株同定に使用した培地上28℃、7〜14日間培養において良好もしくは中程度の生育を見せる。培養中気菌糸は観察されず、基生菌糸上に1個ずつ胞子が観察される。胞子は球形で、大きさは約0.8〜0.9μm、胞子の表面はイボ状(warty)である。胞子嚢、菌核、鞭毛などの特殊な器官は認められない。
(2)各種培地における生育状態
各種培地上で28℃、約2週間培養後の培養性状を表9に示す。色調の記載はトレズナーのカラー・ホイールズ(TresnerのColor wheels)の色標名と括弧内に示す符号で表示する。


(3)各種炭素源の同化性
プリードハム・ゴトリーブ寒天培地に各種の炭素源を加え、28℃、培養2週間後の生育状況を表10に示す。

(4)生理学的諸性質
本菌の生理学的諸性質は以下の通りである。
(a)生育温度範囲(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):20℃〜41℃
(b)生育至適温度(イースト・麦芽寒天培地、2週間培養):25℃〜37℃
(c)ゼラチンの液化(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地):陰性
(d)ミルクの凝固(スキムミルク培地):陽性
(e)ミルクのペプトン化(スキムミルク培地):陽性
(f)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地):陽性
(g)メラニン様色素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陰性
(チロシン培地):陰性
(h)硫化水素の産生(ペプトン・イースト・鉄寒天培地):陰性
(i)硝酸塩の還元(0.1%硝酸カリ含有ブロス):腸性
(j)食塩の耐性(イースト麦芽寒天培地、2週間培養):食塩含有量4%でも生育しない
(5)菌体成分
AB−1896株の細胞壁からmeso型のジアミノピメリン酸が検出された。全菌体の主要構成糖としてキシロースとマンノースが検出された。細胞壁ペプチドグリカン中のアシル型はグリコリル型であった。ミコール酸は検出されなかった。主要メナキノン成分としてMK−9(H)、MK−9(H)、MK−10(H)、MK−10(H)が検出された。
(6)16S rRNA遺伝子解析
AB−1896株の培養液を集菌後、Fast DNA Kit(Q−BIOgene社製)を用いてDNA抽出を行った。PCRは96℃20秒、50℃20秒、72℃1分を30サイクルの反応条件で行った。プライマーは9F(5’−GTGTTTGATCCTGGCTCAG−3’)(配列番号11)及び536R(5’−GTATTACCGCGGCTGCTG−3’)(配列番号12)を用いた。PCR産物はMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、シークエンシング用サンプルとした。
シークエンシングはABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)装置、及びBigDye Terminatorキットを用い、標準のプロトコールに従った。プライマーは9F,536Rを用いた。
得られた本菌株の16s rRNA遺伝子の5’末端側の約500塩基は、配列番号13の通りである。
日本DNAデータバンク(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)より公知菌株のDNA塩基配列を入手し、16s rRNA遺伝子の5’末端側400〜500塩基間の相同性を調べた。その結果、Micromonospora sp.DSM44396(GenBank,accession no.AJ560637)の16s rRNA遺伝子とは98%、Micromonospora purpureochromogenes(GenBank,accession no.X92611)遺伝子と98%、Micromonospora属の基準株であるM.chalcea IFO12135(GenBank,accession no.D85489)遺伝子と95%、Verrucosispora属の基準株であるVerrucosispora gifhornensis(GenBank,accession no.Y15523)遺伝子と95%の相同性を示した。
AB−1896株は大方Micromonospora属の特徴を持つが、全菌体の主要構成糖としてアラビノースが検出されずマンノースが検出された点でMicromonospora属とは完全には一致しない。またVerrucosispora gifhornensisで見られる特徴的な胞子が菌株同定に使用した培地上では観察されない点でVerrucosispora属とも完全には一致しない。本発明者らは、これらの菌学的性質を総合的に考慮して、AB−1896株をミクロモノスポーラセアエ科(Family Micromonosporaceae)に属する放線菌と判断した。
本発明によれば、まず工程(A)において、前記菌株またはその培養菌体調製物、さらに酸素の存在下で、出発原料(基質)であるマクロライド系化合物11107B物質がインキュベーション処理される。この処理は前記菌株を好気的条件下で培養する際に、その培養液中に基質を添加して行うか、あるいは場合により前記菌株の培養菌体を、例えばそのまま、もしくはホモジナイズした調製物の懸濁液中に基質を添加し、酸素を含む気体、例えば空気を通気しながらインキュベーションして行うこともできる。
培養液への基質の添加は、培養前または培養開始後一定期間経過したときのいずれの時期に行ってもよい。上記菌体は上記いずれかの菌株を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造できる。かかる培養菌体の調製物を用意するための菌株の培養または基質が添加された状態で行われる菌株の培養は、原則的には一般微生物の培養方法に準じて行うことができるが、通常は液体培養による振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で実施するのが好ましい。
培養に用いられる培地としては、モルティエレラ(Mortierella)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する微生物が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地などいずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としての、グルコース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、フルクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、大豆油等を単独または組み合わせて用いることができる。
窒素源としては、ファルマメディア、ペプトン、肉エキス、大豆粉、魚粉、グルテンミール、カゼイン、乾燥酵母、アミノ酸、酵母エキス、NZ−case、尿素等の有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独または組み合わせて用いうる。その他、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、塩化マンガン、塩化コバルト等の塩類、重金属類塩、ビタミンBおよびビオチン等のビタミン類、シクロデキストリン類のような包接剤も必要に応じ添加使用することができる。なお、培養中発泡が著しい場合には、各種消泡剤を適宜培地中に添加することができる。消泡剤の添加にあたっては目的物質の生産に悪影響を与えない濃度とする必要がある。
培養条件は該菌株が良好に生育して上記物質を生産し得る範囲内で適宜選択し得る。例えば培地のpHは5〜9程度、通常中性付近とするのが望ましい。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは24〜30℃に保つのが良い。培養日数は1〜8日程度で、通常2〜5日程度である。上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できるのはいうまでもない。
また、培養菌体調製物は、培養終了後、遠心分離または濾過により分離した菌体またはホモジナイズした菌体を適当な溶液に懸濁して調製する。菌体の懸濁に使用できる溶液は、前記した培地であるか、あるいはトリス−酢酸、トリス−塩酸、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどの緩衝液を単独または混合したものである。緩衝液のpHは、5.0〜9.0、好ましくは6.0〜7.5である。
基質となる11107B物質は、粉末のままか、あるいは水溶性有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドなどに溶解して培養液または菌体の懸濁液に添加することができ、その添加量は、例えば、培養液の場合、培養液1L当り50〜5000mgが好ましい。基質添加後は、20〜31℃で約1〜5日間、振とうあるいは通気攪拌などの操作を行い、好気的条件下で反応を進行させることにより基質である11107B物質を目的の11107D物質に変換することができる。
次に、工程(B)において、前記工程(A)で得られたインキュベーション処理液から目的の11107D物質を採取する。11107D物質を工程(A)の反応混合物から単離するには、一般に微生物代謝産物を単離するために用いられる種々の既知精製手段を選択、組合せて行うことができる。例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、トルエン等を用いた有機溶媒抽出、各種のイオン交換クロマトグラフィー、セファデックスLH−20等を用いたゲル濾過クロマトグラフィー、ダイヤイオンHP−20等の疎水性吸着樹脂、活性炭、シリカゲル等による吸着クロマトグラフィー、もしくは薄層クロマトグラフィーによる吸脱着処理、あるいは逆相カラム等を用いた高速液体クロマトグラフィー等を、単独あるいは適宜組合せ、場合により反復使用することにより、分離精製することができる。
【実施例】
以下、本発明について具体例を挙げてより詳細に説明するが、本発明をこれらの例に限定することを意図するものではない。なお、下記の例中のパーセント(%)は、特に断りのない限り、重量パーセント(%(w/v))を示す。
参考例1(原料である11107B物質の製造)
ストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)Mer−11107株(FERM BP−7812)の斜面培養(ISP−2培地)から1白金耳を50mlの種母培地[グルコース2.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)1.0%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、殺菌前pH6.8]を入れた500ml容の三角フラスコに接種し、28℃で2日間培養して第一段種母培養液を得た。この培養液0.1mlを同じ種母培地100mlを入れた500ml容の三角フラスコに接種し、28℃で1日間培養して第二段種母培養液を得た。このようにして得た第二段種母培養液800mlを生産培地[可溶性澱粉5.0%、ファルマメディア0.8%、グルテンミール0.8%、酵母エキス0.5%、炭酸カルシウム0.1%、殺菌前pH6.8]100Lを入れた200Lタンクに接種し、培養温度28℃で攪拌数90rpm、通気量1.0vvm、内圧20kPaの条件で5日間通気攪拌培養を行って培養液を得た。
このようにして得た培養液の一部(10L)を10Lの1−ブタノールにて抽出後、ブタノール層を減圧乾固し、100gの粗活性画分を得た。この粗活性画分をセファデックスLH−20(ファルマシア社製、1500ml)上に添加し、テトラヒドロフラン−メタノール(1:1)の溶媒で溶出した。540mlから660mlまでに溶出した画分を減圧下で濃縮乾固し、残渣(660mg)を得た。さらにこの残渣を酢酸エチルおよびメタノール(9:1;v/v)の混液に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC−200、50g)に付した。このカラムをn−ヘキサンおよび酢酸エチル(1:9;v/v)の混液(2L)で溶出し、468mlから1260mlまでに溶出した画分を集め、減圧下で濃縮し、粗活性画分を25mg得た。
得られた粗活性画分を下記のHPLC分取条件(A)で分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、保持時間34分に溶出される画分を集め、アセトニトリルを留去後、下記HPLC分取条件(B)にてその画分をHPLCによる脱塩を行うことにより11107B物質(保持時間:37分)を6mg得た。
HPLC分取条件(A)
カラム:YMC−PACK ODS−AM SH−343−5AM,φ20mm×250mm(ワイエムシー社製)
温度:室温
流速:10ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/0.15%リン酸一カリウム(pH3.5)(2:8〜8:2,v/v,0〜50分,リニアグラジェント)
HPLC分取条件(B)
カラム:YMC−PACK ODS−AM SH−343−5AM,φ20mm×250mm(ワイエムシー社製)
温度:室温
流速:10ml/分
検出:240nm
溶出液:メタノール/水(2:8〜10:0,v/v,0〜40分,リニアグラジェント)
実施例1(AB−1704株の取得)
土壌から分離された菌株の斜面培地[可溶性澱粉0.5%、グルコース0.5%、魚肉エキス(和光純薬工業(株)製)0.1%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.1%、NZ−case(フムコ・シェフィールド・ケミカル社製)0.2%、塩化ナトリウム0.2%、炭酸カルシウム0.1%、寒天(和光純薬工業(株)製)1.6%]から1白金耳を7mlの種母培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%]を入れた65ml容の試験管に接種し、28℃で3日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。
さらに種母培養液0.5mlを7mlの生産培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%]の入った65ml容の試験管に植え継ぎ、28℃で3日間振とう培養機上で培養した。次に基質である11107B物質を25mg/mlエタノール溶液として調製し、0.2ml添加した。添加後、28℃で48時間振とうし、変換反応を行った。反応後、下記のHPLC分析条件(a)でHPLC分析を行い、反応混合物中に11107D物質が生成している株、AB−1704株(FERM BP−8551)を取得した。
HPLC分析条件(a)
カラム:CAPCELL PAK C18 SG120,φ4.6mm×250mm(資生堂(株)製)
温度:40℃
流速:1ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/0.15%リン酸一カリウム(pH3.5)(3:7〜5:5,v/v,0〜18分,リニアグラジエント),アセトニトリル/0.15%リン酸一カリウム(pH3.5)(5:5〜85:15,v/v,18〜22分,リニアグラジエント)
保持時間:11107D物質 9.9分、11107B物質 19.4分
実施例2(A−1544株およびA−1545株の取得)
土壌から分離された菌株の斜面培地(イースト・麦芽寒天培地)から1白金耳を20mlの種母培地[可溶性澱粉2.4%、グルコース0.1%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)0.5%、牛肉エキス(Difco社製)0.3%、酵母エキス(Difco社製)0.5%、トリプトン・ペプトン(Difco社製)0.5%、炭酸カルシウム0.4%]を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、28℃で3日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。
さらに種母培養液0.6mlを60mlの生産培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース2.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、硫酸銅0.0005%、塩化マンガン0.0005%、硫酸亜鉛0.0005%、殺菌前pH7.4]の入った500ml容の三角フラスコに植え継ぎ、28℃で4日間振とう培養機上で培養した。得られた培養液2mlを15ml試験管に分注した。次に基質である11107B物質を20mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、0.05ml添加した。添加後28℃で23時間振とうし、変換反応を行った。反応後、下記のHPLC分析条件(b)でHPLC分析を行い、反応混合物中に11107D物質が生成している株、A−1544株(FERM BP−8446)およびA−1545株(FERM BP−8447)を取得した。
HPLC分析条件(b)
カラム:CAPCELL PAK C18 SG120,φ4.6mm×250mm(資生堂(株)製)
温度:40℃
流速:1ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/水(50:50,v/v)アイソクラティック
保持時間:11107B物質 7.2分、11107D物質 3.6分
実施例3(フラスコスケールにおけるAB−1704株による変換)
土壌から分離されたストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551)の斜面培地[可溶性澱粉0.5%、グルコース0.5%、魚肉エキス(和光純薬工業(株)製)0.1%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.1%、NZ−case(フムコ・シェフィールド・ケミカル社製)0.2%、塩化ナトリウム0.2%、炭酸カルシウム0.1%、寒天(和光純薬工業(株)製)1.6%]から1白金耳を100mlの種母培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%]を入れた500ml容の三角フラスコに接種し、28℃で3日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに100mlの生産培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%]の入った500ml容の三角フラスコ150本に種母培養液を2mlずつ植え継ぎ、28℃で2日間振とう培養機上で培養した。
得られた培養液(100ml/500ml容三角フラスコ、150本)に、20mg/mlエタノール溶液として調製した、基質である11107B物質をそれぞれ0.44ml添加した。添加後、28℃で9時間振とうし、変換反応を行った。反応終了後、培養液を集め、2700rpm、10分間の遠心分離によって培養上清と菌体に分離した。菌体は5Lのメタノールで抽出後、ろ過してメタノール抽出液を得た。メタノール抽出液から減圧下でメタノールを留去した後、培養上清と合わせて、10Lの酢酸エチルにて抽出した。得られた酢酸エチル溶液を減圧下で濃縮し、2090mgの粗活性画分を得た。この粗活性画分をテトラヒドロフラン−メタノール(1:1,v/v)の混液4mlおよび50%アセトニトリル水溶液6mlに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(ワイエムシー社製、ODS−AM 120−S50 φ3.6cm×43cm)に付し、40%アセトニトリル水溶液で溶出した。336mlから408mlまでに溶出した画分を減圧下で濃縮乾固することにより560mgの残渣を得た。さらにこの残渣を50%メタノール水溶液10mlに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(ワイエムシー社製ODS−AM 120−S50 φ3.6cm×40cm)に付し、50%メタノール水溶液で溶出した。1344mlから1824mlまでに溶出した画分を減圧下で濃縮乾固することにより、11107D物質252mgを得た。
実施例4(フラスコスケールにおけるA−1545株による変換)
A−1545株(FERM BP−8447)の斜面培地(イースト・麦芽寒天培地)から1白金耳を25mlの種母培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース2.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、酵母エキス(Difco社製)0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、殺菌前pH7.4]を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、28℃で2日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。この培養液0.75mlを2ml容のセラムチューブ(住友ベークライト(株)製)に分注し、同量の40%グリセロール水溶液を添加し、攪拌後−70℃で凍結し、凍結種母を作製した。この凍結種母を融解し、そのうち0.25mlを25mlの種母培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース2.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、殺菌前pH7.4]を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、28℃で2日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.5mlを100mlの生産培地[可溶性澱粉2.0%、グルコース2.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、殺菌前pH7.4]の入った500ml容の三角フラスコに植え継ぎ、28℃で3日間振とう培養機上で培養した。
得られた培養液(100ml/500ml容三角フラスコ、10本)、それぞれについて3000rpm、10分間の遠心分離を行い集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)100mlに懸濁した。次に基質である11107B物質を100mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、それぞれ1ml添加した。添加後、28℃で24時間振とうし、変換反応を行った。反応終了後、反応液を集め、5000rpm、20分間の遠心分離によって、上清と菌体に分離した。上清は1Lの酢酸エチルにて抽出した。菌体は500mlのメタノールで抽出後、ろ過してメタノール抽出液を得た。メタノール抽出液から減圧下でメタノールを留去した後、1Lの酢酸エチルで抽出した。それぞれの酢酸エチル層を水洗し、無水硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、合わせて減圧下で濃縮し、937mgの粗画分を得た。この粗画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Kiesel gel 60,50g)に付し、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(90:10;v/v)の混液1200mlで溶出し、11107D物質を含む画分234mgを得た。得られた活性画分を下記分取条件(C)で分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、得られる溶出液を下記の分析条件(c)でHPLC分析した。こうして得られた11107D物質を含む画分から、溶媒を留去することにより、11107D物質80mgを得た。
HPLC分取条件(C)
カラム:CAPCELL PAK C18 UG120,φ30mm×250mm(資生堂(株)製)
流速:20ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/水(30:70,v/v)アイソクラティック
HPLC分析条件(c)
カラム:CAPCELL PAK C18 SG120,φ4.6mm×250mm(資生堂(株)製)
温度:40℃
流速:1ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/水(35:65,v/v)アイソクラティック
保持時間:11107D物質 7.8分
実施例5(フラスコスケールにおけるA−1544株による変換)
実施例4と同様の方法にて得られたA−1544株(FERM BP−8446)の培養液(100ml/500ml容三角フラスコ、10本)、それぞれについて、3000rpm、10分間の遠心分離を行い集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)100mlに懸濁した。次に基質である11107B物質を100mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、それぞれ1ml添加した。添加後、28℃で24時間振とうし、変換反応を行った。反応終了後、反応液を集め、5000rpm、20分間の遠心分離によって、上清と菌体に分離した。上清は1Lの酢酸エチルにて抽出した。菌体は500mlのアセトンで抽出後、ろ過してアセトン抽出液を得た。アセトン抽出液から減圧下でアセトンを留去した後、1Lの酢酸エチルで抽出した。それぞれの酢酸エチル層を水洗し、無水硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、合わせて減圧下で濃縮し、945mgの粗画分を得た。この粗画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Kiesel gel 60,50g)に付し、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(50:50;v/v)の混液100ml、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(75:25;v/v)の混液200ml、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(90:10;v/v)の混液(600ml)で溶出し、11107D物質を含む画分463mgを得た。得られた画分を実施例4記載の分取条件(C)で分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、得られる溶出液を実施例4記載の分析条件(c)でHPLC分析した。こうして得られた11107D物質を含む画分から、溶媒を留去することにより、11107D物質304mgを得た。
実施例6(F−1529株およびF−1530株の取得)
土壌から分離された菌株の斜面培地(ポテトデキストロース寒天培地)から1白金耳を20mlの種母培地(馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%)を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、25℃で3日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.6mlを60mlの生産培地(馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%)の入った500ml容の三角フラスコに植え継ぎ、28℃で4日間振とう培養機上で培養した。得られた培養液2mlを15ml試験管に分注した。それぞれについて3000rpm、5分間の遠心分離によって集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)2mlに懸濁した。次に基質である11107B物質を20mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、それぞれ0.05ml添加した。添加後28℃で23時間振とうし、水酸化反応を行った。反応後、実施例4記載の分析条件(c)でHPLC分析を行い、11107D物質のピークが現れる株、F−1529株(FERM BP8547)およびF−1530株(FERM BP−8548)を取得した。
実施例7(フラスコスケールにおけるF−1529株による変換)
モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株(FERM BP−8547)の斜面培地(ポテトデキストロース寒天培地)から1白金耳を25mlの種母培地[馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%]を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、25℃で2日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.6mlを60mlの生産培地[馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(社)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%]の入った500ml容の三角フラスコに植え継ぎ、25℃で3日間振とう培養機上で培養した。
得られた培養液(60ml/500ml容三角フラスコ、18本)をそれぞれ3000rpm、5分間の遠心分離によって集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)60mlに懸濁した。次に基質である11107B物質を100mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、それぞれ0.6ml添加した。添加後、25℃で22時間振とうし、変換反応を行った。反応終了後、5000rpm、20分間の遠心分離によって、ろ液と菌体に分離した。上清は1Lの酢酸エチルにて抽出した。菌体は500mlのアセトンで抽出後、ろ過してアセトン抽出液を得た。アセトン抽出液から減圧下でアセトンを留去した後、1Lの酢酸エチルで抽出した。それぞれの酢酸エチル層を水洗し、無水硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、合わせて減圧下で濃縮し、11107D物質を含む1.21gの粗画分を得た。この11107D物質を含む粗画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Kiesel gel 60,50g)に付し、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(90:10;v/v)の混液1200mlで溶出し、11107D物質を含む画分369mgを得た。
得られた画分を実施例4に記載したHPLC分取条件(C)で分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、溶出される11107D物質を含む画分を得た後、溶媒を留去することにより、11107D物質180mgを得た。
実施例8(フラスコスケールにおけるF−1530株による変換)
モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1530株(FERM BP−8548)の斜面培地(ポテトデキストロース寒天培地)から1白金耳を25mlの種母培地[馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%]を入れた250ml容の三角フラスコに接種し、25℃で2日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.6mlを60mlの生産培地[馬鈴薯澱粉2.0%、グルコース1.0%、大豆粉(エスサンミート、味の素(株)製)2.0%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水和物0.05%]の入った500ml容の三角フラスコに植え継ぎ、25℃で3日間振とう培養機上で培養した。
得られた培養液(60ml/500ml容三角フラスコ、18本)をそれぞれ3000rpm、5分間の遠心分離によって集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)60mlに懸濁した。次に基質である11107B物質を100mg/mlジメチルスルホキシド溶液として調製し、それぞれ0.6ml添加した。添加後、25℃で22時間振とうし、変換反応を行った。反応終了後、5000rpm、20分間の遠心分離によって、ろ液と菌体に分離した。上清は1Lの酢酸エチルにて抽出した。菌体は500mlのアセトンで抽出後、ろ過してアセトン抽出液を得た。アセトン抽出液を減圧下でアセトンを留去した後、1Lの酢酸エチルで抽出した。それぞれの酢酸エチル層を水洗し、無水硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、合わせて減圧下で濃縮し、11107D物質を含む0.89gの粗画分を得た。この11107D物質を含む粗画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Kiesel gel 60,50g)に付し、酢酸エチルおよびn−ヘキサン(90:10;v/v)の混液1200ml、次いで酢酸エチル500mlで溶出し、11107D物質を含む粗画分163mgを得た。得られた画分を実施例4に記載したHPLC分取条件(C)で分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付し、溶出される11107D物質を含む画分を得た後、溶媒を留去することにより、11107D物質30mgを得た。
実施例9(AB−1896株の収得)
土壌から分離された菌株の斜面培地[可溶性澱粉0.5%、グルコース0.5%、魚肉エキス(和光純薬工業(株)製)0.1%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.1%、NZ−case(フムコ・シェフィールド・ケミカル社製)0.2%、塩化ナトリウム0.2%、炭酸カルシウム0.1%、寒天(和光純薬工業(株)製)1.6%]から1白金耳を5mlの種母培地(可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬社製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%)を入れた65ml容の試験管に接種し、28℃で10日間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.1mlを5mlの生産培地(可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%)の入った65ml容の試験管に植え継ぎ、28℃で3日間振とう培養機上で培養した。次に基質である11107B物質を40mg/mlエタノール溶液として調製し、それぞれ0.05ml添加した。添加後、28℃で24時間振とうし、水酸化反応を行った。反応後、下記の分析条件(d)でHPLC分析を行い、11107D物質が現れる株、AB−1896株を取得した。
HPLC分析条件(d)
カラム:UNISON UK−C18,φ4.6mm×50mm(Imtakt社製)
温度:30℃
流速:2ml/分
検出:240nm
溶出液:水/アセトニトリル/ギ酸(1000:10:1〜10:1000:1,v/v/v、0〜4分,リニアグラジエント)
保持時間:11107D物質 2.5分
実施例10(試験管スケールにおけるAB−1896株による変換)
AB−1896株の斜面培地(可溶性澱粉0.5%、グルコース0.5%、魚肉エキス(和光純薬工業(株)製)0.1%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.1%、NZ−case(フムコ・シェフィールド・ケミカル社製)0.2%、塩化ナトリウム0.2%、炭酸カルシウム0.1%、寒天(和光純薬工業(株)製)1.6%)から1白金耳を5mlの種母培地(可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%)を入れた65ml容の試験管に接種し、28℃で10間振とう培養機上で培養して種母培養液を得た。さらに種母培養液0.1mlを5mlの生産培地(可溶性澱粉2.0%、グルコース1.0%、ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、炭酸カルシウム0.1%)の入った65ml容の試験管に植え継ぎ、28℃で3日間振とう培養機上で培養した。
得られた培養液(5ml/65ml容試験管、1本)に基質である11107B物質を40mg/mlエタノール溶液として調製し、0.05ml添加した。添加後、28℃で24時間振とうし、水酸化反応を行った。得られた培養液を3ml分取し、2mlの1−ブタノールを加えて振とうした後、3000rpmにて10分間遠心分離した。得られた上清を留去し、2mlのメタノール溶液として、下記のHPLC分析条件(e)およびHPLC分析条件(f)にてHPLC分析を行い、反応混合物中に11107D物質が生成していることを確認した。
HPLC分析条件(e)
カラム:UNISON UK−C18,φ4.6mm×50mm(Imtakt社製)
温度:40℃
流速:2ml/分
検出:240nm
溶出液:アセトニトリル/0.01%トリフルオロ酢酸(2:8〜5:5,v/v,0〜10分,リニアグラジエント)
保持時間:11107D物質6.1分
HPLC分析条件(f)
カラム:UNISON UK−C18,φ4.6mm×50mm(Imtakt社製)
温度:40℃
流速:2ml/分
検出:240nm
溶出液:メタノール/0.01%トリフルオロ酢酸(4:6〜7:3,v/v,0〜10分,リニアグラジエント)
保持時間:11107D物質6.1分
【配列表】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

で示されるマクロライド系化合物11107B物質の、式(II)

で示されるマクロライド系化合物11107D物質への生物学的変換方法による、式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質の製造方法であって、下記工程(A)及び(B)を含むことを特徴とする製造方法。
(A)前記生物学的変換方法を行いうるものであって、かつ、モルティエレラ(Mortierella)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属またはミクロモノスポラセアエ(Micromonosporaceae)科に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質をインキュベーション処理する工程。
(B)工程(A)で得られるインキュベーション処理液から式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質を採取する工程。
【請求項2】
前記モルティエレラ属に属する菌株がモルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株(FERM BP−8547)またはF−1530株(FERM BP−8548)である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ストレプトミセス属に属する菌株がストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551)、A−1544株(FERM BP−8446)またはA−1545株(FERM BP−8447)である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記ミクロモノスポラセアエ科に属する菌株がAB−1896株(FERM BP−8550)である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、ストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)AB−1704株(FERM BP−8551)。
【請求項6】
前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、モルティエレラ エスピー(Mortierella sp.)F−1529株(FERM BP−8547)またはF−1530株(FERM BP−8548)。
【請求項7】
前記式(I)で示されるマクロライド系化合物11107B物質から前記式(II)で示されるマクロライド系化合物11107D物質への変換能を有する、AB−1896株(FERM BP−8550)。

【国際公開番号】WO2004/050890
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556846(P2004−556846)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015170
【国際出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】