説明

マット材、マット材を作製する方法、排気ガス処理装置および消音装置

【課題】従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくいマット材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明では、無機繊維を含み、第1、第2の主表面および該第1、第2の主表面を取り囲む端面を有するマット材を有するマット材であって、前記マット材の端面の少なくとも一部には、前記無機繊維の飛散を抑制するための無機繊維飛散抑制部が形成されていることを特徴とするマット材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含むマット材に関し、特に、車両等の排気ガス処理装置および消音装置に使用されるマット材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上に筒状部材(ケーシング)を設け、その中に、排気ガスの入口および出口用の開口面を有し、内部に微細な気孔を多数有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排気ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排気ガスが排気ガス処理体の入口開口面から出口開口面を通って排出される間に、気孔の周囲の壁に微粒子がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシングの当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排気ガスがリークすることを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維を含むマット材がある。
【0005】
このマット材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、テーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化されることにより、保持シール材として機能する。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
なお、マット材は、微細な無機繊維(通常、直径約3μm〜8μm程度)を多量に含んでおり、しばしばこのような無機繊維は、作業環境性を悪化させる要因となる。例えば、作業者のマット材のハンドリング中に、マット材から無機繊維が抜き出て、これが周囲に飛散してしまうという問題が生じる。
【0007】
そこでこのようなハンドリング時の無機繊維の飛散の問題を抑制するため、マット材の表裏面に高分子樹脂製のフィルムを設置する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−61054号公報
【特許文献2】特開2003−293756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本願発明者は、マット材のハンドリングの際、前述のような表裏面に高分子樹脂製のフィルムが設置されたマット材においても、マット材から多数の無機繊維が飛散することに気づいた。そして、従来の無機繊維飛散抑制対策(すなわち、表裏面に高分子樹脂製のフィルムを設置する技術)の効果を確認するため、そのようなマット材を用いて実際に無機繊維飛散量の測定を行った(無機繊維飛散試験の方法は、後述する)。
【0010】
結果を図1に示す。この図の上側のグラフは、マット材の所定の部分を高分子フィルムでマスキングしたサンプルにおいて、露出された部分の単位表面積当たりの無機繊維飛散量を示したものである。サンプル1は、いずれの部分もマスキングされていないマット材、サンプル2は、表裏面のみがマスキングされたマット材(すなわち従来のマット材)、サンプル3は、端面全周部と、一方の表面がマスキングされたマット材、サンプル4は、端面全周部と、他方の表面がマスキングされたマット材に相当する。なお、各サンプルの左側の棒グラフ(白棒)は、全重量に対して4.5wt%の有機バインダが含浸されたマット材での測定結果であり、右側の棒グラフ(模様付き棒)は、全重量に対して1.0wt%の有機バインダが含浸されたマット材での測定結果である。
【0011】
図1の上側のグラフから(特に、1.0wt%の有機バインダが含浸されたマット材の場合)、表裏面に高分子樹脂製のフィルムを設置したマット材に相当するサンプル2からの無機繊維飛散量は、全くマスキングをしていないマット材(サンプル1)の単位面積当たりの無機繊維飛散量を大きく上回ることがわかった。また、図1の下側には、縦軸の単位を無機繊維飛散率(マット材の総重量に対する飛散した無機繊維の重量百分率)とした場合の同様の結果を示すが、このグラフからも(特に、1.0wt%の有機バインダが含浸されたマット材の場合)、サンプル2の無機繊維飛散率は、フィルムを設置していないサンプル1に場合に比べて、多少低下するもののその効果は、あまり顕著ではないことがわかる。これは、従来のようなマット材の表裏面にフィルムを設置する方法では、無機繊維の飛散を十分に抑制することができないことを意味するものである。
【0012】
このように、従来の対策では、マット材からの無機繊維の飛散を十分に抑制することはできないため、無機繊維の飛散量をより一層低減することが可能な対策が今後必要になるものと予想される。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、従来のマット材に比べて、無機繊維の飛散がより生じにくいマット材を提供することを目的とする。また、そのようなマット材を作製する方法、およびそのようなマット材を備える排気ガス処理装置ならびに消音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、無機繊維を含み、第1、第2の主表面および該第1、第2の主表面を取り囲む端面を有するマット材を有するマット材であって、
前記マット材の端面の少なくとも一部には、前記無機繊維の飛散を抑制するための無機繊維飛散抑制部が形成されていることを特徴とするマット材が提供される。
【0015】
ここで、前記無機繊維飛散抑制部は、有機物を有しても良い。
【0016】
あるいは、前記無機繊維飛散抑制部は、高分子フィルムまたは第1の有機結合材を有しても良い。
【0017】
特に、前記第1の有機結合材は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂からなる群から選定されても良い。
【0018】
また、前記第1の有機結合材の設置密度Pは、0<P≦25mg/cmの範囲であることが好ましい。
【0019】
また、前記無機繊維飛散抑制部は、前記端面の総面積の75%〜100%の領域に形成されていることが好ましい。
【0020】
さらに当該マット材は、第1および/または第2の主表面に、無機繊維飛散抑制部を有しても良い。
【0021】
特に、前記第1および/または第2の主表面の無機繊維飛散抑制部は、高分子フィルムを有しても良い。
【0022】
また、前記無機繊維は、アルミナとシリカを含んでも良い。
【0023】
当該マット材は、第1、第2の主表面および端面以外の部位に、無機結合材および/または第2の有機結合材を有しても良い。
【0024】
また、当該マット材は、該マット材の全重量に対して0より多く4.5wt%以下の有機成分を含んでも良く、特に0より多く2.5wt%以下の有機成分を含んでも良い。
【0025】
さらに、本発明は、無機繊維を含み、第1、第2の主表面および該第1、第2の主表面を取り囲む端面を有するマット材を作製する方法であって、
前記マット材の端面の少なくとも一部に、前記無機繊維の飛散を抑制するための無機繊維飛散抑制部を形成するステップを有することを特徴とする方法が提供される。
【0026】
ここで、前記無機繊維飛散抑制部を形成するステップは、
前記マット材の端面の少なくとも一部に、有機結合材を塗布するステップを有しても良い。
【0027】
さらに、当該方法は、第1および/または第2の主表面に、無機繊維飛散抑制部を形成するステップを有しても良い。
【0028】
前記第1および/または第2の主表面に、無機繊維飛散抑制部を形成するステップは、前記第1および/または第2の主表面に、高分子フィルムを設置するステップを有しても良い。
【0029】
さらに本発明では、排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、前述のマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0030】
さらに本発明では、
排気ガスの入口管および出口管と、
前記入口管および出口管の間に設置された排気ガス処理体と、
を備える排気ガス処理装置であって、
前記入口管の少なくとも一部には、断熱材が設置され、
該断熱材は、前述のマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0031】
ここで、排気ガス処理装置の前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【0032】
さらに本発明では、インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する消音装置であって、
前記吸音材は、前述のマット材で構成されることを特徴とする消音装置が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、ハンドリングの際に生じ得る無機繊維の飛散が有意に抑制されたマット材を提供することが可能となる。また、そのようなマット材を作製する方法、およびそのようなマット材を保持シール材および/または断熱材として備える排気ガス処理装置を提供することが可能になる。さらに、そのようなマット材を吸音材として備える消音装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】マスキングを行っていないサンプルと、マット材の所定の部分(第1の主表面および第2の主表面、第1の主表面および端面、ならびに第2の主表面および端面)をマスキングしたサンプルにおける無機繊維飛散量(上側)および無機繊維飛散率(下側)を示した図である。
【図2】本発明によるマット材の一形態を示す図である。
【図3】本発明によるマット材を保持シール材として使用して、排気ガス処理装置を構成するときの構成図である。
【図4】一例として、高分子フィルムを用いて、マット材の端面に無機繊維飛散抑制部を形成するときの方法を模式的に示した図である。
【図5】一例として、有機結合材を用いて、マット材の端面に無機繊維飛散抑制部を形成するときの方法を模式的に示した図である。
【図6】本発明による排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図7】本発明による消音装置の一構成例を示す図である。
【図8】本発明によるマット材の製造方法のフローを示した図である。
【図9】無機繊維の飛散性試験装置の一部を概略的に示した図である。
【図10】比較例1、2に係るマット材および実施例1、6〜8に係るマット材において、無機繊維の飛散率を比較して示した図である。
【図11】端面への第1の有機結合材の設置密度と無機繊維の飛散率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0036】
図2には、本発明によるマット材の形態の一例を示す。また図3には、本発明に係るマット材を保持シール材として含む排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0037】
通常、本発明によるマット材30は、例えばアルミナおよびシリカからなる多数の微細な無機繊維(通常、直径約3μm〜8μm程度)と、所定量(例えば重量比で1%)の有機バインダ(以降、「第2の有機結合材」とも称する場合がある)とによって構成される。
【0038】
また本発明によるマット材30は、図2に示すように、第1および第2の主表面250、260と、両者を取り囲む端面280とを有する。さらにこのマット材30は、長辺(X方向に平行な辺)と短辺(Y方向に平行な辺)を有し、実質的に矩形状となるように形成される。短辺70および71には、それぞれ嵌合凸部50および嵌合凹部60が設置されている。また、短辺71の嵌合凹部60に隣接する位置には、2つの凸部61が形成されている。ただし本発明のマット材の短辺70、71は、図2の形状に限られるものではなく、例えば、図のような嵌合部を全く有さないものや、各短辺が、それぞれ、嵌合凸部50および嵌合凹部60を複数有するもの等も使用できる。なお、本願において、「実質的に矩形状」とは、図2に示すような、短辺に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有する矩形を含む概念である。さらに、「実質的に矩形状」には、長辺と短辺の交差するコーナー部が、90゜以外の角度を有する形状(例えば、曲率を有するもの)も含まれる。
【0039】
このマット材30は、保持シール材24として使用する場合、長辺方向が巻回方向(X方向)となるようにして使用される。またマット材30が、保持シール材24として触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図3に示すように、マット材30の嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、マット材30が排気ガス処理体20に固定される。その後、保持シール材24が巻き回された排気ガス処理体20は、圧入等により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、装着される。
【0040】
再度図2を参照すると、本発明によるマット材30には、該マット材30の端面280の全周にわたって、無機繊維の飛散を抑制するための無機繊維飛散抑制部290が形成されている。
【0041】
前述のように、通常のマット材は、微細な無機繊維を多量に含んでいるため、従来のマット材では、例えば、作業者のハンドリング中に、マット材から無機繊維が抜き出て、これが周囲に飛散してしまうという問題が生じ得る。
【0042】
図1には、100mm×100mm×7.1mmの寸法のマット材のうち所定の箇所(第1の主表面および第2の主表面、第1の主表面および端面、ならびに第2の主表面および端面)を高分子フィルムでマスキングした状態、または全くマスキングしない状態で、無機繊維飛散試験(詳細は後述する)を行った場合に得られた無機繊維飛散量(上側)および無機繊維飛散率(下側)の結果を示す。図1において、サンプル1は、マスキングを全く実施していないマット材である。また、サンプル2は、第1および第2の主表面をマスキングし、端面全周のみを露出させたサンプルである。サンプル3は、第1の主表面および端面全周をマスキングし、第2の主表面のみを露出したサンプルである。さらにサンプル4は、第2の主表面および端面全周をマスキングし、第1の主表面のみを露出したサンプルである。また、縦軸の「無機繊維飛散量」は、マット材の非マスキング領域(露出面)の表面積に対する飛散した無機繊維の重量を意味し、「無機繊維飛散率」は、マット材の総重量に対する飛散した無機繊維の重量百分率を意味する。なお、各サンプルの左側の棒グラフ(白棒)は、全重量に対して4.5wt%の有機バインダが含浸されたマット材での測定結果であり、右側の棒グラフ(模様付き棒)は、全重量に対して1.0wt%の有機バインダが含浸されたマット材での測定結果である。
【0043】
その結果、驚くべきことに、「無機繊維飛散量」は、サンプル2、すなわち、第1の主表面および第2の主表面にフィルムが設置された従来のマット材に相当するサンプルおいて最大となっていることがわかる。特に、マット材に含まれる有機バインダの量が少ない場合(1.0wt%)、その傾向が顕著である。一方、少なくともマット材の端面がマスキングされたサンプル3(またはサンプル4)では、無機繊維飛散量は、サンプル1と同程度またはそれ以下であった。このことは、無機繊維の主要な飛散発生源となる箇所は、マット材の第1または第2の主表面ではなく、マット材の端面であることを示唆している。
【0044】
これは、マット材の端面は、マット材の切断面に相当するため、この箇所では、無機繊維のネットワークが切断された状態で、多数の無機繊維が存在しているためであると考えられる。すなわち、マット材の端面では、無機繊維同士の拘束力が弱まっており、無機繊維の飛び出しや脱落が容易に起こり得る状態になっており、これによりハンドリングの際に、端面からの無機繊維の飛散が顕著になるものと思われる。なお、いずれのサンプルにおいても、マット材には、第1の主表面側から有機バインダを所定量(1%または4.5wt%)含浸させている。従って、サンプル3と4による差異は、マット材の内部(厚さ方向)での有機バインダの偏り分布によるものである。すなわち、マット材の第1の主表面(有機バインダ導入面)側では、第2の主表面側に比べて、有機バインダの量が多くなる傾向にあり、このため、無機繊維の飛散量にも差異が生じたものと思われる。
【0045】
本願発明者によって初めて明らかにされたこの結果は、従来のようなマット材の第1および/または第2の主表面に高分子フィルムを設置する方法では、マット材からの無機繊維の飛散を十分に効果的に抑制することができないことを示唆するものである。特に、自動車用の排気ガス処理の分野では、環境上の観点から、使用の際に排気ガス処理装置から放出される有機成分量を抑制するため、保持シール材に含まれる有機バインダの量をこれまでの4.5wt%から、例えば1wt%程度に削減することが検討されている。このような方針により、マット材に含浸される有機バインダの量が削減されると、図1の結果から、マット材の端面側からの無機繊維飛散の影響は、より顕著になることが予想される。
【0046】
一方、図1の下側のグラフ(特に、サンプル3または4)から、マット材の端面を何らかの方法で被覆することにより、より効果的に無機繊維の飛散を抑制することが可能であることが予想される。
【0047】
本願発明者は、この新しい知見に基づいて、マット材からの無機繊維の飛散をより一層抑制することが可能な方策を検討し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、無機繊維飛散の主要発生源であるマット材の端面に対して、そこからの無機繊維の飛散を抑制する対処を行うことにより、最も直接的かつ有効に、無機繊維の飛散を抑制することを意図するものである。例えば、図2の例では、マット材の端面280の全周にわたって、無機繊維飛散抑制部290が形成されている。この場合、マット材の端部280からの無機繊維の抜け出し、飛散が抑制されるため、ハンドリング時のマット材からの無機繊維の飛散を十分に効果的に抑制することが可能となる。
【0048】
ここで、「無機繊維飛散抑制部」290は、マット材の端面からの無機繊維の抜け出し、飛散を抑制、軽減することが可能であれば、いかなる態様で構成しても良い。例えば、「無機繊維飛散抑制部」290は、端面280への高分子フィルムのようなフィルムの設置または有機結合材(以下、これを、通常のマット材において、第1の主表面側から内部に添加、含浸される前述の「第2の有機結合材」と区別するため、「第1の有機結合材」とも称する)の塗布、など様々な方法で構成することができる。
【0049】
また、図2の例では、無機繊維飛散抑制部290は、マット材の端面280の全周にわたって構成されているが、本発明の態様は、このような構成に限られるものではない。すなわち、マット材からの無機繊維の飛散量を従来よりも抑制することが可能であれば、無機繊維飛散抑制部290は、マット材の端面280の一部に形成しても良い。例えば、ある試算では、後述のように、マット材の端面280の全領域に対して、端部の無機繊維飛散抑制部290の存在割合が75%以上であれば、マット材からの無機繊維の飛散量を、第1および第2の主表面に高分子フィルムを設置した従来のようなマット材よりも抑制することが可能であることが示されている。このような態様は、特に、マット材に含まれる有機成分の総量をより一層低減したい場合に有効である。
【0050】
なお、主表面に高分子フィルムが設置されたマット材において、この主表面は、概念上、「無機繊維飛散抑制部」に相当する。従って、以降の説明では、高分子フィルムを有するマット材の主表面についても、「無機繊維飛散抑制部」と称することがある。ただし、本発明の最大の特徴は、端面側に設置された「無機繊維飛散抑制部」にあることを理解する必要がある。
【0051】
なお、これに限定されるわけではないが、「無機繊維飛散抑制部」290は、マット材30の端面280の上部から、該端面のみを覆うようにして設置されることが好ましい。この場合、「無機繊維飛散抑制部」290を形成することに起因した、マット材30の有機成分の上昇量を最小限に抑制することができる。例えば、「無機繊維飛散抑制部」290が端面280への高分子フィルムの置載によって形成される場合、図4に示すように、予め端面の被設置領域と等しい寸法に裁断された高分子フィルム290Fが、端面280の前記被設置領域に設置される。また、例えば、「無機繊維飛散抑制部」290が有機結合材のスプレー塗布によって形成される場合、図5に示すように、マット材30の第1および第2の主表面250、260の端部近傍を、予めマスキング部材310でマスキングする。その後、塗布器330を用いて、端面280の「無機繊維飛散抑制部」290の被設置領域に、有機結合材がスプレー塗布される。これにより、端面280(の所定の領域)にのみ、「無機繊維飛散抑制部」290が設置され、マット材30の第1および第2の主表面250、260にまで、「無機繊維飛散抑制部」290が設置されることを回避することができる。
【0052】
ここで、マット材の端面280に高分子フィルムを設置することにより、無機繊維飛散抑制部290を形成する場合、そのような高分子フィルムの材質や厚さは、特に限られない。例えば、厚さが0.08mmの新日石プラスト(株)社製のワリフ(登録商標)が使用できる。特に、高分子フィルムの厚さが1mm以下の場合、マット材の端面に無機繊維飛散抑制部290を形成することによって生じる、マット材の総有機成分量の上昇を、有意に抑制することができる。
【0053】
同様に、無機繊維飛散抑制部290を、マット材の端面280への有機結合材の塗布により形成する場合、そのような有機結合材は、特に限られない。例えば、有機結合材には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂など、従来からマット材用の第2の有機結合材として使用されているまたは使用されていない様々なものが使用できる。例えば、アクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。
【0054】
また、無機繊維飛散抑制部290を第1の有機結合材の塗布により形成する場合、その端面への設置量(以下、「設置密度(P)」という)は、特に限られない。ただし一般に、設置密度Pが増加すると、それに従って、無機繊維の飛散抑制効果は高まるが、設置密度Pが25mg/cmを超えると、その効果はあまり認められなくなる。また、マット材に含まれる有機成分の量は、前述のように、環境上できる限り抑制することが望ましい。従って、設置密度Pは、0<P≦25mg/cmの範囲であることが好ましいと言える。この場合、無機繊維飛散抑制部の設置による、マット材に含まれる有機成分量の上昇を、1.5wt%以下に抑制することができる(従って、例えば、マット材に予め1wt%の有機バインダが含浸されている場合、マット材に含まれる総有機成分量は、2.5wt%以下に抑制される)。特に、後述のように、第1の有機結合材の設置密度は、約6mg/cm以下であることがより好ましい。この場合、無機繊維飛散抑制部の設置による、マット材に含まれる有機成分量の上昇を、0.5wt%程度に抑制することができる(従って、例えば、マット材に予め1wt%の有機バインダが含浸されている場合、マット材に含まれる総有機成分量は、1.5wt%以下に抑制される)。
【0055】
ここで、第1の有機結合材の端面の設置密度Pは、以下のようにして算定される。完成状態のマット材をいずれかの端面から5mmの幅で切断し、短冊状サンプルAを採取する(サンプルAは、6面のうち、1面Fのみが、元のマット材の端面に相当するように採取する)。次に、前記マット材の端面および端面から5mmの領域が含まれないようにして、サンプルBを採取する。次に、サンプルAおよびBを、大気中110℃で1時間保持した後、両サンプルの重量(mg)を測定する(それぞれ、WA1、WB1とする)。次に両サンプルを600℃で1時間焼成する。その後、室温まで降温し、サンプルAおよびBの重量(mg)を再度測定する(それぞれ、WA2、WB2とする)。得られた値を用いて、以下の式

設置密度P(mg/cm)={(WA1−WA2)−(WB1−WB2)}/(サンプルAの面Fの面積(cm)) 式(1)

から、端面での第1の有機結合材の設置密度が求められる。
【0056】
また、本発明は、マット材の端面280の少なくとも一部に「無機繊維飛散抑制部」290が形成されていることを特徴とするものである。従って本発明は、特にマット材自体の仕様、例えば、無機繊維の材質、繊維径、マット材の形状、ならびに/または第1および第2の主表面のフィルムの有無等による制約を受けないことは明らかであろう。
【0057】
例えば、従来のような主表面に高分子フィルムが設置されたマット材に対して、本発明を適用することも可能である。あるいは、主表面に高分子フィルムが設置されていないマット材の場合、端面の他、マット材の第1および/または第2の主表面の一部もしくは全面にも、第1の有機結合材を塗布し、「無機繊維飛散抑制部」を形成しても良い。このように、マット材の第1および/または第2の主表面にも、「無機繊維飛散抑制部」を形成した場合、マット材からの無機繊維の飛散量がさらに抑制される。ただし、この場合、マット材に含まれる有機成分の総量が著しく多くなる可能性がある。従って、この場合には、マット材に含まれる有機成分の総量が、例えば4.5wt%以下になるように、「無機繊維飛散抑制部」290に含まれる有機成分の量を調整することがより好ましい。
【0058】
このように、本発明によるマット材では、無機繊維の主要飛散源であるマット材の端面に対して、そこからの無機繊維の飛散を抑制する措置を講じているため、本発明によるマット材では、ハンドリング時のマット材からの繊維の飛散を十分に効果的に抑制することが可能となる。
【0059】
このような本発明によるマット材は、例えば、排気ガス処理装置10の保持シール材および/または断熱材として使用することができる。図6には、本発明による排気ガス処理装置10の一構成例を示す。
【0060】
排気ガス処理装置10は、保持シール材24が外周面に巻き回された排気ガス処理体20と、該排気ガス処理体を収容するケーシング12と、該ケーシングの入口側および出口側のそれぞれに接続された、排気ガスの入口管2および出口管4とを有する。入口管2および出口管4は、ケーシング12と接続される位置で径が拡張されるように、テーパ形状となっている。また、入口管2のテーパ形状部には、断熱材26が設置されており、これにより、排気ガス処理装置10内部の熱が入口管2を介して外部に伝達することが抑制される。この図の例では、排気ガス処理体20は、排気ガスの入口と出口用の開口面を有し、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム状の多孔質炭化珪素等で構成される。ただし、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の一部が目封じされたDPFとすることも可能である。
【0061】
ここで、保持シール材24および断熱材26は、本発明によるマット材30で構成されている。このような排気ガス処理装置では、マット材を保持シール材および断熱材として排気ガス処理装置に取り付ける際に、無機繊維の飛散が有意に抑制される。
【0062】
また本発明のマット材を保持シール材として使用する場合、マット材の両主表面に高分子フィルムを設置する必要がなくなる。端面に無機繊維飛散抑制部を形成することにより、既に十分な無機繊維の飛散抑制効果が得られるためである。マット材の両主表面に高分子フィルムを設置する必要がなくなるため、本発明の排気ガス処理装置10では、使用の際(特に初期使用の際)に、排気ガスからの熱によって分解放出される有機成分の量を有意に抑制することができるという効果が得られる。例えば、マット材に予め1wt%の有機バインダが含浸されている場合、マット材に含まれる総有機成分量を、1.5wt%以下に抑制することができる。
【0063】
次に、本発明によるマット材の別の適用例を説明する。図7には、本発明によるマット材を備える消音装置を示す。この消音装置は、例えば自動車等のエンジンの排気管の途中に設けられる。消音装置70は、インナーパイプ72(例えばステンレス鋼等の金属製)と、その外方を覆うアウターシェル76(例えばステンレス鋼等の金属製)と、両者の間に設置された吸音材74とを有する。通常の場合、インナーパイプ72の表面には、小孔が穿設されている。このような消音装置70では、インナーパイプ72の内部に排気ガスを流通させた際に、吸音材74により、排気中に含まれる騒音成分を減衰させることができる。
【0064】
ここで、吸音材74には、前述の本発明によるマット材30を使用することができる。吸音材74に本発明によるマット材を使用することにより、吸音材74を消音装置70に取り付ける際に生じ得る、無機繊維の飛散を有意に抑制することができる。
【0065】
以下、本発明のマット材30の製作方法の一例を説明する。なお、以下に記載の方法以外の方法で、マット材30を作製しても良いことは、当業者には明らかである。
【0066】
図8には、本発明によるマット材を作製する方法のフロー図を示す。本発明によるマット材を作製する方法は、第1の主表面、第2の主表面および端面を有するマット材を提供するステップ(ステップ110)と、マット材の端面の少なくとも一部に、無機繊維飛散抑制部を形成するステップ(ステップ120)と、を含む。以下、両ステップについて詳しく説明する。
【0067】
(ステップ110)
まず、無機繊維からなる積層状シートを製作する。なお以下の説明では、無機繊維としてアルミナとシリカの混合物を用いるが、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、例えばアルミナ−シリカ組成比が60〜80:40〜20となるようにシリカゾルを添加し、無機繊維の前駆体を調製する。特にアルミナ−シリカ組成比は、70〜74:30〜26程度であることがより好ましい。アルミナ組成比が60%以下では、アルミナとシリカから生成されるムライトの組成比率が低くなるため、完成後のマット材の熱伝導度が高くなる傾向にある。
【0068】
次にこのアルミナ系繊維の前駆体にポリビニルアルコール等の有機重合体を加える。その後この液体を濃縮し、紡糸液を調製する。さらにこの紡糸液を使用して、ブローイング法により紡糸する。
【0069】
ブローイング法とは、エアーノズルから吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液流とによって、紡糸を行う方法である。エアーノズルからのスリットあたりのガス流速は、通常40〜200m/sである。また紡糸ノズルの直径は通常0.1〜0.5mmであり、紡糸液供給ノズル1本あたりの液量は、通常1〜120ml/h程度であるが、3〜50ml/h程度であることが好ましい。このような条件では、紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液は、スプレー状(霧状)となることなく十分に延伸され、繊維相互で溶着されにくいので、紡糸条件を最適化することにより、繊維径分布の狭い均一なアルミナ繊維前駆体を得ることができる。
【0070】
ここで、製作されるアルミナ系繊維の平均繊維長は、250μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。平均繊維長が250μm未満では、繊維同士が十分に絡み合わず、十分な強度が得られないからである。また無機繊維の平均直径は、特に限られないが、約3μmから約8μmの範囲にあることが好ましく、約5μmから約7μmの範囲にあることがより好ましい。
【0071】
紡糸が完了した前駆体を積層して、積層状シートを製作する。さらに積層状シートに対してニードリング処理を行う。ニードリング処理とは、ニードルを積層状シートに抜き差しして、シートの肉薄化を行う処理である。ニードリング処理には、通常ニードリング装置が用いられる。
【0072】
通常、ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、積層状シートの表面および裏面の両面側に設置された一対の支持板とで構成される。ニードルボードには、積層状シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって積層状シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを積層状シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが積層状シートに抜き差しされ、繊維の交絡された多数の交絡点が形成される。
【0073】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2組のニードルボードを備えても良い。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2組のニードルボードを、それぞれ、積層状シートの表面および裏面に配設して、各支持板で積層状シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードリング処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、積層状シートの両面側からのニードリング処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このような装置を用いて、2組の支持板で積層状シートを両面側から挟み、2組のニードリングボードで積層状シートの両側からニードリング処理が行われても良い。このような方法でニードリング処理を行うことにより、処理時間が短縮される。
【0074】
次に、このようにニードリング処理の施された積層状シートを常温から加熱し、最高温度1250℃程度で連続焼成することで、所定の坪量(単位面積当たりの重量)のマット材が得られる。
【0075】
通常の場合、マット材のハンドリング性を向上させるため、得られたマット材には、第1の主表面の側から樹脂のような有機バインダ(第2の有機結合材)が含浸される。ただし、マット材に含浸される有機バインダは、そのようなマット材を備える排気ガス処理装置を使用した際に、装置から排出される有機成分量を増加させる一因となる。従って、以降の工程で、マット材の端面に形成される無機繊維飛散抑制部に含まれる有機成分量にもよるが、有機バインダの含有量(マット材の総重量に対する有機バインダの重量)は、例えば、1.0〜4.0重量%の範囲である。これにより、完成後のマット材に含まれる総有機成分量を、少なくとも現在保持シール材として使用されているマット材の値(マット材の全重量に対して4.5wt%)以下とすることができる。
【0076】
なおこのような有機バインダとしては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などが使用できる。例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。
【0077】
(ステップ120)
このようにして製造されたマット材は、所定の形状に裁断される(例えば図2に示す形状)。
【0078】
次に、裁断されたマット材の端面の全周部または一部に、無機繊維飛散抑制部が形成される。無機繊維飛散抑制部は、マット材の端面に、高分子フィルムを熱融着させたり、接着剤で貼り付けることにより形成される。あるいは、無機繊維飛散抑制部は、第1の有機結合材を含む組成物を直接端面にスプレー塗布したり、刷毛塗りしたりすることにより形成される。スプレー塗布法の場合、例えば、スチレンブタジエン等を含む有機結合材が使用される。
【0079】
その後、マット材の乾燥工程を経て、端面に無機繊維飛散抑制部が形成されたマット材が得られる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
(実施例1に係るマット材の作製)
まず、アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl:SiO=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。次に、アルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコールを添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング紡糸処理で紡糸した。搬送キャリアガス(空気)流量は、52m/sであり、紡糸液の供給速度は、5.3ml/hである。
【0081】
その後、アルミナ系繊維の前駆体を折りたたんだものを積層して、アルミナ系繊維の原料シートを製作した。
【0082】
次に、この原料シートに対して、ニードル処理を行った。ニードル処理は、80個/100cmの密度でニードルが設置されたニードルボードを、原料シートの一方の側にのみ配設し、原料シートの片面側から行った。
【0083】
その後、得られた原料マットを常温から最高温度1250℃で、1時間、連続焼成した。次に、得られた原料マットに、第1の主表面側から有機バインダ(第2の有機結合材)を含浸させた。有機バインダには、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用し、含浸量は、原料マットの総量(有機バインダを含む)に対して1wt%とした。
【0084】
次に、このようにして得た厚さ7.3mm、坪量1160g/mのマット材を100mm×100mmの寸法に切断した。
【0085】
次に、前述の方法で、マット材の端面全周にわたって、スチレンブタジエン系の(第1の)有機結合材(コニシ(株)社製、スプレーのりZ−2)をスプレー塗布し、端面全周に無機繊維飛散抑制部を形成した。第1の有機結合材の設置密度は、1.8mg/cmとした。このようにして得られたマット材を、実施例1とする。
【0086】
(実施例2〜5)
実施例1と同様の方法により、端面全周に無機繊維飛散抑制部有するマット材(実施例2〜5)を製作した。ただし実施例2では、有機結合材の設置密度を6.2mg/cmとし、実施例3では、有機結合材の設置密度を10.7mg/cmとし、実施例4では、有機結合材の設置密度を15.1mg/cmとし、実施例5では、有機結合材の設置密度を24.3mg/cmとした。
【0087】
(実施例6〜8)
実施例1と同様の方法により、端面に無機繊維飛散抑制部を有するマット材を製作した。ただし実施例6では、マット材の端面全体に対して、25%の端面領域にのみ、前述の有機結合材をスプレー塗布し、無機繊維飛散抑制部を形成した。一方、実施例7では、マット材の端面全体に対して、50%の端面領域に、また実施例8では、マット材の端面全体に対して、75%の端面領域に、無機繊維飛散抑制部を形成した。無機繊維飛散抑制部における有機結合材の設置密度は、いずれも1.8mg/cmとした。
【0088】
(実施例9)
実施例1と同様の方法により、無機繊維飛散抑制部を有するマット材を製作した。ただし実施例9では、マット材の一方の主表面(第1の主表面)の全面にも、前述の第1の有機結合材をスプレー塗布した。従って、無機繊維飛散抑制部は、マット材の端面全周の他、マット材の一方の主表面(第1の主表面)の全面にも形成された。無機繊維飛散抑制部(端面および第1の主表面のそれぞれ)における第1の有機結合材の設置密度は、1.8mg/cmとした。
【0089】
(実施例10)
実施例1と同様の方法により、無機繊維飛散抑制部を有するマット材を製作した。ただし実施例10では、マット材の両方の主表面(第1および第2の主表面)の全面にも、前述の第1の有機結合材をスプレー塗布した。従って、無機繊維飛散抑制部は、マット材の端面全周の他、マット材の両方の主表面の全面にも形成された。無機繊維飛散抑制部(端面、第1の主表面および第2の主表面のそれぞれ)における第1の有機結合材の設置密度は、1.8mg/cmとした。
【0090】
(実施例11)
実施例1と同様の方法により、マット材の端面全周に無機繊維飛散抑制部を有するマット材を製作した。ただし実施例11では、マット材の端面に前述の第1の有機結合材をスプレー塗布する前に、マット材の両方の主表面(全面)に、高分子フィルム(厚さ0.08mm:新日石プラスト(株)社製)を熱融着させた。端面の第1の有機結合材の設置密度は、1.8mg/cmとした。
【0091】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、マット材を製作した。ただし比較例1では、マット材の端部に無機繊維飛散抑制部を形成しなかった。
【0092】
(比較例2)
比較例1と同様の方法により、マット材を製作した。ただし比較例2では、マット材の両主表面の全面に、高分子フィルム(厚さ0.08mm:新日石プラスト(株)社製)を熱融着させた。
【0093】
(有機量測定)
前述の各マット材を用いてマット材に含まれる総有機成分量の測定を行った。総有機成分量は、以下のようにして測定した。
【0094】
まずマット材サンプル(100mm×100mm)を110℃で1時間乾燥させた後、サンプルの重量(mg)を測定する(焼成前重量)。次にサンプルを600℃で1時間焼成する。その後、室温まで降温し、再度重量(mg)を測定する(焼成後重量)。得られた値を用いて、以下の式

総有機成分量(%)=
{(焼成前重量−焼成後重量)/(焼成前重量)}×100 式(2)

からマット材の総有機成分量が求められる。
【0095】
表1には、各マット材に対して得られた総有機成分量の測定結果を示す。
【0096】
【表1】

(無機繊維の飛散性試験)
前述の各マット材を用いて無機繊維の飛散性試験を行った。試験装置の一部を図9に示す。
【0097】
飛散性試験は以下のように実施した。まず、前述の各マット材(100mm×100mm)を試験サンプル160として使用する。図9に示すように、2個のクリップ130を用いて、この試験サンプル160を試験装置110から突出したアーム枠140(全長915mm、幅322mm)の先端に固定する。アーム枠140は、他方の先端が試験装置110の垂直枠150と接続されている。垂直枠150は、土台枠部分151の上に、直立するように設置されている。また、垂直枠150は、図9のXZ平面に延伸する主平面(Z方向の高さ(土台枠部分151の高さを除く)1016mm×X方向の長さ322mm)を有する。図において、垂直枠150を構成する2本の金属柱153のX方向の幅は、
25mmで、Y方向の幅は、25mmである。アーム枠140は、垂直枠150の上端(図示されていない)に接続された先端部を支点として、垂直枠の主表面に対して垂直な平面(YZ平面)上で回転することができる。この回転は、垂直枠の主表面から、少なくとも、この主表面に対して90゜以下の角度範囲で行うことができる。試験の際に、アーム枠140を鉛直方向に対して90゜の角度(すなわち水平状態)に保持した状態から落下させると、アーム枠140は、YZ平面に沿って、矢印の向きに90゜回転し、これに伴って、サンプル160も矢印の向きに回転する。アーム枠140は、最終的に垂直枠150の金属柱153に衝突する。このときの衝撃によって、サンプル160から無機繊維の一部が飛散する。試験後、サンプル160をクリップ130から静かに取り外す。その後、以下の式を用いて、無機繊維の飛散率を求めた:
無機繊維の飛散率(%)=(試験前のマット材サンプルの重量−試験後のマット材サンプルの重量)/(試験前のマット材サンプルの重量)×100 式(3)
前述の表1には、各マット材に対して得られた飛散性試験の結果を示す。この表から、端面の少なくとも一部に無機繊維飛散抑制部を設置した実施例1〜11に係るマット材(第1の有機結合材の設置密度1.8〜24.3mg/cm)では、端面に無機繊維飛散抑制部を有さないマット材(比較例1)に比べて、無機繊維の飛散量が有意に抑制されることがわかる。
【0098】
図10には、比較例1、2ならびに実施例1、6〜8に係るマット材における無機繊維飛散率の比較結果を示す。実施例1、6〜8に係るマット材における無機繊維飛散率の比較から、マット材の端面全体に対する、無機繊維飛散抑制部が設置された端面領域の割合(以下、「設置端面割合」と称する)が増加するほど、マット材からの無機繊維の飛散率が低下する傾向にあることがわかる(実施例6では、「設置端面割合」は、25%であり、実施例7では、「設置端面割合」は、50%であり、実施例8では、「設置端面割合」は、75%であり、実施例1では、「設置端面割合」は、100%であることに留意する必要がある。)ただし、本発明のマット材では、必ずしも端面の全周にわたって、無機繊維飛散抑制部を形成しなくても、無機繊維の飛散に対して一定の効果が得られることがわかる。すなわち、比較例2とこれらの実施例における結果の比較から、マット材の「設置端面割合」を75%以上とした場合(実施例8、実施例1)、2つの主表面にフィルムが設置された従来のマット材(比較例2)よりも、無機繊維の飛散率をより低減することができることがわかる。
【0099】
図11には、端面全周にわたって無機繊維飛散抑制部が形成されたマット材における、端面の有機結合材の設置密度に対する無機繊維飛散率および総有機成分量の関係を示す。この図から、第1の有機結合材の設置密度Pが25mg/cm以下の場合、端面全周に無機繊維飛散抑制部を形成したとしても、マット材に含まれる総有機成分量は、2.5wt%以下(無機繊維飛散抑制部の寄与分:1.5wt%)に抑制されることがわかる。なお図11において、設置密度が0(ゼロ)から6mg/cmの範囲で、著しい飛散率の低減効果が認められる。それ以降は、有機結合材の設置密度の増大による飛散率の低減効果は、小さくなる傾向にある。従って、総有機成分量のよりいっそうの低減を考慮すると、端面の無機繊維飛散抑制部における有機結合材の設置密度は、6mg/cm以下の範囲であることが最も好ましいと言える。この場合、端面の無機繊維飛散抑制部の形成による、マット材に含まれる有機成分量の上昇を、0.5wt%程度に抑制することができる。
【0100】
なお、実施例9〜11に示すように、マット材の主表面の一方または両方にも、無機繊維飛散抑制部を形成したマット材では、無機繊維の飛散に対して、より有効な効果が得られることがわかる。従って、使用時にマット材から放出される総有機成分量が所定の上限(例えば4.5wt%)を超えなければ、無機繊維飛散抑制部を、端面の他、主表面に形成しても良いことは明らかであろう。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のマット材および排気ガス処理装置は、車両等に使用される排気ガス処理装置の保持シール材および断熱材、ならびに消音装置の吸音材等に利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
2 入口管
4 出口管
10 排気ガス処理装置
12 ケーシング
20 排気ガス処理体
24 保持シール材
26 断熱材
30 マット材
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
70 消音装置
72 インナーパイプ
74 吸音材
76 アウターシェル
110 試験装置
160 試験サンプル
250 第1の主表面
260 第2の主表面
280 端面
290 無機繊維飛散抑制部
290F フィルム
310 マスキング部材
330 塗布器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含み、第1、第2の主表面および該第1、第2の主表面を取り囲む端面を有するマット材であって、
前記マット材の端面の少なくとも一部には、前記無機繊維の飛散を抑制するための第1の無機繊維飛散抑制部が形成されており、
前記マット材の第1の主表面および/または第2の主表面の少なくとも一部には、前記無機繊維の飛散を抑制するための第2の無機繊維飛散抑制部が形成されていることを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記第1および/または第2の無機繊維飛散抑制部は、有機物を有することを特徴とする請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記第1および/または第2の無機繊維飛散抑制部は、高分子フィルムまたは第1の有機結合材を有することを特徴とする請求項1に記載のマット材。
【請求項4】
前記第1の有機結合材は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂からなる群から選定されることを特徴とする請求項3に記載のマット材。
【請求項5】
前記第1の有機結合材の設置密度Pは、0<P≦25mg/cmの範囲であることを特徴とする請求項3または4に記載のマット材。
【請求項6】
前記第1の無機繊維飛散抑制部は、前記端面の総面積の75%〜100%の領域に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項7】
前記無機繊維は、アルミナとシリカを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項8】
当該マット材は、第1、第2の主表面および端面以外の部位に、無機結合材および/または第2の有機結合材を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項9】
当該マット材の全重量に対して0より多く4.5wt%以下の有機成分を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項10】
当該マット材の全重量に対して0より多く2.5wt%以下の有機成分を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項11】
無機繊維を含み、第1、第2の主表面および該第1、第2の主表面を取り囲む端面を有するマット材を作製する方法であって、
前記マット材の端面の少なくとも一部に、前記無機繊維の飛散を抑制するための第1の無機繊維飛散抑制部を形成するステップと、
前記マット材の第1の主表面および/または第2の主表面の少なくとも一部に、前記無機繊維の飛散を抑制するための第2の無機繊維飛散抑制部を形成するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項12】
前記第1の無機繊維飛散抑制部を形成するステップは、
前記マット材の端面の少なくとも一部に、有機結合材を塗布するステップを有することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1および/または第2の主表面に、第2の無機繊維飛散抑制部を形成するステップは、前記第1および/または第2の主表面に、高分子フィルムを設置するステップを有することを特徴とする請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、請求項1乃至10のいずれか一つに記載のマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項15】
排気ガスの入口管および出口管と、
前記入口管および出口管の間に設置された排気ガス処理体と、
を備える排気ガス処理装置であって、
前記入口管の少なくとも一部には、断熱材が設置され、
該断熱材は、請求項1乃至10のいずれか一つに記載のマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項16】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項14または15に記載の排気ガス処理装置。
【請求項17】
インナーパイプと、該インナーパイプの外方を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する消音装置であって、
前記吸音材は、請求項1乃至10のいずれか一つに記載のマット材で構成されることを特徴とする消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−189081(P2012−189081A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101002(P2012−101002)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2007−255890(P2007−255890)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】