説明

マット材及び排ガス浄化装置

【課題】 保持力が低下しにくいマット材を提供する。
【解決手段】 ガラス繊維を含むマット材であって、上記ガラス繊維は、SiOを52〜66重量%、Alを9〜26重量%、CaOを15〜27重量%、MgOを0〜9重量%、TiOを0〜4重量%、ZnOを0〜5重量%、並びに、NaO及びKOを総和で0〜2重量%含み、Bを実質的に含まないことを特徴とするマット材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、スス等のパティキュレート(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境又は人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、CO、HC又はNOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境又は人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、内燃機関と連結されることにより排ガス中のPMを捕集したり、排ガスに含まれるCO、HC又はNOx等の排ガス中の有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、コージェライトや炭化ケイ素等の多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を内部に収容するケーシング(金属容器)と、排ガス処理体及びケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置が種々提案されている。
【0004】
排ガス浄化装置において、保持シール材は、排ガス処理体及びケーシングが接触することにより破損すること、並びに、ケーシング及び排ガス処理体の隙間から排ガスが漏出することを防止している。また、保持シール材は、排ガスの排圧により排ガス処理体が脱落することを防止している。さらに、排ガス浄化装置では、反応性を維持するために排ガス処理体を高温に保持する必要があるため、保持シール材には断熱性も要求される。
【0005】
上記の要件を満たす保持シール材の部材として、アルミナ繊維等の無機繊維を含むマット材が挙げられる。
また、アルミナ繊維の代わりに、ガラス繊維を含むマット材も提案されている。例えば、特許文献1には、E−ガラス等のガラス繊維を含むマット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−516043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、排ガス中のNOxを浄化するために、排ガス浄化装置の一種である尿素SCR(Selective Catalytic Reduction、選択的触媒還元)装置が提案されている。
尿素SCR装置では、以下の方法により、NOxを浄化することができる。まず、ゼオライト等の触媒が担持された排ガス処理体を備えた排ガス浄化装置内に尿素水を噴霧する。そして、尿素の熱分解によってアンモニアを発生させて、ゼオライトの作用によりアンモニア及びNOxを還元させてNとする。
【0008】
しかしながら、尿素SCR装置の保持シール材として、特許文献1に記載された従来のマット材を使用した場合、尿素SCR装置の使用時間の経過に伴い、保持シール材の面圧(保持シール材の保持面に負荷される圧力)が低下する結果、保持シール材の保持力が低下するという問題が生じることが判明した。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、保持力が低下しにくいマット材を提供することを目的とする。また、本発明は、上記マット材を保持シール材として備える排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
なお、本発明のマット材は、排ガス浄化装置の保持シール材として使用する場合、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用する場合に適している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、尿素SCR装置の保持シール材として、特許文献1に記載された従来のマット材を使用した場合において、保持力が低下する原因について検討した。
本発明者は、特許文献1に記載された従来のマット材を構成するガラス繊維が、尿素SCR装置内に存在する尿素及びアンモニア等のアルカリ成分と反応し、その結果、ガラス繊維が劣化するのではないかと考えた。
【0011】
上記の検討結果を踏まえて、本発明者は、特定の組成を有するガラス繊維を使用することによって、保持力が低下しにくいマット材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、請求項1に記載のマット材は、
ガラス繊維を含むマット材であって、
上記ガラス繊維は、SiOを52〜66重量%、Alを9〜26重量%、CaOを15〜27重量%、MgOを0〜9重量%、TiOを0〜4重量%、ZnOを0〜5重量%、並びに、NaO及びKOを総和で0〜2重量%含み、Bを実質的に含まないことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載のマット材を排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用すると、使用時間が経過しても、保持シール材の面圧が低下しにくいため、保持シール材の保持力が低下することを防止することができる。
その理由については明らかではないが、請求項1に記載のマット材では、マット材を構成するガラス繊維がBを実質的に含まないことが影響していると考えられる。
【0014】
請求項2に記載のマット材では、上記ガラス繊維の平均繊維径は、9〜15μmである。
ガラス繊維の平均繊維径が9〜15μmであると、ガラス繊維の強度及び柔軟性が充分に高くなり、保持シール材として使用する際のせん断強度を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載のマット材では、さらに、有機バインダを含有する。
マット材に有機バインダが含有されていると、保持シール材として使用する際、保持シール材の嵩高さを抑えたり、排ガス浄化装置を組み立てる前の作業性を高めたりすることができる。
【0016】
請求項4に記載のマット材では、さらに、膨張材を含有する。
また、請求項5に記載のマット材では、上記膨張材は、バーミキュライト、ベントナイト、金雲母、パーライト、膨張性黒鉛、及び、膨張性フッ化雲母からなる群より選択される少なくとも1つの材料を含む。
マット材に膨張材が含有されていると、400〜800℃の範囲でマット材が膨張するようになるため、ガラス繊維の強度が低下する700℃を超えるような高温域においても、保持シール材として使用する際の保持力を向上させることができる。
【0017】
請求項6に記載のマット材は、ケーシングと、上記ケーシングに収容された排ガス処理体と、上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置の上記保持シール材として使用される。
また、請求項7に記載のマット材において、上記排ガス浄化装置は、尿素SCR装置として機能する。
上述のように、請求項1〜5のいずれかに記載のマット材を、排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用することにより、保持シール材の保持力が低下することを防止することができる。
【0018】
請求項8に記載の排ガス浄化装置は、
ケーシングと、
上記ケーシングに収容された排ガス処理体と、
上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、
上記保持シール材は、請求項1〜5のいずれかに記載のマット材であることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の排ガス浄化装置は、尿素SCR装置として機能する。
【0020】
請求項10に記載の排ガス浄化装置では、上記排ガス処理体は、触媒担体又は排ガスフィルタである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の別の一例を示す工程図である。
【図4】図4は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の別の一例を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、実施例1及び比較例1における面圧及び面圧の減少率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0023】
(第一実施形態)
以下、本発明のマット材及び排ガス浄化装置の一実施形態である第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
(マット材)
まず、本発明の第一実施形態に係るマット材について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係るマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係るマット材10は、所定の長さ(以下、図1中、矢印Lで示す)、幅(図1中、矢印Wで示す)及び厚さ(図1中、矢印Tで示す)を有する平面視略矩形の平板状の形状を有している。
【0025】
図1に示すマット材10では、マット材10の長さ方向側の端部のうち、一方の端部には凸部11が形成されており、他方の端部には凹部12が形成されている。マット材10の凸部11及び凹部12は、後述する排ガス浄化装置を組み立てるために排ガス処理体にマット材10を巻き付けた際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。
【0026】
本発明の第一実施形態に係るマット材は、ガラス繊維を含んでいる。このようなマット材は、ガラス繊維を絡み合わせることにより製造することができる。
【0027】
上記ガラス繊維は、SiOを52〜66重量%、Alを9〜26重量%、CaOを15〜27重量%、MgOを0〜9重量%、TiOを0〜4重量%、ZnOを0〜5重量%、並びに、NaO及びKOを総和で0〜2重量%含み、Bを実質的に含まないことを特徴としている。
【0028】
本明細書において、「Bを実質的に含まない」とは、ICP質量分析により測定したガラス繊維中のB含有量が、1重量%未満であることをいう。
なお、NaO及びKOは、ガラス繊維中に総和で0〜2重量%含まれていればよい。従って、ガラス繊維中にNaO及びKOの両方が含まれる場合、NaO及びKOのいずれか一方が含まれる場合、並びに、NaO及びKOがともに含まれない場合のいずれであってもよい。
【0029】
本発明の第一実施形態に係るマット材においては、ガラス繊維の組成が上記数値範囲内である限り、具体的なガラス繊維の組成は限定されない。
例えば、ガラス繊維は、52〜62重量%のSiOを含んでいてもよいし、62重量%超(すなわち、62.1〜66重量%)のSiOを含んでいてもよい。
また、ガラス繊維は、9〜17重量%のAlを含んでいてもよいし、17重量%超(すなわち、17.1〜26重量%)のAlを含んでいてもよい。
ガラス繊維は、17〜27重量%のCaOを含んでいてもよいし、17重量%未満(すなわち、15〜16.9重量%)のCaOを含んでいてもよい。
さらに、ガラス繊維は、MgO、TiO及びZnOの少なくとも1種を実質的に含んでいなくてもよい。なお、「MgOを実質的に含まない」とは、ICP質量分析により測定したガラス繊維中のMgO含有量が、1重量%未満であることをいう。TiO及びZnOについても同様である。また、ICP質量分析により測定したガラス繊維中のNaO及びKOの総和の含有量が、1重量%未満であってもよい。
このように、MgO、TiO、ZnO、NaO及びKOは、任意成分である。
【0030】
本発明の第一実施形態に係るマット材において、ガラス繊維は、実質的に上記成分からなるが、上記成分以外のその他の成分を合計で5重量%まで含有してもよい。
その他の成分としては特に限定されないが、例えば、SrO、BaO、SnO、ZrO、Fe、CeO又はSO等が挙げられる。
【0031】
そして、本発明の第一実施形態に係るマット材において、ガラス繊維は、その他の成分を含む各成分の合計が100重量%となるように構成されている。
【0032】
本発明の第一実施形態に係るマット材を構成するガラス繊維の具体例としては、例えば、オーウェンスコーニング社製のアドバンテックスガラス等が挙げられる。
【0033】
本発明による第一実施形態に係るマット材には、ガラス繊維の他、有機バインダ等のバインダが含有されていてもよい。
マット材に有機バインダ等のバインダが含有されていると、保持シール材として使用する際、保持シール材の嵩高さを抑えたり、排ガス浄化装置を組み立てる前の作業性を高めたりすることができる。
【0034】
有機バインダとしては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂等を使用することができる。
有機バインダの含有量(マット材の総重量に対する有機バインダの重量)は、20重量%以下であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましく、0.5〜2.0重量%であることがさらに好ましい。
ただし、マット材に含有される有機バインダは、そのようなマット材を備える排ガス処理装置を使用した際に、排ガス処理装置から排出される有機成分量を増加させる一因となる。従って、有機バインダの含有量は、できるだけ少ないことが好ましく、例えば、マット材に全く含有されていなくてもよい。
【0035】
マット材にバインダを付与する方法としては、例えば、スプレー等を用いてマット材にバインダ溶液を所定量吹きかけることにより、マット材にバインダを付着させる方法、及び、マット材にバインダ溶液を含浸させる方法等が挙げられる。
【0036】
上記バインダ溶液としては、アクリル系樹脂等の有機バインダを水に分散させて調製したエマルジョンを用いることができる。また、上記バインダ溶液には、アルミナゾル等の無機バインダが適宜含まれていてもよい。
【0037】
本発明による第一実施形態に係るマット材には、さらに膨張材が含有されていてもよい。膨張材は、400〜800℃の範囲で膨脹する特性を有するものが好ましい。
マット材に膨張材が含有されていると、400〜800℃の範囲でマット材が膨張するようになるため、ガラス繊維の強度が低下する700℃を超えるような高温域においても、保持シール材として使用する際の保持力を向上させることができる。
【0038】
膨張材としては、例えば、バーミキュライト、ベントナイト、金雲母、パーライト、膨脹性黒鉛、及び、膨脹性フッ化雲母等が挙げられる。これらの膨張材は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
膨張材の添加量は、特に限定されないが、マット材の全重量に対して5〜50重量%であることが好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。
【0039】
(マット材の製造方法)
本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の一例(以下、第1のマット材の製造方法ともいう)を説明する。
図2は、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の一例を示す工程図である。
【0040】
本発明の第一実施形態に係る第1のマット材の製造方法は、
(A)上述した組成を有するガラス繊維を準備するステップ(S110)と、
(B)上記ガラス繊維を用いて、積層シートを調製するステップ(S120)と、
(C)上記積層シートから、ニードリング法によりマット材を形成するステップ(S130)とを含む。
【0041】
第1のマット材の製造方法では、いわゆる「ニードリング法」により、マット材を作製する。「ニードリング法」とは、無機繊維を含む積層シートにニードルを抜き差しすることにより、マット材を作製する方法の総称である。
【0042】
以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0043】
(ステップS110)
ステップS110では、上述した組成を有するガラス繊維を準備する。
【0044】
ガラス繊維の繊維径は、特に限定されない。ガラス繊維の平均繊維径は、9〜15μm(例えば、11μm)であることが好ましく、9〜13μmであることがより好ましい。
ガラス繊維の平均繊維径が9〜15μmであると、ガラス繊維の強度及び柔軟性が充分に高くなり、保持シール材として使用する際のせん断強度を向上させることができる。
なお、「繊維の平均繊維径」とは、ランダムに採取した300本の繊維の直径をSEM(走査型電子顕微鏡)により測定し、これらの直径を平均した値をいう。
【0045】
(ステップS120)
ステップS120では、ステップS110で得られたガラス繊維を用いて、開繊処理を行うことにより、綿状の積層シートを形成する。
開繊処理は、例えば、カーディング法により行うことができる。カーディング法では、ウェブと呼ばれる不織布を形成し、この不織布を多数積層することにより、積層シートを形成することができる。
【0046】
(ステップS130)
ステップS130では、上記積層シートから、ニードリング法によりマット材を作製する。
【0047】
ニードリング法には、ニードリング装置を用いることができる。
ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、積層シートの表面および裏面の両面側に設置された一対の支持板とから構成される。ニードルボードには、積層シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また、各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって積層シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを積層シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが積層シートに抜き差しされ、ガラス繊維が交絡されたマット材が形成される。
【0048】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2組のニードルボードを備えていてもよい。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2組のニードルボードを、それぞれ、積層シートの表面および裏面に配設して、各支持板で積層シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードリング処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、積層シートの両面側からのニードリング処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このようなニードリング装置を用いて、2組の支持板で積層シートを両面側から挟み、2組のニードリングボードで積層シートの両側からニードリング処理を行ってもよい。上記の方法でニードリング処理を行うことにより、処理時間を短縮することができる。
【0049】
次に、ガラス繊維を熱処理する。
熱処理温度は、600〜800℃(例えば、700℃)であることが好ましい。また、熱処理時間は、10分間〜24時間(例えば、20分間)であることが好ましい。
【0050】
最後に、上記のように製造したマット材を所定の形状(例えば、図1に示すような形状)に裁断することにより、本発明の第一実施形態に係るマット材を製造することができる。
【0051】
次に、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の別の一例(以下、第2のマット材の製造方法ともいう)を説明する。
図3は、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の別の一例を示す工程図である。
【0052】
本発明の第一実施形態に係る第2のマット材の製造方法は、
(A)上述した組成を有するガラス繊維を準備するステップ(S210)と、
(B)上記ガラス繊維を用いて、スラリーを調製するステップ(S220)と、
(C)上記スラリーから、抄造法によりマット材を形成するステップ(S230)とを含む。
【0053】
第2のマット材の製造方法では、いわゆる「抄造法」により、マット材を作製する。「抄造法」とは、抄造型に無機繊維のスラリーを流し込み、この抄造型を吸引脱水することによりマット材を得る方法の総称である。
【0054】
以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0055】
(ステップS210)
ステップS210は、第1のマット材の製造方法におけるステップS110の工程と実質的に等しいため、説明を省略する。
【0056】
ガラス繊維の繊維径は、特に限定されない。ガラス繊維の平均繊維径は、第1のマット材の製造方法と同様に、9〜15μm(例えば、11μm)であることが好ましく、9〜13μmであることがより好ましい。
【0057】
(ステップS220)
ステップS220では、ステップS210で得られたガラス繊維を用いて、以下の方法により、スラリーを調製する。
【0058】
まず、所定量のガラス繊維と、有機バインダとを水に入れて、混合する。この際、無機バインダ及び/又は凝集剤をさらに添加してもよい。また、上述した材料からなる膨脹材を添加してもよい。
【0059】
無機バインダとしては、例えば、アルミナゾル及びシリカゾル等を使用することができる。
また、有機バインダとしては、ラテックス等を使用することができる。有機バインダの含有量は、20重量%以下であることが好ましい。有機バインダの含有量が20重量%よりも多くなると、排ガス処理装置から排出される有機成分の量が有意に増加する。
【0060】
次に、得られた混合物を抄紙器等の混合器内で攪拌し、開繊されたスラリーを調製する。通常、攪拌は、20秒〜120秒程度行われることが好ましい。
【0061】
(ステップS230)
ステップS230では、得られたスラリーを用いて、抄造法によりマット材を作製する。
【0062】
まず、スラリーを、例えば底部に微細な孔の開いた成形器に導入する。さらに、例えば、成形器の下側から、吸引装置等により、水分を吸引し、脱水処理を行うことにより、所定の形状の原料マットを得る。
【0063】
次に、上記原料マットをプレス器等を用いて圧縮し、所定の温度で加熱、乾燥させることにより、マット材を作製する。
加熱乾燥処理は、原料マットをオーブン等の熱処理器内に設置し、例えば90〜180℃の温度で、5〜60分間程度行うことが好ましい。
以上のステップにより、本発明の第一実施形態に係るマット材を製造することができる。
【0064】
(排ガス浄化装置)
本発明による第一実施形態に係るマット材は、排ガス浄化装置の保持シール材として使用することが好ましく、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用することが好ましい。
【0065】
以下、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置について説明する。
図4は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置100は、多数のセル131がセル壁132を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体130と、排ガス処理体130を収容するケーシング120と、排ガス処理体130とケーシング120との間に配設され、排ガス処理体130を保持する保持シール材110とから構成されている。
ケーシング120の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
なお、図4に示す排ガス浄化装置100では、排ガス処理体130として、各々のセルにおけるいずれか一方が封止材133によって目封じされた排ガスフィルタ(ハニカムフィルタ)を用いている。
【0066】
図4に示す排ガス浄化装置100では、保持シール材110として、図1に示したマット材10が用いられている。
【0067】
上述した構成を有する排ガス浄化装置100を排ガスが通過する場合について、図4を参照して以下に説明する。
図4に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(図4中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)130の排ガス流入側端面130aに開口した一のセル131に流入し、セル131を隔てるセル壁132を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁132で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面130bに開口した他のセル131から流出し、外部に排出される。
【0068】
次に、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体(ハニカムフィルタ)及びケーシングについて説明する。
なお、排ガス浄化装置を構成する保持シール材の構成については、本発明の第一実施形態に係るマット材として既に説明しているので省略する。
【0069】
まず、排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体について説明する。
図5は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示すように、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)130は、主に多孔質セラミックからなり、その形状は略円柱状である。また、ハニカムフィルタ130の外周には、ハニカムフィルタ130の外周部を補強したり、形状を整えたり、ハニカムフィルタ130の断熱性を向上させたりする目的で、外周コート層134が設けられている。
なお、ハニカムフィルタ130の内部の構成については、上述した本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の説明で既に述べた通りである(図4参照)。
【0070】
次に、排ガス浄化装置を構成するケーシングについて説明する。
ケーシングは、主にステンレス等の金属からなり、その形状は、図4に示すように、両端部の内径が中央部の内径よりも小さい略円筒状であってもよいし、また、内径が一定である略円筒状であってもよい。
ケーシングの内径(排ガス処理体を収容する部分の内径)は、排ガス処理体の端面の直径と排ガス処理体に巻付けられた状態の保持シール材(マット材)の厚さとを合わせた長さより若干短くなっていることが好ましい。
【0071】
続いて、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法について説明する。
図6は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。図6では、内径が一定である略円筒状のケーシングを用いた例を示している。
【0072】
まず、図1に示したマット材10を排ガス処理体(ハニカムフィルタ)130の周囲に巻き付けることにより、巻付体(保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体)150を作製する巻き付け工程を行う。
巻き付け工程では、従来公知の方法により作製した略円柱形状の排ガス処理体130の外周に、マット材10を凸部11と凹部12とが嵌合するようにして巻き付ける。
その結果、保持シール材110が巻き付けられた排ガス処理体130である巻付体150を作製することができる。
【0073】
次に、作製した巻付体150を、所定の大きさを有する略円筒状であって、主に金属等からなるケーシング140に収容する収容工程を行う。
収容後に保持シール材が圧縮して所定の反発力(すなわち、排ガス処理体を保持する力)を発揮するために、ケーシング140の内径は、保持シール材110を巻き付けた排ガス処理体130の保持シール材110の厚さを含めた最外径より少し小さくなっている。
以上の方法により、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置を製造することができる。
【0074】
収容工程において、巻付体をケーシングに収容する方法としては、例えば、圧入方式(スタッフィング方式)、サイジング方式(スウェージング方式)、及び、クラムシェル方式等が挙げられる。
圧入方式(スタッフィング方式)では、圧入治具等を用いて、ケーシングの内部の所定の位置まで巻付体を圧入する。サイジング方式(スウェージング方式)では、巻付体をケーシングの内部に挿入した後、ケーシングの内径を縮めるように外周側から圧縮する。クラムシェル方式では、ケーシングを、第1のケーシング及び第2のケーシングの2つの部品に分離可能な形状としておき、巻付体を第1のケーシング上に載置した後に第2のケーシングを被せて密封する。
巻付体をケーシングに収容する方法の中では、圧入方式(スタッフィング方式)又はサイジング方式(スウェージング方式)が望ましい。圧入方式(スタッフィング方式)又はサイジング方式(スウェージング方式)では、ケーシングとして2つの部品を用いる必要がないため、製造工程の数を少なくすることができるからである。
【0075】
続いて、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の別の一例として、尿素SCR装置について説明する。
図7は、本発明の第一実施形態に係る排ガス浄化装置の別の一例を模式的に示す断面図である。
図7に示す尿素SCR装置200は、尿素噴霧口210が設けられている以外は、図4に示した排ガス浄化装置100と同様の構成を有している。
尿素SCR装置200において、尿素噴霧口210は、排ガスGが排ガス処理体130内に流入する前段部分(排ガスGの上流側)に設けられており、尿素噴霧口210からは尿素水220が噴霧される。
【0076】
このような尿素SCR装置200を用いて排ガスを浄化する方法について、図7を参照して以下に説明する。
なお、排ガス中のPMを捕集する方法については、図4に示した排ガス浄化装置100を用いる場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0077】
次に、排ガス中のNOxを浄化する方法について説明する。
尿素SCR装置200においては、尿素水220を排ガス処理体(ハニカムフィルタ)130に向けて噴霧する。すると、尿素水220に含まれる尿素が、排ガスの熱によって熱分解してアンモニア(図示せず)が生じる。
このアンモニアは、尿素SCR装置200に導入された排ガスGとともに排ガス処理体130を通過する。そして、アンモニア及び排ガス中のNOxは、ゼオライト等の触媒が担持されたセル壁132を通過する際、ゼオライト等の作用により還元されてNとなる。その結果、NOxの浄化が達成される。
その後、NOxが浄化された排ガスGは、尿素SCR装置200から排出される。
【0078】
上記の尿素SCR装置は、排ガスがハニカムフィルタ内に流入する前段部分(排ガスの上流側)に尿素噴霧口を設ける以外は、上述した排ガス浄化装置と同様の方法により製造することができる。
【0079】
以下に、本発明の第一実施形態に係るマット材及び排ガス浄化装置の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態のマット材を排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用すると、使用時間が経過しても、保持シール材の面圧が低下しにくいため、保持シール材の保持力が低下することを防止することができる。
その理由については明らかではないが、本実施形態のマット材では、マット材を構成するガラス繊維がBを実質的に含まないことが影響していると考えられる。
【0080】
(2)本実施形態の排ガス浄化装置では、本実施形態のマット材を、排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用することにより、保持シール材の保持力が低下することを防止することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
(マット材の作製)
(実施例1)
まず、ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、アドバンテックスガラス、平均繊維長:6mm、平均繊維径:12μm)を準備した。
上記ガラス繊維は、740℃で10分間加熱してから使用した。
【0083】
次に、上記ガラス繊維134.7gを水60Lに投入し、60Hzで30分間攪拌した。攪拌後のガラス繊維を含む水中にラテックス(日本ゼオン社製、LX852)を15.0g投入し、60Hzで1分間攪拌した。続いて、アルミナゾル(日産化学社製、AL520)を5.4g投入し、60Hzで1分間攪拌した。さらに、高分子凝集剤として、非イオン性ポリアクリルアミド(アライドコロイド社製、パーコール47)の0.5重量%水溶液を269.3g投入し、60Hzで1分間攪拌した。
上記の方法により、スラリーを調製した。
【0084】
335mm×335mmのタッピ式抄造機を用いて、上記スラリーを抄造することにより、目付量(単位面積当たりの重量)が1200g/mの原料マットを得た。
【0085】
プレス式乾燥機を用いて、得られた原料マットを厚さ4.8mmに圧縮した状態で、150℃で15分間乾燥させることにより、実施例1のマット材を作製した。
【0086】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、比較例1のマット材を作製した。
ただし、比較例1では、ガラス繊維として、E−ガラス(オーウェンスコーニング社製、平均繊維長:6mm、平均繊維径:12μm)を使用した。
比較例1で使用するガラス繊維の公称組成は、SiO:52〜62重量%、Al:12〜16重量%、CaO:16〜25重量%、MgO:0〜5重量%、B:5〜10重量%、TiO:0〜1.5重量%、NaO及びKOの総和:0〜2重量%を含むものである。
【0087】
(耐アルカリ試験)
マット材を尿素SCR装置の保持シール材として使用した場合における保持力を評価するため、実施例1及び比較例1のマット材について、耐アルカリ試験を行った。
【0088】
まず、実施例1のマット材を直径50mmのトムソン刃型で打ち抜くことにより、マット材のサンプル(以下、実施例1のサンプルという)を作製した。
同様に、比較例1のマット材を打ち抜くことにより、マット材のサンプル(以下、比較例1のサンプルという)を作製した。
【0089】
実施例1及び比較例1のサンプルに、水30mLを18時間含浸させた。
【0090】
実施例1及び比較例1の別のサンプルに、尿素水溶液(AdBlue(登録商標))30mLを18時間含浸させた。
【0091】
105℃に調温した乾燥機にて、各サンプルを2時間乾燥させた。その後、400℃に調温した電気炉にて、各サンプルを2時間焼成した。
【0092】
各サンプルについて、以下の方法により、面圧を測定した。
なお、面圧の測定には、MTS社製の熱間面圧測定装置を使用した。
【0093】
まず、室温状態で、サンプルの嵩密度(GBD)が0.4g/cmとなるまで圧縮し、5分間保持した。
なお、サンプルの嵩密度は、「嵩密度=サンプルの重量/(サンプルの面積×サンプルの厚さ)」で求められる値である。
【0094】
サンプルを圧縮した状態で50℃/minで500℃まで昇温しながら、嵩密度を0.364g/cmまで開放した。
そして、サンプルを温度500℃、嵩密度0.364g/cmの状態で5分間保持した。
【0095】
その後、1inch(25.4mm)/minで嵩密度が0.4g/cmとなるまで圧縮し、その時の荷重を測定した。
【0096】
得られた荷重をサンプルの面積で除算することにより、面圧(kPa)を求めた。
実施例1において、水を含浸させたサンプルの面圧は271.3kPaであり、尿素水溶液を含浸させたサンプルの面圧は254.6kPaであった。
比較例1において、水を含浸させたサンプルの面圧は306.0kPaであり、尿素水溶液を含浸させたサンプルの面圧は283.1kPaであった。
【0097】
また、実施例1及び比較例1において、水を含浸させたサンプルの面圧に対する尿素水溶液を含浸させたサンプルの面圧の割合を計算することにより、面圧の減少率(%)を算出した。
実施例1における面圧の減少率は6.1%であり、比較例1における面圧の減少率は7.5%であった。
【0098】
実施例1及び比較例1について、各サンプルの面圧、及び、面圧の減少率をまとめて表1に示した。
また、実施例1及び比較例1における面圧及び面圧の減少率を図8のグラフに示した。
【0099】
【表1】

【0100】
表1及び図8に示すように、比較例1における面圧の値は、実施例1における面圧の値よりも大きいものの、比較例1における面圧の減少率は、実施例1における面圧の減少率よりも大きいことが判明した。
従って、比較例1のマット材を排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用した場合、使用時間の経過とともに、保持シール材の保持力が大きく低下していくと考えられる。
一方、実施例1のマット材を排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用した場合、使用時間が経過しても、保持シール材の保持力はそれほど低下しないと考えられる。
【0101】
以上の結果より、Bを実質的に含まないガラス繊維を含むマット材を、排ガス浄化装置、特に、尿素SCR装置の保持シール材として使用することにより、使用時間が経過しても、保持シール材の面圧が低下しにくくなる結果、保持シール材の保持力が低下することを防止することができると考えられる。
【0102】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態に係るマット材には、本発明の第一実施形態で説明したガラス繊維以外に、アルミナ繊維又はシリカ繊維等の無機繊維が含まれていてもよい。
ただし、本発明の実施形態に係るマット材においては、本発明の第一実施形態で説明したガラス繊維が、マット材を構成する繊維全体の50重量%以上含まれていることが好ましい。また、本発明の実施形態に係るマット材は、繊維として、本発明の第一実施形態で説明したガラス繊維のみを含むことがより好ましい。
【0103】
本発明の実施形態に係るマット材を構成するガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、30μm〜120mmであることが望ましく、0.1mm〜100mmであることがより望ましい。
ガラス繊維の平均繊維長が30μm未満であると、ガラス繊維の繊維長が短すぎるため、ガラス繊維同士の交絡が不充分となり、保持シール材として使用する際のせん断強度が低くなる。また、ガラス繊維の平均繊維長が120mmを超えると、ガラス繊維の繊維長が長すぎるため、保持シール材の製造時におけるガラス繊維の取り扱い性が低下する。その結果、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、保持シール材が割れやすくなる。
なお、「繊維の平均繊維長」とは、ランダムに採取した100本の繊維の全長を平均した値をいう。
【0104】
本発明の実施形態に係るマット材の端面に形成された凹部及び凸部の形状は、凹部と凸部とが嵌合することができる形状であれば特に限定されないが、一組の凹部及び凸部からなる場合には、一方の端面の一部に幅10mm×長さ10mm〜幅300mm×長さ100mmの大きさに渡って突出した凸部が形成されており、他方の端面の一部にそれに嵌合する形状の凹部が形成されていることが望ましい。
このような凹部及び凸部の形状を有するマット材を保持シール材として用いて排ガス浄化装置を製造する場合には、保持シール材で排ガス処理体を確実に保持することができるので、取り扱い性に優れることとなる。
凸部の大きさが、幅10mm×長さ10mmよりも小さい場合、及び、幅300mm×長さ100mmよりも大きい場合には、排ガス処理体にマット材を巻き付けた際に、マット材の端面同士との接触面積が少ないため、マット材の端面同士が当接されにくくなる。その結果、保持シール材が排ガス処理体を保持しにくくなる。
なお、本発明の実施形態に係るマット材において、上記マット材の端面には、互いに嵌合する複数の凹部及び凸部が形成されていてもよいし、凹部及び凸部が形成されていなくてもよい。
【0105】
本発明の第一実施形態に係るマット材において説明した「平面視略矩形」とは、図1に示したような、凸部及び凹部を含む概念である。また、「平面視略矩形」には、マット材の角部が、90°以外の角度を有する形状も含まれる。例えば、マット材の角部が、鋭角又は鈍角を有する形状であってもよいし、曲率を有する形状であってもよい。
【0106】
本発明の実施形態に係るマット材の目付量(単位面積あたりの重量)は、特に限定されないが、200〜5000g/mであることが望ましく、1000〜3000g/mであることがより望ましい。マット材の目付量が200g/m未満であると、保持シール材としての保持力が充分ではなく、マット材の目付量が5000g/mを超えると、マット材の嵩が低くなりにくい。そのため、このようなマット材を保持シール材として用いて排ガス浄化装置を製造する場合、排ガス処理体がケーシングから脱落しやすくなる。
また、マット材の嵩密度(巻付体をケーシングに圧入する前の保持シール材の嵩密度)についても、特に限定されないが、0.10〜0.30g/cmであることが望ましい。マット材の嵩密度が0.10g/cm未満であると、繊維の絡み合いが弱く、繊維が剥離しやすいため、マット材の形状を所定の形状に保ちにくくなる。また、マット材の嵩密度が0.30g/cmを超えると、マット材が硬くなり、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、マット材が割れやすくなる。
【0107】
本発明の実施形態に係るマット材の厚さは、特に限定されないが、2〜50mmであることが望ましく、6〜20mmであることがより望ましい。
マット材の厚さが2mm未満であると、保持シール材としての保持力が充分ではない。そのため、このようなマット材を保持シール材として用いて排ガス浄化装置を製造する場合、排ガス処理体がケーシングから脱落しやすくなる。また、マット材の厚さが50mmを超えると、マット材が厚すぎるため、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、マット材が割れやすくなる。
【0108】
本発明の実施形態に係るマット材を排ガス浄化装置の保持シール材として用いる場合、排ガス浄化装置を構成する保持シール材の枚数は特に限定されず、1枚の保持シール材であってもよいし、互いに結合された複数枚の保持シール材であってもよい。
複数枚の保持シール材を結合する方法としては、特に限定されず、例えば、ミシン縫いで保持シール材同士を縫合する方法、粘着テープ又は接着材等で保持シール材同士を接着する方法等が挙げられる。
【0109】
本発明の実施形態に係るマット材において、マット材の製造に用いられる有機バインダとしては、アクリル系樹脂に限られず、例えば、アクリルゴム等のゴム、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等であってもよい。これらの中では、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが特に望ましい。
【0110】
本発明の実施形態に係るマット材において、マット材の製造に用いられるエマルジョン(バインダ溶液)には、上述した有機バインダが複数種類含まれていてもよい。
また、上記バインダ溶液としては、上述した有機バインダを水に分散させたラテックスの他に、上述した有機バインダを水又は有機溶媒に溶解させた溶液等であってもよい。
【0111】
本発明の実施形態に係るマット材において、マット材の製造に用いられるエマルジョン(バインダ溶液)には、無機バインダがさらに含まれていてもよい。
上記バインダ溶液に無機バインダが含まれる場合、無機バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
【0112】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置を構成するケーシングの材質は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属類が挙げられる。
【0113】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置を構成するケーシングの形状は、略円筒型形状の他、クラムシェル型形状、ダウンサイジング型形状等を好適に用いることができる。
【0114】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の形状は、柱状であれば特に限定されず、略円柱状の他に、例えば、略楕円柱状や略角柱状等任意の形状、大きさのものであってもよい。
【0115】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体としては、コージェライト等からなり、図5に示したように一体的に形成された一体型ハニカム構造体であってもよく、あるいは、炭化ケイ素等からなり、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を主にセラミックを含む接着材層を介して複数個結束してなる集合型ハニカム構造体であってもよい。
【0116】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体には、触媒が担持されていてもよい。
排ガス処理体に担持されている触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、酸化セリウム等の金属酸化物等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0117】
本発明の実施形態に係る排ガス浄化装置において、排ガス処理体がハニカム構造体である場合、セルに封止材が設けられずに、セルの端部が封止されていなくてもよい。この場合、排ガス処理体は、白金等の触媒を担持させることによって、排ガス中に含まれるCO、HC又はNOx等の有害なガス成分を浄化する触媒担体として機能する。
【0118】
本発明のマット材においては、マット材がガラス繊維を含むこと、及び、上記ガラス繊維が、SiOを52〜66重量%、Alを9〜26重量%、CaOを15〜27重量%、MgOを0〜9重量%、TiOを0〜4重量%、ZnOを0〜5重量%、並びに、NaO及びKOを総和で0〜2重量%含み、Bを実質的に含まないことを必須の構成要素としている。また、本発明の排ガス浄化装置においては、本発明のマット材を保持シール材として用いることを必須の構成要素としている。
係る必須の構成要素に、本発明の第一実施形態、及び、本発明のその他の実施形態で詳述した種々の構成(例えば、ガラス繊維の組成、マット材の形状、マット材の製造方法等)を適宜組み合わせることにより所望の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0119】
10 マット材
100 排ガス浄化装置
110 保持シール材
120、140 ケーシング
130 排ガス処理体
200 尿素SCR装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を含むマット材であって、
前記ガラス繊維は、SiOを52〜66重量%、Alを9〜26重量%、CaOを15〜27重量%、MgOを0〜9重量%、TiOを0〜4重量%、ZnOを0〜5重量%、並びに、NaO及びKOを総和で0〜2重量%含み、Bを実質的に含まないことを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記ガラス繊維の平均繊維径は、9〜15μmである請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
さらに、有機バインダを含有する請求項1又は2に記載のマット材。
【請求項4】
さらに、膨張材を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のマット材。
【請求項5】
前記膨張材は、バーミキュライト、ベントナイト、金雲母、パーライト、膨張性黒鉛、及び、膨張性フッ化雲母からなる群より選択される少なくとも1つの材料を含む請求項4に記載のマット材。
【請求項6】
ケーシングと、前記ケーシングに収容された排ガス処理体と、前記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、前記排ガス処理体及び前記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置の前記保持シール材として使用される請求項1〜5のいずれかに記載のマット材。
【請求項7】
前記排ガス浄化装置は、尿素SCR装置として機能する請求項6に記載のマット材。
【請求項8】
ケーシングと、
前記ケーシングに収容された排ガス処理体と、
前記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、前記排ガス処理体及び前記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、
前記保持シール材は、請求項1〜5のいずれかに記載のマット材であることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項9】
尿素SCR装置として機能する請求項8に記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
前記排ガス処理体は、触媒担体又は排ガスフィルタである請求項8又は9に記載の排ガス浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87756(P2013−87756A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231971(P2011−231971)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】