説明

マトリックスメタロプロテアーゼ9抑制剤

【課題】癌、リューマチ様関節炎、自己免疫疾患、歯周炎、組織潰瘍形成、動脈硬化症、動脈瘤、及び心不全等の発症に関与しているマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)抑制剤の提供。
【解決手段】カシス果実に含まれる多糖類が、限定的かつ部分的に分解され、その平均分子量が10,000〜200,000の範囲にあるカシス果実由来物を有効成分として含んでなるMMP−9抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ9(以下、MMP−9という)抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMPという)は、細胞外マトリックスタンパク質を分解する金属プロテアーゼの総称である。癌、リューマチ様関節炎、自己免疫疾患、歯周炎、組織潰瘍形成、動脈硬化症、動脈瘤、及び心不全等の発症に関与している事がわかっている。
【0003】
MMPにはサブタイプがあり、血管新生には主として基底膜を選択的に分解するゼラチナーゼ群(MMP−2,MMP−9)が関係し、さらにこれらを活性化する因子としてMMP−3(ストロメライシン群)やMMP−14(膜型)が明らかにされている。そして生体内のMMP活性は、その発現量の制御に加え、プロペプチドの活性化、内在性特異的阻害タンパク質(例えば、TIMPs)による不活性化などにより制御されている(非特許文献1)。
【0004】
なかでもMMP−9はゼラチナーゼとしてゼラチン成分を分解するのみではなく、別名IV型コラゲナーゼとも言われるように、各種コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチンなど細胞外マトリックス成分を分解し、さらには腫瘍成長因子(TGF−β)や腫瘍壊死因子(TNF−α)を活性化する可能性が示されてきた。正常状態では活性が低く抑えられているが、炎症などになると酵素活性が高くなる事が知られている(非特許文献2)。
【0005】
MMP−9抑制物は医薬品として多く報告されている(特許文献1,2,3)が、食品として報告されている物は効果が小さいという問題があった(特許文献4,5,6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−359657号公報
【特許文献2】特表2007−537162号公報
【特許文献3】特開2010−13387号公報
【特許文献4】特開2009−235044号公報
【特許文献5】特開2005−89323号公報
【特許文献6】特開2010−13387号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第120回日本医学会シンポジウム 講演集 p43−49
【非特許文献2】順天堂医学 48(1)、 70、 2002−07−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、容易に入手可能な天然物由来の素材を原料としてMMP−9抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の(1)〜(9)に関する。
(1)カシス果実由来物を有効成分として含んでなるマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)抑制剤。
(2)MMP−9をコードするmRNAの発現量を低下させる、(1)のMMP−9抑制剤。
(3)MMP−9タンパク質の発現量を低下させる、(1)のMMP−9抑制剤。
(4)MMP−9の活性を低下させる、(1)のMMP−9抑制剤。
(5)カシス果実由来物がカシス果実に含まれる多糖類を含む、(1)〜(4)のいずれかのMMP−9抑制剤。
(6)カシス果実に含まれる多糖類が限定的かつ部分的に分解されている(5)のMMP−9抑制剤。
(7)多糖類の平均分子量が1,000〜200,000の範囲にある(6)のMMP−9抑制剤。
(8)カシス果実由来物がカシス果実に含まれる多糖類が完全に分解されている、(1)〜(4)のいずれかのMMP−9抑制剤。
(9)糖類の平均分子量が100以上、1,000未満の範囲にある(8)のMMP−9抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、容易に入手可能なカシス果実を原料として、MMP−9抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、カシス果汁の摂取によりもたらされる、MMP−9遺伝子発現抑制効果を示す特性図である。
【図2】図2は、カシス果汁の摂取によりもたらされる、MMP−9タンパク質発現抑制効果を示す特性図である。
【図3】図3は、カシス果汁の摂取によりもたらされる、MMP−9酵素活性抑制効果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のMMP−9抑制剤は、カシス果実由来物を有効成分として含有する。
本発明において利用しうるカシスは特に限定されることなく、一般的に入手可能な様々な品種、例えば、BenArd、BenRua、ボスコープジャイアント等を用いることができる。
【0013】
「カシス果実」は、未熟のものでも、完熟したものであっても良いが、好ましくは完熟したものを用いる。また「カシス果実」の状態は特に限定されることなく、様々なものを利用することが可能であり、生のものであっても良いし、乾燥したものや乾燥粉末の状態であっても良い。
【0014】
本発明において「カシス果実由来物」は、カシス果実に含まれる多糖類の粗精製物または精製物である。「多糖類の粗精製物」とは、カシス果実またはその破砕物もしくはピューレ(種子、種皮、果実に由来する固形成分を含むもの、もしくは当該固形成分を遠心分離等の手法によって除去したもの(すなわち果汁)など)あるいはこれらの凍結乾燥物などを含む。「多糖類の精製物」は、公知の手法に基づいて調製することができる(特開2004−107660号公報、Immunostimulatory Effects of a Polysaccharide−Rich Substance with Antitumor Activity Isolated from Black Currant(Ribes nigrum L.).(Biosci. Biotechnol. Biochem., 69(11),2042−2050(2005)))。
【0015】
すなわち、果汁を陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂に通液することで各種のイオン性物質を除去する。次いで、C−18逆相カラムに通液してポリフェノール化合物を除去する。得られた素通り画分を純水にて透析、凍結乾燥することで多糖類の精製物を得ることができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、「カシス果実由来物」は、カシス果実に含まれる多糖類が、限定的かつ部分的に分解されている調製物である。
【0017】
本明細書において「多糖類が、限定的かつ部分的に分解されている」、「多糖類の限定的かつ部分的な分解」とは、カシス果実に含まれる多糖類が分子量1,000〜200,000の範囲に分解されることを意味し、好ましくは含まれる多糖類の平均分子量が約10,000〜150,000、より好ましくは約10,000〜96,000、さらに好ましくは約10,000〜56,000、よりさらに好ましくは約10,000〜34,000の大きさにあることを指す(多糖類の平均分子量は、公知の手法、例えばHPLCによるゲルろ過分析に基づく)。したがって、本明細書において「多糖類が、限定的かつ部分的に分解されている」、「多糖類の限定的かつ部分的な分解」とは、カシス果実に含まれる多糖類が全て、低分子の糖類(単糖〜オリゴ糖)まで完全に分解されている状態を意味するものではない。
【0018】
カシス果実に含まれる多糖類の限定的かつ部分的な分解は、上記カシス果実由来物を酸や酵素を用いて処理することによって行うことができる。好ましくは、酵素処理によって行う。
【0019】
カシス果実に含まれる多糖類の限定的かつ部分的な酵素分解は、上記カシス果実由来物にβ−ガラクトシダーゼを添加することによって行うことができる。
【0020】
β−ガラクトシダーゼの添加量は、カシス果実由来物の種類、pH、反応温度、反応時間、およびβ−ガラクトシダーゼの起源や精製度等を考慮して適宜決定できる。添加量が少なすぎると反応に時間がかかりすぎることがあり、場合によっては、途中で酵素が失活してしまって目的とする分子量をもった分解産物が得られないことがある。逆に多すぎると、反応が急速に進みすぎて適切な時点で反応を止めることが困難になり、また、製品製造におけるコスト・アップを招く場合がある。
【0021】
このようなことを考慮して、β−ガラクトシダーゼの添加量(範囲)は、例えば、0.01%〜10%(w/v)、好ましくは0.05%〜5%(w/v)の範囲から適宜決定することができる。但し、上記β−ガラクトシダーゼの添加量(範囲)は、あくまでも例示であり、上記条件を考慮して適宜決定することができる。
【0022】
本発明において使用するβ−ガラクトシダーゼは、カシス果実に含まれる多糖類を上記所望の大きさに分解することができる限り特に限定されることなく、様々なものを使用することができる。好ましくは、アスペルギラス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来のβ−ガラクトシダーゼを使用する。但し、β−ガラクトシダーゼであれば、他の由来の物も同様に使用できる。他の由来のβ−ガラクトシダーゼの例としては、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、サッカロマイセス・フラギリス(Saccharomyces fragilis)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等由来のβ−ガラクトシダーゼが利用可能である。
【0023】
酵素処理においては、分子量が約1,000未満の低分子の糖類(単糖〜オリゴ糖)側のピークは考慮せず、多糖側(MW>1,000)のピークが上記所望の大きさにあるときに酵素反応を止めて、目的とする限定的かつ部分的に分解された多糖類を得る。この際、例えば、反応を開始してから経時的に反応液の一部をサンプリングし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるゲルろ過で分析しながら反応停止の時期をモニタリングすることができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の検出器に示差屈折検出器を用い、基本的に、糖(単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)のみを検出する。
【0024】
酵素反応は、酵素の至適温度付近で(例えば、約35〜55℃)で行うことができる。ただし、カシス果汁のpHが約2.9と非常に低いため、カシス果汁を含むカシス果実由来物の酵素反応は、単離あるいは部分精製した多糖類の酵素分解に比べて、低い温度で行うことが好ましい。
【0025】
酵素反応の停止は、生成する多糖の熱安定性が高いので、酵素の失活を数分間、例えば5〜10分間煮沸することで行うこともできる。この操作は殺菌も兼ねることができる。
【0026】
本発明の別の実施形態において、「カシス果実由来物」は、カシス果実に含まれる多糖類が、完全に分解されている調製物である。
【0027】
本明細書において「多糖類が完全に分解されている」、「多糖類の完全な分解」とは、カシス果実に含まれる糖類(多糖類および/または単糖類)の分子量が、約100〜10,000、好ましくは100以上から1,000未満の範囲にある低分子の糖類(単糖〜オリゴ糖)の大きさにあることを指す(多糖類の平均分子量は、公知の手法、例えばHPLCによるゲルろ過分析に基づく)。好ましくは、「多糖類が、完全に分解されている」、「多糖類の完全な分解」とは、カシス果実に含まれる多糖類が全て、低分子の糖類(単糖〜オリゴ糖)まで完全に分解されている状態を意味する。
【0028】
カシス果実に含まれる多糖類の完全な分解は、上記カシス果実由来物を酸や酵素を用いて処理することによって行うことができる。好ましくは、酵素処理によって行う。酵素反応は、上記と同様に行うことができるが、各種条件は多糖類の完全な分解を可能とする条件を適宜用いることができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、酵素処理を行ったカシス果実由来物には、中性糖ラムノース、マンノース、アラビノース、ガラクトース、キシロースおよびグルコースが約18:3:19:30:1:29の割合(モル比)で含まれ得る(WO2007/125823)。
【0030】
酵素の失活後、必要に応じて、上記所望の平均分子量の範囲にある多糖類または低分子の糖類を精製しても良い。精製方法は特に制限されないが、例えば、煮沸により生じる少量の不溶沈殿物を、例えば遠心することで除去することができる。さらに、不溶沈殿物を除去した後に、例えば分画分子量1,000の限外ろ過に供することで分子量1,000未満の低分子(単糖〜オリゴ糖)を除去または回収することもできる。精製することによって、上記所望の平均分子量の範囲にある多糖類または低分子の糖類のカシス果実由来物における含有量を、例えば、50〜95質量%の範囲、60〜95質量%の範囲、80〜95質量%の範囲またはそれ以上に高めることができる。
【0031】
ただし、酵素処理したカシス果実由来物には、多糖類または低分子の糖類以外にタンパク質やポリフェノール化合物が含まれていても良い。また、必要であれば、酵素処理したカシス果実由来物または上記所望の平均分子量の範囲にある精製された多糖類または低分子の糖類を凍結乾燥して乾燥物とすることもできる。
【0032】
本明細書において「MMP−9抑制」とは、MMP−9をコードするmRNAの発現量の低下、MMP−9タンパク質の発現量の低下、および/またはMMP−9の活性の低下を意味する。好ましくは、紫外線、洗剤、化学物質などの刺激性物質などによる外的要因や、老化などの内的要因によって生じる、MMP−9をコードするmRNAの発現量の亢進、MMP−9タンパク質の発現量の亢進、および/またはMMP−9活性の亢進抑制を意味する。上記カシス果実由来物を投与または摂取することによって、MMP−9をコードするmRNAの発現量、MMP−9タンパク質の発現量、および/またはMMP−9活性を、上記カシス果実由来物を投与または摂取しなかった場合と比べて、通常5〜50%の範囲で低下させることができる。MMP−9をコードするmRNAの発現量の低下、MMP−9タンパク質の発現量の低下、および/またはMMP−9の活性の低下は、従来公知の遺伝子発現量解析方法、タンパク質発現量解析方法、酵素活性解析方法を用いて評価することができる。上記カシス果実由来物は、MMP−9をコードするmRNAの発現量の低下、MMP−9タンパク質の発現量の低下、および/またはMMP−9の活性の低下に直接または間接的に作用し得る。
【0033】
本発明のMMP−9抑制組成物は、有効成分として上記カシス果実由来物を含有し、MMP酵素活性が亢進される危険にあるまたは亢進されている、組織や器官(例えば、皮膚など)または被験体に使用または投与することによって、カシス果実由来物が有するMMP−9抑制効果を通じて、MMP−9抑制効果を発揮し、癌、リューマチ様関節炎、自己免疫疾患、歯周炎、組織潰瘍形成、動脈硬化症、動脈瘤、及び心不全等の治療、改善、抑制および/または予防に役立てることができる。
【0034】
本発明のMMP−9抑制剤は、上記効果を損なわない限り、様々な形態で提供することができる。例えば、本発明の一実施形態として、MMP−9抑制剤を化粧品組成物として提供することができる。
【0035】
本明細書において、「化粧品組成物」には、薬事法における化粧品および医薬部外品が含まれ、皮膚に使用する化粧品、浴用剤、芳香品等が挙げられる。このような化粧品組成物としては、例えば、せっけん、合成化粧せっけん、液状ボディ洗浄料(ボディーソープ)、洗顔料等の洗浄料、クレンジングクリーム、洗浄用化粧水、化粧水、乳液、美容液、ローション、液状パック、ペースト状パック等のパック、粉白粉、水白粉、練白粉等の白粉、打粉、ファンデーション、口紅、頬紅等の化粧品、アイライナー、アイシャドウ等の目のまわりの化粧料、日焼け止め化粧料、サンタン化粧料、除毛化粧料等の化粧料、或いはシェービングローション、アフターシェービングローション等のひげそり用化粧料等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
化粧品組成物にはカシス果実由来物を0.01重量%〜10重量%の範囲で含めることができるが、その量は化粧品組成物の形態に応じて適宜選択・決定することができる。
【0037】
また、化粧品組成物にはカシス果実由来物の他、化粧品に通常用いられる成分を本発明の目的、作用、効果を損なわない範囲で適宜選択して添加して使用することができる。このような成分としては例えば界面活性剤、油分、保湿剤、柔軟剤、感触向上剤、油性剤、乳化剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、エモリエント剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、紫外線吸収剤、アルコール類、シリコン化合物、増粘剤、粘度調整剤、可溶化剤、パール化剤、香料、清涼剤、殺菌剤、抗菌剤、天然抽出物、着色剤、褪色防止剤、精製水その他の溶剤、噴射剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
また、本発明の別の実施形態として、MMP−9組成物を医薬組成物として提供することができる。本発明の医薬組成物は癌、リューマチ様関節炎、自己免疫疾患、歯周炎、組織潰瘍形成、動脈硬化症、動脈瘤、及び心不全等の治療、改善、抑制および/または予防に役立てることができる。
【0039】
医薬組成物は、経口剤または非経口剤として調製することができる。好ましくは、経口剤として投与する。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。
【0040】
これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバターを担体として使用できる。
【0041】
医薬組成物における有効成分であるカシス果実由来物の投与量、摂取量または用法は、所与の症状について治療、改善、抑制および/または予防効果を与え得る量であり、その量は、動物を用いた試験、臨床試験の実施により当業者によって適宜決定されるが、投与対象の年齢、性別、体重、適用疾患およびその症状、剤形、投与方法などが考慮されるべきである。例えば、本発明の医薬組成物が経口剤である場合には、上記投与量または摂取量は、0.01〜100mg/Kg体重/日、好ましくは0.01〜40mg/Kg体重/日とすることができる。
【0042】
さらに、本発明のまた別の実施形態として、MMP−9抑制剤を飲食品として提供することができる。本発明の飲食品は、上記カシス果実由来物を有効量含んでなるものである。食品には、上記カシス果実由来物をそのまま、またはそれらを含む組成物の形態で、配合することができる。より具体的には、本発明による飲食品は、カシス果実由来物を、飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等をそれらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
【0043】
また本発明において「飲食品」には、美容食品・健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。疾病リスク低減表示としては、例えばMMP−9の過剰発現が関与する症状を治療、改善、抑制および/または予防するためのものである旨の表示が挙げられる。
【0044】
本発明における飲食品の具体例としては、飯類、餅類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ゼリー、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュース、清涼飲料水、乳飲料、茶飲料、機能性飲料、栄養補助飲料、ノンアルコールビール等の各種飲料;ビール、発泡酒等のアルコール飲料;スープ、味噌汁、お吸い物などの飲食品;卵を用いた加工品、魚介類や畜肉の加工品;調味料;などが挙げられる。
【0045】
また、本発明における飲食品は、カシス果実由来物の他、栄養補助成分などの他の成分を含むことができる。かかる成分には、ビタミン類、ミネラル類、各種植物体ならびにその抽出物、精製物および分画物、微生物ならびにその増殖因子および微生物生産物、食物繊維およびその酵素分解物、動物体ならびにその抽出物、精製物、分解物および生産物、各種オリゴ糖、脂質、各種タンパク質およびタンパク分解物などが挙げられる。
【0046】
本発明の飲食品における有効成分であるカシス果実由来物の含有量は、通常、0.01〜50重量%、好ましくは1〜30重量%程度であり、カシス果実由来物として成人1人につき、1日当たり通常0.5〜10g、好ましくは0.6〜6gの摂取量となるように摂取すればよい。
【0047】
本発明のMMP−9抑制剤は、上記の通り天然物由来の成分を有効成分として含むため、上記いずれの形態を有していても、副作用等の心配が少なく、安価にかつ長期間にわたって継続的に使用、投与および/または摂取することができる。
【0048】
次に実施例を記載して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
実施例1:多糖類分解酵素処理によるカシス果汁の調製
(1)カシス果実[Ben Rua]を破砕し果皮等の固形分を分離してカシス果汁とした後、酵素剤スミラクトL(新日本科学製)を0.3%(w/v)添加し、42℃で6時間処理する事によって、含有する多糖類が部分分解されたカシス果汁を得た(以下、「部分分解カシス果汁」と記載する)。また、カシス果汁を上記条件において18時間酵素処理することによって、含有する多糖類が低分子の糖類(単糖〜オリゴ糖)まで完全に分解されたカシス果汁を得た(以下、「完全分解カシス果汁」と記載する)。なお、酵素処理に付されていないカシス果汁を、以下「未処理カシス果汁」と記載する。
【0050】
(2)未処理、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁に含まれる多糖類の分子量分析を以下の通りに行った。分子量分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(カラム:OHpak SB−804 HQ(昭和電工株式会社製))を用いたゲルろ過分析によって行った。
【0051】
未処理のカシス果汁ならびに部分分解カシス果汁および完全分解カシス果汁に含まれる多糖類の分子量の分析結果を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例2:未処理カシス果汁、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁を含有するマウス飼料を調製した。マウス飼料の調製に際しては、各果汁は凍結乾燥して得られた粉末状態のものを用いた。
【0054】
各飼料の組成を以下に示す。
<果汁含有飼料>
AIN93G 1000g
果汁粉末 50g
<コントロール飼料>
AIN93G 1000g
デキストリン粉末 50g
【0055】
一群につき10匹のへアレスマウス(Hos:HR−1,40匹、5週令、雌、日本SLC社)からなる4群に、それぞれ未処理カシス果汁、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁を含有する果汁含有飼料あるいはコントロール飼料を2週間摂取させた[平均4g/日になるように混餌飼育を行い、経口摂取を行った。]。その後、各群のマウスの背部にそれぞれ90mJ/cmの紫外線(以下、UVと記載)を1回照射した。UV照射はSAN−EI SUPERCURE−204S(三栄電機製作所)を用いて行いた。
【0056】
実施例3:ヘアレスマウスを用いたUV照射に対するMMP−9遺伝子発現抑制作用
実施例2で記載したマウス(各群4匹のマウス)から、UV照射後4日目に背部の皮膚を回収して、試験に供するまでRNase later中に−30℃で保存した。
【0057】
サンプルストックチューブ 2.0 mL用 / コニカル型 (BMBio社製)に、上記で調製した皮膚サンプル、ジルコニアビーズ(Zirconium beads 1.0mm Dia:BioSpec社製)、ジルコニアビーズ 2.0φ、TOMY社製)とRLT bufferをいれ、ビーズ式ホモジナイザー ミニビード・ビーター (BioSpec社製)にてホモジナイズした。その後の精製工程は、RNeasy(登録商標) Fibrous Tissue Mini Kitのプロトコルに従った。
【0058】
RNAの逆転写には、PrimeScript RT reagent kit (TaKaRa社製)を使用した。反応条件はPrimeScript RT reagent kit (TaKaRa社製)のプロトコルに従った。
【0059】
反応サンプル1本あたり、Master Mix(Rosche社製) 25μL、標的遺伝子のTaqMan probe(Applied Biosystems社製) 2.5μL、RNase free water(Ambion社製) 21.5μL、sample cDNA 1μLとなるよう、それぞれを混合し、7300 Real Time PCR System(Applied Biosystems社)に供した。
【0060】
Real−time PCR条件は60℃で2分間、95℃で10分間保持した後、95℃で15秒間、60℃で1分間保持する操作を40回繰り返した。測定した値はSeruence detection systemの方法に準じて算出した。内部標準はマウスGAPD TaqMan probe(Applied Biosystems社製)を用いた。
【0061】
解析結果は、MMP−9遺伝子発現量を内部標準のGAPD遺伝子発現量で補正した。グラフは、UV照射なし(カシス果汁摂取なし)の群の平均値を1とした場合の各群平均値の相対値で表し、検定はt−検定を用いて行った。
【0062】
MMP−9遺伝子発現量の測定結果を図1に示す。
図1に示すとおり、UV照射されたマウスのMMP−9遺伝子発現量は、UV照射されていないマウスの遺伝子発現量と比べて増加する傾向がみられたが、未処理カシス果汁、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁摂取群においては、UV照射後のMMP−9遺伝子発現量の増加が抑制される傾向が確認できた。
【0063】
実施例4:ヘアレスマウスを用いたUV照射に対するMMP−9タンパク質発現抑制作用
実施例2で記載したマウス(各群5匹のマウス)から、UV照射後4日目に背部の皮膚を回収し、速やかに液体窒素にて凍結し、試験に供するまで−80℃で保存した。
【0064】
PBSに最終濃度10%PhosSTOP(phosphatase inhibitor cocktail、Roche社製)、4%complete(protease inhibitor cocktail、Roche社製)を入れた溶液に上記で調製した皮膚を入れ、氷中で冷やしながら、ポリトロンにてホモジナイズした。このサンプルを、12000 rpm、4℃、10分間遠心し、上清を回収し、皮膚タンパク質粗抽出液とした。なお、調製した皮膚タンパク質粗抽出液は試験に供するまで−80℃で保存した。
【0065】
上記サンプル0.8 mLにブラッドフォード法タンパク質定量試薬(BioRad社製)を0.2mLずつ添加し、攪拌後室温で15分静置した。その15分後に、2 mLのイオン交換水を入れ再度攪拌し、595nm波長にて測定した。なお、定量用のスタンダードは0ppmから50ppmのアルブミン溶液で作製した。
【0066】
また、上記サンプルを800 μg/mLの濃度に調整し、最終濃度10%のβ−メルカプトエタノール(Sigma社製)が入っているサンプルバッファーと等量混合し、10分間、湯せんした。
【0067】
その後、マルチゲルIIミニ10(第一化学薬品工業社製)の各レーンに総タンパク量として25 μgずつ添加した。分子量マーカーはPrecision Plus ProteinKaleidoscope Standards(BioRad社製)を使用し、泳動バッファーはTris/Glycine/SDS Buffer(BioRad社製)を使用して、35mAの固定電流にて電気泳動を実施した。
【0068】
泳動後、ゲルをブロッティング バッファー(25mmol/lトリス、192mmol/l グリシン、10% メタノールを含有する)にて洗浄した。
【0069】
PVDF membrane(Immobilon−P、Millipore社製)を15秒間100% メタノールに浸漬し、次に2分間超純粋水で洗浄を行い、最後に上記ブロッティング バッファーで5分間振盪させて活性化させた。
【0070】
その後、タンク方式のウェスタンブロッティング法にて、固定電圧が100V、4℃の条件でおよそ1時間半程度、ブロッティングを行った。
【0071】
ウェスタンブロッティング後のメンブレンを、TBS バッファー(20mmol/l トリス−塩酸 pH7.6、137mmol/l 塩化ナトリウム)で10分間、3回洗浄した。その後Super Block Blocking Buffer in TBS(Thermo社製)を適量入れ、室温で1時間、振盪した。その後、最終濃度0.1% Tween−20を含有したTBS バッファーにて、室温で10分間、メンブレンを洗浄した。
【0072】
1次抗体として、抗β−actin抗体(H−196;sc−7210、rabbit polyclonal IgG、Santa cruz社製)あるいは、抗MMP−9抗体(M−17;sc−6841、rabbit polyclonal IgG、Santa cruz社製)使用した。抗β‐actin抗体は、1:2,000の希釈率で5% スキムミルク in TBS−Tバッファーに混合した。
【0073】
同様に抗MMP−9抗体は、1:500の希釈率で最終濃度5% スキムミルクを含有したTBS−Tバッファーに混合し、これらを4℃で終夜、振盪し抗体反応させた。抗体反応後、TBS−T バッファーにて室温、10分間、3回洗浄を行った。
【0074】
2次抗体は、抗rabbit polyclonal IgG抗体(Peroxidase−conjugated GOAT IgG fraction to rabbit IgG、Cappel社製)を使用した。
【0075】
2次抗体は、MMP−9の検出には1:100,000の希釈率で、β−actinの検出には1:20,000の希釈率で最終濃度5% スキムミルクを含有したTBS−Tバッファーに混合しそれぞれ、室温、1時間、振盪し反応させた。反応後、TBS−T バッファーにて十分に洗浄を行った。
【0076】
検出には、MMP−9はECL plus(GE Healthcare社製)を、β−actinはECL(GE Healthcare社製)を使用した。
【0077】
詳細な方法は、キットのプロトコルに従った。また、X線フィルムはHigh performance chemiluminescence film Amersham Hyperfilm ECL、カセットはHypercassette(Amersham社製)を使用し、現像液(富士フィルム社製)、定着液(富士フィルム社製)にて検出した。
【0078】
検出したバンドは、Image Jを用いて画像処理を行い、数値化した。解析結果は、数値化した各々のMMP−9タンパク質量を内部標準のβ−actinタンパク質量で補正した。グラフは、補正後のUV照射なし(カシス果汁摂取なし)の群の平均値を1とした場合の各群平均値の相対値で表し、検定はt−検定を用いて行った。
【0079】
MMP−9タンパク質発現量の測定結果を図2に示す。
図2に示すとおり、UV照射されたマウスのMMP−9タンパク質発現量は、UV照射されていないマウスのタンパク質発現量と比べて増加する傾向がみられたが、未処理カシス果汁、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁摂取群においてはUV照射後のMMP−9タンパク質発現量の増加が抑制される傾向が確認できた。
【0080】
実施例5:UV照射したヘアレスマウス皮膚におけるMMP−9の活性の測定
実施例4で調製した、各群の皮膚タンパク質粗抽出液15μgをゼラチンザイモ電気泳動キット(株式会社 プライマリーセル)を用いてゼラチンザイモグラフィ法に供した。実験の詳細な方法は、キットのプロトコルに従った。
【0081】
電気泳動後、染色したゲル像をスキャナーにて取り込み、NIH image softwareにて解析した。活性は、UV照射されていないマウス(カシス果汁摂取なし)の皮膚におけるMMP−9活性の平均値を1とした時の相対活性として求めた。各群の値の統計学的処理は、t-検定を用いた。
【0082】
各群のおけるMMP−9活性を比較したものを図3に示した。
図3に示すとおり、UV照射されたマウスの皮膚ではUV照射されていないマウスの皮膚と比較してMMP−9活性が増大する傾向が確認できた。未処理カシス果汁、部分分解カシス果汁または完全分解カシス果汁摂取群においてはUV照射後のMMP−9活性の増大が抑制される傾向が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、容易に入手可能なカシス果実を原料として、MMP−9抑制剤を提供することができる。また、本発明はMMP−9抑制作用を通じて、癌、リューマチ様関節炎、自己免疫疾患、歯周炎、組織潰瘍形成、動脈硬化症、動脈瘤、及び心不全等を治療、改善、抑制および/または予防するための新たな化粧品、医薬組成物、美容食品・健康食品などとして利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシス果実由来物を有効成分として含んでなるマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)抑制剤。
【請求項2】
MMP−9をコードするmRNAの発現量を低下させる、請求項1記載のMMP−9抑制剤。
【請求項3】
MMP−9タンパク質の発現量を低下させる、請求項1記載のMMP−9抑制剤。
【請求項4】
MMP−9の活性を低下させる、請求項1記載のMMP−9抑制剤。
【請求項5】
カシス果実由来物がカシス果実に含まれる多糖類を含む請求項1〜4のいずれか1項記載のMMP−9抑制剤。
【請求項6】
カシス果実に含まれる多糖類が限定的かつ部分的に分解されている請求項1〜5のいずれか1項記載のMMP−9抑制剤。
【請求項7】
多糖類の平均分子量が10,000〜200,000の範囲にある、請求項6記載のMMP−9抑制剤。
【請求項8】
カシス果実に含まれる多糖類が完全に分解されている、請求項1〜4のいずれか1項記載のMMP−9抑制剤。
【請求項9】
糖類の平均分子量が100以上、1,000未満の範囲にある、請求項8記載のMMP−9抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136474(P2012−136474A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290437(P2010−290437)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】