説明

マルチ推力合成プランジャ機構

【課題】全長寸法を抑えることができると共に径方向寸法も抑えることができるコンパクトなマルチ推力合成プランジャ機構を提供する。
【解決手段】油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子を一つの出力部材に連結することで、出力部材に、それら複数のプランジャ素子群の油圧推力を統合した合成推力を発揮させるマルチ推力合成プランジャ機構において、出力部材を、複数のプランジャ素子26、28が連結された大径ピストン23と、大径ピストン23を移動自在に収容するシリンダ29とで形成すると共に、複数のプランジャ素子26、28の背面に、そのプランジャ素子26、28を駆動するプランジャ油室30、32を形成して構成し、これらプランジャ油室30、32に供給する圧油を切り換えて出力部材の推力を自在に選択するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーステアリング等に用いられ供給される圧油に応じて出力部材の推力を自在に選択するマルチ推力合成プランジャ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機械の基本要素として、油圧と機械的推力の変換を担うプランジャ機構が多用されているが、複数の油圧系統を持つ油圧機械装置では、それらの油圧系統各々の油圧を機械的な油圧推力に変換すると共に油圧推力を一つの出力部材に統合して合成し、その合成推力を出力として活用する複数油圧推力統合型の油圧アクチュエータ機能が求められることがある。
【0003】
このような複数油圧推力統合型の油圧アクチュエータにおいては、複数の油圧系統からプランジャ素子を介して複数の油圧推力を得ると共に一つの出力部材に統合する際、各々のプランジャ素子の油圧推力の作用軸線が出力部材の移動軸線と一致していないと、出力部材の移動軸線に対する直交軸線周りのモーメントが生じてしまい、出力部材の円滑な作動の阻害要因となる。このため、図9や図10に示すように、通常、出力部材80、81の移動軸線上に複数のプランジャ素子82、83、84、85を直列に配置して連結したマルチ推力合成プランジャ機構が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3044686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのマルチ推力合成プランジャ機構の場合、出力部材80、81に求められるストローク量を持つプランジャ素子82、83、84、85が複数直列に配置されているので、装置が上記ストローク量に油圧系統数を乗じた長さ寸法になり、統合すべき油圧系統数が多い場合には、装置の長さ寸法が極めて長くなってしまう問題があった。
【0006】
また、プランジャ素子82、83、84、85の受圧面積は径寸法の二乗に比例して増大するので、図10に示すようなドーナツ状の受圧面86を有するプランジャ素子85の場合には、ドーナツ状受圧面86の面積がその内周側に位置する円形受圧面87に対してかなり大きくなりがちであり、あまり小さな受圧面積が求められる油圧系統には適用し難いという問題もあった。
【0007】
また、かかる問題を解決するために、図11、図12、図13及び図14に示すように、油圧推力を統合すべきプランジャ素子90、91を系統毎に分割すると共に同一系統のプランジャ素子90を更に複数のプランジャ素子90に分割し、同一系統のプランジャ素子90の油圧推力の合成作用力線が出力部材92の中心軸線93と一致するように各系統の複数のプランジャ素子90を中心軸線93の周りに並列に分散配置して一つの出力部材92に統合するアイデア(未公開)も考えられるが、中心軸線93の周りに分散配置する多くのプランジャ素子90は、各々円筒形状であるので、それらの相互の配置関係をいかに近接して配置したとしても受圧面積として活用されない無駄空間が多く存在することになり、全体の総受圧面積ニーズに対して装置の径方向寸法が必要以上に大型化してしまうという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、全長寸法を抑えることができると共に径方向寸法も抑えることができるコンパクトなマルチ推力合成プランジャ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子を一つの出力部材に連結することで、該出力部材に、それら複数のプランジャ素子群の油圧推力を統合した合成推力を発揮させるマルチ推力合成プランジャ機構において、上記出力部材を、上記複数のプランジャ素子が連結された大径のピストンと、その大径ピストンを移動自在に収容するシリンダとで形成すると共に、上記複数のプランジャ素子の背面に、そのプランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成して構成し、これらプランジャ油室又は上記シリンダ内に供給する圧油を切り換えて出力部材の推力を自在に選択するものである。
【0010】
上記出力部材には、統合油圧推力を受けて油圧に変換するプランジャ要素が備えられ、該プランジャ要素の変換油圧を出力として利用するとよい。
【0011】
上記プランジャ素子を一つ以上のグループにグループ分けすると共に、同一グループのプランジャ素子を駆動するプランジャ油室に同一の油圧系統を接続し、かつ、同一グループのプランジャ素子の作用力線を合成した合成作用力線が上記大径ピストンの中心軸と一致するように上記プランジャ素子を配置するとよい。
【0012】
上記プランジャ素子の一つが、上記大径ピストンと同軸上に配置されるとよい。
【0013】
上記プランジャ素子又は上記プランジャ油室のいずれか一方に他のプランジャ素子を軸方向に延びるように設け、他方に上記他のプランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成するとよい。
【0014】
上記大径ピストンには上記プランジャ素子を挿通させる取付孔が形成され、上記プランジャ素子は一端部と他端部とに分割可能に形成され、上記一端部と他端部には上記取付孔に挿入される挿入部が形成されると共に挿入深さを規制するストッパ部が形成され、かつ、互いに螺合可能なネジが形成されるとよい。
【0015】
また、油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子を一つの出力部材に連結すると共に、該出力部材に、出力部材からの推力を受けて油圧を発生するプランジャ素子を連結したマルチ推力合成プランジャ機構において、上記出力部材を、大径のピストンと、該大径ピストンを移動自在に収容するシリンダとで形成すると共に、該シリンダ内に上記複数のプランジャ素子を上記大径ピストンに向けて延びるように設け、かつ、上記複数のプランジャ素子の背面の大径ピストンに上記プランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成して構成し、これらプランジャ油室又は上記シリンダ内に供給する圧油を切り換えて出力部材の推力を自在に選択するものである。
【0016】
以上、要するに本発明の原理上のポイントは、出力部材を比較的大径のピストン構造として統合すべき油圧系統毎の油圧を受けて推力変換するプランジャ素子群の内の一部の系統のプランジャ素子となし、その大径ピストンの受圧面積領域内に重複して複数の小径のプランジャ素子群を配置することで、小径プランジャ素子群を内包した大径ピストン系の受圧面積を、大径ピストンの受圧面積からプランジャ素子群の受圧面積の総和を差し引いた差分として機能させると共に、それらの重複配置される小径プランジャ素子群をその他の系統群に割り当て、さらに、その系統毎のプランジャ素子群の油圧推力の統合推力の作用線が、各々出力部材の中心軸と一致するような位置関係に配置する多系統圧力油室形成法にある。
【0017】
このような原理の多系統圧力油室形成法により、系統別プランジャ素子を出力部材中心軸線上に直列配置する従来のマルチ推力合成プランジャ機構よりも装置の全長寸法の増大を画期的に抑制できると共に、出力部材の中心軸周りに並列的に分散配置される複数の小径プランジャ素子群相互間の空間も全て受圧面積として有効活用できるから、装置の径方向寸法も必要最小限のコンパクトな装置に構成できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マルチ推力合成プランジャ機構の全長寸法を抑えることができると共に径方向寸法も抑えることができ、マルチ推力合成プランジャ機構を極めてコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す多段油圧比変換装置の左半分を構成する油圧推力合成アクチュエータの側断面説明図である。
【図2】図1の背面説明図である。
【図3】マルチ推力合成プランジャ機構たる多段油圧比変換装置の側断面図である。
【図4】図3の背面説明図である。
【図5】他の実施の形態を示すマルチ推力合成プランジャ機構の側断面図である。
【図6】図5の背面説明図である。
【図7】他の実施の形態を示すマルチ推力合成プランジャ機構の側断面図である。
【図8】他の実施の形態を示すマルチ推力合成プランジャ機構の側断面図である。
【図9】従来のマルチ推力合成プランジャ機構の側断面図である。
【図10】従来のマルチ推力合成プランジャ機構の側断面図である。
【図11】本発明に至る過程で発案したマルチ推力合成プランジャ機構の側断面説明図である。
【図12】図11の背面説明図である。
【図13】図12の変形例を示す背面説明図である。
【図14】図12の変形例を示す背面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0021】
図3はマルチ推力合成プランジャ機構たる多段油圧比変換装置の側断面図であり、図4は図3の背面説明図である。また、図1は、多段油圧比変換装置の左半分を構成する油圧推力合成アクチュエータの原理を説明するための側断面説明図であり、図2は図1の背面説明図である。
【0022】
先ず、図1及び図2を用いて油圧推力合成アクチュエータについて説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、油圧推力合成アクチュエータ1は、A〜Dまでの4系統からの油圧を複数のプランジャ素子2、3を介して機械的な油圧推力に変換すると共に統合して右側のプランジャ素子群4に出力するものであり、油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子2、3と、これらプランジャ素子2、3を連結する出力部材5とを備える。
【0024】
出力部材5は、複数のプランジャ素子2、3が連結された大径ピストン6と、大径ピストン6を移動自在に収容するシリンダ7とで形成されると共に、複数のプランジャ素子2、3の背面に、そのプランジャ素子2、3を駆動するプランジャ油室8、9を形成して構成されている。
【0025】
大径ピストン6は、円柱状に形成されている。大径ピストン6の受圧面10には複数のプランジャ素子2、3の端面11、12が重ねて設けられており、大径ピストン6の受圧面積領域内に複数のプランジャ素子2、3が重複して配置されている。これにより、大径ピストン6の実質的な有効受圧面積が、大径ピストン6の端面の面積から複数のプランジャ素子2、3の受圧面積を差し引いた差分の面積にされている。
【0026】
プランジャ素子2、3には、大径ピストン6と同軸上に配置された中央プランジャ素子3と、大径ピストン6の外周部に周方向に等間隔に配置された8つの外周プランジャ素子2とがある。外周プランジャ素子2は、それぞれ同じ径に形成されており、中央プランジャ素子3は、外周プランジャ素子2よりも大径、かつ、大径ピストン6より小径に形成されている。
【0027】
また、大径ピストン6を駆動するピストン油室13には、油圧Dの系統が接続され、中央プランジャ素子3を駆動する中央プランジャ油室9には、油圧Aの系統が接続され、外周プランジャ素子2を駆動する8つの外周プランジャ油室8には、油圧B又は油圧Cのいずれかの系統が接続されている。
【0028】
中央プランジャ素子3は、油圧推力の作用線が大径ピストン6の中心軸14と一致しているため、単独で一つの油圧系統に割り当てることができる。
【0029】
外周プランジャ素子2は、油圧Bの系統に接続されるグループと油圧Cの系統に接続されるグループとにグループ分けされる。このグループ分けは、同一グループのプランジャ素子2の作用力線を合成した合成作用力線が大径ピストン6の中心軸14と一致するようになされる。すなわち、グループ毎の油圧推力の合成作用力線が大径ピストン6の中心軸14と一致するように配置関係とグルーピング対象を選び、その各グループ毎の外周プランジャ油室8を、油圧系統BとCに割り当てる。これにより、各系統の油圧状況がばらばらに変化したとしても、それらの油圧推力を統合した全体の合成作用力線は常に大径ピストン6の中心軸14と一致するから、大径ピストン6の円滑な作動を阻害するモーメントの発生がなく、4系統の油圧推力を統合して円滑な出力を得るコンパクトなマルチ推力合成プランジャ機構を構成できる。
【0030】
次に、図3及び図4を用いて多段油圧比変換装置について説明する。
【0031】
この多段油圧比変換装置は、ハンドルの操作量に応じて油圧系統を切り替える変位感応制御弁を備えたパワーステアリング機構等に適用され、変位感応制御弁を介して供給される油圧に応じてステアリング操作用の油圧を段階的に変化させるように機能する。
【0032】
図3及び図4に示すように、多段油圧比変換装置20は、常時供給油圧を受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャ21と、基準推力プランジャ21の油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャ22とを対向して一体に設けて大径ピストン23を形成し、この大径ピストン23の両端面、すなわち、基準推力プランジャ21の受圧面24と出力プランジャ22の受圧面25とに複数のプランジャ素子26、28を大径ピストン23を境として対称に設け、大径ピストン23をシリンダ29内に移動自在に収容し、複数のプランジャ素子26、28の背面に、プランジャ素子26、28を駆動するプランジャ油室30、32をそれぞれ形成し、これらプランジャ油室30、32への油圧供給状態を個別に切り換えることで、プランジャ素子26、28の油圧推力の総和の値を段階的に変化させ、それによって出力油圧を段階的に変化させるようになっている。
【0033】
また、大径ピストン23の基準推力プランジャ21側に設けられる複数のプランジャ素子26、28と、出力プランジャ22側に設けられる複数のプランジャ素子26、28は、複数のグループにグループ分けされると共に、グループ毎に接続される油圧系統が異なるようにされている。グループ毎の受圧面積の比は、最小の受圧面積のグループを基準に、他のグループが各々2^n倍(2のn乗倍)の受圧面積となるように設定されており、油圧を供給するグループの組み合わせを変えることでグループの数の指数級数倍もの極めて多くの多段油圧推力変化特性を得られるようになっている。具体的には、大径ピストン23の片側のプランジャ油室30、32に接続される油圧系統の系統数は5系統であり、プランジャ素子26、28は系統毎に5つのグループに分けられる。これら5つのグループの受圧面積比は、小さなものから順に1、2、4、8、16となるように設定され、最小グループに対する大径ピストン23の受圧面積比は、32に設定されている。これにより63段階もの多段調圧機能が得られる。具体的には、受圧面積比1のグループにのみ油圧を供給したときの出力を1とすると、受圧面積比2のグループにのみ油圧を供給したときの出力は2となり、受圧面積比1と2のグループに油圧を供給したときの出力は3となり、油圧を供給するグループの組み合わせを適宜変えることで1〜63倍までの出力を得ることができる。
【0034】
この優れた調圧機能を発揮するには、その各グループ毎に求められる受圧面積比を持った5つグループのプランジャ素子26、28群を、互いに対向する基準推力プランジャ21と出力プランジャ22による油圧推力バランス型フリーピストン機構に組み込んだ「マルチ推力合成プランジャ機構」を構成する必要がある。
【0035】
そして、この装置の油圧比変換原理上、基準推力プランジャ21の受圧面積が、基準推力プランジャ21に設けられるプランジャ素子26、28の受圧面積の総和より小さいと、出力油圧の最低値が負圧になってしまうことから、基準推力プランジャ21の受圧面積は、最低限この総和の値以上である必要があると共に、最小の受圧面積の系統の31倍以上の受圧面積であることが求められる。
【0036】
同様に出力プランジャ22の受圧面積においても、出力油圧の最高値を実用的なレベルに抑えるには、基準推力プランジャ21と同等の受圧面積であることが求められる。
【0037】
これらの条件をふまえて、63段調圧機構用のマルチ推力合成プランジャ機構のプランジャ素子26、28の好適な配置を説明する。なお、プランジャ素子26、28の配置は基準推力プランジャ21側と出力プランジャ22側とで対称であるため、基準推力プランジャ21側についてのみ説明する。また、グループ分けも対称となる。
【0038】
第1系統33のグループのプランジャ素子28の受圧面積が最小単位の基準であって、それ以外のグループの受圧面積比は全て第1系統33のグループの倍数以上であるので、まず、第1系統33のグループを1つのプランジャ素子28からなるものとし、このプランジャ素子28を大径ピストン23の中心軸上に設置するのが合理的で、残りの系統のグループに関しては、受圧面積比が第1系統33の2の指数倍であるので、これらを分散配置すると具合がよい。
【0039】
具体的には、第1系統33のプランジャ素子28の受圧面積に対する第2系統34のグループの受圧面積比は2であるから、第2系統34のグループを第1系統33のプランジャ素子28と同径のプランジャ素子28を2つ組み合わせてなるものとし、これら2つのプランジャ素子28を大径ピストン23の中心軸に対して線対称となるように配置した。第3系統35のグループは、受圧面積比が4であるから、第1系統33のプランジャ素子28と同径のプランジャ素子28を4つ組み合わせてなるものとし、これら4つのプランジャ素子28を大径ピストン23の中心軸に対して線対称となるように配置した。第4系統36のグループは、受圧面積比が8であるから、第1系統33のプランジャ素子28の2倍の径のプランジャ素子26を2つ組み合わせてなるものとし、これら2つのプランジャ素子26を大径ピストン23の中心軸に対して線対称となるように配置した。第5系統37のグループは、受圧面積比が16であるから、第1系統33のプランジャ素子28の2倍の径のプランジャ素子26を4つ組み合わせてなるものとし、これら4つのプランジャ素子26を大径ピストン23の中心軸に対して線対称となるように配置した。
【0040】
このように、第1系統33のプランジャ素子28の周りに大径のドーナツ状の受圧面領域を形成し、このドーナツ状受圧面領域の中に、小径のプランジャ素子26、28群を配置することで、小径のプランジャ素子26、28群を除くドーナツ状受圧面を大径ピストン23の受圧面24として割り当てた。
【0041】
このマルチ推力合成プランジャ機構は、正負両方向の油圧推力を個別に利用する対向プランジャ構造であり、実質的に11系統もの油圧推力を合成して出力プランジャ22に作用させるものであるが、極めてコンパクトにできる。
【0042】
次に本実施の形態の作用について述べる。
【0043】
油圧系統から油圧が供給されると対応するグループのプランジャ素子26、28に油圧が作用し、大径ピストン23に受圧面積に応じた大きさの油圧推力が発生する。この油圧推力は、出力プランジャ22側のピストン油室38から油圧として出力される。すなわち、大径ピストン23が、統合油圧推力を油圧に変換するプランジャ要素として機能する。例えば、大径ピストン23の基準推力プランジャ21側の受圧面24と出力プランジャ22側の受圧面25に同じ大きさの油圧が作用し、かつ、基準推力プランジャ21側のグループのうち第1系統33と第2系統34のグループに基準推力プランジャ21の受圧面24に作用する油圧と同じ大きさの油圧が供給された場合、3つのプランジャ素子28に油圧が作用し、大径ピストン23には、第1系統33のプランジャ素子28の受圧面積×3×油圧の大きさの油圧推力が発生する。この油圧推力は、大径ピストン23を介して出力プランジャ22側のピストン油室38に作用し、ピストン油室38内の油圧を第1系統33のプランジャ素子28の受圧面積×3×油圧×32の大きさだけ増加させる。
【0044】
このように、多段油圧比変換装置20を、複数のプランジャ素子26、28が連結された大径ピストン23と、大径ピストン23を移動自在に収容するシリンダ29とで形成すると共に、複数のプランジャ素子26、28の背面に、そのプランジャ素子26、28を駆動するプランジャ油室30、32を形成して構成し、これらプランジャ油室30、32に供給する圧油を切り換えて多段油圧比変換装置20の推力を自在に選択するようにしたため、多段油圧比変換装置20の全長寸法を抑えることができると共に径方向寸法も抑えることができ、多段油圧比変換装置20をコンパクトにできる。すなわち、出力部材の移動軸線上に多系統のプランジャ素子を直列に配置して連結する従来の構造に対して、統合すべき油圧の系統数が3系統以上になっても、2系統相当の装置全長に抑えることができると共に、大径ピストン23の中心軸周りに並列的に配置される複数の小径のプランジャ素子26、28相互の周辺空間も、無駄なく推力変換受圧面として有効に活用できるので、装置の径方向寸法も必要最小限のコンパクトなものにできる。
【0045】
また、プランジャ素子26、28を一つ以上のグループにグループ分けすると共に、同一グループのプランジャ素子26、28を駆動するプランジャ油室30、32に同一の油圧系統を接続し、かつ、同一グループのプランジャ素子26、28の作用力線を合成した合成作用力線が大径ピストン23の中心軸と一致するようにプランジャ素子26、28を配置したため、大径ピストン23やプランジャ素子26、28にモーメントが発生するのを防ぐことができ、大径ピストン23やプランジャ素子26、28を円滑に作動させて効率よく出力を得ることができる。
【0046】
プランジャ素子26、28の一つが、大径ピストン23と同軸上に配置されるものとしたため、大径ピストン23の端面にドーナツ状の受圧面24、25を形成でき、受圧面24、25に複数のプランジャ素子26、28を効率よく配置することができる。
【0047】
なお、基準推力プランジャ21と出力プランジャ22は一体に連結されて大径ピストン23を構成するものとしたが、複数又は単数のプランジャ素子26、28からなるものとしてもよい。この場合、シリンダ29内にも選択的に油圧を供給して大径ピストン23をプランジャ素子26、28と同様の用途で使用するとよい。
【0048】
また、上述のマルチ推力合成プランジャ機構の構造を応用することにより、様々な、複数油圧系統による油圧推力を統合して一つの出力を得る推力統合ニーズに応えるマルチ推力合成プランジャ機構をコンパクトにできる。
【0049】
次に他の実施の形態について述べる。
【0050】
図7及び図8は、マルチ推力合成プランジャ機構のプランジャ素子の具体例を示すものであり、図7は大径ピストンの一端面にのみプランジャ素子を設ける場合のプランジャ素子の構造を示し、図8は、大径ピストンの両端面にプランジャ素子を設ける場合の変形例を示す。
【0051】
図7に示すように、大径ピストン40は、プランジャ素子41を挿通させるための取付孔42を有し、プランジャ素子41は、受圧面43を有する長尺の棒状に形成された一端部44と、短尺の棒状に形成された他端部45とに分割可能に形成される。
【0052】
一端部44と他端部45の分割端側には、取付孔42に挿入される挿入部46、47が形成されると共に取付孔42に対するプランジャ素子41の挿入深さを規制するためのストッパ部48、49が形成され、かつ、互いに螺合可能なネジ50が形成される。
【0053】
挿入部46、47は、取付孔42より若干小さな径に形成されており、取付孔42内に挿入したとき取付孔42の内壁面との間に若干の隙間を形成するようになっている。プランジャ素子41と取付孔42との嵌め合い関係を、僅かな隙間嵌め関係にしてやることで、組み付けが容易になるだけでなく、円滑なストローク運動の阻害要因となる、プランジャ素子41の設置位置と、これに対応するシリンダ穴51の設置位置との相互関係の、加工誤差によるずれを吸収でき、プランジャ素子41の円滑なストローク運動機能を保証することができる。
【0054】
ストッパ部48、49は、取付孔42より十分大径に形成されており、大径ピストン40の端面に当接することでプランジャ素子41の取付孔42への挿入深さを規制するようになっている。
【0055】
ネジ50は、一端部44に形成される雄ネジ50と、他端部45に形成される雌ネジ(図示せず)とからなる。他端部45には断面正六角形のナット部52が形成されている。
【0056】
また、図8に示すように、大径ピストン60の両端面にプランジャ素子61を設ける場合、他端部62も受圧面43を有する長尺の棒状に形成するとよい。
【0057】
このように、大径ピストン40、60にはプランジャ素子41、61を挿通させる取付孔42が形成され、プランジャ素子41、61は一端部44と他端部45、62とに分割可能に形成され、一端部44と他端部45、62には取付孔42に挿入される挿入部46、47が形成されると共に挿入深さを規制するストッパ部48、49が形成され、かつ、互いに螺合可能なネジ50が形成されるものとすると、大径ピストン40、60に対してプランジャ素子41、61を分割組み立て可能な構造にでき、大径ピストン40、60の形状加工内容が、切削加工と穴加工だけのシンプルな加工内容で済むようになるので、製造コストも抑えられる。
【0058】
更に他の実施の形態について述べる。
【0059】
図5は、上述のマルチ推力合成プランジャ機構のプランジャ素子とプランジャ油室の配置を軸方向に反転させると共に、プランジャ素子とプランジャ油室の中に他のプランジャ素子とプランジャ油室を入れ子状に設けたものの側断面図であり、図6は図5の背面説明図である。
【0060】
図5及び図6に示すように、出力部材70は、大径ピストン71と、大径ピストン71を移動自在に収容するシリンダ72とで形成されると共に、シリンダ72内に複数のプランジャ素子73、74が大径ピストン71に向けて延びるように設けられ、かつ、大径ピストン71にはプランジャ素子73、74を駆動するプランジャ油室75、76が形成されて構成されている。
【0061】
大径ピストン71の軸上に形成される中央プランジャ油室76内には、他の小径のプランジャ素子77が軸方向に延びるように複数設けられており、中央プランジャ油室76の油圧で駆動される中央プランジャ素子74内には、他のプランジャ素子77を駆動するためのプランジャ油室78が複数形成されている。
【0062】
このように、プランジャ素子74、77を重複配置するような多重構造にすることによって、極めて多くの系統数を統合するマルチ推力合成プランジャ機構をコンパクトに構成することができる。
【0063】
このように、出力部材70を、大径ピストン71と、大径ピストン71を移動自在に収容するシリンダ72とで形成すると共に、シリンダ72内に複数のプランジャ素子73、74を大径ピストン71に向けて延びるように設け、かつ、複数のプランジャ素子73、74の背面の大径ピストン71にプランジャ素子73、74を駆動するプランジャ油室75、76を形成して構成することにより、マルチ推力合成プランジャ機構の全長寸法を抑えることができると共に径方向寸法も抑えることができ、マルチ推力合成プランジャ機構をコンパクトにできる。
【0064】
また、プランジャ素子74とプランジャ油室76の中に他のプランジャ素子77とプランジャ油室78を入れ子状に設ける構造を図3及び図4に示す上述のマルチ推力合成プランジャ機構に適用してもよい。この場合、親となるプランジャ素子74及びプランジャ油室78と、子となるプランジャ素子77及びプランジャ油室78は軸方向に反転されていなくともよい。すなわち、プランジャ素子74又はプランジャ油室76のいずれか一方に他のプランジャ素子77を軸方向に延びるように設け、他方に他のプランジャ素子77を駆動するためのプランジャ油室78を形成するとよい。マルチ推力合成プランジャ機構を更にコンパクトにできる。
【符号の説明】
【0065】
23 大径ピストン
26 プランジャ素子
28 プランジャ素子
29 シリンダ
30 プランジャ油室
32 プランジャ油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子を一つの出力部材に連結することで、該出力部材に、それら複数のプランジャ素子群の油圧推力を統合した合成推力を発揮させるマルチ推力合成プランジャ機構において、上記出力部材を、上記複数のプランジャ素子が連結された大径のピストンと、その大径ピストンを移動自在に収容するシリンダとで形成すると共に、上記複数のプランジャ素子の背面に、そのプランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成して構成し、これらプランジャ油室又は上記シリンダ内に供給する圧油を切り換えて出力部材の推力を自在に選択することを特徴とするマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項2】
上記出力部材には、統合油圧推力を受けて油圧に変換するプランジャ要素が備えられ、該プランジャ要素の変換油圧を出力として利用する請求項1記載のマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項3】
上記プランジャ素子を一つ以上のグループにグループ分けすると共に、同一グループのプランジャ素子を駆動するプランジャ油室に同一の油圧系統を接続し、かつ、同一グループのプランジャ素子の作用力線を合成した合成作用力線が上記大径ピストンの中心軸と一致するように上記プランジャ素子を配置した請求項1又は2記載のマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項4】
上記プランジャ素子の一つが、上記大径ピストンと同軸上に配置された請求項1〜3のいずれかに記載のマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項5】
上記プランジャ素子又は上記プランジャ油室のいずれか一方に他のプランジャ素子を軸方向に延びるように設け、他方に上記他のプランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成した請求項1〜4のいずれかに記載のマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項6】
上記大径ピストンには上記プランジャ素子を挿通させる取付孔が形成され、上記プランジャ素子は一端部と他端部とに分割可能に形成され、上記一端部と他端部には上記取付孔に挿入される挿入部が形成されると共に挿入深さを規制するストッパ部が形成され、かつ、互いに螺合可能なネジが形成された請求項1〜5のいずれかに記載のマルチ推力合成プランジャ機構。
【請求項7】
油圧系統からの油圧を受けて油圧推力を発生する複数のプランジャ素子を一つの出力部材に連結すると共に、該出力部材に、出力部材からの推力を受けて油圧を発生するプランジャ素子を連結したマルチ推力合成プランジャ機構において、上記出力部材を、大径のピストンと、該大径ピストンを移動自在に収容するシリンダとで形成すると共に、該シリンダ内に上記複数のプランジャ素子を上記大径ピストンに向けて延びるように設け、かつ、上記複数のプランジャ素子の背面の大径ピストンに上記プランジャ素子を駆動するプランジャ油室を形成して構成し、これらプランジャ油室又は上記シリンダ内に供給する圧油を切り換えて出力部材の推力を自在に選択することを特徴とするマルチ推力合成プランジャ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−164086(P2010−164086A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4831(P2009−4831)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】