説明

ミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤及びその使用

ミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤、前記阻害剤を含む医薬組成物及びキット、並びにその使用方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互引用
本出願は米国仮特許出願60/564,313号(2004年4月21日出願)の権利を請求する。
連邦政府の研究支援に関する記述
本発明は、アメリカ予防衛生研究所の補助金により合衆国政府の支援を受けて達成された。
【0002】
序文
本発明は、ミオシン軽鎖(“MLCK”)の阻害剤に関する。ミオシン軽鎖キナーゼは、Ca2+/カルモジュリン及びATPの存在下でミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化を触媒し、アクトミオシンの収縮を調節する。アクトミオシンは広範囲の細胞活性に必要で、そのうちのいくつかは病的状態に中心的に関与する。MLCK阻害剤はそのような病的状態の治療及び緩和に有用でありうる。
【0003】
発明の要旨
本発明のある特徴では、一般式A-B-Cを有するミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤が提供される。前記式中、BはA及びCに共有結合し、ここでA及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み;BはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、式中Xaa1、Xaa2及びXaa3は下記に記載されるようなアミノ酸である。前記阻害剤は、D-アミノ酸である少なくとも1つのアミノ酸を含むか、又は少なくとも1つの非加水分解性(non-hydrolyzable)結合を含む。
ある具体的な実施態様では、本発明は、ノナペプチドを構成するミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤を提供する。この場合、その配列の最初の3つのアミノ酸及び最後の3つのアミノ酸は塩基性アミノ酸を含み、さらに前記阻害剤は少なくとも1つのD-アミノ酸又は少なくとも1つの非加水分解性結合を含む。
また別の特徴では、本発明はMLCKの阻害剤を含む医薬組成物を提供する。MLCのリン酸化を阻害するか、上皮細胞単層の透過性を改変するか、細胞の遊走を阻害するか、腫瘍の増殖を阻害するか、細胞の遊走を阻害するか、腫瘍の増殖を阻害するか、細胞の巾着型創傷(purse-string wound)の閉鎖を阻害するか、又は血管形成を阻害する方法もまた提供される。さらに別の特徴では、本発明は、MLCK活性に関連する多様な疾患を治療する方法を提供する。
【0004】
好ましい実施態様の詳細な説明
ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)はアクトミオシン収縮を調節する。アクトミオシンは、上皮の密着結合(tight junctions)(TJ)、細胞遊走、巾着型創傷の閉鎖、及び筋肉収縮を含む、多様な細胞活性に必要である。
本発明の化合物及び組成物をMLCK活性に関連する多様な疾患の治療のために用いることが意図される。本発明の阻害剤を用いて、細胞内のMLCK仲介アクトミオシン収縮によって惹起されるか、又は前記によって悪化する任意の疾患を治療することができる。本発明の阻害剤は多様な治療的用途で用いることができる。本発明の阻害剤が治療的価値を有しうる症状又は疾患の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):腸疾患、例えば感染性、虚血性、及び特発性炎症性疾患の他に対宿主性移植片病;感染性因子(腸病原性大腸菌(EPEC)、腸出血性大腸菌(EHEC)、コレラ菌(Vibrio Cholerae)、エルジニア(Yersinia)、クロストリジウム・ジフィシル(Clostridium difficile)、及びフレクスナー赤痢菌(Shigella flexineri)を含む)によって惹起される疾患;内皮細胞漏出の疾患、例えば敗血症、アナフィラキシー及び急性肺損傷;平滑筋収縮に関連する疾患、例えば喘息及び高血圧症;細胞遊走に関連する疾患、例えば炎症及び腫瘍の転移;血管形成に関連する疾患、例えば癌、腫瘍関連疾患、心臓疾患、糖尿病性網膜症;及び血小板凝集関連疾患、例えば血栓症。
腸疾患は一般的には腸の透過性の亢進と連携している。ミオシンII調節性軽鎖(MLC)のリン酸化は腸上皮TJ透過性の亢進を伴う。感染性因子(腸病原性細菌を含む)もまた細胞周囲の透過性を変化させうる。
【0005】
クローン病及び潰瘍性大腸炎は、まとめて炎症性腸疾患として知られている慢性腸疾患であり、腸の透過性亢進と連携している。腸の透過性は、活性型及び不活性型クローン病の患者並びに前記の第一親等のかなりの部分で亢進する(May et al. Gastroenterology (1993) 104:1627-1632;Teahon et al. Gut (1992) 33:320-323)。炎症性腸疾患は家族性連関を有し、いくつかの炎症性腸疾患関連遺伝子が同定された。腸の透過性亢進は疾患経過についての予後マーカーである。なぜならば、不活性型クローン病の再活性化では腸の透過性亢進が先行するからである(Arnott et al. Scand J Gastroenterol (2000) 35:1163-1169)。これらのデータは、腸透過性の亢進はクローン病の病理発生における初期事象であることを示唆している。
対宿主性移植片病もまた腸の透過性亢進と連携している。対宿主性移植片病は、宿主抗原提示細胞によって発現される同種抗原によって活性化される成熟ドナーT細胞によって引き起こされる。腸の透過性亢進及び下痢は、サイトカイン(例えばTNF-α)の増加が原因でありうる。
MLCK阻害剤は、細胞遊走を低下させることによって、又は腫瘍細胞を直接死滅又は傷付けることによって腫瘍の転移阻害に有効でありうる。本発明にしたがえば、有効量のMLCK阻害剤を、癌若しくは腫瘍をもつ患者又は腫瘍に投与するとき、異常な新形成細胞の分裂活性を阻害、低下又は安定化させることができる。
【0006】
脊椎動物は、少なくとも2つのMLCK遺伝子(骨格筋MLCK及び平滑筋MLCK)を有する。平滑筋MLCKは普遍的に成人組織で見出され、一方、骨格筋は組織特異的である。脊椎動物は、短形及び長形のMLCKを、関連するC-末端Igモジュール(非キナーゼタンパク質テロキン)と同様に発現する。短形MLCKは、触媒コア、調節性配列(自己阻害性及びCa2+/カルモジュリン結合ドメインを含む)及びN-末端のアクチン結合配列を含む。長形MLCKは、前記短形のドメイン及びさらに追加されたアクチン結合モチーフを有するN-末端伸長部を含む。長形MLCKは平滑筋細胞では通常は発現されず、210-KDaの非筋肉性又は内皮性MLCKとしてもまた知られている。MLCKは、触媒ドメインと自己阻害性ドメインとの間の分子内相互作用によって調節される。前記阻害性ドメインは、MLCK阻害能力をもつと報告されている他のペプチドとともに、プロテアーゼ(特に胃及び腸のプロテアーゼ)によって認識及び切断される傾向がある。
ある実施態様では、本発明は、MLCKの活性を阻害し、プロテアーゼによる分解に耐性を有し、in vivoで安定性を示すMLCK阻害剤を提供する。より好ましくは、本発明の阻害剤は他のキナーゼよりもMLCKの阻害に対して特異性を示し、及び/又はプロテアーゼによる分解に耐性を有するように設計される。内皮、上皮、他の非筋肉細胞又は平滑筋細胞内で発現されるMLCKを阻害する阻害剤が提供される。
本発明のMLCK阻害剤は、MLCのリン酸化を阻害するか、又はアクトミオシン収縮を妨げるか若しくは低下させる阻害剤である。下記の実施例で述べるように、阻害剤は、基質MLC及びγ-ATPを含むin vitroアッセイを用いて分析することができる。MLCKを含む細胞又は上皮細胞層に投与された前記阻害剤の作用は、画像化により又は上皮貫通抵抗(transepithelial resistance;TER)の低下とのその相関性によって生化学的に測定することができる。さらにまた、仮定的MLCK阻害剤の存在下又は非存在下での上皮単層細胞を通過する標識代謝物(例えば3H-マンニトール)の流入を測定し、阻害剤の有効性のアッセイとして用いることができる(Zolotarevsky et al. Gastroenterology 124:163-172, 2002)。
【0007】
本明細書で用いられる、MLCKによるミオシン軽鎖のリン酸化を妨げる阻害剤は、ペプチドでも又はペプチド模倣体でもよい。本発明のペプチド阻害剤は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はL-アミノ酸とD-アミノ酸の組合せを含むことができる。
本発明の好ましい阻害剤は、一般式、A-B-Cを有し、式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み、さらにBは少なくとも3つのアミノ酸Xaa1、Xaa2、及びXaa3を含む。適切には、A及びCは各々少なくとも3つの塩基性アミノ酸を含む。好ましい阻害剤A-B-Cは、さらに少なくとも1つのD-アミノ酸又は1つの非加水分解性結合を含む。
好ましい実施態様では、BのXaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;Xaa2はXaa1と共有結合し、さらにLys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらにXaa3はXaa2と共有結合し、さらにAla、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。
ある実施態様では、BのXaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln及びPheから成る群から選択され;Xaa2はLys、Val、Thr、Trp及びHisから成る群から選択され;さらにXaa3はTyr、Met、Pro、Ser及びPheから成る群から選択される。
特に好ましい実施態様では、Bは、Tyr-Lys-Ala、Tyr-Lys-Asp、Tyr-Lys-Glu、Tyr-Lys-Phe、Tyr-Lys-Gly、Tyr-Lys-Lys、Tyr-Lys-Leu、Tyr-Lys-Met、Tyr-Lys-Asn、Tyr-Lys-Pro、Tyr-Lys-Gln、Tyr-Lys-Arg、Tyr-Lys-Ser、Tyr-Lys-Thr、Tyr-Lys-Val及びTyr-Lys-Tyrから成る群から選択される配列を含む。
好ましい実施態様では、A及びCは各々アルギニン、リジン又はその組合せを含む。好ましい阻害剤では、BとAの間、及びBとCの間、又Xaa2とXaa1との間、及びXaa2とXaa3との間の共有結合はペプチド結合である。
【0008】
本明細書で用いられる非加水分解性結合とは、酵素(例えばプロテアーゼ)による加水分解に耐性を示す結合である。非加水分解性結合は激烈な条件(例えば強塩基又は酸の中で加熱)に付されるならば加水分解されうることは、当業者には理解されるところである。しかしながら、そのような加水分解は本明細書で用いられる非加水分解性という用語の範疇ではない。
本阻害剤の分解を防ぐことを所望することができる。前記阻害剤の分解は、非加水分解性ペプチド結合を含むことによって防ぐことができる。そのような結合、及びそのような結合を含むペプチドの合成方法は当業界では公知である。非加水分解性結合の例には、チオキソペプチド結合、還元アミドペプチド結合、ケトメチレンペプチド結合、(シアノメチレン)アミノペプチド結合、ヒドロキシエチレンペプチド結合及びチオメチレンペプチド結合が含まれるが、ただしこれらに限定されない(例えば米国特許6,172,043号を参照されたい(前記文献は参照により本明細書に含まれる))。ある種の非加水分解性ペプチド結合は表1に示される。













【0009】
【表1】

【0010】
本明細書に示したいずれの数値にもより低い値からより高い値まで全ての値が含まれることもまた理解されよう。例えば、ペプチドが7から300アミノ酸を有すると記載されている場合、本明細書では例えば7から25、8から30、9から90または50から300のような数値を特に列挙しようとするものである。これらは具体的に意図されるものの単なる例であり、列挙される最低値から最高値の数値の全ての可能な組合せが本明細書で明示されていると考えられるべきである。
本発明のペプチド阻害剤は1つまたは2つ以上のD-アミノ酸を含むことができる。下記の実施例で示すように、100%のD-アミノ酸を含むMLCK阻害剤は、L-アミノ酸を含む対応する長さ(comparable length)を有するペプチドと比較して、ラットの腸液の存在下でより長い半減期を有する。100%未満のD-アミノ酸を含むペプチドもまたタンパク分解に耐性を示すであろうということは想像に難くない。
阻害剤に含まれるD-アミノ酸の割合を調節することによって、全てがD-アミノ酸である阻害剤の半減期と全てがL-アミノ酸である阻害剤の半減期の中間の半減期を有するMLCK阻害剤を当業者は同定することができよう。中間の半減期が所望される適用で有用な阻害剤は10%から100%のD-アミノ酸を有することができる。好ましくは、MLCK阻害剤は、タンパク分解に耐性を示すために十分な数のD-アミノ酸を有し、その特性は、例えば実施例に記載される任意の適切な方法を用いて測定することができよう。
【0011】
MLCK阻害化合物は、平滑筋MLCKの分子内阻害ドメインを基準にすることができる。好ましい阻害ドメインはヒトMLCK由来配列(配列番号:1)を有する。オービス・アリエス(Ovis aries)(配列番号:2)、テトラオドン・ニグロビリディス(Tetraodon nigroviridis)(配列番号:3)、カラシウス・アウラツス(Carassius auratus)(配列番号:4)及びカニス・ファミリアリス(Canis familiaris)(配列番号:5)のMLCK阻害ドメインとの比較を基にして、コンセンサス配列を誘導することができる(Xaa-Lys-Lys-Leu-Ser-Lys-Xaa-Arg-Met-Lys-Lys-Tyr-Xaa-Xaa-Arg-Arg-Lys-Trp-Gln-Lys-Xaa-Xaa;配列番号:6:式中、各Xaaは任意の天然アミノ酸または改変アミノ酸を表す)。
好ましい実施態様では、本明細書で用いられるMLCK阻害ドメイン配列はヒトMLCKに由来するが、前記配列は、別の哺乳動物起源又は上記記載のコンセンサス配列(配列番号:6)から誘導してもよい。特に好ましい実施態様では、前記ペプチド阻害剤は、阻害性ドメインの連続配列の逆転物を含む。
本発明のペプチド阻害剤は、前記阻害性ドメインの配列中に1つまたは2つ以上の変化を含むことができる。そのような変型物を合成し、MLCKキナーゼ活性についてテストすることができる(Lukas et al. J. Med. Chem. 42:910-919, 1999)。したがって、本発明の阻害剤は、MLCK阻害性ドメイン又はその逆転物の7から22の任意の数の連続するアミノ酸を含むペプチドを含む。特に好ましいペプチドは配列番号:12又は配列番号:13を含み、この場合アミノ酸の1つ又は2つ以上はD-アミノ酸であるか、又は前記配列は1つ又は2つ以上の非加水分解性結合を含む。
【0012】
適切には、ノナペプチドMLCK阻害剤では1から9個のアミノ酸がD-アミノ酸である。特に好ましい実施態様では、全てがD-アミノ酸であるMLCK阻害剤は、全てがL-アミノ酸であるMLCK阻害剤の逆転物(N-末端からC-末端)である。逆転配列とは、C-末端アミノ酸が逆転配列のN-末端アミノ酸となり、残りのアミノ酸が逆の順番で続くことを意味する。例示すれば、配列FLMの逆転物はMLFである。
配列番号:12又は配列番号:13の中央のアミノ酸残基(5位のリジン)を任意のアミノ酸残基で置き換えて、なおMLCK阻害のために機能しうることが意図される。
さらにまた、配列番号:12又は配列番号:13の中央の3アミノ酸パリンドローム(4、5及び6位のチロシン-リジン-チロシン残基)を任意のアミノ酸残基で置き換えて、なおMLCK阻害のために機能しうることが意図される。
さらにまた、9つ又は10以上のアミノ酸の配列(例えば配列番号:14)を含むペプチド(前記ペプチドでは、配列の中央領域(配列番号:14の4、5及び6位のアミノ酸)は、2つ若しくは3つ以上、又は3つ若しくは4つ以上の塩基性アミノ酸を含む配列によってフランキングされている)もまた本発明の範囲内に包含されることが意図される。好ましい実施態様では、中央領域は3つのアミノ酸から成り、フランキング領域は各々3つの塩基性アミノ酸を含む。この実施態様では、中央領域はさらに2つのチロシン残基を含み、各チロシン残基は中央のアミノ酸にフランキングしている。
前記ペプチド阻害剤の中央領域内の種々のアミノ酸を選択して、ある範囲のMLCK阻害性活性をもつ阻害剤を得ることが意図される。前記阻害剤を種々の治療状況での使用に適合させるか、又は具体的な要求にしたがってミオシン軽鎖のリン酸化の調節に用いることができる。
【0013】
本発明で使用されるペプチド阻害剤は、長さが7から300又はそれより多いアミノ酸残基をもつペプチドでありうる。有用なフラグメントは、長さが7アミノ酸から300アミノ酸の任意の長さであろう。
本明細書で用いられるアミノ酸は、アミノ基及びカルボン酸基を含む分子を指すことが意図される。アミノ酸は天然アミノ酸でも非天然アミノ酸でもよい。天然アミノ酸は、天然に存在するタンパク質で一般的に見出されるものである。非天然アミノ酸には、天然に存在するタンパク質で通常見いだされないアミノ酸、例えば改変アミノ酸が含まれる。
改変アミノ酸には、例えば2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータ-アラニン、ベータ-アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2'-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロ-ヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、サルコシン、N-メチルイソロイシン、6-N-メチルリジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン又はオルニチンが含まれる。
【0014】
上記で定義した一般的構造A-B-Cに加えて、前記阻害剤に細胞膜を受動的に通過させるために機能する配列を前記ペプチド阻害剤は含むことができる。ペプチド阻害剤はさらに、細胞内への前記阻害剤の侵入を促進するターゲティング配列を含むことができる。例示すれば、そのようなターゲティング配列には、HIV TATタンパク質のトランスダクションドメイン(配列番号:7)、カポジ線維芽細胞増殖因子由来のシグナルペプチド(配列番号:8)、ヒトインテグリンβ3のシグナル配列(配列番号:9)HSV-VP22タンパク質トランスダクションドメイン(配列番号:10)、アンテナペディアショウジョウバエホメオティック転写因子(配列番号:11)、フロックハウスウイルスコートタンパク質、又はDNA結合タンパク質(例えばc-Fos、c-Jun及びGCN4)の塩基性ロイシンジッパー由来ペプチドが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
MLCK阻害剤はまた、特定の細胞タイプ、組織又は器官に高い親和性を有し、それによってそのような細胞タイプ、組織又は器官への誘導デリバリーを促進するリガンド又は担体に連結することができる。ターゲティング担体は適切には、所望の標的(例えば標的細胞、標的器官、問題の組織の標的成分、腫瘍など)へのMLCK阻害剤のデリバリーを強化する担体である。ターゲティング担体は適切には標的特異性を示す化学的官能性を含む。前記は例えば、ホルモン(例えば生物学的応答の改変物質)、及び抗体(例えばモノクローナル又はポリクローナル抗体)、又は必要な標的特異性(例えば特異的な細胞表面抗原に対する特異性)を有する抗体フラグメントである。多数の担体、例えばモノクローナル抗体及びコロイドデリバリー系、例えばリポソーム、及び生物適合性ポリマーで形成された微小球又はマイクロカプセルが当業界で知られている。例えば以下を参照されたい:Davis et al. "Site-Specific Drug Delivery" (Tomlinson et al. eds.), John Wiley, New York, 1986, p.93;Roth et al. 米国特許第5,879,713号。ヘパトプテス(Hepatoptes)(N.L. Charodhury et al. J. Biol. Chem. 268:11265, 1993)及び免疫リポソームの使用もまた報告された。可溶性分子(オリゴヌクレオチド、レクチン、ポリ-L-リジン、ヴィロソーム、インスリン、デキストラン、HCG、ジペプチド、リポタンパク質を含む)、及び細胞系(例えば赤血球及び線維芽細胞)は、標的細胞又は組織へのMLCK阻害剤のデリバリーを促進することができる(例えば以下を参照されたい:Poznansky et al. Pharmacol. Rev. 36:277 (1984);Counsell et al. J. Med. Chem. 25:1115 (1982);Takle et al. 米国特許第5,891,689号;Chari et al. 米国特許第5,846,545号)。
【0015】
腫瘍探索担体には以下が含まれる:ある種の抗体(例えば血管透過性因子に対する抗体及びモノクローナル抗体)、酸化グリコシル化タンパク質、ポリリジン、ヒト血清アルブミン、デキストラン、ペプチド及びタンパク質(前記は、特定のレセプター(例えばガストリン遊離ペプチドレセプター、上皮増殖因子レセプター、血小板由来増殖因子レセプター、腫瘍壊死因子、線維芽細胞増殖因子レセプター、インスリン様増殖因子レセプター、トランスフェリチンレセプター、ラミニンレセプター、サイトカインレセプター、フィブロネクチンレセプター、インターロイキンレセプター、インターフェロンレセプター、ボンベセン/ガストリン遊離ペプチドレセプター、ソマトスタチンレセプターなど)に対する親和性を有する)、多価陰イオン化合物及びポリマー(例えばスマリン並びにスマリンの類似体及び誘導体)、ポリスルフェート化合物(polysulphated compounds)及びポリマー(例えばヘパリン、硫酸ヘパリン、クロンドロイチン(chrondroitin)硫酸、硫酸ケラタン、硫酸デルマタン、硫酸化キチン、硫酸化キトサン、硫酸化アルギン酸、ペントサンポリスルフェート、硫酸化シクロデキストリン)、及び合成有機ポリマー(ポリスチレンスルホネート、硫酸化ポリビニルアルコール、ポリビニルスルフェート及びポリエチレンスルホネート)、及びペプチドホルモンの類似体(例えばLH-RH、ドンベシン及びソマトスタチン)。
内皮ターゲティング担体にはCD31抗体が含まれうる。骨ターゲティング担体には、ビスホスホネートのような分子、エストロゲン及び他のステロイド(例えばデヒドロエピアンドロステロン(DHEA))、テトラサイクリン及びポリマルトネートが含まれうる。皮膚探索担体にはある種の金属イオン-アミノ酸キレートが含まれ、前立腺探索分子にはある種のステロイド(例えばDHEA)が含まれる。肝探索担体にはトリグリセリド、特に中間サイズの鎖をもつトリグリセリドが含まれる。
【0016】
本発明で有用な阻害剤は直鎖状でも環状でもよく、又は、天然若しくは合成的手段によって環状化されてもよいが、ただし阻害剤がMLCK阻害性活性を保持することを条件とする。例えば、システイン残基間のジスルフィド結合はペプチド配列を環化しうる。二官能性試薬を用いて、ペプチドの2つ又は3つ以上のアミノ酸間で結合を提供することができる。ペプチドの環化のための他の方法、例えばAnwerらが記載した方法(Int. J. Pep. Protein Res. 36:392-399, 1990)及びRivera-Baezaらが記載した方法(Neuropeptides 30:327-333, 1996)もまた当業界では公知である。
阻害剤は、実施例に記載されているように、通常の自動化ペプチド合成方法によって得るか、又はカスタムペプチドのプロバイダーに市場ルートで注文することができる。タンパク質の設計及び製造の一般的原理は当業者には周知である。
阻害剤は、通常技術にしたがって溶液中又は固相上で合成することができる。阻害剤は、当業界で周知の多様な合成的又は酵素的スキームから製造することができる。短い阻害剤を所望する場合は、そのような阻害剤は、溶液中又は固相上で通常の技術にしたがって自動ペプチド合成を用いて製造することができる。
阻害剤はまた改変してもよく、そのような改変は極めてわずかな介入のみで合成装置で実施することができる。アミドを阻害剤のC-末端に付加することが可能であろう。アセチル基、ビオチン、ステアレート及び他の改変をN-末端に付加しうる。他の改変には、MLCK分子の阻害が不可逆性であるように阻害剤とMLCKとを共有結合させることができる成分の前記阻害剤への付加が含まれうる。適切には、前記阻害剤は、1つ又は2つ以上のDアミノ酸を含むように合成することができる。Dアミノ酸を含むペプチドの製造方法は当業界では周知である(Pritsker et al. PNAS USA 13:7287-7292, 1995)。
【0017】
MLCKのペプチド模倣体阻害剤もまた意図される。ペプチド模倣体は当業界では一般的に知られている。好ましくは、MLCKのペプチド模倣体阻害剤は、ペプチドMLCK阻害剤に類似する二次構造を、さらに別の任意の構造的特性と同様に有する。ペプチド模倣体阻害剤は、ペプチド阻害剤を基準にしながら1つ又は2つ以上のアミノ酸残基を非天然アミノ酸で置き換えることによって製造することができる。好ましくは、非天然アミノ酸は、ペプチド模倣体がその構造を維持することを可能にし、又は好ましい(例えば生物活性を有する)構造を安定化させ、さらに全体的な陽性荷電を有する。ペプチドに由来する非ペプチド模倣体の類似体は、文献(Nachman et al. Regul. Pept. 57:359-370, 1995)に記載されたように製造することができる。
ペプチド模倣体の例は、枠組み(scaffold)模倣体、非ペプチド性模倣体、ペプトイド、アザペプチド、オリゴカルバメート、オリゴピリドン(oligopyrrlidone)、オリゴウレア、ビニル性(vinylogous)スルホンアミドペプチド、β-ペプチド及びγ-ペプチドである。
枠組み模倣体には、例えばクロモン、イソクロマノン、ジケトピペラジン及びピリジン誘導体のような分子が含まれる。
ペプトイドは、例えば多様なアルキル、芳香族、複素環、陽イオン性及び陰イオン性N-置換基(例えばN-置換グリシン)を含むことができる。ペプトイドは構造的にα-アミノ酸ポリマーと類似するが、それらの骨格はキラル中心及び水素結合ドナーを欠いている。自動ペプトイド合成を利用して、多様な順列組合せライブラリーを効率的に作成し、所望の構造又は活性について多数のペプトイド配列のスクリーニングを可能にすることができる。
【0018】
アザペプチドは、アミノ酸のCαの窒素原子による交換によって生成される。
オリゴカルバメート及びオリゴウレアは配列特異的オリゴマーで、多様な側鎖を含むことができる。
オリゴピロリノン(oligopyrrolinone)は、5員環を取り込んだ固い骨格を有する。タンパク原性(proteinogenic)側鎖の限られたアルファベットを有するオリゴピロリノンの配列特異的ペンタマーは液相法を用いて合成することができる。短いオリゴピロリノンは限定された構造を受け入れ、オリゴピロリノンイミノ基は、隣接する5員環のカルボニル基と分子内水素結合を形成し、β-鎖に類似する構造を生じるか、又は別のオリゴマーのカルボニルと分子間水素結合を形成してβ-シートを模倣することができる。
N-メチル化3,5-結合ピロリン-4-オンは液相及び固相でヘリックスを受け入れる。キラリティをもつビニル性アミノスルホン酸は、強い陰性荷電を保持する拡張した非天然骨格構造をもつペプチド模倣体であり、キラル側鎖をもつ特定の配列を取り込むことができる。
β-ペプチドは、追加されたメチレンユニットの存在によって天然のペプチドと異なる骨格を有する。γ-ペプチドは、天然のペプチドと比較して、2つの骨格メチレンユニットが追加されており、したがってモノマーユニットにつき2つの別々の位置での側鎖置換が許容される。
下記実施例は、細菌の増殖を阻害するか、又は殺菌性であるMLCK阻害剤を記載する。他の細菌も、実施例に記載された細菌と類似の態様でMLCK阻害剤に感受性を有しうることは特に想定される。MLCK阻害剤が類似の作用を有しうる他の感受性細菌をスクリーニングして入手することは当業者の技術の範囲内である。
【0019】
本発明のMLCK阻害剤は、MLCK活性に関連する多様な疾患を治療するために投与される医薬組成物の活性成分として有用である。これらの医薬組成物は、上皮細胞の密着結合の透過性をin vivoで改変させるときに特に有用でありうる。医薬組成物は、一般式A-B-Cを有する阻害剤を含むことを意図する:式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み、さらにBはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、式中、Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;Xaa2はXaa1と共有結合し、さらにLys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらにXaa3はXaa2と共有結合し、さらにAla、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。適切には、BのXaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln又はPheから成る群から選択され;BのXaa2はLys、Val、Thr、Trp又はHisから成る群から選択され;さらにBのXaa3はTyr、Met、Pro、Ser又はPheから成る群から選択される。適切には、A及びCは各々少なくとも3つの塩基性アミノ酸を含む。
本発明の薬理学的に活性な阻害剤は通常の調剤方法にしたがって処理し、例えば、非経口適用、腸内適用(例えば経口適用)、局所適用又は経皮適用に適した医薬的に許容できる有機又は無機担体物質のような賦形剤との混合物として、患者に投与する薬剤を製造することができる。
他の通常的投与ルート、例えば皮下、静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、脊髄内、眼内、眼球後方内、肺内(例えば制限放出)、エーロゾル、舌下、鼻内、肛門、膣、又は経皮デリバリーによるもの、又は特定の部位への直接注射、又は血管経由デリバリー若しくは門脈による局所デリバリーもまた意図される。前記処置は、ただ1回のユニットドース投与又は一定期間にわたっての複数回の投与から成るであろう。アンプルは便利なユニット製剤である。
【0020】
ユニットドースは、適切な担体に分散させた治療組成物を別々に分けた量である。ある種の実施態様では、前記治療化合物の非経口投与は、最初のボーラスとそれに続く持続的輸液により実施され、医薬品の治療循環レベルが維持される。効果的な投薬量および投与計画は、推奨医療処置基準(good medical practice)及び個々の患者の臨床症状から、当業者により容易に最適化されよう。
医薬的に許容される適切な担体には、水、塩溶液(緩衝液)、アルコール、アラビアゴム、鉱物油及び植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミロース又はデンプン)、ステアリン酸マグネシウム、タルク、珪酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、ペンタエリトリトール脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
前記医薬調製物は滅菌し、所望の場合は、補助剤(例えば滑沢剤、保存料、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩類、緩衝液、着色剤、香料、及び/又は芳香活性化合物)を混合することができる。医薬的に許容される固体の担体を用いる場合は、前記類似体の投薬形は、錠剤、カプセル、散剤、座薬又はロゼンジでありうる。流動性担体を用いる場合は、軟質ゼラチンカプセル、経皮絆創膏、エーロゾルスプレー、局所用クリーム、シロップ又は流動懸濁液、乳液又は溶液が投薬形でありうる。
【0021】
非経口適用の場合、特に適切なものは、注射可能な無菌的溶液、好ましくは油性又は水性溶液及び懸濁液、乳液又はインプラント(座薬を含む)である。アンプルは便利なユニット製剤である。非経口投与のためのMLCK阻害剤の投薬は、1日当たり1から300mgであるか、又は50から500μMの用量のMLCK阻害剤と上皮との持続的接触を維持するために十分な量が適切である。
腸内適用の場合、特に適切なものは、錠剤、糖衣錠、リキッド、ドロップ、座薬又はカプセル(例えば軟質ゼラチンカプセル)である。甘味添加ベヒクルを利用する場合は、シロップ、エリキシルなどを用いることができる。
徐放性又は誘導性放出組成物を製剤化することができる。前記は、例えばリポソーム又は、活性化合物が弁別的に分解しうるコーティングで(例えば微小被包化、マルチコーティングなどによって)保護されているものである。MLCK阻害剤を凍結乾燥させ、得られた凍結乾燥物を、例えば注射用生成物の調製に用いることもまた可能である。式(I)の類似体の医薬組成物の経皮的デリバリーもまた可能である。
局所的適用の場合、噴霧不能な形態、粘稠形から半固体又は固体形として用いられるものが存在し、前記は、局所適用に適合し、好ましくは水より大きい動態粘度を有する担体を含む。適切な製剤には、溶液、懸濁液、乳液、クリーム、軟膏、パウダー、塗布剤、軟膏剤、エーロゾルなどが含まれ(ただしこれらに限定されない)、前記は、所望の場合は滅菌され又は補助剤(例えば保存料など)と混合される。
MLCK阻害剤の直接投与の場合(例えば腫瘍へ直接デリバーされる)、投薬用量は、5mgから1500mg/ドース、適切には200−800mg/ドースの範囲である。
投薬形はまたアジュバント、例えば保存アジュバント又は安定化アジュバントを含むことができる。前記はまた、他の治療的価値を有する物質を含むか、又は本明細書若しくは特許請求の範囲で規定した2つ以上の化合物を混合状態で含むことができる。
【0022】
上記に記載したように、MLCK阻害剤は、好ましくはヒト又は動物の患者に、腸の機能不全の治療のために経口投与製剤として投与される。本発明の阻害剤が経口投与製剤から放出されるとき、前記は腸の細胞に吸収されるか、又は腸から血管に吸収される。
経口投与は、MLCKが役割を果たしうるいくつかの疾患、例えば腸の疾患について好ましい。一般的には、適切な量は、1日当たり1から3000mgの範囲、又は単位投薬当たり医薬的に許容できる担体中で50から500μMの用量の阻害剤と上皮との持続的な接触を維持するために十分な量が適切である。
例えば癌及び他の腫瘍関連疾患の治療の場合、テスト群に、体重1kg当たりペプチド基準で0.1mgから500mg/日の薬剤を、癌又は腫瘍部位に非経口的投与することができる。
当業者は、推奨医療処置基準及び個々の患者の臨床症状によって決定されるように、効果的な投薬量および同時投与計画(下記に述べるように)を容易に最適化できよう。投与の態様にかかわらず、具体的な事例における活性化合物の実際の好ましい量は、使用される具体的な化合物の有効性、製剤化された個々の組成物、適用される態様、並びに処置される個々の部位及び器官にしたがって変動することは理解されよう。例えば、個々の患者のための具体的な用量は、年齢、性別、体重、一般的な健康状態、食事、投与のタイミング及び態様、排泄速度、及び併用される医薬、治療が適用される個々の疾患の重篤度に左右される。ある患者の投薬量は、通常的考慮により、例えば対象化合物と既知物質との弁別的活性の比較によって(例えば通常の適切な薬理学的プロトコルによって)決定することができる。通常の技量を有する医師は、症状に対抗し又はその進行を停止させるために必要な薬剤の有効量を容易に決定することができる。毒性を生じないで効果をもたらす範囲内の薬剤濃度を最適な精度で決定するためには、標的部位における薬剤利用性のカイネティクスに基づいた治療計画が要求される。前記は、薬剤の分布、平衡及び排除に関する考慮を必要とする。本発明の組成物中の活性成分の用量は変動可能であるが、しかしながら前記活性成分の量は、有効な投与量が達成されうる量であることが要求される。活性成分は、最適な薬理効果を提供する投与量で治療が必要な患者に投与される。
【0023】
治療薬の全用量はマルチドースで投与しても、シングルドースで投与してもよい。ある種の実施態様では化合物又は組成物は単独で投与され、他の実施態様では化合物又は組成物は、同じ疾患を標的とするか若しくは前記疾患の他の症状を標的とする他の治療薬と併用して投与される。
適切には、肺に直接投与する組成物が調製され、この場合には好ましい投与ルートは口から吸入される。吸入装置は吸入薬の投与で有用な任意の装置である。吸入装置の例にはネブライザー、用量計測吸入器、乾燥粉末吸入器、断続的陽圧呼吸装置、加湿装置、バブルエンバイアロンメント、酸素チャンバー、酸素マスク、及び人工呼吸器が含まれる。ペプチド阻害剤は吸入可能組成物として製剤化することが特に意図される。本発明の組成物にはキットが含まれ、前記キットには吸入可能薬が吸入投与に適した容器中に処方されている。
本発明の治療法で用いられる阻害剤は、毒性の低下、循環時間の延長又は生体分布の改変によりその有効性を改善するために改変することができる。薬剤の利用性を改善する方策は水溶性ポリマーの利用である(Greenwald et al. Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Syst. 17:101-161, 2000;Kopecek et al. J. Controlled Release, 74:147-158, 2001)。
【0024】
当業者には薬剤の効果的な改変のためのPEG化技術は周知であろう(Harris et al. Clin. Pharmacokinet. 40(7):539-51, 2001)。種々のアプローチで、PEG及びアミノ酸のコポリマーが新規なバイオマテリアルとして開発された。前記は、PEGの生物適合特性を保持するが、分子当たり多数の結合点をもつという利点が付加され(より大きな薬剤ローディングが提供される)、さらに多様な応用に適合するように設計合成が可能である(Nathan et al. Macromolecules 25:4476-4484, 1992;Nathan et al. Bioconj. Chem. 4:54-62, 1993)。
MLCK阻害剤は不活性な形態でデリバーすることが可能である。リンカーを用いて、骨格ポリマーから特定の引き金(典型的には標的組織の酵素活性)によって放出されるまでプロドラッグとして前記治療薬を維持することができる(米国特許6,673,574号を参照されたい(前記文献は参照により本明細書に含まれる))。例えば、MLCK阻害剤は、タンパク分解切断部位を介してMLCK阻害剤の活性コアの外側でリンカーと結合させることができる。活性化された薬剤のデリバリーで使用される結合基ライブラリーは当業者には公知であり、酵素動力学、優勢な活性酵素、及び選択した疾患に特異的な酵素の切断特異性を基準にすることができる(例えばVectraMed(Plainsboro, NJ)によって確立された技術を参照されたい)。治療薬デリバリーのために、そのようなリンカーを本明細書に記載したペプチドの改変に用いることができる。
もちろんのこと、本発明の阻害性ペプチドは、与えられた疾患のための他の複数の治療と本発明の阻害性ペプチドによる治療が併用して用いられる治療計画の部分を構成することができることは理解されよう。したがって併用療法は特に意図されるものである。
実施例
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これら実施例は本発明の範囲を制限するものと解してはならない。
【0025】
実施例1
MLCK阻害剤の合成及び性状決定
A.L-及びD-ペプチドの合成
ペプチド阻害剤をMLCK阻害活性について判定した。表2に示したペプチド阻害剤を以下に記載したように合成した。
表2:

大文字で始まるアミノ酸はL-アミノ酸を示す。小文字で始まるアミノ酸はD-アミノ酸を示す。
ペプチドは、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)化学反応を用いる固相ペプチド合成技術によって自動シンフォニークォーテット(Symphony Quartet)ペプチド合成装置(Zinsser analytic, Maindenhead)を用いて合成した。アルギニンのグアニル基は2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニルで保護し、リジン及びチロシン側鎖は、tert-ブトキシカルボニル及びtert-ブチルでそれぞれ保護した。リンクアミドMBHA樹脂100mg(0.78mmol/g)をジクロロメタンで30分膨潤させた。Fmoc-アミノ酸の脱保護は、20%(v/v)ピペリジン/ジメチルホルムアミド(DMF)で20分処理して達成した。最初のカップリング反応は、1/5/4.9/10の当量の樹脂/アミノ酸/HOBt/PyBOP(商標)/N,N,ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を添加し、2時間混合することによって実施した。その後の各カップリング反応は、20%(v/v)ピペリジン/DMFでN-α-Fmoc基を12分間切断し、その後でDMF中に溶解させた0.05MのFmoc-アミノ酸を0.1MのHBTUと0.4Mの4-メチルモルフォリンと30分間混合し、続いてDMF中で樹脂を洗浄することによって実施した。N-末端アセチル化は、50%無水酢酸、25%ピリジン及び25%DMFで処理することによって樹脂から切断する前にいくつかのペプチドで実施した。
粗ペプチドは、95%のトリフルオロ酢酸(TFA)、2.5%トリイソプロピルシラン及び2.5%H2O中で3時間樹脂から切断し、回転蒸発させて溶媒を除去し、冷エーテルで沈殿させ、2%アセトニトリル2%酢酸で溶解させ、続いて凍結乾燥させた。粗材料からの所望のペプチドの精製は、Vydac 218TP C18逆相シリカゲルカラム(10x250nm、ポアサイズ300Å、粒子サイズ5μm)を用い半調製用HPLCによって実施した。粗混合物は2%Bから50%Bの20分勾配(流速=1ml/分)を用いて分離した(ここで溶離液Aは水に0.3%のTFAで、溶離液Bはアセトニトリル中の0.3%TFAであった)。粗ペプチド混合物の分離は280nmでモニターした。採集したペプチド分画をプールし、濃縮して液体クロマトグラフィー分離及び質量分析(LC-MS)によって実証した。ペプチドのHPLC分離は、218TP C18逆相シリカゲルカラム(4.6x250nm、ポアサイズ300Å、粒子サイズ5μ)で、2%Bから50%Bの20分勾配(流速=0.5ml/分)を用いて実施した(ここで溶離液Aは水に0.1%のTFAで、溶離液Bはアセトニトリル中に0.1%のTFAであった)。ペプチドは、280nm及びポジティブエレクトロスプレーイオン化(Thermo Finnigan LCQ(商標)DECA質量計(MS)を用いて実施)によってモニターし、テルモ・フィンニガン・エックスカリバー(Thermo Finnigan Xcalibar(商標))ソフトウェア(Thermo Separation Products, Riveria Beach, FL)を用いてでモニターした。
【0026】
B.ペプチド阻害剤はin vitroキナーゼアッセイでMLCKを阻害する
MLCKを阻害するペプチドの能力は文献(Zolotarevsky et al. Gastroenterology 123:163-172, 2002)にしたがって決定した。簡単に記せば、215kDaのMLCKを発現するコンフルエントなCaco-2単層細胞をMLCKの供給源として用いた。プロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液中で単層細胞を採集し(溶解緩衝液:20mMのMOPS(pH7.4)、0.5%トリトンX-100(非イオン性界面活性剤)、0.5%NP-40、1mMのDTT)、キナーゼ反応緩衝液で0.1mg/mLに希釈した(キナーゼ反応緩衝液:20mMのMOPS(pH7.4)、2mMのMgCl2、0.25mMのCaCl2及び0.2μMのカルモジュリン)。
氷上で、PIK(配列番号:12)をキナーゼ反応緩衝液(20mmol/Lのモルホリンプロパンスルホン酸(pH7.4)、2mmol/L MgCl2、0.25mmol/LのCaCl2及び0.2μmol/Lのカルモジュリン)で種々の濃度(0、1、10、33、100及び330μM)に希釈し、反応をγ32P-ATP(ICN, Costa Mesa, CA)及び5μmol/Lの組換えMLCの添加によって開始させた。続いて、アッセイが直線範囲に存在するように混合物を氷から30℃へ5から30分移した。MLCリン酸化はSDS-PAGEで分離した反応混合物のオートラジオグラフィーによって決定した。
配列番号:12の添加は、Caco-2 MLCキナーゼ活性の用量依存態様での阻害をもたらし、IC50は29μmol/Lであった。
【0027】
C.阻害剤は膜透過性である
膜透過性は、文献(Zolotarevsky et al. Gastroenterology 123:163-172, 2002)に記載されたアッセイを用いて決定した。簡単に記せば、パイオニア自動ペプチド合成装置(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いてペプチドを合成し、アミノ末端にD-ビオチン(Sigma, St. Louis, MO)を含ませた。Caco-2単層細胞を330μMのペプチドとともにHBSS中でインキュベートし、洗浄して細胞外ペプチドを除去し、1%パラホルムアルデヒドで固定した。続いて細胞にリン酸緩衝食塩水(PBS)中の0.1%トリトンX-100で透過性を付与するか、又は前記処理を施さない。1%ウシ血清アルブミン含有PBS中のアレキサ(Alexa)488結合ストレプトアビジン(Molecular Probes, Eugene, OR)とインキュベートすることによって、ビオチニル化ペプチドを検出する。染色した単層細胞をスローフェード(SlowFade)試薬(Molecular Probes)でマウントし、エピフルオレセンス顕微鏡によって精査する。膜透過性は、透過性付与調製物の各細胞の輪郭を示す明るい周囲の輪によって示されるが、透過性を付与されていない調製物には前記は存在しない。
【0028】
D.阻害剤は細胞内でMLCKを阻害する
上皮貫通抵抗(transepithelial resistance, TER)(密着結合(TJ)透過性の高感度マーカー)を用いて細胞内のMLCK活性を測定した。
阻害剤は、細胞内でアクトミオシン収縮を妨げるか、又はアクトミオシン弛緩を誘発することができる。MLCKのアクトミオシン収縮に対する作用は、培養で増殖させた細胞のTERの低下を引き起こした。SGLT1を発現しているCaco-2細胞を維持し、コラーゲンを被覆した0.4μmのフィルムポアサイズのポリカーボネートメンブレントランスウェル(Transwell)支持体(Corning-Costar, Cambridge, MA)上で極性化単層細胞として増殖させた。単層細胞を500μMのPIK、D-PIK、D-PIK(逆転)又はD-PIK(int.)とともに1時間インキュベートし、その後、上皮貫通抵抗(TER)を測定した。電気生理学的測定は、Ag-AgCl塩化第一水銀電極及び電圧クランプを有する寒天ブリッジ(University of Iowa Bioengineering, Iowa City, IA)を用いて実施した。50μAの固定電流をCaco-2単層細胞に通し、オームの法則を用いてTERを算出した。以後の分析の前に全ての値から液体抵抗を差し引いた。
表3は、被検ペプチドは細胞に浸透し、MLCKを阻害することができることを示している。さらにまた、L-アミノ酸をD-アミノ酸で置換しても、MLCKを阻害するペプチドの能力にほとんど影響がなかった。ΔTERは、コントロールのCaco-2単層細胞と比較したときのTERの上昇を示している。コントロール単層と比較したとき、D-PIK及びD-PIK(逆転)は両者とも、1mMまでの濃度ではアセチル化PIKと同様なTERの増加を生じた。これらの結果は、D-アミノ酸を用いて生成した阻害剤類似体は、L-アミノ酸を用いて生成した阻害剤と同じMLCKの生理学的阻害をもたらすことができること、及びD-アミノ酸を含む阻害剤はPIKと同様な態様で膜透過性であることを示している。
表3:

【0029】
E.PIK類似体の特異性
MLCKとともに、PKA及びCaMPKIIは、カルモジュリン仲介経路と相互作用する他の2つのセリン/スレオニンキナーゼである。in vivoで有用な安定なMLCK阻害剤であるのために、それらがMLCKのみを選択的に阻害することは重要である。
cAMP依存タンパク質キナーゼ(PKA)活性は、非放射性タンパク質キナーゼアッセイキットを用い、20ユニットのPKAを0.5、1、2.5及び5mMのMLCK阻害ペプチドに添加し、製造元の指示に従うことによって測定した。タンパク質キナーゼ阻害剤6-22アミドを陽性コントロールとして用いた。
カルシウム/カルモジュリン依存タンパク質キナーゼII(CaMPKII)活性は、以前に記載(13)されたようにFmoc固相ペプチド合成によって調製したペプチド擬似基質(ビオチン-PLSRTLSVSS-NH2)を用いて決定した。ビオチニル化擬似基質(PBSに0.5μg/mL)は、先に100μLのストレプトアビジン(PBSに3μg/mL)を被覆した96ウェルのポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルに、4℃で一晩インキュベートすることによって固定した。続いてウェルを100μLのTBS(0.05%トゥイーン-20含有PBS)で3回洗浄し、未結合の擬似基質ペプチドを除去した。108μLのCaMPKII反応緩衝液中で、CaMPKII(20ユニット)を0、0.5、1、2.5又は5mMのMLCK阻害ペプチドと混合した(CaMPKII反応緩衝液:50mMトリス-HCl、10mMのMgCl2、2mMのジチオスレイトール、0.1mMのNa2EDTA、100μLのATP、1.2μMカルモジュリン及び2mMのCaCl2)。30℃で5分間の予備インキュベーションの後で、12μLのキナーゼ−MLCK阻害剤サンプルを擬似基質被覆ウェルに100μLのCaMPKII反応緩衝液とともに加えた。30℃で20分インキュベーション後、100μLの20%H3PO4を添加し、ウェルをPBSで5回洗浄した。リン酸化擬似基質は、ビオチニル化抗ホスホセリンモノクローナル抗体(クローンPSR-45(PBSで1/50,000に希釈)100μLの)、続いてペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを用い、o-フェニレンジアミン(0.5mg/mL)変換を測定(492nmで読み取り)することによって決定した。
D-PIKもD-PIK(逆転)もD-PIK(int)も、5mMまでの濃度ではPKAまたはCaMPKIIに対して強い阻害作用を示さなかった。したがって、D-PIK及びD-PIK(逆転)は、PKA又はCaMPKII活性に影響を与えることなく特異的にMLCKを阻害することができた。
【0030】
F.腸プロテアーゼに対するペプチド阻害剤の感受性
in vivoで投与されたペプチド、特に腸に投与されたものはプロテアーゼによる切断に感受性を示す。D-PIK、D-PIK(逆転)及びD-PIK(int)を各々ラットの腸液とインキュベートし、さらにまたCaco-2腸上皮細胞抽出物(刷子縁プロテアーゼ及びサイトゾルプロテアーゼの混合物を含む)でインキュベートした。腸管腔分泌物は、単離したラットの腸を20mMのN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(pH7.4)の10mLでフラッシュ洗浄することによって得た。放出された内容物を遠心して固形物を除去し、総タンパク質含有量を測定する前に上清を0.20μmフィルターでろ過した。コンフルエントなCaco-2細胞をPBSで洗浄し、簡単なトリプシン処理で小容積のダルベッコー改変イーグル培養液(DMEM)に剥がし入れ、リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄した。最後の細胞ペレットを小容積の溶解緩衝液に再懸濁させ、氷上で超音波処理した(溶解緩衝液:50mMトリス-HCl、2mMのEDTA、20%グリセロール(pH7.4))。単離腸液及び溶解Caco-2細胞抽出物のタンパク質濃度はバイオラド(Bio-Rad)タンパク質アッセイを用いて決定した。PBS中のMLCKのペプチド阻害剤(1mg/mL)を腸分泌物又はCaco-2細胞抽出物の0.1mgタンパク質と氷上で混合し、それぞれ4℃及び37℃でインキュベートした。選択した時間で、100μLのアリコットを抜き取り、等容積の0.5%TFA(水/アセトニトリル=50/50)と混合し、酵素反応を停止させた。サンプルを遠心し、上清をLC-MS分析によって調べ、PIKの切断パターンを決定した。
液体クロマトグラフィー-質量分析(Tiller et al. Anal. Bioanal. Chem. 377:788-802, 2003)及び陽性イオンエレクトロスプレーイオン化によって、残留ペプチド含量を判定した。ラットの腸液の存在下では、PIKのK残基及びR残基のC-末端側のペプチド結合(トリプシン様エンドペプチダーゼに特徴的な部位である)が先ず初めに切断された。ラット腸液でのインキュベーションの延長はPIKの完全な加水分解をもたらす。Caco-2腸上皮細胞抽出物は中心のパリンドローム配列を切断し、キモトリプシン様エンドペプチダーゼの存在を示唆した。
表2に挙げたペプチド(0.1mg)をラット腸液(0.2mg)とともに37℃で5分から6時間インキュベートした。結果は表3にt1/2で提供されている。
表3:

表3に示されているように、全てがD-アミノ酸である阻害剤ペプチドは、同じ配列を有するが全てがL-アミノ酸であるペプチドよりも顕著に耐性を有していた。驚くべきことには、全てがD-アミノ酸で、さらにL-アミノ酸含有阻害剤ペプチドの逆転配列を含むペプチドは、阻害活性を低下させることなくさらに強い耐性を示した(表3)。
【0031】
実施例2
腸病原性大腸菌感染細胞はMLCK阻害剤処理に際して破壊に耐性を示す
本実施例は、MLCKのD-PIK(逆転)阻害剤の密着結合破壊(腸病原性細菌による感染時に生じる)の防止効果を示す。
T84細胞(極性化ヒト腸上皮細胞)を、6%の新生児ウシ血清(Invitrogen)を含む、ダルベッコ-ボーグト(Dulbecco-Vogt)改変イーグル培養液(Invitrogen, Carlsbad, CA)とハム(Hams)F-12(Invitrogen)の1:1(v/v)混合物中で37℃、5%CO2中で増殖させた。Caco-2細胞は、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)を補充した、高グルコースダルベッコ-ボーグト改変イーグル培養液中で37℃、5%CO2中で増殖させた。
T84及びCaco-2単層細胞の各々を腸病原性大腸菌(EPEC)のE2348/69株にMOI(感染数)100で感染させた。1時間後に培養液を吸引して交換した。
コントロール、EPEC感染、及びEPEC感染+D-PIK(逆転)のT84及びCaco-2細胞単層を3.7%パラホルムアルデヒドでガラスのカバースリップ上で固定し、続いて0.2%トリトンX-100で15分間透過性を付与した。細胞を2.5%のウシ血清アルブミンで1時間インキュベートし、続いてオクルジンに対する一次抗体で1時間、さらにローダミン若しくはフルオレセインイソチオシアネート結合二次抗体で1時間インキュベートした。単層を洗浄し、ガラスの顕微鏡スライドにアンチフェード(Antifade)試薬(Molecular Probes, Eugene, Or)でマウントした。染色した単層を可視化し、スポット-RTデジタル画像化システム(Diagnostic Instruments, Sterling Heights, MI)を搭載したニコンオプチフォト(Nikon Opti-Phot)倒立顕微鏡で撮影した。EPEC感染後1時間上皮貫通電気抵抗を測定した。D-PIK(逆転)は30、100及び300μmol/Lで投与した。
細胞の可視化によって、D-PIK(逆転)は、EPEC感染後の密着結合トランスメンブレンタンパク質オクルジンの再分布を妨げることが示された。D-PIK(逆転)はまた、EPEC感染細胞で上皮貫通電気抵抗の低下を妨げた。D-PIK(逆転)阻害剤ペプチドは、したがって腸病原性細菌に対して治療的に有用でありうる。
【0032】
実施例3
MLCKのペプチド阻害剤は急性T-細胞仲介TNF依存性下痢の回復に有効である
本実施例は、プロテアーゼ耐性MLCK阻害剤は、MLCK活性関連疾患の治療にin vivoで有効であることを示す。本実施例では、前記疾患はT-細胞活性化によって仲介される急性下痢である。本ペプチドの有効性は、正味の液体分泌及び血管から管腔への血清蛋白質の流入を測定することによって決定される。
in vivoでの小腸の透過性は、コントロールマウス及びアッセイの90分前に抗CD3抗体を注射したマウスで決定された。7−10週齢の野生型C57BL/6、210kD MLCK-/-(45)又はΔF508 CFTR(36)雌マウスを、実験の12又は24時間前に絶食させ、200μLのPBSに200μgの抗CD3(クローン2C11)又は賦形剤のみを腹腔内に注射した。続いてマウスを腸透過性アッセイに用いるか、又は組織の採集のために殺した。採集した組織を、免疫蛍光のためにOCTで瞬間凍結し、mRNA分析のためにトリゾール(Invitrogen)中に入れるか、又は下記に記載するように上皮細胞の単離のために用いた。全ての動物実験は、アメリカ予防衛生研究所のガイドラインにしたがい、シカゴ大学の学内動物管理委員会に承認されたプロトコルの下で実施した。腸透過性アッセイでは、腸の透過性及び水の流入は、ラットで以前に用いられたin vivoアッセイを適用することによって測定した。7−9週齢の雌のマウスを各実験の24時間前に絶食させた。抗CD3抗体又は賦形剤処理の1時間後に、ケタミン(腹腔内注射、75mg/kg、Fort Dodge)及びキシラジン(腹腔内注射、25mg/kg、Lloyd Laboratories)を用いて麻酔を導入した。1mg/mLのアレキサ(Alexa)488結合ウシ血清アルブミン(Molecular Probes)の250μLをマウスの静脈内又は眼窩後方に注射し、麻酔を導入した。正中切開により腹部を開き、内径が0.76mmのポリエチレン管を空腸の4−5cmループの基部端及び遠位端にカニューレを挿入した。ペリスタルチックポンプ(BioRad)を用いて、最初に37℃に加温したフラッシュ洗浄溶液(140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.4)を1mL/分で10分間、空腸ループに還流させた。その後、5mLのテスト溶液(50mLのNaCl、5mMのHEPES、2mMフェロシアン化ナトリウム、2.5mLのKCl、20mMグルコース、pH7.4)を1mL/分で3時間、再循環態様で還流させた。前記の還流は抗CD3又は賦形剤処理後90分で開始した。腹腔を湿らせたガーゼで覆い、体温を直腸温度計により測定し、加温ランプを用いて37℃に維持した。Na+を含まない還流液を必要とする実験の場合、N-メチル-Dグルカミン-ClをNaClの代用とした。また別に、必要なときには阻害剤(D-PIK(逆転)及びD-PIK(25−250μM))を前記還流液に添加した。還流の開始時及び終了時にテスト溶液の1mLアリコットを取り出した。還流後に、動物を殺し、還流した空腸部分を切り出し、長さを測定した。続いて切り出した腸ループをOCTで瞬間凍結し上皮細胞の単離に用いた。還流液中のフェロシアン化ナトリウムは以前に記載された比色アッセイを用いて測定した(Sadowski and Meddings, Can. J. Physiol. Pharmacol. 71:835-9, 1993)。フェロシアン化物は密着結合を通過することができないので、その濃度は灌流液を出入りする水の移動を反映する。アレキサ488結合ウシ血清アルブミン濃度は、マイクロプレートリーダー(Synergy HT, Bio-TEK Instruments, Inc.)を用い、励起波長485nm及び発光波長528nmで測定した。予備的なSDS-PAGE定量分析によって、アレキサ488蛍光は管腔還流液中の無傷のウシ血清アルブミンの含有量を正確に表すことが示された。プローブクリアランスは以下のように算出した:Cプローブ=(CiVi−CfVf)/(CavgTL)。流入は(Vi−Vf)/(TL)として算出した。これらの等式で、Ciは測定された最初のプローブの濃度であり、Cfは最後の測定プローブ濃度であり、Viは最初の測定還流液容積であり、VfはVi([フェロシアン化物]i/[フェロシアン化物]f)として算出され、Cavgは(Ci−Cf)/In(Ci/Cf)として算出され、Tは還流時間であり、Lは還流された空腸部分の長さ(cm)である。
抗CD3処理(前記はこれらの動物で急性TNF仲介下痢を惹起する(Musch et al. J. Clin. Invest. 110:1739-47, 2002))は、吸収ではなくむしろ正味の液体分泌に連携していることが見出された。マウスへの抗CD3抗体注射は液体の小腸への流入を引き起こすが、抗CD3抗体を投与されなかったコントロールマウスは小腸から液体を吸収した。抗CD3抗体の投与によって誘発された全身的T細胞の活性化は、マウスで急性下痢を引き起こした。抗CD3抗体の投与に応答してサイトカインが下痢を誘発することは、粘膜のインターフェロン-γ及びTNF-α転写物の増加及び小腸の重量対長さの比の増加を測定することによって確認された。腸の炎症の全体的な証拠(血管拡張、充血及び浮腫を含む)もまた存在する。したがって、抗CD3注射は、急性自己限定性免疫仲介下痢をマウスで誘発する有効な手段であった。
種々の濃度(25、80及び250μM)のMLCKペプチド阻害剤、D-PIK(逆転)の投与は、マウスにおける抗CD3抗体の作用を用量依存態様で低下又は逆行させた。抗CD3抗体のマウスへの注射は、血中から腸管腔へのタンパク質の漏出を惹起し、さらにこれを増加させた。本実施例では、血流に注入した蛍光タグ付きウシ血清アルブミンが小腸管腔で回収された。抗CD3によるT細胞活性化は、抗CD3抗体を投与されなかったコントロールマウスと比較してBSA漏出量を増加させた。種々の濃度(25、80及び250μM)のD-PIK(逆転)の投与は、腸内のBSAレベルに対する抗CD3抗体の影響を用量依存態様で低下又は防止した。D-PIK(逆転)が表示の濃度で管腔還流液に混合されたとき、液体分泌及びタンパク質漏出の用量依存的回復が観察された。これらのデータは、前記ペプチド阻害剤は、腸の透過性欠如及びin vivoの下痢の両者を回復させることができることを示している。
抗CD3処理細胞における正味の液体分泌及び血液から管腔へのBSAの流入を回復させるD-PIK(逆転)の能力の実証は以下の観察で提供される。第一に、全身性T細胞活性化に連携する下痢及びバリアー欠如は、Na+の吸収不良又はCl-の分泌のためではなかった。CD3処理の非存在下でのNHE2及びNHE3依存Na+吸収の阻止は、分泌を引き起こす正味の水の移動を回復させず、細胞周囲のBSA流入も増加させなかった。塩化物輸送体CFTRのマウス変異体(CFTRΔF508)は、CD3処理に際して野生型マウスと同じ正味の液体分泌及び血液から管腔へのBSAの流入を示した。第二に、CD3処理によって惹起されるバリアー機能不全は粘膜の潰瘍又は上皮のアポトーシスのためではなく、むしろ完全な上皮層の存在下で生じた。第三に、密着結合タンパク質オクルジンのin vivo組織における分布が変化し、細胞質プラークの密着結合タンパク質ZO-1は抗CD3処理の後でより薄くより波状のものとして可視化された。第四に、密着結合及び前記結合周囲の細胞骨格の形態変化が抗CD3処理マウスで観察することができ、前記変化は、細胞骨格の凝縮と一致する、密着結合周囲の細胞質密度の増加を示した。第五に、ミオシン軽鎖リン酸化(単離した腸上皮細胞の免疫蛍光及びSDS-PAGE免疫ブロットによって検出される)は、前記結合周囲の空腸絨毛輪の腸細胞で、抗CD3をマウスに注射3時間後に(下降前に)3倍以上増加した。この変化は下痢の発症及び治癒に相関性を示した。第六に、MLCK(210KDa)を欠くマウスは抗CD3注射によって誘発される下痢から防御された。
本実施例ではD-PIK(逆転)が用いられた。しかしながら、D-PIKも同様な態様で機能することが見出され、D-アミノ酸、L-アミノ酸又は非加水分解性結合を有するMLCK阻害剤は、急性のT細胞仲介TNF依存下痢の回復に有用であろう期待される。
【0033】
実施例4
MLCKのペプチド阻害剤は細菌の増殖を阻害し殺菌性である
大腸菌実験室株JM109又はATCC大腸菌株35150(溶血性O157)の液体培養を対数増殖中期まで培養した。D-PIK(逆転)ペプチド又はL-スクランブルペプチドを最終濃度0から200μMの濃度で添加し、分光光度計を用いて600nmでの光学密度を種々の時点で測定した。L-スクランブルペプチドは、D-PIK(逆転)と同じ数のアミノ酸残基を含み、さらに同じアミノ酸含有量を含んでいたが、L-スクランブルペプチドのアミノ酸はLアイソフォームであり、ランダムなスクランブルされた順序で存在していた。JM109の増殖は、150又は200μMのD-PIK(逆転)又はL-スクランブルペプチドによって阻害され、数時間で5.5倍の光学密度の低下を示した。O157溶血性大腸菌は、一晩で用量依存態様の増殖阻害をD-PIK(逆転)で示したが、L-スクランブルペプチドでは示さなかった。コロニー形成単位は、阻害剤投与後21時間プレート上でインキュベートした、D-PIK(逆転)処理培養の段階希釈から決定した。より低い培養濁度はコロニー形成ユニットアッセイによる増殖阻害についての良好なマーカーであることが示された。100及び200μMのD-PIK(逆転)で処理した培養のうち、JM109大腸菌は、未処理及びL-スクランブル処理細胞と比較して2-ログ以上の殺菌を示した。
D-PIK(逆転)処理JM109細胞を2種の核染色(SYTO9及びヨウ化プロピジウム)とともにインキュベートした。透過性を付与した細胞はヨウ化プロピジウムの侵入を許容し、その場合、前記によってSYTO9のシグナルが消される。処理細胞は蛍光顕微鏡によって可視化するか、又は蛍光測光法によって蛍光を定量した。200μMのD-PIK(逆転)での細胞死の定量によって、処理の15分後に10%未満の細胞が生存しているだけであることが示され、D-PIK(逆転)の殺菌性作用態様が明らかになった。D-PIK(逆転)処理細胞の顕微鏡観察によって、生存細胞が死菌コアを取り巻く大きな細菌集塊が明らかになり、これは、より若い世代がそれらの分割の先輩から分離するのを妨げる、(ミオシン同族体の阻害を介する)D-PIK(逆転)仲介細胞の分割の不完全性を示唆している。ビオチニル化D-PIK(逆転)処理JM109の蛍光顕微鏡観察によって、D-PIK(逆転)は細胞分割隔壁と周辺集塊の両方に局在することが示された。
電子顕微鏡のために、JM109大腸菌を50μMのビオチニル化D-PIK(逆転)で処理し、2%のパラホルムアルデヒド/1%グルタルアルデヒド又はペリオデートリジンパラホルムアルデヒド固定剤(Periodate Lysine Paraformaldehyde Fixative)で15分又は2時間固定し、さらにアレキサフルア(Alexa Fluor)(商標)594フルオロナノゴールド(FluoroNanogold)で処理した。蛍光顕微鏡による可視化及び1%グルタルアルデヒドによる1時間の後固定の後で、サンプルが光学顕微鏡で茶色に着色されたことが見えるようになるまで、サンプルを銀沈殿によって現像した。電子顕微鏡観察によって、D-PIK(逆転)が外側膜/ペリプラズム及び皮質細胞質の両方に結合することが示された。細胞質強化によってD-PIK(逆転)とフィラメントの接近が示された。
本実施例ではD-PIK(逆転)が用いられた。しかしながら、D-PIK、PIK及びD-PIK(int)も同様な態様で機能することが見出された。D-アミノ酸又は非加水分解性結合を有するMLCK阻害剤も細菌の増殖阻害又は殺菌において有用であろうと期待される。
【0034】
実施例5
MLCKのペプチド阻害剤は巾着型創傷の閉鎖時にアクチン輪の収縮を調節する
本実施例では、D-アミノ酸又は非加水分解性結合を含む阻害剤がL-アミノ酸を含むペプチドと同じ態様で機能するであろうということが想定される。
A.材料と方法
EGFP-β-アクチン融合タンパク質を発現するCaco-2BBe細胞を維持し、ラットの尾のコラーゲンで被覆した35mmの細胞培養皿で単層細胞を増殖させた。創傷形成時及びそれに続く画像化時に、培養皿をpH7.4のHEPES-緩衝HBSS(重炭酸塩を含まない)中の37℃加温ステージ上に静置した。単層細胞を10μMのY-27632(Calbiochem, San Diego, CA)又は250μMのPIKで創傷形成前に処理した。創傷は0.003ゲージのタングステンワイヤを用いて手で形成された。
生細胞中での創傷閉鎖は、エンドウ(Endow)GFPバンドパス発光キューブ及びローパークールスナップ(Roper Coolsnap)HQカメラ(メタモルフ6で制御)(Universal Imaging Corporation, Downingtown, PA)を搭載したエピフルオレセンス顕微鏡を用いて画像化した。連続的なz-スタック画像(1μm間隔)は創傷形成後2分毎に得た。固定創傷は、クォドバンドパス88000フィルターセット(Chroma Technology)を用いて染色後に画像化した。創傷領域は、手で創傷縁をトレースした後メタモルフ6を用いて決定した。ピクセル強度は、同一条件下で染色し画像化した合致サンプルを用いてメタモルフ6で決定した。これらの分析のために、創傷縁に対して直角の線に沿ってピクセル強度をプロットした。ピークのアクチン強度(成長中の又は完成したアクチン輪に一致する)を用いて多数の線をそろえ、任意の0に指定した。これらの分析は多数の創傷について実施した。
創傷は、PBS中の1%パラホルムアルデヒド中で創傷形成後に表示の時間固定した。創傷部位を定位的に標識し、染色後に特定の創傷を識別する一助とした。0.1%のトリトンX-100で透過性を付与した後、特異的抗体を適用した。活性化ロー(rho)は、GST-ローテキン(rhotekin)ロー結合ドメイン融合タンパク質(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)とともにインキュベートし、続いてポリクローナルヤギ抗GSTとともにインキュベートし、さらにその後アレキサ594ロバ抗ヤギIgGとインキュベートすることによって検出した。コントロール実験は、無関係のGST融合タンパク質によるGSTローテキンの代用は創傷縁を標識しなかったが、非特異的に創傷内の死細胞/損傷細胞を標識した。ROCKは、マウスのモノクローナル抗ROCK-I/ROK-β抗体(Becton-Dickinson)、続いてアレキサ-594ヤギ抗マウスIgGを用いて標識した。MLCKは、マウスのモノクローナル抗MLCKクローンK-36(Sigma, St. Louis, MO)、続いてアレキサ-594ヤギ抗マウスIgGを用いて検出した。リン酸化MLCKは、アフィニティ精製ポリクローナルウサギ抗血清、続いてアレキサ-350ヤギ抗ウサギ抗体(Molecular Probes)を用いて検出した。固定調製物では、F-アクチンはアレキサ-488-ファロイジンを用いて染色した。活性化MLCKはビオチニル化PIK及びアレキサ-594ストレプトアビジンを用いて検出した。阻害剤の標識は蛍光マイクロプレート読取装置を用いて定量的に判定した。
キナーゼアッセイは、Caco-2細胞由来の長形MLCキナーゼ及び組換え腸上皮MLCを用いて、実施例1に記載されたように実施した。PIK又は賦形剤を反応混合物に添加し、γ32P-ATP及び5μMの組換えMLCを添加することによって反応を開始させた。MLCリン酸化は、反応混合物のSDS-PAGEのオートラジオグラフィーによって決定した。
【0035】
B.結果
創傷閉鎖の収縮期がCaco-2腸上皮細胞で開始したとき、リン酸化MLCは収縮アクトミオシン輪とともに局在し、さらにMLCは斑点模様でアクトミオシン輪を装飾した。創傷部位のMLCK活性化は、活性化MLCKに対し特異的なように開発した形態学的PIKプローブを用いて示された。PIKは、活性を有する(しかし不活性ではない)アルデヒド固定MLCKと結合することが見出され、さらにビオチニル化PIKペプチドプローブは、蛍光ストレプトアビジン結合によりPIK結合の位置決定を可能にした。PIKプローブの有効性をテストした。すなわち、PIKプローブはもっぱら密着結合周囲のアクトミオシン輪(MLCKによってリン酸化されたMLCに富む部位)と結合し、さらに、Caco-2細胞での段階的MLCK遺伝子発現の誘発は、MLCK触媒サブユニット発現の程度と密接に相関性を示すPIK標識の増加をもたらした(r2=0.98)。ビオチニル化PIKプローブを用いて、活性化MLCKは、創傷縁の個々のフォーカス内で収縮期が開始したときに検出された。MLCKの補充及び活性化はしたがって、巾着型創傷閉鎖時の収縮と相関性を示す。同様なMLCK依存プロセスは、少数細胞性創傷のin vivo治癒で、ヒトの結腸粘膜の迅速に固定される生検で必要とされることが判明した。創傷閉鎖のMLCリン酸化メカニズムはしたがって、in vivoで活発である。
MLCKのPIK阻害はアクトミオシン輪のアッセンブリーを妨げないが、アッセンブリーの収縮の失速を引き起こした。アクチン輪の断片化が始まり、創傷縁は不規則となってむしろ球状化し、創傷はその本来の面積に戻った。したがって、PIKは巾着型創傷閉鎖時の収縮の調節に用いることができる。個々の細胞の巾着型創傷閉鎖の分析もまた、PIKの潜在的な調節性役割を示した。無傷の単層細胞中の個々の細胞は微小電極からデリバーされる電流パルスで破壊され、局所的な電流リークを生じた。電流リークの強さはバリアーが復元されたときに指数関数的に減少した。MLCKのPIKによる阻害は修復の顕著な遅延をもたらした。病巣形成後2分から8分で、局所電流リークは、コントロールの単層細胞での53%と比較してわずかに36%の低下であった。これは、回復のための時間定数では74%の増加に一致する。したがって、より大きな創傷と同様に、単一細胞創の巾着型閉鎖はMLCK活性を必要とし、前記はPIK添加によって調節することができる。
【0036】
実施例6
MLCKのペプチド阻害剤は腫瘍細胞の増殖を阻害する
1日おきにマウスの腫瘍に食塩水又は食塩水+0.5mgのD-PIK(逆転)を注射した。3回注射した後でマウスを殺し、腫瘍サイズを記録した。食塩水注射群とD-PIK(逆転)注射群との間の腫瘍サイズにおける統計的有意(p<0.05)が注目された。腫瘍切片の顕微鏡調査によって、顕著な壊死がD-PIK(逆転)を注射された腫瘍で生じた。阻害剤、特に安定な形態にある阻害剤を用いて癌を治療しうることが想定される。
本実施例ではD-PIK(逆転)を用いた。しかしながら、D-PIK、PIK及びD-PIK(int)もまた同様な態様で機能することが見出された。D-アミノ酸、L-アミノ酸又は非加水分解性結合を有するMLCK阻害剤も腫瘍細胞の壊死及び腫瘍サイズの低下をもたらすであろうと期待される。
【0037】
実施例7
MLCKのペプチド阻害剤は細胞遊走に影響する
MLCKに特異的なビオチニル化PIKプローブ(実施例5に記載)を用いて、細胞の遊走に際してMLCKを阻害するために阻害剤が機能することができるか否かを決定した。ビオチニル化PIKペプチドは、蛍光ストレプトアビジン共役物を用いることによってPIK結合の位置測定を可能にした。ビオチニル化PIKプローブが適切に機能したことを確認するために、前記が、無傷の上皮単層細胞でMLCKによってリン酸化されたMLCに富む部位(密着結合周囲のアクトミオシン輪)にもっぱら結合することが示された。ビオチニル化PIKはまた、遊走Caco-2細胞のラメリポジウム内で高度に濃縮されることが示された。細胞遊走の調節における阻害剤の役割が示唆される。
細胞遊走は、胚の発育、腫瘍形成及び転移に要求される。本発明の阻害剤は細胞遊走を阻害し、細胞遊走を必要とする疾患(癌、転移及び腫瘍関連疾患を含む)の治療及び胚の発育の制御にも用いることができることが想定される。
【0038】
実施例8
炎症性腸疾患の治療
臨床試験が実施される。前記試験では5から50人の対象者が臨床試験のために選ばれる。前記患者は炎症性腸疾患を罹患している。対象者を2群に分け、一方の群は活性物質として阻害性フラグメントを投与され、他の群はプラセボを投与される。テスト群の対象者は、1日当たり1から3000mgの阻害性ペプチド系薬剤を経口ルートで投与される。対象者はこの治療で3−12ヶ月維持される。両群の人数及び症状の重篤度に関して正確な記録が維持され、試験の終了時にこれらの結果が比較される。結果は各群のメンバー間で比較され、さらにまた各患者の結果が、試験の開始前に各患者によって報告された結果と比較される。結果は、テスト群の患者は、コントロール群及びテストメンバーの試験開始時の総体的症状と比較して腸ジストレスが減少したことを示した。
本発明の医薬組成物及び治療方法は、人間の医療及び獣医医療分野で有用であることは理解されよう。したがって治療されるべき対象者は哺乳動物、例えば人間又は他の哺乳動物である。獣医の目的のためには、対象には例えば農場動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ及びヤギを含む)及びペット動物(例えばイヌ及びネコ)、外来動物及び/又は動物園の動物、実験室動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット及びハムスターを含む)、家禽類(例えばニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びカモ)が含まれる。治療されるべき他の対象には非哺乳動物、例えば鳥類、魚類、両生類、及び爬虫類が含まれる。
本発明はこれまである程度特異的に記載しさらに実施態様を示してきたが、開示してきた事柄において実施しうる変更、付加及び省略を含む種々の改変は当業者には明らかであろう。したがって、これらの改変もまた本発明の範囲内に包含されること、及び、本発明の範囲は、合法的に添付の特許請求の範囲に与えられるもっとも広い解釈によってもっぱら限定されることが意図される。
本明細書に引用された全ての特許、刊行物及び参考文献は参照により完全に本明細書に含まれる。本発明の開示と引用された特許、刊行物及び参考文献との間に矛盾が生じる場合、本発明の開示が支配力を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、A-B-Cを有するミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤:
式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、
(a)A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み;さらに
(b)BはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、
式中、
(i)Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;
(ii)Xaa2はXaa1と共有結合し、さらにLys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらに
(iii)Xaa3はXaa2と共有結合し、さらにAla、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択され;さらに
(c)少なくとも1つのアミノ酸はD-アミノ酸であるか、又は前記阻害剤は少なくとも1つの非加水分解性結合を含む。
【請求項2】
A及びCが各々3つの塩基性アミノ酸を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項3】
前記A及びCの塩基性アミノ酸がアルギニン又はリジンを含む、請求項1の阻害剤。
【請求項4】
前記Bのアミノ酸が、Tyr-Lys-Ala、Tyr-Lys-Asp、Tyr-Lys-Glu、Tyr-Lys-Phe、Tyr-Lys-Gly、Tyr-Lys-Lys、Tyr-Lys-Leu、Tyr-Lys-Met、Tyr-Lys-Asn、Tyr-Lys-Pro、Tyr-Lys-Gln、Tyr-Lys-Arg、Tyr-Lys-Ser、Tyr-Lys-Thr、Tyr-Lys-Val及びTyr-Lys-Tyrから成る群から選択される配列を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項5】
少なくとも3つのアミノ酸がD-アミノ酸である、請求項1の阻害剤。
【請求項6】
A-B-Cが10%から100%のD-アミノ酸を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項7】
A-B-Cが、プロテアーゼ分解に対してD-アミノ酸を欠く対応する配列よりも高い安定性を付与するために十分なD-アミノ酸を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項8】
A-B-Cが7から300アミノ酸のアミノ酸配列を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項9】
A-B-Cが7から120アミノ酸のアミノ酸配列を含む、請求項8の阻害剤。
【請求項10】
前記アミノ酸配列が配列番号:12を含む、請求項9の阻害剤。
【請求項11】
前記アミノ酸配列が配列番号:13を含む、請求項9の阻害剤。
【請求項12】
A-B-Cがミオシン軽鎖キナーゼの分子内阻害ドメインを含む、請求項1の阻害剤。
【請求項13】
A-B-Cが配列番号:6を含み、ここで1、7、13、14、21及び22位のアミノ酸残基が各々独立して天然のアミノ酸及び改変アミノ酸から選択される、請求項1の阻害剤。
【請求項14】
前記アミノ酸配列が配列番号:1を含む、請求項13の阻害剤。
【請求項15】
切断することができる膜輸送ターゲティング配列をさらに含む、請求項1の阻害剤。
【請求項16】
前記阻害剤がさらにターゲティング担体を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項17】
Bが本質的にXaa1-Xaa2-Xaa3から成る、請求項1の阻害剤:
式中、
(i)Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;
(ii)Xaa2はXaa1と共有結合し、さらにLys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらに
(iii)Xaa3はXaa2と共有結合し、さらにAla、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。
【請求項18】
前記少なくとも1つの非加水分解性結合が、チオキソペプチド結合、還元アミドペプチド結合、ケトメチレンペプチド結合、(シアノメチレン)アミノペプチド結合、ヒドロキシエチレンペプチド結合及びチオメチレンペプチド結合から成る群から選択される、請求項1の阻害剤。
【請求項19】
A-B-Cがペプチド模倣体を含む、請求項1の阻害剤。
【請求項20】
配列番号:14を含むミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤であって、1、2、3、7、8及び9位の残基が各々塩基性アミノ酸を構成し、さらに前記阻害剤が少なくとも1つのD-アミノ酸又は少なくとも1つの非加水分解性結合を含む、前記阻害剤。
【請求項21】
前記5位及び7位のアミノ酸がチロシン残基である、請求項20の阻害剤。
【請求項22】
請求項1の阻害剤及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項11の阻害剤及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項24】
一般式、A-B-Cを有するミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤及び医薬的に許容できる担体を含む、上皮の密着結合の透過性をin vivoで改変する医薬組成物:
式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、
(a)A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み;
(b)BはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、
式中、
(i)Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;
(ii)Xaa2はXaa1と共有結合し、ここでXaa2は、Lys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらに
(iii)Xaa3はXaa2と共有結合し、ここでXaa3は、Ala、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。
【請求項25】
ミオシン軽鎖キナーゼを細胞内で阻害する方法であって、前記方法が、前記細胞内のミオシン軽鎖キナーゼ活性を阻害するために有効な量の請求項1の阻害剤と前記細胞とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項26】
前記細胞が、上皮細胞、内皮細胞及び平滑筋細胞から成る群から選択される、請求項25の方法。
【請求項27】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項25の方法。
【請求項28】
前記哺乳動細胞をin vivoで接触させる、請求項27の方法。
【請求項29】
ミオシン軽鎖キナーゼを含む細胞内でミオシン軽鎖キナーゼを阻害する方法であって、前記方法が前記細胞と請求項22の医薬組成物とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項30】
上皮の密着結合の透過性をin vivoで改変する方法であって、前記方法が、透過性の改変に有効な量の請求項1の阻害剤をその必要がある哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項31】
請求項1の阻害剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物でアクトミオシンの収縮を低下又は妨げる方法。
【請求項32】
前記阻害剤がアクトミオシンの弛緩を引き起こす、請求項31の方法。
【請求項33】
前記阻害剤が、腸疾患、血管漏出関連疾患、喘息、血栓症及び高血圧症から成る群から選択される症状を有する哺乳動物に、ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化を低下又は妨げるために有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項34】
前記腸疾患が、対宿主性移植片病、感染性疾患、虚血性疾患及び炎症性疾患から成る群から選択される、請求項33の方法。
【請求項35】
前記投与される阻害剤の量が細胞の遊走を阻害するために有効である、請求項31の方法。
【請求項36】
前記細胞が炎症性細胞である、請求項35の方法。
【請求項37】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項35の方法。
【請求項38】
前記阻害剤が、腫瘍をもつ哺乳動物に投与され、前記阻害剤が腫瘍の増殖阻害に有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項39】
前記投与される阻害剤の量が血管形成を阻害するために有効である、請求項38の方法。
【請求項40】
前記阻害剤が、敗血症、ショック、アナフィラキシー及び急性肺損傷から成る群から選択される症状を有する哺乳動物に、ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化を低下又は妨げるために有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項41】
前記阻害剤が、平滑筋細胞を有する哺乳動物に、平滑筋細胞の弛緩を誘発するために有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項42】
前記阻害剤のある量が、1より多い血小板を有する哺乳動物に投与され、かつ、前記血小板の凝集を阻害するために有効である、請求項31の方法。
【請求項43】
前記阻害剤が、損傷した上皮細胞を有する哺乳動物に、前記上皮細胞のアクトミオシン仲介-巾着型創傷の閉鎖を改変するために有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項44】
前記阻害剤が、上皮の密着結合の改変を必要とする哺乳動物に、前記上皮密着結合の透過性の改変に有効な量で投与される、請求項31の方法。
【請求項45】
前記阻害剤の投与が上皮バリアーの機能不全を逆転させる、請求項44の方法。
【請求項46】
前記上皮バリアーの機能不全が腸病原性感染又は前炎症性サイトカインに関連する、請求項45の方法。
【請求項47】
前記阻害剤が経口的に投与される、請求項31、36、41又は42の方法。
【請求項48】
腫瘍の増殖を阻害する方法であって、前記方法が、一般式、A-B-Cを有するミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤を、前記腫瘍の増殖を阻害するために有効な量で哺乳動物に投与すること含む、前記方法:
式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、
(a)A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み;
(b)BはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、
式中、
(i)Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;
(ii)Xaa2はXaa1と共有結合し、ここでXaa2は、Lys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらに
(iii)Xaa3はXaa2と共有結合し、ここでXaa3は、Ala、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。
【請求項49】
細菌に請求項1の阻害剤を投与することを含む、細菌の増殖を阻害する方法。
【請求項50】
前記細菌が請求項1の阻害剤の投与に際して死滅する、請求項49の方法。
【請求項51】
細菌の増殖を阻害する方法であって、前記方法が、一般式、A-B-Cを有するミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤を、前記細菌の増殖を阻害するために有効な量で細菌に投与すること含む、前記方法:
式中、BはA及びCと共有結合し、さらにここで、
(a)A及びCは各々少なくとも2つの塩基性アミノ酸を含み;
(b)BはXaa1-Xaa2-Xaa3を含み、
式中、
(i)Xaa1は、Tyr、Val、Lys、Gln、Phe、Ser、Pro、Thr、Asn及びArgから成る群から選択され;
(ii)Xaa2はXaa1と共有結合し、ここでXaa2は、Lys、Val、Thr、Trp、His、Met、Asn、Ala、Glu、Phe、Gln及びArgから成る群から選択され;さらに
(iii)Xaa3はXaa2と共有結合し、ここでXaa3は、Ala、Asp、Glu、Phe、Gly、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val及びTyrから成る群から選択される。
【請求項52】
前記細菌がミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤の投与に際して死滅する、請求項51の方法。
【請求項53】
請求項1の阻害剤及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物を含むキット。
【請求項54】
さらに使用のための使用説明書を含む、請求項53のキット。

【公表番号】特表2008−501640(P2008−501640A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509587(P2007−509587)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/013411
【国際公開番号】WO2005/108416
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(501242712)ザ ユニヴァーシティー オヴ シカゴ (19)
【出願人】(506354685)ユニヴァーシティー カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (1)
【出願人】(504024830)マクマスター ユニヴァーシティ (1)
【Fターム(参考)】