説明

ミスト潤滑油組成物及びミスト潤滑システム

【課題】本発明の目的は、潤滑性能が良好で、ストレーミストが少なく、かつ潤滑部分へのオイル供給が良好な、ミスト潤滑組成物及びミスト潤滑システムを提供することにある。
【解決手段】本発明のミスト潤滑油組成物は、潤滑基油に対して、下記の一般式(1)
【化1】


(式中、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18のk価のアルコールから水酸基をp個除いた残基であり、Aは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Bは水酸基若しくはエステル及び/又はエーテルを形成する基を表わし、kは1〜6の数を表し、pは1〜6の数を表し、かつk≧pであり、mとnの和は1〜10の範囲内である。)で表されるリン化合物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等のミスト潤滑油組成物及びミスト潤滑システムに関し、更に詳細には、ストレーミスト(飛散ミスト)が少なく、優れた潤滑性を有するミスト潤滑油組成物及びミスト潤滑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産性の向上を図る目的から、工作機械について加工効率の向上が要求され、従来の機種より高速で回転する工作機械が増加している。そのため、摩擦熱により、特に、高速で回転する軸受部の温度が上昇し、軸受部が焼き付いたり、熱膨張により部品の加工精度が低下する等の問題が生じることがあった。このような工作機械に採用されている潤滑法には、従来、グリース潤滑法、油浴潤滑法、オイルミスト潤滑法など種々のものがある。このうちグリース潤滑法では、高速で回転する軸受等の発熱を冷却する能力に劣り、油浴潤滑法では、油が撹拌されるので、機械の回転数が高速になるにつれて、撹拌熱が発生するため油の温度が上昇し、結果的に冷却効率に劣るという欠点がある。
【0003】
オイルミスト潤滑法は、噴霧給油器により、ミストオイルと呼ばれる少量の潤滑油を霧化することにより形成された油霧を圧縮気流に乗せて、軸受その他の給油部に運び、潤滑は油霧により、冷却は圧縮空気により行う方法であり、とりわけ高速用の主軸軸受等の潤滑に適した給油方式である。このオイルミスト潤滑法は、霧化した油が空気で圧送されるので、高速回転によって発熱量の大きい主軸軸受を、潤滑と同時に冷却することができ、更に、潤滑油の消費量が少なくすむので、近年の工作機械で採用している例が多い。
【0004】
しかしながら、オイルミスト潤滑法では、ストレーミスト(飛散ミスト)の発生は免れず、周囲を汚したり、霧化したストレーミストを吸い込んだ人の健康を害したりする恐れがある。したがって、近年、工場内の環境改善のために、このストレーミストの削減が要望されている。ストレーミストを削減するためには、ミストオイルに高分子ポリマーを添加剤として配合することが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、分子量分布が700〜1,400の範囲内95重量%(質量%)以上であり、かつ、40℃における動粘度が5〜500cStである基油100重量部(質量部)に対し、数平均分子量1,000〜50,000のポリマーを0.4〜25重量部(質量部)の範囲で含むことを特徴とするミストオイル組成物(請求項1);及びポリマーがポリブテン、ポリイソブチレン及びポリメタクリレートから選ばれた1種又は2種以上の混合物である請求項1記載のミストオイル組成物(請求項2)が開示されている。また、特許文献1の[0025]段落には、得られるミストの粒子径が2〜5μmであることも記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、基油に対し、(A)重量(質量)平均分子量120000〜1000000の高分子量ポリマーと、(B)重量(質量)平均分子量1000〜100000の低分子量ポリマーとを配合したことを特徴とするミストオイル組成物(請求項1)が開示されている。また、特許文献1の[0007]段落には、上記高分子量ポリマーとして、ポリメタクリレートやポリアクリレートなどのアクリル酸エステル系重合体、ポリイソブチレンやポリブデンあるいはそれらの水素化物、エチレン−α−オレフィン共重合体などのオレフィン系重合体、さらにスチレン−イソプレン共重合体などが例示されている。また、特許文献2の[0009]段落には、上記低分子量ポリマーとして、ポリメチクリレートやポリアクリレートなどのアクリル酸エステル系重合体、エチレン−α−オレフィン(特にプロピレン)共重合体、ポリイソブチレンやポリブテンあるいはそれらの水素化物、他のポリ−α−オレフィン、スチレン−イソプレン共重合体などが例示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、鉱油を基油とし、下記の3成分を含有するミスト潤滑油組成物:(A)芳香族リン酸エステル、(B)アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛及び鉛の中から選ばれる少なくとも1種の金属の有機酸塩、(C)カルボン酸及び/又はそのエステル(請求項1)が開示されている。また、特許文献3の[0006]段落には、芳香族リン酸エステルとしてトリアリールホスフェート、ジアリールホスフェート及びモノアリールホスフェートが例示されている。
【0008】
また、特許文献4には、油脂および合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種を基油とし、下記の2成分を含有するミスト潤滑油組成物:(A)芳香族リン酸エステル、(B)アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛及び鉛の中から選ばれる少なくとも1種の金属の有機酸塩(請求項1)が開示されている。また、特許文献4の[0006]段落には、芳香族リン酸エステルとしてトリアリールホスフェート、ジアリールホスフェート及びモノアリールホスフェートが例示されている。
【0009】
更に、特許文献5には、特定のα−アミノメチルホスホン酸、タングステン酸類及び相間移動触媒の存在下、有機溶媒中で、オレフィン類と過酸化水素水とを反応させることからなるエポキシ化合物の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6には、特定の二官能性基の1種以上を分子内に3個以上含む数平均分子量が約1,000〜約10,000のポリエステルを炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、氷酢酸から選ばれる溶剤に溶解した後、過酢酸によりエポキシ化することからなるエポキシ化ポリエステルの製造方法が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−41481号公報 特許請求の範囲 [0025]
【特許文献2】特開平9−132791号公報 特許請求の範囲 [0007] [0009]
【特許文献3】特開2001−131568号公報 特許請求の範囲 [0006]
【特許文献4】特開2001−220592号公報 特許請求の範囲 [0006]
【特許文献5】特開平8−27136号公報 特許請求の範囲
【特許文献6】特開平5−247193号公報 特許請求の範囲 [0054]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載されたミストオイル組成物は、ミストの粒径が比較的大きくなるため、潤滑部分へミストオイルが到達しにくくなり、潤滑部分が焼付けを起こす等の問題が生じていた。一般に、ミスト潤滑組成物において、ミスト粒径が小さい場合には、潤滑部分へミスト潤滑組成物は到達し易いが、ストレーミストになり易くなり、逆に、ミスト粒径が大きい場合には、ストレーミストの発生はなくなるが、潤滑部分の非常に狭い透間へミスト潤滑油が到達し難くなる。更に、ミスト粒径が大きくなるような添加剤を使用した場合には、ミストそのものの発生量が少なくなり、経済的な効率に劣るという問題点がある。そこで、ストレーミストの発生を抑え、かつ潤滑部分へミスト潤滑組成物を到達し易くするためには、ミスト潤滑組成物の粒子径を1〜2μmに揃えることが好ましいとされている。
また、特許文献3及び4に記載されているような芳香族リン酸エステルを含有してなるミスト潤滑油組成物においては、芳香族リン酸エステルが潤滑性能を向上させるが、ストレーミストを減少させることはできないという欠点があった。
【0013】
従って、本発明の目的は、潤滑性能が良好で、ストレーミストが少なく、かつ潤滑部分へのオイル供給が良好な、ミスト潤滑組成物及びミスト潤滑システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、潤滑基油に、特定の構造を持つリン化合物を配合することにより、潤滑性能が良好で、ストレーミストが少なく、かつ潤滑部分へのオイル供給が良好な、ミスト潤滑組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明のミスト潤滑油組成物は、潤滑基油に対して、下記の一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18のk価のアルコールから水酸基をp個除いた残基であり、Aは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Bは水酸基若しくはエステル及び/又はエーテルを形成する基を表わし、kは1〜6の数を表し、pは1〜6の数を表し、かつk≧pであり、mとnの和は1〜10の範囲内である。)で表されるリン化合物を含有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のミスト潤滑システムは、上記ミスト潤滑油組成物を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミスト潤滑組成物は、潤滑性能が良好で、ストレーミストが少なく、かつ潤滑部分へのオイル供給が良好なものであり、これを使用することにより、周囲の環境を汚染せず、各種工作機械の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のミスト潤滑油組成物に使用する、特定の構造を持つリン化合物は、下記の一般式(1)で表される:
【化2】

(式中、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18のk価のアルコールから水酸基をp個除いた残基であり、Aは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Bは水酸基若しくはエステル及び/又はエーテルを形成する基を表わし、kは1〜6の数を表し、pは1〜6の数を表し、かつk≧pであり、mとnの和は1〜10の範囲内である。)
【0019】
一般式(1)で表わされるリン化合物において、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、これらの脂肪族炭化水素基としては、アルキル基やアルケニル基が挙げられる。 アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
これらの中でも、Rは、アルキル基が好ましく、炭素数1〜14のアルキル基が更に好ましく、炭素数1〜12のアルキル基が最も好ましい。Rの炭素数が18を超えると、得られるリン化合物の融点が高くなり、潤滑基油に溶解しなくなる場合があり、潤滑性能が不充分になる場合があるために好ましくない。
【0020】
次に、一般式(1)で表わされるリン化合物において、Rは、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、これらの脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基やアルケニレン基が挙げられる。
アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基、ウンデセン基、ドデセン基、トリデセン基、テトラデセン基、ペンタデセン基、ヘキサデセン基、ヘプタデセン基、オクタデセン基等が挙げられる。
また、アルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、アリレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基、ノネニレン基、デセニレン基、ウンデセニレン基、ドデセニレン基、テトラデセニレン基、ペンタデセニレン基、ヘキサデセニレン基、ヘプタデセニレン基、オクタデセニレン基等が挙げられる。
これらの中でも、Rはアルキレン基が好ましく、炭素数1〜14のアルキレン基が更に好ましく、炭素数1〜12のアルキレン基が最も好ましい。Rの炭素数が18を超えると、得られるリン化合物の融点が高くなり、潤滑基油に溶解しなくなる場合があり、潤滑性能が不充分になる場合があるために好ましくない。
【0021】
は、炭素数1〜18のk価のアルコールから水酸基をp個除いた残基を表す。ここで、kは1〜6の数を表わす。1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2級ブタノール、ターシャリブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2級ペンタノール、ネオペンタノール、ターシャリペンタノール、ヘキサノール、2級ヘキサノール、ヘプタノール、2級ヘプタノール、オクタノール、2―エチルヘキサノール、2級オクタノール、ノナノール、2級ノナノール、デカノール、2級デカノール、ウンデカノール、2級ウンデカノール、ドデカノール、2級ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、2級トリデカノール、テトラデカノール、2級テトラデカノール、ヘキサデカノール、2級ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エイコサノール、ドコサノール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール、ミリシルアルコール、ラッセロール、テトラトリアコンタノール、2−ブチルオクタノール、2−ブチルデカノール、2−ヘキシルオクタノール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、2−ヘキシルドデカノール、2−オクチルドデカノール、2−デシルテトラデカノール、2−ドデシルヘキサデカノール、2−ヘキサデシルオクタデカノール、2−テトラデシルオクタデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
また、2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、ソルバイド、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等が挙げられる。
更に、3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、2,3,4−ヘキサントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、トリメチロールプロパン、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、ペンタメチルグリセリン(2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール)、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
また、4価アルコールとしては例えば、ペンタエリスリトール、1,2,3,4−ペンタンテトロール、2,3,4,5−ヘキサンテトロール、1,2,4,5−ペンタンテトロール、1,3,4,5−ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ソルビタン、N,N,N',N'−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が挙げられる。
更に、5価アルコールとしては、例えば、アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグレセリン等が挙げられる。
また、6価アルコールとしては、例えば、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロース等が挙げられる。
これらの中でも、Rは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンから所定の数の水酸基を除いた残基が好ましく、メタノール、エタノール、グリセリンから所定の数の水酸基を除いた残基が更に好ましい。尚、Rの炭素数が18を超えると、潤滑性能が不充分になるために好ましくない。
【0022】
一般式(1)で表わされるリン化合物において、pは1〜6の数を表し、Rの価数であるk以下の数になる。例えば、Rが3価のグリセリンの場合、pが3の時はトリグリセリンエステル、2の時はジグリセリンエステル、1の時はモノグリセリンエステルとなる。pはRの価数であるk以下であればいずれでもよいが、pの値はRの価数であるkと同じであることが好ましい。pがRの価数であるkより小さくなると、潤滑基油への溶解性が悪くなる場合があるため、潤滑性能が不充分になる場合がある。なお、pがkより小さい場合、k−p個のB基は、水酸基であるか、またはエステル及び/又はエーテル基を形成する基を表わす。
【0023】
ここで、B基がエステル基を形成する基の場合は、炭素数1〜18、好ましくは6〜18の飽和脂肪酸とRの水酸基を、脱水縮合して得られるエステル基であり、これらの飽和脂肪酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、イソペンタン酸(イソ吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、イソデカン酸、ウンデカン酸、イソウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、イソドデカン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソステアリン酸等が挙げられる。
【0024】
また、B基がエーテル基を形成する基の場合は、炭素数1〜18、好ましくは6〜18の飽和アルコールとRの水酸基を、脱水縮合して得られるエーテル基であり、これらの飽和アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2級ブタノール、ターシャリブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2級ペンタノール、ネオペンタノール、ターシャリペンタノール、ヘキサノール、2級ヘキサノール、ヘプタノール、2級ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、2級オクタノール、ノナノール、2級ノナノール、デカノール、2級デカノール、ウンデカノール、2級ウンデカノール、ドデカノール、2級ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、2級トリデカノール、テトラデカノール、2級テトラデカノール、ヘキサデカノール、2級ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)で表わされるリン化合物において、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、例えば、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。(AO)及び(AO)の部分は、アルキレンオキシドの付加重合により形成され、付加させるアルキレンオキシドの種類によりAOが決定される。より具体的には、(AO)及び(AO)nの部分は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキシド)等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドを、付加重合する等の方法により得ることができる。付加させるアルキレンオキシドの重合形態は限定されず、1種類のアルキレンオキシドの単独重合、2種類以上のアルキレンオキシドのランダム共重合、ブロック共重合又はランダム/ブロック共重合等であってよい。AOとしては、原料の入手の容易さから、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基が好ましい。また、mとnの和は1〜10の範囲内にある。ここで、mとnの和は、好ましくは1〜8の範囲内にあり、更に好ましくは1〜5の範囲内にあり、最も好ましくは1〜3の範囲内である。mとnの和が10を超える場合には、潤滑基油への溶解性が悪くなり、潤滑性能が不十分になる場合や、ミストを作りにくくなる場合がある。また、m及びnが同時に0になる場合は、ストレーミスト量が増え、金属への腐食が発生する場合があるので好ましくない。尚、m、nはそれぞれゼロまたは正の整数を表す。また、Aの炭素数が2未満の場合には、潤滑基油への溶解性が悪くなり、ミストを作りにくくなるために好ましくなく、また、4を超えると、潤滑性能が不充分になるために好ましくない。
【0026】
なお、一般式(1)で表されるリン化合物は、以下の方法により製造することができる。即ち、エポキシ化脂肪酸エステルにリン酸を反応させ、その後、アルキレンオキシドを付加することにより、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。また、エポキシ化脂肪酸エステルに、アルキレンオキシドを付加したリン酸を反応させることにより、一般式(1)で表される化合物を得ることもできるが、リン酸が持つ3つの活性水素基全てにアルキレンオキシドが付加すると、一般式(1)の化合物は得ることができず、リン酸に1つあるいは2つだけアルキレンオキシドを選択的に付加しなければならない。更に、不飽和脂肪酸のエポキシ化物に、リン酸とアルキレンオキシドを反応させ、その後エステル化する等の方法もあるが、この製造方法も不純物ができやすく、そのため、エポキシ化脂肪酸エステルにリン酸を反応させ、その後アルキレンオキシドを付加する、前述の反応方法で製造することが好ましい。
【0027】
ここで、エポキシ化脂肪酸エステルとは、不飽和脂肪酸エステルのエポキシ化物、もしくは不飽和脂肪酸のエポキシ化物をエステル化したものである。副生成物の量等から、不飽和脂肪酸エステルをエポキシ化する方が好ましい。このような不飽和脂肪酸エステルとしては、天然油脂及び、これらから得られる脂肪酸誘導体を使用することができる。天然油脂としては例えば、亜麻仁油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の動植物性油脂(トリグリセリド)、及びこれらの動植物性油脂を変性して得られる、ジグリセリド、モノグリセリド等のグリセリンエステル類が挙げられる。また、これらの動植物性油脂から得られる脂肪酸と、前述した1価〜6価のアルコール類とのエステル化物が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、グリセリンエステル類、1価のアルコールとのエステル類が好ましく、天然油脂であるトリグリセリド類、メチルエステル類が更に好ましく、大豆油、亜麻仁油、牛脂、及び、メチルエステル類が最も好ましい。
【0029】
これらの脂肪酸エステル類をエポキシ化する方法としては、公知の方法をすべて使用することができる。例えば、過酸化水素で酸化する方法(例えば、特許文献5)や、過酢酸で酸化する方法(例えば、特許文献6)等である。いずれの方法を使用してもよいが、安全性が高いことから、過酸化水素を使用する方法が好ましい。
【0030】
エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応方法は、特に限定されないが、反応の制御が容易であり副反応物も少なくなることから、所定の反応温度にしたリン酸に対して、エポキシ化脂肪酸エステルを徐々に添加して反応させることが好ましい。エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応温度は、特に限定されないが、0〜120℃が好ましく、20〜100℃がより好ましく、30〜80℃が更に好ましく、40〜70℃が最も好ましい。反応温度が、0℃よりも低い場合には、リン酸エステル化反応が不充分となる場合があり、120℃よりも高い場合には、着色する場合や、リン酸エステル化反応物の分解が起こる場合がある。また、エポキシ化脂肪酸エステルの添加終了後、更に1〜10時間同温度で熟成することにより、リン酸エステル化反応を十分に進行させることができる。
【0031】
なお、エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応比は、特に限定されないが、エポキシ基に対してリン酸の比が0.9〜1.5当量であることが好ましく、1.0〜1.3当量であることが更に好ましく、1.0〜1.2当量であることが最も好ましい。0.9当量未満では、未反応のエポキシ基が残り、オリゴマーやポリマーなどの副生物が生成する場合があり、1.5当量を超えると未反応のリン酸が多く残り、金属への腐食性が大きくなる場合がある。
【0032】
エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応は、無溶媒で行なってもよいが、必要に応じて溶媒中で行なってもよい。本発明に使用するリン化合物を構成するリン酸エステルを製造するに際して、使用できる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0033】
また、エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応物にアルキレンオキシドを付加させる反応方法は、特に限定されないが、m及び/又はnが1の場合には、無触媒で反応させることができ、1より大きい場合には、触媒を使用して反応させることができる。使用できる触媒としては、例えば、3フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化スズ、4塩化チタン、塩化第二鉄リンモリブデン酸、リンタングステン酸等の酸触媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラエチルアミン等のアルカリ触媒が挙げられる。反応温度は、酸触媒では、0〜120℃程度、好ましくは40〜90℃程度であり、アルカリ触媒では、60〜150℃程度、好ましくは90〜120℃程度である。反応温度が上記温度より低い場合は、反応速度が遅くなるため、反応が完結しない場合があり、反応温度が上記温度より高い場合は、着色等の原因になる場合がある。
【0034】
次に、本発明のミスト潤滑油組成物に用いられる潤滑基油に特に制約はなく、一般的な潤滑油、例えば炭化水素系合成油、鉱油、天然油脂及びこれらの混合物が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭酸エステル、シリコーン油、フッ素化油等の合成油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油あるいはこれらの水素添加物等が挙げられる。ミスト潤滑油組成物のミスト発生装置への供給のし易さから、潤滑基油の40℃における動粘度は、10〜800mm/秒の範囲内が好ましく、15〜600mm/秒の範囲内がより好ましい。動粘度が800mm/秒を超えるとミストを作りにくくなる場合があり、10mm/秒未満であるとストレーミストが増える場合があるために好ましくない。
【0035】
本発明のミスト潤滑油組成物において、一般式(1)で表わされるリン化合物の含有量は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が更に好ましく、1〜8質量%が最も好ましい。一般式(1)で表わされるリン化合物の含有量が、20質量%を超えても、含有量に見合うだけの各種性能の更なる向上効果は見られず、更に、貯蔵安定性が悪くなる場合があるために好ましくない。また、一般式(1)で表わされるリン化合物の含有量が、0.01質量%未満では、その添加効果は不充分となる場合があり、ストレーミストが多量に発生し、潤滑性能や潤滑部分へのオイル供給性が悪くなる場合があるために好ましくない。
【0036】
更に、本発明のミスト潤滑油組成物には、公知の他の潤滑油添加剤の添加をすることもでき、使用目的に応じて、酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0037】
ここで、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt−ブチルと略記する。)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール等が挙げられ、アミン系酸化防止剤としては、例えば、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等が挙げられる。これらの酸化防止剤の配合量は、潤滑基油に対して0.01〜3質量%、好ましくは0.05〜1質量%である。
【0038】
また、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な極圧剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物などが挙げられる。これら極圧剤の配合量は、潤滑基油に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.05〜1質量%である。
【0039】
更に、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の配合量は、潤滑基油に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.02〜3質量%である。
【0040】
また、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの清浄剤の配合量は、潤滑基油に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜5質量%である。
【0041】
更に、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な分散剤としては、例えば、分子量約700〜3000のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの分散剤の配合量は、潤滑基油に対して0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜5質量%である。
【0042】
また、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。これらの粘度指数向上剤の配合量は、潤滑基油に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜5質量%である。
【0043】
更に、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられる。これらの流動点降下剤の配合量は、潤滑基油に対して0.005〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0044】
また、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の配合量は、潤滑基油に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.02〜3質量%である。
【0045】
更に、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール ベンゾイミダゾール ベンゾチアゾール テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の配合量は、潤滑基油に対して0.01〜3質量%、好ましくは0.02〜1質量%である。
【0046】
また、本発明のミスト潤滑油組成物に配合可能な消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の配合量は、潤滑基油に対して0.001〜0.1質量%、好ましくは0.005〜0.05質量%である。
【0047】
本発明のミスト潤滑システムは、本発明のミスト潤滑油組成物を、噴霧給油器により油霧化し、形成した油霧を圧縮気流に乗せて、軸受その他の給油部に運び、潤滑は油霧により、冷却は圧縮空気により行う方法である。高速用の軸受等の潤滑が要求される、工作機械のミスト潤滑システムとして好ましく用いることができるほか、工作機械以外の用途、例えば、各種機械のギヤ、軸受け、コンプレッサー等のミスト潤滑システム等にも適用可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明のミスト潤滑油組成物を詳細に説明する。尚、以下の実施例中、「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
尚、ミスト潤滑油組成物の性能評価を、次に示す試験方法によって評価した。
<試験方法1:潤滑性試験>
潤滑基油と本発明品のリン化合物及び比較品の化合物を、表1の配合に従い配合した試験油を、高速4球試験機にて焼付き荷重を測定することによって耐荷重能を評価した。測定条件はASTM D−2783に従い、一定荷重、室温、回転数1500rpm、試験時間10秒で行い、荷重を79kgから段階的に上げていき、焼付きを起した荷重を焼付き荷重とした。焼付き荷重が高いほど、潤滑性が良好ということになる。
【0049】
<試験方法2:ミスト量試験>
アレマイト社製のミスト発生装置(MC−43TA)(1)を使用し、図1に示した試験器を作成した。ミスト発生装置(1)から供給されるミストは、配管を経てミストボックス(4)内に設置されたスプレーノズル(2)を介して油温40℃、ミスト圧200mmHO、試験時間5時間の条件で、潤滑する目的の機械部品(3)に供給され、ミストボックス(4)内に凝集した試験油の質量をミスト供給量とし、ストレーミストボックス(5)内の試験油の質量をストレーミスト量とした。尚、ストレーミストボックス(5)にはフィルターが取り付けてあり、空気しか排出されず、ストレーミストボックス(5)内に入ったミストは、全てこの中で凝集される構成さなっている。また、試験器の配管の内径は全て2.54cm(1インチ)とした。
【0050】
<潤滑基油>
鉱油系高度VI油。動粘度4.1mm/秒(100℃)、18.3mm/秒(40℃)、粘度指数(VI)=126。
【0051】
<リン化合物及び比較化合物>
以下に、リン化合物及び比較化合物を挙げるが、構造名の中で、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキシド、BOはブチレンオキシドの略である。
(リン化合物1)
攪拌装置、温度計及び窒素ガス導入管を備えた3リットルオートクレーブに、エポキシ化大豆油(エポキシ当量:258g/eq)258gを仕込み、窒素置換し、50℃に昇温後、常圧でリン酸98g(1モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後系内を70℃に昇温し、2時間熟成を行いエポキシ化大豆油のリン酸反応物を得た。そのまま系内を密閉し、100℃に昇温後、プロピレンオキシド116g(2モル)を3時間かけて反応し、リン化合物1のエポキシ化大豆油リン酸反応物の2PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1〜3であり、kは3であり、Aはプロピレン基であり、m+nは2であり、Bは大豆油由来の飽和脂肪酸エステル基(pが1及び2の場合)である]
【0052】
(リン化合物2)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化亜麻仁油(エポキシ当量:193g/eq)193g、リン酸98g(1モル)、プロピレンオキシド58g(1モル)を、本発明品1と同様に反応させ、リン化合物2のエポキシ化亜麻仁油リン酸反応物の1PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは亜麻仁油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1〜3であり、kは3であり、Aはプロピレン基であり、m+nは1であり、Bは亜麻仁油由来の飽和脂肪酸エステル基(pが1及び2の場合)である]
【0053】
(リン化合物3)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆油(エポキシ当量:258g/eq)258g、リン酸103g(1.05モル)、ブチレンオキシド72g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、リン化合物3のエポキシ化大豆油リン酸反応物の1BO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1〜3であり、kは3であり、Aはブチレン基であり、m+nは1であり、Bは大豆油由来の飽和脂肪酸エステル基(pが1及び2の場合)である]
【0054】
(リン化合物4)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆油(エポキシ当量:258g/eq)258g、リン酸98g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させた後、触媒として水酸化カリウム1.4gを仕込み、プロピレンオキシド348g(6モル)をリン化合物1と同様に反応させ、本発明品4のエポキシ化大豆油リン酸反応物の6PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1〜3であり、kは3であり、Aはプロピレン基であり、m+nは6であり、Bは大豆油由来の飽和脂肪酸エステル基(pが1及び2の場合)である]
【0055】
(リン化合物5)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆油(エポキシ当量:258g/eq)258g、リン酸98g(1モル)を、本発明品1と同様に反応させた後、触媒として水酸化カリウム1.4gを仕込み、プロピレンオキシド522g(9モル)をリン化合物1と同様に反応させ、リン化合物5のエポキシ化大豆油リン酸反応物の9PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1〜3であり、kは3であり、Aはプロピレン基であり、m+nは9であり、Bは大豆油由来の飽和脂肪酸エステル基(pが1及び2の場合)である]
【0056】
(リン化合物6)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆脂肪酸メチルエステル(エポキシ当量:238g/eq)238g、リン酸98g(1モル)、プロピレンオキシド116g(2モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、リン化合物6のエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルリン酸反応物の2PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはメチル基であり、pは1であり、kは1であり、Aはプロピレン基であり、m+nは2である]
【0057】
(リン化合物7)
本発明品1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化オレイン酸メチルエステル(エポキシ当量:316g/eq)316g、リン酸107.8g(1.1モル)、エチレンオキシド44g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、リン化合物7のエポキシ化オレイン酸メチルエステルリン酸反応物の1EO付加物を得た。
[一般式(1)において、Rはオクチル基(炭素数8)であり、Rはヘプテン基(炭素数7)であり、Rはメチル基であり、pは1であり、kは1であり、Aはエチレン基であり、m+nは1である]
【0058】
(リン化合物8)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆脂肪酸モノグリセリンエステル(エポキシ当量:285g/eq)285g、リン酸98g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させた後、触媒として水酸化カリウム1.1gを仕込み、プロピレンオキシド174g(3モル)をリン化合物1と同様に反応させ、リン化合物8のエポキシ化大豆脂肪酸モノグリセリンエステルリン酸反応物の3PO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは大豆油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはグリセリン由来の残基(炭素数3)であり、pは1であり、kは3であり、Aはプロピレン基であり、m+nは3であり、Bは水酸基である]
【0059】
(リン化合物9)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化亜麻仁脂肪酸ペンタソルビトールエステル(エポキシ当量:221g/eq)221g、リン酸98g(1モル)、ブチレンオキシド72g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、リン化合物9のエポキシ化亜麻仁脂肪酸ペンタソルビトールエステルリン酸反応物の1BO付加物を得た。
[一般式(1)において、R及びRは亜麻仁油由来の炭化水素基であり、RとRの合計平均炭素数は15であり、Rはソルビトール由来の残基(炭素数6)であり、pは4であり、kは6であり、Aはブチレン基であり、m+nは1であり、Bは水酸基である]
【0060】
(比較化合物1)
攪拌装置、温度計及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、オレイルアルコール804g(3モル)を仕込み、五酸化二燐142g(1モル)を40〜60℃で1時間かけて仕込んだ。その後80℃に昇温し、3時間熟成した後、水を20g仕込み、80℃で2時間加水分解し、比較化合物1のオレイルリン酸エステルを得た。
(比較化合物2)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、モノオレイルリン酸エステル348g(1モル)にプロピレンオキシド116g(2モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、比較化合物2のオレイルリン酸エステルの2PO付加物を得た。
(比較化合物3)
リン化合物1と同様の反応装置を使用し、グリセリンモノオレイルエステル342g(1モル)に、触媒として水酸化カリウム1gを仕込み、プロピレンオキシド174g(3モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、比較化合物3のグリセリンモノオレイルエステルの3PO付加物を得た。
(比較化合物4)
比較化合物1と同様の反応装置を使用し、エポキシ化大豆油(エポキシ当量:258g/eq)258g、リン酸98g(1モル)を、リン化合物1と同様に反応させ、比較化合物4のエポキシ化大豆油リン酸反応物を得た。
(比較化合物5)
数平均分子量2000のポリイソブチレン
(比較化合物6)
トリクレジルリン酸エステル
(比較化合物7)
ジフェニルモノクレジルリン酸エステル
【0061】
上記潤滑基油並びにリン化合物、比較化合物を用い、表1に記載する配合割合にて本発明品及び比較品のミスト潤滑油組成物を調製し、上記の潤滑性試験、ミスト量試験用の試験油とした。得られた試験結果を表1に併記する。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、本発明のミスト潤滑油組成物は、潤滑性能、ミストの供給性及びストレーミストを減少させる効果に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のミスト潤滑油組成物は、ストレーミスト(飛散ミスト)が少なく、優れた潤滑性を有し、高速で回転する工作機械等用のミスト潤滑システムに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例において、ミスト量試験を行うために用いた試験器の概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ミスト発生装置
2 スプレーノズル
3 潤滑する目的の機械部品
4 ミストボックス
5 ストレーミストボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑基油に対して、下記の一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜18のk価のアルコールから水酸基をp個除いた残基であり、Aは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Bは水酸基若しくはエステル及び/又はエーテルを形成する基を表わし、kは1〜6の数を表し、pは1〜6の数を表し、かつk≧pであり、mとnの和は1〜10の範囲内である。)で表されるリン化合物を含有することを特徴とするミスト潤滑油組成物。
【請求項2】
リン化合物が、エポキシ化脂肪酸エステルとリン酸の反応物に、アルキレンオキシドを反応させたものである、請求項1記載のミスト潤滑油組成物。
【請求項3】
エポキシ化脂肪酸エステルが、天然油脂の酸化によって得られたものである、請求項2記載のミスト潤滑油組成物。
【請求項4】
リン化合物の添加量が、0.01〜20質量%である、請求項1ないし3のいずれか1項記載のミスト潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のミスト潤滑油組成物を使用することを特徴とするミスト潤滑システム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−8772(P2006−8772A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185181(P2004−185181)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】