説明

ミリ波伝送モジュール及び該モジュールの製造方法

【課題】組立性が良く、30GHzを超えるミリ波帯の高周波信号を低損失で伝播することのできるミリ波伝送モジュールを提供すること。
【解決手段】ケース2に、マイクロストリップ基板10を収容する第1凹部3aと、該第1凹部3aの開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも第1凹部3aにおける幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部3bと、を有する段付き凹部3を形成し、第1蓋部材4を第1凹部3aと第2凹部3bとの連続部分である段差部3cに設けて第1凹部内3aを覆閉することで、マイクロストリップ基板10から発生する電磁場を閉じ込める閉じ込め領域を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に30GHzを超えるミリ波帯の高周波信号を低損失で伝播するミリ波伝送モジュール及び該モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高周波伝送モジュールに実装する高周波回路基板として、平面回路上にマイクロストリップ線路を形成したマイクロストリップ基板を用いて場合、数GHzの高周波信号を伝送すると電磁波はTEMモード(Transverse Electromagnetic mode) で伝播するが、30GHzを超えるミリ波帯の高周波信号を伝送すると、TEMモード以外の伝播モードが発生したり、線路からの放射により伝播損失が大きくなるという問題があった。
【0003】
そこで、上記問題を解消するべく、30GHz以上のミリ波信号を伝播する場合には、例えば図3に示すように、誘電体基板の伝送ライン近傍に電磁界が集中するコプレーナ導波路を形成した高周波回路基板をケース内に配置し、蓋部材によってケース内に高周波回路基板をパッケージした高周波伝送モジュールが知られている。
【0004】
また、上記構成とは別の構成例として、下記特許文献1に開示されるように、裏面に裏面接地導体を有した誘電体基板と、誘電体基板上に形成された主導体及び主導体と所定のギャップを有し形成された接地導体とからなるコプレーナ線路と、接地導体と裏面接地導体との間を電気的に接続する接続導体と、コプレーナ線路を覆う誘電体膜と、誘電体膜上に形成された導体および裏面接地導体を構成部分として含み前記コプレーナ線路を包んだ状態に構成されたシールド構成部と、を備えたマイクロ波回路が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−242715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図3に示すように、コプレーナ線路が形成された高周波回路基板をケース内に設置する場合、基板をケース内に浮かせた状態で固定する必要があり、ケースが大型化するとともに構造が複雑なものになり、組み立て性が悪いという問題もあった。
【0007】
また、特許文献1に開示される回路では、高周波回路基板として、所謂グランデットコプレーナ線路を使用しているため、図3に示す構成のようにケース内における基板下部に所定の空間を設ける必要はないが、裏面接地導体と表面側の接地導体とを等電位に調整しなければならず、基板にビアホールを設ける等の処理による調整作業が困難であった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、組立て性が良い、且つ30GHzを超えるミリ波帯の高周波信号を低損失で伝播することのできるミリ波伝送モジュール及び該モジュールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたミリ波伝送モジュールは、マイクロストリップ線路10aを形成したマイクロストリップ基板10をケース2内に収容し、外部からのミリ波信号を前記マイクロストリップ線路を介して伝播するミリ波伝送モジュール1であって、
前記ケースには、
前記マイクロストリップ基板を収容する第1凹部3aと、該第1凹部の開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも前記第1凹部における幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部3bと、を有する段付き凹部3が形成され、
前記第1凹部を覆閉する第1蓋部材4を、前記第1凹部と前記第2凹部との連続部分である段差部3cに設け、前記第1凹部内を前記マイクロストリップ基板から発生する電磁場を閉じ込める閉じ込め領域とすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載されたミリ波伝送モジュールは、請求項1記載のミリ波モジュールにおいて、前記ケース2の外周部分に形成された取付孔6にコネクタ20が取り付けられ、
前記第1凹部3の深さは、少なくとも前記コネクタ20の内部導体20aと前記マイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載されたミリ波伝送モジュールの製造方法は、マイクロストリップ線路10aを形成したマイクロストリップ基板10をケース2内に収容し、外部からのミリ波信号を前記マイクロストリップ線路を介して伝播するミリ波伝送モジュール1の製造方法であって、
前記マイクロストリップ基板を収容する第1凹部3aと、該第1凹部の開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも前記第1凹部における幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部3bと、を有する段付き凹部3を前記ケースに形成するステップと、
前記第1凹部を覆閉する第1蓋部材4を、前記第1凹部と前記第2凹部との連続部分である段差部3cに設けるステップと、
を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載に記載されたミリ波伝送モジュールの製造方法は、請求項3記載のミリ波伝送モジュールの製造方法において、前記第1凹部3の深さを、少なくとも前記ケース2の外周部分の取付孔6に取り付けられたコネクタ20の内部導体20aと前記マイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で形成するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のミリ波伝送モジュールによれば、30GHz以上のミリ波信号を伝播した場合であっても、マイクロストリップ基板上で発生するTEMモード以外の伝播モードの電磁界や放射等を閉じ込められるため、低損失でミリ波信号を伝播することができる。
【0014】
また、第2凹部が第1凹部の上方を開放するように形成されているため、第1凹部にマイクロストリップ基板が収納しやすく、また基板上のマイクロストリップ線路とコネクタの内部導体とのワイヤボンディングや基板上に実装された電子部品の接続作業等の組立て性の向上を図ることができる。
【0015】
さらに、少なくともコネクタの内部導体と基板上のマイクロストリップ線路とのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で第1凹部の深さを設定しているため、第1凹部を必要最低限のスペースで形成することができ、ミリ波伝送モジュールの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明に係るミリ波伝送モジュールの構成を示す上面図である。 (b)同モジュールの側面図である。
【図2】図1(a)のA−A’における断面図である。
【図3】従来のコプレーナ線路を形成した高周波回路基板を実装したミリ波伝送モジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者等によりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれる。
【0018】
まず、図1又は図2を参照しながら、本発明に係るミリ波伝送モジュールの構成について説明する。
【0019】
なお、本明細書中では、伝送線路として誘電体基板上にマイクロストリップ線路を形成した高周波回路基板であるマイクロストリップ基板を収容した伝送モジュールであり、基板上のマイクロストリップ線路を基準としたときの信号の伝播方向を「長さ方向」とし、同一面上で長さ方向と直交する方向を「幅方向」としてそれぞれ定義する。
【0020】
図1(a)、(b)に示すように、本例のミリ波伝送モジュール1は、高周波回路基板として裏面に接地導体を形成した誘電体基板上にマイクロストリップ線路10aが形成されたマイクロストリップ基板10を使用し、このマイクロストリップ基板10が直方体のケース2内に収容されている。なお、図1では、後述する第2蓋部材5を省略した構成としている。
【0021】
図1において、ケース2の外周部分における長さ方向の両端には、外部と接続するための表面実装部品(図例では、同軸ケーブル等に設けられた雌型コネクタ(接栓)と結合する雄型コネクタ(同軸接栓座)、以下、単に「コネクタ20」という)を取り付けるための取付孔が形成されている。また、コネクタ20の内部導体20aの周囲には、内部導体20aを保護する絶縁部材20bが設けられている。
【0022】
また、図2に示すように、ケース2には、マイクロストリップ基板10を収納するための第1凹部3aと、第1凹部3aの開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも第1凹部3aの幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部3bとを有し、第2凹部3bの略中央部分に第1凹部3aが形成される逆凸形状の段付き凹部3が形成されている。なお、段付き凹部3の形成位置は、取り付けられるコネクタ20の取付位置に応じて適宜設定される。
【0023】
第1凹部3aにおける幅方向の寸法は、マイクロストリップ基板10の幅方向の寸法と略同等となるように形成されている。また、第1凹部3aの深さは、少なくともコネクタ20の内部導体20aと基板上のマイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で形成されている。
【0024】
これにより、少なくともコネクタ20の内部導体20aと、マイクロストリップ基板10上のマイクロストリップ線路10aとをワイヤボンディングするためのスペースが確保されることに加え、第1凹部3aのスペースが必要最低限となり、ミリ波伝送モジュール1の小型化を実現することができる。
【0025】
さらに、第1凹部3aにマイクロストリップ基板10を収容した後にその開口部を覆閉するため、第1凹部3aと第2凹部3bとの連続部分である段差部3cに第1蓋部材4が設けられている。このように、マイクロストリップ基板10を収容した第1凹部3aを第1蓋部材4で覆閉することで、マイクロストリップ基板10から発生する電磁場を閉じ込める閉じ込め領域を形成している。
【0026】
従って、30GHz以上のミリ波信号を伝播した場合であっても、TEMモード以外の伝播モードの電磁界や放射等を閉じ込めることができるため、低損失でミリ波信号を伝播することができる。
【0027】
第2凹部3bは、第1凹部3aの開口端部から上方に向けて連続形成され、マイクロストリップ基板10を第1凹部3aに収容する作業、基板収容後にコネクタ20の内部導体20aとのワイヤボンディング作業、基板上の電子部品の接続作業等の組立て性向上を目的としたスペースとして利用される。そのため、第2凹部3bの幅方向の寸法は、少なくとも第1凹部3aの幅方向の寸法よりも長く設定されていればよい。また、第2凹部3bの深さも、取付作業等の組立て性を考慮しつつ、作製するミリ波伝送モジュール1の大きさによって適宜設定される。
【0028】
また、第2凹部3bの開口部には、第1凹部3aを第1蓋部材4で覆閉した後に、この開口部を覆閉する第2蓋部材5が設けられている。なお、ミリ波伝送モジュール1の構成によっては、第2蓋部材5で第2凹部3bを覆閉しなくてもよい。
【0029】
そして、上述したような構造を有するミリ波伝送モジュール1の作製方法としては、まずマイクロストリップ線路10aを形成したマイクロストリップ基板10を作製する。次に、作製するミリ波伝送モジュール1の大きさや組立て性を考慮した上で、ケース2に作製したマイクロストリップ基板10の幅方向と略同等の第1凹部3a及び第2凹部3bをそれぞれ形成して段付き凹部3とする。
【0030】
さらに、第1凹部3aにマイクロストリップ基板10を収容し、基板上のマイクロストリップ線路10aとコネクタ20の内部導体20aとをワイヤボンディングし、さらに必要に応じて基板上に実装される電子部品の接続処理を施した後に第1蓋部材4で第1凹部3aを覆閉する。最後に第2蓋部材5で第2凹部3bを覆閉してミリ波伝送モジュール1が作製される。
【0031】
以上説明したように、上述したミリ波伝送モジュール1は、設置するコネクタ20の取付位置に応じて、コネクタ20の絶縁部材20bの高さ寸法と略同等となるようにマイクロストリップ基板10を収容する第1凹部3aと、この第1凹部3aの開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも第1凹部3aの幅方向の寸法よりも長く設定した第2凹部3bとを有する段付き凹部3を形成する。そして、第1凹部3aにマイクロストリップ基板10を収納後に、段付き凹部3の段差部3cに第1蓋部材4を設置して第1凹部3aを覆閉している。
【0032】
これにより、30GHz以上のミリ波信号を伝播した場合であっても、マイクロストリップ基板10上で発生するTEMモード以外の伝播モードの電磁界や放射等を閉じ込められるため、低損失でミリ波信号を伝播することができる。
【0033】
また、第2凹部3bが第1凹部3aの上方を開放するように形成されているため、第1凹部3aにマイクロストリップ基板10が収納しやすく、また基板上のマイクロストリップ線路10aとコネクタ20の内部導体20aとのワイヤボンディング等の組立て性の向上を図ることができる。
【0034】
さらに、少なくともコネクタ20の内部導体20aと基板上のマイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で第1凹部3aの深さを設定しているため、第1凹部3aを必要最低限のスペースで形成することができ、ミリ波伝送モジュール1の小型化を図ることができる。
【0035】
ところで、上述した形態において、第1凹部3aの深さの条件として、少なくともコネクタ20の内部導体20aと基板上のマイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法とすることを規定したが、これに限定されることはない。
【0036】
例えば、マイクロストリップ基板10上に電子部品が実装される場合は、マイクロストリップ基板10a上に電子部品が実装可能であり、且つコネクタ20の内部導体20aと基板上のマイクロストリップ線路10aとのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で形成される。また、例えばケース2に取り付けられるコネクタ20の絶縁部材20bの高さ寸法が前記条件を満たしていれば、この絶縁部材20bの高さ寸法を基準として略同等の高さ寸法に合せて第1凹部3の深さを規定することもできる。
【0037】
また、表面実装部品として雄型コネクタ20の例で説明したが、これに限定されることはなく、ミリ波信号を伝播するためにマイクロストリップ線路10aと接続可能な他の実装部品であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1…ミリ波伝送モジュール
2…ケース
3…段付き凹部(3a…第1凹部3a、3b…第2凹部、3c…段差部)
4…第1蓋部材
5…第2蓋部材
6…取付孔
10…マイクロストリップ基板(10a…マイクロストリップ線路)
20…コネクタ(20a…内部導体、20b…絶縁部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロストリップ線路(10a)を形成したマイクロストリップ基板(10)をケース(2)内に収容し、外部からのミリ波信号を前記マイクロストリップ線路を介して伝播するミリ波伝送モジュール(1)であって、
前記ケースには、
前記マイクロストリップ基板を収容する第1凹部(3a)と、該第1凹部の開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも前記第1凹部における幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部(3b)と、を有する段付き凹部(3)が形成され、
前記第1凹部を覆閉する第1蓋部材(4)を、前記第1凹部と前記第2凹部との連続部分である段差部(3c)に設け、前記第1凹部内を前記マイクロストリップ基板から発生する電磁場を閉じ込める閉じ込め領域とすることを特徴とするミリ波伝送モジュール。
【請求項2】
前記ケース(2)の外周部分に形成された取付孔(6)にコネクタ(20)が取り付けられ、
前記第1凹部(3)の深さは、少なくとも前記コネクタ(20)の内部導体(20a)と前記マイクロストリップ線路(10a)とのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法であることを特徴とする請求項1記載のミリ波伝送モジュール。
【請求項3】
マイクロストリップ線路(10a)を形成したマイクロストリップ基板(10)をケース(2)内に収容し、外部からのミリ波信号を前記マイクロストリップ線路を介して伝播するミリ波伝送モジュール(1)の製造方法であって、
前記マイクロストリップ基板を収容する第1凹部(3a)と、該第1凹部の開口端部から上方に向けて連続形成され、少なくとも前記第1凹部における幅方向の寸法よりも大きく開口した第2凹部(3b)と、を有する段付き凹部(3)を前記ケースに形成するステップと、
前記第1凹部を覆閉する第1蓋部材(4)を、前記第1凹部と前記第2凹部との連続部分である段差部(3c)に設けるステップと、
を含むことを特徴とするミリ波伝送モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記第1凹部(3)の深さを、少なくとも前記ケース(2)の外周部分の取付孔(6)に取り付けられたコネクタ(20)の内部導体(20a)と前記マイクロストリップ線路(10a)とのワイヤボンディングが可能な必要最小限の高さ寸法で形成するステップを含むことを特徴とする請求項3記載のミリ波伝送モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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