説明

メッキ装置

【課題】 設備費の増大を招くことなく処理効率を向上させることができ、しかも、処理液の消費量の低減、廃液量の削減等を実現することのできるメッキ装置を得る。
【解決手段】 キャリア25により複数の処理槽23a,23b,23c……の配列方向に走行するハンガー29を、処理槽23a,23b,23c……の配列間隔の1/2の間隔で装備すると共に、隣接する処理槽相互の間には、処理槽間に位置するハンガー29に吊り下げられた被処理物31から滴下する液を処理順で手前の処理槽23a,23b,23c……に戻す処理液回収板35を設け、液切り工程を前記処理液回収板35の上方で行うことで、液切り工程と浸漬工程とを同時進行可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連のメッキ処理工程の順に一定間隔で配置された複数の処理槽に対して、被処理物を処理槽中の処理液に浸漬する工程と、液切りする工程とを繰り返して、一連のメッキ処理を行うメッキ装置に関し、特に、設備費の増大を招くことなく処理効率を著しく向上させることができ、しかも、処理液の消費量の低減、廃液量の削減等を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属素材に無電解ニッケルメッキを施すメッキ加工では、1)金属素材に付着している油分を取り除く脱脂工程、2)脱脂工程で使った薬液を洗い落とす水洗工程、3)金属素材に残っている錆等を取り除いてメッキを付き易くする酸浸漬工程、4)酸浸漬工程で使った薬液を洗い落とす水洗工程、5)金属素材の表面を活性化してメッキを付き易くする酸活性工程、6)この酸活性工程で使った薬液を洗い落とす水洗工程、7)金属素材にニッケルメッキを施す無電解ニッケル工程、8)無電解ニッケル工程で使った薬液を洗い落とす水洗工程、などを順に実施するが、これらの各工程で、被処理物となる金属素材を処理槽中の処理液に浸漬する工程と、液切りする工程とを繰り返す。
【0003】
このような多数の工程を順に実施するメッキ装置として、図5に示す構成のものが知られている。
ここに示したメッキ装置1は、一連のメッキ処理工程の順に一定間隔Pで配置された複数の処理槽3a,3b,3c……と、処理槽3a,3b,3c……の配列方向に沿って各処理槽の上方を走行するキャリア5と、昇降装置7を介してキャリア5に昇降可能に装備されたハンガー9とを備え、図5(a),(d)に示すように被処理物11を吊したハンガー9を処理槽側に降下させて被処理物11を処理槽3a,3b,3c……内の処理液13a,13b,13c……に浸漬させる浸漬工程と、図5(b)に示すように、ハンガー9を上昇させて被処理物11を処理槽から引き上げて被処理物11に付着している処理液13a,13b,13c……を滴下させる液切り工程と、液切りが終了した被処理物11を図5(c)に示すようにキャリア5の走行により次の処理槽に送る工程とを、各処理槽毎に繰り返して、被処理物11への一連のメッキ処理工程を果たす。
【0004】
従来のメッキ装置1の場合、昇降装置7により昇降可能なハンガー9は、処理槽3a,3b,3c……と同じ間隔Pで装備されていて、液切り工程は、利用した処理槽の直上に被処理物11を引き上げた状態で実施することで、滴下する処理液が元の処理槽に回収されるようにしている。
【0005】
ところが、上記メッキ装置1の構成では、浸漬工程と液切り工程とが交互に行われるため、液切り工程を長くすると、処理時間が増えて、処理効率が低下するという問題があった。
しかし、液切り工程の所要時間を不用意に短縮すると、液切れが不完全となり、次の処理槽の薬液に前段の処理槽の薬液が混ざって、処理液の寿命が縮まって廃液量の増大を招いたり、或いは、液切り工程で滴下した薬液を元の処理槽に戻す液回収率が低下したりする結果、処理液の消費量が増大するという問題が生じた。
【0006】
そこで、処理槽から引き上げた被処理物11から薬液を滴下し易くして液切り工程の所要時間を短縮することが研究され、引き上げた被処理物11を傾斜させる機構を追加したもの(例えば、特許文献1参照)、或いは、引き上げた被処理物11に振動を加える機構を追加したもの(例えば、特許文献2参照)、引き上げた被処理物11に空気を吹き付けて薬液を積極的に滴下させる機構を追加したもの(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−280197号公報
【特許文献2】特開平8−181264号公報
【特許文献3】特開平8−134699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特許文献1〜3のように、液切り工程で液の滴下が円滑に進むように専用の機構を装備するものは、その機構のために設備が複雑になり、設備の高額化を招くという問題があった。
また、液切り工程の所要時間の短縮は図れるものの、液切り工程中は浸漬工程を実施できないため、処理効率を大きく向上させることは困難であった。
【0009】
本発明の目的は上記課題を解消することに係り、設備費の増大を招くことなく処理効率を著しく向上させることができ、しかも、処理液の消費量の低減、廃液量の削減等を実現することのできるメッキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)一連のメッキ処理工程の順に一定間隔で配置された複数の処理槽と、前記処理槽の配列方向に沿って各処理槽の上方を走行するキャリアと、前記キャリアに昇降可能に装備され被処理物を吊すハンガーとを備え、前記ハンガーを降下させて被処理物を処理槽内の処理液に浸漬させる浸漬工程と、前記ハンガーを上昇させて被処理物を処理槽から引き上げて処理液を滴下させる液切り工程とを各処理槽毎に繰り返して、前記被処理物への一連のメッキ処理工程を果たすメッキ装置であって、
前記キャリアに支持されるハンガーは、前記処理槽の配列間隔の1/2の間隔で装備すると共に独立して昇降可能に設けられ、隣接する処理槽相互の間には、上方から滴下する液を処理順で手前の処理槽に戻す処理液回収板を設け、
前記液切り工程を、前記処理液回収板の上方で行うことを特徴とするメッキ装置。
(2)上記(1)記載のメッキ装置において、前記複数の処理槽は隣接する各処理槽が互いに近接配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメッキ装置では、処理槽相互の配列間隔の1/2の間隔でハンガーに吊り下げられた被処理物の内、各処理槽の直上に位置する被処理物をその下方に位置する処理槽に降下させて浸漬工程を実施する時、それに並行して、隣接する処理槽の間に配置した処理液回収板の直上に位置する被処理物は、そのまま引き上げた状態を維持しているだけで、液切り工程が進行することになる。
即ち、浸漬工程と液切り工程とを同時に進行させることができ、液切り工程専用に処理時間を割く必要がなくなるため、メッキ加工の所要時間を大幅に短縮して、処理効率を著しく向上させることができる。
しかも、隣接する処理槽間を液切りゾーンとして活用するために液切り工程のために追加する部品は、例えば単純な傾斜板等で良く、可動部を有した複雑な機構が必要とならないため、設備費の増大を招くこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るメッキ装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るメッキ装置の一実施形態の正面断面図、図2は図1に示したメッキ装置のA矢視図、図3は図2のB−B断面図、図4は図3に示した処理液回収板の説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【0013】
この一実施形態のメッキ装置21は、亜鉛メッキ、ニッケルメッキ、金メッキ、錫メッキなど各種の金属メッキに利用可能なもので、一連のメッキ処理工程の順に一定間隔Pで配置された複数の処理槽23a,23b,23c……と、これらの複数の処理槽23a,23b,23c……の配列方向に沿って各処理槽23a,23b,23c……の上方を走行するキャリア25と、このキャリア25に昇降装置27を介して昇降可能に装備されたハンガー29とを備える。昇降装置27は、各ハンガー29を独立して昇降可能にする。
以上の構成により、メッキ装置21は、被処理物31を吊したハンガー29を処理槽23a,23b,23c……側に降下させて被処理物31を処理槽23a,23b,23c……内の各処理液33a,33b,33c……に浸漬させる浸漬工程と、ハンガー29を上昇させて被処理物31を各処理槽23a,23b,23c……から引き上げて被処理物31に付着している処理液33a,33b,33c……を滴下させる液切り工程と、液切りが終了した被処理物31をキャリア25の走行により次の処理槽23b,23c,23d……に送る工程とを、各処理槽23a,23b,23c……毎に繰り返して、被処理物31への一連のメッキ処理工程を果たす。
【0014】
本実施の形態の場合、キャリア25に支持されるハンガー29は、処理槽23a,23b,23c……の配列間隔Pの1/2の間隔で装備されている。
また、隣接する処理槽相互の間には、上方から滴下する液を処理順で手前の処理槽に戻す処理液回収板35を設けている。
【0015】
本実施の形態の処理液回収板35は、図4(a)に示すように、隣接する処理槽間に位置する被処理物31の直下への投影面積37よりも充分に大きな面積を持つ液受け板41と、この液受け板41の両端に装備された連結用筒部43とを各種の処理液に対して耐性を有した樹脂材料で一体成形したものである。
この処理液回収板35は、隣接する処理槽間に立設された支柱に前記した連結用筒部43を嵌合させることで、処理槽間に固定される。
【0016】
液受け板41の縦横の寸法x,yは、被処理物31の投影面積37の縦横の寸法よりも大きく設定されている。また、液受け板41の処理槽の配列方向に沿う辺の長さxが隣接する処理槽間の隙間の寸法よりも大きく設定されていて、長さy方向に延びる両側縁41a,41bが各処理槽の上に突出するように、処理槽間の支柱に取り付けられる。
液受け板41は、図4(b)に示すように、連結用筒部43が装備された両端間の中央に、滴下した液を中央に集める屈曲部41cが形成されている。また、図4(c)に示すように、滴下した処理液が屈曲部41cに集まった後、元の処理槽側に流れるように、前段の処理槽側の側縁41aが他側の側縁41bよりも下がる傾斜θが付与されている。
【0017】
キャリア25は、被処理物31が、各処理槽上および処理液回収板35の直上で止まるように、各処理槽の上を、P/2ずつ、間欠走行する。この結果、液切り工程が、処理液回収板35の上方で行われる。
【0018】
以上に説明したメッキ装置21では、処理槽23a,23b,23c……相互の配列間隔の1/2の間隔でハンガー29に吊り下げられた被処理物31の内、各処理槽23a,23b,23c……の直上に位置する被処理物31をその下方に位置する処理槽23a,23b,23c……に降下させて浸漬工程を実施する時、それに並行して、隣接する処理槽23a,23b,23c……の間の処理液回収板35の直上に位置する被処理物31は、そのまま引き上げた状態を維持しているだけで、液切り工程が進行することになる。
即ち、浸漬工程と液切り工程とを同時に進行させることができ、液切り工程専用に処理時間を割く必要がなくなるため、メッキ加工の所要時間を大幅に短縮して、処理効率を著しく向上させることができる。
【0019】
しかも、隣接する処理槽23a,23b,23c……間を液切りゾーンとして活用するために追加する部品である処理液回収板35は、可動部を有した複雑な機構が必要とならないため、設備費の増大を招くこともない。
【0020】
また、液切り工程で被処理物31から滴下した薬液は、処理液回収板35を伝って元の処理槽に回収されるため、液切り工程で滴下した薬液を元の処理槽23a,23b,23c……に戻す液回収率が高くなる。その結果、処理液33a,33b,33c……が無駄に廃棄されることが無くなり、処理液33a,33b,33c……の消費量を低減させて、メッキ処理のコストを低減させることもできる。
【0021】
更に、液切り工程に、浸漬工程と同時間が費やされるため、十分な時間をかけて液切りを徹底することができる。従って、前段の処理槽の薬液が次の処理槽に持ち込まれることを抑制でき、各処理槽23a,23b,23c……における処理液33a,33b,33c……の寿命を延ばすことができる。その結果、廃液量を低減することが可能になり、廃液処理費を削減することができる。
【0022】
なお、上記の実施形態では、複数の処理槽23a,23b,23c……が一定間隔Pで配置されて、隣接する処理槽の間を液切りゾーンとして活用するとしたが、隣接する処理槽を近接配置して液切りゾーンが、処理液回収板35を除いて実質的に省略された構成とすることもできる。これにより、メッキ装置としての設置スペースを更に縮小させことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るメッキ装置の一実施の形態の正面断面図である。
【図2】図1に示したメッキ装置のA矢視図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】図3に示した処理液回収板の説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図5】従来のメッキ装置による処理工程の説明図で、(a)は被処理物を処理槽に浸漬させた浸漬工程中の状態を示す側面図、(b)は被処理物を処理槽から引き上げた液切り工程中の状態を示す側面図、(c)は被処理物を次の処理槽に移動する工程の説明図、(d)は次の処理槽に被処理物を浸漬させた浸漬工程の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
21 メッキ装置
23a,23b,23c…… 処理槽
25 キャリア
27 昇降装置
29 ハンガー
31 被処理物
33a,33b,33c…… 処理液
35 処理液回収板
41 液受け板
43 連結用筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連のメッキ処理工程の順に一定間隔で配置された複数の処理槽と、前記処理槽の配列方向に沿って各処理槽の上方を走行するキャリアと、前記キャリアに昇降可能に装備され被処理物を吊すハンガーとを備え、前記ハンガーを降下させて被処理物を処理槽内の処理液に浸漬させる浸漬工程と、前記ハンガーを上昇させて被処理物を処理槽から引き上げて処理液を滴下させる液切り工程とを各処理槽毎に繰り返して、前記被処理物への一連のメッキ処理工程を果たすメッキ装置であって、
前記キャリアに支持されるハンガーは、前記処理槽の配列間隔の1/2の間隔で装備すると共に独立して昇降可能に設けられ、隣接する処理槽相互の間には、上方から滴下する液を処理順で手前の処理槽に戻す処理液回収板を設け、
前記液切り工程を、前記処理液回収板の上方で行うことを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
前記複数の処理槽は隣接する各処理槽が互いに近接配置されていることを特徴とする請求項1または2記載のメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56350(P2007−56350A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246056(P2005−246056)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)