説明

メラミン樹脂の製造方法

【課題】メラミン樹脂中に含まれるメタノール添加率を低下させ、メラミン掛脂のコストダウンを図るとともに、低温及び高温における貯蔵安定性が良好で、かつ水混和性が良好な樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】メラミン、ホルムアルデヒド及びメタノールを含有する樹脂溶液であって、当該樹脂溶液中のメタノール含有率が1〜5質量%であり、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率が40〜52質量%であり、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン)が1.5以上2.0未満である樹脂溶液を、反応初期pH8.5〜11.5で一次反応させた後、反応初期pH6.5〜8.0で二次反応させて、白濁温度35〜55℃でpH9.0〜10.0に調整し、反応を止めることを特徴とするメラミン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラミン樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラミン樹脂は、例えば、木材の薄板、小片、繊維等を接着してなるパーティクルボード、合板、木質繊維板等の木質系ボードの接着剤として、及びアルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などを主剤とするコーティング樹脂の架橋剤として使用されている。
【0003】
メラミン樹脂は無色透明で硬化が速く硬化物の耐水性も高いという特長を有するが、単独では貯蔵安定性が悪いので貯蔵安定性を向上させるため、従来のメラミン樹脂は、貯蔵安定性を向上させるため、原料配合時にメタノールを添加していた(特許文献1及び2)。メタノールはメチロール化メラミンと反応し貯蔵安定性の面では有効に作用するが、ホルムアルデヒドとメラミンの縮合反応を阻害する可能性がある。また、メタノール含有率の低いメラミン樹脂(特許文献3)ではモル比(水溶液中のホルムアルデヒドのモル数/水溶液中のメラミンのモル数)=2.0以上では貯蔵安定性、水混和性ともに良好な樹脂だが、モル比=2.0未満では貯蔵安定牲、水混和性がともに満足できる樹脂の製造は困難である。
【0004】
【特許文献1】特開昭51−114492号公報
【特許文献2】特開平8−283364号公報
【特許文献3】特開平10−168422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メラミン樹脂中に含まれるメタノール添加率を低下させ、メラミン掛脂のコストダウンを図るとともに、低温及び高温における貯蔵安定性が良好で、かつ水混和性が良好な樹脂を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)メラミン、ホルムアルデヒド及びメタノールを含有する樹脂溶液であって、当該樹脂溶液中のメタノール含有率が1〜5質量%であり、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率が40〜52質量%であり、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン)が1.5以上2.0未満である樹脂溶液を、反応初期pH8.5〜11.5で一次反応させた後、反応初期pH6.5〜8.0で二次反応させて、白濁温度35〜55℃でpH9.0〜10.0に調整し、反応を止めることを特徴とするメラミン樹脂の製造方法。
(2)一次反応及び二次反応の反応温度が75〜90℃である前記(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メラミン樹脂中に含まれるメタノール添加率を低下させ、メラミン掛脂のコストダウンを図るとともに、低温及び高温における貯蔵安定性が良好で、かつ水混和性が良好な樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法の一次反応は、メチロール化反応であり、メラミン、ホルムアルデヒド及びメタノールを含有する樹脂溶液を反応初期pH8.5〜11.5で反応させることにより行われる。
【0009】
前記樹脂溶液中のメタノール含有率は1〜5質量%であることが必要である。当該メタノール含有率が1質量%未満であると、低温での貯蔵安定性が非常に悪化し、5質量%を超えると、貯蔵安定性はより良好となるが、樹脂コストが上がり好ましくない。当該メタノール含有率は、好ましくは2〜4質量%である。
【0010】
前記樹脂溶液中のメラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率は40〜52質量%であることが必要である。当該合計含有率が40質量%未満であると、生産効率が悪くコストアップを引き起こし、52質量%を超えると、貯蔵安定性が非常に悪化する。当該合計含有率は、好ましくは45〜50質量%である。
【0011】
なお、前記樹脂溶液は、メラミン、ホルムアルデヒド及びメタノール以外に、水、pH調整剤として用いられるアルカリ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、更に場合により、アンモニア水が含有されている。
前記含有率は、これらを合わせた樹脂溶液中の含有率をいう。
【0012】
前記樹脂溶液におけるモル比(ホルムアルデヒド/メラミン)は1.5以上2.0未満であることが必要である。当該モル比が1.5未満であると、メラミンの溶解性が悪化するため、解け残りが生じ、貯蔵安定性も悪化し、2.0以上であると、硬化反応後(成形品)において、ホルムアルデヒド放散量が高くなるため、シックハウス等の問題を生じる原因となる。当該モル比は、好ましくは1.7〜1.9である。
【0013】
本発明においては、前記樹脂溶液を反応初期pH8.5〜11.5で反応させる。当該pHが8.5未満であると、貯蔵安定性が悪化し、11.5を超えると、縮合反応が起こり、反応の制御ができず、水倍の悪化も引き起こす。当該pHは、好ましくは9.0〜10.5である。当該pHの調整は、前記の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加することにより行うことができる。
【0014】
一次反応の反応温度は、通常75〜90℃、好ましくは75〜85℃であり、反応時間は、通常0.5〜3.0時間、好ましくは1.0〜2.0時間である。好ましくは、反応終点を例えば粘度の上昇率にて判定する。反応が不十分の場合は貯蔵安定性が低下する。
【0015】
本発明の二次反応においては、一次反応の終了後、pHを6.5〜8.0に調整した後、縮合反応を行う。二次反応(縮合反応)のpHが6.5未満であると、縮合反応が非常に早く起こるために、反応の制御ができず、8.0を超えると、低温での貯蔵安定性が非常に悪くなる。当該pHは、好ましくは7.0〜8.0である。当該pHの調整は、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸等のカルボン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸を添加することにより行うことができる。
【0016】
二次反応の反応温度は、通常75〜90℃、好ましくは75〜85℃であり、反応時間は、通常0.5〜4.0時間、好ましくは1.0〜2.0時間である。
【0017】
二次反応の反応終点は、白濁温度35〜55℃であり、好ましくは白濁温度40〜50℃である。当該反応終点が白濁温度35℃であると、低温での貯蔵安定性が非常に悪くなり、白濁温度55℃を超えると、水混和性が悪化し、加水時に不溶の析出物がでる。
【0018】
本発明において、「白濁温度」とは、当該温度の水に樹脂溶液を一滴落とし白濁を生じ始めるときの温度のうちの最高の温度を意味する。例えば、「白濁温度40℃」とは、40℃の温水に樹脂溶液を一滴落としたとき白濁を生じるが、41℃以上の温水では透明であり、白濁を生じないことを意味する。
【0019】
二次反応においては、白濁温度35〜55℃のときに、溶液のpHを9.0〜10.0に調整して反応を止める。当該pHが9.0未満であると、貯蔵安定性が悪化し、10.0を超えても、貯蔵安定性が悪化する。当該pHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等のアルカリを添加することにより行うことができる。
反応終了後、冷却することにより、目的とするメラミン樹脂が得られる。
【0020】
本発明において、各工程のpHは正確に校正されたpHメーターを用いて調整することが好ましい。
【0021】
樹脂溶液には、例えば、粘度を調整する目的でポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の粘度調整剤を反応の任意の段階で添加できるが、これらの任意的成分の樹脂溶液中の添加量は、合わせて、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0023】
以下において、pH及び白濁温度の測定、メタノール含有率の算出、水混和性の評価は以下の方法で行った。なお、別に断らない限り「%」は「質量%」を示す。
pHの測定方法:採取した樹脂を23℃にし、正確に校正された市販のpHメーターにて測定した。
白濁温度の測定方法:樹脂を1g採取し、この樹脂を指定の温度に調整した100mlのお湯と混合した。その際、樹脂がお湯に溶けずに白濁するときの最も高い温度を白濁温度とした。
メタノール含有率の測定方法:反応前の樹脂溶液全体の質量に対するメタノールの質量の割合を求めた。
水混和性の評価方法:樹脂10mgに水を徐々に加えていき、沈殿が析出するまで樹脂に対し何倍の水が添加されたか測定する(JIS K6807参照)。
【0024】
実施例1
還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた反応フラスコに、37%のホルムアルデヒド(分子量30)と7%のメタノールを含むホルマリン400g(ホルムアルデヒド含量:148g(4.93mol)、メタノール含量:28g(0.87mol))に水240gを加えた。この水溶液に25%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH9に調整した後、メラミン(分子量126)330g(2.62mol)を加え(反応液全量:970g、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率:49質量%、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン):1.9)、水温を85℃まで上げ、メチロール化(一次反応)させた(反応時間:1時間)。その後、ギ酸を加えてpH7に調整した後、85℃で縮合反応(二次反応)させた。白濁温度40℃で25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9に調整し、縮合反応を止めた(反応時間:1時間)。
【0025】
この方法で得られたメラミン樹脂は、樹脂固形分(メラミン+ホルムアルデヒド)49%であり、メタノール含有率は2.8%であった。アルカリ性で樹脂を縮合させた場合(比較例1参照)に比較して、中性付近で縮合した方が貯蔵安定性の良好な樹脂となった。同じモル比で比較すると従来の樹脂より質量当たり5%程度のコストダウンが図れる。
【0026】
比較例1 アルカリ性での縮合反応
還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた反応フラスコに、37%のホルムアルデヒドと7%のメタノールを含むホルマリン400g(ホルムアルデヒド含量:148g(4.93mol)、メタノール含量:28g(0.87mol))に水240gを加えた。この水溶液に25%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH11に調整した後、メラミン330g(2.62mol)を加え(反応液全量:970g、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率:49質量%、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン):1.9)、水温を85℃まで上げ、メチロール化(一次反応)させた(反応時間:0.5時間)。その後、pHを調整せず、アルカリ性のままで、85℃で縮合反応(二次反応)させた。白濁温度40℃になったら、常温まで冷却し、縮合反応を止めた。この方法で得られた低メタノール樹脂は低温における貯蔵安定性が非常に悪く、5℃の貯蔵では1日後に樹脂が固化した。
【0027】
比較例2 従来のメラミン樹脂製造方法
還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた反応フラスコに、37%のホルムアルデヒドと7%のメタノールを含むホルマリン400g(ホルムアルデヒド含量:148g(4.93mol)、メタノール含量:28g(0.87mol))に水200g及びメタノール70g(2.18mol)を加えた。この水溶液に25%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10に調整した後、メラミン310g(2.46mol)を加え(反応液全量:980g、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率:47質量%、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン):2.0)、水温を85℃まで上げ、メチロール化(一次反応)させた(反応時間:1時間)。その後、ギ酸を加えてpH7に調整した後、85℃で縮合反応(二次反応)させた。白濁温度40℃で25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9に調整し、縮合反応を止めた(反応時間:1時間)。この樹脂のメタノール含有率は10%であった。
【0028】
実施例及び比較例の結果
実施例1で得られた樹脂は、樹脂を5℃で保存した場合、2週間後においても流動性を保っていた。また、40℃での高温域では、1ケ月後においてもゲル化しなかった。従来のメラミンも同等の性能であった。本発明の方法により製造されたメラミン樹脂は水混和性が2.1〜2.5倍程度で、従来の製造法では1.6〜2.0倍程度である。
【0029】
アルカリ性側のみで縮合反応を進めると、低温での貯蔵安定性が非常に悪くなった。アルカリ性での反応は主にメラミンのメチロール化が起こり易く、中性での縮合反応に比べ縮合物のメチロール基が多いため、貯蔵安定性の悪化を引き起こすと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミン、ホルムアルデヒド及びメタノールを含有する樹脂溶液であって、当該樹脂溶液中のメタノール含有率が1〜5質量%であり、メラミン及びホルムアルデヒドの合計含有率が40〜52質量%であり、モル比(ホルムアルデヒド/メラミン)が1.5以上2.0未満である樹脂溶液を、反応初期pH8.5〜11.5で一次反応させた後、反応初期pH6.5〜8.0で二次反応させて、白濁温度35〜55℃でpH9.0〜10.0に調整し、反応を止めることを特徴とするメラミン樹脂の製造方法。
【請求項2】
一次反応及び二次反応の反応温度が75〜90℃である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−189748(P2008−189748A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24050(P2007−24050)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】