説明

モデル動物、モデル動物の作製方法及び体内留置具の評価方法

【課題】
瘤の大きさ、コイルの充填率を容易に制御でき、また非ヒト動物の体内への留置手技に伴う血管の攣縮、出血による影響を最低限に抑制し、留置後、短日数で磁気共鳴を用いた撮影画像を取得することが可能であるモデル動物を提供し、またモデル動物の作製方法を提供し、併せてモデル動物を用いた体内留置具の評価方法を提供する。
【解決手段】
体内留置具の評価に用いるモデル動物であって、金属製の体内留置具5と、体内留置具を充填した化成物製の中空体1とを含み、中空体が非ヒト動物の血管7又は血管周囲に配置されるモデル動物を構成した。また、金属製の体内留置具を用意する工程と、体内留置具を充填した化成物製の中空体を用意する工程と、中空体を非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置させる工程と、を含むモデル動物の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル動物、モデル動物の作製方法及び体内留置具の評価方法に係わり、更に詳しくは例えば動脈瘤の塞栓治療に供する塞栓形成用コイルを評価するために用いるモデル動物、そのモデル動物の作製方法及びモデル動物を用いた体内留置具の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、動脈瘤などに対する侵襲性の少ない治療法として、塞栓形成用体内留置具を動脈瘤内に留置する血管塞栓術が知られている。この血管塞栓術において、動脈瘤内に留置された塞栓形成用体内留置具は血液流に対する物理的な障害となるとともに、当該塞栓形成用体内留置具のまわりに血栓が形成されることによって、動脈瘤破裂の危険性を減少させることができる。ここで、動脈瘤などの血管中の所定部位に留置される塞栓形成用体内留置具として、金属材料からなる塞栓形成用コイルがある。
【0003】
かかる塞栓形成用コイルは、例えば、塞栓形成用コイルの端部に離脱可能に接続されている押出手段(誘導子)により適宜のカテーテルを介して所定部位に導入され、当該所定部位において離脱されて留置されることによりその機能を発揮する。このような塞栓形成用コイルには、高い柔軟性と引っ張りに対して適度な抵抗力があることなど種々の特性が要求される。
【0004】
そして、このような血管塞栓術が行われた後、瘤の増大や親血管へのコイルの逸脱がないかどうか確認するために、定期的な検査を施す必要がある。瘤の増大は、破裂につながり、親血管へのコイルの逸脱は、虚血や脳梗塞につながる。術後の検査には、血管造影、CT、MRI等を用いるが、血流を観察する点からMRI又はMRAが最良である。
【0005】
ここで、塞栓形成用コイルやその他の体内留置具は、材料によってはMRI画像又はMRA画像を取得する際にアーチファクトを発生させ、その近傍の画像を歪ませて正確な血管の観察ができなくなる。アーチファクトの発生は、塞栓形成用コイル等の材料の磁化率が、水の磁化率から離れるほど大きくなることが知られている。塞栓形成用コイルは、それを導入する動脈瘤の位置や大きさ等の施術状況に応じて、それに適した特性のものが要求されると常時に、磁気共鳴を用いた撮像時にアーチファクトを発生させない、若しくは撮像に影響を与えない程度に低減させる材料を用いることが要求される。そして、それらの体内留置具の研究開発の現場では、非ヒト動物を用いた動物実験によって最終的に特性を評価することが重要である。
【0006】
塞栓形成用コイルの評価を動物実験で行う場合、動物の脳の中に人間と同じ大きさの動脈瘤を作るのは難しいため、人間の脳血管の大きさに近いウサギの腹部の動脈が多用されている。塞栓形成用コイルをウサギの体内に配置する前に、先ずウサギの動脈に人間の動脈瘤に似せた模擬動脈瘤を作製する必要がある。この作製方法には、静脈ポーチ法による動脈瘤モデル(非特許文献1)と、エラスターゼによる動脈瘤モデル(非特許文献2)がある。前者の方法は、他の部位から切除した静脈の一端を縫合してポーチを作製し、動脈に切開部を作製し、その切開部にポーチの他端を縫合し、動脈から約5mm突出した模擬動脈瘤を作製するものである。後者の方法は、結紮により盲端とした動脈にエラスターゼを作用させることで動脈壁を脆弱化させ、動脈瘤を作製するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】AJNR Am J Neuroradiol 19:1309-1314,August 1998.
【非特許文献2】AJR 174:349-354,February 2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、静脈ポーチ法による動脈瘤モデルは、血管への侵襲が高く、また作製した後2週間程度経って安定してからコイルを入れるため、その間に自己修復によって大きさが変化し、その制御が困難であるとともに、準備から試験まで長い日数を要し、更に塞栓したコイルが親血管に逸脱するリスクが高いといった課題がある。一方、エラスターゼによる動脈瘤モデルは、自然に近い動脈瘤ができるという利点はあるが、前記同様に大きさはまちまちであり、作製にも時間がかかり、塞栓したコイルが親血管に逸脱するリスクが高いといった課題がある。
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、瘤の大きさ、コイルの充填率を容易に制御でき、また非ヒト動物の体内への留置手技に伴う血管の攣縮、出血による影響を最低限に抑制し、留置後、短日数で磁気共鳴を用いた撮影画像を取得することが可能であるモデル動物を提供し、またモデル動物の作製方法を提供し、併せてモデル動物を用いた体内留置具の評価方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題解決のためになされた第1発明は、体内留置具の評価に用いるモデル動物であって、金属製の前記体内留置具と、前記体内留置具を充填した化成物製の中空体とを含み、前記中空体が非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置されるモデル動物を構成した(請求項1)。
【0011】
ここで、前記中空体は、切開されていない前記血管に縫いつけられることが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、前記中空体の厚みは、200μm以上700μm以下であることが好ましい(請求項3)。
【0013】
更に、前記中空体は、生体適合性を有する材料であるとともに、磁気共鳴を用いた撮影画像にて映らない材料で形成されることが好ましい(請求項4)。ここで、前記中空体は、シリコンゴムで形成されることがより好ましい(請求項5)。
【0014】
また、前記中空体の内部には、水の磁化率と等価なゲル状物も充填されることも好ましい(請求項6)。ここで、前記ゲル状物は、寒天であることがより好ましい(請求項7)。
【0015】
そして、前記体内留置具は、塞栓治療に用いられるコイルである(請求項8)。
【0016】
また、第2発明は、体内留置具の評価に用いるモデル動物の作製方法であって、金属製の前記体内留置具を用意する工程と、前記体内留置具を充填した化成物製の中空体を用意する工程と、前記中空体を非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置させる工程と、を含むモデル動物の作製方法である(請求項9)。
【0017】
また、第3発明は、体内留置具の評価方法であって、請求項1〜8の何れか1項に記載のモデル動物に対して、磁気共鳴を用いた撮影を行うことで、前記体内留置具を充填する前記中空体及びその中空体周辺の画像を取得する工程、を含む体内留置具の評価方法である(請求項10)。
【0018】
ここで、体内留置具の評価方法において、前記磁気共鳴を用いた撮影は、MRI又はMRAであるが好ましい(請求項11)。
【0019】
更に、前記画像を、少なくとも1枚以上取得し、取得画像におけるアーチファクト画像の発生の有無で、前記体内留置具を評価する工程、を含むことがより好ましい(請求項12)。
【発明の効果】
【0020】
以上にしてなる本発明のモデル動物、モデル動物の作製方法は、化成物製の中空体を用いるので、大きさを正確に制御することができ、体外で中空体に金属製の体内留置具を充填するので、充填作業が簡単であり、充填率も正確に制御でき、そして体内留置具を充填した中空体を非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置するだけであるので、侵襲が少なく、非ヒト動物のストレスを少なくすることができ、留置後、短日数で磁気共鳴を用いた撮影画像を取得することが可能である。また、体内留置具が中空体から脱落するリスクが全くないのである。複数のモデル動物に対して、略均一の中空体が取付けられるので、従来の静脈ポーチ法に比べて、モデル動物の個体差が抑えられ、ひいては評価精度の向上につながるのである。
【0021】
非ヒト動物の切開されていない血管に中空体を縫いつけるだけであるので、短時間の留置手技で済み、留置手技に伴う血管の攣縮、出血による影響を最低限に抑制することができる。また、血管に中空体を縫いつけるので、血管から中空体が剥離する恐れが低減する。
【0022】
また、前記中空体の厚みは、200μm以上700μm以下であると、体内留置具を充填する際に破損するリスクが少なく、また親動脈に最接近させて留置することができ、現実の動脈瘤を模擬することができる。
【0023】
更に、前記中空体は、生体適合性を有する材料であるとともに、磁気共鳴を用いた撮影画像にて映らない材料で形成されることにより、モデル動物に対する侵襲が少なく、また体内留置具自体によるアーチファクトの発生の有無を評価することができる。ここで、中空体は、シリコンゴムで形成されることが、生体適合性や柔軟性及び強度の観点から特に効果的である。
【0024】
また、前記中空体の内部に、水の磁化率と等価なゲル状物も充填することにより、中空体の外形や体内留置具の位置が安定になるとともに、より現実の動脈瘤に近い状態を作ることができる。ここで、前記ゲル状物は、寒天であることが、生体に対する侵襲が少なく、塞栓治療後の動脈瘤の内部に近い状態を再現することができる。そして、前記体内留置具は、塞栓治療に用いられるコイルであると、最も効果を発揮する。
【0025】
また、本発明のモデル動物を用いた体内留置具の評価方法は、体内留置具を充填した化成物製の中空体が非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置したモデル動物を、磁気共鳴を用いた撮影を行うことで、前記体内留置具を充填する前記中空体及びその中空体周辺の画像を取得する工程を含むので、体内留置具によるアーチファクトの発生の有無を調べて簡単に評価することができる。そして、前記磁気共鳴を用いた撮影は、MRI又はMRAであると、動脈を直接撮像することができ、また実際の塞栓治療の際に用いるので信頼性が高い評価となる。
【0026】
更に、体内留置具の評価方法において、前記画像を、少なくとも1枚以上取得し、取得画像におけるアーチファクト画像の発生の有無で、前記体内留置具を評価する工程を含むことにより、簡単且つ確実に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いる中空体を示し、(a)はバルーン部側から見た斜視図、(b)は取付片側から見た斜視図、(c)は断面図である。
【図2】ウサギの動脈側面に、内部にコイルを充填した中空体を縫いつけた状態の部分斜視図である。
【図3】本発明の中空体をディッピング成形するための芯材を示す斜視図である。
【図4】本発明の中空体の製造工程を示し、(a)は芯材の周囲に所定厚さのシリコンゴムの薄膜をディッピング成形した状態の側面図、(b)は芯材の円柱部に相当するシリコンゴムに切片を残して切り込みを入れた状態の側面図、(c)は芯材から中空体を剥離した状態を示す側面図、(d)は切片を切り落とした状態の側面図、(e)は切片を切り落とした部分に開口部を閉じるようにシートを接着した状態の側面図、(f)はシートの余分な部分を切り落とした中空体の完成品を示す側面図である。
【図5】中空体をシリコンチューブの側面に装着した状態の斜視図である。
【図6】中空体を側面に装着したシリコンチューブの内部に擬似血液を流しながらMRIで撮像するための血管模擬ファントム装置を示す簡略図である。
【図7】血管模擬ファントム装置に模擬動脈瘤を装着した状態のMRI画像(Spin Echo)である。
【図8】血管模擬ファントム装置に模擬動脈瘤を装着した状態のMRI画像(TOF:time-of-flight)である。
【図9】ウサギの腹部大動脈の外膜に、シリコン製中空体にAu−28Pt合金コイルを挿入したもの(実施例)と、Pt−8W合金コイルを挿入したもの(比較例)を縫合したモデル動物を用いて取得したTOF−MRA像である。
【図10】ウサギの腹部大動脈の外膜に、シリコン製中空体にAu−28Pt合金コイルを挿入したもの(実施例)と、Pt−8W合金コイルを挿入したもの(比較例)を縫合したモデル動物を用いてデジタルサブトラクション法にて取得した血管造影結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1発明は、体内留置具の評価に用いるモデル動物を提供するものである。そして、モデル動物は、金属製の前記体内留置具と、前記体内留置具を充填した化成物製の中空体とを含み、前記中空体が非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置されることを特徴としている。
【0029】
金属製の前記体内留置具としては、動脈瘤の塞栓治療に用いるコイルを対象としているが、その他、ステントであっても良い。
【0030】
また、前記中空体は、生体適合性を有する材料であるとともに、磁気共鳴を用いた撮影画像にて映らない材料で形成される。ここで、前記中空体は、シリコンゴムで形成されることが最も好ましいが、シリコン以外でも有機化合物で動物生体になじみが良いものを用いることができる。磁気共鳴を用いた撮影画像にて映らない材料として、金属が入ってないものを用いる。着色剤には金属が入っているので、着色された材料は用いない。また、薄く成形できる材料を用いる。前記中空体の厚みは、200μm以上700μm以下が好ましい。中空体の厚みが200μm未満であると薄すぎて体内留置具を充填する際に破れる危険性があり、また中空体の厚みが700μmを超えると厚くなり過ぎて現実の動脈瘤の形態から離れるとともに、親動脈に最接近させて留置することができない。
【0031】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1に本発明で用いる中空体1を示す。前記中空体1は、所定厚さのバルーン部2と該バルーン部2の外面に製造過程で生じる開口部4を塞ぐようにシリコンゴム製のシート3を接着したものである。前記体内留置具5(塞栓形成用コイル)は、前記シート3を接着する前では、前記開口部4からバルーン部2の内部に充填し、前記シート3を接着した後では該シート3に形成した微細穴を貫通させてバルーン部2の内部に充填する。
【0032】
そして、図2に示すように、体内留置具5を充填した中空体1を、切開されていないウサギの腹部の動脈血管6に縫いつけるのである。具体的には、前記中空体1のシート3を前記血管6の外周に沿わせた状態で、バルーン部2を手術用の糸7で血管6に縫いつける。血管6を切開しないので、短時間の留置手技で済み、また留置手技に伴う血管の攣縮、出血による影響を最低限に抑制することができる。ウサギ以外にも、人間の脳の動脈と略同じ太さの動脈を有する非ヒト動物であれば採用できる。
【0033】
そして、第2発明の体内留置具の評価に用いるモデル動物の作製方法は、前述の通りであるが、金属製の前記体内留置具5を用意する工程と、前記体内留置具5を充填した化成物製の中空体1を用意する工程と、前記中空体1を非ヒト動物の血管6又は血管6周囲に配置させる工程とを含むである。ここで、前記中空体1を血管6又は血管6周囲に配置させるには、前述のように手術用の糸7で縫いつけることが好ましいが、手術用の接着剤で接着することも可能である。また、血管6を強く拘束しないような止着具で機械的に血管6の外周面に前記中空体1を保持することも可能である。
【0034】
また、前記中空体1のバルーン部2の内部には、水の磁化率と等価なゲル状物を充填することがある。具体的には、前記ゲル状物として寒天を用いることが好ましい。ここで、血液の磁化率は、水と同程度であるが、個体差によってバラツキがある。本発明は、体内留置具5のアーチファクトの有無を評価するものであるので、中空体1のバルーン部2の内部に磁化率の変動要因になる血液は不要である。そこで、血液に代わるゲル状物、例えば寒天を体内留置具5とともに中空体1のバルーン部2に充填するのである。しかし、バルーン部2にゲル状物を充填しなくても、問題なくMRI画像を撮影することができることを確かめている。
【0035】
次に、前記中空体1の製造方法を簡単に説明する。前記中空体1は、芯材8を用いてディッピング成形によって製造する。ここで用いる芯材8は、円柱体9の外周に球体10を点接触させて固定したものを用いる。前記球体10は、要求されるバルーン部2の直径に応じて変更する。
【0036】
先ず、シリコンゴムのゾル液を入れた槽に前記芯材8を浸漬し、引き上げて乾燥硬化させると、芯材8の表面に均一な厚さのシリコンゴム膜11が形成される(図4(a)参照)。この操作をシリコンゴム膜11の厚さが要求厚さになるまで繰り返す。次に、前記芯材8の円柱体9に相当する部分のシリコンゴム膜11に切片3Aを残して切り込み12を入れる(図4(b)参照)。そして、前記芯材8の球体10からシリコンゴム膜11を剥離し、バルーン部2と切片3Aを有する前駆体を得る(図4(c)参照)。ここで、前記芯材8の円柱体9と球体10の接触部の存在によって前記開口部4が必然的に形成されるので、芯材8からシリコンゴム膜11を剥離する際には、切片3Aを持ってこの開口部4を強制的に拡げて前記球体10を通過させるのである。そらから、前記切片3Aをバルーン部2から切り落とす(図4(d)参照)。次に、前記開口部4を塞ぐようにシリコンゴム製のシート3Bを接着し(図4(e)参照)、最後に余分のシート3Bを切り落として開口部4が略円形のシート3で塞がれた中空体1が完成する(図4(f)参照)。尚、前記円柱体9に複数の球体10を固定することにより、同時に同じ厚さの中空体1を複数個同時に製造することができる。
【0037】
そして、第3発明の体内留置具の評価方法は、前述のモデル動物に対して、磁気共鳴を用いた撮影を行うことで、前記体内留置具5を充填する前記中空体1及びその中空体1周辺の画像を取得する工程を含むものである。ここで、体内留置具の評価方法において、前記磁気共鳴を用いた撮影は、MRI又はMRAである。そして、前記画像を、少なくとも1枚以上取得し、取得画像におけるアーチファクト画像の発生の有無で、前記体内留置具を評価する工程を含むのである。得られた画像データからデータマッピングとアーチファクト抽出を自動的に行える画像処理ソフトを作成して、アーチファクトを抽出して定量化できるようにした。
【0038】
図5及び図6は、血流と同様の水流を発生させて生体内における動脈瘤の環境を模擬できる血管模擬ファントム装置21を示している。この装置で、米国FDAメディカルデバイスMRI適合試験法の中でF2119試験(MR画像アーチファクト試験)を行うことができる。図5は、前記中空体1をシリコンチューブ20の外周面に取付けた状態を示している。この場合、前記切片3Aを有する中空体1を用いると、シリコンチューブ20の外周面に接着し易いが、勿論、前記シート3で開口部4が塞がれた中空体1を取付けることも可能である。そして、図6は血管模擬ファントム装置21を示し、水槽22の内部に前記中空体1を取付けたシリコンチューブ20を配し、該シリコンチューブ20の両端はシリコンチューブからなる供給チューブ23と回収チューブ24を接続して水中にホルダー25で保持し、前記供給チューブ23にはバッファ槽26の水を、心臓の鼓動に似せたポンプ27を介して供給し、前記シリコンチューブ20を通過した水を前記回収チューブ24で前記バッファ槽26に回収する循環系を構成している。前記ポンプ27として、市販の人工心臓を使うことも可能である。
【0039】
ヒトの動脈の血流速度は40cm〜50cm/sである。本血管模擬ファントム装置21は手動ポンプ27を用いて、流れを発生させることができる。実際に血管模擬ファントム装置21を使用し、流速を計測したところ速度は約40cm/sであったので、本装置で実際の血管(動脈)を模擬できると考えられる。次に実際に流れを発生させながらMRIで撮像を行った。Spin Echo で撮像した画像を図7に、臨床において血管撮像に用いられる動脈のみを映し出すTOF(time-of-flight)で撮像した画像を図8に示す。
【0040】
TOFは流れのある溶液を選択的に高輝度で撮像が可能な手法である。本血管模擬ファントム装置21を用いて撮像した画像では、チューブ内の流れのある溶液のみが高輝度で画像化されており、本装置を使用することにより血管の流れを模擬することができた。それにより、モデル動物を用いて評価する前に、本血管模擬ファントム装置21を使用して予備的な評価を行い、体内留置具5のスクリーニングを行うことができる。
【実施例1】
【0041】
2液硬化型シリコンを用いて、内径6mm、肉厚0.3mmの球状の中空体を作製した。Au−28Pt合金の直径0.035mm素線を巻き回して作製した外径0.25mmのストレートコイルを中空体の開口部から内部に挿入した。使用したストレートコイルの数量は1本、長さは81cmである。瘤内体積と使用したストレートコイルの体積(ストレートコイルを外径0.25mmの円筒に近似)の比から算出される塞栓率は35%となった。2液硬化型シリコンから作製したシートを用いて開口部を封じたものを実施例とした。Pt−8W合金を用いた以外は実施例と同様に作製したものを比較例とした。
【0042】
ウサギ(ニュージーランドホワイト種、オス、体重3.5kg)を麻酔下で開腹し、腹部大動脈を露出させた。実施例および比較例のそれぞれを腹部大動脈の外膜に縫合固定後に閉腹し、留置を終了した。留置3日経過後、このモデル動物を用いて、静磁場強度が1.5テスラである超伝導磁石式全身用MR装置を用いて最大値投影法によりTOF−MRA像を取得した。その結果を図9に示す。また、デジタルサブトラクション法にて血管造影を実施した結果を図10に示す。
【0043】
血管造影像からは実施例及び比較例の近傍の腹部大動脈には狭窄が存在せず、良好な血流が得られていることがわかる。TOF−MRA像では比較例近傍の腹部大動脈にアーチファクトが生じている一方、実施例近傍ではアーチファクトが全く生じていない。
【符号の説明】
【0044】
1 中空体
2 バルーン部
3A 切片
3B 広いシート
3 シート
4 開口部
5 体内留置具(塞栓形成用コイル)
6 血管
7 糸
8 芯材
9 円柱体
10 球体
11 シリコンゴム膜
12 切り込み
20 シリコンチューブ
21 血管模擬ファントム装置
22 水槽
23 供給チューブ
24 回収チューブ
25 ホルダー
26 バッファ槽
27 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内留置具の評価に用いるモデル動物であって、
金属製の前記体内留置具と、
前記体内留置具を充填した化成物製の中空体と、
を含み、
前記中空体が非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置されるモデル動物。
【請求項2】
前記中空体は、切開されていない前記血管に縫いつけられる請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】
前記中空体の厚みは、200μm以上700μm以下である請求項1又は2記載のモデル動物。
【請求項4】
前記中空体は、生体適合性を有する材料であるとともに、磁気共鳴を用いた撮影画像にて映らない材料で形成される請求項1〜3の何れか1項に記載のモデル動物。
【請求項5】
前記中空体は、シリコンゴムで形成される請求項4に記載のモデル動物。
【請求項6】
前記中空体の内部には、水の磁化率と等価なゲル状物も充填される請求項1〜5の何れか1項に記載のモデル動物。
【請求項7】
前記ゲル状物は、寒天である請求項6に記載のモデル動物。
【請求項8】
前記体内留置具は、塞栓治療に用いられるコイルである請求項1〜7の何れか1項に記載のモデル動物。
【請求項9】
体内留置具の評価に用いるモデル動物の作製方法であって、
金属製の前記体内留置具を用意する工程と、
前記体内留置具を充填した化成物製の中空体を用意する工程と、
前記中空体を非ヒト動物の血管又は血管周囲に配置させる工程と、
を含むモデル動物の作製方法。
【請求項10】
体内留置具の評価方法であって、
請求項1〜8の何れか1項に記載のモデル動物に対して、磁気共鳴を用いた撮影を行うことで、前記体内留置具を充填する前記中空体及びその中空体周辺の画像を取得する工程、
を含む体内留置具の評価方法。
【請求項11】
前記磁気共鳴を用いた撮影は、MRI又はMRAである請求項10に記載の体内留置具の評価方法。
【請求項12】
前記画像を、少なくとも1枚以上取得し、取得画像におけるアーチファクト画像の発生の有無で、前記体内留置具を評価する工程、
を含む請求項10又は11に記載の体内留置具の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−106830(P2013−106830A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254814(P2011−254814)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人科学技術振興機構による地域イノベーション創出総合支援事業「重点地域研究開発推進プログラム」育成研究採択課題「低侵襲脳血管内治療用デバイスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】