説明

モノリス多孔体の製造方法

【課題】 大型且つ一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体で均質な骨格構造のものをゾルゲル法で製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】 アルコキシシラン類を主成分として含むシリカ前駆体が溶媒相に混合されたゾルを調製するゾル調製工程と、前記ゾルを、所定のゲル化促進温度以上の温度下に維持して、ゾルゲル転移と相分離を並行して発現させ、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル相と前記溶媒相の共連続構造体を形成するゲル化工程と、前記共連続構造体から前記溶媒相を除去する除去工程と、を有し、前記ゾル調製工程において、前記溶媒相を構成する化合物と前記シリカ前駆体の反応系に添加する化合物の内の少なくとも何れか1つの化合物の強冷された固体からなる冷媒を前記溶媒相内に加えることにより、当該ゾル調製工程中における前記ゾルの温度上昇を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル法による3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾルゲル法で合成される3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体は、その分離性能の良さからクロマトグラフィーの分離媒体、吸着材、浄化用触媒などに利用されている。
【0003】
例えば医療用途では抗体精製カラムや病原物質吸着カラムが存在するが、1〜10mL(ミリリットル、cm)程度のクロマトグラフィーの分離媒体と比べて、何れも100mL以上と大型化が要求されている。これは、吸着材等の用途では吸着容量の限界があり、大型のカラムが必要とされているためである。
【0004】
大型のカラムをモノリス多孔体で作成するには、一体型の大型モノリス多孔体を作成するのが望ましいが、モノリス多孔体を用いたカラムでは、成型・乾燥時に歪みや割れが生じるため、分離媒体として使用される100mL以下の小型のものが殆どである。また、小型のモノリス多孔体を組み合わせた大型カラムを作ると、流体の拡散が不十分になったり、偏流が発生したりするため、分離用カラムとしては性能が低下することになる。よって、大型のモノリス多孔体を一体型で製造できることが要求されている。
【0005】
尚、3次元連続網目状構造を有するシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体のゾルゲル法による製造方法については、例えば、下記の特許文献1に開示されたスピノーダル分解ゾルゲル法を使用する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−41374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、一定サイズ以上の一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体をゾルゲル法による一連の工程で製造するには、以下に示すような問題点を解決しなければならない。
【0008】
第1に、シリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体の製造におけるゾルを調製する工程が、シリカ前駆体の加水分解反応及び重縮合反応を伴い、且つ、これらの反応が発熱反応であるため、発生する熱量を適切に制御できないと、均質なゾルが調製される前に、加水分解反応と重縮合反応が急速に進行して、均質なゲルが得られなくなる。そこで、ゾルの調製段階においてゾルを冷却する必要が生じるが、ゾルが一定量以上の体積となり大型化すると、反応系内の冷却効率が悪化し、容器内に温度勾配及び局所的な蓄熱が起こり、部分的に反応が進行し、均質なゲルを得ることができなくなる。
【0009】
第2に、ゾルゲル法の一種であるスピノーダル分解ゾルゲル法では、重縮合反応を起こす化合物をゾルとして混合し、一定温度で加温することで重縮合反応を進行させ、スピノーダル分解を経たゾルゲル相転移によりモノリス多孔体を合成するが、一定サイズ以上のモノリス多孔体を合成するとなると、ゾル内の部位よって温度勾配が生じ、スピノーダル分解の遷移点がずれるため、結果として部位による不均一性が生まれる。そのため、部位によって反応速度に違いが生じ、結果として骨格構造の不均一なモノリス多孔体が合成される。
【0010】
そこで、ゾルの調製段階において調製容器内に冷却装置を投入して、反応系内の冷却効率を高める対策が考えられる。当該冷却装置として、冷却蛇管やコールドフィンガー等、高熱伝導度と高表面積を兼ね備えた冷却効率の高い冷却装置が必要となる。しかし、ゾルが一定量以上の体積となると、当該スケールアップに応じた冷却効率を考慮した高度な化学工学設計及び複雑な構造設計が必要となり、技術的及び経済的に困難さが伴う。また、冷却装置のゾルとの接触面は耐食性のある材質で構成する必要があるが、冷却装置からゾル内へのコンタミネーションは避けられないといった問題点がある。更に、冷却装置を成型容器内に設けてしまうと、ゲル化後に冷却装置を除去するには、ゲルを破壊しなければ除去できないという問題が生じる。しかし、ゲル化を開始する前に冷却装置を除去すると、除去後のゾル内で上述の局所的な蓄熱が起こる可能性がある。一方、ゾルを調製容器の外側から冷却する方法では、ゾルが一定量以上の体積となると冷却効率が悪化し、上述の問題が生じる。
【0011】
更に、ゲル化直前までに成型容器内を攪拌できる装置を用いることで、成型容器内の温度勾配を均一に保つ方法が考えられる。しかし、温度上昇を抑制せずに単に温度勾配を均一に保つだけでは、加水分解反応と重縮合反応の急速な進行を抑制することができないため、ゾルを攪拌する攪拌部を成型容器内に設けてしまうと、ゲル化後には攪拌部がゲル内に閉じ込められてしまい、攪拌部を取り出すにはゲルを破壊する必要が生じる。これに対し、攪拌部をゲル化前に成型容器から取り除くとすれば、ゲル化直前までのゾル内の温度勾配を均一に制御するのが難しくなる。また、ゲルのサイズが大きい場合には、攪拌部を成型容器内でゲルと共に固めた後にゲルを砕いて攪拌部を取り出す方法も考えられるが、攪拌部の形状によっては引き続き起こるゲルの重縮合反応の収縮で、ゲルにヒビ・割れが発生する原因となる。更に、成型容器の形状によって攪拌効率が異なるため、攪拌のために成型容器内の複雑な設計が必要になるという問題点もある。また、上述の冷却装置と攪拌部の両方を成型容器内に設ける解決方法も考えられるが、更に考慮すべき事項が増えるため、両者の設計が一層困難なものとなる。
【0012】
上述のように、一定サイズ以上の一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体をゾルゲル法で製造する場合、ゾルの調製工程における発熱、及び、それに起因するゾル内で生じる不均一な温度分布によって均質なゲルが得られないという問題があったため、従来は、100mL以上の一体型のモノリス多孔体では均質な骨格構造のものは得られていなかった。
【0013】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、大型且つ一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体で均質な骨格構造のものをゾルゲル法で製造するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者等は、大型且つ一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体で均質な骨格構造のものを得るには、ゾルの調製段階においてゾルを高効率に冷却することが必要である点、反応系の外側から冷却装置を用いて高効率な冷却を行うには大きな困難を伴う点に着目して、鋭意研究を行った結果、最終的に解けてゾルと一体化してしまう化合物を強冷して固体化した冷媒を、ゾルを調製する際の溶液内に投入して反応系の内部から冷却するという「内冷式」の冷却方法を用いることで、冷却装置に起因する問題点が全て解消されるとともに、不均質なゲルが合成される要因となる当該溶液内での温度上昇と局所的な蓄熱発生の両方を同時に抑制できることを見出した。
【0015】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係るモノリス多孔体の製造方法は、ゾルゲル法による3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体の製造方法であって、アルコキシシラン類を主成分として含むシリカ前駆体が溶媒相に混合されたゾルを調製するゾル調製工程と、前記ゾルを、所定のゲル化促進温度以上の温度下に維持して、ゾルゲル転移と相分離を並行して発現させ、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル相と前記溶媒相の共連続構造体を形成するゲル化工程と、前記共連続構造体から前記溶媒相を除去する除去工程と、を有し、前記ゾル調製工程において、前記溶媒相を構成する化合物と前記シリカ前駆体の反応系に添加する化合物の内の少なくとも何れか1つの化合物の強冷された固体からなる冷媒を前記溶媒相内に加えることにより、当該ゾル調製工程中における前記ゾルの温度上昇を抑制することを第1の特徴とする。ここで、ゲル化促進温度とは、ゲル化を促進させて実用的な期間内(例えば、数時間程度〜100時間程度以内)で、全てのゾルをゲル化できる温度を意味する。ゲル化促進温度は、例えば25〜60℃の範囲内の温度が想定される。従って、ゲル化促進温度以下でもゲル化はゆっくりと進行し得る。
【0016】
更に、上記製造方法は、上記第1の特徴に加え、前記溶媒相に、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が添加されていることを第2の特徴とする。
【0017】
更に、上記製造方法は、上記第1または第2の特徴に加え、前記ゾルを前記ゲル化促進温度以上の所定温度まで一旦加熱してから、加熱された前記ゾルを、前記ゲル化促進温度以上の温度に制御された成型容器内に移し、前記ゲル化工程を開始することを第3の特徴とする。
【0018】
更に、上記製造方法は、上記何れかの特徴に加え、前記ゾル調製工程において、前記冷媒を前記溶媒相に加えてから、前記シリカ前駆体を前記溶媒相に混合させることを第4の特徴とする。
【0019】
更に、上記製造方法は、上記何れかの特徴に加え、前記ゾル調製工程において、前記冷媒を前記溶媒相に加えてから、前記溶媒相と前記シリカ前駆体の攪拌を開始することを第5の特徴とする。
【0020】
更に、上記製造方法は、上記何れかの特徴に加え、前記ゲル化工程において前記共連続構造体が形成された後、前記ゲル化工程より高温条件下で、前記シリカヒドロゲル相の重縮合反応に対する温度制御を行い、当該重縮合反応を終了させることを第6の特徴とする。
【0021】
更に、上記製造方法は、上記第1乃至第6の何れかの特徴に加え、前記除去工程において、前記共連続構造体に洗浄液を通流させて、或いは、前記共連続構造体を乾燥させて、前記溶媒相を除去することを第7の特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記第1の特徴の製造方法によれば、ゾル調製工程におけるシリカ前駆体の加水分解反応に伴う発熱が、冷媒により抑制され、且つ、当該冷媒は発熱を吸収して溶解することでゾルと一体化できるため、ゲル化開始直前にゾル内から除去する必要もないため、ゲル化開始直前まで、ゾル内の温度上昇と局所的な蓄熱発生の両方を同時に抑制できるため、均質なゾルの状態からゲル化を開始できるようになり、大型且つ一体型の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体で均質な骨格構造のものが得られる。
【0023】
また、上記第2の特徴の製造方法によれば、スピノーダル分解を経たゾルゲル相転移(スピノーダル分解ゾルゲル法)によりモノリス多孔体が合成されるため、3次元連続網目状構造の骨格体に分散して形成される細孔(メソポアとも呼ばれる)と骨格体の隙間である貫通孔(マクロポアとも呼ばれる)の二重細孔構造が得られる。また、スピノーダル分解ゾルゲル法では、細孔と貫通孔の各孔径が独立して制御可能となる。従って、当該二重細孔構造とモノリス多孔体が大型且つ一体型である点の2つの特長を利用することで、モノリス多孔体の用途が大幅に拡大される。例えば、骨格体の貫通孔に向けて露出した表面(貫通孔表面)と、骨格体の細孔に向けて露出した表面(細孔表面)の2種類の表面に、血液中の吸着対象物質に対する吸着能を有する官能基を固定することで、血液浄化用の吸着カラム応用することができ、また、大型且つ一体型であることで、吸着カラムの処理能力を大幅に改善でき、患者への負担が軽減される。
【0024】
また、上記第3の特徴の製造方法によれば、ゾル調製工程でのゾルの温度上昇が適切に抑制されることから、局所的なゲル化の進行をゲル化開始直前まで抑制して大量のゾルを一度に調製でき、ゲル化直前にゲル化促進温度以上の所定温度まで一旦加熱したゾルを必要なサイズのモノリス多孔体の成型容器に分注した上で、ゲル化を開始することが可能となる。これにより、複数の大型モノリス多孔体を同時に効率良く量産できるようになる。
【0025】
また、上記第4または第5の特徴の製造方法によれば、シリカ前駆体の加水分解反応と重縮合反応が開始する前に溶媒相の冷却が開始されるため、ゾル調製工程でのゾルの温度上昇を効果的に抑制でき、上記作用効果を確実に奏することができる。
【0026】
また、上記第6の特徴の製造方法によれば、シリカヒドロゲル相の形成後も継続して進行する重縮合反応に対して温度制御が行われるため、重縮合反応の進行によるシリカヒドロゲル相の収縮を制御でき、当該収縮に起因するゲルの歪みや割れの発生を効果的に抑制できる。
【0027】
また、上記第7または第8の特徴の製造方法によれば、溶媒相を除去するための除去工程を具体的に実現でき、上記作用効果を確実に奏することができる。特に、前記共連続構造体に洗浄液を通流させることにより、ゲルの歪みや割れの発生を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るモノリス多孔体の製造方法を用いて合成されたモノリス多孔体の一実施例のSEM写真
【図2】本発明に係るモノリス多孔体の製造方法に基づく3つの実施例と、3つの比較例の製造条件を対比して一覧表示する対照表
【図3】実施例1、比較例1及び比較例2のゾル調製工程の各条件下で攪拌時間を延長してゾル温度の推移を計測した結果を示す図
【図4】実施例2、実施例3及び比較例3の貫通孔サイズの平均値、標準偏差、変動係数を対比して示す対照表
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るモノリス多孔体の製造方法(以下、適宜「本発明方法」という。)の実施の形態につき、図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態では、モノリス多孔体は、3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなり、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成する実施形態につき説明する。
【0030】
本発明方法は、以下に説明する3つの基本工程であるゾル調製工程、ゲル化工程、及び、除去工程を備えて構成される。以下、各工程の詳細につき説明する。
【0031】
ゾル調製工程では、アルコキシシラン類を主成分として含むシリカ前駆体と、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が添加された溶媒相が混合されたゾルを調製する。本発明方法では、一様な3次元連続網目状構造、つまり、当該骨格構造の隙間に当たる貫通孔の孔径のバラツキの小さい(均質な)、しかも大型のモノリス多孔体を得るために、ゾル調製工程において、ゾル内での濃度勾配や温度勾配の小さい均質なゾルを調製すべく、シリカ前駆体の加水分解反応時の発熱を、後述する内冷式の冷却方法によって抑制する。
【0032】
先ず、シリカ前駆体、溶媒相、及び、内冷式冷却方法に用いる冷媒を準備する。本実施形態では、シリカ前駆体の主成分として、ゾルゲル法によるシリカ原料として一般的に使用され、且つ、加水分解反応時の発熱の大きい、つまり、当該発熱を抑制する必要のあるアルコキシシラン類を想定する。具体的には、加水分解反応時の発熱を抑制する必要のあるシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−イソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリフェノキシシラン等のトリアルコキシシラン類、メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等の使用を想定する。また、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類及びモノアルコキシシラン類への置換官能基として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドデシル、フェニル、ビニル、ヒドロキシル、エーテル、エポキシ、アルデヒド、カルボキシル、エステル、チオニル、チオ、アミノ等に置換したアルコキシシランが含まれる。また、モノアルキル、ジアルキル、フェニルトリエトキシ等の架橋反応速度制御基置換体を含むアルコキシシリケートやその二量体であるジシラン、三量体であるトリシランといったオリゴマー等が、加水分解反応時の発熱を抑制する必要のあるシリカ前駆体として想定される。上述の加水分解性シランは、種々の化合物が市販されており、容易且つ安価に入手可能であり、ケイ素−酸素結合からなる3次元架橋体を形成するゾルゲル反応を制御することも容易である。
【0033】
本実施形態では、溶媒相は、水を溶媒とし、シリカ前駆体の加水分解反応を促進する触媒として機能する酸または塩基、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が当該溶媒に添加され攪拌されて調製される。上記酸の具体例として、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、及び、クエン酸等が、また、上記塩基の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリメチルアンモニウム等のアミン類、tert−ブチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウムヒドロキシド類、及び、ソディウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類等が想定される。また、上記共存物質の具体例として、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドブロック共重合体等のブロック共重合体、セチルトリメチルアンモニウムクロリド等の陽イオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤等が想定される。尚、溶媒として水を使用するが、メタノールやエタノール等のアルコール類が含まれていても良い。
【0034】
更に、本実施形態では、溶媒相に上記触媒及び共存物質以外に尿素を添加する。尿素は60℃以上の温度下で加水分解してアンモニアを生成し、当該アンモニアにより、後述するゲル化工程で合成された湿潤ゲルの骨格体に形成される細孔のサイズが拡張されるため、尿素の添加により当該細孔サイズの制御が可能となる。尚、細孔サイズを制御しない場合には、当該尿素の添加は省略しても良い。また、尿素の添加に代えて、ゲル化工程後に合成されたゲルをアンモニア水に浸漬して、同様の細孔サイズの制御を行っても良い。
【0035】
本実施形態では、内冷式の冷却手段である冷媒として、溶媒である水を強冷して固体化したもの、つまり、氷を使用する。内冷式における冷媒は、反応系内の閉じられた系内で熱の授受を行い、加水分解反応時の発熱を吸収して溶解した後も、反応系を構成する化合物の一部である必要がある。
【0036】
シリカ前駆体、溶媒相、及び、冷媒を準備した後、攪拌容器内に調製された溶媒相を注入するか、攪拌容器内で溶媒相を調製した後、攪拌容器内に冷媒を投入して、溶媒相の温度を0℃付近まで低下させる。尚、冷媒の攪拌容器内への投入は、溶媒相を調製または注入する前、或いは、同時でも良い。冷媒は、攪拌容器内に収容可能な大きさの塊状(例えば、0.1〜30mL程度)のものが溶媒相内で一様に分散するように投入される。攪拌容器の容量は、後述する成型容器の容量の個数倍以上が必要である。一例として、200mLの成型容器が8個の場合には、攪拌容器としては、1.6L以上の容量が必要となる。また、冷媒の総容積と溶媒相の容積の比率は、1:9〜7:3の範囲内が好ましいが、必ずしも当該範囲内に限定されるものではない。
【0037】
冷媒投入後に、上記シリカ前駆体を攪拌容器内の溶媒相に添加して、攪拌を開始する。また、冷媒投入前に、上記シリカ前駆体を溶媒相に添加して、冷媒投入後に攪拌を開始するようにしても構わない。尚、攪拌方法は、攪拌容器に固定された攪拌機構を用いる方法、外部から攪拌容器内に攪拌器を挿入する方法の何れでも良く、また、その攪拌機構や攪拌器も、回転羽根を用いる形態、攪拌容器を振動させる形態等、種々の攪拌形態が利用可能である。但し、攪拌容器に固定された攪拌機構を用いる場合は、攪拌容器から成型容器にゾルを移し替える処理に想定される。
【0038】
攪拌を開始すると、上記シリカ前駆体の加水分解反応により発熱するが、当該発熱によるゾルの温度上昇が冷媒によって抑制されるため、当該温度上昇に起因するゾル内での温度勾配の発生や局所的な蓄熱も抑制される。この結果、攪拌容器内で溶媒相内にシリカ前駆体が一様に混合されるまでの途中段階におけるゾルゲル転移の進行が抑制される。
【0039】
攪拌を開始して、一定時間(例えば、15〜45分)経過後、シリカ前駆体が溶媒相内に均一に拡散されたゾル状態において、当該ゾルを攪拌容器内において、所定のゲル化促進温度以上の温度(以下、便宜的に「ゲル化温度」と称す。例えば、35℃〜45℃の範囲内)まで一旦(例えば、上記一定時間の半分乃至同等程度以内で)加熱する(以下、便宜的に「ゲル化直前加熱」と称す)。尚、当該ゲル化直前加熱時においても攪拌を続行するのが好ましい。ゲル化直前加熱を開始する時点で、冷媒の一部が溶融せずに残っていても、当該加熱によって完全に溶融して溶媒相となる。ゲル化直前加熱の加熱方法は、攪拌容器全体を外部ヒータで加熱する方法、攪拌容器内に投げ込み式のヒータを投入する方法、外部からマイクロ波を照射して分子振動を誘起させて加熱する方法等のゾル全体を均一に加熱できる各種方法が利用できる。ヒータ等の加熱手段の出力や加熱速度(昇温速度)は、攪拌容器内のゾルの容量に応じて決定すれば良い。
【0040】
攪拌容器内でゾルがゲル化温度まで加熱されると、ゾルを攪拌容器から予め湯浴等により当該ゲル化温度またはその近傍温度に温度制御された密閉型成型容器内に移し替える。密閉型成型容器が複数有る場合には、同じく温度制御された複数の成型容器に夫々に分注する。これにより、各成型容器内でゲル化工程が開始する。
【0041】
ゲル化工程が開始すると、ゲル化温度またはその近傍温度に温度制御された密閉型成型容器内において、シリカ前駆体の加水分解反応と重縮合反応が進行する。ここで、溶媒相内には、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が添加されているため、スピノーダル分解が誘起され、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル(湿潤ゲル)相と溶媒相(シリカ前駆体の加水分解反応におけるアルコール類等の副生成物を含む)の共連続構造体が徐々に形成される。尚、成型容器での加熱時間は、成型容器に注入されるゾル容積に依存し、容積が大きい程長時間を要する(後述する実施例1及び2を参照)。ここで注目すべき点は、成型容器が複数の場合でも、各成型容器内に分注されたゾルは、ゾル調製工程において1つの攪拌容器内で調製された結果、使用する各試薬の分量が同じで同様に混合され且つ同様に温度制御されているため、更に、分注後も各成型容器内で同じ温度制御下に置かれるため、各成型容器内でのスピノーダル分解ゾルゲル転移が同様に進行し、その結果合成されるゲルの成型容器間でのバラツキを抑制できる点である。更に、各成型容器内でのゲル化工程では、夫々ゾル調製工程においてゾルゲル転移が進行する前に溶媒相とシリカ前駆体を均一に混合して調製された後一度にゲル化温度まで加熱されたゾルを用いているため、均質な骨格構造のゲルが得られる。
【0042】
更に、シリカヒドロゲルが形成された後も、当該湿潤ゲルの重縮合反応が緩やかに進行して、ゲルの収縮が起こるため、重縮合反応がほぼ終了しゲルの収縮がほぼ終了するまで、重縮合反応に対する温度制御を続行する(適宜、「重縮合反応継続工程」と称す)。当該シリカヒドロゲル形成後の温度制御(加熱)は、ゲル化工程開始時の制御温度(ゲル化温度)より高温に設定する。尚、反応系に対する当該温度制御を精密化することで、ゲルの収縮に伴う歪みや割れを解消できるため、当該温度制御は、精密制御可能な湯浴、恒温層、乾燥機等を利用するのが好ましく、更に、1℃単位で時間制御できるものが好ましい。尚、溶媒相に尿素が添加されている場合は、重縮合反応継続工程中の熱処理により当該尿素からアンモニアが生成され、上述の如く、湿潤ゲルの骨格体に形成される細孔のサイズが制御される。
【0043】
次に、重縮合反応継続工程が終了し、ゲル化工程が完全に終了すると、除去工程において、湿潤ゲルの洗浄と乾燥或いは乾燥のみを行い、添加剤や未反応物等を含む溶媒相を除去する。
【0044】
湿潤ゲルの洗浄(洗浄工程)は、大型化したゲルに対して当該溶媒相を効率的に除去するため、例えば、ゲルを上下の底面が開口した筒状容器等に挿入して側壁を遮蔽することでカラム化し、当該カラム内において洗浄液を一定方向に通流させて行う。洗浄工程によって、溶媒相内に残留した添加剤や未反応物等によって生ずる乾燥時の表面張力を解消し、乾燥時にゲルに歪みや割れが生じるのを抑制できる。洗浄液は、有機溶剤や水溶液等の液体が望ましい。また、有機化合物や無機化合物を溶解させた液体を用いることもできる。更に、洗浄液として酸やアルカリ等のゲルの等電点と異なるpHの溶液を用いても、ゲル内に残留した添加材等を容易に除去することができる。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、ギ酸、炭酸、クエン酸、リン酸を始めとする各種の酸、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水溶性アミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを始めとする各種の塩基を用いることができる。洗浄液の流量や吐出圧はカラムの状態に合わせて設定すれば良い。尚、カラム化の方法は、洗浄液が湿潤ゲル内を一様に通過できる限りにおいて、湿潤ゲルの側壁を遮蔽する形態に限定されるものではない。更に、洗浄工程は、上述の洗浄液を通流させる方式に限定されるものではなく、例えば、大量の洗浄液にゲルを浸漬させる方式でも良い。
【0045】
湿潤ゲルの乾燥(乾燥工程)は、自然乾燥を採用しても良く、更に湿潤ゲルを乾燥させる際に生ずる歪みや割れを解消するために、低表面張力溶媒を用いた乾燥、水熱処理による細孔拡大、凍結昇華による乾燥、超臨界乾燥等を採用するのも好ましい。
【0046】
以上のゾル調製工程、ゲル化工程(重縮合反応継続工程を含む)、及び、除去工程(洗浄工程、乾燥工程)を経て、3次元連続網目状構造の乾燥シリカゲルのモノリス多孔体が得られる。更に、乾燥シリカゲルのモノリス多孔体を焼結することでシリカガラスのモノリス多孔体が得られる。
【0047】
次に、本発明方法の具体的な実施例について、比較例と対照して説明する。以下において、3つの実施例1〜3と3つの比較例1〜3の各製造条件を説明する。
【0048】
〈実施例1〉
攪拌容器内において、蒸留水(溶媒)0.5kgに、共存物質であるポリエチレングリコール(分子量10000)73gと、尿素10g及び触媒である酢酸0.5mLを加え、攪拌して均一溶液(溶媒相)とし、純水で作成した氷(冷媒)0.5kgを加え、系内の温度を5℃以下とした後、テトラメトキシシラン(シリカ前駆体)0.5Lを加えた後、30分間攪拌し、均一なゾルを得た後、投げ込み式ヒータにてゾルを40℃まで攪拌しながら加熱した(ゾル調製工程)。40℃に加熱されたゾルを、予め40℃の湯浴で加熱した200mLの成型容器8個に分注し、密閉して3時間加熱して湿潤ゲルを得た(ゲル化工程)。その後、湿潤ゲルをSUS316製耐圧容器の反応槽に入れ、80℃で12時間反応させた(重縮合反応継続工程)。反応槽を室温まで冷やした後、ゲルを反応槽から取り出して筒状容器に挿入してカラム化し、0.001M(体積モル濃度)の硝酸水溶液10Lを通流させて洗浄した後、ゲルを取り外して自然乾燥させた(除去工程)。その後、乾燥後のシリカゲルを電気炉にて650℃で5時間焼結して、8本のモノリス多孔体(φ50mm×60mm、約120mL)が、割れや歪みが生ずることなく得られた。
【0049】
〈実施例2〉
攪拌容器内において、蒸留水(溶媒)7kgに、共存物質であるポリエチレングリコール(分子量10000)0.78kgと尿素0.1kg及び触媒である酢酸5mLを加え、攪拌して均一溶液(溶媒相)とし、純水で作成した氷(冷媒)3kgを加え、系内の温度を5℃以下とした後、テトラメトキシシラン(シリカ前駆体)5Lを加えた後、30分間攪拌し、均一なゾルを得た後、投げ込み式ヒータにてゾルを40℃まで攪拌しながら加熱した(ゾル調製工程)。40℃に加熱されたゾルを、予め40℃の湯浴で加熱した800mLの成型容器20個に分注し、密閉して12時間加熱して湿潤ゲルを得た(ゲル化工程)。その後、湿潤ゲルをSUS316製耐圧容器の反応層に入れ、80℃で12時間反応させた後、更に150℃で24時間反応させた(重縮合反応継続工程)。反応槽を室温まで冷やした後、全てのゲルを反応槽から取り出し、自然乾燥させた(除去工程)。その後、乾燥後のシリカゲルを電気炉にて650℃で5時間焼結して、20本のモノリス多孔体(φ50mm×200mm、約400mL)が、割れや歪みが生ずることなく得られた。図1に、実施例2のモノリス多孔体のSEM写真を示す。図1より、貫通孔サイズの均一なモノリス多孔体が合成されていることが分かる。実施例2は、上記実施例1に対してゾルの調製量を増加して、合成されるゲルを更に大型化したものである。また、実施例2では、実施例1で採用した洗浄工程を省略している。更に、実施例2では、ゲルの大型化に伴い、重縮合反応継続工程を2段階として、より高温での温度制御を追加している。
【0050】
〈実施例3〉
実施例3は、ゾル調製工程において、均一なゾルを得た後、投げ込み式ヒータにてゾルを40℃まで攪拌しながら加熱する処理を省略した以外は、上記実施例2と同じである。実施例3では、実施例2と同様に、20本のモノリス多孔体(φ50mm×200mm、約400mL)が、割れや歪みが生ずることなく得られた。但し、後述するように、貫通孔径のバラツキは、実施例2に比べて増大した。
【0051】
〈比較例1〉
比較例1は、実施例1に対する第1の比較例であり、ゾル調製工程において、蒸留水(溶媒)を0.5kgとし、純水で作成した氷(冷媒)0.5kgを加えるのに代えて、蒸留水(溶媒)を5℃に冷却して1kgとし、氷(冷媒)の添加を省略した以外は、上記実施例1と同じである。比較例1では、後述するように、ゾル調製工程途中での発熱によりゲル化が進行して、ゾルを成型容器に移し替えることができなかった。従って、所望のモノリス多孔体は得られなかった。
【0052】
〈比較例2〉
比較例2は、実施例1に対する第2の比較例であり、ゾル調製工程において、蒸留水(溶媒)を0.5kgとし、純水で作成した氷(冷媒)0.5kgを加えるのに代えて、蒸留水(溶媒)を1kgとし、氷(冷媒)の添加を省略して、チタン製の冷却蛇管を攪拌容器内に挿入して溶媒相を以下の要領で外冷式により冷却した以外は、上記実施例1と同じである。冷却蛇管は、直径10mm、長さ3.4m、伝熱面積0.1mで、−10℃の液体を送出する冷却能力310Wの冷却器(東京理化器械株式会社製、CCA−1110型冷却水循環装置)に接続して使用した。比較例2でも、後述するように、ゾル調製工程途中での発熱によりゲル化が進行して、ゾルを成型容器に移し替えることができなかった。従って、所望のモノリス多孔体は得られなかった。
【0053】
〈比較例3〉
比較例3は、実施例2に対する比較例であり、実施例1より更に小型のモノリス多孔体を合成する比較例である。比較例3では、ゾル調製工程において、蒸留水(溶媒)10gに、共存物質であるポリエチレングリコール(分子量10000)0.78gと尿素0.2g及び触媒である酢酸5μLを加え、攪拌して均一溶液(溶媒相)とし、氷浴にて系内の温度を5℃以下とした後、テトラメトキシシラン(シリカ前駆体)5mLを加えた後、30分間攪拌し、均一なゾルを得た(ゾル調製工程)。その後、予め40℃の湯浴で加熱した10mLの成型容器に分注し、密閉して12時間加熱して湿潤ゲルを得た(ゲル化工程)。ゲル化工程以降は、実施例2と同様に処理した。比較例3では、ゾルの容積が小さいため、氷浴による外冷式の冷却方法でも、ゾルの加水分解反応による発熱が、実施例1及び2と同様に抑制され、割れや歪みが生じることなく均質な小型(φ8mm×100mm、約5mL)のモノリス多孔体が得られた。
【0054】
図2に、実施例1〜3、比較例1〜3の製造条件の対照表を示す。ゾル容積は概略値を示す。比較例1及び2の「n/a」は、ゾル調製工程途中でゾルゲル転移が進行して、後続の処理が行えなかったことを示している。結果の○及び×は、モノリス多孔体の合成ができた場合に○、途中で失敗した場合に×を記している。以下、実施例1〜3、比較例1〜3の結果について考察する。
【0055】
同じゾル容積(1.6L)の実施例1、比較例1及び2を夫々対比すると、比較例1及び2では、蒸留水の温度を5℃としても(比較例1)、冷却蛇管を攪拌容器内に挿入しても(比較例2)、シリカ前駆体であるテトラメトキシシラン(TMOS)の加水分解反応での発熱が十分に抑制されない結果、ゾルの攪拌途中でゲル化が進行して、成型容器への分注ができなかったのに対して、実施例1の氷を用いた内冷式の冷却方法では、当該発熱の抑制効果を十分に発揮して、所望のモノリス多孔体が得られている。
【0056】
図3に、実施例1、比較例1及び2のゾル調製工程の各条件下で攪拌時間を延長して、ゾル温度(攪拌容器内の温度)の推移を計測した結果を示す。実施例1では、計測開始32分後に冷媒を投入し、39分後にTMOSを添加し、50分後に攪拌を開始した。攪拌開始とともに加水分解反応に伴う発熱が開始しているが、冷媒によって当該発熱が抑制され、ゾル温度は約10℃以下に抑制されており、急速なゲル化の進行が抑制されている。これに対して、比較例1では、50分後の攪拌開始とともに、加水分解反応に伴う発熱が開始し、ゾル温度はその15分後には約55℃まで上昇し、急速なゲル化が進行していることが分かる。また、比較例2では、計測開始とともに外冷式冷却を開始し、49分後にTMOSを添加するとともに、攪拌を開始した。攪拌開始とともに、加水分解反応に伴う発熱が開始し、ゾル温度はその15分後には約27℃まで上昇し、比較例1よりは緩やかではあるが急速なゲル化が進行していることが分かる。
【0057】
次に、実施例1と実施例2を対比すると、実施例2はゾル容積が実施例1の10倍であるが、シリカ前駆体の加水分解反応での発熱が実施例1と同様に抑制されている。つまり、ゾル容積が増大した場合においても、冷媒を溶媒相に投入する内冷式の冷却方法が有効であることが分かる。
【0058】
次に、実施例2と実施例3を、比較例3を基準として対比する。比較例3は、ゾル容積が実施例2及び3の1000分の1と外冷式の冷却方法(氷浴)でも十分にシリカ前駆体の加水分解反応での発熱を抑制できるため基準データとする。図4に、実施例2、実施例3及び比較例3の各20サンプルから夫々ランダムに測定部位を選択して、夫々のSEM写真から貫通孔サイズを、10点の真円を用いてその直径として計測し、それらの平均値、標準偏差、変動係数(CV値:標準偏差/平均値×100)を算出した結果を示す。図3より、1000分の1のゾル容積の比較例3において、変動係数が15%と貫通孔サイズのバラツキの少ない均質なモノリス多孔体が得られている。しかし、ゾル容積が1000倍に増大した実施例2においても、ゾルの冷却に内冷式を採用することで、変動係数が20%と、5mLのモノリス多孔体と略同等の均質なモノリス多孔体が得られていることが分かる。実施例3は、ゲル化工程前のゾル調製工程の最終段階において、ゾルをゲル化温度まで急速に加熱するゲル化直前加熱処理が省略されているため、実施例2と比較して、変動係数が71%と大きくなっており、貫通孔サイズの均一性が低下していることが分かる。ゲル化直前加熱処理を省略することで、貫通孔サイズの均一性が低下するが、ゾル容積が実施例2及び3より小さい場合には、貫通孔サイズの均一性の低下の度合いは緩和されるものと推察される。更に、貫通孔サイズの均一性が厳格に要求されない用途では、ゲル化直前加熱処理を省略しても、割れや歪みが生ずることなく大型のモノリス多孔体を得ることができる。
【0059】
以下に、本発明方法の別実施形態につき説明する。
【0060】
上記実施形態では、ゾル調製工程で調製するゾルを、ゲル化工程を行う複数の成型容器に分注する場合を説明したが、当該ゾルを1つの大きな成型容器に移し替える形態であっても良い。更に、ゾル調製工程で使用する攪拌容器とゲル化工程を行う成型容器を同じ容器として、ゾルの移し替えを省略しても良い。
【0061】
また、上記実施形態では、溶媒相にゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質を添加したスピノーダル分解ゾルゲル法を用いる場合について説明したが、当該共存物質を添加せずに、ゾルゲル転移と相分離を並行して発現させる場合においても、内冷式の冷却方法により、シリカ前駆体の加水分解反応による発熱を抑制することが可能である。
【0062】
また、上記実施形態では、具体的な数値(分量、温度、時間等)を明示した実施例を説明したが、本発明方法は、当該実施例で例示された数値条件に限定されるものではなく、最終的に合成されるシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体の形状、サイズに応じて、詳細な条件は適宜変更される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るモノリス多孔体の製造方法は、ゾルゲル法による3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスの合成に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル法による3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体の製造方法であって、
アルコキシシラン類を主成分として含むシリカ前駆体が溶媒相に混合されたゾルを調製するゾル調製工程と、
前記ゾルを、所定のゲル化促進温度以上の温度下に維持して、ゾルゲル転移と相分離を並行して発現させ、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル相と前記溶媒相の共連続構造体を形成するゲル化工程と、
前記共連続構造体から前記溶媒相を除去する除去工程と、を有し、
前記ゾル調製工程において、前記溶媒相を構成する化合物と前記シリカ前駆体の反応系に添加する化合物の内の少なくとも何れか1つの化合物の強冷された固体からなる冷媒を前記溶媒相内に加えることにより、当該ゾル調製工程中における前記ゾルの温度上昇を抑制することを特徴とするモノリス多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒相に、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が添加されていることを特徴とする請求項1に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記ゾルを前記ゲル化促進温度以上の所定温度まで一旦加熱してから、加熱された前記ゾルを、前記ゲル化促進温度以上の温度に制御された成型容器内に移し、前記ゲル化工程を開始することを特徴とする請求項1または2に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記ゾル調製工程において、前記冷媒を前記溶媒相に加えてから、前記シリカ前駆体を前記溶媒相に混合させることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記ゾル調製工程において、前記冷媒を前記溶媒相に加えてから、前記溶媒相と前記シリカ前駆体の攪拌を開始することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記ゲル化工程において前記共連続構造体が形成された後、前記ゲル化工程より高温条件下で、前記シリカヒドロゲル相の重縮合反応に対する温度制御を行い、当該重縮合反応を終了させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記除去工程において、前記共連続構造体に洗浄液を通流させて、前記溶媒相を除去することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のモノリス多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記除去工程において、前記共連続構造体を乾燥させ、前記溶媒相を除去することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のモノリス多孔体の製造方法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−96960(P2012−96960A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246408(P2010−246408)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【特許番号】特許第4842395号(P4842395)
【特許公報発行日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(308009509)株式会社REIメディカル (7)
【Fターム(参考)】