説明

モルタル吹付の維持補修用注入補剛部材

【課題】加圧力が大きく、また注入補剛部材の直進性にも優れ、さらには、削孔の内壁から突出した岩に当たっても加圧板の全体に変形が及ぶこともなく、地山等から引き抜かなくても構造的に何の問題のないモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材を提供すること。
【解決手段】注入補剛部材1は、鋼製の管状体11の先端部に略円環状の加圧板12を設けたものであり、その加圧板12は、削孔の内径、すなわち穿孔ビットの外径とほぼ同じ大きさを有し、その外周部121から管状体11の外周面まで延びるスリット122が円周方向に適宜間隔で複数形成されていると共に、その外周部121とスリット122との交点にそれぞれ切欠部123が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化したモルタル吹付を維持補修する際に用いる注入補剛部材に関する。
【背景技術】
【0002】
地山などの斜面が風雨などによって崩壊することを防ぐため、その表面にモルタルなどを吹き付けて補強しているが、近年、そのモルタル吹付が老朽化し、また、地山の土砂などの流出によって、モルタル吹付と地山との間に空洞が生じてしまうケースがある。そして、このような老朽化したモルタル吹付や地山に対して維持補修を施すことになるが、その方法としては、例えば、モルタル吹付及び地山に対して削孔を形成し、その削孔にアンカーを挿入すると共に、アンカーを介してグラウトを圧入することで削孔内や空洞にグラウトを充填する方法がある(例えば、特許文献1参照)。なお、その後に、ロックボルトの頭部をナット等の固定手段により固定し、老朽化したモルタル吹付の上から新たなモルタルを吹き付けることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−22775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来の老朽化モルタル吹付の維持補修方法は、アンカーを介して削孔内にグラウトを圧入するため、その削孔内や空洞にグラウトを完全に充填させることは可能だが、削孔の内壁に細かいクラック(亀裂)が発生していた場合には、それらクラックの内部にまでグラウトを完全に充填させることは難しい。
【0005】
そこで、本件出願人は、本願出願時点ではまだ未公開であるが、削孔内に注入したグラウト材を加圧するための加圧板を管状体の先端に設けた注入補剛部材を使用した「老朽化モルタル吹付面の維持補修工法に用いる補強構造体およびその工法」(特願2011−027620号、特許出願日平成23年2月10日)について出願している。この発明によれば、削孔内に圧入した(1次注入)グラウトに対して、注入補剛部材を削孔内に押し込むことでさらに圧力を加え、その加圧された状態でさらにグラウトを圧入する(2次注入)ことから、前述したクラックの内部にまで確実にグラウトを充填させることができる。
【0006】
しかし、この未公開出願に記載された注入補剛部材は、加圧板の外周縁と削孔内周面との間に大きな隙間隙が設けられ、その間隙からグラウトを排出するようにしているため、加圧板については、間隙がある分だけ面積が小さくなってしまい、グラウトを加圧する力が弱い。また、その加圧板の外周縁上には、注入補剛部材における削孔内への押し込み時の直進性を保つと共に、削孔の中心に位置させるためのゴム製の弾性スペーサーが円周方向に等角度の間隔で部分的に設ける例も開示されている。しかしながら、この注入補剛部材はロックボルトの補強機能や防錆効果も兼ね備えていることから、維持補修工事の終了後においても地山等から引き抜かれることはない。そのため、ゴム製の弾性スペーサーは削孔内に埋没された状態になり、構造上、異物として扱われる可能性がある。なお、加圧板の大きさについては、加圧効率等の面から言えば、削孔径とほぼ同じ外径にするのが最も良いが、その大きさにした場合には、前述したように、注入補剛部材を削孔内に押し込む際に、余分なグラウト材を外部に排出させることが困難になる。また、削孔の内壁から硬い岩の一部が突出するような状況もあり、注入補剛部材の押し込み作業に支障が生じる可能性があるとともに、無理に押し込んだ場合にはその岩によって加圧板が変形するおそれもある。この点については、加圧板が1枚の鋼板で形成されていることから、その変形が加圧板全体に及んでしまい、加圧効率の低下に繋がることも想定される。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、加圧力が大きく、また注入補剛部材の直進性にも優れると共に、削孔の中心に位置させるためのスペーサーの機能も兼ね備え、さらには、削孔の内壁から突出した岩に当たっても加圧板全体が変形せず、地山等から引き抜かなくても構造的に何の問題のないモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明のモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材は、鋼製からなる略円環状の加圧板を管状体の先端部に設け、モルタル吹付及び地山に形成した削孔の内部に挿入されたロックボルトを内挿した状態で該削孔内にグラウトを注入すると共に、削孔内に押し込むことでそのグラウトを加圧板により加圧するモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材であって、該加圧板は、削孔の内径とほぼ同じ外径を有し、その外周部から管状体の外周面まで延びるスリットが円周方向に適宜間隔で複数形成されていると共に、その外周部とスリットとの交点にそれぞれ切欠部が形成されていることを特徴とする。これにより、加圧力が大きく、また注入補剛部材の直進性にも優れると共に、削孔の中心に位置させるためのスペーサーの機能も兼ね備え、さらには、削孔の内壁から突出した岩に当たっても加圧板全体が変形せず、地山等から引き抜かなくても構造上、問題のないものとなる。
【発明の効果】
【0009】
加圧板は削孔の内径とほぼ同じ外径を有するので、最大限の加圧効率を発揮することができると共に、削孔の中心に沿って注入補剛管部材を真っ直ぐに挿入することができ、施工性が向上する。また、加圧板の外周部から管状体の外周面まで延びるスリットが円周方向に適宜間隔で複数形成されているので、従来の鋼製の加圧板よりも剛性が低くなり、挿入性が良くなる。また、削孔の内壁から突出する岩によって加圧板の一部分が変形したとしても、その変形の伝達がスリットによって遮断され、加圧板全体に及ばないので、加圧効率の低下を最小限に止めることができる。さらに、外周部とスリットとの交点にそれぞれ切欠部を形成しているので、削孔の内壁から突出する岩があっても回避することが容易であると共に、スリットと切欠部を介してグラウトを外部に確実に排出することができる。また、加圧板にゴム製の弾性スペーサーを設けることが不要になるため、削孔内に異物を埋没させることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】注入補剛部材の実施形態を示す図である。
【図2】この注入補剛部材を使用した維持補修工事の施工手順を示す図である。
【図3】加圧板の変形例を示す図である。
【図4】加圧板の他の変形例を示す図である。
【図5】管状体への加圧板の他の取付け例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明にかかる注入補剛部材の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の注入補剛部材1全体を示す図で、同図(a)は、その正面図、同図(b)はその左側面図である。この注入補剛部材1は、中空長尺の管状体11と、その管状体11の先端に設けられた略円環状の加圧板12とから構成され、管状体11から削孔内に注入したグラウトを加圧板12により加圧するものである。加圧板12は、削孔の内径、すなわち穿孔ビットの外径とほぼ同じ大きさを有する。これにより、削孔内周面との間に設けられる間隙が最小限になるので、削孔の中心に沿って注入補剛部材1を真っ直ぐに挿入することが可能となり、施工性が向上する。さらに、加圧板12の表面積が最大になるので加圧力も改善される。
【0013】
また、加圧板12には、その外周部121から管状体11の外周面まで放射状に半径方向に延びるスリット122が円周方向に等角度の間隔(ここでは例えば、45度とする。)で複数(ここでは例えば、8個とする。)形成されている。そのため、スリット122を設けていない従来の鋼製の加圧板よりも剛性が低くなり、柔軟性を有することから、削孔への注入補剛部材1の挿入性が向上する。また、削孔の内壁から突出する岩によって加圧板12が変形したとしても、スリット122によってその変形が遮断され、加圧板12全体に及ぶことはないので、加圧板12の変形に伴う加圧効率の低下を最小限に止めることができる。
【0014】
さらに、その外周部121とスリット122の交点に、スリット122の幅よりも広い開口を有する切欠部123を形成している。そのため、スリット122と相まって切欠部123を介してグラウトを加圧板12よりも後方の削孔内へ確実に排出することができる。ゆえに、加圧板12は、削孔径またはビット径とほぼ同じ外径に設定してもグラウトの排出性に問題はない。また、各切欠部123は、図1(b)に拡大して示すように三角形の頂点が注入補剛管11側を向き、底辺が外周部121側となるような逆二等辺三角形の形状をなしている。そのため、外周部121側ほど開口の幅が大きくなるので、グラウトの排出性が良く、また、削孔の内壁から突出する岩があっても回避することが可能であり、施工性が向上する。なお、各切欠部123の形状は、逆二等辺三角形状に限らず、半円形状でも、また扇型形状や、4角形、5角形等、特にこだわらないが、前述したように、外周部121側に向かうほど開口の幅が拡がるような形状の方がグラウトの排出性や、削孔の内壁から突出する岩を回避できるため望ましい。また、管状体11は鉄製であるが、加圧板12についてはステンレス製が望ましい。これは、ステンレス製の方が鉄製よりも強度を維持しつつ薄くできるからであり、加圧板12の厚さを薄くすることで、削孔への挿入性が向上する。ただし、加圧板12の厚さをそれほど問題にしないのであれば鉄製でもかまわない。また、この加圧板12には、その裏面側、すなわち管状体11側に、管状体11の内径に応じた外径を有する短尺の接合補助管12aが設けられている。そして、この接合補助管12aの外周面を管状体11の内周面に接着することで、加圧板12は管状体11に固着されている。
【0015】
次に、本発明の注入補剛部材1を使用した維持補修工事の施工手順について図面を参照して説明する。
【0016】
図2(a)〜(d)は、その施工手順を示す図である。まず、地山2の表面にモルタルを吹付けて補強したモルタル吹付3が、経年変化や地震等により地山2の表面とモルタル吹付3の裏面との間に空洞部4が生じている構造物に対し、図2(a)に示すように、先端に穿孔ビットを装着した削孔部材(図示せず。)等によって削孔5を形成し、その削孔5にロックボルト6を挿入する。なお、図示はしないが、ロックボルト6の先端側(孔底側)には、そのロックボルト6を削孔の中心に位置させるためにスペーサーが設けられる。次に、図2(b)に示すように、本発明の注入補剛部材1の後端にグラウト注入具13をセットした後、管状体11の先端の加圧板12をモルタル吹付3に形成した削孔の開口部31に合わせたうえで、ロックボルト6の頭部から挿入し、管状体11の中にロックボルト6が内挿される。そして、管状体11の先端がモルタル吹付3の背面、すなわち、空洞部4に入った時点で注入補剛部材1の挿入作業を一時中断し、注入具13を操作して、グラウトを注入する。グラウトは、管状体11の中を通り、加圧板12の中央から空洞部4や削孔5内に注入される。これを一次注入という。
【0017】
次に、空洞部4や削孔5内にグラウトが充填された後、図2(c)に示すように、注入補剛部材1の挿入作業を再開し、さらに削孔5内に押し込む。これにより、管状体11の先端の加圧板12が削孔5内のグラウトを加圧するので、削孔5の内壁から内部に向けて発生しているクラック(亀裂)51にまでグラウトを圧入することができる。特に、この加圧板12は削孔5の内径とほぼ同じ外径を有するので、最大限の加圧効率を発揮することができると共に、その外周部121がスペーサーの機能も果たすことになる。このことから、削孔5の中心に沿って注入補剛部材1を真っ直ぐに挿入することが可能となり、加圧板の外周縁と削孔内周面との間に大きな間隙が設けられる従来技術よりも施工性が向上する。
【0018】
そして、図2(d)に示すように、削孔5内に注入補剛部材1全体が埋め込まれた後、さらにグラウト注入具13により一定の圧力をかけてグラウトを削孔5内に注入する。これがグラウトの2次注入である。これにより、削孔5だけでなく、その削孔5に連続しているクラック(亀裂)51にまでグラウトを確実に充填させることができる。そして、グラウトの2次注入完了後は、グラウト注入具13を注入補剛部材1から取り外すが、注入補剛部材1については、削孔5内に埋め込んだままの状態で固定される。なお、その後は従来技術と同様に、ロックボルトの頭部をナット等の固定手段により固定した後、老朽化モルタル吹付の上から新たなモルタルを吹き付けて、維持補修工事が完了する。以上のことより、本発明の注入補剛部材1は、それを介して注入されるグラウトが空洞部4や削孔5の全体、さらには削孔5に連続しているクラック51にまで行き渡り固化するので、地山を強固に補強することができる。
【0019】
なお、上述した本発明の実施形態の説明において、スリット122の幅については、特に限定していないが、グラウトの排出性をスリット122によって高めたい場合には、図3に示すように、スリット122の幅Wを広げるようにしても良い。また、切欠部123にてグラウトの排出性を高めたい場合には、図4に示すように、外周部121においてスリット122が形成されていない箇所に切欠部123を設けることもできる。さらに、管状体11の先端部への加圧板12の取り付けは、上述した方法に限らず、図5(a),(b)に示すように、加圧板12の裏面側や表面側に管状体11の外径に応じた内径を有する短尺の接合補助管12bを設けておき、その接合補助管12bの内周面を管状体11の外周面に接着等により固着させても良い。また、接合補助管12bを設けずに、図5(c)に示すように、加圧板12を直接、管状体11の先端面に溶接等で固着するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材は、グラウトへの加圧力が大きく、また注入補剛部材の直進性にも優れ、さらには、削孔の内壁から突出した岩に当たっても加圧板の全体に変形が及ぶこともなく、地山等から引き抜かなくても構造的に何の問題もないため、老朽化したモルタル吹付の維持補修工法だけでなく、新設の法面補強土やロックボルト工等の技術分野にも産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0021】
1…注入補剛部材、11…管状体、12…加圧板、121…外周部、122…スリット、123…切欠部、2…地山、3…モルタル吹付面、4…空洞部、5…削孔、6…ロックボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製からなる略円環状の加圧板を管状体の先端部に設け、モルタル吹付及び地山に形成した削孔の内部に挿入されたロックボルトを内挿した状態で該削孔内にグラウトを注入すると共に、削孔内に押し込むことでそのグラウトを加圧板により加圧するモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材であって、該加圧板は、削孔の内径とほぼ同じ外径を有し、その外周部から管状体の外周面まで延びるスリットが円周方向に適宜間隔で複数形成されていると共に、その外周部とスリットとの交点にそれぞれ切欠部が形成されていることを特徴とするモルタル吹付の維持補修用注入補剛部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36226(P2013−36226A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172911(P2011−172911)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(392012261)東興ジオテック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】