説明

モータにおけるロータ部の浮上量測定方法および浮上量測定装置

【課題】モータのロータ部の浮上量を安定して取得する。
【解決手段】浮上量測定装置5は、ロータ部3を回転するモータ駆動部51および静電容量型変位計である測定機構52を備える。ロータ部3の浮上量を測定する際には、モータ駆動部51によりロータ部3が低速回転され、その間に、ロータ部3に対向する測定機構52の測定部521を介してロータ部3のディスク載置面3112aと測定部521との間の距離に対応する測定値が取得される。その後、ロータ部3がモータ駆動部51により定格回転され、定格回転時での測定値が取得される。低速回転時での測定値をモータ1の停止時の測定値とみなして低速回転時および定格回転時の測定値の差を浮上量とすることにより、ロータ部3の浮上量が安定して求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受機構を有するモータにおけるロータ部の浮上量を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハードディスク駆動装置等におけるモータの軸受機構の1つとして流体動圧軸受機構が採用されており、このような軸受機構では多くの場合、スラスト方向およびラジアル方向の動圧が発生するスラスト間隙およびラジアル間隙が設けられている。モータの起動時には、スラスト方向に発生する動圧によりモータのロータ部がステータ部に対して浮上し、品質管理のためにモータの停止時から定格回転に至るまでのロータ部の浮上量、すなわち、モータの停止時におけるロータ部の高さと定格回転時におけるロータ部の高さとの差の測定(いわゆる、F−H(フライングハイト)測定)が従来より行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、上面および下面に動圧溝が形成されたフランジ部を有するシャフト、および、シャフトが内側に配置されるとともにフランジ部との間に動圧隙間を形成する凹部を有するスリーブにより構成される動圧軸受に対して浮上量の測定が行われる。浮上量を測定する際には、動圧軸受のフランジ部が上側に向けられた状態でスリーブの周囲にタービン羽根が取り付けられ、スリーブの上部近傍に変位センサが設けられる。タービン羽根にはエアが吹きつけられ、これにより、タービン羽根およびスリーブが回転してスリーブがシャフトに対して浮上し、変位センサによりスリーブの変位量を測定してフランジ部の軸方向の浮上量が求められる。
【特許文献1】特許第3912675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スリーブやロータ部には僅かな歪みが存在するため、モータの停止時のロータ部の高さは一定ではなく、実際には上下に僅かにばらつく。したがって、モータの停止時および定格回転時のロータ部の高さの差を浮上量として求める場合、一定の値として浮上量を取得することが困難となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、モータにおけるロータ部の浮上量を安定して取得することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、スラスト動圧軸受機構を備えるモータにおけるロータ部の回転時の浮上量を測定する浮上量測定方法であって、a)モータのロータ部上の測定面に測定機構の測定部を対向させる工程と、b)前記ロータ部の定格回転時に形成されるスラスト間隙の一方側の部材に対して他方側の部材が接触しつつ回転する低速回転にて前記ロータ部を回転させる工程と、c)前記b)工程が行われる間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定する工程と、d)前記ロータ部を前記低速回転の回転数より高い回転数で定格回転させる工程と、e)前記d)工程が行われる間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定する工程と、f)前記c)工程および前記e)工程における測定結果に基づいて前記ロータ部の浮上量を求める工程とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の浮上量測定方法であって、前記b)工程から前記d)工程へと前記ロータ部の回転数が連続的に上昇する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の浮上量測定方法であって、前記e)工程の後に、前記ロータ部の回転を強制的に減速させて停止する工程をさらに備える。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、前記測定機構が、前記測定部を含む複数の測定部を備え、前記a)工程において、前記複数の測定部が前記モータの中心軸を中心とする環状の前記測定面に対向し、前記c)工程および前記e)工程において、前記複数の測定部からの出力に基づいて前記測定面と前記複数の測定部との間の距離を代表する値が前記測定結果として取得される。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、前記モータが記録ディスクの回転に用いられ、前記ロータ部の前記測定面がディスク載置面である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、前記低速回転の回転数が100rpm以下である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、スラスト動圧軸受機構を備えるモータにおけるロータ部の浮上量を測定する浮上量測定装置であって、モータの電機子に電流を供給してロータ部を回転させるモータ駆動部と、前記モータ駆動部による前記ロータ部の回転数を制御する制御部と、前記モータの前記ロータ部上の測定面に対向して配置される測定部とを備え、前記制御部が、前記ロータ部の定格回転時に形成されるスラスト間隙の一方側の部材に対して他方側の部材が接触しつつ回転する低速回転にて前記ロータ部を回転する間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定し、前記ロータ部が前記低速回転の回転数より高い回転数で定格回転する間に前記測定面と前記測定部との間の距離をさらに測定する。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の浮上量測定装置であって、前記モータ駆動部が、前記ロータ部を低速回転する低速回転駆動部と、前記ロータ部を定格回転する定格回転駆動部と、前記低速回転駆動部からの前記電機子への電流供給と前記定格回転駆動部からの電流供給とを切り替える切替部とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低速回転時のロータ部の中心軸方向の位置を停止時の位置とみなすことにより、ロータ部の浮上量を安定して取得することができる。請求項2および請求項3の発明では、浮上量の測定時間を短くすることができる。請求項4の発明では、複数の測定部により測定精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明に係る浮上量測定方法にてロータ部の回転時の浮上量が測定される電動式のモータの一例を示す図である。モータ1はハードディスク駆動装置において記録ディスク9の回転に用いられるものであり、図1では、記録ディスク9を二点鎖線にて示している。モータ1はアウタロータ型のモータであり、固定組立体であるステータ部2、および、回転組立体であるロータ部3を備え、ロータ部3は、作動流体である潤滑油による流体動圧を利用する軸受機構4によりモータ1の中心軸J1を中心にステータ部2に対して回転可能に支持される。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿ってロータ部3側を上側、ステータ部2側を下側として説明するが、中心軸J1は必ずしも重力方向と一致する必要はない。
【0016】
ステータ部2は、ベース部であるベースブラケット21、有底円筒状のスリーブユニット22、および、スリーブユニット22の周囲にてベースブラケット21に取り付けられた電機子23を備え、スリーブユニット22は、ベースブラケット21の中央の穴部212に挿入されて接着剤にて固定される。ベースブラケット21の電機子23とは反対側(すなわち、ベースブラケット21の底部側)には回路基板24が取り付けられており、回路基板24を介して電機子23に電流が供給される。
【0017】
スリーブユニット22は、シャフト32が挿入される円筒状のスリーブ221、スリーブ221の外周および下端部を覆う樹脂製かつ有底円筒状のスリーブハウジング222、および、スリーブハウジング222の内側においてスリーブ221の上方に配置される環状のシールキャップ223を備える。スリーブ221は焼結金属により形成された多孔質部材であり、スリーブハウジング222はスリーブ221に含浸された潤滑油を保持する役割を果たす。シールキャップ223の内側面はシャフト32の外側面に対して傾斜しており、シールキャップ223とシャフト32との間の間隙に形成されたテーパシールにより、潤滑油の流出が防止される。
【0018】
ロータ部3は、記録ディスク9が固定されるロータハブ31、ロータハブ31の中央から下側(すなわち、ステータ部2側)に突出するシャフト32、および、ロータハブ31に取り付けられて中心軸J1の周囲に配置される界磁用磁石33を備え、シャフト32の下端部は略円板状のスラストプレート321となっている。界磁用磁石33は、電機子23との間で中心軸J1を中心とする回転力(トルク)を発生する。
【0019】
ロータハブ31は、シャフト32の上端部から中心軸J1に対して外側に広がる略円板状のハブ本体311、および、ハブ本体311の外周から下側に突出する略円筒状であって内側面に界磁用磁石33が取り付けられるヨーク312を備える。ハブ本体311は、アルミニウム(Al)やアルミニウム合金等により形成されており、記録ディスク9の中央の円形開口が嵌合する凸部3111、および、凸部3111の周囲に位置する載置部3112を備える。載置部3112の上面は、記録ディスク9が載置される中心軸J1を中心とする環状のディスク載置面3112aとなっている。
【0020】
モータ1では、シールキャップ223の内側面とシャフト32の外側面との間の間隙、スリーブ221の内側面とシャフト32の外側面との間の間隙、スリーブ221の下側の端面とスラストプレート321の上面との間の間隙(以下、「第1スラスト間隙411」という。)、および、スラストプレート321の下面とスリーブハウジング222の内底面との間の間隙(以下、「第2スラスト間隙412」という。)に潤滑油が連続して充填される。
【0021】
スリーブ221の内側面の上下には、潤滑油による流体動圧を発生するための溝(例えば、ヘリングボーン溝等)が形成されており、スリーブ221の内側面とシャフト32の外側面との間の間隙にてラジアル動圧軸受機構42が構成され、ロータ部3の回転時にシャフト32が径方向に対して支持される。また、スリーブ221の下端面およびスラストプレート321の下面にも、潤滑油による流体動圧を発生するための溝(例えば、スパイラル状の溝)が形成されており、第1スラスト間隙411および第2スラスト間隙412にスラスト動圧軸受機構41が構成され、ロータ部3の回転時には、第1および第2スラスト間隙411,412にて発生する流体動圧によりロータ部3がステータ部2に対して一定の距離だけ浮上して中心軸J1方向に支持される。
【0022】
以上のように、軸受機構4では、シャフト32、スラストプレート321、および、スリーブユニット22(並びに潤滑油)により軸受機構4のスラスト動圧軸受機構41およびラジアル動圧軸受機構42が構成される。モータ1では、軸受機構4によりロータ部3を潤滑油を介して非接触にて支持することにより、ロータ部3およびロータ部3に取り付けられている記録ディスク9が高精度かつ低騒音にて回転する。
【0023】
次に、モータ1におけるロータ部3の浮上量を測定する装置および浮上量の測定の流れについて説明する。図2は、モータ1および浮上量測定装置5(以下、「測定装置5」という。)を示す図であり、測定装置5は、ロータ部3を回転させるモータ駆動部51、ロータ部3の上方に位置する静電容量型変位計である測定機構52、並びに、モータ駆動部51および測定機構52が接続されてモータ駆動部51によるロータ部3の回転数を制御する制御部53を備える。
【0024】
モータ駆動部51は、モータ1のステータ部2の回路基板24に接続されており、回路基板24を介して電機子23に電流を供給する。測定機構52は2つの変位計を備え、各変位計のプローブの先端が測定部521となっている。測定部521はモータ1のロータ部3上のディスク載置面3112aに対向し、かつ、中心軸J1を挟んで反対側に位置するように配置される。そして、ディスク載置面3112aと測定部521との間の静電容量の変化に基づいて、測定機構52および制御部53によりディスク載置面3112aと測定部521との間の距離が取得される。
【0025】
図3は、測定装置5の構成を示すブロック図であり、破線にて示すモータ駆動部51の内部構成を示すとともにモータ1も図示している。モータ駆動部51は、ロータ部3(図2参照)を30rpmにて低速回転する低速回転駆動部511およびロータ部3を3000rpm〜15000rpmの範囲内の一定の回転数(例えば、4200、5400、7200、10000rpm)にて定格回転する定格回転駆動部512を備える。定格回転駆動部512からモータ1への出力は低速回転駆動部511を介して行われ、低速回転駆動部511内には、低速回転駆動部511からモータ1の電機子23(図2参照)への電流供給と定格回転駆動部512から電機子23への電流供給とを切り替える切替部5111が設けられる。
【0026】
なお、図3は、定格回転駆動部512からモータ1に至る経路の途中に低速回転駆動部511が追加された場合の構成を示しており、モータ1の回転の開始を指示する回転開始スイッチが定格回転駆動部512に設けられる。そして、定格回転駆動部512からの回転開始信号が制御部53に入力されると制御部53の指示により切替部5111が低速回転駆動部511と定格回転駆動部512とを適宜切り替えつつモータ1の回転が行われる。このように、測定装置5は、モータ駆動部51の既存の定格回転駆動部512に低速回転駆動部511を追加した簡易な構造となっている。
【0027】
もちろん、切替部5111は低速回転駆動部511とは別に設けられてもよく、この場合、例えば、制御部53に回転開始を指示するスイッチが設けられ、制御部53がモータ1の回転の開始および定格回転駆動部512と低速回転駆動部511との切替を制御する。
【0028】
図4は、ロータ部3の浮上量の測定の流れを示す図である。まず、図2に示すように、ロータ部3が重力方向に対して上方に向けられた状態で、モータ1のベースブラケット21が支持台8に支持され(ステップS11)、測定部521がロータ部3のディスク載置面3112aに対向するように配置される(ステップS12)。
【0029】
次に、図3に示す定格回転駆動部512の回転開始スイッチがONとされ、この信号が制御部53に入力される。制御部53は切替部5111により低速回転駆動部511とモータ1とを接続して低速回転駆動部511を起動し、これにより、ロータ部3が低速回転する(ステップS13)。低速回転では、第1および第2スラスト間隙411,412(図1参照)にてスラスト動圧がほとんど発生しないため、図1に示す軸受機構4において、スラストプレート321の下面とスリーブハウジング222の内底面とが互いに接触しつつ、すなわち、ロータ部3の定格回転時に形成される第2スラスト間隙412の両側の部材が互いに接触しつつロータ部3が回転する。その結果、ロータハブ31やスリーブ221(図1参照)が有する歪みにより、スリーブハウジング222に対してスラストプレート321が回転に同期して周期的に僅かに上下動する。この上下動では、回転に対して周期的な成分が支配的であり、定格回転時に生じる回転に同期しない成分(例えば、非繰り返し振れ(NRRO)に起因する上下動)は僅かしか含まれない。
【0030】
なお、低速回転時にスラストプレート321の下面とスリーブハウジング222とが接触しているか否かを判断する手法の1つとして、モータ1の電流値に基づく手法を挙げることができる。すなわち、回転数を制御しつつ徐々に低下させるとスラストプレート321とスリーブユニット22とが互いに接触しない状態から互いに接触する状態へと移行する際に電流値が大幅に上昇するため、この時点の回転数以下の回転数を上記低速回転時の回転数として採用することができる。
【0031】
ロータ部3が低速回転する間、制御部53が測定部521からの出力に基づいてディスク載置面3112aと測定部521との間の距離を取得し、2つの測定部521から同時に取得された2つの値の平均値(すなわち、ディスク載置面3112aと2つの測定部521との間の距離の平均値であり、以下、「第1平均値」という。)が求められる。測定部521からの出力に基づく第1平均値の算出は高速に繰り返し行われ、これにより、ロータ部3の周期的な上下動が取得される。さらに、各時刻においてその時刻に至るまでの一定の時間に取得された複数の第1平均値が平均されて第2平均値が求められ、ディスク載置面3112aと測定部521との間の距離を代表する第2平均値が最終な測定結果、すなわち、ロータ部3の高さに対応する値(以下、「測定値」とも呼ぶ。)として繰り返し求められる(ステップS14)。
【0032】
ロータ部3の低速回転が一定時間行われると、制御部53からの信号に従って切替部5111により定格回転駆動部512からの電機子23(図2参照)への電流供給に切り替えられる。これにより、ロータ部3の回転数が連続的に上昇し、ロータ部3の回転は低速回転から定格回転へと移行する(ステップS15)。ロータ部3が一定の回転数の定格回転に達すると、ロータ部3が浮上して図1に示す第1および第2スラスト間隙411,412が形成され、スラストプレート321とスリーブユニット22とが非接触となる。
【0033】
ロータ部3が定格回転する間においても制御部53が測定部521を介してディスク載置面3112aと測定部521との間の距離を高速に繰り返し取得し、ディスク載置面3112aと2つの測定部521との間の距離の第1平均値が求めらるとともに、複数の第1平均値を移動平均した第2平均値であるディスク載置面3112aと2つの測定部521との間の距離を代表する値が、最終的な測定結果として繰り返し求められる(ステップS16)。
【0034】
図5は、第2平均値の変化を示す図である。また、ロータ部3の低速回転時および定格回転時における第1平均値の変化の一部も符合91,92を付して示している。既述のように、ロータ部3の低速回転時では第1平均値が回転に正確に同期して周期的に変動し、第2平均値は一定の値R1として取得される。一方、ロータ部3の定格回転時においても、第1平均値は(回転に同期しない成分を含むがおよそ周期的に)一定の範囲内で変動するため、回転速度が安定した後において第2平均値が一定の値R2として取得される。なお、第1平均値の変動幅(図5に示す波形の振幅)はロータ部3の低速回転時および定格回転時においてほぼ等しい。
【0035】
そして、低速回転時の第2平均値を停止時の測定値(すなわち、ロータ部3の停止時の中心軸J1方向の位置)とみなし、ロータ部3の低速回転時および定格回転時での第2平均値R1,R2の差がロータ部3の浮上量として取得される(ステップS17)。その後、定格回転駆動部512によりモータ1においてロータ部3の回転方向とは逆方向のトルクが発生し、ロータ部3の回転を強制的に減速させてモータ1が停止する(ステップS18)。
【0036】
以上に説明したように、測定装置5では、低速回転時の第2平均値を停止時の測定値とみなしてロータ部3の浮上量が求められるため、従来のように回転停止時の測定値のばらつきに影響されることなくロータ部3の浮上量を安定して取得することができる。その結果、浮上量の測定の繰り返し精度も向上される。また、ロータ部3の回転は、モータ駆動部51により低速回転から定格回転へと連続的に移行され、浮上量測定後には強制的に停止されるため、ロータ部3の浮上量の測定時間が短縮される。さらに、測定装置5では、2つの変位計の測定部521により測定が行われるため、測定精度が向上される。
【0037】
低速回転時のより好ましい測定方法として、ロータ部3の回転の開始から2回転目の1回転(すなわち、2回転目の開始から3回転目の開始に至るまでのロータ部3の1回転)において求められる複数の第1平均値を平均した値を停止時の測定値とみなしてロータ部3の浮上量を求める方法を挙げることができる。ロータ部3の回転の2回転目の1回転において測定を行うことにより、モータ1の回転開始時の不安定な動作が消滅して回転が安定した状態で測定値を取得することができる。なお、ロータ部3が2回転以上回転した後の1回転にて測定を行うことも可能であるが、測定時間(30rpmの場合、1回転あたり2秒)を短縮する観点から2回転目の1回転にて測定を行うことがより好ましい。
【0038】
以上、本発明の一の実施の形態に係る浮上量測定方法および浮上量測定装置について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変更が可能である。
【0039】
例えば、ロータ部3の浮上量を測定する際に、モータ1がステータ部2を上側に向けて配置され、変位計の測定部521と測定面であるディスク載置面3112aとの配置が図2に示す配置から上下が反転されてもよい。この場合、低速回転時に第1スラスト間隙411においてスラストプレート321がスリーブ221に接触しつつ回転に同期して上下動する。上記低速回転を一般的に表現すれば、定格回転時にスラスト間隙を形成する両側の部材が接触しつつ相対回転し、一方側の部材に対して他方側の部材が回転に同期して周期的に上下動する状態と表現することができる。
【0040】
上記実施の形態では、ロータ部3の低速回転における回転数は30rpmとされるが、一般的なモータの場合、回転数が100rpm程度であってもロータ部とステータ部とが接触しつつ回転するため、低速回転時の回転数は100rpm以下、より好ましくは、回転数は50rpm以下の他の回転数とされてよい。
【0041】
測定機構52の変位計の測定部521の数は、2に限定されず3以上であってもよく、好ましくは、これらの測定部521はディスク載置面3112aに対して周方向に等間隔に配置される。また、1つの測定部521のみで浮上量が求められてもよく、この場合、測定部521はモータ1の中心軸J1上に配置されてロータハブ31の中心位置と測定部521との間の距離が測定されることが好ましい。
【0042】
複数の測定部521と測定面(ディスク載置面3112a)との間の距離の測定は、上記第1平均値および第2平均値を求める手法に限定されず、少なくとも1つの測定部からの出力に基づいてこれらの測定部と測定面との間の距離を代表する値が測定結果として取得されるのであれば様々な手法にて測定が行われてよい。例えば、各測定部521において、繰り返し得られる値から移動平均値が求められ、複数の測定部521にて得られた移動平均値を平均した値が測定部と測定面との間の距離とされてもよい。応答速度が遅い変位計が利用される場合は、得られる値自体が時間にて平均化した値とみなすことができ、この場合、複数の測定部にて得られた値の平均値が測定部と測定面との間の距離を代表する値(すなわち、測定値)として扱うことができる。なお、代表値は平均値に限定されず、重み付け平均や中間値等であってもよい。そして、少なくとも1つの測定部と測定面との間の代表値が取得されることにより、低速回転時および定格回転時において測定結果に基づいてロータ部3の浮上量を求めることが実現される。
【0043】
上記実施の形態では、低速回転時の測定の後に定格回転時の測定が行われるが、これらの測定の順序は逆とされてもよく、この場合、ロータ部3が定格回転された後に、回転数を漸次減少させて低速回転へと至る。なお、制御上の理由により高速回転から低速回転への移行よりも低速回転から高速回転への移行の方が速やかに行うことができ、かつ、先に低速回転を行うと最後の停止を急峻に行うことができるため、先に低速回転が行われることが好ましい。また、ロータ部3の浮上量の算出は、ロータ部3の回転を停止する前に行われても停止した後に行われてもよい。なお、ロータ部3の回転の停止は、外部からブレーキ部材を接触させて強制的に行われてもよい。
【0044】
モータ1に記録ディスク9が載置された状態にてロータ部3の浮上量が測定される場合、記録ディスク9の表面が測定面とされてもよく、また、測定機構としてレーザ変位計等の他の変位計が採用されてよい。
【0045】
なお、測定装置5ではロータ部3の回転数が制御部で制御されるため、記録ディスク9に印を設けて光電センサ等により回転数を別途測定する必要がない。したがって、記録ディスク9がロータ部3に載置されず、回転計測用の印を設けることができない場合であっても、測定装置5ではディスク載置面3112aに対して測定を行うのみで浮上量を適切に取得することができる。また、仮に、制御部53から低速回転駆動部511を省き、記録ディスク9に印を設けてロータ部3の停止直前を検出して停止直前の測定機構52からの出力に基づいて停止時のロータ部3の高さを求めようとした場合、定格回転から停止直前に至るまで長い時間が必要となり、さらに、得られる値もある程度ばらつくため、迅速に安定した測定値を取得することができない。
【0046】
モータ1のスラスト動圧軸受機構として第1および第2スラスト間隙のいずれか一方のみが形成されるスラスト動圧軸受機構が採用されてもよく、さらに、ロータハブとスリーブの上面との間にスラスト間隙が形成されるスラスト動圧軸受機構が採用されてもよい。また、軸受機構として空気を作動流体として利用する、いわゆるエア動圧軸軸受が利用されてもよい。このように、上記実施の形態の浮上量を測定する手法は、様々な軸受機構を有するモータの測定に利用することができる。
【0047】
測定対象となるモータは、界磁用磁石が電機子の内側に配置されたインナーロータ型のモータや複数の記録ディスクが搭載されるモータであってもよく、さらに、ハードディスク駆動装置以外の他の装置(例えば、リムーバルディスク駆動装置等)の駆動源として利用されるモータであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】モータの構成を示す図である。
【図2】浮上量測定装置およびモータを示す図である。
【図3】浮上量測定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】浮上量測定の流れを示す図である。
【図5】ロータ部の高さに対応する第2平均値の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 モータ
3 ロータ部
9 記録ディスク
23 電機子
41 スラスト動圧軸受機構
51 モータ駆動部
52 測定機構
53 制御部
221 スリーブ
222 スリーブハウジング
321 スラストプレート
411 第1スラスト間隙
412 第2スラスト間隙
511 低速回転駆動部
512 定格回転駆動部
521 測定部
3112a ディスク載置面
5111 切替部
J1 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラスト動圧軸受機構を備えるモータにおけるロータ部の回転時の浮上量を測定する浮上量測定方法であって、
a)モータのロータ部上の測定面に測定機構の測定部を対向させる工程と、
b)前記ロータ部の定格回転時に形成されるスラスト間隙の一方側の部材に対して他方側の部材が接触しつつ回転する低速回転にて前記ロータ部を回転させる工程と、
c)前記b)工程が行われる間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定する工程と、
d)前記ロータ部を前記低速回転の回転数より高い回転数で定格回転させる工程と、
e)前記d)工程が行われる間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定する工程と、
f)前記c)工程および前記e)工程における測定結果に基づいて前記ロータ部の浮上量を求める工程と、
を備えることを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の浮上量測定方法であって、
前記b)工程から前記d)工程へと前記ロータ部の回転数が連続的に上昇することを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の浮上量測定方法であって、
前記e)工程の後に、前記ロータ部の回転を強制的に減速させて停止する工程をさらに備えることを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、
前記測定機構が、前記測定部を含む複数の測定部を備え、
前記a)工程において、前記複数の測定部が前記モータの中心軸を中心とする環状の前記測定面に対向し、
前記c)工程および前記e)工程において、前記複数の測定部からの出力に基づいて前記測定面と前記複数の測定部との間の距離を代表する値が前記測定結果として取得されることを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、
前記モータが記録ディスクの回転に用いられ、
前記ロータ部の前記測定面がディスク載置面であることを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の浮上量測定方法であって、
前記低速回転の回転数が100rpm以下であることを特徴とする浮上量測定方法。
【請求項7】
スラスト動圧軸受機構を備えるモータにおけるロータ部の浮上量を測定する浮上量測定装置であって、
モータの電機子に電流を供給してロータ部を回転させるモータ駆動部と、
前記モータ駆動部による前記ロータ部の回転数を制御する制御部と、
前記モータの前記ロータ部上の測定面に対向して配置される測定部と、
を備え、
前記制御部が、前記ロータ部の定格回転時に形成されるスラスト間隙の一方側の部材に対して他方側の部材が接触しつつ回転する低速回転にて前記ロータ部を回転する間に、前記測定面と前記測定部との間の距離を測定し、前記ロータ部が前記低速回転の回転数より高い回転数で定格回転する間に前記測定面と前記測定部との間の距離をさらに測定することを特徴とする浮上量測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の浮上量測定装置であって、
前記モータ駆動部が、
前記ロータ部を低速回転する低速回転駆動部と、
前記ロータ部を定格回転する定格回転駆動部と、
前記低速回転駆動部からの前記電機子への電流供給と前記定格回転駆動部からの電流供給とを切り替える切替部と、
を備えることを特徴とする浮上量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−92435(P2009−92435A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261328(P2007−261328)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】