説明

モータ

【課題】モータケース内から防水用グロメットを通して径方向に導出されたリード線を、リード線の被覆を損傷することなくモータケースの軸線方向に引き出すことができるようにしたモータを提供する。
【解決手段】モータケース1から防水用グロメットを通してリード線3,4を引き出す。モータケースの外周に形成した張出部103aに、長孔部701とこの長孔部の中間部を外側に開口させる開口部702とを有する切欠き部7を設け、この切欠き部7の長孔部701内に嵌合させて保持させた軸方向保持用グロメット6を通してリード線3,4をモータケースの軸線方向に引き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ本体につながるリード線がモータケースの軸線方向に沿って引き出されるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機のチルト機構の油圧ユニットを駆動するモータにおいては、そのモータ本体につながる複数のリード線をモータケースの軸線方向に沿って引き出すことが必要とされる。この種のモータのリード線引き出し構造としては、特許文献1に示されているように、モータケースの外周に形成した鍔部に、各リード線をモータケースの軸線方向に向けた状態できつく嵌合させるリード線保持溝を設けて、モータケースからその径方向に沿って引き出された各リード線を軸線方向に沿うように曲げて、上記リード線保持溝内にきつく嵌合させることにより、各リード線をモータケースの軸線方向に引き出すようにしたものが知られている。
【0003】
また特許文献2に示されているように、モータケースからその径方向に引き出されるリード線の向きを軸線方向に変えるように湾曲した案内孔を有する特殊な形状のグロメットをモータケースに取り付けて、該グロメットを通してリード線をモータケースの軸線方向に引き出すようにしたものも知られている。
【特許文献1】特開2005−65469号公報
【特許文献2】実開平4−47364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されたリード線引き出し構造では、リード線がリード線保持溝から外れないようにするために、リード線保持溝の幅をリード線の外径よりも小さくする必要があったため、リード線をリード線保持溝内に係入する際にリード線の絶縁被覆に傷がつくことがあった。またモータを所定の箇所に取り付けた状態で、リード線に外力が働き、リード線がリード線保持溝に対して動いたときにリード線の被覆がリード線保持溝の内面に対して擦れるため、リード線の被覆に傷がつくことがあった。
【0005】
船外機のチルト機構を駆動するモータのように、海水等が触れるおそれがあるモータにおいては、耐食性を高めるために、モータケースの外面に防食塗装を施すことが行われるが、リード線の被覆に傷があると、防食塗装を施す際に加えられる熱によりリード線の被覆が傷の部分で破れるおそれがある。従って、リード線の被覆はできるだけ傷がつかないようにしておくことが好ましい。
【0006】
また特許文献2に示されたように湾曲した案内孔を有する特殊なグロメットを用いた場合には、グロメットの案内孔に各リード線を挿入するのに手間がかかるため、リード線の引き出し作業を能率良く行うことができないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、リード線を挿通させる孔が湾曲した特殊な形状のグロメットを用いることなく、しかもリード線の被覆を傷つけることなく、リード線をモータケースの軸線方向に沿って引き出すことができるようにしたモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステータとロータとを有するモータ本体を収容したモータケースに防水用グロメットが取り付けられ、モータ本体につながるリード線が防水用グロメットを通してモータケースの径方向に導出されているモータを対象とする。
【0009】
本発明においては、横方向寸法が縦方向寸法よりも長い横長の横断面形状を有する胴部と該胴部の軸線方向の両端からそれぞれ突出した一対の鍔部と前記胴部を軸線方向に貫通した複数のリード線挿通孔とを有する軸方向保持用グロメットが設けられて、複数のリード線を軸方向支持用グロメットのリード線挿通孔に通した状態で軸方向保持用グロメットが防水用グロメットから導出されたリード線に取り付けられる。
【0010】
また本発明においては、モータケースの外周の防水用グロメットに隣接する位置に外側に張り出した張出部が設けられて、軸方向保持用グロメットの胴部の軸線をモータケースの軸線と平行に向けた状態で該胴部を嵌合させる横長の長孔部と長孔部の長手方向の中間部をモータケースの径方向の外側に開口させる開口部とを有する切欠き部がモータケースの張出部に設けられている。そして、軸方向保持用グロメットの胴部の長手方向を切欠き部の長孔部の長手方向に対して直角な方向に向けた状態で該胴部を切欠き部の開口部から切欠き部内に挿入した後該グロメットの胴部の長手方向を切欠き部の長孔部の長手方向に一致させるように軸方向保持用グロメットをその軸線の回りに回転させることにより軸方向保持用グロメットの胴部を切欠き部の長孔部内に嵌合させ得るように、切欠き部の各部の寸法が設定され、軸方向保持用グロメットの胴部が切欠き部の長孔部内に嵌合されてリード線がモータケースの軸線に沿う方向に引き出されている。
【0011】
上記のように構成すると、リード線は、弾力性を有するグロメットのリード線挿通孔内を通してモータケースの軸線方向に引き出されるため、リード線の被覆を損傷することなくリード線の引き出しを行うことができる。またリード線はグロメットにより保持されているため、モータ使用時にリード線に外力が加わった際にリード線の被覆が擦れて損傷するおそれをなくすことができる。
【0012】
更に、軸方向保持用グロメットのリード線挿通孔は湾曲していないため、該リード線挿通孔へのリード線の挿入は容易に行うことができ、また軸方向保持用グロメットは、その胴部の長手方向を切欠き部の長孔部の長手方向に対して直角な方向に向けた状態で該胴部を切欠き部の開口部から切欠き部内に挿入した後、該グロメットの胴部の長手方向を切欠き部の長孔部の長手方向に一致させるようにグロメットをその軸線の回りに回転させることにより、切欠き部内に無理なく保持させることができるため、その取り付けを容易に行うことができ、リード線の引き出し作業を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、モータケースから防水用グロメットを通して径方向に引き出されたリード線を、弾力性を有する軸方向支持用グロメットのリード線挿通孔を通してモータケースの軸線方向に引き出す構造としたため、リード線の被覆を損傷することなくリード線の引き出しを行うことができる。またリード線はグロメットを介してモータケースに保持されているため、モータの使用時にリード線に外力が加わった際にリード線の被覆が擦れて損傷するおそれを無くすことができる。
【0014】
更に本発明によれば、軸方向保持用グロメットのリード線挿通孔へのリード線の挿入を容易に行うことができ、また軸方向保持用グロメットは、その胴部をモータケースに設けられた切欠き部の開口部から該切欠き部内に挿入した後、胴部をその軸線の回りに回転させることにより、切欠き部内に容易に保持させることができるため、リード線の引き出し作業を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明に係わるモータの一構成例を示したもので、図1は半部を断面して示した正面図、図2は図1の左側面図である。これらの図において1はモータケース、2はモータケース1内に収容されたモータ本体である。モータケース1は、一端が端部壁101aにより閉じられ、他端が開口した円筒状のケース本体101と、該ケース本体の開口部を閉じるエンドカバー102とからなっている。ケース本体101の開口端には鍔部103が設けられ、該鍔部の外周部に、3つの張出部103aないし103cが120°間隔で設けられている。張出部103aないし103cをそれぞれ貫通した3本のボルト104がエンドカバー102にねじ込まれ、これらのボルトによりケース本体の鍔部103とエンドカバー102とが締結されている。張出部103aは、後記する軸方向支持用グロメットを保持するため、他の張出部103b及び103cよりも、モータケースの周方向に大きな寸法を有するように形成されている。
【0016】
モータ本体2は、カバー本体101の内周に嵌合された円筒状のヨーク201とこのヨークの内周に固定された永久磁石202とからなるステータ203と、一端がエンドカバー103の中央部に軸受け205により回転自在に支持され、他端がカバー本体101の端部壁101aの中央部に設けられた凹部内に保持された軸受け206により回転自在に支持されて、一端がエンドカバー102の中央部から外側に導出された回転軸207と、回転軸207に取り付けられたロータ208とを備えている。
【0017】
ロータ208は、ステータ203の内側に配置されて回転軸207に取り付けられた電機子鉄心209と、電機子鉄心209のスロットに巻回された電機子コイル210とからなっていて、電機子鉄心209の外周に設けられた磁極部がステータ203の磁極に所定のギャップを介して対向させられている。
【0018】
回転軸207には電機子コイル210に接続された整流子211が取り付けられ、この整流子には、カバー本体101に固定されたブラシホルダ212に保持されたブラシ213が接触させられている。
【0019】
ブラシ213は180°の角度間隔をもって一対設けられていて、これらのブラシに一端が接続された2本のリード線3及び4がモータケース1から外部に導出されている。図示の例では、カバー本体101の鍔部103に設けられた張出部103aに隣接させて、エンドカバー102の周壁部を貫通したグロメット取付孔が設けられ、このグロメット取付孔内に取り付けられた防水用グロメット5のリード線挿通孔を通してリード線3及び4がモータケースの径方向に導出されている。防水用グロメット5は、ゴムなどの弾性を有する絶縁材料からなっていて、グロメット取付孔内に圧縮された状態で取り付けられている。
【0020】
本発明においては、防水用グロメット5を通して導出されたリード線3及び4に軸方向保持用グロメット6が取り付けられている。図4に示されているように、軸方向保持用グロメット6は、ゴムなどの弾性を有する絶縁材料からなっていて、横方向寸法A1が縦方向寸法B1よりも長い横長の横断面形状を有する胴部600と、この胴部の軸線方向の両端からそれぞれ突出した一対の鍔部601,602とを一体に有しており、胴部600には、該胴部を軸線方向に貫通した複数(図示の例では2つ)のリード線挿通孔603,604が形成されている。本実施形態では、軸方向保持用グロメット6の胴部600の横断面の輪郭形状が、長方形の4つの角度部に丸みをつけた形状に形成されている。この軸方向保持用グロメット6は、リード線3及び4をそれぞれリード線挿通孔603及び604に通した状態で防水用グロメット5から導出されたリード線3及び4に取り付けられる。
【0021】
上記のようにしてリード線3及び4に取り付けられた軸方向保持用グロメット6をモータケースに取り付けるため、モータケースの外周の防水用グロメット5に隣接する位置から外側に張り出した状態で設けられた張出部103aに、切欠き部7が設けられている。図5に示されているように、この切欠き部7は、、軸方向保持用グロメット6の軸線をモータケース1の軸線方向に向けた状態で該胴部を嵌合させる横長の長孔部701と、長孔部701の長手方向の中間部をモータケースの径方向の外側に開口させる開口部702とを有している。長孔部701の横断面の輪郭形状は、軸方向保持用グロメット6の胴部600の横断面の輪郭形状と同様の形状に形成されている。
【0022】
そして、本発明においては、図6に示すように、軸方向保持用グロメット6の胴部600の長手方向を切欠き部7の長孔部701の長手方向に対して直角な方向に向けた状態で該胴部600を切欠き部の開口部702から切欠き部7内に挿入した後、グロメット6の胴部600の長手方向を切欠き部7の長孔部701の長手方向に一致させるようにグロメット6をその軸線の回りに回転させることにより、図2及び図3に示したようにグロメット6の胴部600を切欠き部の長孔部701内に嵌合させることができるように、切欠き部7の長孔部701及び開口部702の寸法が設定され、図2及び図3に示したように、グロメット6の胴部600が切欠き部7の長孔部701内に嵌合された状態で、リード線3及び4がモータケース1の軸線に沿う方向に引き出されている。
【0023】
上記のようにしてグロメット6を切欠き7内に挿入するためには、切欠き部7の開口部702の開口寸法Cを、グロメット6の胴部600の縦方向寸法(幅寸法)B1に等しくするか、またはB1−0.2×B1≦C≦B1+0.2×B1の範囲に設定するのが好ましい。
【0024】
また切欠き部7の長孔部701の横方向寸法(長手方向寸法)A2は、グロメット6の胴部600の横方向寸法A1の1.1倍ないし1.4倍(A1×1.1≦A2≦A1×1.4)の範囲に設定するのが好ましく、切欠き部7の長孔部701の縦方向寸法(幅寸法)B2は、グロメット6の胴部600の縦方向寸法B1の1.05ないし1.2倍(B1×1.05≦B2≦B1×1.2)の範囲に設定するのが好ましい。
【0025】
更に、グロメット6の硬度は、Hs 30〜70の範囲にあることが望ましい。
【0026】
本発明の好ましい実施例では、グロメット6の寸法を、A1=12mm、B1=6.5mmとし、切欠き部7の寸法を、A2=16mm,B2=7mm,C=6.5mmとした。
【0027】
上記のように構成すると、リード線3及び4は、弾力性を有するグロメット6のリード線挿通孔602及び603内を通してモータケースの軸線方向に引き出されるため、リード線3及び4の被覆を損傷することなくリード線の引き出しを行うことができる。
【0028】
またリード線3及び4はグロメット6により保持されているため、モータ使用時にリード線3及び4に外力が加わった際に、リード線の被覆が擦れて損傷するおそれをなくすことができる。
【0029】
更に、軸方向保持用グロメット6のリード線挿通孔602及び603は、胴部600を軸線方向に貫通していて、湾曲していないため、リード線挿通孔602及び603へのリード線の挿入は容易に行うことができる。また軸方向保持用グロメット6は、その胴部の長手方向を切欠き部7の長孔部701の長手方向に対して直角な方向に向けた状態で該胴部を切欠き部の開口部から切欠き部内に挿入した後、該グロメットの胴部600の長手方向を切欠き部の長孔部701の長手方向に一致させるようにグロメット6をその軸線の回りに回転させることにより、切欠き部内に無理なく保持させることができるため、その取り付けを容易に行うことができ、リード線3,4の引き出し作業を簡単にすることができる。
【0030】
上記の実施形態では、軸方向保持用グロメット6の胴部600の横断面の輪郭形状を、長方形の角部に丸みをつけた形状としたが、軸方向保持用グロメット6の胴部600の横断面の輪郭形状は、横長であれば良く、胴部600の横断面の輪郭形状は、楕円形や長円形とすることもできる。
【0031】
上記の例では、モータケースから2本のリード線を引き出しているが、3本以上のリード線を引き出す場合にも本発明を適用できるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の半部を断面して示した正面図である。
【図2】図1の左側面図である。
【図3】図1のモータの要部の拡大上面図である。
【図4】(A)及び(B)はそれぞれ本発明の実施形態で用いるグロメットの正面図及び底面図である。
【図5】図1のモータに設けられる切欠き部を拡大して示した正面図である。
【図6】本発明の実施形態において、グロメットを切欠き部に挿入する方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 モータケース
101 ケース本体
102 エンドカバー
103 鍔部
103a 張出部
104 ボルト
2 モータ本体
203 ステータ
207 回転軸
208 ロータ
3,4 リード線
5 防水用グロメット
6 軸方向保持用グロメット
600 胴部
601,602 鍔部
603,604 リード線挿通孔
7 切欠き部
701 長孔部
702 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータとを有するモータ本体を収容したモータケースに防水用グロメットが取り付けられ、前記モータ本体につながるリード線が前記防水用グロメットを通して前記モータケースの径方向に導出されているモータにおいて、
横方向寸法が縦方向寸法よりも長い横長の横断面形状を有する胴部と該胴部の軸線方向の両端からそれぞれ突出した一対の鍔部と前記胴部を軸線方向に貫通した複数のリード線挿通孔とを有する軸方向保持用グロメットが設けられて、前記複数のリード線を前記軸方向支持用グロメットのリード線挿通孔に通した状態で前記軸方向保持用グロメットが前記防水用グロメットから導出されたリード線に取り付けられ、
前記モータケースの外周の前記防水用グロメットに隣接する位置に外側に張り出した張出部が設けられて、前記軸方向保持用グロメットの胴部の軸線を前記モータケースの軸線方向に向けた状態で該胴部を嵌合させる横長の長孔部と前記長孔部の長手方向の中間部を前記モータケースの径方向の外側に開口させる開口部とを有する切欠き部が前記モータケースの張出部に設けられ、
前記軸方向保持用グロメットの胴部の長手方向を前記切欠き部の長孔部の長手方向に対して直角な方向に向けた状態で該胴部を前記切欠き部の開口部から前記切欠き部内に挿入した後該軸方向保持用グロメットの胴部の長手方向を前記切欠き部の長孔部の長手方向に一致させるように前記軸方向保持用グロメットをその軸線の回りに回転させることにより前記胴部を前記切欠き部の長孔部内に嵌合させ得るように、前記切欠き部の各部の寸法が設定され、
前記軸方向保持用グロメットの胴部が前記切欠き部の長孔部内に嵌合されて前記リード線が前記モータケースの軸線に沿う方向に引き出されていること、
を特徴とするモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−159195(P2007−159195A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347731(P2005−347731)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】