説明

ヨーク応力センサの校正方法

【課題】ヨーク応力センサの校正を簡易且つ迅速に、しかも高い信頼性の下で行い得る校正方法を提案することを目的とする。
【解決手段】弁棒の圧縮又は引張が開放された「0点域」とヨークに略一定の応力が作用している「安定域」の双方において、弁軸力センサによって弁軸力を、ヨーク応力センサによってヨーク応力を、それぞれ測定し、「0点域」と「安定域」における弁軸力とヨーク応力に基づいてヨーク応力センサを校正する。係る構成によれば、弁棒をフルストーロークさせることなく、「安定域」で作動させればよく、また「0点域」と「安定域」を利用することで、特別の装置を備えることなくヨーク応力センサの校正を行なうことができ、これらの相乗効果として、ヨーク応力センサの校正を簡易且つ迅速に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電動弁のヨークに付設されて該ヨークに作用している応力を検出するように構成されたヨーク応力センサの校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動弁の作動に関する診断を行う場合、弁駆動部からの駆動力を受けて弁体を開閉作動させる弁棒に作用している弁軸力を取得しこれを診断に利用する思想は従来から存在する。そして、このような弁軸力の取得手法として、例えば、特許文献1、特許文献2には、弁棒に作用する弁軸力と該弁棒が貫通するヨークに作用するヨーク応力とは相互に反力関係を構成することに着目して、ヨークにヨーク応力センサを付設し、予め弁軸力とヨーク応力の相関関係をとった上で、上記ヨーク応歪センサによって計測されるヨーク応力に基づいて弁軸力を取得する技術が提案されている。
【0003】
ところで、このように弁軸力をヨーク応力に基づいて取得する場合、ヨークに付設されるヨーク応力センサを定期的に校正して該ヨーク応力センサの検出値に基づいて取得される弁軸力の精度を高水準に維持することが必要である。係るヨーク応力センサの校正手法として、上記特許文献2に示されるように、弁棒の上方に荷重センサを配置し、該荷重センサの検出値とヨーク応力センサの検出値の対応関係に基づいて校正を行う手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2006−022408号公報。
【特許文献2】特開2006−184193号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献2に示される校正手法は、校正作業に際して、電動弁の部品であるロックナットを取り外して弁棒の上方側に荷重センサを貼付したセンサ設置部材を設置し、この状態で、モータを運転して上記弁棒に軸力を掛けてこれを上記荷重センサにて計測するものであることから、校正に際してロックナットの取外し・取付けや、センサ設置部材の着脱等の事前及び事後作業が多く、しかもその作業が煩雑であり作業コストが高くつくという問題があった。
【0006】
そこで本願発明は、電動弁の弁棒に作用する弁軸力をヨークに付設したヨーク応力センサによって求めるものにおいて、上記ヨーク応力センサの校正を簡易且つ迅速に、しかも高い信頼性の下で行い得るようにしたヨーク応力センサの校正方法を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として以下のような特有の構成を採用している。
【0008】
本願の第1の発明では、電動弁のヨークに付設したヨーク応力センサにより取得されるヨーク応力と弁棒に付設した弁軸力センサにより取得される弁軸力との間の相関関係を取得し、該相関関係に基づいて、上記ヨーク応力センサによって取得されるヨーク応力に対応する弁軸力を求める弁軸力取得手法における上記ヨーク応力センサの校正方法であって、上記弁棒の圧縮又は引張が開放された「0点域」と、上記電動弁の開作動又は閉作動に伴って上記ヨークに略一定の応力が作用している「安定域」の双方において、上記弁軸力センサによって弁軸力を、上記ヨーク応力センサによってヨーク応力を、それぞれ測定し、上記「0点域」における弁軸力とヨーク応力、及び上記「安定域」における弁軸力とヨーク応力、に基づいて上記相関関係を取得することで上記ヨーク応力センサを校正することを特徴としている。
【0009】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係るヨーク応力センサの校正方法において、上記「安定域」を、上記弁棒にグランドパッキンの締付力による安定した摺動抵抗が作用し弁体が安定的に移動している領域であることを特徴としている。
【0010】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明に係るヨーク応力センサの校正方法において、上記ヨーク応力センサを、上記ヨークに貼設されて該ヨークに発生する歪を計測する歪センサで構成したことを特徴としている。
【0011】
本願の第4の発明では、上記第1又は第2の発明に係るヨーク応力センサの校正方法において、上記弁軸力センサを、上記弁棒の表面に貼設される歪センサで構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本願各発明では以下のような効果が得られる。
【0013】
(1) 本願の第1の発明に係るヨーク応力センサの校正方法によれば、上記弁棒をフルストーロークさせることなく、上記「安定域」で作動させることで上記ヨーク応力センサの校正を行なうことができ、また上記「0点域」(即ち、弁棒の圧縮又は引張が開放された領域)と上記「安定域」(即ち、ヨーク応力が略一定で安定している領域)を利用することで、特別の装置を備えることなく上記ヨーク応力センサの校正を行なうことができるものであり、これらの相乗効果として、上記ヨーク応力センサの校正を簡易且つ迅速に行なうことができる。
【0014】
(2) 本願の第2の発明に係る校正方法によれば、上記弁棒にグランドパッキンの締付力による安定した摺動抵抗が作用し弁体が安定的に移動している領域を上記「安定域」とし、この「安定域」で弁軸力とヨーク応力を計測するようにしていることから、上記(1)に記載の効果がより一層促進される。
【0015】
(3) 本願の第3の発明に係る校正方法によれば、上記(1)又は(2)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記ヨーク応力センサを、上記ヨークに貼設されて該ヨークに発生する歪を計測する歪センサで構成したので、該歪センサを上記ヨークに常設しても電動弁の作動に支障を及ぼすことがなく、従って、上記歪センサを上記ヨークに常設し、上記相関関係の取得による上記ヨーク応力センサの校正時にのみ上記弁棒に上記弁軸力センサを仮設することで、上記ヨーク応力センサの校正を行うことができ、校正作業の簡易化が可能となる。
【0016】
(4) 本願の第4の発明に係る校正方法によれば、上記(1)又は(2)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記弁軸力センサを、上記弁棒の表面に貼設される歪センサで構成したが、上記ヨーク応力センサの校正に際しては上記弁棒をフルストーロークさせることなく、上記「安定域」で作動させれば良いことから、上記歪センサも上記弁棒の上記「安定域」に対応する部位に設ければよく、この結果、該歪センサが上記弁棒のストローク中に摺動部分に食い込まれるというような恐れがなく、校正作業が安全且つ的確に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明に係る校正方法が適用される歪センサを備えた電動弁の全体図である。
【図2】電動弁の開作動時におけるヨーク応力の変化状態説明図である。
【図3】ヨーク応力と弁軸力の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0019】
図1には、本願発明に係る校正方法が適用されるヨーク応力センサ25が付設された電動弁10を示している。この電動弁10は、弁本体部11と弁駆動部16を、ヨーク15を介して連結一体化して構成される。上記弁本体部11内には、弁座部12を開閉する弁体13が収容されている。上記弁体13には、上記ヨーク15を上下方向に貫通して上記弁駆動部16の上部に至る弁棒14が連結されており、該弁棒14を上記弁駆動部16によって上下方向へ昇降駆動することで上記弁体13が上記弁座部12に着座あるいは離座し、上記電動弁10が開閉される。
【0020】
上記弁駆動部16は、ウォーム22を備え電動機5によって回転駆動されるウォーム軸21と、上記ウォーム22と噛合し該ウォーム22側から回転力が伝達されるウォームホイール23と、上記弁棒14のネジ部に噛合するステムナット(図示省略)を内蔵し上記ウォームホイール23からの回転力を受けて上記ステムナットを回転駆動するドライブスリーブ26を備える。また、上記ウォーム軸21の軸端側には、駆動力のトルク調整を行うスプリングカートリッジ24が配置されている。
【0021】
そして、この電動弁10では、上記弁棒14に作用する弁軸力を用いてその作動に関する各種の診断が行われるが、この際、弁軸力の取得を上記弁棒から直接取得するのではなく、弁軸力と一定の相関関係のあるヨーク応力、即ち、上記ヨーク15に作用する圧縮力あるいは引張力として間接的に取得するようにしており、このため上記ヨーク15には歪センサで構成されるヨーク応力センサ25を貼設している。なお、このヨーク応力センサ25は、上記ヨーク15に発生する歪を計測し、この歪量に対応する電気量信号を出力する。そして、この電気量信号に基づいてヨーク15に作用している圧縮力又は引張力、即ち、ヨーク応力を取得するものである。
【0022】
このヨーク応力センサ25を用いた弁軸力の取得手法は以下の通りである。
【0023】
即ち、予め、上記弁棒14に歪センサで構成される弁軸力センサ(図示省略)を貼設し、この弁軸力センサによって弁軸力を取得するとともに、上記ヨーク応力センサ25によってヨーク応力を取得し、この弁軸力とヨーク応力の相関関係を相関データベースとして保有する。そして、電動弁の診断に際しては、上記ヨーク応力センサ25により取得されるヨーク応力に基づいて、上記相関データベースから該ヨーク応力に対応する弁軸力を読み出すものである。なお、上記弁軸力センサは、相関データベースの取得後、上記弁棒14から取り外される。
【0024】
このような上記ヨーク応力センサ25によって弁軸力を間接的に取得し、この弁軸力を用いて上記電動弁10の各種に診断を行う場合、その診断精度を維持するためには上記ヨーク応力センサ25を定期的に校正することが必要となる。以下、このヨーク応力センサ25の校正方法について説明する。
【0025】
上記ヨーク応力センサ25の校正は、該ヨーク応力センサ25を上記電動弁10のヨーク15に取付けたまま行うことができる。
【0026】
即ち、図2には、電動弁10の開作動時におけるヨーク応力の変化状態を示している。ここで、点aは弁棒14の圧縮(即ち、ヨーク15の張力)が完全に開放された位置であり、点bは弁棒14の作動において、ヨークの応力が変化し始めた位置であり、この点aと点bの範囲では該弁棒14がフリー状態となり、上記ヨーク15には外力(即ち、弁棒14の圧縮あるいは引張に伴う力)は作用していない。このように上記ヨーク15に外力が作用しない領域を「0点域」と規定するが、この「0点域」は上記電動弁10の開作動時及び閉作動時には生じるものである。
【0027】
一方、点cから以降の領域は、弁体13が開方向へ安定的に移動している領域であって、この領域では弁棒14には主としてグランドパッキンの締付力による摺動抵抗が作用しており、且つこの摺動抵抗は安定していることから、この領域(以下、「安定域」という)では上記ヨーク15には略一定の圧縮力(ヨーク応力)Pが作用しており、その値は上記「0点域」からの大きさとなる。
【0028】
また、ヨーク応力と弁軸力の間には一定の相関(直線関係)がある(例えば、本件出願人の出願に係る特許第4437140号公報における「図16」を参照)。従って、上記「0点域」と「安定域」が存在することと、上記ヨーク応力と弁軸力の間の直線関係を利用することで、上記ヨーク応力センサ25の校正を簡易に行なうことができる。具体的には以下の通りである。
【0029】
先ず、上記ヨーク応力センサ25の他に、上記弁棒14に歪センサで構成される弁軸力センサ(図示省略)を仮設する。そして、上記電動弁10を閉作動させ、上記「0点域」と上記弁体13が安定的に移動している「安定域」、即ち、図2の点c以降の任意の一点の双方で、ヨーク応力と弁軸力をそれぞれ測定し、この2点の測定値に基づいて、ヨーク応力と弁軸力の相関データベースを取得する(図3に実線図示する部分を参照)。なお、上記電動弁10の開作動時の相関データベースは、閉作動時の相関データベースを原点回りに点対称とすることで取得される(図3に破線図示する部分を参照)。また、上記弁軸力センサは、相関データベース取得後は上記弁棒14から取外す。
【0030】
そして、電動弁10の診断時には、上記ヨーク応力センサ25によって取得されたヨーク応力に対応する弁軸力を、上記相関データベースから読み出してこれを診断に用いる。
【0031】
この校正手法によれば、上記弁棒14をフルストーロークさせることなく、その一部、即ち、上記「安定域」で作動させることで上記ヨーク応力センサ25の校正を行なうことができ、また上記「0点域」と上記グランドパッキンの締付力によって生じる上記「安定域」を利用することで、特別の装置を備えることなく上記ヨーク応力センサ25の校正を行なうことができるものであり、これらの相乗効果として、上記ヨーク応力センサ25の校正を簡易且つ迅速に行なうことができるものである。
【0032】
また、上記弁棒14に弁軸力センサを常設すると、該弁棒14のストローク中に摺動部分に食い込まれる恐れがあるが、上記ヨーク応力センサ25を上記ヨーク15に常設してもこのような恐れは無いことから、上記ヨーク応力センサ25を上記ヨーク15に常設し、上記ヨーク応力センサ25の校正時にのみに上記弁軸力センサを上記弁棒14に仮設することで、上記ヨーク応力センサ25の校正を行うことができ、校正作業の簡易化が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
5 ・・電動機
10 ・・電動弁
11 ・・弁本体部
12 ・・弁座部
13 ・・弁体
14 ・・弁棒
15 ・・ヨーク
16 ・・弁駆動部
21 ・・ウォーム軸
22 ・・ウォーム
23 ・・ウォームホイール
24 ・・スプリングカートリッジ
25 ・・ヨーク応力センサ
26 ・・ドライブスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動弁のヨークに付設したヨーク応力センサにより取得されるヨーク応力と弁棒に付設した弁軸力センサにより取得される弁軸力との間の相関関係を取得し、該相関関係に基づいて、上記ヨーク応力センサによって取得されるヨーク応力に対応する弁軸力を求める弁軸力取得手法における上記ヨーク応力センサの校正方法であって、
上記弁棒の圧縮又は引張が開放された「0点域」と、上記電動弁の開作動又は閉作動に伴って上記ヨークに略一定の応力が作用している「安定域」の双方において、上記弁軸力センサによって弁軸力を、上記ヨーク応力センサによってヨーク応力を、それぞれ測定し、上記「0点域」における弁軸力とヨーク応力、及び上記「安定域」における弁軸力とヨーク応力、に基づいて上記相関関係を取得することで上記ヨーク応力センサを校正することを特徴とするヨーク応力センサの校正方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記「安定域」が、上記弁棒にグランドパッキンの締付力による安定した摺動抵抗が作用し弁体が安定的に移動している領域であることを特徴とするヨーク応力センサの校正方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記ヨーク応力センサが、上記ヨークに貼設されて該ヨークに発生する歪を計測する歪センサで構成されていることを特徴とするヨーク応力センサの校正方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、
上記弁軸力センサが、上記弁棒の表面に貼設される歪センサで構成されていることを特徴とするヨーク応力センサの校正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−59135(P2011−59135A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289779(P2010−289779)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【分割の表示】特願2009−537881(P2009−537881)の分割
【原出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)