説明

ランニングシューズ

【課題】靴生地の多層構造を簡素化してランニングシューズを軽量化しつつも、ランニングシューズとして求められる耐摩耗性は維持し、かつ柔軟で防水性に優れたランニングシューズを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリマードットが付着した生地(織物)2と、織物2のポリマードットが付着した面とは反対側の面に形成された防水透湿膜3と、防水透湿膜3に接着剤により直接接着された外皮部4とがこの順序に積層されてなる甲部材1を備えたランニングシューズを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ柔軟で、高耐摩耗性が必要とされるランニングシューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はランニングシューズに関するものではないが、特許文献1の図2〜図5により、一般的な靴の構造を理解することができる。本明細書の図6は特許文献1の図2を、本明細書の図7は特許文献1の図3を、本明細書の図8は特許文献1の図4を、本明細書の図9は特許文献1の図5をそれぞれ示すものである。本明細書の図6に示されるように、裁断された生地は、接着テープによりつなぎ目を固定することにより靴下状の袋を形成する。生地自体は、図7に示されるように、補強布片1b/多孔質フィルム1a/クッション層1c/保護層1dに多層構造によって構成されている。図6の靴下状の袋を形成した後は、図8に示すようにアッパー材と呼ばれる外皮部体を外側から被せ、さらに図9に示すように、底部材(ソール)を取り付けることにより靴が完成する。
【特許文献1】特開昭59−160401号公報(図2〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された靴の構成では、多孔質フィルムの外側に外皮部体や補強布片を構成することや、外皮部体と補強布片とを接着するための接着剤により、靴全体の重量が大きくなってしまう。また、接着剤により靴の柔軟性も低くなってしまう。
【0004】
そこで本発明は、靴生地の多層構造を簡素化してランニングシューズを軽量化しつつも、ランニングシューズとして求められる耐摩耗性は維持し、かつ柔軟で防水性に優れたランニングシューズを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成し得た本発明のランニングシューズは、
ポリマードットが付着した生地と、該織物の前記ポリマードットが付着した面とは反対側の面に形成された防水透湿膜と、該防水透湿膜に接着剤により直接接着された外皮部とがこの順序に積層されてなる甲部材を備えるものである。
【0006】
上記のランニングシューズにおいて、生地のポリマードットが付着した側に目止めテープが接着されている態様とすることが好ましく推奨される。
【0007】
上記のランニングシューズにおいて、ポリマードットの付着量が、0.2〜3.0g/mである態様が好ましい。
【0008】
上記のランニングシューズにおいて、ポリマードットの付着量が、1.5〜3.0g/mであり、ポリマードットは、平均最大径が0.5mm以下である態様がさらに好ましい。
【0009】
上記のランニングシューズにおいて、防水透湿膜と外皮部との間に部分的に設けられた接着剤により防水透湿膜と外皮部とが接着されている態様とすることが推奨される。
【0010】
上記のランニングシューズにおいて、接着剤をホットメルト接着剤とする態様が推奨される。
【0011】
上記のランニングシューズにおいて、防水透湿膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜とする態様が推奨される。
【0012】
上記のランニングシューズにおいて、生地をナイロン繊維で構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、靴生地の多層構造を簡素化してランニングシューズを軽量化しつつも、ランニングシューズとして求められる耐摩耗性に優れ、かつ柔軟で防水性にも優れたランニングシューズを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)ランニングシューズの概要
図1を参照しながら本発明の実施の形態におけるランニングシューズの概要について説明する。本発明のランニングシューズの甲部材1は、図1に示すように、足に当たる側から順に、ポリマードットが付着した生地2(内装生地:ライニング材)と、ポリマードットが付着した面とは反対側の面に形成された防水透湿膜3と、この防水透湿膜3に接着剤により直接接着された外皮部4とを積層してなる構造を有している。生地2の継ぎ目部には、防水透湿膜3側とは反対側から目止めテープ5が接着されている。なお、ポリマードットは、本発明の必須の構成要件ではない。生地2がランニングシューズの内側、すなわち足に直接当たる部分を構成するため、生地2の耐摩耗性を高くする目的でポリマードットを付着させることが好ましい。例えば、生地2の表面をドット状にしたホットメルト樹脂等で被覆することにより生地2の耐摩耗性を高くすることができる。
【0015】
本発明では、ランニングシューズの内装生地として生地2が見えている状態であるので、内装生地に不織布や編み物を使用した場合に比べて、内装の意匠性にも優れている。
【0016】
斯かる甲部材1を使用して本発明におけるランニングシューズの製造手順は次の通りである。図2に示すように、まず、外皮部4が内側、生地2のポリマードットが付着した側が外側となるようにして靴下状の袋状物を形成する。継ぎ目部には、目止めテープ5を接着して固定する。なお、用語「接着」の意味は、一般には粘着とも表現される場合を含めた概念であるとし、複数部材の接合方法を広く指すこととする。したがって、「接着剤」は「粘着剤」を含む意味とする。目止めテープ5は、図2に示すように生地2のポリマードットが付着した側に施す。
【0017】
次に、図3に示すように、靴下状の袋状物を裏返しにすることにより外皮部4を表側とし、生地2を内側にする。生地2に接着された目止めテープ5は内側となる。その後、袋状物の底部にソール6を固定(例えば接着)することにより、ランニングシューズが完成する。以下、本発明におけるポリマードット等についてより詳しく説明する。
【0018】
(2)ポリマードット
本明細書及び特許請求の範囲において、ポリマードットとは、不連続でドット状(突起物状)に形成されたポリマーであり、生地の表面をポリマードットで被覆することによって、ポリマードットが繊維を固定して、繊維のほつれを防止し、生地が使用に際して摩擦にさらされた場合には、まずポリマードットが摩耗されることによって、織物全体の耐摩耗性が向上する。また、ポリマードットの平均最大径を0.5mm以下になるようにすれば、ポリマードットは目視によっても目立ちにくくなり、得られる織物の外観を低下することなく、耐摩耗性を向上することができる。ポリマードットの平均最大径が、0.5mmを超えると、ポリマードットが目視で容易に見えるようになり、織物にテカリ感や凹凸感が生ずる場合がある。前記ポリマードットのより好ましい大きさは、平均最大径が0.03mm以上、0.3mm以下である。
【0019】
本発明において、ポリマードットの「平均最大径」とは、電子顕微鏡にて、ポリマードットを配置した織物表面を20倍以上の倍率にて観察し、得られた視野における個々のポリマードットの最大径を測定し、これを(数)平均して得られるものである。尚、「最大径」は、電子顕微鏡にて観察した場合、個々のポリマードットの最大差し渡し長さである。ポリマードットの形状が例えば真円の場合であれば、その直径であり、正方形や長方形であれば、その対角線の長さというように、ポリマードットの任意の2点の端点間の最大直線距離を意味する。
【0020】
また、ポリマードットの「面積」は、電子顕微鏡にて、ポリマードットを配置した織物表面を20倍以上の倍率にて観察し、得られた視野において確認される各ポリマードットの面積を測定し、その平均値が0.001mm以上、より好ましくは0.005mm以上であって、0.3mm以下、より好ましくは0.1mm以下であることが望ましい。ポリマードットの面積が小さすぎると、ポリマードットの高さを高くできないため、耐摩耗性が十分に得られない。この場合、十分な耐摩耗性を得るために被覆面積率を高める方法も考えられるが、透湿度、風合いへの悪影響が生じる虞がある。他方、ポリマードットの面積が大きすぎると、ドットが目立ち、織物の外観が低下するほか、ポリマードットのエッジ部分のみで折れ曲がりが発生し、しなやかさが失われてしまうと共に、折れ曲がり部での基材の損傷が起こり易くなる。また、ポリマードットの表面は平滑性が高いため、織物を撥水処理した際に撥水の効果が得られにくくなる。前記ポリマードットの面積は、例えば電子顕微鏡で得られる電子画像を適時コンピューター画像処理ソフト(例えば、Microsoft社製の表計算ソフトウェア「Excel」上で動作する、画像の長さ・面積を計測可能なフリーソフト「lenaraf200」)を用いて個々のドットについての解析を行うことで算出できる。
【0021】
本発明において、織物表面を被覆するポリマードットの最大高さは、0.3mm以下であることが好ましい。ポリマードットの最大高さが、0.3mm以下であれば、ポリマードットは目視によっても目立ちにくく、また、手触りでも比較的感知されにくくなる。一方、前記最大高さが0.3mmよりも大きいと、ポリマードットの形状が目視で容易に見えるようになり、また織物の触感にも凹凸感が感知されやすくなる。本発明において、「ポリマードットの最大高さ」とは、ポリマードットを配置する前と後のそれぞれの織物の厚さを測定し、その差を算出した値である。
【0022】
本発明において、ポリマードットの付着量(以下、「表面被覆量」とも記載する)は、0.2g/m以上、より好ましくは0.5g/m以上、更に好ましくは1.5g/m以上であって、3.0g/m以下、より好ましくは2.0g/m以下である。ポリマードットの表面被覆量が、0.2g/mを下回ると、耐摩耗性が十分に得られない。他方、ポリマードットの表面被覆量が、3.0g/mを超えると、織物の風合いが硬くなるとともに、ポリマードットが目視で容易に見えるようになり、織物にテカリ感や凹凸感が生ずる場合がある。
【0023】
本発明においては、織物の外観でポリマードットが目立たないことが好ましい。ランニングシューズといえども、内装の美観は重要である。ポリマードットが目立つと、織物にテカリ感や凹凸感が生じ、織物表面が汚れているように見える。またポリマードットが摩擦負荷にさらされると、ポリマードットが摩耗により部分的に(摩擦負荷を受けた箇所で)変色することがあり、一層の美観低下を招く場合がある。生地の外観は、後述する外観評価方法により、その外観の違いの度合いに応じて、次の4段階に分ける。
1級:外観に差が見られる
2級:僅かに外観に差が見られる
3級:殆ど外観に差が見られない
4級:外観に差が見られない
ここで、3級または4級であれば、外観上差が小さいと判断することができる。本発明において、織物表面の外観は3級以上であることが好ましい。
【0024】
本発明において、ポリマードット間の平均ピッチは、1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。平均ピッチが1.0mmを超えるとドット間のスペースが広すぎ、織物が摩耗に晒されてしまい、ポリマードットによる耐摩耗性の向上が得られにくい。
【0025】
本発明において使用するポリマードットの素材は、室温で固体状の耐摩耗性を有するポリマーであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、耐摩耗性、織物との接着性を考慮した場合、ポリアミド樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂の架橋体がより好ましい。また、ポリアミド樹脂の分子中には、極性基(アミド基など)が多量に含まれることから、織物が極性基を含むポリマーによって構成されている場合には、ポリマードットと織物との親和性が高くなる。このため、摩耗抵抗性ポリマードットと織物との密着性が高く、摩耗抵抗性ポリマードットの脱落が高度に抑制できる。さらに、ポリアミド樹脂は、融点以上に加熱することで急激に溶融粘度が低下するため、加工性に富むといった特徴もある。
【0026】
前記ポリアミド樹脂は、ホットメルト性を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、ジアミン(A)とジカルボン酸(C)との重縮合によって生成されるナイロン46(A:ジアミノブタン、C:アジピン酸)、ナイロン66(A:へキサメチレンジアミン、C:アジピン酸)、ナイロン610(A:ヘキサメチレンジアミン、C:セバシン酸)など;あるいは環状ラクタムの開環重合によって生成されるナイロン6(ε−カプロラクタム)、ナイロン12(ω−ラウロラクタム)など;あるいはアミノカルボン酸の重縮合によって生成されるナイロン11(アミノウンデカン酸)など;あるいは2種類以上のホモナイロンの原料(ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸、環状ラクタムなど)を共重合して生成されるナイロンコポリマー(ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン66/10、ナイロン6/66/12、ナイロン6/69/12、ナイロン6/610/12、ナイロン6/612/12、ナイロン6/66/11、ナイロン6/66/69/12、ナイロン6/66/610/12、ナイロン6/66/612/12、ナイロン6/66/11/12、ナイロン6/69/11/12);あるいは、前記これら例示のナイロンのアミド基の水素の一部をアルコキシメチル化して得られる変性ポリアミド(N−アルコキシメチル化変性ポリアミド)などが挙げられる(括弧内は原料モノマー)。中でも、融点を容易に低く調整でき、加工性を良好にできることから、ナイロン12のホモポリマーまたはコポリマー(特にナイロン12のコポリマー)が好適である。これらのポリアミド樹脂は、各ポリアミド樹脂供給メーカーから提供されている市販品を用いることができる。なお、前記のポリアミド樹脂には、例えば、柔軟性や融点の調整を目的として、公知の可塑剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0027】
本発明で使用するポリマードットを構成するポリアミド樹脂は、架橋体であることが好ましい。架橋体であれば、摩耗抵抗性ポリマードットの耐熱性や織物との密着性が向上するため、例えば、ドライクリーニングやアイロンがけなど、有機溶剤や高温に曝される状況下に置かれても、摩耗抵抗性ポリマードットの溶解、変形や熱劣化が抑制される。前記架橋体としては、前記例示のポリアミド樹脂を、架橋剤を用いて架橋したものが挙げられる。ポリアミド樹脂は、分子内に活性水素を有するため、この活性水素と反応し得る官能基を少なくとも2つ有する化合物を架橋剤として利用できる。このような架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネートが好適である。
【0028】
前記ポリイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、リジンジイソシアネート(LDI)、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)などのジイソシアネートを挙げることができる。また、これらのジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ポリメリック変性体、イソシアヌレート変性体、ビュレット変性体、アダクト化合物(ポリイソシアネートと単量体ポリオールとの反応物)などを用いることもできる。前記ポリイソシアネートは、単独あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0029】
また、これらのポリイソシアネートのイソシアネート基を公知のブロック剤(オキシム類、ラクタム類、フェノール類、アルコール類など)によりブロックしたブロック体も用いることができる。これらのポリイソシアネート(ブロック体を含む)は、各供給メーカーから提供されている市販品を用いることができる。特にポリイソシアネートのブロック体としては、水を分散媒とするエマルジョンタイプのものが、安全性が高く好適である。
【0030】
前記架橋剤の配合量は、架橋剤が1分子当たりに有する官能基数(活性水素と反応し得る官能基)に応じて適宜変更することが好ましく、例えば、架橋剤が1分子当たりに有する官能基数が2の場合、ポリアミド樹脂100質量部に対し、1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、30質量部以下、より好ましくは10質量部以下とすることが望ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると、十分な架橋が形成されず、摩耗抵抗性ポリマードットの耐熱性や耐溶剤性が不十分となることがある。他方、架橋剤の使用量が多すぎると、摩耗抵抗性ポリマードットの樹脂が脆くなったり、耐光性低下による劣化を招く虞がある。
【0031】
前記ポリマードットには、ポリアミド樹脂(ポリアミド樹脂の架橋体)に加えて、撥水撥油剤、難燃剤、着色剤、艶消し剤、消臭剤、抗菌剤、酸化防止剤、充填剤、可塑剤、紫外線遮蔽剤、蓄光剤などの公知の各種添加剤を、必要に応じて添加してもよい。
【0032】
摩耗抵抗性を有するポリマードットは、複数の突起物(ドット)が個々独立に存在する形態が挙げられる。ただし、摩耗抵抗性ポリマードットが外観上連続的であっても、部分的に摩耗抵抗性ポリマードットを構成する樹脂の量や面積を小さくしたものは、可撓性の確保が可能であり、本発明のポリマードットに含まれる。摩耗抵抗性ポリマードットを構成するポリアミド樹脂は、一般に硬質なものが多く、例えばポリウレタン樹脂と比較すると、柔軟性に劣るのが通常であるが、本発明の織物では、摩耗抵抗樹脂として、不連続のポリマードットをごく少量設けることで、ポリマードットが設けられていない箇所での屈曲を可能としており、これによって、比較的硬質な樹脂で構成される不連続な摩耗抵抗性樹脂層を設けても、可撓性基材が本来有する柔軟性をほぼ維持できる。
【0033】
(3)生地
本発明で使用する生地は、特に限定されるものではないが、平織、斜文織、朱子織およびそれらを基本とした変化組織、ジャガード組織などの組織を有する織物を挙げることができ、本発明では、平織組織を有する織物が好適である。
【0034】
また、生地を構成するフィラメントについても、特に制限はなく、モノフィラメントからなる織物、マルチフィラメントからなる織物のいずれであっても良い。モノフィラメントからなる織物は、マルチフィラメントからなる織物と比較して耐摩耗性に優れており、風合いは硬くなる傾向がある。本発明を、耐摩耗性の低いマルチフィラメントからなる織物に適用すれば、耐摩耗性の向上効果が顕著となる上に、摩耗抵抗性ポリマードットの一部がマルチフィラメントの隙間に含浸することでよりポリマードットと織物間の接合強度が高まる。
【0035】
織物を構成する繊維の材質としては、天然繊維や化学繊維の他、金属繊維、セラミックス繊維などが挙げられる。天然繊維としては、綿、羊毛、麻、獣毛、絹など一定の耐熱性と強度を備えている繊維であれば、特に制限はない。また、化学繊維としては、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン(ポリアミド)繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維などの一定の耐熱性と強度を備えている繊維であれば良い。本発明の対象となるランニングシューズの用途では、しなやかさ、強度、耐久性、コスト、軽量性などの観点から、ナイロン(ポリアミド)繊維、ポリエステル繊維などで構成される織物が好適である。なお、耐熱性のないポリエチレン繊維などは、使用するポリマードットの材質によっては、本発明に適用することが難しい。なぜなら、摩耗抵抗性ポリマードットを配置する際には、熱処理を施すからである。
【0036】
織物を構成する繊維の糸種としては、長繊維または短繊維のいずれであっても良い。長繊維の糸種としては、さらに例えば、加工糸および生糸を挙げることができる。加工糸を用いた織物は、その構造上フィラメント内にスペースができやすく、突起物などに引っ掛かって繊維がほつれやすい構造を有しているが、本発明を適用することによって、繊維間をポリマードットで固定することができるため、繊維のほつれを低減することができる。
【0037】
本発明で使用する織物は、適宜染色することができる。染色方法についても、特に制限はなく、繊維を構成する素材に応じて、染料および染色方法を適宜選択すれば良い。
【0038】
本発明における織物は、表面に凹凸を有するものである場合、織物表面の凸部の少なくとも一部が、前記ポリマードットで被覆されているものであることが好ましい。織物の摩耗は、織物表面の凸部から生じると考えられ、織物表面の凸部の少なくとも一部を、ポリマードットで被覆することによって、織物の耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
本発明において、「織物の凸部」は、厳密に定義されるものではないが、織物を構成する繊維によって形成される部分であって、周囲の部分と比較したときに、周囲の部分よりある程度高さのある部分である。例えば、表面に凹凸を有する織物が織物の場合、経糸が緯糸上に積層してなる交差部、または、緯糸が経糸上に積層してなる交差部の少なくとも一方が、織物表面の凸部を形成する。すなわち、織物には、経糸が緯糸上に積層してなる交差部と緯糸が経糸上に積層してなる交差部があるが、この2種類の交差部が、いずれも凸部を形成する場合と、いずれか一方のみが凸部を形成する場合がある。2種類の交差部がいずれも凸部を形成する場合とは、例えば、平織であって、経糸と緯糸が類似した繊度、剛直性、織密度を有する場合である。経糸の繊度が緯糸の繊度と比較して大きい場合、経糸の織密度が緯糸の織密度より高い場合、あるいは、緯糸が経糸と比較して剛直である場合は、経糸が緯糸上に積層してなる交差部が織物の凸部を形成する。また、繊度、織密度、糸の剛直性が逆の場合は、緯糸が経糸上に積層してなる交差部が凸部を形成する。例えば、図10は、平織り織物表面の電子顕微鏡写真である。織物表面の凸部を「○」で示した。経糸の繊維密度が緯糸より高いために、経糸が緯糸上に積層してなる交差部が織物表面の凸部を形成している。織物表面の凸部の少なくとも一部が、前記ポリマードットで被覆されていることによって、得られる織物の耐摩耗性が向上する。
【0040】
織物表面の凸部がポリマードットで被覆されている被覆率は、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。織物表面の凸部の被覆率を40%以上とすることによって、耐摩耗性の向上効果が一層向上するからである。織物表面の凸部の被覆率の上限は特に限定されず、100%であっても良い。100%の場合には、極めて優れた耐摩耗性を有する織物が得られる。なお、織物表面の凸部がポリマードットで被覆されている被覆率は、ポリマードット処理後の織物を電子顕微鏡で20倍以上の倍率にて観察し、観察結果に基づいて、下記式で算出される。
凸部被覆率(%)=100×(ポリマードットで被覆されている凸部の数/凸部の総数)
【0041】
また本発明では、織物表面の凹部が、前記ポリマードットで被覆されている被覆率は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。また織物表面の凹部が、前記ポリマードットで実質的に被覆されていないことが望ましい。織物の摩耗は、織物表面の凸部で生じる。そのため、表面の凹部をポリマードットで被覆することは、耐摩耗性向上への寄与が小さく、凹部の被覆率が40%を超えてしまうと、かえって織物の軽量化が損なわれる原因となるからである。織物の凹部とは、織物を構成する繊維によって形成される部分であって、周囲の部分と比較したときに、周囲の部分よりある程度高さの低い部分であり、上述した織物の凸部ではない部分である。
【0042】
なお、織物表面の凹部がポリマードットで被覆されている被覆率は、ポリマードット処理後の織物を電子顕微鏡で20倍以上の倍率にて観察し、観察結果に基づいて、下記式で算出される。
凹部被覆率(%)=100×(ポリマードットで被覆されている凹部の数/凹部の総数)
【0043】
また、生地が織物の場合、隣接する2本の経糸と隣接する2本の緯糸との非交差部を含む部分が、前記ポリマードットで実質的に被覆されないことが好ましい。前記非交差部を含む部分がポリマードッドで被覆されてしまうと、ポリマードットによって、隣接する2本の経糸と隣接する2本の緯糸が固定されてしまうので、得られる織物の風合いが悪くなるからである。
【0044】
本発明では、ポリマードットのポリマーと、織物を構成するポリマーとは、親和性の高いポリマー同士であることが好ましい。ポリマードットのポリマーと、織物を構成するポリマーとが親和性の高いポリマー同士からなれば、ポリマードットと織物との密着性が高まり、摩耗時にポリマードットが織物から脱落することが抑制される。その結果、耐摩耗性の耐久性が向上する。具体的には、親和性の高いポリマー同士とは、例えば同一種類のポリマー同士であり、織物を構成するポリマーがポリアミド樹脂(ナイロン)であれば、前記ポリマードットが、ポリアミド樹脂を含有するものであることが好ましい。また、織物とポリマードットの間にイオン結合や共有結合などの化学的結合を取り入れることにより、密着性を高めることも好ましい。このために適宜架橋剤などを用いてもよい。
【0045】
本発明における生地の製造方法は、ポリマー組成物を織物の表面に配置して、前記織物の表面をポリマードットで被覆する工程と、前記織物の表面に形成したポリマードットを固定する工程とを有することを特徴とする。
【0046】
本発明の織物は、上記製造方法により製造することができる。すなわち、液状のポリマー組成物を表面に凹セルを有するグラビアパターンロールに塗布し、これを織物表面に直接転写することによって、織物表面を不連続のポリマードットで被覆するダイレクトグラビア法や、一旦別のフラットなロールを介してドットを織物表面に転写するオフセットグラビアプリント法などを用いることができる。あるいは、同様のポリマー組成物をロータリースクリーンやフラットスクリーン上に配置し、スキージーにて織物表面に転移させ、不連続のポリマードットで被覆する方法も用いることができる。この際、織物の表面に形成されるポリマードットの平均最大径、大きさ、平均ピッチ、面積被覆率などは、グラビアロールの凹セルや、スクリーンに設けられた孔の大きさ、ピッチ、パターン、および液状化させたポリマーの粘度などを適宜設定することにより制御することができる。また、例えば、凹セルに充填されているポリマー組成物を織物表面に転写させる圧力を制御することによって、織物表面の凸部をポリマードットで被覆することができる。上述の方法の他にも織物表面の凸部にポリマードットを形成するために汎用のプリントまたは不連続なコーティング方法を適宜用いることができる。また、ポリマー組成物が固形である場合、それを細かく粉砕した粉体とし、パウダーコーターにて織物上にばら撒くことにより一定量のポリマー組成物を織物上に配置する方法もあるが、ポリマーはランダムな配置となるため、本発明において、織物の凸部により多くのポリマードットを配置する方法としては不適切である。
【0047】
本発明の製造方法で使用するポリマー組成物とは、例えば、ポリマードットの原料である基材樹脂を加熱溶融させたもの、または、溶媒若しくは分散媒を含有することにより液状(ペースト状を含む)とした組成物である。ポリマードットの原料である基材樹脂は、上述したポリマードットの素材として挙げたものを使用することができる。
【0048】
前記溶媒または分散媒としては、例えば、水、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノールなど、あるいはそれらの混合物などを挙げることができる。これらの中でも、安全性および環境保全の観点から、溶媒または分散媒として水を主成分として使用することが好ましい。
【0049】
前記ポリマー組成物には、必要に応じてさらに、界面活性剤、架橋剤および増粘剤などの添加剤を含有することができる。界面活性剤は、分散媒中にポリマーを安定して分散させたり、ポリマー組成物の表面張力を下げることにより織物表面への転写性などを改良するものである。前記界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、アンホテリック系などがあり、ポリマードットの原料である基材樹脂の種類や添加剤との相性により適宜選定される。増粘剤は、ポリマー組成物の粘度を調整して、ポリマー組成物のグラビアパターンロールへの塗布性や、織物表面への転写性などを改良するものである。前記増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、などの水溶性高分子タイプや、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸などの天然高分子あるいはその誘導体からなるものなどを挙げることができる。
【0050】
前記織物の表面に形成したポリマードットは、冷却、加熱乾燥、あるいは、加熱による架橋反応等により液体状から固体状に変化させることができる。ポリマードットが加熱溶融したホットメルト樹脂からなる液体であれば、冷却し室温に戻すことにより固体状に変化する。また、溶媒や分散媒を含んだ液状ポリマーであれば、加熱乾燥等により脱溶媒することで固体状のポリマーに変化する。液状ポリマーが粉体状のポリマーを分散媒に分散した液であった場合は、脱分散媒後に更にポリマーの融点以上に加熱することで、粉体状のポリマー同士が融合し、塊状となりポリマードットを形成する。この時、溶融したポリマーはその一部が織物の表面から浸透し、織物を形成するフィラメントの隙間に入り込むことにより、より強固に織物に結合する。また液状ポリマー中に光、熱、水分などにより励起し化学的に反応する反応基をもたせることにより液状から固体状に硬化させることができる。たとえば、エポキシ基を導入することにより熱硬化反応を起こさせたり、イソシアネート基を導入することにより付加反応を起こさせたりして硬化させることができる。このような化学反応は、ポリマードット内だけでなく、ポリマードットと織物表面の間の界面でも起こすことができ、それによりポリマードットと織物との間により強固な結合力が付与できる。
【0051】
(4)防水透湿膜
本発明における防水透湿膜(以下、「防水透湿フィルム」と称する場合がある)は、内部に細孔(連続気孔)を有する多孔質構造によって透湿性を維持しつつ、防水透湿フィルムを構成するフィルム基材を構成する疎水性樹脂が、該細孔内への水の浸入を抑制し、フィルム全体として防水性を発現する。これらの中でも、前記防水透湿性フィルムとして、含フッ素系樹脂からなる多孔質フィルムが好適であり、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム(以下、「多孔質PTFEフィルム」と称する場合がある)がより好適である。特に、多孔質PTFEフィルムは、フィルム基材を構成する樹脂成分であるポリテトラフルオロエチレンの疎水性(撥水性)が高いために、優れた防水性と透湿性とを両立できる。
【0052】
前記多孔質PTFEフィルムとは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後、高温高速度で平面状に延伸することにより得られるもので、多孔質構造を有している。すなわち、多孔質PTFEフィルムは、微小な結晶リボンで相互に連結されたポリテトラフルオロエチレンの一次粒子の凝集体であるノードと、これら一次粒子から引き出されて伸びきった結晶リボンの束であるフィブリルとからなり、そして、フィブリルと該フィブリルを繋ぐノードで区画される空間が空孔となっている。後述する多孔質PTFEフィルムの空孔率、最大細孔径などは、延伸倍率などによって制御できる。
【0053】
前記防水透湿フィルムの最大細孔径は、0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、10μm以下、より好ましくは1μm以下であることが望ましい。最大細孔径が0.01μmよりも小さいと製造が困難になり、逆に10μmを超えると、防水透湿フィルムの防水性が低下することと、フィルム強度が弱くなるため、積層などの後工程での取扱いが困難になりやすい。
【0054】
前記防水透湿フィルムの空孔率は、50%以上、好ましくは60%以上であって、98%以下、より好ましくは95%以下であることが望ましい。防水透湿フィルムの空孔率を50%以上とすることによって、透湿性を確保することができ、98%以下とすることによって、フィルムの強度を確保することができる。
【0055】
なお、最大細孔径は、ASTM F−316の規定に従って(使用薬剤:エタノール)測定した値である。空孔率は、JIS K 6885の見掛け密度測定に準拠して測定した見掛け密度(ρ)より次式で計算して求める。
空孔率(%)=(2.2−ρ)/2.2×100
【0056】
前記防水透湿フィルムの厚さは、5μm以上、より好ましくは10μm以上であって、300μm以下、より好ましくは100μm以下が適当である。防水透湿フィルムの厚さが5μmより薄いと製造時の取扱性に問題が生じ、300μmを超えると防水透湿フィルムの柔軟性が損なわれるとともに透湿性が低下してしまう。防水透湿フィルムの厚さの測定は、ダイヤルシックネスゲージで測定した平均厚さ(テクロック社製1/1000mmダイヤルシックネスゲージを用い、本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した)による。
【0057】
前記防水透湿フィルムは、その細孔内表面に撥水性および撥油性ポリマーを被覆させて用いるのが好ましい。防水透湿フィルムの細孔内表面を撥水性および撥油性ポリマーで被覆しておくことによって、体脂や機械油、飲料、洗濯洗剤などの様々な汚染物が、防水透湿フィルムの細孔内に浸透若しくは保持されるのを抑制できる。これらの汚染物質は、防水透湿フィルムに好適に使用されるPTFEの疎水性を低下させて、防水性を損なわせる原因となるからである。
【0058】
この場合、そのポリマーとしては、含フッ素側鎖を有するポリマーを用いることができる。このようなポリマーおよびそれを多孔質フィルムに複合化する方法の詳細についてはWO94/22928号公報などに開示されており、その一例を下記に示す。
前記被覆用ポリマーとしては、下記一般式(1)
【0059】
【化1】

【0060】
(式中、nは3〜13の整数、Rは水素またはメチル基である)
で表されるフルオロアルキルアクリレートおよび/またはフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られる含フッ素側鎖を有するポリマー(フッ素化アルキル部分は4〜16の炭素原子を有することが好ましい)を好ましく用いることができる。このポリマーを用いて多孔質フィルムの細孔内を被覆するには、このポリマーの水性マイクロエマルジョン(平均粒径0.01〜0.5μm)を含フッ素界面活性剤(例、アンモニウムパーフルオロオクタネート)を用いて作製し、これを多孔質フィルムの細孔内に含浸させた後、加熱する。この加熱によって、水と含フッ素界面活性剤が除去されるとともに、含フッ素側鎖を有するポリマーが溶融して多孔質フィルムの細孔内表面を連続気孔が維持された状態で被覆し、撥水性・撥油性の優れた防水透湿フィルムが得られる。
【0061】
また、他の被覆用ポリマーとして、「AFポリマー」(デュポン社の商品名)や、「サイトップ」(旭硝子社の商品名)なども使用できる。これらのポリマーを防水透湿フィルムの細孔内表面に被覆するには、例えば「フロリナート」(3M社の商品名)などの不活性溶剤に前記ポリマーを溶解させ、多孔質PTFEフィルムに含浸させた後、溶剤を蒸発除去すればよい。
【0062】
(5)接着剤
防水透湿膜3と外皮部4との接着に用いる接着剤の塗布方法は特に限定されず、公知の各種手法(ロール法、スプレー法、刷毛塗り法、熱転写法など)を採用すればよい。但し、ランニングシューズの重量をできるだけ増やさないようにするため、及び、透湿性を損なわないようにするため、接着剤を防水透湿膜3の全面に塗布するのではなく、部分的に形成することが好ましい。例えば、接着剤をドット状、ストライプ状、グリッド状、梨地状に分布させることが望ましい。ドット状であれば、その形状は、丸型、四角形、多角形状等のいずれであってもよく、各形状の配列は任意であってよい。ストライプ形状に塗布する場合、ストライプを構成する各線は、直線、平面内で蛇行する波型等から適宜選択し使用すればよい。また、ストライプを構成する各線は点線や破線のように、断続的であっても良い。このように、接着剤の形成を部分的とすることにより、外皮部を含めた甲部材の透湿量を高めることができ(7000g/(m・day)以上、好ましくは8000g/(m・day)以上であることが望ましい)、ランニングシューズの軽量性、柔軟性を高めることができる。接着剤の具体例としては、例えば、日東紡社製のUUGA1500(ポリウレタン製のグリッドタイプ)が挙げられる。
【0063】
防水透湿膜3と外皮部4との接着面積(接着剤の塗布面積)は、織物面の全面積中、5%以上とすることが好ましく、15%以上とすることがより好ましく、95%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。また、接着剤の適用量については、織物表面の凹凸や繊維密度、要求される接着性や耐久性などを考慮して設定すればよい。例えば、2g/m以上とすることが好ましく、5g/m以上とすることがより好ましく、50g/m以下とすることが好ましく、20g/m以下とすることがより好ましい。接着剤の適用量が少なすぎると、接着性が不十分となり、走行に耐え得るだけの耐久性が得られないことがある。他方、接着剤の適用量が多すぎると、ランニングシューズの甲部材1が硬くなりすぎることがあり、好ましくない。好ましい接着方法としては、防水透湿膜3に、上記熱可塑性ポリウレタン系接着剤を加熱溶融しその上に織物を重ねてロールで圧着する方法が挙げられる。特に日東紡社製UUGA1500に見られるグリッドタイプであれば得られる生地の風合いもよく、また、歩留まりも良好となる。
【0064】
(6)目止めテープ
本発明のランニングシューズにおいては、甲部材1同士の縫着部を目止めテープによって防水加工を施す。縫着部の防水加工を施すための目止めテープとしては、高融点樹脂の基材フィルムと低融点の接着剤とを積層してなるテープ等が適宜用いられ、好ましくは、高融点樹脂の基材フィルムとホットメルト接着剤とを積層したものを挙げることができる。前記高融点樹脂の基材フィルムの表面にはニットやメッシュ等がさらに積層されていてもよい。
【0065】
前記目止めテープのホットメルト接着剤としては、ポリエチレン樹脂およびそのコポリマー、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびその共重合体系、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルエーテル樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などを適宜用いることができるが、好ましくは、ポリウレタン樹脂を用いる。これは、ランニングシューズとしての耐久性が必要とされることと、柔軟性が必要であることからである。またホットメルト接着剤樹脂層の厚みは、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。ホットメルト接着剤層が25μm未満では接着剤樹脂の絶対量が少なすぎて、十分な接着強度で接着することが難しい。また、縫着部の糸の凹凸部を接着剤で完全に埋めることができず、目止め部の防水性が不十分となる。一方、ホットメルト接着剤層が400μmを超える厚さになると、テープを熱圧着する際、十分に溶解するまでに時間がかかり、加工性が低下したり、接着される防水生地側に熱的なダメージが発生する可能性が生ずる。また、熱圧着時間を短縮すると、シートが十分に溶解せず、十分な接着強度が得られなくなってしまう。また、接着加工後の目止め部の風合いが硬くなってしまう。
【0066】
前記目止めテープの具体例としては、例えば、高融点のポリウレタン樹脂のフィルムと、低融点のポリウレタンホットメルト接着剤とを積層したSAN CHEMICAL社製のT−2000、FU−700などの目止めテープ、日清紡績社製のMF−12T、MF−12T2、MF−10Fなどの目止めテープ、高融点の多孔質ポリテトラフルオロエチレン樹脂のフィルムと低融点のポリウレタンホットメルト接着剤とを積層したジャパンゴアテックス社製のGORE−SEAMTAPE等を挙げることができる。
【0067】
これらの目止めテープは、テープのホットメルト樹脂側に熱風をあて、樹脂を溶融させた状態で非接着体に加圧ロールで圧着する既存のホットエアシーラで融着加工することができる。例えば、クインライト電子精工社製のクインライト Model QHP−805や、W.L.GORE & ASSOCIATES社製のMODEL 5000E等を使用することができる。また、短い縫着部をより簡便に融着加工するためには、市販の熱プレス機やアイロンで目止め加工を行ってもよい。この際は、目止めテープを縫着部に重ねた状態でその上から熱を加える。前記目止めテープの熱圧着条件は、テープに使用されるホットメルト接着剤の融点、防水生地の厚さ、材質、融着スピード等によって適宜設定されればよい。その目止めテープの熱圧着の一例を挙げると、目止めテープ(好ましくは、ポリエステルウレタン系ホットメルト、流動値が180℃において40〜200×10−3cm3/s、より好ましくは、100×10−3cm3/s、厚さが25〜200μm、より好ましくは50〜150μm)をホットエアシーラに装着し、ホットメルト樹脂の表面温度が150℃から180℃、より好ましくは、160℃になるよう設定して熱圧着する。ついで、そのまま加熱部分が室温に戻るまで放冷して熱圧着を完了させる。ホットメルトの流動値は、低すぎると接着力が不足し、高すぎると縫製穴やテープエッジ部から樹脂の染み出しが起こり加圧ロール等に付着してしまう。またホットメルト樹脂の表面温度は、低すぎると十分に融解せず、接着力の不足を招き、高すぎると流動性が高くなりすぎ、縫着部からの樹脂染み出しの問題が起こるとともに、ホットメルト樹脂自体が熱分解をおこし、接着強度が低下する恐れがある。
【0068】
(7)織物のカバーファクター
上記のように本発明のランニングシューズでは、甲部材の目止めは目止めテープにより行うことを一態様としている。目止めテープは、図2に記載したように織物に貼着させるが、織物には目止めテープのホットメルト接着剤が浸透し難いため、接着が困難である。そこで、織物を構成する経糸および緯糸のカバーファクター(後述)及び密度を特開2006−248052号公報に記載されている方法で調整する。
【0069】
すなわち、織物を構成する経糸および緯糸のそれぞれについて、下記式によって算出されるカバーファクターの合計値(CFtotal)が、700〜1400となるようにする。
【0070】
【数1】

【0071】
CFm:経糸のカバーファクター
CFt:緯糸のカバーファクター
m:経糸の繊度(dtex)
t:緯糸の繊度(dtex)
m:経糸の密度(本/2.54cm)
t:緯糸の密度(本/2.54cm)
【0072】
本発明で使用する織物は、織物を構成する経糸および緯糸のそれぞれについて、上記式によって算出されるカバーファクターの合計値(CFtotal)が、700以上、より好ましくは800以上、さらに好ましくは900以上であって、1400以下、より好ましくは1300以下、さらに好ましくは1200以下である。ここで、カバーファクターとは、織物の目の粗さを表すものであり、数字が大きい程繊維間の隙間が小さくなり、数字が小さい程繊維間の隙間が大きくなる。
【0073】
本発明において、前記織物を構成する経糸および緯糸のそれぞれについて、上記式によって算出されるカバーファクターの合計値(CFtotal)を700以上とするのは、使用する織物の強度を確保してハンドリング性や加工性を向上するとともに、必要最低限の外観や触感を維持するためである。前記カバーファクターの合計値が700を下回ると、防水透湿膜と織物からなる積層体の物理的強度が実用上不十分となるとともに、外観や触感が劣ったものとなる。積層体の外観は、外部に露出した面の見た目によって決まるが、前記カバーファクターの合計値が700を下回ると、前記織物の繊維間の隙間から防水透湿膜が透けて見える程度が大きくなり、繊維製品に一般的に求められる品格を満足できなくなる。積層体の触感とは、積層体に人体が接触した際に感じる感覚(肌触り)であるが、前記カバーファクターの合計値が700を下回ると、ざらざらとした肌触りとなってしまう。一方、目止めテープのホットメルト樹脂の含浸性を確保するため、本発明で使用する織物は、目がある程度粗いことが必要である。そのため、上記式によって算出されるカバーファクターの合計値は、1400以下とするのが好ましい。前記カバーファクターの合計値が1400を超えると、目止めテープのホットメルト樹脂の含浸が不十分となり、目止め部のシール性を確保できなくなるとともに、積層体の風合いが硬くなり、また軽量化が困難となる。
【0074】
前記経糸のカバーファクター(CFm)または緯糸のカバーファクター(CFt)の少なくとも一方が、300以上、より好ましくは400以上であって、800以下、より好ましくは700以下であることが望ましい。前記経糸または緯糸の少なくとも一方のカバーファクターを上記範囲内とすることによって、織物の強度やハンドリング性、目止めテープのホットメルト樹脂の含浸性などが向上するからである。なお、前記経糸および緯糸のカバーファクターは、上式からも明らかなように、繊度と密度とを適宜選択することによって制御することができる。
【0075】
前記織物を構成する経糸および緯糸の繊度は、5dtex以上、より好ましくは7dtex以上であって、55dtex以下、より好ましくは33dtex以下であることが望ましい。5dtex以上とすることによって、得られる積層体の物理的強度を確保でき、実用レベルの耐摩耗性が発現する。また、繊度を55dtex以下とすることによって、得られる積層体が軽量化するとともに、風合いが柔らかくなる。また、目止めテープのホットメルト樹脂の含浸性が向上する。
【0076】
前記織物を構成する経糸または緯糸の少なくとも一方は、2本以上のフィラメントで構成されることが好ましい。2本以上のフィラメントから構成される経糸または緯糸を使用することによって、得られる積層体の風合いが柔らかくなるからである。さらに、前記経糸または緯糸を構成するフィラメント一本あたりの繊度は、12dtex以下であることが好ましい。経糸または緯糸を構成するフィラメント一本あたりの繊度を12dtex以下とすることによって、得られる積層体の風合いがさらに柔らかくなる。
【0077】
また、前記織物を構成する経糸および緯糸の密度は、前記カバーファクターの合計値の範囲を満足できるように、適宜決定すればよい。
【0078】
本発明で使用する織物を構成する繊維(経糸または緯糸を構成する繊維)は、目止めテープに使用されるホットメルト樹脂の軟化点よりも高い耐熱性を有していることが好ましい。通常、ホットメルト樹脂の軟化点は、約140℃未満であることから、軟化点が140℃以上であって、140℃未満の温度で著しい変形をしない耐熱性を有する繊維を使用することが好ましく、軟化点が170℃以上であって、170℃未満の温度で著しい変形をしない耐熱性を有する繊維を使用することがさらに好ましい。
【0079】
(8)その他
外皮部4の素材は特に限定されないが、テキスタイル、人工皮革、天然皮革等から目的に応じて適宜選択することができる。
【0080】
本発明のランニングシューズにおける甲部材1の吊り込み構造は特に限定されるものではなく、図4に示すように、靴の中底部も含めて透湿膜3で囲う構造とすることができ(ブーティータイプと呼ばれることがある)、図5に示すように、靴の中底部は透湿膜3で囲まれていないが防水ガスケット材8により防水する構造とすることもできる(PSCタイプと呼ばれることがある)。いずれの場合も、足と接触する面は、PA66(66ナイロン)等の高強度繊維を用いた織物で構成することにより、透湿性、柔軟性、防水性を確保し、更にこの織物の表面にポリアミド樹脂をドット状に付着させることにより、透湿性、柔軟性、防水性を損ねることなくランニングシューズの内面の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0082】
(1)ランニングシューズ試作
経糸の繊度(Fm)、緯糸の繊度(Ft)が共に17(dtex)、経糸の密度(Dm)が113本/インチ、緯糸の密度(Dt)が76本/インチである織物、厚さが50μmで延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンからなる防水透湿膜、後述する接着剤、及び厚さ1.2mmでナイロン製メッシュ材からなる外皮部をこの順序に積層して甲部材を試作した。
【0083】
上記織物において、経糸のカバーファクター(CFm)は466(=(√17)×113)、緯糸のカバーファクター(CFt)は313(=(√17)×76)となり、カバーファクターの合計値(CFtotal)は、779となる。カバーファクターの合計値が700を超えているため、織物の強度を確保してハンドリング性や加工性を向上するとともに、外観や触感を維持することができた。また、カバーファクターの合計値が1400以下であるので、目止めテープのホットメルト樹脂の含浸を十分保て、目止め部のシール性を確保しているとともに、甲部材の風合いが柔らかくなり、また軽量化にも貢献している。
【0084】
織物の耐摩耗性を高めるため、織物の表面(防水透湿膜に面する側の反対側)には、熱転写法によりにポリアミド樹脂のポリマードットを付着させた。熱転写には、表面に矩形状の凹部を多数設けたグラビアロールを用いた。
【0085】
下記表1は、使用するグラビアロールの塗布カバー率、グラビアロール表面の凹部面積、及び、凹部の間隔を示す。塗布カバー率は、グラビアロール表面に占める凹部面積の割合、凹部面積は、凹部の鉛直方向からの見込み面積(試験No.2とNo.3は、正方形、No.4は、平行四辺形の面積を表す)、凹部の間隔は、隣接する凹部の中心間距離をそれぞれ示す。また、表1には、織物に転写されたポリマードットを電子顕微鏡で観察することにより求めた平均最大径も示す。
【0086】
【表1】

【0087】
防水透湿膜と外皮部とを接合する接着剤は、メッシュ状にパターン形成されたホットメルト接着剤(日東紡社製:UUGA1500(ポリウレタン製のグリッドタイプ))であり、これを熱転写により防水透湿膜に付着させた。なお、ランニングシューズの形成方法は、図2、図3を用いて既に説明した通りである。
【0088】
(2)軽量化
従来の靴構造(例えば図6〜図9に示した形態)における甲部材の単位面積当たりの質量は、820g/m(外皮部:約360g/m、接着剤:約100g/m、補強ニット層(防水透湿膜とのラミネート用接着剤含む):約47g/m、防水透湿膜:約28g/m、ライニング層(防水透湿膜とのラミネート用接着剤含む):約285g/m)であったものが、本実施例における甲部材(試作No.4)の単位面積当たりの質量は、460g/m(外皮部:約360g/m、メッシュ状接着剤:約45g/m、防水透湿膜:約29g/m、ポリマードットが付着した織物(防水透湿膜とのラミネート用接着剤含む):約26g/m(内、ポリマードットの付着量:約2.0g/m))であり、甲部材の大幅な軽量化が実現された。
【0089】
また、従来は、外皮部に張りを持たせる為に外皮部の裏全面にダブラーを貼り付けていたが、本発明の靴構造では、外皮部裏面にラミネート(防水透湿膜及びポリマードットが付着した織物の積層体)を熱圧着する事から、これがダブラー機能も兼ね備えるため、ダブラーも不要となる。
【0090】
また靴の質量としても、従来の構造では、片足で180g(ソール除く)あったものが、本実施例の靴では、片足で120g(試作No.1〜4:ソール除く)であり、大幅な軽量化が実現した。
【0091】
(3)耐摩耗性
JIS L 1096:1999のE法に規定されるマーチンデール法に準拠し、試作した甲部材の耐摩耗性を測定した。測定に用いた甲部材は反物状に形成したものであり、測定位置は、反物幅方向(TD)に3箇所(反物長さ方向(MD)に向かって左側(L)、中央(C)、右側(R))設けた。
【0092】
上述の表1には、本実施例における甲部材(試作No.1〜4)の左側(L)、中央(C)、右側(R)の3箇所において測定した摩耗強さ(回)の平均値を示している。
【0093】
上記したように、本実施例における甲部材は、何れも軽量化を実現しているが、表1に示すように、ポリマードットの平均最大径が0.5mm(500μm)以下という条件を満たす試作No.3,4については、更に、摩耗強さにおいても優れた結果を得た。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるランニングシューズの甲部材の積層構造を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかるランニングシューズの製造工程中の一姿を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかるランニングシューズの製造工程の一部を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態にかかるランニングシューズの断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態にかかるランニングシューズの断面図である。
【図6】図6は、従来の靴の製造工程の一部を示す図である。
【図7】図7は、従来の靴の外皮部体を示す図である。
【図8】図8は、従来の靴の製造工程の一部を示す図である。
【図9】図9は、従来の靴の製造工程の一部を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態にかかる織物(平織り)の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0095】
1 甲部材
2 生地(織物)
3 防水透湿膜
4 外皮部
5 目止めテープ
6 底部材(ソール)
7 中底材
8 防水ガスケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地と、防水透湿膜と、接着剤と、外皮部とがこの順序に積層されてなる甲部材を備え、前記生地の継ぎ目部に、前記防水透湿膜側とは反対側から目止めテープが接着されているランニングシューズ。
【請求項2】
前記生地には、前記防水透湿膜に面する側とは反対側にポリマードットが付着している請求項1に記載のランニングシューズ。
【請求項3】
前記ポリマードットの付着量が、0.2〜3.0g/mである請求項1または2に記載のランニングシューズ。
【請求項4】
前記ポリマードットの付着量が、1.5〜3.0g/mであり、前記ポリマードットの平均最大径が0.5mm以下である請求項1または2に記載のランニングシューズ。
【請求項5】
前記防水透湿膜と前記外皮部との間に部分的に設けられた接着剤により前記防水透湿膜と前記外皮部とが接着されている請求項1〜4のいずれかに記載のランニングシューズ。
【請求項6】
前記接着剤がホットメルト接着剤である請求項1〜5のいずれかに記載のランニングシューズ。
【請求項7】
前記防水透湿膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である請求項1〜6のいずれかに記載のランニングシューズ。
【請求項8】
前記生地がナイロン繊維で構成される請求項1〜7のいずれかに記載のランニングシューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−219786(P2009−219786A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69835(P2008−69835)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】