説明

リチウムイオンキャパシタを用いた電源装置、及び無線通信機器

【課題】低消費電力の自己発電モジュールに適した発電・充電特性とメンテナンスフリー性を兼ね備えた電源装置、及び無線通信機器を提供する。
【解決手段】リチウムイオンキャパシタ20からなる発電素子を備える電源装置2であり、リチウムイオンキャパシタを2.0Vから3.2Vの電圧範囲で動作させる電力制御部22を有する。無線通信機器1であり、上記の電源装置と無線通信部5を含み、無線通信部は無線データ送受信部50とセンサー部51と制御実行部52と中継部53とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンキャパシタを用いた電源装置、及び当該電源装置を用いた無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、周囲の環境から未利用のエネルギーを集めて電力に変換する環境発電技術の開発が盛んになっている。この環境発電技術は、水力発電・太陽光発電・風力発電といった大型環境発電技術と、電波、室内光、振動、熱(温度差が必要)などの身の回りに存在する微小なエネルギーを活用したマイクロ環境発電技術(エネルギー・ハーべスティング)との2種の技術に分けることができる。
【0003】
マイクロ環境発電技術を利用した機器としては、環境中のエネルギーを電気エネルギーに変換する変換素子(以下「環境発電素子」ともいう。)、整流・昇圧等の変換を行う電源マネージメント素子、目的のアプリケーションを実行するアプリケーション素子、及びマイクロコントローラー素子を含むモジュールが提案されている。また、前記の素子構成に加えて、変換素子で発電された電気を一時的に蓄える蓄電素子が含まれたモジュールも提案されている。
【0004】
環境発電素子としては、光を電気に変換する素子(小型の色素増感太陽電池等)、電波を電気に変換する素子(マイクロ波を直流電流に変換するレクテナ等)、振動等の機械的な動作を電気に変換する素子(圧電素子、電磁誘導素子、エレクトレット素子等)、及び温度差のある熱を電気に変換する素子(ゼーベック素子、ペルチェ素子)があげられる。アプリケーション素子としては、センサ、アクチュエータ、タイマー、及び無線トランシーバー/レシーバーがあげられ、必要に応じて組合せて使用される。
【0005】
マイクロ環境発電で得られる電力は環境発電素子の種類によるが、例えば1μW/cm2以下から100μW/cm2程度であるので、低消費電力に適した素子と用途が開発されている。
その一例としては、エンオーシャン社より、環境発電素子と、センサと、無線トランシーバー等とを組合せた自己発電型センサモジュールが上市されており、外部からの給電が不要な点、センサモジュールと制御装置本体間の配線が不要な点、電池交換等のメンテナンスが不要な点がメリットとして提案されている。
【0006】
また、環境発電素子により発電した電気を二次電池に充電し、利用する提案もなされている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0007】
具体的には、特許文献1には、圧電素子で発電した電気を二次電池やコンデンサ(キャパシタ)へ充電し、この電気エネルギーを電源電池の補助エネルギーとして利用する携帯式電話機が提案されている。特許文献2には、低温部とヒートパイプで熱を伝達される高温部とを有する熱電素子(ゼーベック素子)により発電し自動車の電子機器に電力を供給する電源装置が提案されており、発電によって生じた電力を蓄電する二次電池を有してもよいとの記載がある。特許文献3には、車両が走行する際の振動を利用して静電誘導方式または圧電方式によって発電し、センサで検知した車輪速を前記発電された電力により無線で送信するセンサが提案されており、発電によって生じた電力を蓄電してもよいとの記載がある。
ところで、従来の蓄電素子の用途においては、高エネルギー密度を重視する場合は二次電池、高入出力特性を重視する場合はキャパシタが選択されてきた。また、近年では新たな蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタも提案されている。
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(非水系リチウム型蓄電素子)の一種であり、正極においては電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着・脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン二次電池と同様のリチウムイオンの吸蔵・放出によるファラデー反応によって充放電を行う蓄電素子である。リチウムイオンキャパシタは、二次電池と比べると入出力特性や充放電の繰り返しや高温環境に対する耐久性に優れ、電気二重層キャパシタと比べるとエネルギー密度に優れる。
【0008】
具体的なリチウムイオンキャパシタの正極負極材料としては、正極に活性炭、負極に黒鉛などの炭素質材料を用いた蓄電素子が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、正極に活性炭、負極に活性炭表面に炭素質材料を被覆した複合多孔性材料を使用する蓄電素子が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−171341号公報
【特許文献2】特開2008−143432号公報
【特許文献3】特開2010−175475号公報
【特許文献4】特開平08−107048号公報
【特許文献5】特開2001−229926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
環境発電素子を含む電源装置と、無線トランシーバー/レシーバーとアプリケーション素子とを含む無線通信部とを備え、外部電源を必要としない無線通信機器(以下「自己発電モジュール」という。)において、環境発電素子により発電された電力を一時的に蓄積するためのオプションとして使用する蓄電素子は、自己発電モジュール自体が低消費電力設計であるので、高容量・高出力である必要性はない。それにかわって、耐久性が高くメンテナンスフリーであることが必要となる。
【0011】
しかしながら、二次電池(リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池)は、動作原理が化学反応(ファラデー反応)を利用したものであるため、エネルギー密度に優れる一方で、内部抵抗が高くかつ耐久性が悪い。そのため、上記自己発電モジュール用の蓄電素子として二次電池を使用した機器においては内部抵抗による損失が大きく、環境発電素子で発電した微小な電力を効率よく充電することが困難である。また、充放電の繰返しや高温使用環境に対する耐久性が低いため一定時間の経過毎の取り換え等のメンテナンスの手間が生じる。
【0012】
また、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、スーパーキャパシタ)は、動作原理が化学反応ではなく、電解液中のイオンの静電吸着により電荷を蓄えるものであるため、内部抵抗や耐久性に優れる一方で、吸着イオンの拡散による自己放電が早いために蓄積した電荷がすぐに消滅してしまう。そのため、環境発電素子による発電が断続的なものであり発電間隔が長くなりうる場合には蓄電素子からの放電が機能しない可能性があり、その場合は取り換え等のメンテナンスの手間が生じる。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低消費電力の自己発電モジュールに適した発電・充放電特性とメンテナンスフリー性を兼ね備えた電源装置、及び当該電源装置を用いた無線通信機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、リチウムイオンキャパシタの、内部抵抗が小さいために環境発電によって得られた微小な電力を有効に蓄積することができる点、及び自己放電が少ないため発電間隔が長くても対応可能な点に着目した。そしてリチウムイオンキャパシタを蓄電素子とする自己発電モジュールについて検討したところ、金属リチウムに対する正極電位が4.2Vの満充電状態から正極電位が2.2V付近になるまで放電させたリチウムイオンキャパシタの正極が、リチウムイオンの濃度勾配を解消する方向に自発的に電位を上昇させる(すなわち自己発電する)現象を見出した。
【0015】
この自己発電で発生する電力量は、蓄電素子として充放電可能な電力量と比較して桁数が4〜5桁程度小さいために、通常の蓄電素子としての使用を検討しても気づかない、または誤差として無視されるレベルの値であるが、小電力の自己発電モジュールにおいては、環境発電素子にかわる発電素子として、または当該環境発電素子が発電した電力を一時的に蓄える蓄電素子として十分に使用できるレベルの値である。そこで、リチウムイオンキャパシタの正極の電位を上記自己発電現象が発現する範囲に制御することにより、リチウムイオンキャパシタを発電素子または蓄電素子として使用する小電力無線通信機器用の電源装置を検討した結果、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下に記載のものである。
【0016】
(1)リチウムイオンキャパシタからなる発電素子を備えた電源装置。
(2)環境発電素子と、リチウムイオンキャパシタからなる蓄電素子とを備えた電源装置。
(3)前記リチウムイオンキャパシタを2.0V〜3.2Vの電圧範囲で動作させる電力制御部を有する(1)又は(2)に記載の電源装置。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の電源装置と無線通信部とを含む無線通信機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、低消費電力の自己発電モジュールに適した発電・充放電特性とメンテナンスフリー性を兼ね備えた電源装置、及び無線通信機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態の電源装置を含む無線通信機器の電気回路ブロック図である。
【図2】本発明の第二の実施形態の電源装置を含む無線通信機器の電気回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について図面を適宜参照しつつ詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
図1は、本発明の第一の実施態様である、リチウムイオンキャパシタからなる発電素子を備える電源装置を含む無線通信機器の一実施形態の電気回路ブロック図である。
この無線通信機器1は、電源装置2、無線通信、計測、及び制御を行う無線通信部5、並びに電波の送受信を行うアンテナ6を有する。電源装置2は、リチウムイオンキャパシタ20と、リチウムイオンキャパシタ20により発電された電力を制御した後に負荷へ供給するための電力制御部22とを有する。図中の実線は電力の流れを表し、点線は制御の流れを表している。
【0021】
無線通信部5で高電圧を必要とする際は、リチウムイオンキャパシタ20を複数個直列に接続して用いるか、電力制御部22に昇圧回路を設けることができる。同様に、無線通信部5で低電圧を必要とする際は、電力制御部22に降圧回路を設けることができる。
電力制御部22は電源マネージメント素子を有し、無線通信部5へ定電圧を供給する機能を有する。
無線通信部5は、無線データ送受信部50と、センサ部51と、制御実行部52と、中継部53とを有する。
【0022】
無線データ送受信部50は無線トランシーバー及び/又はレシーバーを有し、他の無線通信機器との間で無線通信によるデータ通信を制御する機能を有する。無線通信方式としては2.4GHz帯を使用するWiFi方式やBluetooth方式やその他の独自の方式も可能であるが、2.4GHz帯を使用するZigBeeアライアンスや315MHz帯を使用するenoceanアライアンスが採用している方式が低消費電力のデバイスが種々開発されているためより好ましい。
【0023】
センサ部51はセンサを有し、計測の対象となる物理量をデータとして収集する機能を有する。計測を行わない無線通信機器の場合は、センサ部51は不要となる。具体的なセンサの例としては、人感センサ、温度センサ、照度センサ、二酸化炭素等のガスセンサ、湿度センサ、圧力センサ、電流センサ、動作センサ(回転センサ、加速度センサ、角速度センサ等)があげられる。
制御実行部52はマイクロコントローラー素子を有し、無線通信機器内の他のデバイス(センサ、中継素子、電源マネージメント素子、無線トランシーバー/レシーバー)に対して制御信号を出力する機能や、タイマーやアクチュエータによる動作制御を行う機能を有する。
【0024】
中継部53は無線中継素子を有し、無線データ送受信部で受信したデータを他の無線通信機器へデータを転送する機能を有する。中継を行わない無線通信機器には中継部53は不要となる。
【0025】
図2は、本発明の第二の実施態様である、環境発電素子とリチウムイオンキャパシタからなる蓄電素子とを備える電源装置を含む無線通信機器の一実施形態の電気回路ブロック図である。
【0026】
この無線通信機器1は、電源装置2、無線通信、計測、及び制御を行う無線通信部5、並びに電波の送受信を行うアンテナ6を有する。電源装置2は、リチウムイオンキャパシタ20と、リチウムイオンキャパシタ20を充電する電力を供給する環境発電部21と、リチウムイオンキャパシタ20により放電された電力を制御した後に負荷へ供給するための電力制御部22とを有する。以下では、前述の第一の実施態様と同じ点は省略し、異なる点を説明する。
【0027】
環境発電部21は環境発電素子を有し、環境発電素子として前述した公知のものを使用することができる。より具体的には、例えば小型の色素増感太陽電池、圧電素子、熱電素子、エレクトレット素子、レクテナのようなセンサーネットワーク端末で使用されているものが挙げられる。
環境発電部21が交流電力を発電するものである場合(振動等の機械的な動作を電気に変換する圧電素子、電磁誘導素子、エレクトレット素子)には、電力制御部22は交流電力を整流・整圧してリチウムイオンキャパシタ20を充電する機能、無線通信部5へ定電圧を供給する機能を有する。
環境発電部21が直流電力を発電するものである場合(光電変換素子、熱電変換素子、レクチナ)には、電力制御部22は発電された直流電力を整圧してリチウムイオンキャパシタ20を充電する機能、無線通信部5へ定電圧を供給する機能を有する。
【0028】
次に、本発明の電源装置に用いられるリチウムイオンキャパシタについて説明する。
リチウムイオンキャパシタとしては、活性炭を正極活物質とする正極、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質を負極活物質とする負極、及びリチウム塩電解質を含む非水系電解液を有するリチウムイオンキャパシタを好適に用いることができる。
中でも、負極活物質としてグラファイト、難黒鉛化性炭素材料(ハードカーボン)または活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔質炭素材料が好適に使用できる。なお、負極活物質にはリチウムイオンを電気化学的にプリドープしておく必要がある。具体的なプリドープ法としては、電解液中で負極をリチウム箔と接触させる方法などが知られている。
【0029】
なお、上述した負極活物質は、良好な内部抵抗値を得る観点から下記の条件(1)および(2)を満たす複合多孔質材料であることが好ましい。
(1)BJH法で算出されたメソ孔量(直径が2nm以上50nm以下である細孔の量)Vm1(cc/g)が0.01≦Vm1<0.10である。
(2)MP法で算出されたマイクロ孔量(直径が2nm未満である細孔の量)Vm2(cc/g)が0.01≦Vm2<0.30である。
【0030】
また、上述した正極活物質は、下記の条件(3)〜(5)を満たす活性炭であることが好ましい。
(3)BJH法で算出されたメソ孔量V1(cc/g)が、0.3≦V1<0.8である。
(4)MP法で算出されたマイクロ孔量V2(cc/g)が、0.5≦V2<1.0である。
(5)BET法で測定された比表面積が1500m2/g以上3000m2/g以下である。
【0031】
上記負極活物質ないし正極活物質が、上記(1)〜(5)を満たすことは、本実施の形態の無線通信機器において、リチウムイオンキャパシタの発電・充放電特性を向上させる観点、及びメンテナンスフリー性を向上させる観点から好適である。
ここで、マイクロ孔量及びメソ孔量は以下のような方法により求めた値である。試料を500℃で一昼夜真空乾燥を行い、窒素を吸着質とし吸脱着の等温線の測定を行なう。このときの脱着側の等温線を用いて、マイクロ孔量はMP法により、メソ孔量はBJH法により算出した。
【0032】
MP法とは、「t−プロット法」(B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965))を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、M.Mikhail, Brunauer, Bodorにより考案された方法である(R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45 (1968))。また、BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett, Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(E. P. Barrett, L. G. Joyner and P. Halenda, J. Amer. Chem. Soc., 73, 373(1951))。
【0033】
リチウムイオンキャパシタの構造は、正極と負極とがセパレータをはさんで対向するように積層または捲回して電極体を形成し、これをアルミラミネートフィルムまたは電池缶からなる外装体でパッケージして、非水系電解液注入後に密閉して構成される。外装体がアルミラミネートフィルムからなる薄型外装体とすると、機器内で電源装置が占めるスペースが少なくなるので好ましい。
セパレータはリチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜、もしくはポリプロピレン製の微多孔膜、または電気二重層コンデンサで用いられるセルロース製の不織紙などを用いることができる。セパレータの厚みは10μm以上50μm以下が好ましい。厚みが10μm以上であると、内部のマイクロショートによる自己放電が発生しにくくなるため好ましい。また、厚みが50μm以下であると、内部抵抗が低くなるため好ましい。
【0034】
非水系電解液の溶媒としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)に代表される環状炭酸エステル、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(MEC)に代表される鎖状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、ならびにこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0035】
これら溶媒に溶解する電解質はリチウム塩である必要があり、好ましいリチウム塩を例示すれば、LiBF4、LiPF6、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO225) およびこれらの混合塩をあげることができる。非水系電解液中の電解質濃度は、0.5〜2.0mol/Lの範囲が好ましい。0.5mol/L以上であれはイオン濃度が高く電気伝導度も高い。また、2.0mol/L以下であれば低温環境下で当該リチウム塩が該電解液中に析出したり、該電解液の粘度が高くなりすぎたりすることによって逆に伝導度が低下することがない。
【0036】
本発明においては、リチウムイオンキャパシタの使用電圧範囲を制御することで、優れた発電・充放電特性を実現する。その作用機構についての詳細は詳らかではないが、正極内に存在するリチウムイオンの拡散に大きな影響を受けているものと推察される。
大出力での充放電を目的とする場合は出来る限り大きな電圧差で充放電させることが好ましいが、電解液の分解等に対する信頼性を確保するために、リチウムイオンキャパシタは通常、セル電圧が2Vから4Vの電圧範囲で使用される。
【0037】
ここで、充電したリチウムイオンキャパシタを放電させると、セル電圧が2.8V付近において、正極へ吸着・脱離するイオン種が切り替わる。つまり、リチウムイオンキャパシタにおいては、負極に予めリチウムイオンをプリドープすることで負極の電位を下げているため、正極では2.8V以上の電圧でPF6-やBF4-等のリチウム塩のカウンターアニオン種の吸着・脱離が起こり、2.8V以下の電圧ではリチウムイオンの吸着・脱離が起こる。吸着したイオン種は熱運動による濃度拡散により電解液中へ拡散し、これによりリチウムイオンキャパシタのセル電圧が変動すると考えられる。そのため、リチウムイオンキャパシタセルを2V付近の電圧で放置すると正極内のリチウムイオンが自発的に電解液中へ拡散し、正極電位が上昇することによりセル電圧が上昇、つまり自己発電を行うことができると推察される。
【0038】
以上より、最小動作電圧は、リチウムイオンキャパシタセルの自己発電を促進する観点から1.6V以上の電圧で使用することが好ましく、セルの劣化を防ぐという観点を考慮すると、2.0V以上の電圧で使用することがより好ましい。
最大動作電圧は、セルの自己放電を抑制して充電特性を高める観点から、3.2V以下で使用することが好ましく、2.8V以下で使用することがより好ましい。従来技術のリチウムイオンキャパシタの使用においては、高入出力を得ることが主目的であったため、このように上限電圧を下げて充放電させる蓄電素子として使用することや、低電圧で放電する発電素子として使用するとの提案はなかった。
【0039】
一方、電気二重層キャパシタについては、吸着イオン種が切り替わる電圧がないために、充電した電気二重層キャパシタを放電させても、リチウムイオンキャパシタで生じる様な自己発電は起こらない。そして、正極及び負極共にイオンの静電吸着により電荷を蓄えるために出力特性には優れるが、自己放電が早く、充電特性に難点があるため、環境発電素子により発電された小さな電力を充電するための蓄電素子としても最適ではない。
【0040】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池についても、電気二重層キャパシタと同様に、反応イオン種が切り替わる電圧がないために、充電した二次電池を放電させても、リチウムイオンキャパシタで生じる様な自己発電は起こらない。そして、動作原理が化学反応(ファラデー反応)を利用しているために、充放電の繰り返しに対する耐久性に難点があり、無線通信機器のメンテナンスフリーの要求に応えるための蓄電素子としては最適ではない。
【0041】
リチウムイオンキャパシタの最小静電容量については特に限定されないが、リチウムイオンキャパシタの発電・充電特性を考慮すると0.5F以上の静電容量を有することが好ましく、1F以上の静電容量を有することがより好ましい。
【0042】
最大静電容量についても特に限定されないが、無線通信機器における蓄電部の占める大きさを考慮すると100F以下の静電容量を有することが好ましく、50F以下の静電容量を有することがより好ましい。
なお、リチウムイオンキャパシタの静電容量(C)は、正極の静電容量(C)と負極の静電容量(C)を用いて、1/C=1/C+1/Cで表される。負極の静電容量は、正極の静電容量の15倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましく、25倍以上であることがさらに好ましい。負極の静電容量が15倍以上であれば、前述の自己発電能力により優れる。
【0043】
このような無線通信機器は、無線によるセンサーネットワークにおける端末通信機器として好適に使用される。
【実施例】
【0044】
次に、参考評価例及び比較評価例を挙げて本実施の形態で使用されるリチウムイオンキャパシタの特性をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)リチウムイオンキャパシタの内部抵抗
JIS C 5160−1に記載の交流抵抗法に準じて20℃における交流抵抗値を測定した。
(2)微小電流による充放電効率(%)
微小電流による充放電の条件として、測定温度を25℃、充電電流を50μA、放電電流を1mAとし、放電容量を充電容量で除した値を充放電効率(%)とした。
(3)フロート試験による自己発電電流値(μA)
フロート条件として、測定温度を60℃とし、定電圧放電させたときに流れる電流値とした。
【0045】
[製造例]
参考評価例で使用したリチウムイオンキャパシタは、以下の製法により作製した。
破砕されたヤシ殻炭化品を小型炭化炉において窒素雰囲気中、500℃で炭化した。その後、窒素の代わりに1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で炉内へ投入し、900℃まで8時間をかけて昇温した後に取り出し、窒素雰囲気下で冷却して賦活化された活性炭を得た。得られた活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りした。その後、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行い、正極材料となる活性炭を得た。
【0046】
本活性炭をユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)で、細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m2/g、メソ孔量(V1)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V2)が0.88cc/g、V1/V2=0.59、平均細孔径が22.9Åであった。
【0047】
この活性炭を正極活物質に用い、当該活性炭83.4質量部、アセチレンブラック8.3質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)8.3質量部、及びNMP(N−メチルピロリドン)を混合して、スラリーを得た。次いで、得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥し、プレスして、厚さ60μmの正極を得た。
【0048】
市販のヤシ殻活性炭(BET比表面積1,780m2/g)150gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ(軟化点:50℃)270gを入れたステンレス製バットの上に置き、電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行った。熱処理は窒素雰囲気下で、600℃まで8時間で昇温し、同温度で4時間保持し、続いて自然冷却により60℃まで冷却した後、炉から取り出した。
【0049】
得られた複合多孔性材料はBET比表面積が262m2/g、メソ孔量(Vm1)が0.18cc/g、マイクロ孔量(Vm2)が0.08cc/g、Vm1/Vm2=2.25であった。
本複合多孔性材料を83.4質量部、アセチレンブラックを8.3質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を8.3質量部、及びNMP(N−メチルピロリドン)を混合して、スラリーを得た。次いで、得られたスラリーを厚さ14μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥し、プレスして、厚さ60μmの負極を得た。
【0050】
上記で得られた正極、及び負極を目的とする静電容量を発現し、同面積になるように切り取り、活物質面を厚み30μmの不織布製セパレータを挟んで対向させ、ナイロン/アルミニウム/ポリプロピレンの3層構成アルミラミネートフィルムからなる外装体に電解液とともに封入し、リチウムイオンキャパシタを組立てた。この時、負極として負極活物質重量あたり750mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にプリドープしたものを使用し、電解液として炭酸エチレンと炭酸エチルメチルとを体積比1:2で混合した溶媒に1mol/Lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を使用した。
【0051】
[参考評価例1]
リチウムイオンキャパシタとして静電容量が1Fのものを用い、充電開始電圧を2.0Vとして24時間定電流充電し、その後放電終了電圧を2.0Vとして定電流放電を行い、微小電流による充放電効率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0052】
[参考評価例2]
リチウムイオンキャパシタとして静電容量が25Fのものを用い、充電開始電圧を2.0Vとして24時間定電流充電し、その後放電終了電圧を2.0Vとして定電流放電を行い、微小電流による充放電効率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
[参考評価例3]
リチウムイオンキャパシタとして静電容量が100Fのものを用い、充電開始電圧を2.0Vとして24時間定電流充電し、その後放電終了電圧を2.0Vとして定電流放電を行い、微小電流による充放電効率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
[比較評価例1]
電気二重層キャパシタとして静電容量が1Fのものを用い、充電開始電圧を0Vとして24時間定電流充電し、その後放電終了電圧を0Vとして定電流放電を行い、微小電流による充放電効率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0055】
[比較評価例2]
リチウムイオン二次電池として静電容量が135mAhのものを用い、充電開始電圧を3.0Vとして24時間定電流充電し、その後放電終了電圧を3.0Vとして定電流放電を行い、微小電流による充放電効率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池では充放電効率が低いことがわかる。また、リチウムイオンキャパシタの静電容量が大きいほど自己発電により生じる静電容量が大きいため、充放電効率は100%を超える。
【0058】
[参考評価例4]
静電容量が1Fのリチウムイオンキャパシタを用い、充電開始電圧を2.0V、充電終了電圧を4.0Vとし、充電電流を50μA,及び1C(0.6mA)としたときの充電容量の差の比較を行った。ここで得られた値を50μA充電に要した時間で除することで、平均のリーク電流とした。測定結果を表2に示す。
【0059】
[参考評価例5]
静電容量が100Fのリチウムイオンキャパシタを用い、充電開始電圧を2.0V、充電終了電圧を4.0Vとし、充電電流を50μA,1C(60mA)としたときの充電容量の差の比較を行った。ここで得られた値を50μA充電に要した時間で除することで、平均のリーク電流とした。測定結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2より、3.6V以下の領域で充電時における電力の損失が小さく、3.2V以下の領域では特に小さいことがわかる。
【0062】
[比較評価例3]
静電容量が1Fの電気二重層キャパシタを用い、充電開始電圧を0.0V、充電終了電圧を2.8Vとし、充電電流を50μA,及び1C(1.0mA)としたときの充電容量の差の比較を行った。ここで得られた値を50μA充電に要した時間で除することで、平均のリーク電流とした。測定結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3より、電気二重層キャパシタでは自己放電が早いために微小電流を充電することが困難であり、1.8V以上に充電することができなかった。
【0065】
[参考評価例6]
静電容量が100Fのリチウムイオンキャパシタを用い、2.0Vにおけるフロート試験時における電流値の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0066】
[比較評価例4]
静電容量が1Fの電気二重層キャパシタを用い、0Vにおけるフロート試験時における電流値の測定を行った。その結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4より、参考評価例6ではリチウムイオンキャパシタの自己発電に起因する電流値が測定され、300時間以降はほぼ一定値となった。比較評価例4の電気二重層キャパシタでは自己発電に起因する電流値は測定されなかった。
【0069】
[参考評価例7]
静電容量が1Fのリチウムイオンキャパシタを用い、測定温度を25℃として定電圧放電を1時間行い、その後4.0Vまで充電をした後に交流抵抗値を測定した。定電圧放電前後の交流抵抗値の比較を行い、放電前の交流抵抗値に対して放電後の交流抵抗値の比率を求めた。その結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5より、1.6Vの放電までであれば抵抗上昇が小さいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の電源装置は、無線センサーネットワーク等の情報通信分野で好適に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1:無線通信機器
2:電源装置
20:リチウムイオンキャパシタ
21:環境発電部
22:電力制御部
5:無線通信部
50:無線データ送受信部
51:センサ部
52:制御実行部
53:中継部
6:アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンキャパシタからなる発電素子を備えた電源装置。
【請求項2】
環境発電素子と、リチウムイオンキャパシタからなる蓄電素子とを備えた電源装置。
【請求項3】
前記リチウムイオンキャパシタを2.0V〜3.2Vの電圧範囲で動作させる電力制御部を有する請求項1又は2に記載の電源装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電源装置と無線通信部とを含む無線通信機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−78235(P2013−78235A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217852(P2011−217852)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】