説明

リチウムイオン電池

【課題】 充放電を繰り返したり長期放置をしておいたりしても電極自由膨潤による短絡や容量低下が生ずることなく、また比較的大きな容量を有し、しかも製造コストの安いリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】 チタン酸リチウムもしくはX線広角回折法による(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を負極材料に用いた極板群7を、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体6に収納に収納する。充放電に伴う電極の自由膨潤が極めてすくないので、充放電を繰り返したり長期放置をしておいたりしても短絡や容量低下が生ずることがなく、しかも金属ケースを使用しないので製造容易でコストも安いリチウムイオン電池が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はリチウムイオン電池に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の電子技術のめざましい進歩は、電子機器の小形・軽量化を次々と実現させている。それに伴い、電源である電池に対しても、一層の小型化、軽量化、高エネルギー密度化が求められるようになっている。
【0003】ポータブル機器電源に使用される各種小形二次電池のおおよそのネルギー密度を比較してみると、鉛電池では20〜40Wh/kg,50〜100Wh/l、ニッケルカドミウム電池では30〜60Wh/kg,100〜160Wh/l、ニッケル水素電池では45〜65Wh/kg,160〜200Wh/lなのに対し、リチウムイオン電池では60〜125Wh/kg,190〜310Wh/lと言われている。このように、リチウムイオン電池は他の電池に比べネルギー密度が高いことから、その実用化が期待されている。
【0004】従来から携帯機器用として一般的に開発されているリチウムイオン電池には、巻回した極板群を円筒形や角型のケースに収納したものや、平板状の極板とセパレータとを積層して角型のケースに収納したものがある。
【0005】ところが、これらリチウムイオン電池に使用されるケースは負極端子を兼ねる金属容器で形成されるため、薄形化や軽量化が困難である。そこで、薄形で軽量なリチウムイオン電池を提供する手段として、各1枚づつの正負極板とセパレータとをポリエチレンシートやアルミシートをラミネートし非ガス透過性を持たせたフィルム部材よりなる袋状体に収納し、熱溶着等により接合密閉したものが提案されている。このような模式構造は、リチウムイオン電池のものとしてではないが、例えば、実開昭60−162362号に開示されているように、内側から感熱性接着層、アルミニウム箔および高分子フィルムからなるラミネートフィルムで平板状極板を封止し、ラミネートフィルムの感熱層にリード体となる金属蒸着膜を形成し、金属の蒸着膜の一端を電極棒に接触させてラミネートフィルムで封止したもの(図1参照)や、特開昭61−206157号に開示されているように、平板状極板をチューブ状のラミネートフィルム部材に挿入した後、両端部を熱溶着して密閉したもの(図2参照)などがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】周知の通り、電極の中には、充放電を繰り返したり長期放置をしておいたりすると、膨潤するものがある。電極を自由に膨潤させると、電極が変形して短絡を生じたり、電極反応が不均一になって容量低下が生じたりする。リチウムイオン電池についてもまたしかりである。金属電槽や剛性樹脂電槽を用いた電池では極板群に圧迫がかかるので、電極自由膨潤に起因する前記のような問題は比較的少ない。
【0007】しかしながら、フィルム部材よりなる袋状体に極板群を収納する形の上記のような構造のリチウムイオン電池は、構造的に極板群平板面方向の圧迫力が弱いため、充放電を繰り返したり長期放置したりすると、電極の膨潤が生じやすく、短絡や容量低下が生じやすいという問題がある。前述した特開昭61−206157号の場合は、実開昭60−162362号のものに比べ、多少極板圧迫の配慮がなされているが、未だ実用に耐えうるものではない。
【0008】この発明は上記ような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、充放電を繰り返したり長期放置をしておいたりしても電極自由膨潤による短絡や容量低下が生ずることなく、しかも製造コストの安いリチウムイオン電池を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明においては、チタン酸リチウムもしくはX線広角回折法による(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を負極材料に用いた極板群を、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体に収納したことを特徴とするリチウムイオン電池の発明により、上記課題を解決するものである。
【0010】すなわち、本発明者らは、チタン酸リチウムやX線広角回折法による(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を負極材料に用いた極板群では、リチウムの可逆的なインターカレーション、デインタカレーションに伴う電極の膨張収縮が著しく小さく、これを用いた電池では充放電の繰り返しや長期放置による電池特性の劣化を抑制することを見いだし、本発明の完成に至った。
【0011】尚、本発明において、機能性フィルム部材とは、正極、負極、セパレータ等よりなる極板群や電解液等と接した時、化学変化を生じたり、電解液が漏出したり、酸素や水素あるいは有機蒸気や水蒸気等の気体が容易に透過したり、容易に破れたりすることのないよう各種機能性が付与されたシート状部材の総称である。これは例えば、アルミニウムなどの金属やガラスなどの無機材料からなる箔膜によって形成されるガスバリヤ層と合成樹脂からなる補強層と接着層とを多重積層したものを上げることができるが、必ずしも複数種のシート部材がラミネートされている必要はなく、同等の機能性能を有するものであれば単層のものであってもよい。
【0012】また、本発明において、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体とは、前記機能性フィルム部材を主たる構成部材とし、極板群や電解液を、収納体自体は発電要素の自由膨潤を抑止しうるほどの圧迫力を有することなく、機能性フィルム部材自身の熱溶着性もしくは他の接合部材等により、密閉収納しうるよう構成された電池容器の総称である。
【0013】また、本発明において、極板群とは少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極と少なくとも1つのセパレータ部材(固体電解質もこれに含める)との集合体を意味しているが、極板群が巻回されるとき、短絡を防止するため複数のセパレータが使用されたり、出力リードの取り付け個所に配慮がなされたりすることは、当業者における周知・慣用の技術的手段である。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、下記実施例により何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0015】[正極活物質の調整] LiNi0.75Co0.2 Al0.052 の組成の複合酸化物を調整した。調整方法としては、共沈合成したβ−Ni1-x Cox (OH)2とAl(OH)3 とを所定割合で混合した後、酸素中において720℃で40時間かけて焼成合成した。焼成後、これらを平均3.5μmに粉砕して、リチウム二次電池用正極活物質を得た。尚、焼成温度としては600〜900℃の範囲で適宜設定してもよい。
[正極の調整] 93重量部のLiNi0.75Co0.2 Al0.052 に対し、アセチレンブラックを2.5重量部混合し、そこにバインダーとしてのポリフッ化ビニリデンが全体の4.5重量部となるよう添加し、さらに溶剤としてN−メチルピロリドンを加えて混練することにより、活物質ペーストを得た。次にこの活物質ペーストをアルミニウム箔よりなる幅50mmの電極基体に塗布、乾燥させ、リチウム二次電池用正極を調整した。
【0016】尚、バインダーとしては、上記以外のものとして、ポリテトラフルオロエチレン、ゴム系高分子もしくはこれらとセルロース系高分子との混合物またはポリフッ化ビニリデンを主体とするコポリマー等が例示される。
【0017】[負極の調整] 平均粒径3μmのLiTi2 4 粉末を92重量部に対してポリフッ化ビニリデンを8重量部加え、さらにN−メチルピロリドン溶液を加えてペースト化したものを、厚さ20μmの銅箔の両面に塗布して負極板を作成した。また、X線広角回折法による(002)面の面間隔が3.8、3.7、3.48及び3.37オングストングの4種類の炭素材をLiTi2 4 の代わりに用いて、それぞれ同様の負極板を作成した。
【0018】[セパレータの調整] 厚さ25μmのポリエチレン微多孔膜をセパレータとして使用した。セパレータについても、特に制限されず、従来から使用されている種々のセパレータを用いることができる。
【0019】[極板群の調整]上記正負両極とセパレータとを扁平渦巻状に巻回した極板群と、正負両極とセパレータとを平板状として積層した積層式極板群とを準備した。前者を図3に、また後者を図4に示す。これらの図において、1は正極板、2はセパレータ、3は負極板、4は出力リード、7は巻回式極板群、8は積層式極板群である。各々の極板群の端部は、極板群の離散解離を防ぐため、テープ(図示せず)で固定してある。この実施例での巻回式極板群の扁平部の厚みは10mmであり、積層式極板群の厚みは9mmであった。
【0020】[非水電解液の調整] エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比4:6の混合溶媒に、LiPF6 を1モル/l溶かして非水系電解液を調整した。非水系電解液についても、上記に制限されるものではなく、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、ガンマブチロラクトン等の溶媒との混合溶媒にLiBF6 、LiClO4 等の溶質を溶かした溶液など、種々のものを用いることができる。
【0021】[電池の調整]次に、30μmのアルミニウム箔の両面に60μmのポリエチレンをラミネートしたフィルムよりなる、一端が開口した袋状収納体5に上記極板群を収納し、所定量の電解液を注入した後、袋状収納体5の開口部を熱溶着法により密閉した。図5は巻回式極板群7を収納したリチウムイオン電池の側壁部欠裁模式図であり、図6は積層式極板群8を収納したリチウムイオン電池の側壁部欠裁模式図である。6は袋状収納体5に取りつけられた圧力開放弁であり、袋状収納体内部圧力が設定値以上になった場合にのみ開口するよう構成されている。このようにして、電極の構造及び負極材料の種類に応じて、表1のイ〜ヌの10種類の電池を作成した。
【0022】上記実施例では、アルミニウム箔の両面にポリエチレンをラミネートしたシートを用いたが、ポリエチレンの代わりポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン等の熱可塑性樹脂を用いたり、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合ケン化物、ポリアクリロニトリル等のバリアー層をラミネートした機能性フィルムを使用することもできる。
【0023】また、上記実施例では一端が開口した袋状収納体を用いたが、2枚の機能性フィルム部材の間に極板群をはさみ込み周囲を接合する方法や、両端が開口した筒状体を用い両端開口部を接合する方法などを採用することもできる。更に、本発明は有機電解液電池だけではなく、固体電解質電池に適用してもよい。。
【0024】[試験]上記2種類のリチウムイオン電池を充放電サイクル試験に供した。尚、試験条件は次の通りである。
【0025】
充電:200mA定電流/4.1V定電圧×5h(25℃)
放電:400mA定電流,終止定電圧3.0V(25℃)
[試験結果] 図7〜10に、500サイクル目までの放電容量の平均値(各々10セルづつ)を示す。図7、8は巻回式極板群を用いたリチウムイオン電池のものであり、図9、10は積層式極板群を用いたリチウムイオン電池のものである。また、図7、9は炭素質材料を負極に用いたリチウムイオン電池のものであり、図8、10はチタン酸リチウムを負極に用いたリチウムイオン電池のものである。
【0026】図7、8の結果より、チタン酸リチウムもしくは(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上の炭素質材料を負極に用いたリチウムイオン電池のサイクル寿命性能は、(002)面の面間隔が3.7オングストロング以下の炭素質材料を用いたリチウムイオン電池よりも優れていることがわかる。
【0027】同様に、図9、10の結果より、全体としては図7、8の結果よりも多少劣るものの、チタン酸リチウムもしくは(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上の炭素質材料を負極に用いたリチウムイオン電池のサイクル寿命性能は、(002)面の面間隔が3.7オングストロング以下の炭素質材料を用いたリチウムイオン電池よりも優れていることがわかる。
【0028】本願発明者らは、これら性能の差異が何に起因しているのかを調査した結果、負極活物質の充放電に伴う極板の膨潤の程度の差異に基づくことを見いだした。500サイクル終了時における極板群の膨れ(巻回式極板群の場合には扁平部の中央部、積層式極板群の場合には中央部)を表1に示す。
【0029】
【表1】


この表より明らかなように、チタン酸リチウムと、(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上の炭素材料とを負極材料に用いた場合には、膨れ度合いが小さいことがわかる。これは、充放電の繰り返しにともなう結晶格子間へのリチウムイオン出入りに伴い、(002)面の面間隔が3.7オングストロング以下の炭素材では結晶格子の膨張が著しく大きいことによるものと推測される。その結果、(002)面の面間隔が3.7オングストロング以下の炭素材料を負極に用いた電池では、電極が変形して電極反応が不均一になり容量低下が生じたのでろう。
【0030】尚、積層式極板群より巻回式極板群の方が全体としてサイクル特性が良かった理由は、前者に比べ後者のほうが、巻回による極板群相互の拘束力により、充放電に伴う負極板の自由膨潤が制限され、極板の膨張がより少なかったことによるものと推測される。本実施例では、巻回式極板群として扁平渦巻状のものについて説明したが、円筒渦巻状の巻回式極板群の方が相互の拘束力がつよく膨潤抵抗は大きいので、実施の態様によっては円筒型巻回式極板群を用いた方がよいこともある。
【0031】以上の結果より、負極にチタン酸リチウムもしくは(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を用いた極板群を、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体に収納したことを特徴とするリチウムイオン電池とすることにより、従来、実用に供し難かった薄型で安価なリチウムイオン電池の提供が可能になったばかりではなく、巻回式極板群や積層式極板群を用いることで従来にも増して高容量のリチウムイオン電池を安価に提供することができる。
【0032】
【発明の効果】以上述べたように、本発明にかかるリチウムイオン電池は、チタン酸リチウムもしくはX線広角回折法による(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を負極材料に用いた極板群を、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体に収納したことを特徴とするものである。
【0033】これにより、充放電に伴う電極の自由膨潤が極めて少なく、充放電を繰り返したり長期放置をしておいたりしても短絡や容量低下が生ずることがなく、しかも金属ケースを使用しないので製造容易でコストも安いリチウムイオン電池の提供可能となった。さらに、平板状の電極とセパレータとを幾層にも積層した発電要素や渦巻状に巻回した極板群を用いることで、従来のこの種収納容器を用いた電池に比べ、はるかに高容量の電池を構成することができる。
【0034】本願発明を評価する上で、まず再認識されるべきは、従来の機能性シート部材よりなる袋状収納体に極板群を収納するこの種電池においては、薄型化が設計思想の中心であり、勢い放電容量も少ないものしかなく、しかも充放電サイクルの進行に伴う容量低下の度合いが大きいため、実用に耐え得るものはなかったということである。
【0035】本願発明者らは、製造コストが易く、しかも性能のよいリチウムイオン電池を提供するにはどのような手段を講ずるとよいかという課題解決手段の模索の過程で、負極材料にチタン酸リチウムもしくは(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を用いれば、電極の自由膨潤が極めてすくなく、サイクル性能が良いという知見とともに、機能性フィルム部材を用いた袋状収納体方式のリチウムイオン電池であっても薄型化のみが追求されたものではなくてもよいという発想の転換とを得て、本願発明の着想・完成に至ったものであり、本発明は、当業者が容易に想定し得える程度のものでないということこそ銘記されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来例を示す図である。
【図2】従来例を示す図である。
【図3】扁平渦巻回式極板群を示す図である。
【図4】平板状積層極板群を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す図である。
【図6】本発明の比較例を示す図である。
【図7】試験結果を示す図である。
【図8】試験結果を示す図である。
【図9】試験結果を示す図である。
【図10】試験結果を示す図である。
【符号の説明】
1 正極
2 セパレータ
3 負極
4 出力リード
5 袋状収納体
6 圧力開放弁
7 扁平渦巻状巻回式極板群
8 平板積層式極板群

【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタン酸リチウムもしくはX線広角回折法による(002)面の面間隔が3.7オングストロング以上である炭素材料を負極材料に用いた極板群を、機能性フィルム部材よりなる袋状収納体に収納したことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】 極板群が平板状極板と平板状セパレータとの積層式極板群であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】 極板群が極板とセパレータとの巻回式極板群であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate