説明

リン及び窒素含有エポキシ樹脂

【課題】新規な難燃性エポキシ樹脂の提供。
【解決手段】下記一般式(1)[式中、Xは水素原子又は一般式2を表し、nは0または1を表し、そしてR1及びR2は炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、またはリン原子と共に環状になっていてもよく、前記一般式2においては、Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表わす]で示されるリン化合物と、シアヌル酸とエポキシ樹脂(a)とを反応して得られるリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子骨格にリン原子と窒素原子を含有するハロゲンフリー難燃性エポキシ樹脂及び、該エポキシ樹脂を必須成分とするエポキシ樹脂組成物、更には該エポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の難燃化は従来テトラブロモビスフェノールAを原料とした臭素化エポキシ樹脂に代表されるようにハロゲン化により行われていた。しかし、ハロゲン化エポキシ樹脂を用いた場合、硬化物の燃焼時に熱分解反応により毒性の強いハロゲン化物の生成がみられるといった問題があった。これに対して近年リン化合物を利用したハロゲンフリー難燃技術が検討され、特許文献1〜特許文献4で開示されたリン化合物を応用するという提案がされている。しかし、これらのリン化合物はエポキシ樹脂や溶剤との溶解性が低く、エポキシ樹脂に配合したり溶剤に溶解したりして用いることが困難であったため、特許文献5〜特許文献10で開示されているようにあらかじめエポキシ樹脂類と反応することによってリン含有エポキシ樹脂、リン含有フェノール樹脂として溶剤溶解性を付与して使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭47-016436号公報
【特許文献2】特開昭60-126293号公報
【特許文献3】特開昭61-236787号公報
【特許文献4】特開平05-331179号公報
【特許文献5】特開平04-11662号公報
【特許文献6】特開2000-309623号公報
【特許文献7】特開平11-166035号公報
【特許文献8】特開平11-279258号公報
【特許文献9】特開2001-123049号公報
【特許文献10】特開2003-040969号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】西沢仁著「ポリマーの難燃化」P60 右欄22行〜27行、P166 6-8-3項 1992年 大成社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン化合物による難燃化は、難燃性を更に向上しようとするとリン含有率を高めるしかなく、分子量が大きくなり架橋密度が低下してしまうことや、高価なリン含有化合物を使用しなければならなかった。これに対して本発明者らは非特許文献1に記載されているリンと窒素の難燃性に対する相乗効果に着目し、特願2007-133108(WO2008/143309)を出願した。窒素化合物としてアミン化合物を使用したものであり窒素を導入することで難燃性を向上することが出来た。しかし、エポキシ樹脂とアミン化合物の反応を行う為、窒素の導入量を高めようとすると、リン含有率を高める場合と同様に分子量が大きくなり、樹脂粘度が高くなるため含浸性などの向上が更に求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者は、各種窒素含有化合物を鋭意探索した結果、シアヌル酸をエポキシ樹脂に導入したリン及び窒素含有エポキシ樹脂の物性が著しく良好になることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(1):
【化1】

(式中Xは水素原子又は一般式2を表し、nは0または1を表し、そして式中R1及びR2は炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、またはリン原子と共に環状になっていてもよく、前記一般式2は、
【化2】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表わす。)により表わされる]
で示されるリン化合物、とシアヌル酸とエポキシ樹脂類(a)とを反応して得られるリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A);
(2)上記(1)記載のエポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対して硬化剤の官能基を0.4当量〜2.0当量を配合してなるエポキシ樹脂組成物;並びに
(3)上記(2)記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物;
に関する。
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、窒素とリンを含有するエポキシ樹脂であり、特定の窒素含有化合物を用いて窒素をエポキシ樹脂骨格内に導入することにより、含浸性などの作業性は損なわず、従来のリン含有エポキシ樹脂では得られ難かったフェノール系硬化剤を使用したエポキシ樹脂組成物においても難燃性が得られるなど高い難燃性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2のエポキシ樹脂のゲルパーミエーション
【図2】実施例2のエポキシ樹脂のFTIR
【図3】実施例5のエポキシ樹脂のゲルパーミエーション
【図4】実施例5のエポキシ樹脂のFTIR
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の一般式(1)で示されるリン化合物は、具体的にはジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA 三光株式会社製)、ジメチルホスフィンオキサイド、ジエチルホスフィンオキサイド、ジブチルホスフィンオキサイド、ジフェニルホスフィンオキサイド、1,4−シクロオクチレンホスフィンオキサイド、1,5−シクロオクチレンホスフィンオキサイド(CPHO 日本化学工業株式会社製)、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名 HCA-HQ)、10−(1,4−ジオキシナフタレン)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(以下HCA−NQと記す)、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン(北興化学工業株式会社製 商品名PPQ)、ジフェニルホスフェニル−1,4−ジオキシナフタリン、1,4−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO-HQ)、1,5−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO-HQ)等が挙げられる。これらのリン化合物は単独でも2種類以上混合して使用しても良く、これらに限定されるものではない。
【0010】
本発明において、シアヌル酸とは互変異性であるs−トリアジン−2,4,6−トリオール及びs−トリアジン−2,4,6−トリオンを示すものであり比率については特に規定は無い。
【0011】
シアヌル酸は窒素系難燃剤として添加される技術が開示されているが、溶剤溶解性が無く、融点も330℃以上で分解することから、添加剤としての使用に限られていた。エポキシ樹脂と反応することで、エポキシ樹脂組成物中に均一となるため、安定した難燃性が得られるのである。
【0012】
本発明のリン含有エポキシ樹脂(A)を製造するために使用するエポキシ樹脂類(a)は、エポトート YD-128、エポトート YD-8125(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、エポトート YDF-170、エポトート YDF-8170(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、YSLV-80XY(新日鐵化学株式会社製 テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エポトート YDC-1312(ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、jER YX4000H(三菱化学株式会社製 ビフェニル型エポキシ樹脂)、エポトート YDPN-638(新日鐵株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート YDCN-701(新日鐵化学株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート ZX-1201(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、TX-0710(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールS型エポキシ樹脂)、NC-3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、エポトート ZX-1355、エポトート ZX-1711(新日鐵化学株式会社製 ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、エポトート ESN-155(新日鐵化学株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN-355、エポトート ESN-375(新日鐵化学株式会社製 ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN475V,エポトート ESN-485(新日鐵化学株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、EPPN-501H(日本化薬株式会社製 トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂)、YSLV-120TE(新日鐵化学株式会社製 ビスチオエーテル型エポキシ樹脂)、エポトート ZX-1684(新日鐵化学株式会社製 レゾルシノール型エポキシ樹脂)、エピクロン HP-7200H(DIC株式会社製 ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、エポトート YDG-414(新日鐵化学株式会社製 四官能エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、TX-0929、TX-0934、TX-1032(新日鐵化学株式会社製 アルキレングリコール型エポキシ樹脂)等のアルコール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、セロキサイド2021(ダイセル化学工業株式会社製 脂肪族環状エポキシ樹脂)、エポトート YH-434、(新日鐵化学株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)、jER 630(三菱化学株式会社製 アミノフェノール型エポキシ樹脂)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート FX-289B、エポトート FX-305、TX-0940(新日鐵化学株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)等のエポキシ樹脂類、前記エポキシ樹脂類とリン含有フェノール系化合物等を変性して得られるリン含有エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂類(a)は単独で使用しても2種類以上を併用して使用してもよい。
【0013】
一般式(1)で示されるリン化合物とシアヌル酸とエポキシ樹脂との反応は公知の方法で行われる。合成手順としてエポキシ樹脂類(a)とシアヌル酸を反応後、リン化合物を反応しても良く、エポキシ樹脂類(a)とリン化合物を反応後、シアヌル酸を反応しても良く、更にはエポキシ樹脂類(a)とリン化合物とシアヌル酸を同時に反応しても良い。
【0014】
反応温度はエポキシ樹脂の合成に通常設定されている温度でよく、100℃〜250℃、好ましくは120℃〜200℃である。
【0015】
反応には時間短縮や反応温度低減の為、触媒を使用しても良い。使用できる触媒は特に制限は無く、エポキシ樹脂の合成に通常使用されているものが使用できる。例えば、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類、2メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等各種触媒が使用可能であり、単独で用いても2種類以上併用してもよく、これらに限定されるものではない。また、分割して数回に分けて使用しても良い。
【0016】
触媒量は特に限定されないが、リン含有エポキシ樹脂(A)に対して5%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。触媒量が多いと場合によってはエポキシ基の自己重合反応が進行するため、樹脂粘度が高くなり好ましくない。
【0017】
反応には不活性溶媒を使用しても良い。具体的にはヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ジメチルブタン、ペンテン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の各種炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が使用できるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上混合して使用しても良い。
【0018】
本発明のリン及び窒素含有エポキシ樹脂(A)は硬化剤を配合することにより、硬化性のリン及び窒素含有エポキシ樹脂組成物とすることが出来る。硬化剤としては各種フェノール樹脂類や酸無水物類、アミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良い。これらのうち、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物が含有する硬化剤としてはジシアンジアミドまたはフェノール系硬化剤が好ましい。本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂の官能基であるエポキシ基1当量に対して硬化剤の官能基0.4〜2.0当量が好ましく、0.5〜1.5当量がより好ましく、特に好ましくは0.5〜1.0当量である。エポキシ基1当量に対して硬化剤が0.4当量に満たない場合、あるいは2.0当量を超える場合は硬化が不完全になり良好な硬化物性が得られない恐れがある。
【0019】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物に用いることが出来るフェノール系硬化剤の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールK、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールZ、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール類、また、カテコール、レゾルシン、メチルレゾルシン、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン、ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、モノ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチルハイドロキノン等ジヒドロキシベンゼン類、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシメチルナフタレン、ジヒドロキシメチルナフタレン、トリヒドロキシナフタレン等ヒドロキシナフタレン類、フェノールノボラック樹脂、DC-5(新日鐵化学株式会社製 クレゾールノボラック樹脂)、ナフトールノボラック樹脂などのフェノール類及び/又はナフトール類とアルデヒド類との縮合物、SN-160、SN-395、SN-485(新日鐵化学株式会社製)等のフェノール類及び/又はナフトール類とキシリレングリコールとの縮合物、フェノール類及び/又はナフトール類とイソプロペニルアセトフェノンとの縮合物、フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンとの反応物、フェノール類及び/又はナフトール類とビフェニル系縮合剤との縮合物等のフェノール化合物等が例示される。
【0020】
上記の、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、アミルフェノール、ノニルフェノール、ブチルメチルフェノール、トリメチルフェノール、フェニルフェノール等が挙げられ、ナフトール類としては、1−ナフトール、2−ナフトール等が挙げられる。
【0021】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロルアルデヒド、ブロムアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、ピメリンアルデヒド、セバシンアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、サリチルアルデヒド、フタルアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド等が例示される。
ビフェニル系縮合剤としてビス(メチロール)ビフェニル、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、ビス(エトキシメチル)ビフェニル、ビス(クロロメチル)ビフェニル等が例示される。
【0022】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物に用いることが出来るその他の公知慣用の硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジフェニルエーテル、ジシアンジアミド、ダイマー酸等の酸類とポリアミン類との縮合物であるポリアミドアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。
【0023】
更には、エポキシ基の重合を引き起こして硬化せしめる硬化剤としてトリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスホニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類及びそれらとトリメリット酸、イソシアヌル酸、硼素等との塩であるイミダゾール塩類、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン類、トリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類、ジアザビシクロ化合物及びそれらとフェノール類、フェノールノボラック樹脂類等との塩類3フッ化硼素とアミン類、エーテル化合物等との錯化合物、芳香族ホスホニウム又はヨードニウム塩などが例示できる。これら硬化剤は、単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用されるその他の公知慣用のエポキシ樹脂硬化剤の配合割合は、エポキシ基1当量当たり硬化剤の官能基が0.5〜1.5当量好ましくは0.8〜1.2当量の割合である。また、エポキシ基の重合を引き起こし硬化せしめる硬化剤の配合割合はエポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部、より好ましくは、0.2〜5重量部である。
【0025】
本発明のリン含有エポキシ樹脂(A)を含んでなる難燃性エポキシ樹脂組成物には、粘度調整用として有機溶剤も用いることができる。用いることが出来る有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらの溶剤のうちの一又は複数種を混合したものを、エポキシ樹脂濃度として30〜80重量%の範囲で配合することができる。
【0026】
本発明組成物には必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。使用できる硬化促進剤の例としては2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボランなどのホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物が挙げられる。硬化促進剤は本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂成分100重量部に対して0.02〜5.0重量部が必要に応じて用いられる。硬化促進剤を用いることにより、硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮することが出来る。
【0027】
本発明組成物には必要に応じてフィラーを用いることが出来る。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、ガラス粉末、シリカバルーン等の無機フィラーが挙げられるが、顔料等を配合しても良い。一般的無機充填材を用いる理由として、耐衝撃性の向上が挙げられる。また、水酸化アルミ、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いた場合、難燃助剤として作用し、リン含有量が少なくても難燃性を確保することが出来る。特に配合量が10%以上でないと、耐衝撃性の効果は少ない。しかしながら、配合量が150%を越えると積層板用途として必要な項目である接着性が低下する。また、ガラス繊維、パルプ繊維、合成繊維、セラミック繊維等の繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマーなどの有機充填材を上記樹脂組成物に含有することもできる。
【0028】
本発明のリン及び窒素含有エポキシ樹脂組成物を硬化することによってリン及び窒素含有エポキシ樹脂硬化物を得ることが出来る。硬化の際には例えば樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグなどの形態とし、積層して加熱加圧硬化することで積層板としてのリン含有エポキシ樹脂硬化物を得ることが出来る。
【0029】
本発明のリン及び窒素含有エポキシ樹脂(A)を用いたリン及び窒素含有エポキシ樹脂組成物を作成し、加熱硬化により積層板のリン及び窒素含有エポキシ樹脂硬化物を評価した結果、リン化合物とシアヌル酸とエポキシ樹脂類(a)を反応したリン及び窒素含有エポキシ樹脂(A)は、従来公知のリン化合物とエポキシ樹脂類から得られるリン含有エポキシ樹脂や、シアヌル酸以外の窒素化合物を用いた場合や、窒素を分子内に導入しなかったリン含有エポキシ樹脂と比較して高い難燃性を示した。
【実施例】
【0030】
実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例で合成されたエポキシ樹脂のエポキシ当量はJIS K 7236にて測定を行った。
【0031】
窒素含有率は窒素化合物の窒素含有率から、リン及び窒素含有エポキシ樹脂に対する重量比を算出した。
【0032】
実施例及び比較例で合成されたエポキシ樹脂のリン含有率は以下の方法で測定を行った。すなわち、試料150 mgに硫酸3mlを加え30分加熱する。室温に戻し、硝酸3.5 ml及び過塩素酸0.5 mlを加えて内容物が透明又は黄色になるまで加熱分解する。この液を100mlメスフラスコに水で希釈する。この試料液10 mlを50 mlメスフラスコに入れ、フェノールフタレイン指示薬を1滴加え、2 mol/lアンモニア水を微赤色になるまで加える。50%硫酸液2 mlを加え、水を加える。2.5 g/lのメタバナジン酸アンモニウム水溶液を5 ml及び50 g/1モリブデン酸アンモニウム水溶液5 mlを加えた後、水で定容とする。室温で40分放置した後、分光光度計を用いて波長440 nmの条件で水を対照として測定する。リン酸二水素カリウム水溶液にて検量線を作成しておき吸光度からリン含有量を求める。
【0033】
硬化物のガラス転移温度はセイコーインスツルメンツ株式会社製 Exster 6000を使用し、DSCでは最初の変曲点の値をガラス転移温度とし、TMAでは変曲点をガラス転移温度とした。
【0034】
銅箔剥離強さはJIS C 6481 5.7に準じて、層間接着力はJIS C 6481 5.7に準じてプリプレグ1枚と残りの3枚の間で剥離を行い測定した。
【0035】
難燃性はUL(Underwriter Laboratorics)規格に準じて測定を行った。また、残炎時間は試験片5本の残炎時間を合計して示した。
【0036】
ゲルパーミエーションクロマトグラフは東ソー株式会社製HLC-8220GPCを用い、カラムは東ソー株式会社製TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXLを直列に繋いで測定した。カラム温度は40℃、溶離液はテトラヒドロフランを用い、流速は1ml/min、RI検出器にて測定を行った。
【0037】
フーリエ変換赤外分光光度計は株式会社パーキンエルマー製のSpectum Oneを使用し、KRSペレットにTHF溶液を塗布するヌジョール法にて測定した。
【0038】
実施例1.
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCA-HQ 251.31重量部とエポトート YDF-170(エポキシ当量169.8g/eq)717.96重量部、シアヌル酸(東京化成製)を30.73重量部仕込み、加熱攪拌を行って140℃まで昇温した。触媒としてトリフェニルホスフィン(以下 TPP)を0.28重量部添加して165℃で4時間反応した。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は392.0 g/eq、窒素含有率は1.0重量%、リン含有率は2.4重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0039】
実施例2.
実施例1と同様な装置にHCA-NQ 278.20重量部、エポトート YDF-170 691.80重量部とシアヌル酸30.00重量部を配合し、昇温した。130℃でTPPを0.28重量部添加して165℃で4時間反応した。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は513.2 g/eq、窒素含有率は1.0重量%、リン含有率は2.3重量%であった。結果を表1にまとめる。また、得られたエポキシ樹脂について図1にゲルパーミエーションクロマトグラフ、図2にフーリエ変換赤外分光光度計の測定結果を示す。
【0040】
実施例3.
実施例1と同様な装置にHCA 175.90重量部、1,4−ナフトキノン25.73重量部(水分3.5重量%品、水分を除いた量)、エポトート YD-128 273.37重量部、エポトート YDPN-638 280.00重量部、BPA 15.00重量部、シアヌル酸30.00重量部を配合し、140℃で2時間反応した。更にTPPを0.25重量部添加して165℃で4時間反応した。エポトートYDCN-700-7を200.00重量部添加し、溶融混合した。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は465.5g/eq、窒素含有率は1.0重量%、リン含有率は2.5重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0041】
実施例4.
実施例1と同様な装置にHCA 119.72重量部、エポトート YDF-170 130.24重量部、エポトート YDPN-638 742.36重量部、シアヌル酸7.68重量部を配合し、140℃で2時間反応した。更にTPP 0.13重量部添加して165℃で3時間反応した。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は238.1g/eq、窒素含有率は0.25重量%、リン含有率は1.70重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0042】
実施例5.
実施例1と同様な装置にHCA 154.93重量部と、トルエン 329.22重量部を仕込み昇温して溶解した。1,4−ナフトキノン109.78重量部(水分3.5重量%品、水分を除いた量)を反応発熱に注意しながら分割で仕込んだ。反応温度を上げ脱水を行い、還流温度で3時間反応を継続した。トルエンを回収し、EPPN-501H 727.61重量部、シアヌル酸7.68重量部を配合し、TPPを0.26重量部添加して165℃で3時間反応を行った。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は365.7 g/eq、窒素含有率は0.25重量%、リン含有率は2.20重量%であった。結果を表1にまとめる。また、得られたエポキシ樹脂について図3にゲルパーミエーションクロマトグラフ、図4にフーリエ変換赤外分光光度計の測定結果を示す。
【0043】
比較例1.
YDF-170を748.69重量部、シアヌル酸を使用せずTPPを0.25重量部とした以外は実施例1と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は355.1 g/eq、リン含有率は2.40重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0044】
比較例2.
HCA-NQを357.49重量部、エポトート YDF-170 642.51重量部、シアヌル酸を使用せず、TPPを0.36重量部とした以外は実施例2と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は550.3 g/eq、リン含有率は3.00重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0045】
比較例3.
1,4−ナフトキノンを25.98重量部、エポトート YD-128 257.26重量部、エポトート YDPN-638 280.31重量部、BPA 15.02重量部、シアヌル酸の代わりにエタキュア100(エチルコーポレーション製 ジアミノトルエン)を15.02重量部、TPPを0.26重量部、エポトート YDCN-700-7を199.85重量部とした以外は実施例3と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は442.0 g/eq、窒素含有率は0.20重量%、リン含有率は2.50重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0046】
比較例4.
HCA 125.50重量部、エポトート YDF-170は使用せず、エポトート YDPN-638 792.40重量部、シアヌル酸は使用せず、TPP 0.21重量部とした以外は実施例4と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は301.1 g/eq、リン含有率は1.80重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0047】
比較例5.
EPPN-501Hを735.29重量部、シアヌル酸を使用しなかった以外は実施例5と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は344.6 g/eq、リン含有率は2.20重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0048】
比較例6.
実施例1と同様な装置にHCA 163.00重量部、エポトート YD-128 817.00重量部、アセトグアナミン(東京化成製)20.00重量部、メチルセロソルブ111.10重量部を仕込み、加熱して溶解した。130℃で4時間反応を行い、リン含有エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は433.7 g/eq、窒素含有率は1.10重量%、リン含有率は2.30重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0049】
比較例7.
実施例1と同様な装置にHCA 156.69重量部と、トルエン 333.00重量部を仕込み昇温して溶解した。1,4−ナフトキノン56.57重量部を反応発熱に注意しながら分割で仕込んだ。反応温度を上げ脱水を行い、還流温度で3時間反応を継続した。トルエンを回収し、エポトート YD-128 500.00重量部、エポトート YDF-170 260.00重量部、ベンゾグアナミン26.74重量を配合し、150℃で5時間反応を行った。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は463.4 g/eq、窒素含有率は1.00重量%、リン含有率は2.20重量%であった。結果を表1にまとめる。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例6〜実施例10及び比較例8〜比較例14
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例7のエポキシ樹脂、エポトート YDPN-638、硬化剤としてジシアンジアミドまたは、BRG-557(昭和電工株式会社 製 フェノールノボラック樹脂)、硬化促進剤として2E4MZを表2の処方で配合し、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミドなどの溶剤に溶解してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0052】
得られたエポキシ樹脂組成物を日東紡株式会社製のIPC品番2116のガラスクロスに含浸して150℃で乾燥し、プリプレグを作成した。得られたプリプレグ4plyに銅箔を積層して170℃または190℃で20MPaで2時間加熱硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物として積層板を得た。
【0053】
積層板のTMA、DSCによるガラス転移温度、銅箔剥離強さ、層間接着力、難燃性試験の結果を表2にまとめる。
【0054】
【表2】

【0055】
表1、表2で示したように一般式(1)で示されるリン化合物とシアヌル酸とエポキシ樹脂類(a)を反応して得られるリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A)はシアヌル酸を変性しない比較例のリン含有エポキシ樹脂と比較して、低いリン含有率でも難燃性が得られており、比較例3、比較例6、比較例7で示されているシアヌル酸以外の窒素化合物を用いた場合よりも格段に難燃性が良好である。更に、実施例7、実施例10、と比較例9、比較例12で示す様にフェノール硬化系でも本発明のリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A)を用いることで、高い難燃性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、特定のリン化合物とシアヌル酸とエポキシ樹脂を反応して得られるリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A)であって難燃性、耐熱性、接着性に優れた電子回路基板用のエポキシ樹脂として利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式中、Xは水素原子又は一般式2を表し、nは0または1を表し、そしてR1及びR2は炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、またはリン原子と共に環状になっていてもよく、前記一般式2は、
【化2】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表わす。)で表わされる]
で示されるリン化合物と、シアヌル酸とエポキシ樹脂(a)とを反応して得られるリン及び窒素を分子内に含有するエポキシ樹脂(A)。
【請求項2】
請求項1記載のエポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対して硬化剤の官能基を0.4当量〜2.0当量を配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−229364(P2012−229364A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99704(P2011−99704)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】