説明

リン含有フェノール樹脂とその製造方法、該樹脂組成物、硬化物

【課題】電子回路基板に用いられるプリプレグ、銅張り積層板や電子部品に用いられるフィルム材・封止材・成形材・注型材・接着剤・電気絶縁塗料、難燃性の必要な複合材、粉体塗料などに適し、コストを低減しつつ高品質な難燃性リン含有エポキシ樹脂及び該エポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】一分子中に平均1.8個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂(a)に、一般式(1)で示すリン含有フェノール化合物(b)を必須として含有するリン含有化合物類(B)、及び二官能以上のリン非含有フェノール化合物類(c)、を二段階の反応工程で反応させて得られるリン含有フェノール樹脂であって、一段階目の反応工程でエポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを反応させる前駆反応を含むこと特徴とするリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【化1】


(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表す。式中γは0または1を表し、R及びRは炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、リン原子と共に環状になっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有するリン含有フェノール樹脂及びその製造方法、該リン含有フェノール樹脂を含む硬化性樹脂組成物、その硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その優れた耐熱性、接着性、機械特性、電気的特性等を利用し、各種基材の成型材料や摩擦材用結合剤、研削材用結合剤、木材用接着剤、鋳型用結合剤、積層材用結合剤、コーティング剤、エポキシ樹脂硬化剤等として幅広く使用されている。
【0003】
特に、積層材として電気・電子機器に使用される場合には、火災時の燃焼防止と発煙の制御をするため、難燃性の付与が強く要求されている。積層板用樹脂の難燃化方法として、従来は、臭素系難燃剤、窒素系難燃剤とリン系難燃剤の単独または組み合わせ、前記難燃剤の単独または組み合わせに無機系難燃助剤を併用する難燃システムが主流であった。しかし、近年環境問題から臭素系難燃剤の使用が敬遠されつつある。また、添加型リン系難燃剤として赤リンを使用した場合は安全性が不十分であり、リン酸系化合物を使用する場合は硬化物表面にブリードアウトする問題があった。また、リン酸エステル類を使用すると、はんだ耐熱性、耐溶剤性が低下してしまう問題があった。そのため、これら添加型難燃剤を使用する事なく難燃性が得られる、非ハロゲン系反応型難燃剤の開発が求められている。
【0004】
一方、エポキシ樹脂の硬化剤としても前記同様の問題点がある。例えば、2−ジフェニルホスフィニルヒドロキノン(北興化学工業株式会社製 商品名PPQ)や10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ)等のリン含有フェノール化合物を使用した場合は難燃性の高いエポキシ樹脂硬化物が得られるが、これらのリン含有フェノール化合物は溶剤溶解性やエポキシ樹脂との相溶性が悪く、硬化剤として単独使用した場合、エポキシ樹脂ワニス中に溶解せずに沈降してしまうため、積層材用途等では実用性に乏しい。この問題を解決するために、特許文献1,2では、分散性を考慮して予めエポキシ樹脂とリン含有フェノール化合物を反応させる一段階目の反応を行い、その一部をリン含有エポキシ樹脂とする開示がある。しかし、接着性が低い等の問題があり、また、ワニスの溶剤に高沸点溶剤を用いる等、樹脂の溶剤溶解性も十分に満足できる程度ではない。特許文献3にはエポキシ樹脂との相溶性を改善したリン含有フェノール樹脂の提案もあるが、沸点の高いシクロヘキサノンを反応溶剤として使用しているため、積層板の製造工程で溶剤を完全に除去することが困難であり、エポキシ樹脂硬化物の接着性や耐熱信頼性等が悪くなる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−188638
【特許文献2】特開2000−256537
【特許文献3】特開2003−40969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、添加型難燃剤を用いずに難燃性を付与する事が可能であり、しかも各種有機溶剤への溶解性が良く、封止材、成形材、積層板、注型材、接着剤、絶縁塗料等に適したリン含有フェノール樹脂及びその製造方法を提供し、該リン含有フェノール樹脂を含む樹脂組成物を硬化させることにより、難燃性、耐熱信頼性、接着性に優れた硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
(1)一分子中に平均1.8個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂(a)に、一般式(1)で示すリン含有フェノール化合物(b)を必須として含有するリン含有化合物類(B)、及び二官能以上のリン非含有フェノール化合物類(c)、を二段階の反応工程で反応させて得られるリン含有フェノール樹脂であって、一段階目の反応工程でエポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを反応させる前駆反応を含むこと特徴とするリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【0008】
【化1】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表す。式中γは0または1を表し、R及びRは炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、リン原子と共に環状になっていてもよい。)
【0009】
(2)前記一段階目の反応工程で、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基が0.3molから1.5molである上記(1)記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【0010】
(3)前記一段階目の反応工程で使用するリン含有フェノール化合物(b)が、リン含有フェノール樹脂の製造に使用する全てのリン含有フェノール化合物(b)の50%から100%である上記(1)または(2)記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【0011】
(4)前記一段階目の反応工程でのエポキシ樹脂(a)のエポキシ基の反応率が30%から95%である上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【0012】
(5)前記一段階目の反応工程終了後に、二段階目の反応として二官能以上のリン非含有フェノール化合物(c)を反応させて得られるリン含有フェノール樹脂であって、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)及びリン非含有フェノール化合物(c)の合計のフェノール性水酸基が1.5molから4.5molである上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【0013】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた事を特徴とするリン含有フェノール樹脂。
【0014】
(7)上記(6)に記載のリン含有フェノール樹脂を含む事を特徴とするリン含有フェノール樹脂組成物。
【0015】
(8)上記(7)に記載のリン含有フェノール樹脂組成物を硬化させた硬化物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一分子中に平均1.8個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂(a)と一般式(1)で示すリン含有フェノール化合物(b)を必須として含有するリン含有化合物類(B)、とを一段階目で反応させ、二段階目にリン非含有フェノール化合物(c)を反応させる事により、各種有機溶剤への溶解性が具備されたリン含有フェノール樹脂を容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のリン含有フェノール樹脂の製造方法は、原料として一分子中に平均1.8個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂(a)及び一般式(1)で示すリン含有フェノール化合物(b)を必須として含有するリン含有化合物類(B)、さらに二官能以上のリン非含有フェノール化合物(c)を必須とし、エポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを一段階目で反応させる前駆反応を含み、二段階目にリン非含有フェノール(c)を必須成分とするフェノール化合物類を反応させる二段階の反応工程を有する。
【0018】
原料として用いられるエポキシ樹脂(a)としては、エポトート YD−128、エポトート YD−8125(新日鐵化学株式会社製 BPA型エポキシ樹脂)、エポトート YDF−170、エポトート YDF−8170(新日鐵化学株式会社製 BPF型エポキシ樹脂)、YSLV−80XY(新日鐵化学株式会社製 テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エポトート YDC−1312(ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、jER YX4000H(三菱化学株式会社製 ビフェニル型エポキシ樹脂)、エポトート YDPN―638(新日鐵株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート YDCN−701(新日鐵化学株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート ZX−1201(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、TX−0710(新日鐵化学株式会社製 ビスフェノールS型エポキシ樹脂)、エピクロン EXA−1515(大日本化学工業株式会社製 ビスフェノールS型エポキシ樹脂)、NC−3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、エポトート ZX−1355、エポトート ZX−1711(新日鐵化学株式会社製 ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、エポトート ESN−155(新日鐵化学株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN−355、エポトート ESN−375(新日鐵化学株式会社製 ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN475V、エポトート ESN−485(新日鐵化学株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、EPPN−501H(日本化薬株式会社製 トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂)、スミエポキシ TMH−574(住友化学株式会社製 トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート YH−434、(新日鐵化学株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、jER 630(三菱化学株式会社製 アミノフェノール型エポキシ樹脂)、エポトート FX−289B、エポトート FX−305、TX−0932A(新日鐵化学株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)等のエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物等の変性剤と反応して得られるリン含有エポキシ樹脂、YSLV−120TE(新日鐵化学株式会社製 ビスチオエーテル型エポキシ樹脂)、エポトート ZX−1684(新日鐵化学株式会社製 レゾルシノール型エポキシ樹脂)、デナコール EX−201(ナガセケムテックス株式会社製 レゾルシノール型エポキシ樹脂)、エピクロン HP−7200H(DIC株式会社製 ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂、TX−0929、TX−0934(新日鐵化学株式会社製 アルキレングリコール型エポキシ樹脂)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は単独で使用しても2種類以上を併用して使用してもよい。
【0019】
リン含有フェノール化合物(b)としては、一般式(2)で表される構造である。例えば、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ)、10−(1,4−ジオキシナフタレン)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン(北興化学工業株式会社製 商品名PPQ)、ジフェニルホスフェニル−1,4−ジオキシナフタリン、1,4−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO−HQ)、1,5−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO−HQ)等のリン含有フェノール化合物を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。また、これらのリン含有フェノール化合物は2種類以上を併用して使用する事もできる。
【0020】
【化2】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表す。式中γは0または1を表し、R及びRは炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、リン原子と共に環状になっていてもよい。)
【0021】
また、これらのリン含有フェノール化合物(b)は9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA)やジフェニルホスフィン等のリン原子に直結した活性水素基を有するリン化合物と、1,4−ベンゾキノンや1,4−ナフトキノン等のキノン類との反応で得る事ができる。HCA−HQについては特開昭60−126293、HCA−NQについては特開昭61−236787、PPQについてはzh.Obshch.Khim,42(11),第2415−2418頁(1972)に合成方法が示されている。
【0022】
本発明のリン含有フェノール樹脂の製造で使用するリン含有化合物類(B)としては、HCAやジフェニルホスフィン等のリン化合物1.0molに対して1,4−ベンゾキノンや1,4−ナフトキノン等のキノン類を0.2molから1.0molの範囲で反応させる事が好ましく、0.5molから1.0molの範囲がより好ましく、0.8molから1.0molの範囲がさらに好ましい。0.5molより少ないとリン含有フェノール化合物(b)の生成量が少なくなるため硬化物の架橋密度が低下し、物性が悪くなる恐れがある。また、1.0molを超えると未反応のキノンが残存してしまうため、好ましくない。また、キノン類を1.0mol未満で反応することにより前記リン含有フェノール化合物(b)に、前記HCAやジフェニルホスフィン等のリン化合物を配合することができる。
【0023】
リン非含有フェノール化合物(c)としては一分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であり、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等のヒドロキシベンゼン類、ナフトール類、ビフェノール類、トリスフェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ショウノール BRG−555(昭和電工株式会社製 フェノールノボラック樹脂)、クレゾールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、アラルキルフェノールノボラック樹脂、トリアジン環含有フェノールノボラック樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、レヂトップ TPM−100(群栄化学工業株式会社製 トリスヒドロキシフェニルメタン型ノボラック樹脂)、アラルキルナフタレンジオール樹脂等の多価フェノール類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのリン非含有フェノール化合物は2種類以上を併用して使用する事ができる。
【0024】
本発明では、一段階目の反応工程でエポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを反応させることを前駆反応と称するが、前駆反応を必ずしも完結させる必要はなく、一段階目の反応を途中で停止させて二段階目の反応工程に進むことができる。一段階目の反応で未反応のリン含有化合物類(B)は、二段階目の反応工程でエポキシ樹脂(a)との反応で消費されるが、更には未反応成分として残存する場合がある。前駆反応は、本発明のリン含有フェノール樹脂の溶剤溶解性を発現する量の前駆反応体を生成することを目的とするものであり、リン含有フェノール樹脂中に残存するリン含有化合物(B)の含有率は溶剤溶解性等に悪影響を及ぼさない範囲で許容される。
【0025】
本発明のリン含有フェノール樹脂を製造する際の一段階目の反応工程では、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)に含有されるフェノール性水酸基を0.3molから1.5molの範囲となる様に使用する事が好ましく、0.5molから1.1molがより好ましく、リン含有フェノール化合物(b)が0.3molより少ないと硬化物の難燃性が不十分となり、1.5mol超えて使用すると未反応リン含有フェノール化合物(b)の残存量が多くなり、溶剤溶解性が悪くなる恐れがある。また、フェノール性水酸基のモル比が1モルの近傍では得られる樹脂の分子量が高くなって増粘したりゲル化する恐れがあり、この場合には前駆反応を完結せずエポキシ樹脂(a)とリン含有フェノール化合物(b)とを部分反応させた状態で反応を停止させ、二段階目の反応に進めることが望ましい。
【0026】
また、前記一段階目の反応工程で使用するリン含有化合物類(B)は、本発明のリン含有フェノール樹脂の製造に使用する全てのリン含有化合物類(B)の50%から100%の範囲となる様に使用する事が好ましく、80%から100%がより好ましい。一段階目の反応工程で使用するリン含有化合物類(B)が50%より少ないと得られるリン含有フェノール樹脂中にリン含有フェノール化合物(b)が多く残存して溶剤溶解性が悪くなってしまう。
【0027】
前記一段階目の反応工程では、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基の30%から95%、より好ましくは35%から95%を反応させる事が好ましい。エポキシ基の反応率がこの範囲以外では得られる樹脂の分子量が高くなってゲル化したり、リン含有フェノール化合物(b))の残存量が多くなって溶剤溶解性が悪くなってしまう。
【0028】
前記エポキシ基の反応率は、JIS K7236記載の方法によって反応物のエポキシ当量を測定し、反応に使用したエポキシ基数を求める事で算出できる。
【0029】
前記一段階目の反応工程は無溶剤でも、溶剤中でも行うことができるが、溶剤中で行う場合は、非プロトン性溶剤中で行うことが好ましく、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジオキサン、ジアルキルエーテル、グリコールエーテル、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。これらの反応溶剤は単独で、あるいは2種類以上を同時に使用してもよい。これらの反応溶剤の使用量は一段階目の反応工程での反応物全重量中の50%以下が好ましい。
【0030】
前記一段階目の反応工程の反応温度は100℃から200℃、さらには140℃から160℃が好ましく、100℃以下では反応の進行が著しく遅く、200℃以上ではエポキシ樹脂が一部分解してしまう恐れがある。また、反応時間は1時間から4時間が好ましい。
【0031】
前記一段階目の反応工程では、反応を促進するために反応触媒を使用する事ができる。使用できる触媒としては、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド等の四級ホスホニウム塩類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウブロミド等の四級アンモニウム塩類、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類が挙げられる。これら触媒の使用量は、エポキシ樹脂全量に対して0.01%から1%の範囲が好ましく、0.05%から0.5%がさらに好ましい。
【0032】
本発明のリン含有フェノール樹脂の製造方法は、エポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを反応させる一段階目の反応工程を行った後、二段階目の反応工程でリン非含有フェノール化合物(c)を必須成分とするフェノール化合物類を反応させる事によりリン含有フェノール樹脂を得る方法だが、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)及びリン非含有フェノール化合物(c)を合計した、本発明のリン含有フェノール樹脂の製造に使用する全フェノール化合物類のフェノール性水酸基が1.5molから4.5mol、より好ましくは1.7molから3.5mol、さらに好ましくは1.9molから2.5molとなる様にリン非含有フェノール化合物を使用する事が好ましい。1.5molより少ないと得られる樹脂の分子量が高くなってゲル化したり、溶剤溶解性が悪くなったり、硬化物のTgが極度に低くなったりする。また、4.5molを超えると硬化物の難燃性が不十分となってしまう。
【0033】
前記二段階目の反応工程では、一段階目の反応工程と同様の反応溶剤を使用することができ、単独で、あるいは2種類以上を同時に使用してもよい。また、反応溶剤の使用量は反応物全重量中の50%以下が好ましい。
【0034】
前記二段階目の反応工程では、一段階目の反応工程と同様の反応温度で行う事ができる。反応時間は、1時間以上であればよい。
【0035】
前記二段階目の反応工程では、一段階目の反応工程と同様の反応触媒で行う事ができる。触媒の使用量は一段階目の反応工程での使用量を含め、エポキシ樹脂(a)の重量に対して0.01から10%の範囲が好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物には前記のリン含有フェノール樹脂を含むが、必要に応じて他の化合物を含んでもよい。例えばエポキシ樹脂組成物の場合、エポキシ樹脂、本発明のリン含有フェノール樹脂以外の硬化剤、硬化促進剤、充填剤等が挙げられる。
【0037】
前記エポキシ樹脂組成物に使用できるエポキシ樹脂としては、本発明のリン含有フェノール樹脂の合成に使用するエポキシ樹脂と同様の種類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は単独で使用しても2種類以上を併用して使用してもよい。
【0038】
本発明の樹脂組成物にエポキシ樹脂を使用した場合は、本発明のリン含有フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として作用する。本発明の樹脂組成物は、本発明のリン含有フェノール樹脂以外に硬化剤を併用することができる。例えば、前記の該リン含有フェノール樹脂の製造で使用するリン非含有フェノール化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジド類、イミダゾール化合物類及びその塩類、ジシアンジアミド、アミノ安息香酸エステル類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン類、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノエチルベンゼン等の芳香族アミン類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物類等が挙げられ、公知慣用のエポキシ樹脂硬化剤を1種類以上併用しても構わない。本発明のリン含有フェノール樹脂を含むエポキシ樹脂硬化剤の使用量は、使用されるエポキシ樹脂中のエポキシ基1.0molに対して0.3molから1.5molの範囲が好ましく、0.4molから1.2molがさらに好ましい。また、本発明のリン含有フェノール樹脂と他のエポキシ樹脂硬化剤を併用する場合、リン含有フェノール樹脂は他のエポキシ樹脂硬化剤との合計量に対して重量比で20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上となるように使用する事が好ましい。リン含有フェノール樹脂が20%より少ないと硬化物の難燃性が不十分となり易い。
【0039】
また、流動性や粘度等を調整する場合には、本発明の樹脂組成物の物性を損ねない範囲で反応性稀釈剤を使用することが可能である。希釈剤は反応性希釈剤が好ましいが、非反応性希釈剤でも構わない。反応性希釈剤としては、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等の単官能、レゾルシノールグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の二官能、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテル類が挙げられる。非反応性希釈剤としては、ベンジルアルコール、ブチルジグリコール、パインオイル等が挙げられる。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を使用することが可能である。例えば、ホスフィン類、四級ホスホニウム塩類、三級アミン類、四級アンモニウム塩類、イミダゾール化合物類、三フッ化ホウ素錯体類、3−(3,4−ジクロロジフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−フェニル−1,1−ジメチルウレア等が挙げられる。これら硬化促進剤は使用するエポキシ樹脂、併用するエポキシ樹脂硬化剤の種類、成形方法、硬化温度、要求特性によるが、エポキシ樹脂に対して重量比で0.01%から20%の範囲が好ましく、さらには0.1%から10%が好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、特性を損ねない範囲で他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を配合してもよい。例えばフェノール樹脂、アクリル樹脂、石油樹脂、インデン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニルホルマール等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤、有機充填剤を配合することができる。充填剤の例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、窒化ホウ素、炭素、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維等が挙げられる。これら充填剤は樹脂組成物全体重量中の1%から70%が好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、さらに必要に応じてシランカップリング剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤、難燃剤、顔料等の核種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は樹脂組成物全重量中の0.01%から20%の範囲が好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、公知のフェノール樹脂組成物と同様の方法により成型、硬化して硬化物とすることができる。成型方法、硬化方法は公知のフェノール樹脂組成物と同様の方法をとることができ、本発明の樹脂組成物固有の方法は不要である。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、積層物、成型物、接着物、塗膜、フィルム等の形態をとることができる。
【0046】
本発明は、難燃性を有したリン含有フェノール樹脂であり、各種有機溶剤への溶解性が良好であるため作業性に優れており、尚且つ、エポキシ樹脂硬化物は接着性や耐熱信頼性が良好であり、電気電子部品に用いられる封止材、銅張り積層板、絶縁塗料、難燃塗料、絶縁難燃接着剤等の電気部品用材料として有用であることが判った。
【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。また、分析方法、測定方法は以下の通りである。
【0048】
エポキシ当量:JIS K7236に準じた。
不揮発分:JIS K7235−1986
リン含有量:試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子をオルトリン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバードモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン原子含有量を重量%で表した。積層板のリン含有量は、積層板の樹脂分に対する含有量として表した。
水酸基当量:1,4−ジオキサンを溶剤に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で失活させ、0.5mol/L水酸化カリウムを加えて、電位差滴定装置を用いて滴定した。
リン含有フェノール化合物(b)の残存量:高速液体クロマトフラフィーを用いて該当ピークのピーク面積を求め、予め作成した検量線より換算した。具体的には、本体(アジレント・テクノロジー株式会社製 Agilent1100シリーズ)にカラム(インタクト株式会社製 Cadenza CD−C18(150mm×4.6mm))を備え、カラム温度を40℃にした。溶離液はテトラヒドロフラン/アセトニトリル混合溶剤(1/1(体積比))に、溶離開始時は体積比で60:40となる様に水を混合し、溶離開始15分で20:80となる様に流速0.7ml/minでグラジエント分析を行った。検出器はUV検出器(280nm)を用いた。また、検量線は以下の方法で作成した。リン含有フェノール化合物(b)50mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解して資料溶液を作製し、前記装置に試料溶液をそれぞれ0.1μl、0.5μl、1.0μlずつ注入し、前記分析条件で分析を行った。リン含有フェノール化合物(b)がHCA−HQの場合は保持時間4.9分、HCA−NQの場合は保持時間10.3分のピーク面積を求め、注入量と試料濃度から求めたリン含有フェノール化合物(b)量を縦軸、ピーク面積を横軸として3点プロットし、直線性が得られた。
【0049】
ガラス転移温度(DSC):示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC外挿値の温度で表した。
耐熱分解性(Td5%) TGA:示差熱−熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 TG/DTA6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行い、5%重量減少温度を表した。
銅箔剥離強さ及び層間剥離強さ:JIS C6481に準じた。
燃焼性:UL94(Underwriters Laboratories Inc.の安全認証規格)に準じた。5本の試験片について試験を行い、1回目と2回目の接炎(5本それぞれ2回ずつで計10回の接炎)後の有炎燃焼持続時間の合計時間を秒で表した。
各種溶剤に対する溶解性:得られたリン含有フェノール樹脂溶液に室温で溶剤を追加して攪拌を行い不揮発分50%と25%の時の外観を観察した。透明溶液のままであったものを○、やや白濁が見られたものを△、分離、沈降が見られたものを×で示した。
【0050】
実施例1
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコ実験装置に、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製 商品名YDF−170、エポキシ当量168.9g/eq.)84.5部を入れ、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ、融点256℃、リン含有量9.6%、水酸基当量162g/eq.)121.7部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)59部を仕込んだ。この時YDF−170に対するHCA−HQの官能基比は1.5であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを添加して160℃で2時間反応を行った。一段階目の反応終了後のエポキシ当量は4849g/eq.でありエポキシ基の反応率は92%であった。これにビスフェノールA(新日鐵化学株式会社製、水酸基当量114g/eq.)28.5部を加えて160℃でさらに3時間反応を行った。反応終了後、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)で希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は淡黄色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は5.0%、水酸基当量は469g/eq.、HCA−HQ残存量は10.2%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を示し、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0051】
実施例2
実施例1のHCA−HQを105.5部、PMAを83部とした以外は実施例1と同様の方法で一段階目の反応を行った。この時YDF−170に対するHCA−HQの官能基比は1.3、一段階目の反応終了後のエポキシ当量は2943g/eq.でありエポキシ基の反応率は87%であった。これにトリスヒドロキシフェニルメタン型ノボラック樹脂(群栄化学工業会社製 商品名レヂトップ TPM−100、水酸基当量97.5g/eq.)141.5部を加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は赤色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は3.1%、水酸基当量は207g/eq.、HCA−HQ残存量は10.6%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0052】
実施例3
実施例1と同様な実験装置に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA、リン含有量14.2%)54.9部及び1,4−ナフトキノン(川崎化成工業株式会社製 水分量3.4%)39.4部、トルエン120部を入れ、75℃で30分間撹拌した後、系内の水分を除きながら110℃で90分間反応させHCA−NQを合成した。この時HCAと1,4−ナフトキノンのmol比はHCA1.00molに対して1,4−ナフトキノン0.98molであった。その後トルエンを還流除去し、YDF−170を84.5部、PMAを72部加えた。この時YDF−170に対するHCA−NQの官能基比は1.0であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを加えて実施例1と同様の方法で一段階目の反応を行った。一段階目の反応終了後のエポキシ当量は604g/eq.でありエポキシ基の反応率は39%であった。これにビスフェノールF(本州化学工業株式会社製、水酸基当量100g/eq.)49.1部を加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は濃褐色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は3.4%、水酸基当量は458g/eq.、HCA−NQ残存量は7.0%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0053】
実施例4
実施例3と同様にHCA60.5部、1,4−ナフトキノン43.5部、トルエン140部を仕込み、実施例3と同様の方法で反応させHCA−NQを合成した。この時HCAと1,4−ナフトキノンのmol比はHCA1.00molに対して1,4−ナフトキノン0.98molであった。トルエンを除いた後、YDF−170を84.5部加えた。この時YDF−170に対するHCA−NQの官能基比は1.1であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを加えて実施例1と同様の方法で一段階目の反応を行った。一段階目の反応終了後のエポキシ当量は1151g/eq.でありエポキシ基の反応率は66%であった。これにBPFを44.6部加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は濃褐色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は3.7%、水酸基当量は464g/eq.、HCA−NQ残存量は5.9%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0054】
実施例5
実施例3と同様にHCA129.7部、1,4−ナフトキノン93.1部、トルエン300部を仕込み、実施例3と同様の方法で反応させHCA−NQを合成した。この時HCAと1,4−ナフトキノンのmol比はHCA1.00molに対して1,4−ナフトキノン0.98molであった。トルエンを除いた後、YDF−170を84.5部加えた。この時YDF−170に対するHCA−NQの官能基比は1.2であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを加えて160℃で3時間反応を行った。一段階目の反応終了後のエポキシ当量は2750g/eq.でありエポキシ基の反応率は75%であった。これにBPFを40.0部加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は濃褐色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は5.3%、水酸基当量は319g/eq.、HCA−NQ残存量は6.8%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0055】
実施例6
実施例3と同様にHCA86.4部、1,4−ナフトキノン31.6、トルエン200部を仕込み、実施例3と同様の方法で反応させHCA−NQを合成した。この時HCAと1,4−ナフトキノンのmol比はHCA1.00molに対して1,4−ナフトキノン0.50molであった。トルエンを除いた後、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製 商品名YDPN−638、エポキシ当量176g/eq.)を88.5部加えた。この時YDPN−638に対するHCA−NQの官能基比は0.4であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを加えて実施例1と同様の方法で一段階目の反応を行った。一段階目の反応終了後のエポキシ当量は2065g/eq.でありエポキシ基の反応率は40%であった。これにTPM−100を114.3部加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は濃褐色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は3.8%、水酸基当量は252g/eq.、HCA−NQ残存量は0.8%であった。表1に仕込み比率、一段階目の反応条件、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0056】
実施例7
実施例1で得られたリン含有フェノール樹脂にフェノールノボラック型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製 商品名YDPN−638、エポキシ当量176g/eq.)と硬化促進剤を表2に示す固形分量で配合し、樹脂組成物を得た。これをMEKに溶解して樹脂ワニスとした。得られたエポキシ樹脂ワニスをガラスクロス(WEA 116E106S136 日東紡績株式会社製 厚み0.1mm)に含浸し、150℃の熱風循環オーブン中で10分間乾燥してプリプレグを得た。得られたプリプレグ4枚と銅箔(3EC−III 三井金属鉱業株式会社製 厚み35μm)を重ね、130℃×15分+190℃×80分の温度条件で2MPaの真空プレスを行い、0.5mm厚の積層板を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0057】
実施例8
実施例7と同様に、実施例2で得られたリン含有フェノール樹脂及びp−アミノフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 商品名jER 630、エポキシ当量105g/eq.)を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0058】
実施例9
実施例7と同様に、実施例3で得られたリン含有フェノール樹脂及びYDPN−638を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0059】
実施例10
実施例7と同様に、実施例4で得られたリン含有フェノール樹脂及びYDPN−638を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0060】
実施例11
実施例7と同様に、実施例5で得られたリン含有フェノール樹脂及びフェノールノボラック樹脂(昭和電工株式会社製 商品名BRG−555 フェノール性水酸基当量105g/eq.)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製 商品名YDCN−700−7、エポキシ当量209g/eq.)を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0061】
実施例12
実施例7と同様に、実施例6で得られたリン含有フェノール樹脂及びYDPN−638を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表2に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0062】
比較例1
実施例2と同じ配合量のYDF−170、HCA−HQ、TPM−100、PMAを一括で仕込み、触媒としてトリフェニルホスフィンを加えて160℃で5時間反応させた。これにPGM混合溶剤を加えて希釈し、不揮発分70%としたが、白色の固形が沈降した。これをDMFに溶解してHCA−NQの残存量を求めたところ、24.4%であった。表3に仕込み比率、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0063】
比較例2
実施例1のHCA−HQを137.9部、PMAを56部とした以外は実施例1と同様の方法で一段階目の反応を行った。この時YDF−170に対するHCA−HQの官能基比は1.7、一段階目の反応終了後のエポキシ当量は5421g/eq.でありエポキシ基の反応率は92%であった。これにBPFを15.0部加えて実施例1と同様に反応を行った。反応終了後にPGMで希釈し、不揮発分70%としたが、白色の固形が沈降した。これをDMFに溶解してHCA−NQの残存量を求めたところ、14.1%であった。表3に仕込み比率、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0064】
比較例3
実施例2と同様にHCA43.2部、1,4−ナフトキノン15.8部、トルエン100部を仕込んで実施例3と同様の方法で反応させHCA−NQを合成した。この時HCAと1,4−ナフトキノンのmol比はHCA1.00molに対して1,4−ナフトキノン0.5molであった。トルエンを除いた後、YDPN−638を88.5部、PMAを26部加えた。この時YDPN−638に対するHCA−NQの官能基比は0.2であった。これに触媒としてトリフェニルホスフィンを添加して実施例1と同様の方法で反応を行った。一段目の反応終了後のエポキシ当量は492g/eq.でありエポキシ基の反応率は20%であった。これにTPM−100を82.7部加えて実施例1と同様に反応を行い、反応終了後にPGMで希釈した。得られたリン含有フェノール樹脂は濃褐色透明で、不揮発分70%、固形分中のリン含有量は2.7%、水酸基当量は355g/eq.、HCA−NQの残存はなかった。表3に仕込み比率、樹脂の性状を、表5に各種溶剤に対する溶解性を示す。
【0065】
比較例4
比較例1で得られたリン含有フェノール樹脂にYDPN−638と硬化促進剤を表5に示す固形分量で配合し、樹脂組成物を得た。これをDMF/MEK混合溶剤に溶解して樹脂ワニスとした。これを実施例7と同様の方法で硬化させ、エポキシ樹脂硬化物を得た。表4に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0066】
比較例5
比較例4と同様に、比較例2で得られたリン含有フェノール樹脂及びYDPN−638を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表4に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0067】
比較例6
実施例7と同様に、比較例3で得られたリン含有フェノール樹脂及びYDPN−638を用いてエポキシ樹脂硬化物を得た。表4に配合比率と積層板評価結果を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
表1及び表5の実施例1から実施例6に示す様に、二段階の反応工程でエポキシ樹脂(a)及びリン含有フェノール化合物(b)、リン非含有フェノール化合物(c)を反応させる本発明のリン含有フェノール樹脂製造方法によって得られたリン含有フェノール樹脂は、二段階で反応させずに一括で反応させる製造方法によって得られた比較例1の樹脂と比べてリン含有フェノール化合物(b)の残存量が少なく、溶剤溶解性に優れる。また、一段階目の反応工程で、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基が1.7molとなる様に反応させた比較例2と比べ、実施例の様に0.3molから1.5molで反応させることによって溶剤溶解性に優れることが判る。
【0074】
表2の実施例7から実施例12に示す様に、本発明のリン含有フェノール樹脂をエポキシ樹脂硬化剤として使用したエポキシ樹脂硬化物は、比較例1及び比較例2で得られたリン含有フェノール樹脂を硬化剤として使用した場合に比べて、耐熱性、耐熱分解性、接着性に優れる。また、比較例3で得られたリン含有フェノール樹脂を硬化剤として使用した場合と比べると、難燃性が優れる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法によって得られたリン含有フェノール樹脂は、各種有機溶剤への溶解性が良いため、組成物配合の際に析出するといった問題が解決でき、作業性、硬化性、成型性に優れる上に、該リン含有フェノール樹脂を含む樹脂組成物は、添加型難燃剤を使用せずとも十分な難燃性を発現する事が可能である。
【0076】
また本発明のリン含有フェノール樹脂をエポキシ樹脂等の硬化剤として使用した場合は、耐熱信頼性、接着性に優れた硬化物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に平均1.8個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂(a)に、一般式(1)で示すリン含有フェノール化合物(b)を必須として含有するリン含有化合物類(B)、及び二官能以上のリン非含有フェノール化合物類(c)、を二段階の反応工程で反応させて得られるリン含有フェノール樹脂であって、一段階目の反応工程でエポキシ樹脂(a)とリン含有化合物類(B)とを反応させる前駆反応を含むこと特徴とするリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【化1】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表す。式中γは0または1を表し、R及びRは炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、リン原子と共に環状になっていてもよい。)
【請求項2】
前記一段階目の反応工程で、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基が0.3molから1.5molである請求項1記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記一段階目の反応工程で使用するリン含有フェノール化合物(b)が、リン含有フェノール樹脂の製造に使用する全てのリン含有フェノール化合物(b)の50%から100%である請求項1または請求項2記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記一段階目の反応工程でのエポキシ樹脂(a)のエポキシ基の反応率が30%から95%である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記一段階目の反応工程終了後に、二段階目の反応として二官能以上のリン非含有フェノール化合物(c)を反応させて得られるリン含有フェノール樹脂であって、エポキシ樹脂(a)のエポキシ基1molに対してリン含有フェノール化合物(b)及びリン非含有フェノール化合物(c)の合計のフェノール性水酸基が1.5molから4.5molである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた事を特徴とするリン含有フェノール樹脂。
【請求項7】
請求項6に記載のリン含有フェノール樹脂を含む事を特徴とするリン含有フェノール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のリン含有フェノール樹脂組成物を硬化させた硬化物。

【公開番号】特開2013−103975(P2013−103975A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247988(P2011−247988)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】