説明

リン含有フェノール樹脂組成物及び該組成物を必須成分とする硬化性組成物及び硬化物

【課題】溶剤に可溶性の新規な難燃性組成物の提供。
【解決手段】フラン環含有基、チオフェン含有基、無水フタル酸含有基、カルボニル基、チオカルボニル基のいずれか1種類以上の骨格を持つフェノール基含有化合物と一つのP=O基と一つまたはゼロ個のR−O−P基を有するリン含有化合物を溶剤に溶解してなるリン含有フェノール樹脂組成物、並びに当該リン含有フェノール樹脂組成物とエポキシ樹脂を含む硬化性リン含有フェノール樹脂組成物、及びこの硬化性リン含有フェノール樹脂組成物を硬化してなるリン含有エポキシ樹脂硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子材料や複合材、接着剤、塗料等において難燃性を必要とする用途に有用なリン含有フェノール樹脂組成物及び該組成物を必須成分とする硬化性組成物及び硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の難燃化は従来テトラブロモビスフェノールAを原料とする臭素化エポキシ樹脂が使用されていた。しかし、臭素化エポキシ樹脂を用いた場合、燃焼時にハロゲン化物の生成がみられ、毒性や煙に巻かれるなどの問題があった。これに対して近年リン化合物を利用したハロゲンフリー難燃技術が検討され、特許文献1〜特許文献4で開示されたようなリン化合物を応用されるようになった。しかし、これらの化合物は溶剤溶解性が低く、これらのリン化合物を溶剤に溶解して用いることが困難であった。このため、特許文献5〜特許文献8で開示されているようにあらかじめエポキシ樹脂類と反応することによってリン含有エポキシ樹脂、リン含有フェノール樹脂を合成することにより溶剤溶解性を向上して使用されている。あるいは、特許文献9〜特許文献10で開示されているようにリン化合物を微粉砕して分散することによって難燃性を付与しようとする試みも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭47-016436公報
【特許文献2】特開昭60-161993公報
【特許文献3】特開昭61-236787公報
【特許文献4】特開平05-331179公報
【特許文献5】特開平04-11662公報
【特許文献6】特開平11-166035公報
【特許文献7】特開平11-279258公報
【特許文献8】特開2003-040969公報
【特許文献9】特開2003-11269公報
【特許文献10】特開2003-201332公報
【0004】
しかしながら、特許文献5〜特許文献7のリン含有エポキシ樹脂の硬化物において難燃性を向上するため、リン含有率を高めようとした場合、リン含有エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり取り扱いが難しくなる。そればかりか、ガラス転移温度、接着力等の硬化物物性も極端に低下してしまう。また、特許文献8のリン含有フェノール硬化剤においては反応時の粘度が高いため、高沸点溶剤の存在下に反応を行う必要があり、溶剤の除去が難しく残存溶媒の影響で物性が低下してしまうことがあった。
【0005】
一方、特許文献9〜特許文献10のリン化合物を微粉砕して分散する方法については、微粉砕する工程が増えてしまうことに加えて、リン化合物の表面積が飛躍的に増大し、吸湿しやすくなり反応性などの物性の低下が起きてしまう問題があった。また、リン含有率を上げる為、添加量を増やすと分散不良によりプリプレグの粉落ちや、エポキシ基とフェノール基の比率がずれることによる硬化不良などの問題あった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は溶剤に溶解しても優れた貯蔵安定性を持ち、溶液粘度が低いことからプリプレグを作製する際に必要な含浸性などの作業性に優れ、硬化物は難燃性、耐熱性、密着性などの物性が優れており、電気・電子材料や複合材、接着剤、塗料等において難燃性を必要とする用途に有用なリン含有フェノール樹脂組成物及び該組成物を必須成分とする硬化性組成物及び硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リン化合物について鋭意検討を行った結果、特定の骨格を持ったフェノール基含有化合物の存在下リン化合物を溶剤に溶解でき、安定なワニスが得られることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) 一般式(1)〜一般式(3)で示されるいずれか1種類以上の骨格を持つフェノール基含有化合物と一般式(4)で示されるリン含有化合物を溶剤に溶解してなるリン含有フェノール樹脂組成物
【0008】
【化1】

式中Xは酸素原子または硫黄原子を示す。
【0009】
【化2】

式中Rは水素原子または炭化水素基を示す。Xは酸素原子または硫黄原子を示す。
【0010】
【化3】

式中Xは酸素原子または硫黄原子を示す。
【0011】
【化4】

【0012】
R1、R2は炭化水素基を示し、R1とR2がリン原子と共に環状構造になっていても良い。nは0又は1を示す。Yは水素又は一般式(5)又は一般式(6)を示す。
【0013】
【化5】

R3は水素原子または炭化水素基又は水酸基を示し、水酸基を2個以上含む。
【0014】
【化6】

R4は水素原子または炭化水素基又は水酸基を示し、水酸基を2個以上含む。
【0015】
(2) 一般式(1)〜一般式(3)で示されるいずれか1種類以上の骨格を持つフェノール基含有化合物が、フェノール類とフルフラールの重合物、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ジヒドロキシベンゾフェノンから選ばれた少なくとも1種類である(1)記載のリン含有フェノール樹脂組成物。
【0016】
(3)上記(1)記載のリン含有フェノール樹脂組成物とエポキシ樹脂を必須成分とする硬化性リン含有フェノール樹脂組成物。
(4)上記(3)記載の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物を硬化してなるリン含有エポキシ樹脂硬化物。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリン含有フェノール樹脂組成物及び該組成物を必須成分とする硬化性リン含有フェノール組成物及びリン含有エポキシ樹脂硬化物は、特定の骨格を持ったフェノール基含有化合物を必須成分とすることによってリン化合物を均一に溶剤溶解したリン含有フェノール樹脂組成物であって、エポキシ樹脂を硬化剤とする硬化性リン含有フェノール樹脂組成物として容易に応用可能であり、その硬化物は難燃性、耐熱性、密着性などに優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明において、特定の骨格を持つフェノール基含有化合物とは、一般式(1)〜一般式(3)で示される骨格を持っているフェノール基含有化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、フェノール類とフルフラールの重合物、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ジヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0019】
フルフラールとの重合に用いられるフェノール類としてはフェノール、クレゾール、メトキシフェノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、フェニルフェノール、フェニルエチルフェノール、クミルフェノール、フェノキシフェノール、ジメチルフェノール、アミノフェノール、ヒドロキシベンゾフェノン、ナフトール、ジフェニルフェノール等の単官能フェノール類、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビフェノール、チオビスフェノール、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、オキシビスフェノール、フェニルエチリデンビスフェノール、ナフタレンジオール、メチリジントリスフェノール、エチリジントリスフェノール、トリス(ヒドロキシフェニル)ベンゼン、ベンジリジントリフェノールなどの多官能フェノール類などが挙げられるが、得られたフェノール基含有化合物の骨格として一般式(1)〜一般式(3)で示される骨格を含んでいれば良い。
【0020】
リン含有化合物としては一般式(4)で示される化合物であれば特に限定されないが、具体的にはジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA三光株式会社製)、ジメチルホスフィンオキサイド、ジエチルホスフィンオキサイド、ジブチルホスフィンオキサイド、ジフェニルホスフィンオキサイド、1,4−シクロオクチレンホスフィンオキサイド、1,5−シクロオクチレンホスフィンオキサイド(CPHO日本化学工業株式会社製)、ジメチルホスフィニルハイドロキノン、ジエチルホスフィニルハイドロキノン、ジフェニルホスフィニルハイドロキノン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA-HQ三光株式会社製)、10−(2,5−ジヒドロキシナフチル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、1,4−シクロオクチレンホスホニルハイドロキノン、1,5−シクロオクチレンホスホニルハイドロキノン(CPHO-HQ 日本化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらのリン化合物は単独でも2種類以上混合して使用しても良く、これらに限定されるものではない。
【0021】
特定のフェノール基含有化合物とリン化合物を溶解する溶剤としては、不活性溶媒であり、特定のフェノール基含有化合物を溶解可能であれば特に限定はなくヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ジメチルブタン、ペンテン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の各種炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、メチルアミルアルコール、ヘプタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フリフリルアルコール等のアルコール類、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が使用できるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上混合して使用しても良い。
【0022】
溶剤に溶解する方法としては、特定の骨格を持つフェノール基含有化合物とリン化合物と溶剤を加熱しながら攪拌を行い溶解することが出来る。あらかじめ特定の骨格を持つフェノール基含有化合物を溶解した後、リン化合物を添加して溶解しても良く、リン化合物を溶解してから特定の骨格を持つフェノール基含有化合物を添加して溶解しても良い。
【0023】
特定の骨格を持つフェノール基含有化合物とリン化合物とを溶剤に溶解する際、リン化合物として一般式(4)のYが水素である化合物を必須成分とすることで、Yが一般式(5)又は一般式(6)で示されるリン化合物を更に容易に溶解することが出来る。
【0024】
特定の骨格を持つフェノール樹脂とリン化合物とを溶剤に溶解したリン含有フェノール樹脂は、溶解したリン化合物の結晶析出が見られず、高い貯蔵安定性を示すのである。このメカニズムは明確に判ってはいないが、一般式(1)〜(3)で示される骨格に由来するものと思われ、特には「=X」骨格に由来するものと思われる。
【0025】
本発明のリン含有フェノール樹脂組成物はフェノール基及び/又はP−H基を含有しており、これらの官能基はエポキシ基と反応することが知られていることから、エポキシ樹脂を配合することによって硬化性リン含有フェノール樹脂組成物とすることが出来る。
【0026】
本発明の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物に使用できるエポキシ樹脂はエポキシ基をもっている化合物であれば特に限定されないが、具体的にはエポトート YDC-1312、ZX-1027(東都化成株式会社製 ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、ZX-1251(東都化成株式会社製 ビフェノール型エポキシ樹脂)、エポトート YD-127、エポトート YD-128、エポトート YD-8125、エポトート YD-825GS、エポトート YD-011、エポトート YD-900、エポトート YD-901(東都化成株式会社製 BPA型エポキシ樹脂)、エポトート YDF-170、エポトート YDF-8170、エポトート YDF-870GS、エポトート YDF-2001(東都化成株式会社製 BPF型エポキシ樹脂)、エポトート YDPN-638(東都化成株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート YDCN-701(東都化成株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、ZX-1201(東都化成株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、NC-3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、EPPN-501H、EPPN-502H(日本化薬株式会社製 多官能エポキシ樹脂)ZX-1355、ZX-1711(東都化成株式会社製 ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、ESN-155、ESN-185V、ESN-175(東都化成株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、ESN-355、ESN-375(東都化成株式会社製 ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂)、ESN-475V、ESN-485(東都化成株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂等のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート YH-434、エポトート YH-434GS(東都化成株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、YD-171(東都化成株式会社製 ダイマー酸型エポキシ樹脂)等のカルボン酸類とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、FX-289B、FX-289ZA、FX-289Z-1、FX-305、FX-319、TX-0907、TX-0913、TX-0932、TX-0940(東都化成株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)等の特殊エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく2種類以上併用しても良い。
【0027】
本発明の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物には必要に応じて硬化剤や硬化促進剤も配合することが出来る。硬化剤としては本発明で用いられる一般式(1)〜一般式(3)で示される骨格を含むフェノール基含有化合物以外の各種フェノール樹脂類や酸無水物類、アミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができる。
【0028】
硬化促進剤としては第3級アミン、第4級アンモニウム塩、ホスフィン類、イミダゾール類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することができ、これらの硬化促進剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良い。
【0029】
本発明の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物には必要に応じてフィラーを配合することも出来る。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、ガラス粉末、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、シリカバルーン等の無機フィラーなどが挙げられる。また、必要に応じて顔料等を配合しても良い。フィラーを用いることにより、耐衝撃性の向上や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いた場合は、難燃性の向上が可能となる。特に樹脂成分を100%とした時の配合量が10%以上の場合、耐衝撃性の効果が高くなり、配合量が150%を越えると接着性が低下する。また、シリカ、ガラス繊維、パルプ繊維、合成繊維、セラミック繊維等の繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマーなどの有機充填材を上記樹脂組成物に含有することもできる。
【0030】
本発明の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物は溶剤に溶解した状態であるため、ガラス等の無機繊維や、ポリエステル等、ポリアミン、ポリアクリル、ポリイミド、ケブラー等の有機質繊維の織布又は不織布への含浸や銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔、PETフィルムなどのフィルム基材へ塗布することが出来る。
【0031】
本発明の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物は含浸あるいは塗布したのち、例えば100〜200℃で1〜40分間加熱乾燥して溶剤を除去することで半硬化物(プリプレグ)を得ることが出来る。これを必要に応じて積層し、例えば温度を160〜220℃、圧力を49.0〜490.3 N/cm2(5〜50kgf/cm2)、加熱加圧時間を40〜240分間にそれぞれ設定することによって硬化物を得ることが出来る。
【実施例】
【0032】
実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。リン含有フェノール樹脂組成物の貯蔵安定性は加熱溶解した後、25℃まで放冷し24時間後に目視で確認を行った。特定のフェノール基含有化合物及び/又は特定のリン含有化合物が析出しているものを×印で、均一な透明液体の状態を維持しているものを○印で示した。
【0033】
合成例1.
撹拌機、還流冷却管、分留管、窒素ガス導入管を備えたフラスコに、フェノール100部、キシレン25部、水酸化ナトリウム11部を仕込み、撹拌、溶解後、加熱して還流状態としたところへ、フルフラール25部を反応発熱に注意しながら滴下した。反応温度60℃で30分間反応を行い、昇温して95℃〜98℃で2時間反応した。更に昇温して還流脱水を行いながら、130℃で2時間反応を行った。キシレンを追加して希釈した後、35%塩酸水溶液26部で中和した。水洗を行い、加熱減圧を行って未反応フェノール、キシレンを除去し、フェノール樹脂118部を得た。フェノール性水酸基当量133 g/eq、軟化点81℃、150℃でのICI溶融粘度1.1ポイズであった。
【0034】
合成例2.
撹拌機、還流冷却管、分留管、窒素ガス導入管を備えたフラスコに、HCA(三光株式会社製 リン含有化合物、活性水素当量216.2 g/eq、リン含有率14.25%)216部、トルエン460部を仕込み、撹拌、75℃まで昇温して溶解した。更に1,4−ナフトキノン(川崎化成工業株式会社製)140部を発熱に注意しながら仕込み80℃〜95℃で30分保持した。昇温して還流温度で3時間反応を行いスラリー溶液を得た。50℃まで温度を下げ、ろ過により固形物を取り出した。トルエン450部に得られた固形物を入れ、攪拌して洗浄し、再度ろ過を行った。この操作を数回繰り返し、ろ液が透明になったところで固形物を乾燥してリン含有化合物(HCA-NQ)を得た。活性水素当量は187.2 g/eq、リン含有率8.27%であった。
【0035】
実施例1.
合成例1で得られたフェノール樹脂25.39部をトルエン53.85部に加熱溶解した。ここへHCA 74.61部を加え、更に加熱溶解してリン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は186.6 g/eq、リン含有率は10.6%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0036】
実施例2.
合成例1で得られたフェノール樹脂を29.78部、トルエンをメチルエチルケトンに変え、43.09部、HCA 70.22部とした以外は実施例1と同様な操作を行い、リン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は182.2 g/eq、リン含有率は10.0%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0037】
実施例3.
合成例1で得られたフェノール樹脂を94.64部、トルエンをメチルエチルケトンに変え、100.00部、HCAをHCA-HQ(三光株式会社製 リン含有化合物、活性水素当量162.1 g/eq、リン含有率9.55%)5.36部とした以外は実施例1と同様な操作を行い、リン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は134.3 g/eq、リン含有率は0.5%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0038】
実施例4.
合成例1で得られたフェノール樹脂を93.81部、トルエンをメチルエチルケトンに変え、100.00部、HCAを合成例2で得られたHCA-NQ 6.19部とした以外は実施例1と同様な操作を行い、リン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は135.4 g/eq、リン含有率は0.5%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0039】
実施例5.
合成例1で得られたフェノール樹脂29.88部をメチルエチルケトン43.24部に加熱溶解し、HCA 60.10部を追加して加熱溶解した。更にHCA-HQ 10.02部追加して加熱溶解してリン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は177.2 g/eq、リン含有率は9.5%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0040】
実施例6.
フェノールフタレイン48.78部をイソプロピルアルコール60.98部に加熱溶解し、HCA 51.22部を追加して加熱溶解してリン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は165.7 g/eq、リン含有率は7.3%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0041】
実施例7.
ジヒドロベンゾフェノン61.73部をイソプロピルアルコール98.00部に加熱溶解し、HCA 38.27部を追加して加熱溶解してリン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は132.7 g/eq、リン含有率は5.4%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0042】
実施例8.
合成例1で得られたフェノール樹脂11.95部とBRG-557(昭和高分子株式会社 フェノールノボラック樹脂 活性水素当量105 g/eq)52.99部とをメチルエチルケトン45.00部に溶解し、HCA 35.07部を追加して加熱溶解してリン含有フェノール樹脂溶液を得た。得られたリン含有フェノール樹脂の活性水素当量は132.2 g/eq、リン含有率は5.0%であった。貯蔵安定性は析出が見られず安定していた。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0043】
比較例1.
BRG-557 76.19部をトルエン100部に加熱溶解し、HCAを23.81部追加して溶解した。貯蔵安定性ではHCAと見られる白色物質が析出した。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
【0044】
比較例2.
BRG-557 76.19部をトルエン100部に加熱溶解し、HCA-HQを23.81部追加して溶解した。貯蔵安定性ではHCA-HQと見られる白色物質が析出した。配合比率と活性水素当量、リン含有率、貯蔵安定性を表1に示す。
一般式(1)〜一般式(3)で示したフェノール化合物を使用することによりリン化合物を溶剤に溶解しても析出が無く貯蔵安定性が良好であった。
【0045】
実施例9.
実施例5で得られたリン含有フェノール樹脂溶液143.37部(固形分100.09部)、YDPN-638(東都化成株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂 エポキシ当量177 g/eq)100.00部、2E4MZ(四国化成工業株式会社 2エチル4メチルイミダゾール)0.40部を溶解し、不揮発分50%に調整した。ガラスクロス(日東紡 WEA116 106S 136)に含浸し、150℃で乾燥を行いプリプレグを作成した。得られたプリプレグ4 plyの上下に銅箔(三井金属鉱業株式会社3EC-III (35μm))を重ね、130℃×15分及び170℃×20kg/cm2×70分間の条件で加熱と加圧を行い積層板を得た。得られた積層板の物性を表2に示す。
【0046】
実施例10,
実施例8で得られたリン含有フェノール樹脂溶液62.83部(固形分43.33部)、FX-289BEK75(東都化成株式会社製 リン含有エポキシ樹脂 エポキシ当量305 g/eq リン含有率2.0%)133.33部(固形分100.00部)、2E4MZ 0.40部を溶解した以外は実施例9と同様な操作を行い、積層板を得た。得られた積層板の物性を表2に示す。
【0047】
比較例3.
BRG-557 34.43部、FX-289BEK75 133.33部(固形分100.00部)、2E4MZ 0.40部を溶解した以外は実施例9と同様な操作を行い、積層板を得た。得られた積層板の物性を表2に示す。
【0048】
比較例4.
HCA-HQ 56.07部、YDPN-638 100.00部、BRG-557 23.00部、2E4MZ 0.40部とした以外は実施例9と同様な操作を行った。HCA-HQは溶剤に溶解せず、析出した。プリプレグは不均一となったが、積層板を得た。得られた積層板の物性を表2に示す。
【0049】
実施例と比較例から明らかなように特定のフェノール基含有化合物を使用してリン化合物を溶剤に溶解した場合、貯蔵安定性は良好であるが、特定のフェノール基含有化合物以外では貯蔵安定性が悪い。積層板評価を行うと、リン含有エポキシ樹脂だけの使用では難燃性が得られず、リン化合物を分散して使用すると物性が悪くなった。特定のフェノール基含有化合物を使用してリン化合物を溶剤に溶解したものだけが貯蔵安定性が良好であり、硬化物は難燃性であり、耐熱性、接着性共に優れていた。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、特にガラスクロスなどの基材に含浸して用いる均一な樹脂組成物として有用であり、特に銅張り積層板用のハロゲンフリー難燃性が必要な用途に利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)〜一般式(3)で示されるいずれか1種類以上の骨格を持つフェノール基含有化合物と一般式(4)で示されるリン含有化合物を溶剤に溶解してなるリン含有フェノール樹脂組成物:
【化1】

(式中Xは酸素原子または硫黄原子を示す)
【化2】

(式中Rは水素原子または炭化水素基を示す。Xは酸素原子または硫黄原子を示す)
【化3】

(式中Xは酸素原子または硫黄原子を示す)
【化4】

(R1、R2は炭化水素基を示し、R1とR2がリン原子と共に環状構造になっていても良い。nは0又は1を示す。Yは水素又は一般式(5)又は一般式(6)を示す)
【化5】

(R3は水素原子または炭化水素基又は水酸基を示し、水酸基を2個以上含む)
【化6】

(R4は水素原子または炭化水素基又は水酸基を示し、水酸基を2個以上含む)。
【請求項2】
一般式(1)〜一般式(3)で示されるいずれか1種類以上の骨格を持つフェノール基含有化合物が、フェノール類とフルフラールの重合物、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ジヒドロキシベンゾフェノンから選ばれた少なくとも1種類である請求項1記載のリン含有フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1記載のリン含有フェノール樹脂組成物とエポキシ樹脂を必須成分とする硬化性リン含有フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載の硬化性リン含有フェノール樹脂組成物を硬化してなるリン含有エポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2011−202107(P2011−202107A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72906(P2010−72906)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】