説明

リン回収材

【課題】従来と同様のリン回収率及び沈降性を維持しながら、製造コストの低いリン回収材を提供する。
【解決手段】珪酸質材料とカルシウム化合物を乾式で混合粉砕して得られるリン回収材であって、カルシウム化合物の割合が、リン回収材の合量に対して、内割りで20質量%以上90質量%以下であるリン回収材。カルシウム化合物の割合を、リン回収材の合量に対して所定の割合とすることで、リン含水溶液に添加したときに、凝集物の形成から10分後の沈降部分の界面高さが、同一沈降条件において同量の消石灰を用いた場合の沈降部分の界面高さの1/2以下で、かつ液中のリンを略々全量回収することができる。珪酸質材料は、珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール及び珪藻土から選択することができ、カルシウム化合物は、塩化カルシウム、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムから選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場等のリン発生源の排水からリンを回収する際に用いられるリン回収材に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料の三要素の一つであるリンは、その原料をリン鉱石に依存し、我が国ではリン鉱石を産出しないため、全量を海外から輸入している。リン鉱石は、将来枯渇することが予想されるなど、今後入手が極めて困難になる可能性があるため、国内で利用されずに廃棄されているリンを回収する技術の開発が活発に行われている。
【0003】
下水処理場等のリン発生源の排水からリンを回収する方法の一つとして凝集沈殿法がある。この方法では、カルシウム、アルミニウム、鉄等、リンと不溶性沈殿を生成するリン回収材を排水に添加し、沈殿を分離回収する。このリン回収材として、特許文献1、2には、平均粒子径(メジアン径)150μm以下の微粉末であり、細孔容積0.3cm3/g以上の多孔質の珪酸カルシウム水和物や、平均粒子径(メジアン径)10μm以上〜150μm以下、BET比表面積80m2/g以上、細孔容積0.5cm3/g以上の多孔質及び非晶質の珪酸カルシウム水和物からなるリン回収材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−285635号公報
【特許文献2】特開2009−285636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献に記載のようなリン回収材を製造するには、珪酸原料と石灰原料とを水性スラリーとし、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリを添加して水熱反応させ、その水熱反応によって多孔質及び非晶質の珪酸カルシウム水和物を生成する。そのため、製造工程が湿式となり、煩雑な操作を必要とするため、製造コストの上昇に繋がるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、凝集沈殿法でリンを回収するにあたり、従来と同様のリン回収率及び沈降性を維持しながら、製造コストの低いリン回収材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、珪酸質材料とカルシウム化合物を乾式で混合粉砕して得られるリン回収材であって、該カルシウム化合物の割合が、該リン回収材の合量に対して、内割りで20質量%以上90質量%以下であることを特徴とする。
【0008】
そして、本発明によれば、リン回収材を乾式で製造することができ、煩雑な操作が不要となるため、製造コストを低減することができる。また、カルシウム化合物の割合を、該リン回収材の合量に対して所定の割合とすることで、リン含水溶液に添加したときに、例えば、凝集物の形成から10分後の沈降部分の界面高さが、同一沈降条件において同量の消石灰を用いた場合の沈降部分の界面高さの1/2以下で、かつ液中のリンを略々全量回収することができるため、従来と同様の品質を維持することができる。
【0009】
上記リン回収材において、前記珪酸質材料を、珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール及び珪藻土から選択される1種以上からなる物とすることができる。
【0010】
また、上記リン回収材において、前記カルシウム化合物を、塩化カルシウム、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムから選択される1種以上からなる物とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、従来と同様のリン回収率及び沈降性を維持しながら、製造コストの低いリン回収材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るリン回収材をリン水溶液に添加した場合のリン回収率を示すグラフである。
【図2】本発明に係るリン回収材の沈降性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るリン回収材は、珪酸質材料とカルシウム化合物を乾式で混合粉砕して得られるリン回収材であって、該カルシウム化合物の割合が、該リン回収材の合量に対して、内割りで20質量%以上90質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
ここで、珪酸質材料として、珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、珪藻土等を用いることができ、これらいずれか1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、カルシウム化合物として塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を用いることができ、これらいずれか1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
珪酸質材料とカルシウム化合物を乾式で混合粉砕するにあたっては、例えば、珪酸質材料とカルシウム化合物を各々ジョークラッシャーやトップグラインダーを使用して粗粉砕した後、ボールミル等を使用して両者を微粉砕及び混合する。このようにして得られたリン回収材は、粒径が小さい程リン回収性は高く、一方で粒径が大きい程沈降性が向上する。
【0016】
本発明に係るリン回収材を用いて下水処理場等のリン発生源の排水からリンを回収するにあたっては、リン発生源の排水に直接リン回収材を添加し、リン回収材にリンを吸着させる。リンを吸着したリン回収材は、排水中に沈降するので、これを回収し、固液分離して脱水ケーキ状のリン回収物を得ると共に、得られたろ液をリン発生源で再使用することができる。
【0017】
上述のように、本発明によれば、従来のような湿式法ではなく、乾式でリン回収材を製造することができ、珪酸質材料とカルシウム化合物を混合粉砕するだけで煩雑な操作が不要となるため、リン回収材の製造コストを低減することができる。
【0018】
また、後述するように、カルシウム化合物の割合を、リン回収材の合量に対して所定の割合とすることで、従来と同様のリン回収率及び沈降性を実現することができ、リン回収効率を低下させることなく、リン発生源の排水からリンを回収することができる。
【0019】
次に、本発明に係るリン回収材の実施例について、図表を参照しながら説明する。
【0020】
珪酸質材料として珪質頁岩、カルシウム化合物として水酸化カルシウムを用い、水酸化カルシウム(以下、「CH」と略記する)のみ、及び珪酸質材料に対して内割でCHを10%質量〜90%質量%配合した物を乾式にて混合粉砕して粉末状のリン回収材を作製した。
【0021】
まず、リン回収率を試験するため、各々のリン回収材をリン水溶液に添加して一定時間撹拌し、撹拌後の液をろ過し、リン回収率を測定した。ここでは、リン回収材を、リン水溶液100mlに対し、外割りで0.1%、0.2%、0.5%、1%添加した場合の4水準について試験した。尚、リン濃度の測定は、JISK0102のモリブデン青吸光度法によって行った。測定結果を表1及び図1に示す。
【0022】
同表及び同図に示すように、リン回収材の合量に対するCHの配合比が高いほど、リン回収率が高くなる。例えば、添加率0.2%を見ると、リン回収材に対するCHの配合比が10質量%の場合(比較例1)には、リン回収率は50%程度であるが、CHの配合比が20質量%〜90質量%(実施例1〜8)であれば、回収率は90%以上となり、従来と同様の回収率を達成できている。尚、比較例2のCHのみの場合でも高い回収率を示すが、後述の沈降性において実施例に劣る結果となる。
【0023】
【表1】

【0024】
次に、沈降性を試験するため、上記と同様にして作製したリン回収材を、リン水溶液に対して0.2%添加して撹拌し、撹拌により懸濁した状態の液をメスシリンダー(容量100ml)に移して、所定時間経過毎に凝集物体の界面高さを測定した。測定結果を表2及び図2に示す。
【0025】
同表及び同図に示すように、リン回収材に対するCHの配合比が減少すると、沈降性が高くなる傾向が見られる。ただし、CHの配合比が10%の場合(比較例1)には、リン回収材の添加後直ぐに沈降したが、その後水溶液液全体が添加後に懸濁した状態となり、界面の判定が不能となった。そのため、図2のCHの配合比が10%のグラフは、推定値をプロットしたものである。
【0026】
また、実施例1〜8(CHの配合比が20質量〜90質量%)の場合には、CHのみを添加した場合(比較例2)に比較して凝集物の形成から10分後の沈降部分の界面高さが1/2以下になった。これにより、本発明に係るリン回収材は、沈降性でも従来と比較して遜色なく、効率よくリンを回収できることが判明した。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質材料とカルシウム化合物を乾式で混合粉砕して得られるリン回収材であって、
該カルシウム化合物の割合が、該リン回収材の合量に対して、内割りで20質量%以上90質量%以下であることを特徴とするリン回収材。
【請求項2】
前記珪酸質材料は、珪質頁岩、アモルファスシリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール及び珪藻土から選択される1種以上からなることを特徴とする請求項1に記載のリン回収材。
【請求項3】
前記カルシウム化合物は、塩化カルシウム、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムから選択される1種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン回収材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52346(P2013−52346A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192236(P2011−192236)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】