説明

リン拡散用塗布液

【課題】リンを拡散した半導体デバイスの中心部の抵抗値と周辺時の抵抗値のバラツキを発生させずにリンを拡散させることができ、かつ常温保存が可能なリン拡散用塗布液を提供することを目的とする。
【解決手段】(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶剤を含有することを特徴とするリン拡散用塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリン拡散用塗布液、さらに詳しくはシリコン半導体の表面にリンを拡散させるための新規なリン拡散用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、ダイオード、IC(集積回路)等の製造にはリンが拡散したN型領域を有するシリコン半導体デバイスが使用されている。前記シリコン半導体デバイスにリンを拡散させる方法としては、熱分解法、対向NB法、ドーパントホスト法、塗布法等が検討されてきたが、中でも塗布法が高価な装置を必要としないで均一なリンの拡散ができ、量産性に優れているところから好適に使用されている。特に、リンを含有する塗布液をスピンコーター等により塗布する場合が多い。
【0003】
また、近年、シリコン半導体デバイスの製造コスト削減のために、ウェーハのサイズが従来の3インチ以下から4インチ以上へと移行しつつある。3インチ以下のウェーハではスピンコート法による塗布が好適であったが、ウェーハの大型化に伴い、スピンコーターを用いて均一な塗布をすることが困難になっており、不均一な膜厚の影響により、ウェーハ中心部とウェーハ周辺部との抵抗値が異なるという欠陥が生じる場合がある。この欠点を改良するため、ポリシラザン又は加熱処理によりポリシラザンを形成しうるシラザン化合物を使用した塗布液(特許文献1 請求項1参照)が提案された。
【0004】
しかしながら、この系の塗布液は、均一な塗膜を形成できるが、シラザン化合物の高い反応性のため常温による保存が難しく、常温で保存した場合数日で塗布液粘度の上昇が始まり、最終的にはスピン塗布できなくなるため、5℃以下での保存を強いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−326432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、上記現状に鑑み、リンを拡散した半導体デバイスの中心部の抵抗値と周辺時の抵抗値のばらつきを発生させずにリンを拡散させることができ、かつ常温保存が可能なリン拡散用塗布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂(以下、単に「ポリビニルエステル系樹脂」ともいう。)、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を含有することを特徴とするリン拡散用塗布液は常温保存が可能であり、前記リン拡散用塗布液を用いると、シリコン半導体デバイスの表面にリンを均一に拡散させることができるうえに、リン拡散後のウェーハ内及びウェーハ間の表面抵抗値のばらつきを小さくすることができること、つまりリンが拡散した半導体デバイスの抵抗値を均一にすることができることを見出し、また、これにより半導体デバイスを工業的に効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成した。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の新規なリン拡散用塗布液を提供する。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1](a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を含有することを特徴とするリン拡散用塗布液、
[2](a)リン化合物が、リン酸、無水リン酸、リン酸アンモニウム、アシッド・ホスホキシ・メタクリレート類(2−メタクリロイルオキシエチルリン酸類)又はその塩、及び塩化リンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]記載のリン拡散用塗布液、
[3](b)ポリビニルエステル系樹脂が、ポリ酢酸ビニルであることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のリン拡散用塗布液、
[4](b)ポリビニルエステル系樹脂が、酢酸ビニルとSi元素を含有する不飽和単量体との共重合物であり、Si元素を含有する不飽和単量体の含有量が0.05〜20モル%であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のリン拡散用塗布液、
[5](c)アルコキシシランが、テトラエトキシシランとジメチルジエトキシシランの混合物であり、前記混合物の混合比率がテトラエトキシシラン:ジメチルジエトキシシラン=30:70〜80:20の範囲であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のリン拡散用塗布液、
[6](d)沸点が70℃以上の有機溶媒が、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のリン拡散用塗布液、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリン拡散用塗布液を用いることにより、スピン塗布により容易にウェーハへの塗布が可能となり、拡散後のウェーハ内の中心部の表面抵抗値と周辺部の表面抵抗値とののばらつきが小さくなる。また、本発明のリン拡散用塗布液は、常温保存が可能であり、5℃以下に保存条件が限定されず、工業的に有利であり、長期にわたり安定したリン拡散源を提供できる。さらに、本発明のリン拡散用塗布液を用いることにより、4インチ以上の大型化ウェーハであっても、スピンコーターを用いて均一な塗布をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリン拡散用塗布液は(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶剤を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明で使用される(a)リン化合物(以下、(a)成分ともいう。)としては、特に制限はないが、例えば、リン酸、無水リン酸、リン酸アンモニウム、アシッド・ホスホキシ・メタクリレート類(2−メタクリロイルオキシエチルリン酸類)、例えば、アシッドホスホキシ・エチルメタクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホキシ・エチルメタクリレート、アシッドホスホキシ・ポリエチレングリコール・モノメタクリレート、アシッドホスホキシ・ポリオキシプロピレングリコール・モノメタクリレート及びそれらの塩等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が混合して使用される。これらの中でも人体に対する安全性の面でリン酸が好ましい。前記(a)リン化合物の配合割合は、塗布方法及び半導体デバイスに求められる抵抗値により決められるが、通常は0.5〜30質量%であり、好ましくは1〜20質量%である。前記(a)リン化合物の配合割合が上記範囲内であると、リン拡散用塗布液を半導体デバイスに塗布した場合に充分なリンが供給され、期待する半導体デバイスの抵抗値を得ることができる。さらに、前記(a)リン化合物の配合割合が上記範囲内であると、リン拡散用塗布液自体の安定性が損なわれず、半導体デバイスに求められる性能がリンの供給過剰により損なわれることもない。リン化合物(a)の配合割合が0.5質量%未満の場合にはリン供給量が少なくなり、期待する半導体デバイスの抵抗値が得られない傾向がある。また、リン化合物(a)の配合割合が30質量%を超えると、塗布液の安定性が損なわれたり、リン供給過剰により半導体デバイスに求められる性能を損なったり場合があるので好ましくない。
【0012】
本発明で使用される(b)ポリビニルエステル系樹脂(以下、(b)成分ともいう。)は、脂肪族ビニルエステルを単独又は共重合して得られる重合物である。前記脂肪族ビニルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる。重合方法は、特に限定されず、従来から公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種の重合方法を用いることができ、脂肪族ビニルエステルをメタノール溶媒中で溶液重合する方法が工業的に有利である点から、好ましい。前記重合物の単量体単位の繰り返し数(以下、平均重合度という。)は、通常150〜4000であり、200〜3000が好ましい。前記平均重合度は、JIS K 6725:1977に従って、測定した値である。重合度が150未満の場合には被膜の形成性が悪く、スピン塗布した際に膜厚が不十分な部分が発生したりする。また、重合度が4000を越える場合には添加量にもよるが、塗布液の粘度が高くなってしまいスピン塗布できなくなることがある。仮に添加量を下げてスピン塗布できるようにした場合でも樹脂量の不足によりスピン塗布した際に膜厚が不十分な部分が発生する場合があるので好ましくない。前記(b)ポリビニルエステル系樹脂の配合割合は、リン拡散用塗布液に求められる粘度により決定されるが、通常は0.01〜30質量%であり、好ましくは0.05〜30質量%である。(b)成分の配合割合が上記範囲内であると、リン拡散用塗布液の塗布後の皮膜形成性が良好であり、乾燥時に塗膜のひび割れ等が発生することなく均一な塗膜を得ることができる。さらに、配合割合が上記範囲内であるとリン拡散用塗布液の粘度が高くなりすぎることもなく良好にスピンコートすることができる。
【0013】
脂肪族ビニルエステルを重合する際に、本発明の効果を損なわない範囲で前記脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体と脂肪族ビニルエステルとの共重合を行っても良い。脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン又はα−オクタデセン等のオレフィン類、ビニレンカーボネート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、ラウリルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等のアリルアルコール類、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有単量体、スチレン等の芳香族系単量体、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有単量体、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン不飽和アミン、アセト酢酸、ビニルトリクロルシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のSi元素含有不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が混合して使用されるが、これらに限らない。これらの中でもSi元素含有不飽和単量体との共重合物が、アルコキシシランとの混和性が良好なため好ましい。脂肪族ビニルエステルと脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体(変性モノマー)との共重合の割合は任意で良く、通常、共重合樹脂中で前記変性モノマーの割合が0.1〜10モル%の範囲で共重合されるのが一般的である。共重合方法は、前記重合方法と同様である。
【0014】
本発明で使用される(c)アルコキシシラン(以下、(c)成分ともいう。)としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が混合して使用される。これらの中でもテトラエトキシシランとジメチルエトキシシランとの混合物がSi被膜の形成性に優れ、均一な被膜を形成するため、好ましい。テトラエトキシシランとジメチルエトキシシランの混合比率はテトラエトキシシラン:ジメチルエトキシシラン=30:70〜80:20が好ましい。上記比率においてテトラエトキシシランの比率が30未満の場合には、リン化合物の量にもよるが、スピン塗布後の被膜の硬化速度が遅く、逆にテトラエトキシシランの比率が80を越える場合には塗布剤を調整する際にシリカゲルが発生してしまい、結果として、スピン塗布した際に均一な被膜を形成できなくなる場合もある。前記(c)アルコキシシランの配合割合は、求められる保存安定性により決定される。例えば、前記テトラエトキシシランとジメチルエトキシシランとの混合物を使用する場合において、保存安定性を優先するには、ジメチルエトキシシランの割合を増加させ、より強固な皮膜が必要な場合はテトラエトキシシランの割合を増加させる。前記配合割合は、通常5〜80質量%であり、好ましくは10〜70質量%である。アルコキシシランを使用することにより、リンとアルコキシシランとが反応して強固な皮膜を形成することができる。
【0015】
本発明で使用される(d)沸点が70℃以上の有機溶媒(以下、(d)成分ともいう。)としては、特に指定はないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−nブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が混合して使用される。これらの中でもエチレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルが、保存安定性がよく、好適に使用される。本発明のリン拡散用塗布液中の(d)成分の配合割合は、特に制限はないが、リン化合物と錯体を形成させることが目的であるため、通常(a)リン化合物の量に対して10〜300質量%程度の範囲になる。沸点が70℃以上の有機溶媒を使用することで、塗布液の保存中に、結晶状の異物が発生しやすいという問題を回避できる。
【0016】
本発明のリン拡散用塗布液は、さらに、必要に応じて、消泡性改善のために、(e)界面活性剤を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。
【0017】
本発明で使用される(e)界面活性剤としては、半導体デバイスへのアルカリ金属又は重金属の不純物の持ち込みが少ないことから非イオン界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性としては、特に限定されないが、例えば、プルロニック型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、ポリエチレングリコール型界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が混合して使用される。中でも、拡散工程における加熱時に速やかに焼成されることから、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0018】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ炭素数1〜20のアルキル基又はアリル基を示し、m及びnはそれぞれ0〜30を満たす。)
で示されるアセチレングリコール化合物が好ましい。
【0019】
一般式(I)で表されるアセチレングリコール化合物中のエチレンオキサイド単位の付加モル数は、0≦m+n≦30[モル]が好ましい。エチレンオキサイドの付加モル総数が30モルを超えた場合、水への溶解性がアップし、さらには起泡性がアップするため、消泡効果が低下する傾向がある。
【0020】
一般式(I)で表されるアセチレングリコール化合物としては、例えば、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、5,8−ジメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,3,6,7−テトラメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール等が挙げられる。
【0021】
また、一般式(I)のアセチレングリコール化合物のエトキシル化体としては、例えば2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:6)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:10)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エテレンオキサイド付加モル総数:4)、3,6−ジメチル−4−オクチル−3,6−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:4)等のアセチレングリコールのエチレンオキサイド誘導体を挙げることができ、特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:1.3、一般式(I)においてR及びRがiso−ブチル基、R及びRがメチル基、m+n=1.3)、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化体(エチレンオキサイド付加モル総数:3.5、一般式(III)においてR及びRがiso−ブチル基、R及びRがメチル基、m+n=3.5)が挙げられる。
【0022】
前記(e)界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業社製のサーフィノールシリーズ、オルフィンシリーズ等が挙げられる。
【0023】
(e)界面活性剤の配合割合は、(b)ポリビニルエステル系樹脂に対して0.01〜5質量%程度で十分であり、好ましくは0.1〜3質量%程度である。界面活性剤の配合割合がこの範囲内であれば、界面活性剤の効果が十分に発揮される。
【0024】
本発明では、さらに必要に応じ、リン拡散用塗布液の基本物性を損なわない範囲で種々の添加剤を配合することができる。添加物としては、例えば粘性改良剤としてのポリビニルイミダゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム等のビニル系高分子化合物;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドの交互又はブロック共重合体等のポリアルキレンオキシド化合物;ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシプロピルアクリレート又はこれらに相当するメタクリレート等のポリヒドロキシアルキルアクリレート又はメタクリレート類;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物;各種pH調整剤;防腐剤;難燃化剤;ウェーハへの拡散濃度調整を目的としてp型領域を形成しうる化合物、例えば無水ホウ酸、ホウ酸、ホウ酸ニ水素アンモニウム、ホウ酸水素二アンモニウム、ホウ酸メラミン等のホウ素化合物等を配合することができる。
【0025】
本発明のリン拡散用塗布液の粘度は、特に制限はなく、スピンコート法でウェーハ等の基板に塗布する場合には、通常2〜100mPa・s程度であり、3〜80mPa・s程度がより好ましい。前記粘度は、20℃におけるB型回転粘度計での粘度を意味する。
【0026】
本発明のリン拡散用塗布液は、(a)リン化合物、(b)重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を混合することにより作製する。例えば、(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂及び(c)アルコキシシランに加えて、(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を一度にガラス製容器に入れて加熱攪拌し、ポリビニルエステル系樹脂を溶解させてリン拡散用塗布液を作製する方法、又は、(a)リン化合物、(c)アルコキシシラン及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒をガラス製容器に入れて加熱攪拌した溶液(A)と、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒をガラス製容器に入れて加熱攪拌した溶液(B)とを用意し、溶液(A)と溶液(B)とを後で混合する方法等により作製する。また、別の態様では、本発明のリン拡散用塗布液は、(a)リン化合物、(b)重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、(d)沸点が70℃以上の有機溶媒、及び(e)界面活性剤を混合することにより作製される。いずれの態様においても、混合方法、添加順序及び温度等に時に指定はないが、混合する際は常時攪拌が好ましい。混合時に攪拌が不十分だとゲル状物が発生しやすく、シリコンウェーハに塗布した際に不均一な塗膜を形成して欠陥となる。攪拌機は、特に指定はなく市販の各種攪拌混合機を用いることができ、特殊な設備は必要ない。
【0027】
本発明のリン拡散用塗布液は、シリコンウェーハ上に塗布して使用される。シリコンウェーハへの塗布方法としては、スピンコーター法、スクリーン印刷法が一般的であるが、グラビア印刷法、凸版印刷法、平版印刷法、インクジェット印刷法、コンマコーター法、ダイへッドコーター法、ダイリップコーター法又はグラビア印刷法も用いてもよい。これらのうち、簡便である点から、スピンコーター法が好ましい。
【0028】
本発明のリン拡散用塗布液をシリコンウェーハに塗布して製造される半導体デバイスも、本発明の1つである。
【0029】
本発明は、(a)リン化合物、(b)重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒、さらに必要に応じて(e)界面活性剤を含有する組成物を基板に塗布する工程を含むリン拡散方法も包含する。このような組成物及びその好ましい態様としては、上述したリン拡散用塗布液と同様である。このような組成物を塗布する工程を含むことにより、該シリコンウェーハにリンを良好に拡散させることができる。
【0030】
本発明において、シリコンウェーハの塗布方法は、上述したのと同様である。塗布する際の組成物の温度としては、例えば、約5〜40℃が好ましく、約10〜30℃がより好ましい。
【0031】
本発明において、該組成物を基板に塗布する際の塗布量としては、組成物を塗布する基板の種類や用途等により異なるが、例えば、半導体デバイスを製造する場合には、塗布量を約1〜200g/mとすることが好ましく、約1〜100g/mとすることがより好ましい。
【0032】
本発明の方法は、さらに、基板に塗布した該組成物を乾燥させて塗膜を形成させる乾燥工程、リンを拡散させる拡散工程を含むことが好ましい。前記工程を含むことにより、例えば半導体デバイス中等にリンを高濃度で均一に拡散浸透させることができる。
【0033】
乾燥工程における乾燥温度としては、約60〜200℃が好ましく、約100〜180℃がより好ましい。乾燥時間は、乾燥温度等により適宜設定すればよいが、例えば、約1〜60分とすることが好ましく、約3〜30分とすることがより好ましい。乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、送風乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させることができる。
【0034】
拡散工程においては、例えば半導体デバイスを製造する場合であれば、乾燥工程を行なった後のウェーハを枚葉、又は複数枚を重ねた状態にて、好ましくは約700〜2000℃、より好ましくは約700〜1500℃で約10分〜10日間、好ましくは約30分〜7日間保持することが好ましい。なお、例えば半導体デバイスの製造において、上記乾燥工程により所望する抵抗値が得られる場合、拡散工程は行わなくてもよい。
本発明の拡散方法により、シリコンウェーハ等のウェーハに上記組成物を塗布して製造される半導体デバイスも、本発明の1つである。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。各実施例及び比較例における物性測定方法及び製造方法、試験例におけるリン拡散用塗布液のシリコンウェーハへの塗布方法、リン拡散用塗布液塗布後の乾燥及びリン拡散方法、ウェーハの電気抵抗の測定方法について、以下に示す。
【0036】
ポリビニルエステル系樹脂の物性測定方法
ポリビニルエステル系樹脂の平均重合度は、樹脂をベンゼン等の溶媒に溶解して1%溶液を作製し、その溶液10mlが所定の毛細管内を重力落下する際の落下秒数を計測し、その落下秒数から重合度を換算計算する公知の方法により求めた。ポリ酢酸ビニル樹脂の場合はJIS−K 6725:1977に従って重合度を求めた。また、ビニルシラン等の変性度はポリビニルアルコール系樹脂をDMSOに溶解後H NMRにて公知の方法にて分析して求めた。
【0037】
リン拡散用塗布液の製造方法
(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、及び(c)アルコキシシランに加えて、(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を一度にガラス製容器に入れて加熱攪拌し、ポリビニルエステル系樹脂を溶解させてリン拡散用塗布液を作製した。攪拌混合後に脱泡を要する場合には、市販の混練・脱泡機を使用して混練・脱泡を行った。
【0038】
リン拡散用塗布液を用いたシリコンウェーハの塗布方法
シリコンウェーハは直径4インチ、厚さ200μm、比抵抗値が10〜20Ω・cmのN型シリコンウェーハ(SUMCO社製)を用いた。リン拡散用塗布液のシリコンウェーハへの塗布は、スピンコーター(ミカサ社製 MS−A100)を用いて、回転速度4000rpm、塗布時間20秒で塗布した。
【0039】
リン拡散用塗布液塗布後の乾燥及びリン拡散方法
リン拡散用塗布液が塗布されたシリコンウェーハに、以下の工程により、リンを拡散させた。
工程(I):150℃の電気炉で5分間乾燥させた。
工程(II):その後、前記工程(I)で得られたウェーハを枚葉、又は複数枚を重ね合わせた状態にて電気炉において800℃で60分間熱処理した。
【0040】
ウェーハの電気抵抗の測定方法
抵抗測定器(ナプソン社製、本体:RT−8A、測定器:RG−7A)を用い、拡散後のウェーハから1枚を任意に選択し、該拡散膜の面内中心部とウェーハ末端(外周部)から10mmの部分の表面抵抗率を求め、ウェーハ中心部と周辺部との表面抵抗率のばらつきを評価した。
【0041】
ポリビニルエステル系樹脂の製造例を以下に示す。
[製造例1]
拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器内を窒素で置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー800質量部、脱酸素したメタノール200質量部を仕込み攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途脱酸素したメタノール10質量部に開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))0.07質量部を溶解させた開始剤溶液を添加して重合を開始した。60℃で5時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は64%(重合収率で80%)であり、得られたポリ酢酸ビニル樹脂をケン化度100モル%のPVAとし、測定した平均重合度は1700であった。
得られた重合溶液を塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー等に供給して塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで重合溶液と接触させ未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。
【0042】
以下の実施例及び比較例において平均重合度の異なるポリビニルエステル系樹脂は、酢酸ビニルを溶液重合する際の酢酸ビニルと溶媒であるメタノールとの比率及び重合収率を調整することで変化させた。また、酢酸ビニルモノマーとSi元素を有する不飽和単量体とを共重合する場合には、上に例示した製法において、一部の酢酸ビニルモノマーに換えて、例えば、ビニルメトキシシラン等を必要な変性量になるように、その他の原料と一緒に反応器内に仕込むことで共重合させることができる。
【0043】
[実施例1]
(a)リン化合物としてリン酸3質量部、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂として、平均重合度550のポリ酢酸ビニル樹脂6質量部、(c)アルコキシシランとして、テトラエトキシシラン8.5質量部、ジメチルジエトキシシラン8.5質量部、(d)沸点が70℃以上の有機溶媒として、1−メトキシ−2−プロパノール74質量部、秤量し、攪拌装置、還流冷却管、温度計を備えたガラス製の反応器内に投入した。続いて攪拌を開始して十分に原材料を混合した後、加熱を開始し、1℃/minの昇温温度で加熱を行った。反応器内部の温度が80℃に達したところで、この温度を攪拌しながら3時間維持した。次いで加熱を停止し、室温になるまで徐冷し、リン拡散塗布液を製造した。
【0044】
[実施例2〜7]
各成分を、下記表1のようにする以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7のリン拡散塗布液を製造した。
【表1】

(表中、()内の値は、配合量を示し、単位は質量部である。(c)成分の配合量について、例えば(7/15)は、テトラエトキシシランが7質量部、ジメチルジエトキシシランが15質量部であることを表す。)
【0045】
[比較例1〜8]
各成分を、下記表2のようにする以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜8のリン拡散塗布液を製造した。
【表2】

(表中、()内の値は、配合量を示し、単位は質量部である。アセトンは、沸点が56.5℃である。)
【0046】
[試験例]
上記の実施例及び比較例で得られた各リン拡散用塗布液について、以下の方法で評価を行った。評価結果を下記表3に示す。
1)スピン塗布性
実施例及び比較例で得られた各リン拡散用塗布液を、上記の方法で、シリコンウェーハ上にスピン塗布し、塗布面の状況を、下記の評価基準で目視により判断した。
(評価基準)
○:均一に塗布されている。
△:一部塗布面に濃淡がある。
×:塗布液の広がりが悪く、塗布されていない部分がある。
なお、スピン塗布時に×の場合は、以下の評価は行わなかった。
【0047】
2)表面抵抗値のばらつき
上記の方法により、乾燥、熱処理を行った後、上記の方法で、ウェーハ面内の中心部と周辺部との表面抵抗率を測定し、下記の評価基準で評価した。
(評価基準)
○:中心部と周辺部との表面抵抗率の違いが10%未満
×:中心部と周辺部との表面抵抗率の違いが10%以上
【0048】
3)塗布液の保存安定性
塗布液を30℃の恒温室に保管して60日放置した。放置前後で、塗布液が増粘、固化していたり、結晶状の沈殿物等が発生していないか下記の評価基準で目視により確認した。
(評価基準)
○:ゲル化、固化はなし。沈殿物の発生なし。
△:ゲル化、固化又は沈殿物の発生のどちらかが起こった。
×:ゲル化、固化及び沈殿物の発生の両方が起こった。
【0049】
4)総合判定
(評価基準)
◎:上記1)〜3)の評価項目すべてにおいて○
○:△の評価項目が1つ以下
×:△の評価項目が2つ以上又は×の評価項目を1つ以上含む
【0050】
【表3】

(表中、「ウェーハの表面抵抗率が変化せず」とは、リンの塗布効果が得られなかったことを意味する。)
【0051】
表3に示されるように、(b)成分と(c)成分との組み合わせが相乗的に作用して、表面抵抗値のばらつきが抑えられた(実施例1〜10及び比較例1、6)。比較例3では、結晶の析出がおこり、表面抵抗率のばらつきが生じた。比較例8では、スピン塗布での問題や表面抵抗のばらつきはなかったが、30℃で60日間保存した場合に容器上部の塗布液と容器空間部分との界面付近に結晶状の析出物が発生していた。また容器の底にも同様の結晶状の沈殿物が確認された。
上記評価結果から、本発明のリン拡散用塗布液は、リンを拡散した半導体デバイスの中心部の抵抗値と周辺時の抵抗値のバラツキを発生させず、リンを拡散させることができ、かつ常温保存ができるという性質を併せ持つことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のリン拡散用塗布液は、半導体デバイスの製造に有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リン化合物、(b)平均重合度が150〜4000のポリビニルエステル系樹脂、(c)アルコキシシラン、及び(d)沸点が70℃以上の有機溶媒を含有することを特徴とするリン拡散用塗布液。
【請求項2】
(a)リン化合物が、リン酸、無水リン酸、リン酸アンモニウム、アシッド・ホスホキシ・メタクリレート類(2−メタクリロイルオキシエチルリン酸類)又はその塩、及び塩化リンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のリン拡散用塗布液。
【請求項3】
(b)ポリビニルエステル系樹脂が、ポリ酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン拡散用塗布液。
【請求項4】
(b)ポリビニルエステル系樹脂が、酢酸ビニルとSi元素を含有する不飽和単量体との共重合物であり、Si元素を含有する不飽和単量体の含有量が0.05〜20モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン拡散用塗布液。
【請求項5】
(c)アルコキシシランが、テトラエトキシシランとジメチルジエトキシシランの混合物であり、前記混合物の混合比率がテトラエトキシシラン:ジメチルジエトキシシラン=30:70〜80:20の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリン拡散用塗布液。
【請求項6】
(d)沸点が70℃以上の有機溶媒が、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリン拡散用塗布液。